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誹謗中傷裁判費用集めにクラウドファンディングを使うのはやめたほうがよい

誹謗中傷がにわかに社会の注目を集めています。
そして、その解決手段としての裁判費用集めに、クラウドファンディングを利用するのはどうか、という声が出ています(リーガルファンディング)。
これは、やめた方が良いです。

リーガルファンディングとは

何かしら裁判(訴訟)を起こそうとすると多額の費用がかかります。

  • 裁判所に訴訟を提起するときに必要な印紙代
  • 弁護士費用
  • 移動費など各種実費、その他もろもろ

裁判に必要な費用は、数十万円から数百万円に昇る金額まで、内容や状況により様々なのですが、少なくとも一般人が気軽に負担できる金額ではありません。

そのような中、少しでも負担を軽くしようと、インターネットを通じて不特定多数の方々から支援を募り、プロジェクトに必要な資金を集めるクラウドファンディングの仕組みを活用したリーガルファンディングが登場しました。

このリーガルファンディングを、最近日本社会で注目が集まっている誹謗中傷の解決に活用できないか?という声が出ています。

誹謗中傷の解決手段の一つである裁判は、上述のとおり多額の費用がかかるため(そして時間もかかる)、ためらい、泣き寝入りする事例が多いのが実態です。
この費用負担をリーガルファンディングにより軽くできるなら、社会課題の解決につながるかもしれない、という理由からでた動きです。

しかしながら、誹謗中傷解決のための裁判費用集めに、リーガルファンディングを利用するのは、いくつかのリスクがあるためおすすめができません。

誹謗中傷解決手段としてのリーガルファンディング利用のリスク

具体的なリスク

誹謗中傷解決手段としてのリーガルファンディング利用のリスクとしては、次のようなものがあげられます。

  • 相手への名誉棄損になりやすい
  • 気軽に訴訟を起こせる環境は、訴訟相手にも負担をかける
  • ファンディングに対するリターンがしづらい

相手への名誉毀損になりやすい

一番目のこれが最大のリスクかもしれません。

クラウドファンディングで注目を集め、具体的に支援をえるためには、かなり広い対象にPRする必要があります。
つまり、誰だれから誹謗中傷の被害を受けているため、解決したい、ということを具体的にアピールする形になります。

ここまで書くと、もうわかると思いますが、上記行為自体が相手への誹謗中傷、名誉毀損になりうる、ということです。

名誉毀損は、「事実の提示によって」「公然と」「人の社会的評価を低下させるおそれのある行為をした」ことが該当します。
訴訟(予定)相手が、確かに不当に誹謗中傷を行い、被害を受けていたとしても、名誉毀損の訴訟をやり返されるリスクが存在するわけです。

また、もし訴訟(予定)相手に瑕疵がなく、仮に裁判所が誹謗中傷にあたらないと判断してしまったら、一方的に相手をおとしめたことになります。
つまり、被害者であったと思っていたら、加害者側にまわっていた、ということになりかねないのです。

気軽に訴訟を起こせる環境は、訴訟相手にも負担をかける

アメリカくらいに訴訟が当たり前の社会になったのなら、受け止め方も変わるのかもしれませんが、気軽に訴訟を起こせる環境ということは、自分だけでなく訴訟相手にも負担をかける行為になります。
(訴訟を起こすにもお金がかかるように、訴訟された側も弁護士費用などが当然にかかる。)

訴訟(予定)相手に問題があり、その訴訟が本当に必要なことならば、それは問題にならないのですが、仮に上述の通り、相手に問題がなかった場合にはどうでしょうか。
相手にしてみれば、たまったもんではありません。

ファンディングに対するリターンがしづらい

誹謗中傷案件でのリーガルファンディングで、支援者が期待するものはなんでしょうか?

おそらく、誹謗中傷を行った加害者が、社会的に制裁を受けることに関わる、その様子をつぶさに見れる、こと。
つまり、正義の側に立ち、一方的に鉄槌を下したい、ということと考えられます。

このことに対しての是非は問題ではなく、ようは、リーガルファンディングで支援者が期待することと、そもそもの裁判という手続きの相性が悪い、ということです。

裁判の手続き中(準備期間から実際の裁判中、そしてその後含め)は、情報の開示に制限が出ます。
情報開示自体が裁判上不利になることもあり、気軽にできないのです。

また、裁判の結果として、和解に至る場合や、秘密保持の義務などがあるため、つぶさに情報を開示できるわけでもありません。

つまり、せっかく支援したのに、状況がどうなっているのかがわかり辛いのです。
支援者側にしてみれば、フラストレーションがたまることでしょう。

では、勝訴や和解の結果として、賠償金,和解金をえられたとして、それをリターンしようというのも難しい点が発生します。
クラウドファンディングでは、その仕組み上、現金の還元が難しいという点が指摘できます。
訴訟相手が必ずしもお金を持っておらず、そもそもとして賠償金をえられない、という状況もありえます。

以上のことから、誹謗中傷の解決方法としての裁判費用集めに、クラウドファンディングを利用するのはやめた方が良い、と言えます。
そのため、現状では民間の自助努力が最も望ましいと言えます。


誹謗中傷に関する法的規制の問題点に関しては、こちらの記事も参照ください。

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誹謗中傷に対する法的規制が危ない理由

ここ数日、SNS上での誹謗中傷に関して、様々な報道や議論がされています。
誹謗中傷はよろしいものではない、という点については反論の少ない話だと思いますが、そこから誹謗中傷を規制する必要があるのでは?という意見も出ています。
しかし、誹謗中傷を法的に規制するのは様々な問題があります。
それについて解説していきます。

あまり政治的な話とかは書きたくはないのですが、誹謗中傷を受けて困っている企業、実際にビジネスに影響が出ている企業が存在するのも事実なので、考えをここで書いていきます。

何が誹謗中傷なのかがわかりづらい

誹謗中傷の規制は難しい

いわゆる誹謗中傷、特に匿名による誹謗中傷はアンフェアな卑怯なふるまい、人としてそれはどうなのか?という点に関しては多くの方にとって異論の無い意見だと言えるでしょう。
(嫌ならやめればいいじゃん的なものを含め、様々な意見が存在することもそうだとして。)

一方、誹謗中傷を法的に規制するのは、様々な問題があります。

まず端的に言うと、何が誹謗中傷なのか?という線引きが難しいためです。

どういう表現がOKで、どういう表現はNGなのか?というものを明確にルール化する正解がわからず、規制するのが難しいのです。

加えて、表現の自由にも関わる話です。

この2点。

  1. 線引きが難しい
  2. 表現の自由に関わる

これが、誹謗中傷の規制が難しい理由です。

名誉棄損、侮辱、脅迫

なお、名誉棄損、侮辱、脅迫については一応の基準があります。
そして、日本の法律上も規定されています。

名誉棄損は、人の社会的評価を下げることです。
法的には、公然と、事実を提示し、人の名誉を棄損した場合、となっています。

侮辱も、人の社会的評価を下げることでは一緒ですが、名誉棄損と異なるのが、侮辱の場合は「事実の提示」が無い点です。
つまり、根拠無く言っている場合、ということです。

強迫は、相手に害悪を与えることの告知を行うことです。
その意味で、名誉棄損や侮辱とは異なるものです。

上記の通り、名誉棄損、侮辱、脅迫については、一定のルールが敷かれています。
実際に、民事訴訟や刑事裁判の対象となりうる
のです。

誹謗中傷の規制は民主主義を弱めるリスクがある

では、誹謗中傷はどうか?と言うと、ようは悪口です。

この、名誉棄損、侮辱、脅迫には該当しない悪口をどう評価して、規制のルールを作っていくのか?
どういう悪口が悪くて、どういう悪口が悪くないのか。

ここが非常に難しい部分です。

例えば、純粋に正当な批判であっても、人を悪し様に言っていることには変わりが無いため、誹謗中傷と言えます(もちろん、誹謗中傷と正当な批判は、本来は異なるものなのですが、、、)。
そして、これを言えばわかる通り、誹謗中傷が無くなってしまったら、そもそもとして社会が成立しなくなります。
(極論として、正当な批判・反論でさえNGになりうる。)
この点が、いわゆるヘイトスピーチのような、多くの人が好ましい感情を抱くことのない事象に対しても、規制が難しい理由になります。

そして、もう1点、誹謗中傷に括られる批判を規制していくと、得をする人たちが出てきます。
政治家のような、いわゆる権力者などです。
批判全般は、端的に言って選挙の結果を左右しうるので、政治の世界で生きる方々にとって、この観点でも好ましいものではないでしょう。

このような方々にとって、好ましい形で表現の自由を規制することは、民主主義国家にとっては非常に危険です。
権力のチェック機能が弱まるリスクがあるためです。

それではどうする?

法的な部分の整備

それでは、何も手が出せないか?というとそうではないはずです。

まず、誹謗中傷を受けた際、それに対する対応が非常に煩雑である点が指摘できます。

最初に「加害者」を特定するにあたり、相手の氏名・住所を特定するための開示請求に、時間もお金もかかります。
そして、確実に相手を特定できるとも限りません。
次に、相手が特定できたとしても、追加で裁判が必要で、これにも時間とお金がかかり、確実に勝てるとも限りません。

ここの最初のハードルを調整することはできるはずです。

今の手続きでは、開示手続に裁判所を経由する必要がありますが、これを簡略化するのです。
(もちろん、過度に相手を特定できるような状態が好ましいとも思いませんが。バランスは難しい。)

次にできる点としては、損害賠償の相場を引き上げる、刑事罰を重くするなどでしょうか。
加害者に対する処罰等が重くなり、費用対効果として見合うならば、訴訟と言うアクションをとりやすく、誹謗中傷に対する抑止力となりうる可能性があります。

民間の自助努力

次に、基本的には表現の自由の問題である以上、民間の自助努力として対応する方法です。

AIが発展している背景もあるので、誹謗中傷と判断されうる内容に対して、投稿前に何かしらの警告がでるような仕組みを実装する、という方法は考えられます。
投稿のログを記録すること、内容によっては捜査機関や照会者に情報を開示すること、などの確認が投稿前に出れば、躊躇する人も大勢いるのではないでしょうか。

そしてこれは、SNSプラットフォーム側でできる対応なので、会社としてのポリシーの問題として整理できます。
(Yahoo掲示板のコメントには、適用されることが無いでしょうが、、、、、)

最後に

ちょうど社会的にトレンドになっており、また時代の変化にあわせて関係省庁が動き始めていたタイミングでもありました。

すぐに法的にどうとか、SNSプラットフォーム企業として対応が即座に行われる、という状況になるとは思わず時間がかかるでしょうが、少なくとも時間はかかりつつも状況は良くなっていくのではないでしょうか。

また、声をあげるのも重要です。
微力でも、一人一人がこうして欲しい、こうあるべきだ、という声をあげることで、少しずつ社会が変化していきます。
今の世の中は、誰しもが発信を行える時代です。
この環境を、世の中を良くしていくためのことに使っていきたいと考える次第です。

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