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生産性・業務効率化

リモートワークの“コミュニケーション”“雑談”問題をどうクリアするか?

リモートワークが当たり前に定着し、多くの人が満足をし、また今後も継続したい、という意向を示しています。
一方で、ネガティブな声も聞かれており、特に“コミュニケーション”“雑談”については、解決が難しい問題として、度々言及されています。
この問題について、どのように考え、クリアしていくのがよいでしょうか?

リモートワークに多くの人は満足し、継続したいと考えている

新型コロナウイルス感染症が世界的にまん延して、リモートワーク(テレワーク)も同様に浸透した際の多くの人々の反応としてリモートワークに満足すると共に、今後も継続したい、という意向が示されていました。

https://newsroom.ibm.com/2020-05-01-IBM-Study-COVID-19-Is-Significantly-Altering-U-S-Consumer-Behavior-and-Plans-Post-Crisis

この傾向は、最近も変わらず、概ね約8割の人々が、(その賛成の度合いはともかくとして)リモートワークに肯定的です。

一方で、当然にいくつかのネガティブな声も聴かれています。

リモートワークに対するネガティブな反応

長時間労働

ネガティブな反応の例として、長時間労働になる傾向がある、というものです。

https://psycnet.apa.org/doiLanding?doi=10.1037%2Fa0019282

リモートワークが定着する前は、従業員がサボるのではないか?という懸念が経営者や管理職から聞こえましたが、結果はむしろ逆です。

働いている姿が直接見えないテレワークでは、姿勢ではなく結果での評価でないと難しく、成果を見えるように示そうとして、むしろ頑張ってしまう人が増えたようです。
その結果として、長時間労働、というネガティブな影響が出ました。

社会参加意識

他にも、一人で孤独に働いているが故の社会参加意識の希薄化とそれによるメンタル不調も指摘されています。

https://theconversation.com/why-working-remotely-feels-so-jarring-according-to-philosophy-135127

仕事をする目的は、端的に言えばお金、もっというと生活の糧を稼ぐためのにあります。

しかしながら、お金のためだけに働いているわけでもないのが人間です。

社会貢献や、社会の中に存在しているという自己認知、コミュニティに属すことによる存在意識等、人として社会参加していることを感じられるのは非常に精神的に重要です(ありていに言えば自己肯定感の話)。

意義のある仕事をし、成長をし、またそれによりさらに社会的ニーズを満たすことが精神的健康の基盤となり、また人生価値の向上にもつながります。

リモートワークは、この社会参加意識という観点において、どうしても阻害する効果があります(物理的に社会と距離をおくため当然の話)。

自律意識による負担

オフィスに出社すれば、必然的に働かなければならない環境に囲まれる形となりますが、自宅は違います。

高い自律意識を持ち、自己制御を行う必要があります。

そこで、例えば次のような記事では、可能な限り「日々の生活スケジュールを厳格に決めて、それを守ること」、つまりは「ルーチンワークをこなすこと」推奨しています。

https://theconversation.com/here-is-why-you-might-be-feeling-tired-while-on-lockdown-135502

一方で、過剰な自己制御は精神に負担をかけるという研究もあります。

https://aow.uni-wuppertal.de/fileadmin/wirtschaftspsychologie/lehrstuhl/Publikationen/Rivkin_etal_2016_WhichDailyExperiencesCanFoster_JOHP.pdf

筋肉を酷使すると身体に負担がかかるのと同様、精神も酷使すればメンタルヘルス等に悪影響があるからです(自己制御のためにも精神エネルギーは消費され、リソースは減少していく)。

他にも様々な問題が

他にも、いわゆる“Zoom疲れ”について指摘する声も聞かれます。

https://www.axios.com/zoom-fatigue-coronavirus-teleconferencing-f5c0ce17-483f-4c71-9a7d-f023d7e7a45b.html

例えば運動不足があります。

リモートワークでの仕事は、会議もZoomのようなWeb会議システムを使うこととなり、オフィス内での移動が起きません。
ずっと座りっぱなしの状態になり、運動不足を誘発し、身心に悪影響を与える可能性があります。

他にも、プライベートの侵害や、言語以外のコミュニケーションにも強く集中しなければいけないが故の認知負担、自分の顔も見続けたりすることのストレス等々、様々なストレス指摘されています。

https://tmb.apaopen.org/pub/nonverbal-overload/release/1

Web会議は、闘争(逃走)反応を誘発し、ストレスを生む、という指摘もあります。

https://www.businessinsider.com/large-face-zoom-video-call-trigger-fight-flight-response-researcher-2020-4

これらは、これまでの生活スタイルの変化により起きているものなので、一定慣れの問題もあります。
つまり、(文化の醸成と共に)時間が解決する要素も多分にあるでしょう。

しかし、残っている問題があります。

それが、コミュニケーション問題であり、特に“雑談”問題がクリティカルです。

一般的に、雑談はクリエイティビティやイノベーションの源泉であると言われており、この領域を重視する先進的な企業にとっては死活問題であるとされています。
(なお、私は諸々の理由により、イノベーション云々について疑わしいと考えています。)

マイクロソフトで行われた実験

それでは、リモートワークにより、働く人々のコミュニケーションの状況は、どのように変化したのでしょうか?

マイクロソフトを実験場とし、このコミュニケーション問題について研究が行われました。

https://www.nature.com/articles/s41562-021-01196-4

内容をいくつかピックアップすると次のようになります。

  • リモートワークは相互コミュニケーションを減少させる
  • リモートワークは会社としては非公式な協業ネットワークを形成していた構造的空隙を減少させる
  • リモートワークは既に信頼関係のある強いつながりの集団とのやり取りを強化させる(ことにより、強いつながり同士では情報交換の効率が向上する)
  • 弱いつながりの集団(新入社員や直接の仕事のつながりがない部署等)とのやり取りは減少させる

ようは、リモートワークにより集団がサイロ化してしまう、ということです。

そのため、成果を出す人材になるために、強いつながりのある集団とは別に、新しいつながりを構築していく必要があるとしています(新しいコミュニティ、異なる価値観との接触、新鮮な情報の入手)

“雑談”が減少、構造的空隙の減少や組織のサイロ化が進み、クリエイティビティやイノベーションの源泉も失われていく、という仮説が是であるならば対処が必要です。
(なお、研究は、mtg等が減少し、チャットやメールでのコミュニケーションが増加することにより、本質的に無駄な時間が削減され、確かに生産性が向上している点には認めています。)

新しいコミュニケーション能力が求められているか?

それでは、具体としてどのような対処が必要でしょうか?

リアルタイムコミュニケーションを求めるマインドを捨てる

まず、考えられるのが意識改革(であり文化醸成)です。

例えば、そもそもとしてコミュニケーションにリアルタイム性を求める、というマインドを捨てる点が指摘できます。

https://snir.dev/blog/remote-async-communication/

Zoom等のWeb会議システムを利用し、リモートワーク下であってもリアルタイムに顔を突き合わせてコミュニケーションを取れるように整備をしたとしても、そこで行われるコミュニケーションは、直接集まって行うコミュニケーションとは別のものです。

例えば、Web会議システムでは、一度に話すことができるのは一人のみです。
実際の会議や集団での雑談では、複数の人が別の人とコミュニケーションを取ることが珍しくありません。
真面目な会議において、隣の人と、ちょっとしたやり取りをすることもあるでしょう。

リアルタイムチャットも、入力のタイムラグ等が必然的に発生し、直接オフィスで話しかけるような即時性を求めることは不可能です。
また、やり取りをオープンにすることを避ける傾向も容易に推測できます(プライベートDMを多用しますよね?)。

つまり、技術的にも、人という性質を鑑みても、リモートワーク下においてリアルタイムコミュニケーションを求めるのには無理があるのです。

リアルタイム性がないコミュニケーションを前提とした、情報共有体制の構築とコミュニケーション文化の醸成が必要です。

主体性と戦略性をもったコミュニケーション姿勢

他にも次のような提案がされています。

https://diamond.jp/articles/-/271335

内容をまとめると、イノベーションのために「知の探索」と「知の深化」が必要であり、また全くのゼロからイチが生まれることはない、と。
そして、そのために「よく話す人と、意図的に雑談の時間を作る」「全く話したことない人と話す機会を増やす」としています。

つまり、上述のマイクロソフトの実験で示された提案と同様のものです。

ここでのポイントは、主体性をもって取り組むこと、戦略的にコミュニケーションを取ること、です。

批判的に言うならば、具体の解決策は無い、ということであり、肯定的に捉えるならば、具体の解決策は「主体性」「戦略的」なコミュニケーション能力を身につけよう、と言えるでしょう。


上述の、そもそもリモートワーク下においてリアルタイムコミュニケーションを求めるには無理がある、とした点においても「情報共有体制の構築とコミュニケーション文化の醸成が必要」としましたが、この具体の方法論については、確立されたものがありません。

「主体性」「戦略的」なコミュニケーション能力を身につけよう、という話も高いリテラシーと文字通りの主体性が問われます。

これらについて、確かに多くのアドバイスやソリューションが提案されていますが、クリティカルに解決する、科学的に効果が実証された方法は、(繰り返しますが)確立されたものがないのです。

間違いなく言えることは、手探りの模索が必要であろう、という点です。

すでに古典となっている研究では、短・中期的には組織文化と戦略が適合している企業の業績は高いが、長期的には環境変化に上手く対応できるか否かによって業績が左右される、としています。
(Kotter, J. P. and J. L. Heskett (1992) Corporate culture and performance, The Free Press)

そして、環境変化に上手く対応するためには、手探りの模索が必須です。

私は、「手探りの模索」こそが、リモートワークの“コミュニケーション”“雑談”問題をクリアするための(現時点での)最適なソリューションであると考えます。

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