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大戸屋臨時株主総会_経営陣刷新が決議されました

TOBが成立していた大戸屋VSコロワイド。
11月4日に臨時株主総会があり、現経営陣の解約と新経営陣の選任が決議されました。
株主構成だけでなく経営陣も、これで入れ替わった形になります。

成立時の記事はこちらになります。

報道内容

まあ、既定路線ではありましたが、場がひっくり返る、という奇跡は起きなかったようです。

臨時報告書はまだ開示されないでしょうから、どれだけの比率だったのかは不明ですが、報道からは賛否、意見がわかれている様子ですね。

改革は必要だよね、という一方で、納得がいかない、という形です。

牛角などを運営する外食大手コロワイドによる定食チェーンの大戸屋ホールディングスへのTOB=株式の公開買い付けが成立したことを受けた大戸屋の臨時の株主総会が開かれ、コロワイド側が提案していた経営陣の刷新を求める議案が可決されました。

(中略)

「今の経営陣では結果を出せていないことが明らかで、コロワイドがいいかどうかはまだ分からないが、改革は必要だと思った。守るものは守りつついい方向に変わってほしい」

(中略)

「大戸屋の定食が好きでよく食べていたけれど、今後は行かなくなると思う。お金を積んで株を買い上げたものの、十分な説明もなく納得できない」

NHK「大戸屋 臨時株主総会 経営陣の刷新求める議案が可決」より

経営陣は諦めていた模様

招集通知を見ると、経営陣は既に諦めていた様子が伺えます。

当社取締役会の意見

当社は、2020年6月25日開催の定時株主総会に係る株式会社コロワイド(以下「コロワイド」といいます。)の株主提案及びコロワイドにより2020年7月10日に開始された当社の株式に対する公開買付け(以下「本公開買付け」といいます。)について、コロワイドによる当社の連結子会社化は当社の企業価値を毀損し、株主共同の利益を害するおそれが高く、当社の現経営陣が中期経営計画を着実に実行することが最良の判断であることを主な理由として、反対の意見表明を行っておりました。もっとも、2020年9月9日付プレスリリース「株式会社コロワイドによる当社株券に対する公開買付けの結果及びその他の関係会社の異動に関するお知らせ」においてお知らせいたしましたとおり、一定数の株主が本公開買付けに応募し、本公開買付けが成立したことを踏まえ、当社取締役会において、本臨時株主総会に係る株主提案(第1号議案及び第2号議案)に賛成するか否かについては当社の株主の皆様のご判断に委ねることを決議いたしました。

株式会社大戸屋ホールディングス 臨時株主総会招集ご通知より

最後の抵抗は行わなかったようです。

おそらく現経営陣は退任と共に、社内役員については同時に会社を去る事にもなるでしょう。
真偽定かではありませんが、「社風の違いは明白で、大戸屋では社員の退職が相次ぎ、社内の空気は思いという。」という話もあります。

名実ともに、大戸屋はコロワイドの傘下となったわけですが、果たしてPMIはどこまで順調に行くでしょうか?

(現経営陣、自分達で”真”大戸屋を作るのとか、良いんじゃないでしょうかね?)

コロワイドの勝因は?

結論から言って、今回のコロワイドの勝因は「勝つまで戦う」というスタンスにあります。

こちらの記事でも触れているのですがコロワイドは期間の延長と共に、下限を引き下げるという徹底ぶりでした。

一方、大戸屋側の経営陣は株主に対する、あまり根拠の無い信頼があったのか、具体的な買収防衛策を終始一貫してとっていませんでした。

やれる事があったはずなのに、事実上、ノーガード戦法です。
(もっと言うと、創業家と揉めた段階で対処が必要だった。)

今回の結果は明白だったと言えるでしょう。


今回の大戸屋VSコロワイドからいくつかの教訓があります。

  1. 買収防衛策ってやっぱり大事だよね
  2. 創業家との付き合い方は慎重に(というかコミュニケーションはしっかり)
  3. 言い方って大事(コロワイドの創業者・経営陣ね)

2.と3.に関しては、こちらの記事も参照ください。

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コロワイドによる大戸屋へのTOB、成立との事

2020年9月8日、各誌よりコロワイドによる大戸屋TOBが成立したとの報が出ました。
併せて、コロワイドからもリリースが出て、47%程の着地で成立する事が確実となりました。
とりあえず、現時点でのまとめです。

(注)本日の中で一定の動きがあったので、一番下の方で追記をしています。

当ブログでの過去記事

とりあえず、過去記事です。
経緯等を把握したい方は、下記もご参照ください。

コロワイドのTOB成立リリース

各誌より、コロワイドによる、大戸屋TOBが成立したとの報道が流れ、併せて㈱コロワイドより、次のようにリリースが出ていました。

第2ラウンドにて、とりあえずの決着、という形になりました。
ほぼほぼ既定路線ではありましたが。

状況の解説

筆者のツイートをベースに、状況の解説をしていきます。

結果47%で着地

大戸屋ですが、個人投資家からの支持が非常に強い会社で、既報の通り下限45%では成立がしませんでした。

この点については多くの外部投資家も一定読んでいたようで、様子見スタンスをとっていました。

仮に手を出して、結論として不成立で着地してしまったら、手元に残る株式の処分に困るわけです(TOBで上がっている株価が、不成立だとまた下がるリスクも大きいですし)。

これが下限40%に条件変更があった事で、成立の可能性が一気に高まったので、利ザヤを取るだけのリスクが大きく下がりました。
結果、トータル47%程での着地となったわけです。
躊躇していたのが問題無いと見込まれたのですね。

なお、投資家の躊躇は上限に関しても存在していました。

仮に上限を超えて成立した場合に、抽選に外れたら、処分に困る株式がこれもまた手元に残るからです。

まぁ、株価を見ていると、下限40%に下げても不成立の可能性がありそうだ、という着地にはなっています。

どれだけ投資家から、大戸屋株主による大戸屋への支持が厚いか、逆にコロワイドに対する支持が弱いか、と受け止められていたのかが読み取れます。

上場廃止とスクイーズアウトは無い

さて、本件は入り口から上場廃止を目的としていなかったので、上場廃止は無く、スクイーズアウト(少数株主の排除)は無いです。

持株比率が47%でも、議決権行使比率を考えると実質過半数であり、支配力を得ているから、無理して100%子会社化する必要が無いのですね。

このまま行けば、経営陣の刷新、経営方針の転換は必至でしょう。

今後の重要事項~PMI~

さて、今後のイベントはPMIです。

PMIとは、買収後の経営統合プロセスの事です。
ポスト・マージャー・インテグレーションの略で、経営面、業務面、意識面において、統合を図ります。

株式を買い、おたくを子会社化しました、これで決着、後は我々の指示に従ってください。
とは当然ですがなりません。
(これをすると、ただの株式投資になってしまいますね。)

買収する側の会社が、買収した会社に入り込んで、様々な面で影響力を発揮しなければいけないのです。
(これにより、買収した会社の価値をあげるなり、買収する側の会社とシナジーを出して、トータルとして投資に対してリターンを得る必要があるからです。)

ただ、このPMIが難航しそうです。

従業員側の反発は結構強かったという報道をチラホラ散見します。

会見で三上氏は「コロワイドは大戸屋の経営理念を軽んじ、あるいは否定している。(コロワイド傘下になれば)店内調理を守れないのではないかという不安がある」と主張。コロワイド傘下となった場合には退社する意向を示している社員がいると明かし「私もコロワイド傘下となれば退社する意思だ。店内調理や『おいしい料理を提供する』という経営理念が薄まるのなら(大戸屋で)仕事をする意味はない」と話した。

日経ビジネス「大戸屋社員がTOBに反対表明「コロワイド傘下なら辞める」」より

入り口として反発の強い方々とどのようにコミュニケーションをとっていくのか。

上でのツイートにもある通り、飲食店の成否は従業員の存在が強く影響します。

これまでの大戸屋に対する強圧的態度を続けていては、PMIが難航する事は確実でしょう。

大戸屋側はどう動くのか?

経営の独立性を主張する大戸屋は提携先への第三者割当増資などを検討しており、両社の対立は長期化しそうだ。
(中略)
これに対し、大戸屋側はコロワイドによる臨時株主総会の招集請求に備える一方、新たな外部資本を模索。8月には食材宅配オイシックス・ラ・大地と業務提携しており、買収阻止に向け対抗措置の検討を続ける。

時事ドットコムニュース「コロワイド、敵対的TOB成立 大戸屋と対立長期化も」より

さて、大戸屋側の動きですが、今後、どのように出るでしょうか?

報道では、臨時株主総会の招集請求に備えるのと、第三者割当を模索、とあります。

招集請求は当然そうですね。
ここで経営陣の刷新が行われるのですから。

対抗策として第三者割当増資があるそうですが、果たしてどうなるでしょうか。
有利発行でなければ、公開会社の場合、取締役会決議で第三者割当増資を行えますが、果たして逆転の一手を打てるでしょうか。

(追記)9月9日中の動き

さて、9月9日中の動きですが、次のように、コロワイドからリリースが出ていました。
コロワイドから大戸屋に対する、臨時株主総会の開催請求ですね(上で言及した通りです)。

コロワイドからは、現在の大戸屋の取締役11名の解任と、コロワイド側が推薦する7名の取締役の選任を目的事項とした、臨時株主総会の開催を請求しています。

これに関しては、大戸屋側からもリリースが出ています(当然ですが、内容に相違はありません)。

一方、コロワイドは次のようにも記載しています。

同上

ようは、会社側(大戸屋側)が協力姿勢を示すなら、少なくとも目の前において、一部の取締役の留任は飲み込んでも良いよ、と言っているわけです。

このコロワイド側の柔軟姿勢には、いきなり現取締役を解任したらPMIがリアルに難航する、大戸屋株主のコロワイドに対する感情の氷解意図などが考えられます。

さて、これから大戸屋側をどのように出るでしょうか?


引き続き、状況を見ていきたいと思います。

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大戸屋VSコロワイド、第1回戦は大戸屋の勝利の模様(TOB期間延長へ)

昨日8月25日、コロワイドよりTOBの期間延長と下限引き下げのリリースがありました。
大戸屋VSコロワイドの敵対的TOBは、第1回戦は大戸屋の勝利の模様です。
とは言え、期間延長ですので大戸屋側にとって厳しい状況であるのは変わりません。
状況を見ていきましょう。

こちらも参考にしてください。

TOB期間が延長を条件変更 ⇒ 9月8日に&下限引き下げ

コロワイド側のリリースはリンク先の通りです。

目的として「当初の買付予定数の下限に達しないことが明らかになったことから、本公開買付けの成立可能性を高めることを目的として、買付予定数の下限を上記のとおり引き下げることといたしました。」と明確な記載がありましたので、結論、当初条件では失敗し、延長と下限引き下げを行う必要があった、という事ですね。

内容としては、大きく下記の2点の変更です。

TOB期間の終了日 2020年8月25日(火) ⇒ 2020年9月8日(火)(10営業日の延長)

買付予定数の下限 1,872,392株(元々ホールドしてい19%とあわせて45%) ⇒ 1,510,138株(同40%)

その他、諸々テキストを追加し、次のようなことを主張しています。

  • IFRS(コロワイド採用会計基準)だと、過半数に満たなくても実質的に支配していれば連結子会社にできる
  • 大戸屋の業績が非常に悪いから、早急に関与して業績回復を優先させないといけない
  • 大戸屋の議決権行使割合が低いから、40%の確保でも、取締役の入れ替えができる
  • オイシックスと提携するとのことだが、効果が全く示されていない

書いてあることは、現実としてそうだよね、という内容なのですが、状況を踏まえると書き方、もう少しどうかならんかったのかなー、と思います。
この点は後述しますね。

敵対的TOBは成功確率が低い

私はドラマが苦手なので半沢直樹は視聴していないのですが、どうやら敵対的TOBとかが話題にされているようですね。
そのため、ストーリーは全く知らないので、もしかしたら頓珍漢な取扱い方かもですが。

敵対的TOBと聞いて、どのようなイメージを抱きますか?

おそらく日本人の多くの方は、ネガティブなイメージを抱くのではないでしょうか。

そして、人間という生き物は(経済学的に)非合理的な生き物ですので、(経済学的に)ロジカルに自分達が儲かるか?という観点では無く、何か気に入らなければ感情で(経済学的に)非合理的な判断を下しがちです。
(別に、これを悪いとは言っていないですよ。)

では、この話を続ける前に、こちらの資料を。

M&A Online「M&A市場を席捲する敵対的TOB 高まる成功率」より

これは敵対的TOBの成否の一覧です。
実に、成功率は50%未満です。

敵対的TOBは仕掛けられた側が抵抗するから、という点もあるのですが、上述した人間の非合理性も影響します。

ようは、機関投資家はロジカルに意思決定をしますが、個人投資家は感情での意思決定要素が非常に大きくなるのです。
(何度も言いますが、別にこれを悪いとか、そのような話はしていないですよ。そういうものだ、という事です。)

過去にも記事にしましたが、今回のコロワイド側のTOBの仕掛け方は、正直な感想、礼節に欠けるものです。
コロワイド側に対して、快く思っていない個人投資家は多いでしょう。

では、どれくらいの個人投資家がいるのか?というとこちらの資料をご覧ください。
大戸屋の2020年3月期有価証券報告書からの抜粋です。

株式会社大戸屋ホールディングス_2020年3月期有価証券報告書より

そうです。
個人投資家の割合が64.58%もいらっしゃいます。
一般の方に愛されている会社という事ですね。

法人投資家、外国人投資家は、かなりの割合がTOBに応じるはずなので、今回の8月25日期限TOBにおいて、個人投資家がほとんど応じなかった、と推測されます。
全くと言って良いほど、コロワイド側は支持されていないのです。

こちらの大戸屋株価推移もご覧ください。

Googleより 大戸屋ホールディングスの株価推移

19年程前に3,000円を一瞬超える時期があったにせよ、そこから19年間に渡り、今回のTOB価格(3,081円)に到達した時期が全くありません。
このような状況を冷静に考えれば、大戸屋株式で利益を得る最大のチャンスが今回のTOBなのですが、それに大戸屋株主が賛同していないのです。

今後どうなるか?

ここで、改めてコロワイド側のリリースを読んでみて下さい(リンク先はコロワイドのリリースPDFです)。

リリース①

リリース②

上で、もう少し書き方どうにかならんもんか、と書きましたが、コロワイド側は大戸屋株主から前提として支持されていない、ということを、もう少し真摯に捉えた方が良いように思います。
大戸屋の株主の約65%が個人投資家がであり、そして一般論として個人投資家の多くが高齢者であることは既知の事実です。

もし、コロワイド側が正しく歓迎される形で今回のTOBを成立させたいのであれば、個人投資家達の心を軟化させ、賛同をいただけるようなメッセージを発信した方が良いでしょう。
第1回戦は大戸屋側に軍配が上がったものの、依然としてコロワイド側が極めて有利な状況であることには変わり有りません。
どうせなら、貫禄のある成立をして欲しいものです。

一方、大戸屋側ですが、個人投資家の方々の心に訴えるような作戦は、とりあえず奏功したわけですが、感情に訴える作戦だけでは正直、買収防衛策としては弱いと言わざるを得ません。
今回の、期間延長と下限引き下げで、いよいよ本格的に、敵対的TOBが成立する方向で進んでいくでしょう(再延長ができることも、当然に指摘できます)。

短い時間ですが確保できたのですから、とれる選択肢はほとんど無いにせよ、追加の対策が必要です。

このまま行けば、TOBが成立する、という流れのままなのは変わりがありません。


引き続き、状況を見ていきたいと思います。

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ニチイ学館によるMBOの解説

5月からニチイ学館によるMBOの話題がチラホラ飛び交う状況が続いていました。
そして、8月18日にMBOの完了が公表され、ニチイ学館は上場廃止になることが決定しました。
今回は、㈱ニチイ学館によるMBOについて解説していきます。

構造自体はシンプルなのですが、まあまあ大きな話となってしまっています。

なお、当方も全ての資料を収集しきり、また完全な理解をもって記載したものではありませんので(当然の話)、内容に認識の誤りや、数字の相違があるかもしれないことはご留意ください。
また、基本的に、当事者たちを批判したい話でも無いこともご留意ください。

スキーム概要

全体のスキーム概要は下記の通りです。

  • ベインキャピタルにより買付会社設立(株式会社BCJ-44):資本金270億円
  • LBOスキームによりメガバンク3行と野村キャピタルから986億円(上限)を調達
  • TOB実施(TOBに応じた対価で創業家は相続税を支払う)
  • TOB取得株、創業家資産管理会社株、新株予約権を株式併合
  • スクイーズアウト実施、㈱ニチイ学館を㈱BCJ-44が100%子会社化(今回のMBO一連が完了)
  • ⇒ 再度の上場を目指す

大枠としては、ファンドも創業家も資金を出す銀行も、そして株価が低い時期に買った多くの株主も、公平性観点で偏りはあるにせよ、大多数の登場人物が利益を得られる物となっています(そのはず)。
(悲哀を見るのは従業員と、株価が相当高かった時期からの株主でしょうか。。。)

前提条件の解説

いくつか、前提条件を提示し、簡単に解説をしていきます。

まず入り口の大前提ですが、事の発端は創業者である寺田明彦氏が2019年9月28日に死去(83歳)されたことに発します。
ようは、莫大な財産の相続対策、ということですね。

MBOの条件概要

公開買付者:株式会社BCJ-44(ベインキャピタル系列)

買い付け期間:2020年5月11日~2020年6月22日

⇒ 幾度かの条件変更を経て、最終的に2020年8月17日までに延長される

買い付け価格:1株1,500円

⇒ 最終的に1,670円に変更される

買付予定数の下限:27,586,100株(ここを下回るとMBOは実行されず成立しない)

⇒ 約67.2%の確保をMBOによる目標と設定している

(参考)※新株予約権を含めると煩雑になるのと本筋でないので省略
発行済株式数 73,017,952株
自己株式数 7,682,005株
差引 65,335,947株

買付予定数の下限 27,586,100株
買付対象外の創業家資産管理会社「㈱明和」の所有株数 16,303,849株

(27,586,100株 + 16,303,849株) ÷ 65,335,947株 = 約67.2%

この通り、MBOにより67.2%を確保することを目標としている

大株主の状況

2020年3月期有価証券報告書より

㈱明和は創業家の資産管理会社です(24.95%)。
寺田姓は創業家です(大株主の状況内にあるもので16.86%:他にもあるかもしれない)。

下の方に、「EffissimoCapitalManagementPte.Ltd.」(以下、エフィッシモ)(11.40%)とあります。
これは、大株主の状況内には記載されていないものの、「大量保有報告書」というオフィシャルな公開書類により判明されている株主の情報になります。
創業家資産管理会社に次ぐ、大株主に該当することになります。

今回のMBOは、下記の構成により進行する形となります。

  • 買い手グループ 42%超
  • エフィッシモ 11%超(最終的に、個別の優遇条件で取り込まれた)
  • その他(個人投資家含む) 47%弱

MBOは67.2%で成立しますので、入り口の段階では、約25%の株式を確保できれば、MBOは達成、という状況でした。
(最終的にエフィッシモは買い手グループに取り込まれたので、約14%の確保がゴールラインとなる。)

取締役

㈱ニチイ学館 第48回定時株主総会招集ご通知 より

ここでご確認いただきたいのは、候補者番号8にある杉本勇次氏です。

経歴にある通り、ベインキャピタルの方になります(日本の代表者です)

さて、今回のMBOの公開買付者ですが、再度確認すると次の通りです。

公開買付者:株式会社BCJ-44(ベインキャピタル系列)

過去業績の推移(セグメント別)

こちらは㈱ニチイ学館のセグメント別の業績推移です(単位は全て百万円)。

教育事業を見て下さい。
黒字だった時期があったものの、ここ8年程、ずっと多額の赤字を出しています。
この10年合計で約350億円の赤字です。

冷静に考えれば、「もう教育事業は辞めよう。」となるはずで、実際、株主からは事業撤退の意見・要望が長年出ていました。

そして、2019年になってようやく教育事業から撤退するという話になり、2020年3月期の株主総会で定款からも教育事業の文言が削除される運びとなりました。

㈱ニチイ学館 第48回定時株主総会招集ご通知 より

これで、ようやく膨大な赤字事業が無くなり、会社としての価値もあがっていくぞ、と期待された矢先でのMBO、というのが今回の状況です。

株価の推移

ヤフーファイナンスより ㈱ニチイ学館のここ10年の株価推移

さて、上述の通り、赤字事業が無くなる期待の元、株価が上昇しました。
(この10年、鳴かず飛ばずの状況が続いていたことがわかります。)

しかし、もう痛いほど世界で認識されている通り、新型コロナウイルス影響を受け、株価が急落してしまいます。

今回のMBOの提案価格(買い付け価格)は、新型コロナウイルス影響を受けて下落した株価が前提となって、提示されたものとなっています。

状況の説明

発生していた問題

MBOは、簡単に言うと会社の経営陣が会社の株式を買い取って、経営権(会社の所有権)をグリップしよう、というものです。

それで、㈱ニチイ学館の経営陣は「私達MBOをするので、株主の皆様、是非応募してくださいね。上場も廃止する形になりますからね。」と言っています。

なお、MBO自体は決しておかしな話では無く、株式市場・資本市場が認めている手法、選択肢の一つです。
ですので、上記の経営陣のメッセージ自体は悪いことでは何も無いです。

では、何が問題になったのでしょうか?

それは次の3点です。

  1. 利益相反の問題
  2. TOB価格の設定の問題(安すぎる)
  3. 株主の権利としての公平性の問題

利益相反の問題

上記で記載した通り、社外取締役にベインキャピタルの杉本勇次氏が入っています。
その中で、今回のMBOの登場人物としてベインキャピタル傘下にある今回設立された会社が買付者として立っています。

これは、利益相反なのでは?手続の公平性に欠けるのでは?という指摘があって当然の内容で、実際に指摘されているわけです。
入札があって、決定されたのでは無いのですから、然るべき指摘と言えますね。
(まあ、プロフェッショナルの業務を入札で決めて良いのか?という別の疑問はありますが。実際、この状況下でMBOをまとめたベインは、やはり流石という印象ですし。)

加えて、取締役として独立性のある役員は2名だけです。
(独立役員は3名だが、杉本氏は特別利害関係者になるため2名となる。)

他の取締役の方々は、報酬や地位を盾にされたら、今回の案件に対して疑義を出すことは難しいでしょう。
意思決定が株主の利益のために行われる、ことが全く期待できない状況なわけです。
(そもそも、今回のMBO自体が創業家の相続問題があるわけですし。ついでに言うと、公開買付に応じた創業家の方は、相続税の支払いの後、残ったお金で再投資して大株主の座を取り戻すことも可能です。)

香港ファンドのリム・アドバイザーズは次のようなコメントを出しています(質問状参照)。
中々、強烈な正論です。

ただでさえMBOには利益相反が内在しますが、資金提供者が取締役の座にある本件は異例です。
取締役10名のうち8名を買い手グループと上席経営陣が占めており、独立取締役は2名だけ。
公正性を担保することで、買い手グループが取締役会に影響を与えているのではないか?という疑いを払拭するべきですが、本指針が推奨するマジョリティ・オブ・マイノリティ条件は設定されず、マーケット・チェックもありません、特別委員会に資する独立したアドバイザーも不在で、フェアネス・オピニオンを取得しておりません。

TOB価格の設定の問題(安すぎるのでは?)

当初の買付価格は1,500円です(最終的に1,670円になる)。

それでは、MBOの公表後(5月8日)、株価がどうなったのか?というと次の通りです。

ヤフーファイナンスより ㈱ニチイ学館のここ10年の株価推移

5月8日以降、1,500円の応募に対して株価が高く推移していますね。

これは、ちょっとTOB価格安すぎるんじゃないの?という疑問や、
他の会社がTOBに名乗りをあげるんじゃないの?という期待感が、株式市場からは持たれた形になります。

TOB価格が安すぎるのでは?というのは当然の話で、2点程指摘できます。

上述のセグメント別利益を思い出して欲しいのですが、教育事業はここ10年で約350億円の赤字を出しています。
この教育事業から撤退し、ようやくこれからだ、という状況だったのが1点。

もう1点が、新型コロナウイルス影響を受けて株価が下がっている状況をベースにTOB価格が決められている風だったという点です。

ようは、もっと会社の潜在価値は高いでしょ?というのが株式市場、投資家達の考えだったわけです。
(TOB価格より上の価格で推移することは、通常はあまり見られない、比較的珍しい現象です。)

先述のリム・アドバイザーズは次のようにコメントを出しています(質問状参照:上述質問状と同リンク)。

リム・アドバイザーズが算定したニチイ学館株の公正価格は本通知の公開買付価格1500円を60%上回る2400円ですが、
(中略)
MBOで用いたレバレッジド・バイアウトによる分析も確認できませんでした。
同手法で分析すると、公開買付者の内部収益率(IRR)は4-5年間で46% – 57%。
経営陣の保守的な予測を前提としてもです。
これは、少数株主も享受すべき利益であると考えます。
市場分析手法では、新型コロナウイルスに伴う不安感が引き金を引いた相場暴落という特殊事情が反映されておりませんし、類似会社比較法に引用したサンプルの適格性にも疑問があります。
ディスカウンテッド・キャッシュ・フローでは、経営陣の保守的な予測が算定の発射台です。

株主の権利としての公平性の問題

さらに加えて、エフィッシモの動きの問題があります。
冒頭の方で示した通り、エフィッシモは11%超(正確には変動しているの株を保有し、資産管理会社に次ぐ2番目の大株主の立場となっていました。

結論として、エフィッシモは買い手グループに取り込まれた形になります。

ニチイ学館の出した適時開示では次のようにあります(関係の無い括弧書きは筆者が削除した)。

2020年7月31日付で、エフィッシモ(所有株式数:8,321,700株、所有割合:12.64%)から、エフィッシモが自ら又はECMMaster Fundを通じて所有する対象者株式の全部(8,321,700株、当該応募株式の所有割合:12.64%。)について本公開買付けに応募し又は応募させた上で、ECMMasterFundをして、本公開買付けに係る公開買付期間の末日の翌営業日前までに、本公開買付けの成立を条件として、株式会社BCJ-43の発行する無議決権株式を引き受けさせる旨の確約書の差入れを受けており、また同日付で株式会社BCJ-43及びエフィッシモは、当該無議決権株式の引受けに係る引受契約書を締結しています。

(まあ、資本市場では当然の話ではあるのですが)大口優遇と批判されても仕方が無いでしょう。

リム・アドバイザーズは、上のエフィッシモ優遇を受け、次のようにコメントを出しています。
(太字網掛は筆者が付した。中々見ないワードが使われています。)

リム・アドバイザーズは、エフィッシモ・キャピタル・マネジメント(「エフィッシモ」)が公開買付けに応じる見返りに特別な取引条件を与えられていることに驚いています。
公開買付者は、エフィッシモとの間で、非上場化後のニチイ学館への再投資を目的とした契約を別途締結することにより、一部の投資家に対して、他の投資家とは異なる取引条件を提供することになります。
公開買付者が他の少数株主に対しても同様の投資機会を提供していない理由は不明です。
しかし、明らかなのは、非上場化後のニチイ学館への再投資を選択することで、エフィッシモは、ニチイ学館の長期的な価値が修正公開買付価格を大幅に上回っているというリム・アドバイザーズの評価に同意しているように見えることです。

一連の流れの中で

何度も登場しているリム・アドバイザーズは、次のような要望をニチイ学館に書簡として出しています。
まぁ、ド正論です。

  • 公開買付期間の延長を要求する
  • 買収の条件を変更し、マジョリティ・オブ・マイノリティ条件に設定するように要求する
  • 助言を提供し、かつ、フェアネス・オピニオンを述べるため、特別委員会が独自の財務及び法務アドバイザーを採用することを認めること
  • デロイトの評価の背景にある前提条件を見直すこと、特に、合理的な組織再編の前提を考慮に入れるため、経営陣の予測について見直しを求める
  • 当社が合理的かつ公正だと計算した1株当たり2,400円を考慮し、提示価格について、より公正な価格を交渉する

ベアリング・プライベート・エクイティ・アジア(BPEA)も、MBO期間中、TOB価格2,000円の提案を出したとのことです。
(複数回に渡って、書簡の形で出したとのことですが、ニチイ学館はベインとの契約上、無視した形になります。)

なお、BPEAの流れがスクープされたのは、創業家のひとりが疑義を抱いたからだ、という話もあります。
現代ビジネスの記事では次の通りの記述があります。
義憤に駆られてスクープしたのか、それとも、相続争いの中で不利益な扱いを受けた親族が嫉妬の感情で申し立てたのかは流石にわかりませんが。

この水面下のアプローチが表面化したのは、創業家のひとりが、「MBO決定プロセスや低過ぎる公開買付価格に不信感を持っています」として、文書を作成のうえ、BPEAの「2000円でのアプローチ」を日経ビジネス記者に伝えたからだ。
冒頭のように、それが17日早朝、スクープ配信された。

株価の動きや、諸々のごたごたの結果として、MBO期間は何度も延長され、買付価格も1,670円に落ち着く形となりました。

結果、そしてこの後に何がおきるか?

8月17日にMBOの期間が終了し、成立ラインである67.2%を大きく上回り、82%をとった形で終了となりました。
(個人投資家にとって、応じる以外の選択肢は無かったでしょう。ここで頑なになっても意味はあまりありません。)

ファンドと㈱ニチイ学館の創業家(と資金を出す銀行)にとっては、おめでとうございます、という感じです。

この後に起きる事ですが。

これはMBO実施の公表の段階で示されていた話ではあるのですが、10月予定の臨時株主総会で次の2点が上程・決議されます。

  1. 株式併合(おそらくですが、株式50,000,000株以上が1株にまとめられる)
  2. 単元株の廃止(MBOに賛同しなかった株主の株を強制的に買い取る措置)

これにより、MBOに応じなかった株主の株式は、全て1単元未満の「端株」という扱いになります。
そして、この「端株」は裁判所に申し立てて(端株相当株式任意売却許可申立事件)、強制的に買い取られてしまう形になります。
(財産権というものがありますので、通常は強制的に他人の物を買い取ることはできないのですが、上記の場合は、裁判所の許可を得ることにより、合法的に実行することができます。これが会社法上の決まりです。)

これは、スクイーズアウトと呼ばれる手法で、MBOを実施した側がトータルで100%の株式を保有することができます。
何年後かに、㈱ニチイ学館は再度上場を目指し、ベインや創業家、エフィッシモは利益を取る事を計画しているのでしょう。

(参考)時系列

2019年9月28日 保育総合学院(現ニチイ学館)創業者である寺田明彦氏(83歳)が死去する(相続上の問題の発生)

2020年5月8日 ㈱ニチイ学館によるMBOの公表(TOB期間 5月11日~6月22日)

2020年6月11日 香港リムアドバイザーズが質問状を公開

2020年6月16日 香港リムアドバイザーズがTOB期間延長と公開討論を求める意見を公表

2020年6月22日 ㈱ニチイ学館がTOB期間を延長修正(価格変更は無し) ~7月9日まで(リム社はこれを歓迎)

2020年7月9日 ㈱ニチイ学館がTOB期間を延長修正(価格変更は無し) ~8月3日まで

2020年7月22日 リム・アドバイザーズがニチイ学館に新たな書簡を送付

2020年7月31日 ㈱ニチイ学館がTOB期間を延長(価格変更は無し) ~8月17日まで
TOB価格を1,670円に引き上げ、エフィッシモに優遇条件、の一連を公表

2020年8月3日 リム・アドバイザーズが条件変更に対して遺憾を表明

2020年8月17日 「ベアリング・プライベート・エクイティ・アジア」の報道否定、MBO期間の終了

2020年8月18日 MBO完了公表

2020年10月頃 臨時株主総会(予定)


今回の起きた諸々のことは、大前提としてルールに則った話であり、筆者もニュートラルな立場です。

大枠のスキームは冒頭の通りで、大多数の登場人物にとって得をする話ではあります(偏りはありますが)。

今回のMBOは株式市場を軽んじる行為のようにも見えますが、仮に異議があるにしても、より高い価格でTOBを仕掛ければ良いだけの話です。
また、莫大な財産を持っていた創業者がお亡くなりになった段階で、このようなことが起き得ることは投資家としても視野にいれておかねばならない話ではあります(あるある話なので)。

ようは、相続問題の中、MBOという合法的なインサイダー取引が行われており、それに対してアクティビストがこれも正当な形で文句をつけていた、というシンプルな構図です。

なお、参考までですが、こちらも。
これは経産省が出している、「公正なM&Aの在り方に関する指針」です。
香港リム・アドバイザーズが指摘していた諸々の問題点に関して、指針としてまとめている資料になります。
ここに書かれている内容を、まあキレイに無視・スルーを決めているので、その意味では面白いな、と感じます。

結構なボリュームになりましたが、これで以上です。

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大戸屋によるTOB対抗策、空振りか?

大戸屋がオイシックスとの業務提携報道が13日(木)に出て、公表が14日(金)にありました。
「ホワイトナイトの登場か!?」と思いましたが、どうやら違うようです。
TOB対抗策、と言うには何ともな内容なのですが、空振りなようです。

いくつかパラパラとツイートをしたので、それをまとめる形で整理します。

あわせて、こちらの記事もご参照ください。

大戸屋-オイシックスの業務提携報道

2020年13日(木)、各種報道機関より、大戸屋とオイシックスが業務提携をするとの報道が流れました。

内容としてはツイの通りで、3点。

まず、提携内容をざっくり。
大戸屋の商品(監修商品や大戸屋ノウハウによるメニュー)を、オイシックスの通販インフラにより販売していこう、というものです。
具体は不明ですが、弁当や総菜といった「ミールキット」を、サブスクリプション型サービスで展開していくことをイメージしている模様です。

そして、この業務提携は”報道媒体によると”TOBが成立しなかった場合に、行われるという内容になっている模様です。

つまり、「これこれこういう事やるから、わざわざコロワイドの提案を受け入れなくても株価はあがるよー。だから皆さん、コロワイドによるTOB、この話に乗らないでねー。」と言っているわけです。

「ホワイトナイト登場か!?」と思ったが、別に資本が入るような話しぶりでは無いようです。

TOBの成立ライン

さて、コロワイドによるTOBが成立するラインですが、それは下記ツイの通り、3,081円です。

元の適時開示資料(コロワイド)は、こちらですので、あわせて読んでみて下さい。
重要な所をピックアップすると下記の感じ。
上場廃止する予定は無いよー、7月10から8月25日までの間ね、お値段3,081円よ、1,872,392株届かなかったら不成立だよ、と言っています。

5)上場廃止となる見込み及びその事由
対象者株式は、本日現在、JASDAQに上場しています。本公開買付けは、対象者株式の上場廃止を企図したものではなく、本公開買付け後も引き続き対象者株式の上場を維持する方針であることから、(略)。したがって、本公開買付け成立後も、対象者株式は、引き続きJASDAQにおける上場が維持される予定です

②届出当初の買付け等の期間
2020年7月10日(金曜日)から2020年8月25日(火曜日)まで(30営業日)

(3)買付け等の価格
普通株式1株につき、3,081円

(5)買付予定の株券等の数
買付予定数 2,330,000(株)
買付予定数の下限 1,872,392(株)
買付予定数の上限 2,330,000(株)

では、報道をうけての株価の反応(8月14日午前9時44分株価)です。

この通り、入り口としては伸びているわけですね。

最終的に、大戸屋が正式にリリースする資料をもって、株式市場がどのように評価するか?で今後の流れが変わってきます。

仮に株価が3,081円を超えたのならば、コロワイドにとっては追加のアクションが必要になる可能性が高いです。

これまで、対大戸屋攻勢は非常に大人しいものでした。

これは、コロワイドが積極攻勢をガンガン行っていたら、大戸屋側も対応行うわけですが、この対応にあたるコンサル(アドバイザー)への報酬(アドバイザリー・フィー)が莫大になります。
決して体力的に十分でない大戸屋がコンサル料でより疲弊しては、これから子会社にしようとしているコロワイド的には面白く無いわけです。

さて、正式なリリース、蓋をあけてみると、、、?

8月14日(金)12時30分、大戸屋より適時開示がありました。

内容としては概ね報道の通りですが、重要な点に触れられていませんでした。

そう、「TOBの不成立を前提にした業務提携」という部分が一切無いのですね。

これを受けてなのかどうかはわからないですが、株価も下がっており、14日は2,850円での着地となりました。

Google検索より、大戸屋ホールディングスの2020年8月14日(金)株価

大戸屋は、これで万策尽きた形でしょうか?
それとも実は、リリースしていない何か事実があるのでしょうか?

このまま行けば、TOBは成立します。

提携内容に対する所感

なお、提携内容、評価はわかれるでしょうが、正直私は微妙感を持っています。

フードビジネスは、本当に参入障壁が低いビジネスです。

やろうとしているお弁当や総菜といったミールキットですが、イメージするまでもなく、世に商品が溢れています。
差別化も本当に難しいです。
大戸屋ブランドで攻めて、どれだけ消費者に受け入れられるのか不明です。
(もちろん、ポジティブ・イメージが強い事は同意。)

さらに、これをサブスクリプション型モデルでやろう、というわけですが、サブスク・ビジネスが割高だ、というのは多くの消費者が実感しつつあります。
大戸屋ブランド、値段も高い、となった場合に、消費者の期待値は当然に高まるわけで、ここを安易に攻めるのはブランド毀損リスクもあるわけです。

さらにもう一つ加えて、新規ビジネスが主力として育つまでの時間軸や確度の問題があります。
大戸屋は現時点で200億円の時価総額があり、売上高も約250億円の規模です。
この規模感にインパクトを与えるだけのビジネスに育つのに、どこまでの時間がかかるのか?そして、それはどの程度の成功確度があるのか?

冷静に考えれば、懸念だらけだ、ということは明確なわけです。
株式市場の反応が、数字(株価)に表れている通りです。


引き続き、状況を見ていきたいと思います。

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大戸屋VSコロワイドについて思う事と教訓

大戸屋VSコロワイドが話題になっています。
当事者達には大変失礼だとは思いつつ、中々のドタバタ劇であると感じています。
本件については、かなり多くの思う事と教訓があるので、感想を書いていきます。

これまでの経緯概略

入り口のきっかけは、大戸屋創業者である三森久美氏が2015年7月にお亡くなりになられたことに発します。

ここで創業者が持っていた株式約19%は、ご家族(夫人と子息)に相続されます。

これが大きな悲劇のはじまりです。

ご家族、特にご子息にとっては次のような考えがありました(想像)。

  • すぐに自分に社長の席が譲られると思っていた(当時26歳)
  • 莫大な株式を相続するにあたり必要な税金分の現金を大戸屋が「功労金」としてすぐに満額支払ってくれると思っていた
  • 現経営陣が父の理念を引き継ぎ、取り組んでいたことを継続してくれると思っていた

しかし、現経営陣は一定現実的な考えを持っていました(想像)。

  • 若い大事な後継者だから長く大切に育てよう(社長の席も早くて10年後)
  • 「功労金」を払いたいが、外部、特に株主が納得するだけの説明が必要
  • 創業者が牽引してきた赤字事業を切り離さないとメインバンクも納得しない

こういった思惑の不一致があり、創業家と現経営陣で確執が起きます。
結局2016年、ご子息は取締役を辞任し、大戸屋を去ります。

第三者委員会の調査報告書は、大変失礼ながら、かなりの読み物です。面白いですよ。後、経営側がこれだけのことをすることはまずないのだから、かなり配慮されていますよ。)

創業家は、相続した株式分の税金を支払わなければいけないため(充当した借金の返済が必要)、
2019年10月、持っていた株式の約19%をコロワイドに売却します。

その後、コロワイドは大戸屋に対して、創業者ご子息を取締役候補に含めた株主提案を行い、この場は否決(2020年6月)。

2020年7月に、今話題になっているTOBという流れになっています。
TOBが成功すれば、コロワイドは大戸屋を50%超保有することになるので、子会社として親子上場という関係下で支配に置く形になります。

ここら辺の経緯は、色んな方や記事がまとめているので、読んでみて下さい↓


創業家の言い分

https://business.nikkei.com/atcl/interview/15/269473/062300085/?P=1

大戸屋側の言い分(第三者委員会の調査報告書)(必見級)

http://110.232.195.129/news/wp-content/uploads/2016/10/c029f081ce9ac494e99a60355a9fa535.pdf

創業家による大戸屋株式のコロワイドへの売却

https://www.j-cast.com/2019/10/14369883.html?p=all

創業家がコロワイドに株式を渡した理由は「相続税」

https://www.data-max.co.jp/article/31980

株主提案時のコロワイドの行動と蔵人会長の暴言

https://www.data-max.co.jp/article/36617

TOBまでの経緯概略

https://newspicks.com/news/4942706/body/

大戸屋VSコロワイドのテクニカルな解説

https://ib-consulting.jp/newspaper/?search=%E5%A4%A7%E6%88%B8%E5%B1%8B

ようやく本題の思う事と教訓

オーナー創業者

まず、事業承継問題はしっかりしましょう、ということですね。

株式がコロワイドに渡ったのは、結局の所、相続上の問題が原因です(多分)。

きちんと、事業承継のスキームを構築しており、何かあってもスムーズに相続できるようにしていれば、このようなことにはならなかったはずです。

加えて、相続上の問題だけでなく、経営の引継もです。

ご子息は「自分が正当な後継者」だと、まあ当然に考えますよね。株式も持っているわけですし。
(幼い傲慢な発想ですし、ガバナンス上、それが如何にナンセンスか、は置いておいて。)

ご子息には「きちんと諸先輩の下について、修行しろ。最低でも10年、実績と実力を積め。」と言い聞かせておくべきでした。
現経営陣にも「色々大変だろうが、残された者たちの感情のケアには注意しろ。」と冷静に伝えておくべきでした。

これらは、べつに「べき論」を語っているのではなく、あちらこちらで聞く「あるある話」です。
巻き込まれたらたまったもんじゃないはずなので、ここは一番グリップし、推進できる立場の人間が、きちんと対処しておく問題でしょう。

二世御曹司

ご子息に関しては、もうちょっと身のふるまいを意識した方が良かったと感じています。

若くても優秀な方は大勢いらっしゃいますが、じゃあ26歳とかの年齢で、数百億円規模の会社を背負えるのか?と言われたら、周囲の人たちは不安に思って当然でしょう。

ゼロベースから修行し、丁寧にそして確実に成果をだしていく、実力をつけていく。
そして、二世シンパ(支持者という意味)を作っていく。

これができれば、現経営陣も、元々、ご子息に経営を引き継がせる心持ちだったのだから、いずれは願いが叶ったはずです。
株式だって持っているのですから。

ようは、親の威光をかさに着て何かが叶うと思ってはいけない、ということですね。

残された現経営陣(被買収側)

残された経営陣も、もうちょっとプロフェッショナルに経営して欲しいな、と感じます。

まず業績面。

創業者がお亡くなりになってからの内紛の影響もあるのでしょうが、この業績はいかがなものかと(ピーク時の15%の利益)。

最新直近の決算は、コロナ影響もあるとは言え、赤字です。

山本社長(現在は取締役)のガイアの夜明けの件もかなり酷いものでした。

これだけじゃないのですが、もっと、お客様と従業員のことに目を向けた方が良いかと思います。

更に、これだけ外部に株式をグリップされて、株主提案までされたら、普通は次にTOBが来るって思うでしょ?
なんで、早々に買収防衛策を打たないのですか。

もう、この状況だとホワイトナイト以外、手が無いですよ?
(それも、あまり現実的では無いですが。もしかしたら既に準備しているのかもしれませんが。)

資本主義社会で戦っていくには、ちょっと、M&Aの世界において初心すぎるな、と感じます。

買収側

コロワイドもコロワイドです。

株式を誰かから取得するのも、TOBも、別に合法な手段であり、誰かに非難されるいわれはありません。
しかしですよ、ここで礼節を失ってはいけないでしょう。

こちらで記載のある蔵人会長の明らかな従業員軽視の暴言や、こちら(週刊ダイヤモンド2020.7/18)にあるような野尻社長のあからさまな脅迫ともとれるコメントを出されたら、相手のシャッターも当然におります。

別にM&Aを戦略軸に据えるのは問題が無いのですから、もうちょっと相手様に敬意を払えないもんですかね?

さらに業績です。

「お家騒動で混乱している会社を乗っ取って、自分たちの会社の業績をキレイにしよう。」

という発想が見え見えであり、数字が読める人たちにしてみれば、反感を持たれても仕方が無いです。
IFRSであり、のれん代がPLヒットしない、という魂胆も見透けており、微妙感に拍車がかかります。

進め方がよければ「流石、コロワイド!M&A巧者!」となったはずです。

これまでの進め方だと、もうちょっと既にある事業をしっかり立て直しなよ、と感じてしまいます。


以上、大戸屋VSコロワイドについて思う事について、教訓について書いていきました。

私は、基本的には資本主義の信奉者であり、グローバルな世界で一般的に使われている手法については当然に有りだと思っている立場です。

しかし、ビジネスという物は、人々が幸せになるために行われる物だとも考えています。

今回の大戸屋VSコロワイドの件では、TOBに乗っかる大戸屋株主は儲かってハッピーでしょう。
しかし、それ以外の方々にとっては、誰にも幸せにならない一件のように思えます。
あくまでも私の価値観の世界の話なのですが、見ていて首をかしげてしまいます。

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