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マスク転売禁止とアベノマスク(マスク2枚配布)~経済学的には転売禁止は意味がない~

マスクの品薄の影響を受けて、マスク転売禁止措置と、マスク2枚の全世帯への配布方針の発表が行われました。
これらに関して、経済学的観点から、転売そのものは決して悪いことでは無いんだよ、むしろ転売禁止は意味が無いよ、という話と、マスク2毎の全世帯配布は微妙だけれども叩かれるほど悪いことでは無いんだよ、という話をしていきます。

忙しい人向けまとめ

  • 転売禁止は多くの人の感情は満足させるかもしれない
  • 転売禁止では、マスクの品薄は解消されない
  • 再流通を抑制してしまうので、買い占められる人だけが買占め、必要な人の手にまわらなくなるため
  • 経済学的観点でいうと、需要と供給が安定するまで値段が釣り上げるのが本来的に適正
  • 「取引効用理論」によって生まれる不満や怒りにより転売ヤーたちは嫌われる
  • 経済学的理論に則って小売店が値段を釣り上げると、今度は不満や怒りが小売店に向く
  • そのため、小売店では経済学的に正しい行動がとれない
  • アベノマスクは微妙なれど、マスクが必要なのに購入できない人たちにとってはプラスになる
  • 買占め行動の抑制にもつながりうる
  • 整理券方式や時差販売、一律値上げの要請など政府ができた施策はあったはず

転売禁止とアベノマスクについて

3月15日、国民生活安定緊急措置法が改正され、卸売業者と小売業者を除き、マスクの高額転売が禁止されました。
これにより、小売店からマスクを買い占めたり、購入したマスクを高額転売したことが判明した場合、罰則を適用できるようになりました。
罰則は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金です。
これで、いわゆる「転売ヤー」による転売を禁止する流れになることが期待されています。

しかし、現状では隠語の使用や画像を隠蔽してのマスクが取引が行われています。
各種転売に利用されているサイトでは、巧妙な方法での転売が行われ、運営サイトや出品禁止の調査している側にはわからないようになっています。
このいたちごっこは続くと思われ、取引の方法がより巧妙化することが予想されます。

もう一つ話題になっているニュースとして、「マスクの全世帯への2枚配布」があります。
政府方針として出されたものですが、これに関して、世間から総ツッコミが出ている状態です
アベノミクスにかけて、「アベノマスク」という造語がでてくるほどです。

これらに関して、転売禁止は微妙だよ、転売そのものは決して悪いことでは無いんだよ、という話とアベノマスクは微妙だけれども叩かれるほど悪いことでは無いんだよ、まだマシだよ、という話をします。

転売そのものは悪くない

世間では「転売ヤー」に対する憎悪に満ち溢れています。
まず最初に、転売そのものは悪くはない、ということを解説します。
ここでする話は、道徳とか倫理観の話ではなく、あくまでも経済学的な話になります。
ですので、一部の悪質と言われている転売ヤーに対する擁護ではない点は認識ください。

さて、転売ヤーが嫌われる要因として、社会に対する価値貢献がされていないから、という理由があげられます。
これは本当でしょうか?
実は、転売という行為そのものは社会への貢献がなされる行為と言えます。

どのような社会貢献か?と言うと、それは「市場の効率化」への寄与です。
自由競争市場において、品物の価格は需要と供給で決定されます。
台風などによる不作で、野菜の値段が高くなる、という経験はあるはずです。
需要に対して供給が不足するならば、値段が高くなるのは至極当然のことで、転売はこの品物の価格調整に貢献をしているのです。

転売によって不当に品物の値段が釣り上げられている、という印象をどうしても持ってしまうでしょうがそうではなく、誰も買わなければそもそも値段は上がらないのです。
転売行為でも買う人がいる(需要がある)からこそ値段は上がるのです。
つまり、転売ヤーが売り、実際に代われる値段こそが適正価格であり、非常事態においては「普段の値段」こそが不適正な価格なのです。

そうは言っても、やはり転売ヤーがいなければ通常通り「普段の値段」で買えるのでは?と思う人がいるでしょう。
次項では、これについて解説します。

転売禁止をすると「買い占められる人間」だけに回る

転売ヤーがいなければ通常通り「普段の値段」で買えるのでは?
そう思うのは自然なことではありますが、仮に転売ヤーの存在がいなかったとしても品薄になるのは避けられず、入手困難な状態に陥ると考えられます。
それはなぜでしょうか?

それは、結局の所特定の買い占める人間が買ってしまい、その後再流通がされないからです。

世の中には、一定割合で強迫的に不安を敏感に思う人がいて、積極的な買占め行動に出ます。
また、同じく一定割合で、日本では特に多いのですが、同調圧力に弱い人がいて、買占め行動に引っ張られる形で、同じく買占め行動に出ます。
普段は理性的でも、不安に弱い人や同調圧力に弱い人は、現在のような異常自体において、理性的で無い行動に出てしまうのです。

こういった人たちがいる以上、転売を禁止すると何が起きるか?と言うと、再流通がなされずに、メーカーと小売店により再供給がされるまで、本当に必要だけれども入手できない人たちに回らなくなる、という状態に陥るのです。
高くても買える状態があるならば、本当に必要な人(で買える人)には、品物がまわる状態になります。
あくまでも合理的な経済学の上では、それは需給のバランスがとれている真っ当な状態なのです。

なお、不安に弱い人、同調圧力に弱い人たちを見ていると、正直、浅ましいとは思います。
思いますが、これは決して間違った行動(戦略)ではありません。
というのも、本当の極限状況において、積極的に他者を顧みず、自分勝手な行動に出ることそのものは、リアルな生存確率の向上に寄与するからです。
そのため、この種の層の人たちがいることは、人間種の生存という観点でみると、正解と言えば正解なのです。
理性的なことを是とする人間にしてみれば、何ともいえない気持ちになる買占め行動は、一方的に否定するものではないのです。
(私は理性的でありたいと思いますが。)

さて、話を戻すと共に繰り返すと、転売を禁止することにより、朝からお店に行列を作って並んで買占めができる人、言い換えると社会の中で忙しく働いていない人だけが購入でき、その後再流通がされない状態になってしまいます。
何度も繰り返しますが、マスク転売規制はマスク品薄を加速させるのです。
加えて、規制を気にしない国外の転売ヤーグループは活動を続けると考えられる、結局の所、日本という枠組みだけで見た場合に、日本人は誰も得をしなくなってしまうのです。

買い占めは膨大な需要に対して供給が限られている状態、かつ「普段の値段」で販売を行うことで発生します。
つまり、人々の手に適正に入手できるようにするためのもっとも効果的な対応は、需要と供給の状態が安定するまで値段を引き上げることです(需給均衡と言う)

では、なぜメーカーや小売店は「適正価格」にまで価格を引き上げないのでしょうか?

メーカーや小売店が適正価格で販売すると何がおきるか

多くの人は転売ヤーは嫌いだと思います。
嫌いな理由として様々あるとは思いますが、経済学的観点での転売ヤーが嫌われる理由を解説します。
転売ヤーが嫌われる理由を解説をしないと、メーカーや小売店が「適正価格」で販売できない理由を十分に説明できないからです。

なお、道徳とか倫理的な観点ではなく、あくまでも経済学的観点です。
道徳とか倫理的な観点では、私も転売ヤーは嫌いです。

転売ヤーが嫌われる経済学的理由として、「取引効用理論」というものがあります。
「取引効用理論」では、何か品物を購入した時の満足感(全体効用と言う)について次の式で表現しています。

全体効用 = 獲得効用 + 取引効用

獲得効用は、購入した品物自体から得られる効用のことを指します。
取引効用は買った人(消費者)の参照価格(内的参照価格)と支払価格(購買価格)との差によって規定されます。
この内、内的参照価格は、実際に支払わなけばならないと提示されている価格(外的参照価格)から影響される、支払いに至るまでの文脈であったり、消費者の知識量、はては社会的な公平性や倫理的観点などから決定されます。
ようは、取引効用とは「お得感」のことです。

これを転売ヤーが嫌われる理由と絡めて説明すると、転売ヤーから高額マスクを購入した場合、マスクを入手し使用できた、という喜びに対して、支払う価格の不当感の大きさ、お得感の無さから来る不満や怒り、が大きい、という状態になるのです。
もしくは、そもそも獲得効用が得られない(小売店で品切れ)、購入するにも高額マスクしかない、という状態での不満や怒りもですね。
そして、この不満や怒りの矛先が転売ヤーに向くのです。
マスコミから報道があり、SNSで話題にあがるから目立つのです。

ここで考えてみて下さい。
仮にメーカーや小売店、特に小売店が値上げを行うとどうなると思いますか?
今度は、不満や怒りの矛先が小売店に向く
とは思いませんか?
震災などの災害時に「便乗値上げ」という言葉が多く出ましたが、そういう言葉を投げかけられ、企業としてのブランドが低下すると思いませんか?

経済学的な需給均衡から来る値上げは本来、真っ当な行為なはずなのですが、それは、企業のブランドをも守らなければいけない立場としてはできないのです。
社会的に需要に応じて、自動的に価格が変動する、いわゆる「ダイナミックプライシング」が一般的になれば、今回のような転売禁止のような状態にはならなかったでしょうし、マスクの品薄もおきなかったでしょう。

アベノマスクは確かに微妙だが、100%意味不明というわけでもない

ここまで踏まえてアベノマスクを考えてみます。
マスク2枚の全世帯への配布は、確かに微妙で、他にやること無いのか?と思います。
しかしです、忙しくてマスクを買いに行けない、経済的に苦しくて高額マスクに手が出せない、という人たちが世の中には大勢いるはずです。
この人たちにとって、マスク2枚の配布はプラスになる施策と言えます。

また、微妙と思いつつも繰り返し使えるマスクが家にある状態ですと、無理に買占めに出なくても、という心理状態になるとも推測できます。
このことから、不安に弱い人たちは相変わらず買占め行動に出るでしょうが、同調圧力に弱い人の買占め行動は抑制されるはずなのです。
実際にはふたをあけてみないとわからないですけれどね。

世の中の心情として、政府に期待していることと、政府の行動に乖離があるから、不満や怒りが相対的に大きくなってしまうのです。
上述の取引効用理論に似ていますね。
なお、別に政府擁護を無理にしたいわけでもないですし、批判をしたいわけでもないです。

アベノマスク擁護的な上述記載に対して、批判的に考えると次のようになります。
小売店に対して、販売は一人一個や、忙しくても買えるタイミングで買える整理券方式の採用、早朝から並ぶのを防ぐ時間差販売などの方法の提案・協力を早々に要請を出す、という方法や、小売店から「適正価格」にできないのであれば、一律値上げの協力要請を政府から出す、という方法もあったはずなのです(経済学的にはこれが一番正しいと思われる)。
リーズナブル性が高い上に、効果も期待できます。

なんで、こういうことをやらないのでしょうか?

最後に企業としての教訓、特に小売店

転売の不満や怒りの矛先は転売ヤーに向いていますが、残念ながら店舗の現場レベルでは違います。
品物が無いことにより、店舗に立っている現場の方々には、直接的にその不満や怒りがさらされていると聞きます。

現場の疲弊を防ぐと共に、顧客満足度を高め、ブランド価値も高める方法があります。

それは、すでに上に書いてある通り、忙しくても買えるタイミングで買える整理券方式の採用や、早朝から並ぶのを防ぐ時間差販売などの方法を、買占め行動の予兆が見られたときに早々に打ってしまうのです。
迅速かつ的確な行動は、消費者からの信頼を勝ち得るでしょう。
また、顧客貢献・社会貢献という、企業本来のミッション・ビジョンにもかないます。

今回の騒動から、少しでも教訓を得て、次の何かに活かしたいものです。

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