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【若い内からの認知症予防】お酒と認知症リスクの関係

運動と認知症リスクの関係は比較的よく知られています。
一方で、お酒と認知症リスクの関係は、あまり知られていないのではないでしょうか。
適度な飲酒は健康に良い、という話もありますが、果たして科学的にはどのような知見が示唆されているのか、見ていきます。

お酒を飲まないと認知症リスクが高まる?

まず、お酒が認知症リスクを低減させる、という研究の紹介です。

https://www.bmj.com/content/362/bmj.k3164

この研究では、研究開始当初35歳~55歳だった約9,000人を対象にしたもので、その後約23年に渡り追跡調査が行われました。
そして、約9,000人の内、397人が認知症と診断された形となりました。

その結果、全くお酒を飲まなかった人は、適度な飲酒習慣がある人よりも、認知症リスクが約45%程高い、という結果が示されました。

ここで言う適度な飲酒量とは、週に500mlのビール6本分以内を示しております。

もちろん逆の結果を示す研究も

一方で、ネガティブな研究もいくつかあります。

(上述の研究も、週500mlのビール6本分を超えると認知症リスクが高まる、としています。具体的には、500ml3本分を超えるごとに約17%、認知症リスクが高まるとのことです。)

こちらの研究では、そもそもとして飲酒自体が認知機能を低下させる、としています。

https://www.bmj.com/content/357/bmj.j2353

約550人を対象にした研究で、研究当初平均約43歳の被験者を対象に、約30年に渡り追跡調査が行われました。

その結果、1週間に1回多く飲酒すると、脳の海馬の委縮率が約50%高まる、という知見が得られました。

ただ、この研究の「適度な飲酒量」の範囲が、上述の研究の2倍以上であり、「適度な」の定義にズレがあること、また脳の萎縮についても右脳と左脳で異なる結果が出て理由が全くの不明であることなど、疑問点は多く残ります。

とは言え、飲酒が身体に与える悪影響については各所で報告されています。

こちらの研究(外部PDF資料)では、脳の萎縮とあわせて、脳卒中リスクについて言及しています。

また、こちらの研究では、飲酒が人間のDNAにダメージを与える、としています。

https://www.nature.com/articles/nature25154

この研究は、アルコールが分解される途中に出る毒物(アセトアルデヒド)に着目して、DNAへのダメージについて研究がされました(アセトアルデヒドはDNAやタンパク質に損傷を与えることが、実験室レベルで示されています)。
この研究はマウスベースでの研究であり、人への適用は難しいものの、人体への悪影響について一定の示唆が得られます。

研究では、アセトアルデヒドの毒性を防ぐ仕組み(アセトアルデヒドの分解、DNAの損傷の修復の2つ)を阻害した所、マウスの細胞が機能不全に陥ることが示されました。


これらの通り、お酒と認知症リスクの関係は、まだわかっていないことが多くあります。

飲酒習慣のある高齢者は健康である傾向があり、運動習慣以上に相関性が高い、という研究もあったりする程です。

いずれの研究も因果関係と相関関係の問題がありますし、「適度」の認識が定まり切っていない点など不明点だらけです。

現状では、常識の範囲内で「適度に」お酒を楽しむのが吉であろうというのが言える所だと考えられます。

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【若い内からの認知症予防】運動と認知症リスクの関係

一般的に運動は脳の老化防止、認知症リスクの低減につながるといわれています。
一方で、負荷の高い肉体労働は却って認知症リスクを高めてしまう可能性があることについては、あまり知られていません。
今回は、運動と認知症リスクの関係について見ていきます。

適度な運動は認知症リスクを低減させる

運動は認知症予防につながる可能性が

アルツハイマーは認知症の代名詞とも受け止められる脳の疾患です。

これまで、アルツハイマー型認知症は不可逆的な進行性のものと考えられていましたが、一部では運動が治療的効果をもたらす、という説もありました。

https://content.iospress.com/articles/journal-of-alzheimers-disease/jad091531

こちらの研究では、マウスベースの実験ですが、運動をさせたアルツハイマーマウスにおいて記憶の改善が見られたことが示されています。
また、神経細胞の成長の機能があるタンパク質の増加も見られました。

https://www.science.org/doi/10.1126/science.aan8821

この知見はそのまま人間に適用できるものではありませんが、人を対象にした研究も当然にあります。

1週間に12Km以上の散歩を

こちらで紹介されている研究では、どの程度の運動が認知症予防の効能を示すのかが調査されています。

https://www.webmd.com/healthy-aging/news/20101013/walking-may-ward-off-memory-loss

299人の被験者を対象に、13年に渡る追跡が行われ、運動と認知症の関係が調査されました。
調査の方法としては、被験者が1週間に歩く距離と脳の灰白質の量の関係を見るものです。

被験者が1週間に歩く距離は0Kmから約50Kmという分布になっており、1週間に約12Km以上歩くグループと、それよりも短い距離のグループで、明らかに9年後灰白質の量が異なっていたとのことです。
当然、1週間に12Km以上歩くグループの方が多い結果でした(なお、12Km以上~50Kmの範囲で差は見られなかった)。

灰白質の量は記憶力に関係があることは知られており、研究者達は「全ての年代の人たちに、運動を推奨することは、公衆衛生上の重要な課題となるはずだ。」としています。

1週間に12Km以上、というと会社に出勤をしている人であれば、比較的容易に達成できそうな距離感です。
一方で、リモートワークで自宅にこもりがちな方は意識して外出しなければ達成が難しいでしょう。

日常的な肉体労働は却って認知症リスクを高める可能性

上述の通り運動が認知症予防に効果があることはわかりました。

また、運動強度が高いと、その効果も高いことも一定程度示されています。

https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/ninchisho-yobo-care/h30-4-4.html

それでは、運動負荷は高ければ高いほど良いのでしょうか?

どうやらそうではなさそうです。

こちらの研究では、肉体労働を行っている人と認知症の関係について調査を行っています。
つまり、慢性的に高負荷の運動を行っている状態だと、どのような結果になるのか?ということです。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/sms.13846

調査では数千名の労働者を対象に、仕事中の肉体労働の状況の他、様々な健康(喫煙や飲酒の状況等々)・社会的状況(社会的な地位や結婚の有無)・経済的状況等々の各種の情報について調べられました。
そして、約45年間に渡る追跡調査が行われ、認知症との関係に大きな示唆を与えました(約4,700人が対象で認知症にかかったのが約700人)。

調査の結果、高負荷の肉体労働に従事していた人は、オフィスワーカーに比較して認知症のリスクが約55%高いことが示されました。
一方で、一般的にイメージされる運動をしている人(可処分時間の中で適度な運動をしている人)は、運動をあまりしないオフィスワーカーに比較して、認知症のリスクが低いことも示されました。

この結果が何を示すのかは不明な点がまだ多くあります。

高負荷の肉体労働は、脳に何かしらの負担をかけてしまう可能性は当然に考えられますが、オフィスワーカーの方が高度に脳を使う業務が多く、一方で高負荷の肉体労働を行う労働者は、仕事中に脳をあまり使わないが故の結果かもしれません。
可処分時間(余暇)に運動を行おう、という意識がある人は、統計的に裕福である傾向があり、また裕福である人は脳を使う仕事が多い傾向もあり、そういった別の要素が認知症リスクに影響を与えている可能性もあります。

少なくとも言えることは、単純に身体に負荷をかければ良いというわけではない、ということです。


現代社会は、オフィスワーカーの割合が増えていますし、ここ最近はリモートワークも増加しています。
そういった方々は、意識的に適度な運動を行うよう、心がけることが重要と考えられます。

一方で、日常的に負荷の高い肉体労働を行っている方は、別のアプローチ(余暇の時間は難しい本を読むなどの脳を使う別の何か)が必要かもしれません。

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