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法務省の取締役会議事録電子署名容認、登記に使えるのか?

日経新聞より、法務省が取締役会議事録の電子署名を容認、という報道を出しています。
議事録押印でのポイントは、登記に使えるか否か、であり今回の報道ではそこに触れていません。
おそらく、今までも容認されていたことを明確にしただけだと思われます。
登記に使えるか否かは情報が少なく、現状では判断ができません。

(2020年6月18日追記)クラウドサインが登記対応

ついに念願が叶い、クラウドサインが登記対応をとなりました。

詳細は下記記事にて記載していますので、ご参照ください。

法務省が取締役会議事録の電子署名を容認

日経新聞にて、「取締役会の議事録承認、クラウドで電子署名 法務省が容認」と題する報道が出ていました。

 法務省が取締役会の議事録作成に必要な取締役と監査役の承認についてクラウドを使った電子署名を認める。これまで会社法が容認しているかを明示する規定はなかった。新型コロナウイルスの感染防止策の一環で、署名や押印に関わる手続きを簡素にしたい経済界の要望を反映し、明確な方針を定めた。
(略)
 法務省は取締役会の議事録確認であれば「取締役会に出席した取締役らが議事録の内容を確認し、意思表示するものであれば事足りる」としてクラウド型などの署名の利用を認めた。

取締役会の議事録承認、クラウドで電子署名 法務省が容認 2020/05/31 日経速報ニュース

これに関して、大きな前進、というムードが出ていますが、本当にそうなのでしょうか。

こちらの記事でも書いたのですが、取締役会議事録が社内保管用なのか、それとも登記に使用するものなのか、で取扱いが変わってきます。

元々として、社内保管用であれば、クラウドサインやGMOアグリーのようなクラウド型のサービスで問題がありませんでした。

一部、電子署名法の取扱いの問題で、クラウド型サービスの是非が微妙だ、という議論を見かけますが、本質的にここがポイントになるとはあまり思えません。

取締役会議事録実務においては、登記に使えるか否かがポイントで、少なくとも5月31日の日経新聞の報道では、このポイントについて触れているようには読めません。

結論、今まで別に問題無かった点を、法務省があらためて問題無い旨を明確にした、というだけの報道では無いかと見ています。

登記上(商業登記法)のボトルネック

登記申請の際、取締役会議事録・株主総会議事録・就任承諾書・委任状などの書類を添付して法務局に申請することが必要です。
これらの書類には、実印による記名押印が必要です。

そのため、リアルな印鑑を廃止しようとすると、実印による記名押印に代わる電子署名が必要となります。

しかも、その電子署名(代表印/実印)に用いる電子証明書は「電子認証登記所登記官が発行した電子証明書に限る」となっています。
そして役員の押印に関しては、認定認証業者が発行している電子証明書による電子署名、もしくは、マイナンバーカードに内蔵されている電子証明書による電子署名が必要となっています。
つまり、認定認証業者が発行している電子証明書だけで登記ができないのです。

登記に対応できる取締役会議事録・株主総会議事録の電子化にあたっては、満たさなければいけない要件が多く、実用的でありません。

この点に関して、仮に登記にも使える、ということであれば朗報です。
もう少し情報を集める必要があり、そして、ぬか喜びになりそうな気はしてますが、、、。

(参考)電子署名法上で曖昧だった点

2001年に電子署名法が成立しました。
内容としては、電子文書(デジタルデータによる文章)に本人のみがつけることができる電子署名がついていれば、そのデジタルデータは本物であり、確かに電子署名者による署名がなされた、とみなすことができるものです。

クラウドサインやGMOアグリーのようなクラウド型の署名サービスが存在します。
これらのサービスでは契約者(取締役会議事録の場合だと署名もしくは記名押印する人)が確認をし、押印行為を行ったかのようなインターフェースになっているため、あたかも本人たちが電子署名をしているかのように見えます。

ただ、法的には取扱いが微妙で、契約者(押印者)たち本人が、書類を確認しましたよ、ということをクラウド型署名サービス事業者が電子署名をした、というのが実際の所です。
(つまり、押印の当事者たち本人が電子署名をしたわけではないのです。立会人型、とか言います。)

そのため、これらのサービスによる押印行為が法的にどうなのか?というのが議論になります。
電子署名法の観点にたってしまうと、ここがグレーというか微妙にアウトという曖昧なものになってしまうため、現状でも慎重に取り扱う方がいるわけです。

契約行為自体の観点でいうと、当然クラウド型の署名サービスは当然に適法のはずなので、上記の曖昧な点を問題視するのはナンセンスな話だとは思いますけれどね。
(判例的に、ここが評価されたことが無い点もまた曖昧性に拍車をかけてます。)

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WEB会議での取締役会における即時性、双方向性の確認

この2,3ヶ月でWEB会議が広く行われ、慣れた方も多いでしょう。
取締役会は、通常の会議と異なり、配慮しなければならない点が複数あります。
特にWEB会議のような方法では、最悪、取締役会が無効となるリスクもあります。
ここでは、WB会議での取締役会における運営上の注意点を解説していきます。

忙しい人向けまとめ

WEB会議、テレビ会議、電話会議の方式での取締役会開催においては次の2点が重要

  • 即時性
  • 双方向性

即時性、双方向性に対応するために、次の4点を実施する

  • コミュニケーションに不備が無い事の適時の確認、特に最初と最後で確認をとる
  • 声とジェスチャーでの意思表示
  • 早い内での議事録の作成と回覧
  • 会議記録のデータでの保存

即時性、双方向性の確認が重要

WEB会議に限らず、テレビ会議や電話会議の方式における重要な点が2つあります。

  • 即時性
  • 双方向性

即時性とは、出席役員の音声が即時に他の出席役員につたわることであり、
双方向性とは、出席役員が同じ場所・空間でコミュニケーションをとるのと同じくらいのやり取りがお互いにできることです。

この点については、下記の通り、法務省および過去の判例により示されているものです。
この2点を担保できるのであれば、遠隔地での取締役会は合法に開催できる、逆にいうと即時性・双方向性に難があるのならば、取締役会は有効ではないとされてしまうリスクがある、ということです。

(略)
取締役間の協議と意見交換が自由にでき、相手方の反応がよく分かるようになっている場合、すなわち、各取締役の音声と画像が即時にほかの取締役に伝わり、適時的確な意見表明が互いにできる仕組み
(略)

法務省民事局 規制緩和等に関する意見・要望のうち、現行制度・運用を維持するものの理由等の公表について

(略)
遠隔地にいる取締役が電話会議方式によって取締役会に適法に出席したといえるためには、少なくとも遠隔地取締役を含む各取締役の発言が即時に他のすべての取締役に伝わるような即時性と双方向性の確保された電話会議システムを用いることによって、遠隔地取締役を含む各取締役が一堂に会するのと同等に自由に協議ないし意見交換できる状態になっていることを要する
(略)

福岡地判平成23年8月9日(裁判所HP、平成21年(ワ)第 4338 号)

そのため、取締役会の運営上、対応しなければいけない点がいくつか存在します。

WEB会議での取締役会運営上の注意点

即時性と双方向性の確認

取締役会の開始から終了まで、意思伝達に問題が無いことをきちんと確認しましょう。

まず開始時に、議長(通常は代表取締役)より、出席役員に、音声が明瞭に聞き取れること、画像が不備なく映っていること、配布資料が閲覧できること、を確認しましょう。

そして、終了時にも同様に、取締役会全体を通じて、音声・画像の伝達に問題が無かったことを、出席役員に確認しましょう。

会議内においても、議案の一つ一つについて、コミュニケーションが適正にとれていることを、適時確認していきましょう。

声とジェスチャーによる意思表示

WEB会議ですと、ちらほらと音声や画像が途切れてしまう場面が出てしまうこともあるでしょう。
音声が、明瞭に聞き取れない場面も出てくるでしょう。

そのため、意思表示のやり方に関して、声とジェスチャーの両方による意思表示を行うような文化にしましょう。

賛成ならば、「賛成です」という声を出すと共に、手でOKポーズを行うと、明確にその意思を他の出席役員に示すことができるでしょう。

WEB会議だからこそ、多少大げさでも良いので、明確に意思表示が行えるように配慮しましょう。

議事録の確認

取締役会終了後は、記憶が新しい内に議事録を作成し、早々に出席役員に回覧しましょう。

内容確認を依頼し、メールやSlack上で、明確に「確認しました。」「次の通り修正提案をします。」といった確認を取りましょう。
修正提案があり、それを受け入れる場合は、その旨と内容も早々に他の出席役員に回覧します。

Slackのようなチャットツールは、テキストの修正や削除ができてしまうので、できればメールのような相手方が一方的に修正・削除ができないような方法の方が望ましいですね。
画像キャプチャーをとる方法もあるのですが、流石にそこまでやるのは面倒ですので、最初からメールでの確認を取る方がリーズナブルでしょう。

記録をデータで保存する

会議は、その内容について記録をデータで保存するようにしましょう。

明確にデータで保管されているならば、後々になって、言った言わないを防げますし、議事録作成上、不明な点が出た場合に確認を取ることが可能です。

ZoomなどのWEB会議システムは、会議の内容を丸っとデータで保管する事が可能です。
「ミーティングを自動記録」というオプションをセットするだけなので、簡単に設定できます(下記図参照)。

電話会議のような方法の場合は、ICレコーダーなどを使い、録音をするようにすれば良いでしょう。

最後に

WEB会議実施の取締役会は、おそらく過去に数が少なく、これから事例が増えてくるものと考えられます。
そして同様に、各種のトラブル事例も報告されてくるでしょう。
そのようなトラブルに、自分たちの会社が該当することが無いよう、多少くどい位で配慮した方が良いと考えられます。
実際、そこまで負荷が増える物でもないですし、慣れればどうってこと無いはずなので、対応していきましょう。

なお、全員WEB会議参加の場合の取締役会招集通知・議事録の書き方については次の記事を。

議事録の電子署名(電子化)対応については次の記事を参考にしてください。

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取締役会議事録・株主総会議事録の電子化~リモート対応にあわせたハンコ廃止はどこまでできるか~

全員がWEB会議参加の取締役会が増えてきました。
あわせて出る悩みが「議事録の押印」、つまりハンコです。
今回は議事録の電子化、つまりハンコ廃止はどこまでできるのかを解説していきます。
結論、社内文章としての保存と、登記申請用の議事録で対応が異なります。

役員全員がWEB会議参加の場合の取締役会招集通知・議事録の書き方に関しては、こちらの記事を参照ください。

忙しい人向けまとめ

  • 社内文書として保存する場合と登記・申請等で行政機関等に提出する場合で考え方が異なる
  • 取締役会議事録の場合は、技術用件を満たしたサービスを利用すれば電子化対応は可能
  • 株主総会議事録の場合は、そもそもとしてハンコがマストでない(真正の担保のために実印押印が一般的)
  • 登記を要する場合は、難点が多く、書類の電子化対応が現実的でないため、運用でカバーした方がよい
  • 電子化対応を行う場合、定款の定めで「電子署名」に対応していることが必要

社内文章としての保存の場合(登記が必要ない場合)

社内文章としての保存の場合も、取締役会議事録と株主総会議事録で取扱いが変わってきます。

取締役会議事録の場合(登記が必要ない場合)

まず、前提の確認からです。

取締役会議事録を電子化する場合は電子署名が必要

取締役会の場合、その議事録は書面でも電磁的記録(以下、「電子データ」と表現)でも作成可能とされています(正確には、どちらかで作成しなければならない)。

会社法

第三百七十一条 取締役会設置会社は、取締役会の日(前条の規定により取締役会の決議があったものとみなされた日を含む。)から十年間、第三百六十九条第三項の議事録又は前条の意思表示を記載し、若しくは記録した書面若しくは電磁的記録(以下この条において「議事録等」という。)をその本店に備え置かなければならない。

(略)
会社法施行規則

第百一条 法第三百六十九条第三項の規定による取締役会の議事録の作成については、この条の定めるところによる。

2 取締役会の議事録は、書面又は電磁的記録をもって作成しなければならない。

(略)

そして、ご存知でしょうが、この取締役会議事録には出席取締役・監査役(以下、「出席役員」と表現)が署名または記名押印することとされています。
もしくは、署名または記名押印に代わる措置を取らなければならない、とされています。

会社法

第三百六十九条 (略)

3 取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。

(略)

4 前項の議事録が電磁的記録をもって作成されている場合における当該電磁的記録に記録された事項については、法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。

この「代わる措置」が電子署名です。
つまり、取締役会議事録を電子化した場合は、署名または記名押印に代えて電子署名をすることが必要となります。

会社法施行規則

第二百二十五条 次に掲げる規定に規定する法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置は、電子署名とする。

(略)

六 法第三百六十九条第四項(法第四百九十条第五項において準用する場合を含む。)

電子署名の要件

電子署名の要件は次の2つです。

  • 本人性の確認:署名を行った者が本人、つまり出席役員であることを確認できる
  • 署名の改変・改ざん防止:署名が改変や改ざんされていないことを確認できる
会社法施行規則

第二百二十五条 (略)

2 前項に規定する「電子署名」とは、電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。

一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。

二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。
電子署名及び認証業務に関する法律

第二条 この法律において「電子署名」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。

一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。

二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。

そして、この電子署名の要件2つを満たすためには、技術的要件を満たす必要があります。
逆にいうと、技術的要件を満たした方法であれば、取締役会議事録の電子化が可能となります。

電子署名及び認証業務に関する法律

第二条 (略)

3 この法律において「特定認証業務」とは、電子署名のうち、その方式に応じて本人だけが行うことができるものとして主務省令で定める基準に適合するものについて行われる認証業務をいう。
電子署名及び認証業務に関する法律施行規則

第二条 法第二条第三項の主務省令で定める基準は、電子署名の安全性が次のいずれかの有する困難性に基づくものであることとする。

一 ほぼ同じ大きさの二つの素数の積である二千四十八ビット以上の整数の素因数分解

二 大きさ二千四十八ビット以上の有限体の乗法群における離散対数の計算

三 楕円曲線上の点がなす大きさ二百二十四ビット以上の群における離散対数の計算

四 前三号に掲げるものに相当する困難性を有するものとして主務大臣が認めるもの

その他の要件

その他、取締役会議事録の電子化のために、以下の要件を満たす必要があります。

  • 電子データの見読性の確保:モニターで鮮明に表示され、読むことができる
  • 紙かモニター表示のみ:インターネットを経由した方法は不可
  • 紙同様10年の保存が必要:電子署名に加えてタイムスタンプが必要
  • バックアップ:データの消失を避けるためのバックアップ保存が必要

株主総会議事録の場合(登記が必要ない場合)

次に株主総会議事録の場合です。

株主総会議事録はそもそもとして押印が義務ではない

知らない人も多いと思いますが、株主総会議事録には押印義務がありません。
つまり、株主総会議事録の電子化にあたって、電子署名に対応しなければならない義務がないです。

会社法

第三百十八条 株主総会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成しなければならない。

(略)

4 株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。

(略)

二 第一項の議事録が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

ただし、、、真正担保

ただ、作成した議事録の真正を担保するために、会社代表印、つまり実印を押印するのが一般的でしょう。
後々のトラブルを回避するためにも、押印対応しておいた方がよいでしょう。

つまり、株主総会議事録の電子化対応の場合も、取締役会議事録の電子化対応に準じた対応が望ましいと考えられます。

ついでに、株主から閲覧または謄写の請求があった場合には対応が必要となりますので、これについても取締役会議事録の電子化対応に準じた対応が必要です。

電子契約サービス

それでは、具体的にどのように取締役会議事録・株主総会議事録の電子化対応を行うか、です。
今は、電子契約サービスが充実しています。
安くて使い勝手の良いサービスがたくさんありますので、任意に選定すれば良いでしょう。
ここでは1社だけ紹介します。

GMO agreeは安くて使い勝手がよく、電子署名の技術的要件を満たしたサービスです。
また、GMO熊谷社長は、先般のIT大臣の発言をうけて、積極的にハンコを廃止していく旨のコメントを出しています。
今後のサービス向上にも期待できますし、無料期間も設定されたようですので、これを機に導入検討をするのは有りでしょう。

登記・申請等で行政機関等に提出する場合

(2020年6月18日追記)

ついに念願が叶い、クラウドサインが登記対応となりました。
そのため、本記事の本項は古い内容となります。

詳細は下記記事をご参照ください。


一方、登記のために役所に書類を提出する場合は難点が多くあります。
結論、あまり実用的で無いので、運用でのカバーが良いです。

登記・申請等で行政機関等に提出する場合

登記申請の際、取締役会議事録・株主総会議事録・就任承諾書・委任状などの書類を添付して法務局に申請することが必要です。
これらの書類には、実印による記名押印が必要です。
そのため、実印による記名押印に代わる電子署名が必要となります。

商業登記規則

第六十一条 定款の定め又は裁判所の許可がなければ登記すべき事項につき無効又は取消しの原因が存することとなる申請については、申請書に、定款又は裁判所の許可書を添付しなければならない。

(略)

4 設立(合併及び組織変更による設立を除く。)の登記の申請書には、設立時取締役が就任を承諾したことを証する書面の印鑑につき市町村長の作成した証明書を添付しなければならない。取締役の就任(再任を除く。)による変更の登記の申請書に添付すべき取締役が就任を承諾したことを証する書面の印鑑についても、同様とする。

しかも、その電子署名(代表印/実印)に用いる電子証明書は「電子認証登記所登記官が発行した電子証明書に限る」となっています。
(役員の場合は、認定認証業者が発行している電子証明書による電子署名、もしくは、マイナンバーカードに内蔵されている電子証明書による電子署名。)
つまり、認定認証業者が発行している電子証明書だけで登記ができないのです。

商業登記法

第十九条の二 登記の申請書に添付すべき定款、議事録若しくは最終の貸借対照表が電磁的記録で作られているとき、又は登記の申請書に添付すべき書面につきその作成に代えて電磁的記録の作成がされているときは、当該電磁的記録に記録された情報の内容を記録した電磁的記録(法務省令で定めるものに限る。)を当該申請書に添付しなければならない。
商業登記規則

第三十六条 法第十九条の二の法務省令で定める電磁的記録は、第三十三条の六第四項第一号に該当する構造の電磁的記録媒体でなければならない。

2 前項の電磁的記録には、法務大臣の指定する方式に従い、法第十九条の二に規定する情報を記録しなければならない。

3 前項の情報は、法務大臣の指定する方式に従い、当該情報の作成者(認証を要するものについては、作成者及び認証者。次項において同じ。)が第三十三条の四に定める措置を講じたものでなければならない。

4 第一項の電磁的記録には、当該電磁的記録に記録された次の各号に掲げる情報の区分に応じ、当該情報の作成者が前項の措置を講じたものであることを確認するために必要な事項を証する情報であつてそれぞれ当該各号に定めるものを、法務大臣の指定する方式に従い、記録しなければならない。

一 委任による代理人の権限を証する情報 次に掲げる電子証明書のいずれか
イ 第三十三条の八第二項(他の省令において準用する場合を含む。)に規定する電子証明書
ロ 電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律(平成十四年法律第百五十三号)第三条第一項の規定により作成された署名用電子証明書
ハ 氏名、住所、出生の年月日その他の事項により当該措置を講じた者を確認することができるものとして法務大臣の指定する電子証明書

二 前号に規定する情報以外の情報 次に掲げる電子証明書のいずれか
イ 前号イ、ロ又はハに掲げる電子証明書
ロ 指定公証人の行う電磁的記録に関する事務に関する省令(平成十三年法務省令第二十四号)第三条第一項に規定する指定公証人電子証明書
ハ その他法務大臣の指定する電子証明書

5 前項の場合において、当該作成者が印鑑の提出をした者であるときは、当該電磁的記録に記録すべき電子証明書は、同項第一号イに掲げる電子証明書に限るものとする。ただし、第三十三条の三各号に掲げる事項がある場合は、この限りでない。

6 第二項から第四項までの指定は、告示してしなければならない。

7 前条第三項の規定は、第一項の電磁的記録媒体に準用する。

(なお、認定認証業者としてはリンク先のような事業者が対応していますが。)

難点が多く実用的でない

つまり、登記に対応できる取締役会議事録・株主総会議事録の電子化にあたっては、満たさなければいけない要件が多く、実用的でないのです。

まず、よっぽどの大企業でなければ、登記をしなければならないような事象が限られます。
そのために、役員全員に認定認証業者が発行する電子証明書を発行するのか?という悩みがでます。
役員がITまわりに苦手な場合、わざわざ設定のためのフォローが必要になります。
社外役員の場合は、その手間はもっと増えます。
パソコンですので、突然壊れて使えなくなることも十分に考えられます。
当然、イニシャルコストだけでなく、月額のランニングコストがかかります。

これだけの負担感があるので、現状の制度やサービスの中では、登記要件に充足する電子化対応は難しいと言えます。
実際、多くの会社が、登記については従来通りのハンコ対応を行っている状況です。

運用でカバーが無難

これまでみてきた通り、登記書類の電子化対応は実務上、現実的と言えません。

となると、運用でのカバーが無難と考えられます。

具体的には、登記が必要な案件に関しては、登記を要しない議案の取締役会や株主総会とはわけて対応するのです。
登記が必要な案件は、どこか特定の時期に集中させて、まとめて対応すれば、書類の回覧負担が減ります。
発生した時だけは面倒ですが、要登記事項自体を減らしてしまえば良いのです。

ついでに定款も注意が必要

ここまで、取締役会議事録・株主総会議事録の電子化対応について解説してきました。
実は、もう1点確認が必要です。
それは、会社の定款にどう定められているか?の確認です。

電子化対応を視野に入れているのならば、どこかの総会のタイミングで定款変更をかけておくのが無難でしょうね。

取締役会の議事録に関する定款の定め

A:取締役会における議事の経過の要領及びその結果並びにその他法令に定める事項は、議事録に記載または記録し、出席した取締役及び監査役がこれに記名押印する。

B:取締役会における議事の経過の要領及びその結果並びにその他法令に定める事項は、議事録に記載または記録し、出席した取締役及び監査役がこれに記名押印または電子署名する。

パターンAの場合、記載通り、出席役員のハンコ対応が必要です。
パターンBの場合、電子署名に対応しているならば、ハンコを廃止することができます。

株主総会の議事録に関する定款の定め

A:株主総会議事録については、法令で定めるところによりその経過の要領及びその結果等を記載又は記録し、議長及び出席した取締役がこれに記名押印又は電子署名を行う。

B:株主総会における議事の経過の要領およびその結果ならびにその他法令に定める事項については、これを議事録に記載または記録する。

パターンAの場合、記載通り会社実印と出席取締役のハンコが必要です。
パターンBの場合、登記を要しない議案であれば、ハンコは必須ではない形になります。

最後に

これまで書いてきたことは、IPOを視野にいれていない中小企業にとっては、おそらく重要性の低い話でしょう。
おそらく、議事録自体を整備していないでしょうから。

しかし、IPOを目指す場合は別です。
IPO進行上、議事録の整備は論点の一つとなるため、避けては通れない話になります。
書類の電子化は要件を満たしてさえいえれば審査上の問題はありませんの、どうせなら最初から電子化前提で管理体制を構築するのが良いのではないでしょうか。

その際は、オンライン上に機密情報を保存する形になりますので、セキュリティ面だけ十分な注意を払いましょう。

取締役会議事録・株主総会議事録の電子化は、登記という観点を除けば、リーズナブルに対応可能です。
管理体制の整備自体が業績向上に直接的に寄与するものではありませんので、効率的に進めたいものです。

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