カテゴリー
ビジョン的思考

年齢を重ねれば重ねる程、リスクを回避する傾向が強まる

チャレンジを続け意欲的に活動を行っている人は、何歳になっても果敢に新しいチャレンジを行いたいものだ、と考えていることでしょう。
しかしながら、心理学的にも脳生理学的にも、年齢を重ねれば重ねる程、リスクを回避する傾向が強まります。

年齢を重ねるとリスク回避傾向が強まる

ピッツバーグ大学の研究チームの実験によると、年齢を重ねるとリスク回避傾向が強まることが示されています。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3852157/

若年層と高齢層の意思決定戦略に関する研究によると、高齢層は若年層に比較して、潜在的損失に対するリスク回避傾向が強まる事が示されている。
これらの結果は、主にギャンブル実験により得られた知見である。
これらの実験では、記憶や学習に依拠する部分も有り、年齢によるリスク回避や意思決定の違いのみならず、加齢に伴う認知能力の低下が影響している可能性もある。
そのため、本研究では、より単純なくじ引き課題により、若年層と高齢層に対して、リスク回避行動について実験を行った。
同時に、経済学的な割引率についても調査した。
その結果、高齢層は若年層よりもリスク回避傾向が高く、また割引率も高かった。
つまり、将来の収入に対する期待値が低いことがわかった。
リスク回避傾向と割引率には弱い相関も認められた。
意思決定戦略に関して、神経の発達変化との相関を生涯にわたって調査することは有益であると思われる。

この結果は考えれば自然なことで、積み重ねてきたものや、守らなければならない取り巻く環境が多くなれば多くなるほど、保守的になっていくはずです。
その意味で、適切にリスク回避を行うことそのものは有益と考えられます。

問題なのは、過度にリスク回避に走り、新しいチャレンジも避けてしまうことです。

なお、心理学的な側面だけでなく、脳生理学的にも、加齢に伴い、新しい課題に対して取り組む意欲が低下することが示されています。

https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(20)31301-5

それではどうすれば?

結論から言うと、過度なリスク回避を抑制し、適切に新しいチャレンジを行うための方法論について、現時点でわかっていることはありません。

一部の研究によると、若年の内に適切なトレーニングを積むと、適切にリスクを取れるようになる、ということが示されています。
これが何歳まで通用することなのかは不明ですが、人生の中で最も若いのは今です。
気が付いた時に、適切にリスクを取るトレーニングを積むのは、(効果が薄いかもしれませんが)有用である可能性はあります。

また、“決め”の問題もあるのでは、と筆者個人は考えます。

自分は、何歳になってもチャレンジを続けるんだ、という風に人生の目標を決めてしまうのです。

これは、多くの高齢のチャレンジャー達も語っていることで、自分自身で長期的な目標を立て続け、実際に具体の行動にでることが、良いとしています。

リスク回避により得られる安心感と、チャレンジ意欲のバランスを取るためにも、決め打ちによる目標設定は有用なように思います。

カテゴリー
ビジョン的思考

目標の公言は、目標達成にプラスになると言われているが本当か?

よくある目標達成の方法の一つに「目標を公言すること」というものがあります。
応援してくれる人が増えるとか、公言することによって後に引けなくなるとか。
そういう話のようですが、これは果たして本当なのでしょうか?

いわゆる公表効果

心理学の言葉で「公表効果」というものがあるようです。

定義的には、口にする言葉が意識の内側に影響を与えて、意識そのものが変化していくこと、というものらしいです。
簡単に言うと、口にした言葉って実現するよ!ということ。

この公表効果がビジネス等で使われるのが目標の話です。
いわく、目標達成のためには目標を公言するのが良い、と言われています。

なお、目標を公言することによるメリットは大きく3つあります。

  • 公表効果によりモチベーションがあがる(自分の意識が変わる)
  • 引くに引けない状況を作る
  • 応援する人が増える

本稿のテーマは、このメリットって本当なのか?という点にあります。

実は、人は口にしただけで達成感を感じてしまう

このテーマは古くから研究されており、否定的な見解も多く出されています。

自分自身が計画していることを他の人に発表すること、目標の公言により自己同一性が十分に満たされ、必要なハードワークをするモチベーションが下がってしまうようなのです。

こちらの記事で紹介されている研究では、法学部の学生を対象に実験が行われました。

https://www.newsweek.com/does-announcing-your-goals-help-you-succeed-79645

どのような実験が行われたのかと言うと、アンケートで学ぶ意思を問われ(当然、学生たちは学ぶ意思があると表明している)、では実際のどれだけの努力を示したのか?という調査です。
その結果、アンケートに対して記名をした学生より、匿名で回答した学生の方が多くの努力を行ったことが示されました。

他にも、面白い実験も紹介されています。

法学部の学生に最高裁判事の写真を5枚提示し、今、自分がどの程度まで目標に近づいているのか?を示すアンケートがとられました。
写真に写っている最高裁判事の大きさは、小さいものか大きいものまで5種類が用意されています。
ようは、最高裁判事の大きさで、達成度の自己評価具合がわかる、という仕組みです。

法学部の学生は、弁護士となって成功するために、どのような努力をしようと思っているのか?のアンケートも事前に行われ、このアンケートの中で例えば「法律系の専門誌を読むようにする。」というようなことを回答し、それを“公言”した学生は、どのような写真を選んだでしょう?

ここまで読んだ方ならもうわかるかと思うのですが、大きいサイズの最高裁判事の写真を選ぶ傾向が強かった、ということです。

公言するだけで達成した気になっている、ということですね。

(心理的には、人の脳内には自己イメージのシンボルがあり、会話によりその自己イメージが充足され、さらなる充足のための努力を怠る、という心理が働くようです。)

公言するなら、どのような目標が良いのか?

では、目標を公言するのであれば、どのような目標が良いのでしょうか?

研究者は、具体の行動についてや、罰を受けるような目標公言が良いとしています。

例えば、マラソンに出るのであれば、「出場して完走する」とか「タイムいくらいくら出す」とかではなく、「週に5日、練習をする。」というような具体の行動や、「出場しなかったら思いっきり貶していいよ。ついでに何か奢るよ。」というような不満を感じてしまうような設定が良いとのこと。


目標の公言により、きちんと目標達成をしている人も大勢いるにはいますので、使い方の問題、と言えるでしょう。

目標公言が必ずしも良いことばかりではない、と認識して、時には黙して語らず、時には具体の行動のオープン化、というようコントロールができるのが良いのではないでしょうか。

カテゴリー
ビジョン的思考

「自分を破壊する一歩手前の負荷が、自分を強くしてくれる。」は正しい

哲学者フリードリヒ・ニーチェの名言の一つに「自分を破壊する一歩手前の負荷が、自分を強くしてくれる。」というものがあります。
心構え的な言葉のように思えますが、どうやら統計学的には、この格言通りの傾向があるようです。
キャリアの初期段階での失敗が、将来の成功につながる確率を高める、そんな研究を紹介します。

https://www.nature.com/articles/s41467-019-12189-3

「自分を破壊する一歩手前の負荷が、自分を強くしてくれる。」

ノースウェスタン大学では次のような研究が行われました。

  • 米国国立衛生研究所(NIH)の助成金申請に、キャリアの初期段階で応募した研究者を対象とした
  • その中でも、通過ラインをわずかに下回る「ニアミス」グループと、わずかに上回る「ジャストミート」グループを抽出
  • それぞれのグループに対して、その後10年間に平均何本の論文を発表したのか
  • また、そのうち何本の論文が“ヒット”したのかを被引用数で評価した

その結果、「ニアミス」グループの方が、資金調達額は少なかったこと。
そして、どちらのグループも発表した論文の数は同じであること。
一方、「ニアミス」グループの方が、“ヒット”した論文の数が多いことがわかりました(確率にして約6.1%)。

ようは、キャリアの初期段階で失敗した人の方が、資金調達額が少ないにも関わらず、“ヒット”論文を多く生み出しているのです。

「淘汰」の結果では?

研究者たちは、この結果にたいして「淘汰」、つまり、キャリアの初期段階で失敗した人が退職し、優秀な人が残っただけでは?という仮説を考え、検証を行いまいsた。

その結果、「ニアミス」グループの方が、確かに離職率が10%程高かったものの、上の結果を説明づけるほどのインパクトが無いことがわかりました。

研究者たちは、いわゆるグリット(やり抜く力)や、失敗から得られた教訓など、別の要因が大きく影響しているであろうと推測しています(後述も参照)。

とは言え、改善の努力は必要

同グループの後の研究では、「失敗への対処が重要」と研究を進化させています。

「金持ちはより金持ちに、貧乏はより貧乏に」という言葉があり、それは世の中のひっくり返しようのない一つの真理です(マタイ効果、もしくはマシュー効果)。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%BF%E3%82%A4%E5%8A%B9%E6%9E%9C

これらの研究は、マシュー効果を否定する程のものではないですが、「失敗は成功のもと」という言葉を強めるものです。

“改善のための適切な努力”が行われたことが前提として、「自分を破壊する一歩手前の負荷が、自分を強くしてくれる。」のです。

カテゴリー
ビジョン的思考

成功者に共通する思考のパターン~5つの認知の歪み~

成功者に共通する〇〇〇〇、という話題はビジネスに関心がある人にとって、興味のつきないテーマです。
今回は、投資会社Harrison Metal(ハリソン・メタル)のMichael Dearing(マイケル・ディアリング)氏がまとめた調査を紹介します。

5つの認知の歪み

調査では2,190日、2,481社、4,515人の創業者(と62の投資案件)に対して、ヒアリングを行ったとのこと。

その結果、成功者に共通する思考のパターンとして、5つの認知の歪みがあることがわかったそうです。

認知の歪みとは、思考に影響を与えるフィルターやレンズのようなものであり、現実の解釈や行動の根拠に影響を与えるものです。

その5つの認知の歪みとは次のものです。

  1. 自分自身に対する例外思考
  2. 二項対立的思考
  3. 過剰な一般化
  4. ブランクキャンパス思考(真っ白なキャンバスのような思考)
  5. シュンペーター主義(破壊的イノベーションの信奉)

自分自身に対する例外思考

“自分は特別だ”

定義 – 自分は集団のトップにいる、自分の仕事は雪の結晶のように特別なものだ、あるいは「普通」の範囲をはるかに超えた経験をする運命にある、というマクロな感覚。

ベネフィット – レジリエンス(回復力、弾性)、スタミナ、カリスマ性

致命的なリスク – マクロ的な例外性がミクロ的な例外性を意味すると思い込んでしまうこと、もろさ

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%82%B8%E3%83%AA%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B9_(%E5%BF%83%E7%90%86%E5%AD%A6)

二項対立的思考

“Xはクソ。Yは天才だ。”

定義 – 人、経験、物事を極端に判断し、両極端の意見を持ち、黒と白を見て、グレーはほとんど見ない。

メリット – 頻繁に優れた成果を上げる

致命的なリスク – 完璧主義

過剰な一般化

“2つの点を見て、正しい線を引く。”

定義 – 限られた観察結果から普遍的な判断を下し、多くの場合、正しいとすること

利点 – 時間の節約

致命的なリスク – 本能に溺れ、データに無頓着になる

ブランクキャンパス思考(真っ白なキャンバスのような思考)

“数字で描くことはアートではない。そして、私はアートを作りたい。”

定義 – 自分の人生を、数字で描くのではなく、真っ白なキャンバスとして捉える。

メリット – 塗り分けの意識がなく、サプライズが生まれる

致命的なリスク – “芸術のための芸術“, 立ち上げの失敗、スケールアップの失敗

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8A%B8%E8%A1%93%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E8%8A%B8%E8%A1%93

シュンペーター主義(破壊的イノベーションの信奉)

“私は創造的破壊機械である”

シュンペーターの資本主義論

・資本主義の重要性(生産性と富の創造という奇跡をもたらす力)
・創造的破壊が資本主義を動かす
・創造的破壊=基礎的変化(クレイ・クリステンセンが言うところの破壊的イノベーション)

「海外、国内を問わず、新しい市場が開拓され、工芸品店や工場からU.S.スチールのような企業へと組織が発展していくのは、経済構造を内側から絶え間なく変革し、古いものを絶え間なく破壊し、新しいものを絶え間なく創造していくという、生物学的な用語を使ってもよいが、産業の突然変異のプロセスを示している。この創造的破壊のプロセスは、資本主義の本質的な事実である。 」
Joseph Schumpeter, Capitalism, Socialism and Democracy (New York: Harper, 1975) [orig. pub. 1942], pp.82-85.

定義 – 創造的破壊は自然なことであり、必要なことであり、自分の天職であると考える。

メリット – 恐れを知らないこと、破壊や痛みへの耐性

致命的なリスク – 冷酷な野心、疎外感


こうして見ると、確かに多くの成功者に共通的に見られる「あるある話」のように感じます。

自然とそのような思考になるであろう内容なので、真似した所でうまくいくものではないでしょうが、一つのスタンスとしては参考になるかもしれません。

モバイルバージョンを終了