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人事・総務

契約書の認印は必要無し(内閣府、法務省、経済産業省が連名)

「押印についてのQ&A」として、内閣府、法務省、経済産業省が連名で書類を出しています(2020年6月19日)。
書類の内容は、契約書への押印行為についてのQ&Aで、内容を一言でまとめると「認印ってあまり意味無いよね」と言っています。
これは、元々そうなのですが、府省が連名で出している点にポイントがあると考えています。

契約書への認印押印は意味が無い

法務省「押印についてのQ&A」

まず、法務省が出しているQ&Aの内容です。

問1.契約書に押印をしなくても、法律違反にならないか。
・私法上、契約は当事者の意思の合致により、成立するものであり、書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない。
・特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない。

押印についてのQ&A 令和2年6月19日 内閣府 法務省 経済産業省

契約書には、契約当事者双方が押印行為をするのが一般常識ですが、実は法的には必須条件では無いのです。
今回の、Q&Aは、上述の通りの内容で3つの府省が連名で出している点にポイントがあります。

契約書への認印押印は意味が無い

これまで法的な意味合いがあまり無いにも関わらず、ただの商習慣で「紙」+「認印による押印」が一般的になっていました。
そして、この商習慣がリモートワーク(テレワーク)の普及を妨げてきました。

3つの府省が連名で、やめなされ、と言っているので、ビジネスの現場、官公庁において、今後の印鑑廃止が進むものと期待できます。

なお、ここでは契約書に限定して言及していますが、ビジネスに関連する書類全般がそうです。
例えば、よく請求書に角印が押印されている場合が多いですが、これも必須ではありません。

では契約が成立していることを証明するには?

ここで出てくる問題は、じゃあ、締結した契約書が本物(真正)であることを、どうすれば証明できるのか?という点です。
これまでは、意味は無いと言っても、認印を双方押印していることにより、その契約書が本物であると”推測”され、確かに契約が成立しているよね、ということが一定言えていました。
(ここが争われることは、通常は無いのですが。)

そこで対応した方が良いのが、Q&Aの問6で言及されています。

問6.文書の成立の真正を証明する手段を確保するために、どのようなものが考えられるか。

・次のような様々な立証手段を確保しておき、それを利用することが考えられる。

① 継続的な取引関係がある場合

取引先とのメールのメールアドレス・本文及び日時等、送受信記録の保存(請求書、納品書、検収書、領収書、確認書等は、このような方法の保存のみでも、文書の成立の真正が認められる重要な一事情になり得ると考えられる。)

② 新規に取引関係に入る場合

・契約締結前段階での本人確認情報(氏名・住所等及びその根拠資料としての運転免許証など)の記録・保存
・本人確認情報の入手過程(郵送受付やメールでの PDF 送付)の記録・保存
・文書や契約の成立過程(メールや SNS 上のやり取り)の保存

③ 電子署名や電子認証サービスの活用(利用時のログイン ID・日時や認証結果などを記録・保存できるサービスを含む。)

・上記①、②については、文書の成立の真正が争われた場合であっても、例えば下記の方法により、その立証が更に容易になり得ると考えられる。また、こういった方法は技術進歩により更に多様化していくことが想定される。
(a) メールにより契約を締結することを事前に合意した場合の当該合意の保存
(b) PDF にパスワードを設定
(c) (b)の PDF をメールで送付する際、パスワードを携帯電話等の別経路で伝達
(d) 複数者宛のメール送信(担当者に加え、法務担当部長や取締役等の決裁権者を宛先に含める等)
(e) PDF を含む送信メール及びその送受信記録の長期保存

押印についてのQ&A 令和2年6月19日 内閣府 法務省 経済産業省

内容としては上記の通りなのですが、言っている事は「先方とのやり取りを、きちんとデータ(書面含む)で残しておこう」ということです。

上記にある通り、やりとりのメールや、交換した連絡先情報もそうですし、重要な契約の場合はクロージング会議の録画データ、録音データを保管しておく、ということも考えられます。
最近はZoomなどのWEB会議も一般になり、録画や録音も容易になっています。

また、上記③で言及されている通り、クラウドサインなどのクラウド型契約締結サービスを利用すれば問題が無い話なので、契約書の電子化・ペーパーレス化は日本全体で推進していきたいものです。


印鑑に関する基礎知識に関しては、こちらの記事もご参照ください。

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取締役会

法務省の取締役会議事録電子署名容認、登記に使えるのか?

日経新聞より、法務省が取締役会議事録の電子署名を容認、という報道を出しています。
議事録押印でのポイントは、登記に使えるか否か、であり今回の報道ではそこに触れていません。
おそらく、今までも容認されていたことを明確にしただけだと思われます。
登記に使えるか否かは情報が少なく、現状では判断ができません。

(2020年6月18日追記)クラウドサインが登記対応

ついに念願が叶い、クラウドサインが登記対応をとなりました。

詳細は下記記事にて記載していますので、ご参照ください。

法務省が取締役会議事録の電子署名を容認

日経新聞にて、「取締役会の議事録承認、クラウドで電子署名 法務省が容認」と題する報道が出ていました。

 法務省が取締役会の議事録作成に必要な取締役と監査役の承認についてクラウドを使った電子署名を認める。これまで会社法が容認しているかを明示する規定はなかった。新型コロナウイルスの感染防止策の一環で、署名や押印に関わる手続きを簡素にしたい経済界の要望を反映し、明確な方針を定めた。
(略)
 法務省は取締役会の議事録確認であれば「取締役会に出席した取締役らが議事録の内容を確認し、意思表示するものであれば事足りる」としてクラウド型などの署名の利用を認めた。

取締役会の議事録承認、クラウドで電子署名 法務省が容認 2020/05/31 日経速報ニュース

これに関して、大きな前進、というムードが出ていますが、本当にそうなのでしょうか。

こちらの記事でも書いたのですが、取締役会議事録が社内保管用なのか、それとも登記に使用するものなのか、で取扱いが変わってきます。

元々として、社内保管用であれば、クラウドサインやGMOアグリーのようなクラウド型のサービスで問題がありませんでした。

一部、電子署名法の取扱いの問題で、クラウド型サービスの是非が微妙だ、という議論を見かけますが、本質的にここがポイントになるとはあまり思えません。

取締役会議事録実務においては、登記に使えるか否かがポイントで、少なくとも5月31日の日経新聞の報道では、このポイントについて触れているようには読めません。

結論、今まで別に問題無かった点を、法務省があらためて問題無い旨を明確にした、というだけの報道では無いかと見ています。

登記上(商業登記法)のボトルネック

登記申請の際、取締役会議事録・株主総会議事録・就任承諾書・委任状などの書類を添付して法務局に申請することが必要です。
これらの書類には、実印による記名押印が必要です。

そのため、リアルな印鑑を廃止しようとすると、実印による記名押印に代わる電子署名が必要となります。

しかも、その電子署名(代表印/実印)に用いる電子証明書は「電子認証登記所登記官が発行した電子証明書に限る」となっています。
そして役員の押印に関しては、認定認証業者が発行している電子証明書による電子署名、もしくは、マイナンバーカードに内蔵されている電子証明書による電子署名が必要となっています。
つまり、認定認証業者が発行している電子証明書だけで登記ができないのです。

登記に対応できる取締役会議事録・株主総会議事録の電子化にあたっては、満たさなければいけない要件が多く、実用的でありません。

この点に関して、仮に登記にも使える、ということであれば朗報です。
もう少し情報を集める必要があり、そして、ぬか喜びになりそうな気はしてますが、、、。

(参考)電子署名法上で曖昧だった点

2001年に電子署名法が成立しました。
内容としては、電子文書(デジタルデータによる文章)に本人のみがつけることができる電子署名がついていれば、そのデジタルデータは本物であり、確かに電子署名者による署名がなされた、とみなすことができるものです。

クラウドサインやGMOアグリーのようなクラウド型の署名サービスが存在します。
これらのサービスでは契約者(取締役会議事録の場合だと署名もしくは記名押印する人)が確認をし、押印行為を行ったかのようなインターフェースになっているため、あたかも本人たちが電子署名をしているかのように見えます。

ただ、法的には取扱いが微妙で、契約者(押印者)たち本人が、書類を確認しましたよ、ということをクラウド型署名サービス事業者が電子署名をした、というのが実際の所です。
(つまり、押印の当事者たち本人が電子署名をしたわけではないのです。立会人型、とか言います。)

そのため、これらのサービスによる押印行為が法的にどうなのか?というのが議論になります。
電子署名法の観点にたってしまうと、ここがグレーというか微妙にアウトという曖昧なものになってしまうため、現状でも慎重に取り扱う方がいるわけです。

契約行為自体の観点でいうと、当然クラウド型の署名サービスは当然に適法のはずなので、上記の曖昧な点を問題視するのはナンセンスな話だとは思いますけれどね。
(判例的に、ここが評価されたことが無い点もまた曖昧性に拍車をかけてます。)

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人事・総務

印鑑の基礎知識~おまけの雑学が長い件~

ビジネスをしていると何気なく登場してくるのが印鑑です。
ここでは、印鑑に関する基礎知識に関して解説していきます。
今回も、雑学が豊富です。

別の場所で現代社会における印鑑不要論と、電子契約の活用に関して触れます。

法人における印鑑の種類

法人において使用する印鑑としては、次の4つを使用するのが一般的です。

  • 実印
  • 銀行印
  • 角印
  • 認印

それぞれ見ていきましょう。

¶ 実印

実印は印鑑登録をする印鑑となります。
(そのため、直径30ミリ未満のサイズにしなければいけません。)
市区町村役所へ登録することにより、法的に実印としての効力を持ちます。
商業登記法により、会社の設立にあたって使用することが定められていますので、法人はかならず実印を持っています。

用途としては、役所への届け出書類や重要な契約書に使用します。
つまり、非常に重要性が高い印鑑になります。

偽造をされたり盗難された場合、契約における連帯保証人にされたり、役所への届け出を勝手にされたりと、リスク上の問題点が大きいことがあげられます。
紛失・盗難ががあった場合、複製は不可能ですので、新しい印鑑を作成し、再登録を行う必要があります。

¶ 銀行印

預金口座の開設や諸手続きに使う印鑑です。
金融機関に届け出ることにより、対金融機関において効力を持ちます。

預金取引が可能になる印鑑ですので、紛失・盗難があった場合、預貯金を勝手に引き出されるリスクや、被害を届け出た場合に改印するまで取引に制限が出たりします。
紛失・盗難ががあった場合、複製は不可能ですので、新しい印鑑を作成し、再登録を行う必要があります。

通常は、実印とは別の印鑑を設定します。
最近は銀行印が不要なネットバンクも、ようやく増えてきました。

¶ 角印

通称の通り、形が四角の印鑑です。
よく、請求書の右上に押印されている、四角いあれです。

見積書や請求書に押印する印鑑として、一般的に使用するものです。
法的な効力としては、あまり意味がありません。
商習慣として、「請求書には角印」となっているだけです。

法的には規定されている印鑑では無いため、改廃は自由です。

¶ 認印

日常的に使用する印鑑です。
諸々の申込書や一般的な契約書に使用するものですが、実はこれも、法的な効力としては、あまり意味がありません。
商習慣として、「契約書には認印を押印する」となっているだけです。
商習慣として極めて一般的になってしまっているため、契約書の締結において、印鑑が押印されていなければ、その契約書の効力が発生しない、という勘違いも多くされています。
(正確に言うと、商法において、署名が必要な場合、署名か印刷+印鑑、のどちらかで良いという定めがあります。つまり、署名があれば押印されてなくても良い、ということです。)

実印や銀行印とは、通常は別の物を使用します。
逆に言うと、実印や銀行印を認印として使用している場合は、リスクが高いので、早々に別の物を用意しましょう。

法的には規定されている印鑑では無いため、改廃は自由です。

朱肉とスタンプ台の違い

印鑑を押印する時は朱肉を使い、ゴム印を押印する時はスタンプ台を使うのが一般的ですが、これらの違いは何でしょうか?

簡単に表現すると、保存性に大きな差があり、原料として顔料(朱肉)か染料(スタンプ台)の違いがあります。
とりあえず、通常の印鑑(上であげた4つの印鑑)は朱肉を、ゴム印はスタンプ台を使用する、と覚えておけばOKです。

朱肉は、赤色の顔料に松脂などをまぜて作ります。
顔料ですので、印影の保存性にすぐれます。
保存性が高いので、契約書への印鑑の押印には朱肉を使用します。
(ひと昔前は、練朱肉や印泥というものを使用していました。まだ一部の役所担当者は愛用していますね。今は利便性の高いスポンジ朱肉が一般的です。)

スタンプ台は、赤色の染料、特に水性の染料を使用します。
なぜならば、ゴム印は油に弱く劣化しやすいからです。
ですので、ゴム印を朱肉で押印していると、比較的早い時間でゴム印がダメになります。
溶けて文字が鮮明でないゴム印を見たことがあるかもしれませんが、それは押印時に朱肉を使用していたからです。
染料の弱点は保存性で、紫外線を長く浴びると、退色という色が変化し薄くなる現象が発生します。
街頭で、色が劣化したポスター等々を見たことがあることかと思いますが、あれです。
ただ、最近のスタンプ台に使用される染料は優秀ですので、わざわざ日光を直接長時間浴びさせるようなことをしない限り、心配は不要です。

(おまけ)事務上あると便利なハンコ類

会社情報が刻印された横判(組み合わせて使用できるもの)は1つ用意しておくと便利でしょう。
実際、ほとんどの会社が1つは持っているはずです。

また、速達印もあると便利です。
速達を出したい場合、赤いマーカーとかで線を引いて速達と書けば、速達で出せるのですが、手間です。
1つ速達印を用意しておけば、手間を減らせます。

他にもシャチハタをはじめ、ハンコ類はオーダーができるので、事務上よく使う定型的なものはオーダーを考えるとよいでしょう。

(おまけ)印鑑の素材は何を選べば良い?

素材の良さだけを見た場合のベストは象牙です。
象牙は、経年劣化や気温・湿度による変性も少なく、柔軟性も高いので落下させてしまった時の欠けのリスクも少ないです。
ただし、非常に高額になってしまいます。

無難に、一番安い柘(つげ)で十分でしょう。
柘は繊維の密度が高く、硬さと柔軟性のバランスがよく、加えて非常に安いので、木素材の中でも印鑑に向いています。

(おまけ)印鑑の歴史

印鑑の歴史は非常に古く、古代メソポタミアや古代エジプトといった時代にさかのぼります。
身分や権利などに関して示す実用的な側面のみならず、宗教的な意味合いや、芸術的観点など、文明の発祥と共に世界各地で様々な形で生まれ、発展してきました。

原始的には紀元前7,000年頃の遺跡から発掘されているとされていますが、明確に使用の形跡が見られるのが紀元前5,000年頃の古代メソポタミア文明の時代でした。
粘土板に押すタイプの現代の印鑑に近い形のものから、所有主体や権力を示すものとしてはじまり、紀元前3,600年頃からは「円筒印章」と言われる、粘土板の上で転がして印を刻むタイプのものが使われるようになりました。

粘土板を使用する上において利便性の高い楔形文字と共にこの円筒印章は使用され、アナトリア半島に一大帝国を築いたヒッタイトや、古代オリエントのエラムにおいても使用されていました。
なお、同時期の古代エジプトでは、ヒエログラフという、宗教性をもった絵のような文字が刻印された印章が使用されていました。エジプトの遺跡に刻まれている文字、として頭に浮かぶあれです。
その後、羊皮紙やパピルスの普及と共に、紀元前1,000年頃から円筒印章は姿を消していきました。

別の地域、古代インダスにおいて、は古代エジプト同様、象形文字が使用されていて、この象形文字が刻印された印鑑が広く普及しました。
文字の類型や、粘土での使用を前提としたものなど、ルーツは古代メソポタミアからのものと、推測されます。
これが、いわゆるシルクロードを通して中国に伝わりました。
紀元前500年頃です。

なお、ヨーロッパ地域においては、古代ギリシャや古代ローマの時代を経て所有権の主張や、手紙などの発行主体を示すものとして使用され続けてきました。
赤色の蝋に火を灯して手紙に垂らし、金属の印でシーリング(封印)する様子などを、絵や映画などで見たことがあるかと思いますが、あれです。
識字率の低さを背景に、紋様で権利を示すものとしては都合がよいものでした。
つまり、識字率の向上と共に姿を消し、欧米においてはサイン(署名)文化が普及しました。
今では、趣味の世界でのシーリングと、かなりパブリック性の高い用途以外において、印鑑が使われることはありません。

さて、中国を経由して日本に伝わったのは西暦の時代に入ってからです。
(中国での印鑑の歴史はごちゃごちゃで、正直よくわからないです。中国の王朝の歴史は変化が激しく、文化の連続性もつなげるのが難しく、時代時代や地域において、使用のされかたが異なるのです。)
いわゆる「漢倭奴国王」と刻印された「金印」が日本最古のものとして有名ですが、実際に文化的に使用されている形跡が残っているのは西暦700年頃からです。
遣唐使が始まった奈良時代の話ですね。
この頃は政府によって使用が認可された「官印」のみが使われていましたが、その後、平安時代に入り、一部貴族のみに「私印」が許されるようになりました。
その後、鎌倉時代に入ってからは落款印、筆者印などが流行し、新しい文化を築くようになり始めます。
そして、室町時代、戦国時代と、微妙に形式や用途、流行が変わりながらも、現代の署名に近い形式で使用されていくようになりました。

現代の印鑑登録制度の起源となるのが江戸時代で、「実印」を登録する「印鑑帳」が作成されるようになりました。
この「実印」は所有権に関して強く保証するものとなっており、現代社会における「実印」と非常に似た性格を持つようになりました。
日本の近代法では明治6年(1873年)に実印が制度化されました。
この印鑑制度は、日本の中で独自に文化として染みわたり、現在まで続きます。

現代においては、電子印がITの発展と共に普及しはじめており、特にブロックチェーン技術は印鑑を不要にする社会を実現するのでは、と言われています。
この印鑑不要論と電子契約の話は、別のところで触れたいと思います。

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