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エコーチェンバー組織は成功しない~多様な意見を聞き、ファクトベースで思考しよう~

多様な意見や情報が飛び交う現代社会。
明らかに間違っている考えなのにも関わらず、その考えに固執し、反対意見を受け入れず排除しようとするエコーチェンバー現象を多く見かけます。
ここでは、エコーチェンバー現象とそれに陥らないためのポイントを解説します。

忙しい人向けまとめ

  • 同種の意見が飛び交う閉鎖的コミュニティに身を置いていると、他の意見を認めず、排除するエコーチェンバー現象が起きやすくなる
  • エコーチェンバー現象に陥ると、明らかに間違った考えを信じたり、周囲に害をまき散らしたりする
  • 会社がエコーチェンバー組織になってしまうと異なる意見が出なくなり、倒産、最悪の場合リビングデッド化する
  • エコーチェンバー現象に陥らないためには、人の話を聞く、ファクトベースで考える、自分は間違っているという前提立つ、この3つのポイントが重要
  • ただし、「軸」はブラさないようにしなければいけない

エコーチェンバー現象とは

コミュニティというものは、えてして同種の人が集まりやすいものです。

この同種の者同士で集まったコミュニティ内では、同じような意見が飛び交いやすいものです。
当然、自分自身の意見も肯定されやすい環境にあります。
このような環境にいると、自分自身の意見や主義主張・思想信念が正しいと思い、他の意見を認めず、排除するようになっていきます。
この現象をエコーチェンバー現象といいます。

残響音が鳴る共鳴室の様子と、閉じられたコミュニティ内で同じ意見が飛び交う様子が似ているところから、名付けられた現象です。
SNSの発達と共に提唱されました。

自分自身の意見や主義主張・思想信念が正しいと思い、他の意見を認めず、排除するようになる。

この言葉を見ると、非常に恐ろしいと感じませんか?
実際にこの状態になると、実害を伴う被害がまき散らされます。

新型コロナウイルス騒動と経営の現場の2つの事例で、エコーチェンバー現象により起きる問題を考えていきます。

(エコーチェンバー現象から至る「バックファイア効果」について、こちらの記事も参照。)

新型コロナウイルス騒動における言説

新型コロナウイルス騒動において、いくつかの対立する意見が飛び交っています。

PCR検査の全数実施の是非や、外出自粛に関して過剰対応と考えるか否かなどです。

この内、PCR検査の全数実施だけを例にとって考えると、次の記事でも書いた通り、PCR検査自体が100%の精度の検査方法では無いため、全数検査は意味が無いことは冷静に考えれば明らかです。

(ここでは詳細に触れませんが)また、そもそもとして臨床検査技師の人数や、検査機器や試料の数に限りがあり、リソースの観点で全数検査ができないことも明らかです。
同様に、簡易キットを用いての全数検査を主張する人も出てきていますが、精度が落ちるため、意味の無さに拍車がかかることも明らかです。
仮に全検査リソースを新型コロナウイルスの検査に振って全数検査を実施したとしたら、他の医療リソースがなくなり、それにより実害を被る別の病気の方もリアルに出てきます。
どのようにロジックを構築しようとも、PCR検査の全数実施はやらない方が良いのは明らかなのに、主張を取り下げる所か、むしろ主張を強める人たちが存在します。

現代はインターネットを用いて、様々な意見や考えを聞き、情報を収集し、自分の意見をアップデートすることが可能です。
しかし、一度エコーチェンバー現象に陥ってしまうと、確かなエビデンスでもって構築されたロジックを見ても、否定的な意見、攻撃的な意見が飛び交い、捏造としか見えなくなり、敵対的立場として受け入れなくなったりします。
自分たちのことを正義と思っているので、反対意見を述べる人を悪の使者のように見えてしまうのです。

社会的インパクトがある事象において、エコーチェンバー現象が起きると、非常に大きな混乱を招いてしまうのです。
これは、会社のようなコミュニティでも同様です。

経営の現場における問題

会社も一つの閉じられたコミュニティです。
そのため、エコーチェンバー現象に陥りやすい環境が整っています。

創業社長という生き物はえてして自我が強いものです。
プライドが高い人が多いですし、またビジネスを自分で立ち上げるだけの優秀さを持ち合わせている場合も多いです。
つまり、あまり人の意見を聞かない、という傾向があります。
(私も、自分のビジネスを経営している立場なので、自戒を込めて。)

フラット組織であったり、意見が広く交わされるような、一見風通しの良い組織であったとしても、よくよく見てみると同じような意見しか飛び交っていない、社長に対して反対意見を言おうものなら遠回しに排除される、というような会社はあちらこちらに存在します。
幹部社員が離反する要因は、大体において意見の不一致です。
このような状態になった組織のことを、私はエコーチェンバー組織と呼んでいます。

社長含め残っている構成要員が優秀な人たちだったら良いのですが、そうそう都合のよい環境は整っていません。
同じような意見しか持っていない平凡な人たち同士の組織が待ち受ける運命は、衰退、果ては倒産、最悪リビングデッド化です。

起業の本質的な目的はミッション・ビジョンにあるはずで、決して個人の成功やプライドの充足では無いはずです。
(個人の成功やプライドの充足からはじめても全く構わないのですが、事業の成長と共に、自分自身の心も成長させていきたいですよね。)
エコーチェンバー組織は、会社が目指すべき本来のあるべき姿を見失ってしまっているのです。

エコーチェンバー現象に陥らないためには

エコーチェンバー現象に陥らないためのポイントは3つです。

  • 広く多くの意見を聞き、他者の異なる意見を尊重する
  • ファクトベースで考える(データを重視する)
  • 自分は間違っているかもしれない、という考えを持つ

広く多くの意見を聞き、他者の異なる意見を尊重する

まずシンプルに、人の意見に耳を傾けましょう。
それが間違っているとか正しいとかはいったん脇において、ニュートラルにまずは話を聞きましょう。

会議においては、誰かにあえて反対意見を述べる役割を与える、という方法もあります。

その上で、ある意見に関する対立軸がある場合は、それぞれにおいて論理構造を整理すると良いでしょう。
ロジック構造が破綻している場合、意見の怪しさが浮かび上がってきます。
冷静に相手の感情を逆なでないように、ロジックの破綻を指摘し、議論を活性化しましょう。

SNSなどにおいては、フォローする人たちに偏りが無いように意識すると良いでしょう。
むしろ、自分の考えとは反対の意見を述べる人たちをフォローする方が自然とバランスがとりやすくなります。

所属するコミュニティも増やした方が良いです。
今勤めている会社しかコミュニティが無い状況であったとしたら非常に危険です。
これは難しく考える必要はなく、例えば通っているスポーツジムのコミュニティであったり、以前に勤めていた会社OBOGのコミュニティであったりと、様々に可能性があります。
私の場合は上記の例に加え、ビジネススクール時代のコミュニティや、ベンチャー企業関連のコミュニティに所属したりと広く考えを聞ける環境を作っています(これらのコミュニティの場合、マッチョイムズに偏る傾向がありますが)。

ファクトベースで考える(データを重視する)

次に大事なのがファクトベース、つまり事実やデータに基づく考えです。
PCR検査の例ですと、精度の問題や検査リソースの問題などが事実でありデータです。

ある意見に関して対立軸がある場合に、双方共にロジック構造がしっかりしていたとしましょう。
この場合次に検証するのがファクトです。
ロジック構造がしっかりしていたとしても、そのロジックを支えるファクトに欠陥がある場合にはロジックが成立しなくなります。

なお、この場合、ファクトに欠陥があるため「それは違うよ!」と攻撃的に言ってはいけません。
あくまでも議論を活性化させる前提で、ファクトの欠陥を指摘するべきです。
それでも相手が感情的に主張を繰り返したりした場合は、もう相手にする必要は無いでしょう。

自分自身のロジックに対しても同様で、ファクトに欠陥があったり、それを他者から指摘された場合、それを感情的にならず素直に受け止め、再度、ファクトの収集やロジックの再構築を行いましょう。

自分は間違っているかもしれない、という考えを持つ

最後に大事なのは「自分は間違っているかもしれない」という考えです。

本ブログでは、いくつかバイアスに関して紹介してきました。
エコーチェンバー現象に限らず、自分自身が様々なバイアスの悪影響を受けている、という前提に立つのです。

人間はバイアスの生き物であり、完全にバイアスから脱却することは不可能です。
どんなに賢くて人格的に優れていて、多数の実績を残している人であったとしても、無理なのです。
例えば、「社会貢献は大事であり、尊いことだ」という一見もっともらしい意見も、結局はバイアスに縛られています。
ようは、縛られていても問題がないバイアスと、悪影響を及ぼすバイアスがある、ということです。

バイアスがある前提で自己を客観視できていれば、自分自身が本来志したものはブレないはずです。
この自分自身が本来志したもののことを「軸」と呼びます。

この「軸」を中心におき、達成したミッション・ビジョンの実現のためにどうすれば良いか?という流れで「自分は間違っているかもしれない」と考えれば、エコーチェンバー組織には陥らず、ミッション・ビジョンの実現可能性が高まっていくでしょう。

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反論・批判を受け入れない人~バックファイア効果から見る経営判断と新型コロナウイルス~

世の中の言説は、正しい情報や明らかに誤った情報が入り乱れています。
特に、ここ1,2ヶ月では、社会的インパクトが大きい事象について、明らかに誤った言説がされ、それに対して強い反論がされていますが、誤った言説が正される気配は見えません。
反論や批判を受け入れない現象を「バックファイア効果」と言い、経営の意思決定においても悪影響を与えている光景を多々見受けます。
今回は、このバックファイア効果について解説していきます。

忙しい人向けまとめ

  • 人は反論・批判を受けると、それを否定して、もともとの考えを強め心理的反応があり、この現象をバックファイア効果と言う
  • バックファイア効果により、社会や経営の現場で、反論が受け入れられず、本来正しいはずのことが行われない状況が多々見受けられる
  • バックファイア効果は科学的には証明されきってはいないが、人生における感覚値と一致する
  • 感情に触れる領域での反論や批判はバックファイア効果が起きやすい可能性がある
  • バックファイア効果が出やすい人と、出にくい人がいて、これは遺伝子によって決まっている可能性がある
  • 反論や批判が目的ではなく、行動変容が目的ならば、言い方、表現には気をつけた方がよい

バックファイア効果とは

「お前は間違っている!」
こう言われた時、あなたはどう感じるでしょうか?

「なんだとう!間違っているのはお前だ!」
カチンときて、頭に血がのぼり、こう反論したくなりませんか?

このような、自分にとって、信じたくない情報、都合の悪い証拠、反論、批判に直面すると、それを否定して、もともと持っていた考えや信念、主義主張をより強めてしまう現象を「バックファイア効果」と言います。

米ダートマス大学が行った、イラク戦争に関連する情報の受け入れ方に関する実験において、大量破壊兵器の存在を否定する情報をえた人が、大量破壊兵器を事前に廃棄したから、という考えを強めたという現象から、提唱されている心理学的効果になります。

この現象は実際の経営の意思決定の現場や、新型コロナウイルスに関連する言説においても多く見られます。

新型コロナウイルスから考えるバックファイア効果

まず、新型コロナウイルスに関連するバックファイア効果を考えていきます。

まず、新型コロナウイルスの脅威度ですが、当ブログにて繰り返し主張している通り、十分な脅威はあれど、風邪やインフルエンザと比較した時の相対的な脅威度は低い、というのが数字から見る実態と考えられます。

PCR検査の全数実施についても同様で、全数検査は明らかな不合理なのに、未だに全数検査を主張する人はいなくなりません。

脅威度は相対的に低い事や、全数検査は明らかな不合理な点は、私に限らず多くの冷静かつ論理的で合理的な方々が解説し、発信しています。
それにも関わらず、脅威を主張する人、全数検査を訴える人はいなくなりません。

これはバックファイア効果が働いているからです。

なお、今現在、急激に感染者が拡大している現状でこういった言説をする私にもバックファイア効果が作用してしまっている可能性は存在し、これは留意が必要です。

経営の意思決定から考えるバックファイア効果

次に経営の意思決定の現場においても考えていきます。

社長や声の大きい幹部が「〇〇をやるぞ!」と言ったとします。
〇〇はあなたのお好みで、あてはめてください。

これに対して、論理的な人が「〇〇は、これこれこういう理由でやめた方がいいです。」と言ったとします。
無視・スルーされ、当初の掛け声どおり〇〇が実施される光景が目に浮かびませんか?
最悪、叱責をうけ、その論理的な人の居場所が会社の中で無くなる可能性もあります。

もちろん、これはその会社のカルチャーや、中の人たちの性格にもよるでしょう。
ただ、多くの人が、「反論をした結果として受け入れてもらえなかった」という経験をしたことがあるはずです。

バックファイア効果が働いてしまっているからです。

言い方、表現には気をつけよう

バックファイア効果は科学的には証明されていないが感覚値とは一致する

なお、バックファイア効果は、まだ心理学的に証明されきった現象ではありません。

まず、バックファイア効果ですが、上記のイラク戦争に関連する実験の他、米ダートマス大学では減税に関する論争についても実験をしており、また英エクスター大学のワクチン接種に関する実験や、米マサチューセッツ大学で行われた環境負荷に関するこちらの実験などで、その効果が主張されています。

一方、オハイオ州立大学で行われた、バックファイア効果に関するメタ検証や、52に及ぶバックファイア効果に関する実験でバックファイア効果に関して、疑問を呈する主張がでています。

つまり、繰り返しになりますが、バックファイア効果自体はまだ科学的には証明されきっていないのです。
それでは、何故、日常の中の感覚値で、バックファイア効果は確かに存在するな、と感じるのでしょうか?

これは私の仮説になるのですが、感情に触れる領域での反論や批判において、バックファイア効果が出るのでは?という仮説です。
また、バックファイア効果が出やすい人と、出にくい人がいるのでは?という仮説もあります。

感情に触れる領域での反論や批判はバックファイア効果がおきやすい

まず、感情に触れる領域での反論や批判においてバックファイア効果が出やすい、という仮説の説明です。

上述の英エクスター大学のワクチン接種の実験や、米マサチューセッツ大学での環境負荷に関する実験は、環境負荷に触れやすい設問だったと感じます。
というのも、「ワクチン接種は危ないから子供に打たせない、子どもは私が守る」と考えている親に対して、「ワクチン接種をしないと子どもが危ないですよ、ワクチンを子どもに打たせないことは一種の虐待ですよ」と伝えたら、感情的な反論がきて当然だと思いませんか?

環境負荷も同様です。
「環境に負荷を与える生活をすると、地球に優しくないですよ、次の世代の子どもたちに負担を背負わせますよ」と言われたら、「いや、中国や後進国が悪い。自分は何も悪くない。」と受け止められて、かえってエコな生活から遠ざかる可能性があります。

バックファイア効果が出やすい人がいる

次に、バックファイア効果が出やすい人と、出にくい人がいるのでは?という仮説の説明です。

米カリフォルニア大学の研究によると、特定の遺伝子をもった人は、リベラルな思想を持ちやすいことが発見されています。
別の研究では、米バージニア工科大学で行われた、不快な画像に対する反応実験において、リベラルや保守といった政治思想と脳の反応、ひいては遺伝子に特徴があることが示されています。

これらの研究から特定の遺伝子の有無によって、反論・批判の受け入れやすさに差がでるという可能性が考えられます。
反論・批判を、高年になって精神が成熟し、物事を受け入れやすくなる人は確かにいますが、幼少期から他者の反論・批判を受け入れて自分の成長に活かす人もいます。
逆に、何歳になっても頑固で、むしろ歳を取れば取るほど悪化する人もいます。

バックファイア効果が出やすい人と出にくい人がいる、という前提で考える方が現時点では良いように思えます。

言い方、表現には気をつけよう

最後にまとめると、何か反論や批判をしたい時はストレートに物を言うのではなく、相手のことを肯定した上で、ソフトに物事を伝えると良いであろう、というコミュニケーションの話に帰結します。

反論や批判が目的ならば良いのですが、本来の目的は社会や相手の行動変容のはずです。
行動変容を促す、相手が受け入れやすいようにコミュニケーションを取ることは、バックファイア効果を考えると、その重要性を感じます。

逆に、大して重要じゃない内容で、あえて反論・批判をストレートにぶつけて、相手の反応を見る、相手がどういうタイプの人間なのかを測る、というのも有効と考えられます。
こういったことを計算高く行う人間は嫌われがちですが、コミュニケーションにおいて、相手との距離を測るのは常なので、一つのツールとして持っておくことは、人生のどこかで役に立つかもしれません。

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確証バイアスの一種「共変錯誤」から考える経営の意思決定とPCR検査

ここ1,2ヶ月の世の中の報道や意見を見ていると、確証バイアスの一種である「共変錯誤」に陥っている人を大勢見かけます。
大勢に影響を与えないことならば良いのですが、社会的インパクトを与える事象での共変錯誤は重大な実害をまき散らします。
今回は経営の意思決定においても見られる共変錯誤について解説していきます。

忙しい人向けまとめ

  • 「自分が求める情報ばかりを収集すること」を確証バイアスと言い、確証バイアスは人間の思考の性質である
  • 「共に変化するものの間の関係を誤ること」を共変錯誤と言い、共変錯誤は確証バイアスの一種である
  • 共変錯誤の例としては「PCR検査の全数検査」主張があげられ、ウイルス検査で「感染していないが陽性とでる方や、逆に感染しているのに陰性とでる方が発生する」という事実に目を向けずに意見を述べる方が見受けられる
  • 共変錯誤は経営の意思決定の場面でも多く見られ、自分がやりたいことを支持する情報にばかり目を向ける経営者は実際に多い
  • 共変錯誤から脱するには、メリット・デメリットの検証や、「自分の考えは間違っている」という前提に一度立つことが重要

共変錯誤とは~確証バイアスの一種~

確証バイアスとは

確証バイアスを一言で表現すると、「自分が求める情報ばかりを収集すること」です。

人は、自分の考えが正しいのか、それとも間違っているのかを考える時に、自分の考えが正しいことを証明する情報、つまり証拠ばかりを探してしまう傾向があります。
間違っているという情報、つまり反証には目を向けない傾向があるのです。

そのため、「自分の考えは正しい」という気持ちに固執しやすくなってしまうのです。

なお、私は周囲の人間から「否定的な意見が多い」という言葉を投げかけられたことがありますが、これは私の確証バイアスに対する防衛機構です。
何か物事を考える時に、自動的に「自分の考えは間違っている可能性がある」という思考回路を作動させ、反証を求めるようにしています。
これはもう完全に習慣化された思考の癖で、思考の正確性を担保するための機能なので、ご容赦ください。

共変錯誤とは

それでは共変錯誤という小難しそうな言葉の解説に移ります。

錯誤とは誤りのことです。
つまり共変錯誤とは、「共に変化するものの間の関係を誤ること」を意味します。

これは事例を交えながらの方がわかりやすいと思いますので、昨今話題に上がっているPCR検査を例に共変錯誤を考えていきます。

PCR検査から考える共変錯誤

PCR検査とは、微量のDNA(もしくはRNA検体)検体を高感度で検出する方法です。
新型コロナウイルスのような病原体の有無を調べることができ、昨今、非常に話題にあがっています。
文脈としては、「全数検査をしろ」であったり「PCR検査に重きを置くのは意味がない」であったりです。

さて、PCR検査は高感度の検査技法ではありますが、100%の感度があるわけではありません。
確定的なことは不明なのですが、新型コロナウイルスの検査においては70%位の感度、とされているようです。
(また、特異度、というパラメータもあるのですが、小難しさが増すので省略します。)
そのため新型コロナウイルスには感染していないが陽性とでる方や、逆に感染しているのに陰性とでる方が発生します。
この状況を図式で示すと次のようになります。
(PCR検査を感度70%・特異度99%、感染者総数を5千人とし、10万人を対象に検査した場合)

この図を見ればわかる通り、PCR検査を行うと、1,500人の感染しているのに陰性と出た方、逆に950人の感染していないのに陽性と出た方、つまりエラーが発生するのです。
こういった事実を見ずに「PCR検査の全数実施をしよう」とジャッジする、つまり共に変化するものの間の関係を誤ってジャッジしてしまうことを共変錯誤と呼びます。
PCR検査に対して、確証バイアスにとらわれてしまっているのですね。

なお、メディアの報道を見ていると、「そうならば、複数回実施すればよいのでは?例えば一人の検査対象者に10検体とって、まとめて検査すれば。」というコメンテーターがいらっしゃいました。
一見もっともらしく聞こえます。
確かに、感染の確率が高い検査対象者に絞って複数回検査を行えば、確度高く検査を行うことができます。
しかし、検査対象者全体に対して、複数回の検査を行うとどうなるか。
上の図の比率で、検査のたびに感染していないが陽性とでる方や、逆に感染しているのに陰性とでる方が発生します。
一回一回の検査は、独立した事象なので、複数回検査をまとめて行うと、もう何が何だかわからない状態になってしまいます。

(どうでも良いですが、私は理系出身でPCR検査は演習でやったことがあるので、こんな世間的にマイナーなはずの用語が広く知れ渡るような状況をなんとも言えない感情で見ています。)

経営の意思決定から考える共変錯誤

共変錯誤は経営の現場における意思決定においても見受けられます。

ビジネスにおいては他社の成功事例を参考にして、自社に取り入れる、ということがよくあります。
この成功事例導入において、非常に多くの共変錯誤が見受けられます。
どういうことでしょうか。

例えば、「急成長しているベンチャー企業ではフラット組織を採用している(意思決定の速度が速いから)」という事例を考えてみます。

とあるベンチャー企業経営者は、急成長している5社を参考とし、自社に有用な施策を取り入れようと考えました。
その5社はいずれもフラット組織を採用していました。
フラット組織は一般的に、意思決定の速度が速いから、急成長を志向するベンチャー企業に向いている、と言われています。
では、この会社でフラット組織を採用したら、本当に急成長できるのでしょうか?

PCR検査の時と同様に、図で考えてみます。

もし仮に、組織形態と成長速度に関係が無かったとしたら、上のような図になるはずです。
でも、この経営者は、たまたまフラット組織を採用して急成長している5社を参考にしてしまったのです。
より正確に言うと、この経営者の場合はフラット組織を採用したくて確証バイアスにとらわれてしまったのです。
そのため、世の中には会社がたくさんあるにも関わらず、フラット組織を採用して急成長している会社の情報を(無意識で)選択して収集してしまった
のです。
もう少し冷静に考えれば、フラット組織のデメリットや、階層組織でも成功している事例に目を向けられたはずですが、完全な共変錯誤を起こしてしまっていたため、確証バイアスから逃げられなかったのです。

なお、組織形態と成長速度には、実際に大して関係が無いです。

こういった共変錯誤は別に組織形態に限らず、様々な場面で起きています。
1on1やOKRの採用であったり、洒落乙なオフィスだったり、他諸々のベンチャー界隈で流行っている様々な施策が大体そうです。
経営者がエゴで、自分がやりたいことをやっている、というパターンを非常に多く見受けられます。

見たくないものにも目を向けよう

共変錯誤から脱する方法はシンプルで、ある選択を考えた場合に、相対する別の選択も検証することです。

上のフラット組織の採用の例ですと図の通りで、フラット組織=階層組織、成長速度高=成長速度低、というような図式で検証するのです。
縦軸横軸をどう置くかは状況によりきりなのですが、1つの軸を成功・失敗軸、もしくはメリット・デメリット軸でおいて、もう1つの軸を検証対象軸として置くのが一般的でしょう。

上述した思考法、確証バイアスに対する防衛機構も有効です。
何か物事を考える時に、自動的に「自分の考えは間違っている可能性がある」という思考回路を作動させ、反証を求めるようにするのです。
つまり、見たくないものにも目を向ける癖を身に着ける、ということですね。

これはもしかしたらネガティブなマインドのように受け止められるかもしれませんが、決してそのようなことはありません。
あくまでも自分の人生や、会社の経営を成功させる、ポジティブなマインドが前提にあって、あえてネガティブな方向で検証を行う、成功確率を高めるプロセスなのです。

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