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大戸屋VSコロワイド、第1回戦は大戸屋の勝利の模様(TOB期間延長へ)

昨日8月25日、コロワイドよりTOBの期間延長と下限引き下げのリリースがありました。
大戸屋VSコロワイドの敵対的TOBは、第1回戦は大戸屋の勝利の模様です。
とは言え、期間延長ですので大戸屋側にとって厳しい状況であるのは変わりません。
状況を見ていきましょう。

こちらも参考にしてください。

TOB期間が延長を条件変更 ⇒ 9月8日に&下限引き下げ

コロワイド側のリリースはリンク先の通りです。

目的として「当初の買付予定数の下限に達しないことが明らかになったことから、本公開買付けの成立可能性を高めることを目的として、買付予定数の下限を上記のとおり引き下げることといたしました。」と明確な記載がありましたので、結論、当初条件では失敗し、延長と下限引き下げを行う必要があった、という事ですね。

内容としては、大きく下記の2点の変更です。

TOB期間の終了日 2020年8月25日(火) ⇒ 2020年9月8日(火)(10営業日の延長)

買付予定数の下限 1,872,392株(元々ホールドしてい19%とあわせて45%) ⇒ 1,510,138株(同40%)

その他、諸々テキストを追加し、次のようなことを主張しています。

  • IFRS(コロワイド採用会計基準)だと、過半数に満たなくても実質的に支配していれば連結子会社にできる
  • 大戸屋の業績が非常に悪いから、早急に関与して業績回復を優先させないといけない
  • 大戸屋の議決権行使割合が低いから、40%の確保でも、取締役の入れ替えができる
  • オイシックスと提携するとのことだが、効果が全く示されていない

書いてあることは、現実としてそうだよね、という内容なのですが、状況を踏まえると書き方、もう少しどうかならんかったのかなー、と思います。
この点は後述しますね。

敵対的TOBは成功確率が低い

私はドラマが苦手なので半沢直樹は視聴していないのですが、どうやら敵対的TOBとかが話題にされているようですね。
そのため、ストーリーは全く知らないので、もしかしたら頓珍漢な取扱い方かもですが。

敵対的TOBと聞いて、どのようなイメージを抱きますか?

おそらく日本人の多くの方は、ネガティブなイメージを抱くのではないでしょうか。

そして、人間という生き物は(経済学的に)非合理的な生き物ですので、(経済学的に)ロジカルに自分達が儲かるか?という観点では無く、何か気に入らなければ感情で(経済学的に)非合理的な判断を下しがちです。
(別に、これを悪いとは言っていないですよ。)

では、この話を続ける前に、こちらの資料を。

M&A Online「M&A市場を席捲する敵対的TOB 高まる成功率」より

これは敵対的TOBの成否の一覧です。
実に、成功率は50%未満です。

敵対的TOBは仕掛けられた側が抵抗するから、という点もあるのですが、上述した人間の非合理性も影響します。

ようは、機関投資家はロジカルに意思決定をしますが、個人投資家は感情での意思決定要素が非常に大きくなるのです。
(何度も言いますが、別にこれを悪いとか、そのような話はしていないですよ。そういうものだ、という事です。)

過去にも記事にしましたが、今回のコロワイド側のTOBの仕掛け方は、正直な感想、礼節に欠けるものです。
コロワイド側に対して、快く思っていない個人投資家は多いでしょう。

では、どれくらいの個人投資家がいるのか?というとこちらの資料をご覧ください。
大戸屋の2020年3月期有価証券報告書からの抜粋です。

株式会社大戸屋ホールディングス_2020年3月期有価証券報告書より

そうです。
個人投資家の割合が64.58%もいらっしゃいます。
一般の方に愛されている会社という事ですね。

法人投資家、外国人投資家は、かなりの割合がTOBに応じるはずなので、今回の8月25日期限TOBにおいて、個人投資家がほとんど応じなかった、と推測されます。
全くと言って良いほど、コロワイド側は支持されていないのです。

こちらの大戸屋株価推移もご覧ください。

Googleより 大戸屋ホールディングスの株価推移

19年程前に3,000円を一瞬超える時期があったにせよ、そこから19年間に渡り、今回のTOB価格(3,081円)に到達した時期が全くありません。
このような状況を冷静に考えれば、大戸屋株式で利益を得る最大のチャンスが今回のTOBなのですが、それに大戸屋株主が賛同していないのです。

今後どうなるか?

ここで、改めてコロワイド側のリリースを読んでみて下さい(リンク先はコロワイドのリリースPDFです)。

リリース①

リリース②

上で、もう少し書き方どうにかならんもんか、と書きましたが、コロワイド側は大戸屋株主から前提として支持されていない、ということを、もう少し真摯に捉えた方が良いように思います。
大戸屋の株主の約65%が個人投資家がであり、そして一般論として個人投資家の多くが高齢者であることは既知の事実です。

もし、コロワイド側が正しく歓迎される形で今回のTOBを成立させたいのであれば、個人投資家達の心を軟化させ、賛同をいただけるようなメッセージを発信した方が良いでしょう。
第1回戦は大戸屋側に軍配が上がったものの、依然としてコロワイド側が極めて有利な状況であることには変わり有りません。
どうせなら、貫禄のある成立をして欲しいものです。

一方、大戸屋側ですが、個人投資家の方々の心に訴えるような作戦は、とりあえず奏功したわけですが、感情に訴える作戦だけでは正直、買収防衛策としては弱いと言わざるを得ません。
今回の、期間延長と下限引き下げで、いよいよ本格的に、敵対的TOBが成立する方向で進んでいくでしょう(再延長ができることも、当然に指摘できます)。

短い時間ですが確保できたのですから、とれる選択肢はほとんど無いにせよ、追加の対策が必要です。

このまま行けば、TOBが成立する、という流れのままなのは変わりがありません。


引き続き、状況を見ていきたいと思います。

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大戸屋によるTOB対抗策、空振りか?

大戸屋がオイシックスとの業務提携報道が13日(木)に出て、公表が14日(金)にありました。
「ホワイトナイトの登場か!?」と思いましたが、どうやら違うようです。
TOB対抗策、と言うには何ともな内容なのですが、空振りなようです。

いくつかパラパラとツイートをしたので、それをまとめる形で整理します。

あわせて、こちらの記事もご参照ください。

大戸屋-オイシックスの業務提携報道

2020年13日(木)、各種報道機関より、大戸屋とオイシックスが業務提携をするとの報道が流れました。

内容としてはツイの通りで、3点。

まず、提携内容をざっくり。
大戸屋の商品(監修商品や大戸屋ノウハウによるメニュー)を、オイシックスの通販インフラにより販売していこう、というものです。
具体は不明ですが、弁当や総菜といった「ミールキット」を、サブスクリプション型サービスで展開していくことをイメージしている模様です。

そして、この業務提携は”報道媒体によると”TOBが成立しなかった場合に、行われるという内容になっている模様です。

つまり、「これこれこういう事やるから、わざわざコロワイドの提案を受け入れなくても株価はあがるよー。だから皆さん、コロワイドによるTOB、この話に乗らないでねー。」と言っているわけです。

「ホワイトナイト登場か!?」と思ったが、別に資本が入るような話しぶりでは無いようです。

TOBの成立ライン

さて、コロワイドによるTOBが成立するラインですが、それは下記ツイの通り、3,081円です。

元の適時開示資料(コロワイド)は、こちらですので、あわせて読んでみて下さい。
重要な所をピックアップすると下記の感じ。
上場廃止する予定は無いよー、7月10から8月25日までの間ね、お値段3,081円よ、1,872,392株届かなかったら不成立だよ、と言っています。

5)上場廃止となる見込み及びその事由
対象者株式は、本日現在、JASDAQに上場しています。本公開買付けは、対象者株式の上場廃止を企図したものではなく、本公開買付け後も引き続き対象者株式の上場を維持する方針であることから、(略)。したがって、本公開買付け成立後も、対象者株式は、引き続きJASDAQにおける上場が維持される予定です

②届出当初の買付け等の期間
2020年7月10日(金曜日)から2020年8月25日(火曜日)まで(30営業日)

(3)買付け等の価格
普通株式1株につき、3,081円

(5)買付予定の株券等の数
買付予定数 2,330,000(株)
買付予定数の下限 1,872,392(株)
買付予定数の上限 2,330,000(株)

では、報道をうけての株価の反応(8月14日午前9時44分株価)です。

この通り、入り口としては伸びているわけですね。

最終的に、大戸屋が正式にリリースする資料をもって、株式市場がどのように評価するか?で今後の流れが変わってきます。

仮に株価が3,081円を超えたのならば、コロワイドにとっては追加のアクションが必要になる可能性が高いです。

これまで、対大戸屋攻勢は非常に大人しいものでした。

これは、コロワイドが積極攻勢をガンガン行っていたら、大戸屋側も対応行うわけですが、この対応にあたるコンサル(アドバイザー)への報酬(アドバイザリー・フィー)が莫大になります。
決して体力的に十分でない大戸屋がコンサル料でより疲弊しては、これから子会社にしようとしているコロワイド的には面白く無いわけです。

さて、正式なリリース、蓋をあけてみると、、、?

8月14日(金)12時30分、大戸屋より適時開示がありました。

内容としては概ね報道の通りですが、重要な点に触れられていませんでした。

そう、「TOBの不成立を前提にした業務提携」という部分が一切無いのですね。

これを受けてなのかどうかはわからないですが、株価も下がっており、14日は2,850円での着地となりました。

Google検索より、大戸屋ホールディングスの2020年8月14日(金)株価

大戸屋は、これで万策尽きた形でしょうか?
それとも実は、リリースしていない何か事実があるのでしょうか?

このまま行けば、TOBは成立します。

提携内容に対する所感

なお、提携内容、評価はわかれるでしょうが、正直私は微妙感を持っています。

フードビジネスは、本当に参入障壁が低いビジネスです。

やろうとしているお弁当や総菜といったミールキットですが、イメージするまでもなく、世に商品が溢れています。
差別化も本当に難しいです。
大戸屋ブランドで攻めて、どれだけ消費者に受け入れられるのか不明です。
(もちろん、ポジティブ・イメージが強い事は同意。)

さらに、これをサブスクリプション型モデルでやろう、というわけですが、サブスク・ビジネスが割高だ、というのは多くの消費者が実感しつつあります。
大戸屋ブランド、値段も高い、となった場合に、消費者の期待値は当然に高まるわけで、ここを安易に攻めるのはブランド毀損リスクもあるわけです。

さらにもう一つ加えて、新規ビジネスが主力として育つまでの時間軸や確度の問題があります。
大戸屋は現時点で200億円の時価総額があり、売上高も約250億円の規模です。
この規模感にインパクトを与えるだけのビジネスに育つのに、どこまでの時間がかかるのか?そして、それはどの程度の成功確度があるのか?

冷静に考えれば、懸念だらけだ、ということは明確なわけです。
株式市場の反応が、数字(株価)に表れている通りです。


引き続き、状況を見ていきたいと思います。

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大戸屋VSコロワイドについて思う事と教訓

大戸屋VSコロワイドが話題になっています。
当事者達には大変失礼だとは思いつつ、中々のドタバタ劇であると感じています。
本件については、かなり多くの思う事と教訓があるので、感想を書いていきます。

これまでの経緯概略

入り口のきっかけは、大戸屋創業者である三森久美氏が2015年7月にお亡くなりになられたことに発します。

ここで創業者が持っていた株式約19%は、ご家族(夫人と子息)に相続されます。

これが大きな悲劇のはじまりです。

ご家族、特にご子息にとっては次のような考えがありました(想像)。

  • すぐに自分に社長の席が譲られると思っていた(当時26歳)
  • 莫大な株式を相続するにあたり必要な税金分の現金を大戸屋が「功労金」としてすぐに満額支払ってくれると思っていた
  • 現経営陣が父の理念を引き継ぎ、取り組んでいたことを継続してくれると思っていた

しかし、現経営陣は一定現実的な考えを持っていました(想像)。

  • 若い大事な後継者だから長く大切に育てよう(社長の席も早くて10年後)
  • 「功労金」を払いたいが、外部、特に株主が納得するだけの説明が必要
  • 創業者が牽引してきた赤字事業を切り離さないとメインバンクも納得しない

こういった思惑の不一致があり、創業家と現経営陣で確執が起きます。
結局2016年、ご子息は取締役を辞任し、大戸屋を去ります。

第三者委員会の調査報告書は、大変失礼ながら、かなりの読み物です。面白いですよ。後、経営側がこれだけのことをすることはまずないのだから、かなり配慮されていますよ。)

創業家は、相続した株式分の税金を支払わなければいけないため(充当した借金の返済が必要)、
2019年10月、持っていた株式の約19%をコロワイドに売却します。

その後、コロワイドは大戸屋に対して、創業者ご子息を取締役候補に含めた株主提案を行い、この場は否決(2020年6月)。

2020年7月に、今話題になっているTOBという流れになっています。
TOBが成功すれば、コロワイドは大戸屋を50%超保有することになるので、子会社として親子上場という関係下で支配に置く形になります。

ここら辺の経緯は、色んな方や記事がまとめているので、読んでみて下さい↓


創業家の言い分

https://business.nikkei.com/atcl/interview/15/269473/062300085/?P=1

大戸屋側の言い分(第三者委員会の調査報告書)(必見級)

http://110.232.195.129/news/wp-content/uploads/2016/10/c029f081ce9ac494e99a60355a9fa535.pdf

創業家による大戸屋株式のコロワイドへの売却

https://www.j-cast.com/2019/10/14369883.html?p=all

創業家がコロワイドに株式を渡した理由は「相続税」

https://www.data-max.co.jp/article/31980

株主提案時のコロワイドの行動と蔵人会長の暴言

https://www.data-max.co.jp/article/36617

TOBまでの経緯概略

https://newspicks.com/news/4942706/body/

大戸屋VSコロワイドのテクニカルな解説

https://ib-consulting.jp/newspaper/?search=%E5%A4%A7%E6%88%B8%E5%B1%8B

ようやく本題の思う事と教訓

オーナー創業者

まず、事業承継問題はしっかりしましょう、ということですね。

株式がコロワイドに渡ったのは、結局の所、相続上の問題が原因です(多分)。

きちんと、事業承継のスキームを構築しており、何かあってもスムーズに相続できるようにしていれば、このようなことにはならなかったはずです。

加えて、相続上の問題だけでなく、経営の引継もです。

ご子息は「自分が正当な後継者」だと、まあ当然に考えますよね。株式も持っているわけですし。
(幼い傲慢な発想ですし、ガバナンス上、それが如何にナンセンスか、は置いておいて。)

ご子息には「きちんと諸先輩の下について、修行しろ。最低でも10年、実績と実力を積め。」と言い聞かせておくべきでした。
現経営陣にも「色々大変だろうが、残された者たちの感情のケアには注意しろ。」と冷静に伝えておくべきでした。

これらは、べつに「べき論」を語っているのではなく、あちらこちらで聞く「あるある話」です。
巻き込まれたらたまったもんじゃないはずなので、ここは一番グリップし、推進できる立場の人間が、きちんと対処しておく問題でしょう。

二世御曹司

ご子息に関しては、もうちょっと身のふるまいを意識した方が良かったと感じています。

若くても優秀な方は大勢いらっしゃいますが、じゃあ26歳とかの年齢で、数百億円規模の会社を背負えるのか?と言われたら、周囲の人たちは不安に思って当然でしょう。

ゼロベースから修行し、丁寧にそして確実に成果をだしていく、実力をつけていく。
そして、二世シンパ(支持者という意味)を作っていく。

これができれば、現経営陣も、元々、ご子息に経営を引き継がせる心持ちだったのだから、いずれは願いが叶ったはずです。
株式だって持っているのですから。

ようは、親の威光をかさに着て何かが叶うと思ってはいけない、ということですね。

残された現経営陣(被買収側)

残された経営陣も、もうちょっとプロフェッショナルに経営して欲しいな、と感じます。

まず業績面。

創業者がお亡くなりになってからの内紛の影響もあるのでしょうが、この業績はいかがなものかと(ピーク時の15%の利益)。

最新直近の決算は、コロナ影響もあるとは言え、赤字です。

山本社長(現在は取締役)のガイアの夜明けの件もかなり酷いものでした。

これだけじゃないのですが、もっと、お客様と従業員のことに目を向けた方が良いかと思います。

更に、これだけ外部に株式をグリップされて、株主提案までされたら、普通は次にTOBが来るって思うでしょ?
なんで、早々に買収防衛策を打たないのですか。

もう、この状況だとホワイトナイト以外、手が無いですよ?
(それも、あまり現実的では無いですが。もしかしたら既に準備しているのかもしれませんが。)

資本主義社会で戦っていくには、ちょっと、M&Aの世界において初心すぎるな、と感じます。

買収側

コロワイドもコロワイドです。

株式を誰かから取得するのも、TOBも、別に合法な手段であり、誰かに非難されるいわれはありません。
しかしですよ、ここで礼節を失ってはいけないでしょう。

こちらで記載のある蔵人会長の明らかな従業員軽視の暴言や、こちら(週刊ダイヤモンド2020.7/18)にあるような野尻社長のあからさまな脅迫ともとれるコメントを出されたら、相手のシャッターも当然におります。

別にM&Aを戦略軸に据えるのは問題が無いのですから、もうちょっと相手様に敬意を払えないもんですかね?

さらに業績です。

「お家騒動で混乱している会社を乗っ取って、自分たちの会社の業績をキレイにしよう。」

という発想が見え見えであり、数字が読める人たちにしてみれば、反感を持たれても仕方が無いです。
IFRSであり、のれん代がPLヒットしない、という魂胆も見透けており、微妙感に拍車がかかります。

進め方がよければ「流石、コロワイド!M&A巧者!」となったはずです。

これまでの進め方だと、もうちょっと既にある事業をしっかり立て直しなよ、と感じてしまいます。


以上、大戸屋VSコロワイドについて思う事について、教訓について書いていきました。

私は、基本的には資本主義の信奉者であり、グローバルな世界で一般的に使われている手法については当然に有りだと思っている立場です。

しかし、ビジネスという物は、人々が幸せになるために行われる物だとも考えています。

今回の大戸屋VSコロワイドの件では、TOBに乗っかる大戸屋株主は儲かってハッピーでしょう。
しかし、それ以外の方々にとっては、誰にも幸せにならない一件のように思えます。
あくまでも私の価値観の世界の話なのですが、見ていて首をかしげてしまいます。

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