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外国語学習は何歳からはじめても遅くない

一般的に、言語学習は早くはじめるほうが学習効率は高いと考えられています。
つまり、大人になってからの言語学習は難しい、という考えなのですが、果たしてこれは正しいのでしょうか?
今回は、外国語学習は何歳からはじめても遅くない、ということを示唆した研究を紹介します。

大規模な言語学習の統計研究

MITの研究チームが669,498人を対象とした大規模な言語学習の統計研究を行いました。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0010027718300994

この論文では、18歳までに言語学習(ここでは英語)をはじめれば、それ以降に始めた場合に比べて、その言語の習得が容易になる、ということを示しています。

これだけを見ると、やはり言語学習は早くはじめるほうが学習効率は高いということを支持しているように受け取れるのですが、それは早計です。

確かに、早く始めた方が言語学習にとって有利な事は明らかです。

赤:ネイティブ、オレンジ:10歳以下、グリーン:11歳以上20歳以下、青:21歳以上

しかし、きちんとデータを見れば、成人してからの言語学習者であっても、十分にネイティブ水準に到達し得ることもわかります。

こちらのグラフは20歳以降に学習を開始した人の上位25%を抽出して、その習熟度を学習年数に応じて推移で示したものです。
0.9のバーがネイティブ水準を示すもので、学習から8年~10年程で、このラインを超えることがわかります。

これは、いつの時点からはじめても同様の結果が見られます。

繰り返しますが、もちろん早くはじめるに越したことはないのですが、何歳からはじめたとしても、習熟度の推移に大きな違いは見られないのです。
(しかも最初の数年は同じように早く習熟することがわかる。特に最初の1年程度でも0.8の水準に到達している。)

赤:ネイティブ、オレンジ:10歳以下、グリーン:11歳以上20歳以下、青:21歳以上

また、どの言語が母語であったとしても傾向は変わらないことも示されています。

バイリンガル全体と5つの言語群の学習傾向を比較した図:ほぼ同じ形状を示しており、母語が何であれ、習熟度について大きな差がなく学習できることがわかる

では何故、大人になると学習効率が悪いと考えられているのか?

それでは、何故、大人になると言語学習の効率が悪くなると考えられているのでしょうか?

研究でも18歳が一つのラインと敷かれていることが示唆されていますが、それはどのような要因なのでしょうか?

キーは学習時間にあると考えられます。

この種の研究の欠点は、年齢と学習期間については統計的に検討がされるものの、総学習時間についてはわからないことがほとんどです。

ようは、18歳という年齢は多くの場合、社会的な転換点を迎える影響が大きいのでは?ということです。

就職をして仕事で忙しくなる人もいるでしょうし、大学で専門的な領域の学習をする人もいるでしょう。

そうなれば、トータルとしての学習時間は若年層よりも少なくなったとしてもおかしくはありません。
この点については、論文の中でも指摘されています。

つまり、きちんと正しく努力を積み重ねたのであれば、何歳であろうが新しい言語を習得することは可能と言えるのです。

もちろん、全ての学習者が等しく新しい言語を習得できるとは限りませんが、意欲のある人にとっては励みとなる研究です。

最初の20%の時間で80%の成果も獲得できることも考えれば、「外国語学習は何歳からはじめても遅くない」のは間違いないです。


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ポジティブな感情は加齢による記憶力の低下を防ぐ

歳をとると身心共に衰え、記憶力が低下することは必然です。
しかし、どうやらポジティブな感情は加齢による記憶力の低下を防ぐ効果があるようです。
何歳になっても元気に楽しく働きたい、そのような方にとっては朗報かもしれません。

感情と加齢に伴う記憶力の変化との関係

ノースウェスタン大学の研究チームは、感情と加齢に伴う記憶力の変化との関係について次のような調査を行いました。

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0956797620953883

研究チームは、1995年から1996年、2004年から2006年、2013年から2014年の3つの期間に実施された全国調査に参加した米国の中高年者991人のデータを分析しました。

参加者は、過去30日間に経験したさまざまなポジティブな感情について、それぞれの評価で報告しました。
最後の2回の評価では、参加者は記憶力のテストも行いました。
これらのテストは、単語を提示した直後と15分後に再び思い出すというものでした。

そして研究チームは、年齢、性別、学歴、うつ病、ネガティブな感情、外向性といった要素を考慮した上で、ポジティブな感情と記憶力の低下との関連性について調査を行いました。

この調査により、加齢に伴い記憶力が低下していく、という基本的な事実の確認と共に、ポジティブな感情のレベルが高い人は、約10年の間に記憶力の低下が緩やかだったことが示されました。

ポジティブな感情とは、熱意、気配り、誇り、積極性、楽観性、明るさなどのことです。

ポジティブな感情は加齢による記憶力の低下を防ぐ可能性がある、という示唆を得られたのです。

人は何歳になっても成長できる、という研究も

記憶力の低下と併せて、物覚えが悪くなった、と感じる高齢者の方は珍しくないでしょう。

この感覚は正しいもので、事実、新しい何かを学習する能力は、若い人に比較して衰えているのは確かです。

しかしながら、多くの研究が、人は何歳になっても成長できる、という考えを支持しています。

ポジティブな感情により記憶力の低下を防ぐことが一定できるならば、楽しんで新しい物事を学び、熱意をもってチャレンジを続けていけば、非常に良い老後を迎えられるのではないでしょうか。

人は加齢と共にリスクを避ける傾向が強まりますが、そのことを自覚していれば、チャレンジ意欲の維持も不可能ではないはずです。

学ぼうという姿勢を持ち続けること、新しいことにチャレンジし続けること、そしてそれらを楽しんで取り組むこと。

重要なマインドとして意識していきたいものです。

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何歳になっても人は成長できるし成功できる

年齢を重ねると共に衰えを感じ、また学ぶ能力も減衰していくと感じる人は多いでしょう。
事実、身体は間違えなく衰えていきますし、意欲も脳生理学的に低下し、意思決定も保守的になっていくことが示されています。
しかし、近年の知見では、何歳になっても人は成長できるし成功できる、ということも示されています。

テック領域での知見

よく、ソフトウェア開発の領域において、年配のプログラマーは急速に変化する技術においてついていけず、スキルが比較的若いプログラマーに劣っている、と言われます。

これは果たして本当なのでしょうか?

ある研究では、この考えに否定的です。

https://people.engr.ncsu.edu/ermurph3/papers/msr13.pdf

ノースカロライナ州立大学が行った研究によると、年配のプログラマーは若いプログラマーと比較して、同等かそれ以上のスキルを持っていることが示されました。

研究者たちは、StackOverflowというサイトに登録されている8万人以上のプログラマーのプロフィールを調べました。
StackOverflowは、ユーザーがプログラミングに関する質問をしたり答えたりできるオンラインコミュニティです。
このサイトでは、ユーザーが他のユーザーの質問や回答の有用性を評価することもできます。
良い質問や良い回答をしていると評価されたユーザーにはポイントが与えられ、それが “レピュテーション・スコア “として反映されます。
レピュテーションスコアが高ければ高いほど、そのユーザーはプログラミングの問題をしっかりと理解していると考えられます。

この研究では、ユーザーの年齢とレピュテーションスコアの関係、ユーザーが質問したり回答したりしたテーマの数、近年の新しい技術に関する知識、について調査が行われました。

その結果、レピュテーション・スコアによるユーザーの評判は40代までは上昇することが示されました(それ以上の年齢については十分なデータが取れなかった)。
また、テーマの数も30代から50代前半にかけて、カバーしている領域が着実に広がっていることも示されました。
新しい技術については、若いプログラマーと比較して同等の知識を有していることがわかり、決して、新しい知見に対するキャッチアップ能力が劣っていないことが示されました。

つまり、年齢と共にプログラマーとしての総合的な能力は上昇し続ける、ということです。

おそらく、適切に学ぶ能力と意欲の問題と考えられます。

科学研究領域での知見

次は、科学研究領域から得られた知見です。

https://www.nber.org/system/files/working_papers/w19866/w19866.pdf

ノースウェスタン大学の研究チームは、科学や技術的領域において貢献した人たちの、成功した時期の年齢について調査を行いました。

その結果、20世紀以降にノーベル賞を受賞した受賞者の貢献・年齢についてグラフで表すと次のようなものになることがわかりました。

30代後半から40代において、グラフが大きくなっています。

同様のグラフを、1935年以前、1935年より先から1965年以前、1965年より先で分解すると、次のように、時代と共に成功をする年齢が後ろ倒しになっていくことが示されました。

また、いずれのグラフからも、比率として小さいものの、50代60代になっても成功をしている方がいらっしゃることがわかります。

年齢と共に後進の育成に注力していく傾向があるであろうこと、純粋なバイアスの影響もあるであろうことを踏まえると、科学研究領域での知見においても、何歳になっても人は成長できるし成功できると考えることができるはずです。

脳生理学的な知見

上述2つの研究は、年齢と実態についてのものでした。

研究は脳生理学的なものもあり、最近の研究によると、何歳になっても脳の一部領域は成長することが示されています。

https://hbr.org/2010/02/brain-functions-that-improve-w

人の脳は、語彙力や機能的推論など、様々な分野において、20代の頃よりも機能しているようです。
物事の要点を掴む能力や、対人関係の判断能力、様々な“何か”が信頼できるか否かを判別する能力等、多くの能力が磨かれていく、とのこと。

確かに、年齢と共に、脳の処理速度や新しいことをスムーズに覚える能力、短期的な記憶力の低下など、様々な衰えは確かにあります。

しかしながら、衰える能力がある一方、磨かれる能力もあるのだ、という知見は全ての人にとって励みになると考えられます。


歳を重ねることにより衰えるものは何か?逆に磨かれるものは何なのか?
これらを適切に把握し、また下記記事のようなリスク回避傾向等についても認識すれば、何歳になっても成長できるし、挑戦し成功を掴むことができる可能性も高まるはずです。

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