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【若い内からの認知症予防】空気と認知症リスクの関係

運動と認知症リスクの関係は比較的よく知られています。
一方で、空気と認知症リスクの関係は、あまり知られていないのではないでしょうか。
ここでは、空気と認知症リスクの関係について科学的知見を見ていきます。

花粉症と認知症が関係がある???

まずは、花粉症と認知症リスクの関係についての研究です。

https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2091745

こちらの研究では、花粉症の“薬”を長期間に渡って服用すると認知症リスクが高まる、としています(花粉症の薬に限らず、不眠症等の薬も対象)。

3千人以上の65歳以上の高齢者を対象に、服薬履歴と認知症リスクについて追跡調査を行ったところ、長期に渡り服薬をしていた患者は、有意に認知症リスクが高くなることが示されました。
研究チームは、いくつかの薬について代替となる医薬品や治療方法等、別の手段を模索することを提案しています。

間接的にですが、花粉症が認知症リスクを高める可能性について示唆している形になります。

ただ、この話は過剰に心配する必要はないことも研究者たちは補足しています。

現状でわかっていることが少ないという点もそうですし、服薬についても特定の医薬品について長期に渡り多量な投与をされていること、が条件となるためです。

空気が悪いと認知症リスクが高まるのは確からしい模様

一方、こちらの研究では服薬とは関係なしに、空気が悪い(大気汚染の状況が酷い)と認知症リスクが高くなることを示しています。

https://www.nature.com/articles/tp2016280

研究では、65歳以上の女性約3,600人を対象に、居住環境の大気の状況と認知機能の関係について分析が行われました。
研究では、他の要因(経済的要因や社会的要因等々、認知機能に影響を与える様々な要因)を除去する前提で調査されました。

その結果、空気が悪い(大気汚染の状況が酷い)環境に居住している高齢者(女性)は、認知機能に悪影響を受けるリスクが約81%、認知症リスクが約92%高くなることが示されました。

このボリュームは、認知症患者全体の内、約2割が大気の影響を受けている可能性があることも併せて示されています。


空気の良し悪しは、日頃あまり意識をすることはないでしょうが、長期的な健康のみならず、認知機能の観点でも気を使った方が良い可能性が高いです。

近年は感染症の蔓延という背景もありマスクを着用することが当たり前になっていますが、関係無しにマスクは着用した方が良いかもしれませんし、家の中に空気清浄機を設置した方が良いかもしれません。

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【若い内からの認知症予防】血圧と認知症リスクの関係

運動と認知症リスクの関係は比較的よく知られています。
一方で、血圧と認知症リスクの関係は、あまり知られていないのではないでしょうか。
ここでは、血圧と認知症リスクの関係について科学的知見を見ていきます。

高血圧と認知症リスクの関係

まずはこちらの研究です。

https://jnnp.bmj.com/content/91/9/953

こちらの研究では、脳小血管病(cerebral small vessel disease:SVD)という「脳微細血管劣化に伴う効率的な脳内微小循環・代謝・ネットワーク維持の困難な状態,及びそれらによる認知・身体機能低下状態」と精神疾患・無気力症候群との関係について調べています。

研究では、合計約450人が被験者となった別の研究を分析した形となりますが、その結果としてSVDが無気力症候群に、そして認知症リスクと関連がある、ということが示されました(うつ病等の精神疾患とは関連がないとのこと)。

研究者は、高血圧や糖尿病によりSVDが引き起こされ、それにより神経ネットワークの損傷が起き、そして認知機能の低下が誘発され、その初期症状として無気力症候群が見られるのではないか、としています。

つまり、高血圧と認知症リスクの関連性が示唆されている、ということです。

低血圧と認知症リスクの関係

一方、こちらで紹介されている研究では低血圧と認知症リスクの関係が触れられています。

https://theconversation.com/low-blood-pressure-could-be-a-culprit-in-dementia-studies-suggest-122032

記事内では、約2万7千人を対象とした最大約27年間に渡る追跡調査について言及されており、低血圧が認知症の発症を高める可能性が示唆されています。

低血圧が脳に送られる血流の減少につながり、それにより認知機能の低下が誘発されるのだろう、としています。

この話は、高齢者に限らず若年層にもあてはまり、低血圧と認知機能の低下には関連性があることが示されています。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14673692/

研究者達は予防策として、適切な運動(特に足、ふくらはぎ)により筋肉を鍛えると、血流量を増加させるポンプ機能が強化され、正常な血圧を保てる、としています。


以上のことから、高血圧でも低血圧でも脳の認知機能の観点でネガティブであり、正常な血圧を維持することの重要性がわかります。

そのために、過剰な塩分の摂取、栄養不足、喫煙、過度の飲酒、運動不足、ストレスは避けるよう、日常の中で気を使っていく必要があります。

忙しくストレス過多な現代人にとってみれば、このシンプルなことでさえ行うのは難しい場合も多いでしょうが、やらないで抱えるのは認知症リスクの増大であり、またそれのみならず代償として健康を支払うこととなります。

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【若い内からの認知症予防】歯の健康と認知症リスクの関係

運動と認知症リスクの関係は比較的よく知られています。
一方で、歯の健康と認知症リスクの関係は、あまり知られていないのではないでしょうか。
ここでは、歯の健康と認知症リスクの関係について科学的知見を見ていきます。

歯の本数が少ないと認知症リスクが高まる

まず、歯の本数と認知症リスクの関連性の研究の紹介です。

https://www.jamda.com/article/S1525-8610(21)00473-4/fulltext

こちらの研究では、約3万9千人の被験者を対象に分析が行われました。

その結果、歯の本数が少ない人は、認知機能の低下リスクが約50%、認知症リスクが約30%高いことが示されました。
また、メタ分析の結果、歯が1本無くなるごとに認知機能の低下リスクが約1.4%、認知症リスクが約1.1%高まることも示されました。

一方で、入れ歯の類を使用して歯の機能を補完している場合には上述の影響は見られなかったとのことです。

つまり、歯の本数が少なくなることにより、適切に栄養を摂取することに障害が起き、脳機能の低下につながる可能性が考えられます。

歯周病がアルツハイマーの原因の可能性も

他にも、歯周病がアルツハイマー型認知症の原因となる可能性を示唆する研究があります。

https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aau3333

研究では、症例の数は多くないものの、死亡したアルツハイマー型認知症患者の脳内から、歯周病菌が出す有毒物質が発見されたことが示されています。

そして、マウスレベルの実験で、歯周病菌を付与(マウスの歯に塗布)すると、マウスの脳で有毒物質が検出されることを示しました。
加えて、抗生物質を投与すると、この影響から逃れられることも併せて示されました。

つまり、歯周病という観点で歯の健康を維持するだけでも、認知症リスクの低減が図れる可能性が示唆されています。

他の疾病にも関係する可能性が

歯の健康は他の疾病との関連性も示されています。

例えば糖尿病リスクとの関連でいです。

こちらの研究では約18万8千人を対象に分析され、歯のメンテナンス(日頃の歯磨きや歯科医にかかる頻度当)について追跡調査が行われました。

その結果、歯磨きの頻度が低い場合、糖尿病の発症リスクが高いことが示されました。
(男性より女性の方が影響が大きく、また高齢者より若年の方が影響が大きいことも併せて示されました。)

こちらは因果関係と相関関係が不明ですが、口腔衛生と健康との関連性が推察されます。


現代人は忙しく、中々、歯科医にかかる余裕がない人も多いでしょうが、可能な限り自分自身による歯磨きだけでなく、歯科医にかかることが望まれます。

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【若い内からの認知症予防】騒音と認知症リスクの関係

運動と認知症リスクの関係は比較的よく知られています。
一方で、騒音と認知症リスクの関係は、あまり知られていないのではないでしょうか。
ここでは、騒音と認知症リスクの関係について科学的知見を見ていきます。

慢性的に騒音にさらされると認知症リスクが高まる

こちらの研究では、交通騒音と認知症の関係について、大規模な調査が行われました。

https://www.bmj.com/content/374/bmj.n1954

研究では、60歳以上の被験者約938,994人を対象に行われ、幹線道路や鉄道等の交通騒音にさらされやすいエリアか、そうでないエリアか、という形で居住環境を観点に分析が行われました。

その結果、慢性的に騒音にさらされやすいエリアに住んでいる人は、そうでない人に比べて認知症になるリスクが高い傾向があることが示されました。

数値できには、騒音環境が40db未満の人と比較し、50dbの人は認知症リスク(アルツハイマー型認知症)にかかるリスクが約24%、55dbの人は約27%高いことがわかりました。

(騒音レベルとしては、40dbは閑静な住宅地や小鳥の鳴き声レベルであり、50dbは家庭用のクーラーの室外機、静かな書店や事務所、55dbは役所の窓口が目安です。)

研究者達は、この研究を通じて、公衆衛生的に認定されている認知症の内、10%超が交通騒音起因であると推定しており、その影響の大きさについて主張しています。

日常生活の騒音は睡眠不足にも影響しますし、その他の疾患、例えば神経症の発症リスクが高まることも知られており、人々が意識・認識している以上に騒音のネガティブな影響は甚大である可能性があります。

https://ehjournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12940-020-0565-4

一方で適度な騒音は生産性をあげるという話も

一方で、適度な騒音、例えばホワイトノイズは(限定的ではあるが)生産性をあげる、という知見もあります。
(もちろん、長時間はよくない。

また、日常生活の中で、常に騒音を回避することは不可能です。

仕事もそうですし、音に関しても、オン・オフをつけて、耳を休ませる時間を設けるのが良いのでしょう。

こちらで紹介されている研究では、静かな時間を2時間程とると脳が成長しやすくなる、としています。

https://nautil.us/issue/16/nothingness/this-is-your-brain-on-silence

昔からある耳栓や、近年、商品数が増えているノイズキャンセリング型のヘッドホン・イヤホンは、本テーマにおいても意義があるかもしれません。

科学的には不明な点が多いのは確かですが、耳栓・ノイズキャンセリング製品等を活用し、意図的に静寂な時間の確保に努めることはプラスである可能性が高いです。
少なくとも、生産性向上の観点でプラスであり、損はしないでしょう。

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【若い内からの認知症予防】コーヒーと認知症リスクの関係

運動と認知症リスクの関係は比較的よく知られています。
一方で、コーヒーと認知症リスクの関係は、あまり知られていないのではないでしょうか。
コーヒーは身体に良い、飲み過ぎは身体に悪い等、様々な話がありますが科学的にはどのような知見が示唆されているのでしょうか?

カフェイン摂取は認知症リスクを下げる

まず、こちらの研究です。

https://www.sciencedaily.com/releases/2017/03/170307130903.htm

マウスベースの実験室内の研究ですが、カフェインが認知症を予防する効果のある酵素の生産量を上昇させる効果があることを示しています。
研究では、認知症を予防する効果のある酵素が既に特定されている前提で、その酵素の生産量を上昇させる化合物は何なのかの調査が行われた結果として示されたものです。
また、特定の実験条件下に置かれたマウスにカフェインを投与すると、記憶力の改善という結果も出ました。

他にも、数千人~数十万人を対象にした大規模な調査で、コーヒーの摂取量が多い人は健康的に長生きできる傾向があること(長寿効果)、心疾患神経疾患、糖尿病などの疾病にかかりにくいことや、自殺率の低減(死亡リスクの低減)といった効果があることが、いくつかの研究で示されています。

https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/article-abstract/2686145
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIRCHEARTFAILURE.119.006799
https://www.ahajournals.org/doi/full/10.1161/CIRCULATIONAHA.115.017341

つまり、これらのことから、コーヒー(カフェイン)は身体に良い、と明確に言えます。

飲み過ぎはよろしくないようだ

もちろんネガティブな面もあります。

リンク先の研究(外部PDF)では20歳から90歳までの約4万4千人を対象に、コーヒーの消費量やその他諸々の生活習慣(食事、運動、飲酒、喫煙等々)と死亡原因について調査が行われました。
追跡調査は、約32年に渡って行われています。

その結果、1日4杯以上のコーヒーを飲んでいた人は、それより少ない量のコーヒーを飲んでいた群より圧倒的に死亡率が高いことが示されました(平均1.5倍から2倍程度の死亡リスク)。

別の研究では(37歳~73歳の1万7千人を対象に行われた)、1日6杯以上のコーヒーを飲む人は、それ以外の群に比べて認知症リスクが約53%高まることが示されました。

https://www.unisa.edu.au/media-centre/Releases/2021/excess-coffee-a-bitter-brew-for-brain-health/

つまり、過度なコーヒー(カフェイン)の摂取は身体に悪い、ということです。

適切な量は?

それでは、適切なコーヒーの摂取量はどの程度でしょうか?

平均的なコーヒーのカフェイン含有量は約50mg~100mgです。

上述の研究を踏まえると、これが1日1・2本程度がベストであり、多くても3本以内が望ましいと考えられます。
(いくつかの医療団体が示すカフェイン摂取量の上限も大体400mg/1日としている。)

最近多いエナジードリンクの類ですが、次のようなカフェイン含有量となっています。

  • モンスターエナジー:142mg
  • レッドブル(250ml):80mg
  • リポビタンD:50mg

例えば、朝に1杯、昼に1杯、午後に眠気覚ましにモンスターエナジーを1本飲んだ場合、これで上限近くに達します。


コーヒーの覚醒効果による生産性向上効果はよく知られていますが、単純作業に限定される、という知見もあります。
(つまり、コーヒーを飲んて脳が覚醒したかのように感じても、実際の認知機能は低下したままで、高度な作業の生産性は向上しない。

加えて、プラシーボ効果でも覚醒効果はある、という知見もあります。
コーヒーの香りをかぐだけでも覚醒効果があるようだ!

これらを踏まえると、コーヒーは1日1・2杯程度に抑える、エナジードリンクを飲みたいのであればその日はコーヒーは飲まない、というのが現時点の総合的な知見では良いように思います。

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【若い内からの認知症予防】お酒と認知症リスクの関係

運動と認知症リスクの関係は比較的よく知られています。
一方で、お酒と認知症リスクの関係は、あまり知られていないのではないでしょうか。
適度な飲酒は健康に良い、という話もありますが、果たして科学的にはどのような知見が示唆されているのか、見ていきます。

お酒を飲まないと認知症リスクが高まる?

まず、お酒が認知症リスクを低減させる、という研究の紹介です。

https://www.bmj.com/content/362/bmj.k3164

この研究では、研究開始当初35歳~55歳だった約9,000人を対象にしたもので、その後約23年に渡り追跡調査が行われました。
そして、約9,000人の内、397人が認知症と診断された形となりました。

その結果、全くお酒を飲まなかった人は、適度な飲酒習慣がある人よりも、認知症リスクが約45%程高い、という結果が示されました。

ここで言う適度な飲酒量とは、週に500mlのビール6本分以内を示しております。

もちろん逆の結果を示す研究も

一方で、ネガティブな研究もいくつかあります。

(上述の研究も、週500mlのビール6本分を超えると認知症リスクが高まる、としています。具体的には、500ml3本分を超えるごとに約17%、認知症リスクが高まるとのことです。)

こちらの研究では、そもそもとして飲酒自体が認知機能を低下させる、としています。

https://www.bmj.com/content/357/bmj.j2353

約550人を対象にした研究で、研究当初平均約43歳の被験者を対象に、約30年に渡り追跡調査が行われました。

その結果、1週間に1回多く飲酒すると、脳の海馬の委縮率が約50%高まる、という知見が得られました。

ただ、この研究の「適度な飲酒量」の範囲が、上述の研究の2倍以上であり、「適度な」の定義にズレがあること、また脳の萎縮についても右脳と左脳で異なる結果が出て理由が全くの不明であることなど、疑問点は多く残ります。

とは言え、飲酒が身体に与える悪影響については各所で報告されています。

こちらの研究(外部PDF資料)では、脳の萎縮とあわせて、脳卒中リスクについて言及しています。

また、こちらの研究では、飲酒が人間のDNAにダメージを与える、としています。

https://www.nature.com/articles/nature25154

この研究は、アルコールが分解される途中に出る毒物(アセトアルデヒド)に着目して、DNAへのダメージについて研究がされました(アセトアルデヒドはDNAやタンパク質に損傷を与えることが、実験室レベルで示されています)。
この研究はマウスベースでの研究であり、人への適用は難しいものの、人体への悪影響について一定の示唆が得られます。

研究では、アセトアルデヒドの毒性を防ぐ仕組み(アセトアルデヒドの分解、DNAの損傷の修復の2つ)を阻害した所、マウスの細胞が機能不全に陥ることが示されました。


これらの通り、お酒と認知症リスクの関係は、まだわかっていないことが多くあります。

飲酒習慣のある高齢者は健康である傾向があり、運動習慣以上に相関性が高い、という研究もあったりする程です。

いずれの研究も因果関係と相関関係の問題がありますし、「適度」の認識が定まり切っていない点など不明点だらけです。

現状では、常識の範囲内で「適度に」お酒を楽しむのが吉であろうというのが言える所だと考えられます。

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生産性・業務効率化

長時間の「座りっぱなし」の悪影響は?解消方法は?

現代社会において、長時間の「座りっぱなし」をせざるを得ない人は多いでしょう。
そして、この長時間の「座りっぱなし」は健康面に様々な悪影響を与えるとされています。
そのため、一部ではスタンディングデスクがブームになっている程です。
今回は、この長時間の「座りっぱなし」の悪影響と解消方法について見ていきます。

長時間の座りっぱなしは健康に悪影響を与える

現代は、人々にとって圧倒的に座る時間が長い時代です。

この「座りっぱなし」は、一般的に健康に悪影響を与える、と言われています。

https://www.latimes.com/health/la-xpm-2013-may-25-la-he-dont-sit-20130525-story.html

いわく、椅子に座る時間が短い人と座りっぱなしの人を比較した時、座りっぱなしの人には次のようなリスクが出るとのこと(下記のようなリスクが%分、増大するとのこと)。

  • 糖尿病:112%
  • 心血管系疾患:147%
  • 心血管系による死亡:90%
  • 原因不明の死亡:49%

そのため、頻度高く生活の中に運動を取り入れることが推奨されています。

その悪影響は運動で解消できるのか否か?

それでは、その運動の効果ですが、一部の研究では、散歩程度のジョギングでも、この座りっぱなしのによる悪影響を解消できるとしています。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25931456/

実験では、加速度計で記録されたカウント数/分を基に、座位(100未満/分)、低強度(100~499/分)、軽強度(500~2019/分)、中等度/強度(2020以上/分)の活動の継続時間を定義し、それぞれの死亡率について調査がされました。

その結果、低強度や軽強度で、相当な死亡リスクの解消につながることが示されました。
(中等度/強度はデータ数が少なく、統計的な結果を示せなかった。)

また、座る時間を減らして、何かしらの運動を短時間取り入れるだけでも、一定の効果があることも示されました。

ただ、運動によるリスク緩和効果について、疑念を示す研究も一部で出ています。

https://www.theatlantic.com/health/archive/2016/08/the-new-exercise-mantra/495908/

つまり、運動で座りっぱなしによる悪影響を解消できるか、一定の効果があるのは確かなようですが、研究途上だ、というのが現時点での答えのようです。

一方で悪影響自体が無いという研究も

ただ、一方で本当に座りっぱなしにより悪影響があるのか?というそもそも論を指摘する研究もあります。

https://academic.oup.com/ije/article/44/6/1909/2572591

研究では、様々な「座りっぱなし」の行動パターンと、運動パターンについて数千名の被験者を対象に調査を行いました。

その結果、長時間の「座りっぱなし」と死亡リスクには相関が見られない、ということが示されました。

シンプルに、「座りっぱなし」が悪いのではなく、「運動不足の状態が長く続くこと」に問題がある、と研究では指摘されています。
(その意味で、上述の「その悪影響は運動で解消できるのか否か?」で示した肯定的な結論を支持しています。)


オフィスワーカーにおいて、長時間、座りっぱなしになってしまうことは致し方がないことでしょう。

精々、定期的にストレッチ程度でも良いので、軽い運動を取り入れる、ということができる程度です。

そしてこれは一つの有効な解決策です。

また、健康のため意図的にまとまった運動の時間を確保し運動不足解消に努める、というシンプルな解決策も有効と総合的には考えられ、要検討事項です。

何はともあれ、生活の中で身体を動かすことを意識づけることが重要であると言えます。

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生産性・業務効率化

スタンディングデスクの効果は科学的に正しいのか?

最近は健康効果等々をうたい、スタンディングデスクが一部で流行しています。
効果としては、立っているが故に座りっぱなしよりカロリー消費が多い、集中力を維持できるといったものが語られています。
果たして、これらの効果は科学的に正しいのでしょうか?

カロリー消費効果は確かにある

デスクワークを行っている人にとって、長時間、席に座り仕事をし続けることは当たり前の風景です。

場合によっては、間に挟む休憩や会議の移動時間以外、座りっぱなしということもあるでしょう。

一部の研究では、1日に数時間座りっぱなしだと長期的な死亡リスクが大幅に増大する、という結果も示唆されています。

そのような背景もあり、スタンディングデスクが一部で流行しています。

そして、カロリー消費という観点で見ると、スタンディングデスクの効果は確かにあるようです。

こちらで紹介されている研究では、スタンディングデスクとカロリー消費との関係について調査がされました。

https://www.kqed.org/mindshift/38120/how-standing-desks-can-help-students-focus-in-the-classroom

数百名の学生に、スマートウォッチを装着してもらい、普通の座席、スタンディングデスク別にカロリー消費の傾向を測定しました。

その結果、スタンディングデスクを選択した肥満、もしくは肥満気味の学生に関しては、普段よりカロリー消費が多いことが示されました。
また、別に行われた調査で、長期的に集中力が維持される傾向も示されました。

認知力向上の効果もどうやらあるっぽい

上述の研究では、集中力の維持についても効果があることが示唆されましたが、こちらの研究では認知機能についても調査されています。

https://www.mdpi.com/1660-4601/13/1/59/htm

数十名の学生を対象にスタンディングデスクを使用してもらい、認知機能を測定するテストを受験してもらいました。

その結果、スタンディングデスクの使用により認知機能の向上がある、ということが示されました。

まだ研究途上であり言う程のものではないかもしれない

ただ、これらの研究にはまだまだ課題があります。

フィンランド労働衛生研究所で行われたメタ研究では、スタンディングデスクが健康に良いという証拠はないとしています。

https://www.cochrane.org/CD010912/OCCHEALTH_workplace-interventions-methods-reducing-time-spent-sitting-work

論文が指摘している点として、多くの研究が規模が対象が小さい、期間が短い、実験が無作為化されておらず統計的に問題がある、等の理由があげられ、それにより、効果があると言い切るには科学的に不十分としています。

実際、1番目に紹介した研究は、カロリー消費の増大効果は「肥満」の学生で見られており、通常の学生では顕著ではなかったこと、座る椅子は自由に選択できて実験の設計が十分にコントロールされていないといった点が指摘できます。
更に、スタンディングデスクにより増大するカロリー消費も、精々、間食で食べるお菓子をちょっと我慢すれば良いレベルのものです。

2番目の研究も、そもそも研究の前提が「予備的調査」であり、対象群の設計等が不十分であることは研究者も認めています。


スタンディングデスクの効果が全くない、とは思いませんが、現状では言う程の効果はないのではないか?と考えるのが自然のように思います。

少なくとも、スタンディングデスクという、通常のデスクより高額なものに投資する位であれば、日常生活に散歩程度でも良いので運動機会を増やす方が効果的であるように考えます。

運動不足はシンプルに身心に悪い、という原則に立ち返り、当たり前のことをするのが現時点では良いと言えるでしょう。

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生産性・業務効率化

マインドフルネスについて、実は現状でわかっていることはそんなにない

マインドフルネスという言葉は、近年の情報化社会や悩み多き生活を背景に、急速に浸透しています。
数多くの研究が、マインドフルネスが身心の健康や認知能力の向上等にプラスの影響があるとしていますが、実は批判も多くあります。
今回は、このマインドフルネスについて、実は現状でわかっていることはそんなにないよ、という話をします。

マインドフルネスとは

マインドフルネスとは、「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」と定義され、現在において起こっている経験に注意を向ける心理的な過程であり、瞑想およびその他の訓練を通じて発達させることができる、とされています。
(なお、この定義自体が明確に幅広く合意されているわけでもない。

現代は情報化社会であり、また多くの悩みが生活を取り巻く、そのような背景もあり、お手軽な成功のためのツールとして急速に浸透しています。

また実際に、多くの研究が身心の健康や認知力の向上等にプラスの影響がある、という報告をしています。
研究によっては、多幸感を得られたり、加齢に影響を与える染色体の劣化防止にも寄与する、という報告を行っているものもあります。

それでは、何が問題なのでしょうか?

マインドフルネスの問題点

こちらの論文では端的に「科学的な裏付けがほとんどない」と指摘をしています。

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1745691617709589

マインドフルネスや瞑想に関する研究の多くは、研究や実験の設計が不十分であり、またマインドフルネスというもの自体の定義も明確でなく、プラシーボ効果を排除するための対象群もないことが多いとのことです。
ようは、科学的根拠よりも、誇大広告の要素が大きい、もっと言うと金銭のために過剰にマーケティングされている、と言及されています。

  • マインドフルネスに基づく研究のうち、対照群を含む臨床試験で検証されたのはわずか9%程度
  • 複数の大規模なプラセボ対照メタアナリシスでは、マインドフルネスの実践はしばしば印象的な結果をもたらさない
  • 2014年に行われた47件の瞑想試験のレビューでは、3,500人以上の参加者を対象に、注意力の向上、薬物乱用の抑制、睡眠の改善、体重のコントロールなどに関する効果を示す証拠は基本的に見られなかった

全く役に立たない、という意味ではない

補足をすると、研究者たちは「マインドフルネスが役に立たない、ということを意味するものではない。」としています。
つまり、現時点でマインドフルネス研究が示している多くのプラスの効果について、科学的な厳密性が不足している、ということです。
研究者たちは「実験介入による悪影響(プラシーボ効果)のモニタリングを含んだ研究が25%以下であることを懸念しているが、この分野が前進するにつれ、この数字が増加することを期待している。」ともしています。

これらの話をまとめると、マインドフルネスが身心の健康や認知能力の向上に寄与することは確かなのでしょうが、それがどの程度のものなのか、実際には不明と言えます。

現状では、実践をするにしても、過度に依拠しないようにするのが良いと感じます。

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生産性・業務効率化

適度な運動は睡眠不足による悪影響を相殺する可能性がある

現代人にとって、睡眠不足は質の悪い友達のようなものです。
睡眠不足が認知機能の低下や、健康状態の悪化など、様々な悪影響を及ぼす、ということがわかっていたとしても、良質な睡眠を純分にとることは贅沢な世の中です。
そのような中、適度な運動が睡眠不足による悪影響を相殺する可能性が示されました。

運動と睡眠による健康への影響を調べた長期研究

シドニー大学の研究チームは、次のような調査を行いました。

https://bjsm.bmj.com/content/early/2021/05/25/bjsports-2021-104046
  • 380,055人の中年成人を対象に分析を行った
  • 調査では身体活動のレベルと睡眠の状況について調査された
  • 身体活動レベルは世界保健機関(WHO)のガイドライン(※)に基づき、高、中、低、中度から重度の運動無しに分類
  • 睡眠は、総合的な睡眠スコアを用いて、健康、中間、不良に分類
  • これらに基づいて、12種類のパターン別に11年後の疾病状況等について追跡調査を行った

※ WHOのガイドライン

ガイドラインの上限は、週に300分の中強度の運動、または150分の激しい運動、またはその両方。
ガイドラインの下限は、週に150分の中強度の運動、または75分の激しい運動、またはその両方。
中強度の運動とは、通常、数分間継続すればわずかに息が切れる程度のもので、早歩きやゆったりとしたペースでのサイクリングなど。
激しい運動とは、通常、息が切れるほどで、ランニング、水泳、テニス、ネットボール、サッカー、フットサルなどのスポーツのこと。

適度な運動は睡眠不足による悪影響を相殺する可能性がある

11年後の長期追跡調査の結果、非常に興味深いことが判明しました。

(追跡調査の段階では、15,503人の参加者が亡くなり、そのうち4,095人が心臓病で、9,064人ががんで亡くなりました。)

結果、健康的な睡眠をとっている人に比べて、睡眠不足の人は、早死にするリスクが23%、心臓病で亡くなるリスクが39%、がんで亡くなるリスクが13%高くなることが示されました。
また、運動量との比較では、心臓病やがんで死亡するリスクが高かったのは、睡眠状況が不良で、WHOの身体活動レベルのガイドラインを満たしていない人たちでした。

一方、睡眠不足であったとしても、ガイドラインを満たす身体活動を行っている人は、睡眠不足でガイドラインを満たしていない人に比べて、心臓病やがんで死亡するリスクはそれほど高くはない、という結果が示されました。

つまり、WHOガイドラインの下限値を満たす身体活動レベルであれば、睡眠不足による健康被害の悪影響を、一定程度軽減、または解消できることがわかったのです。

WHOガイドラインの下限値を満たす身体活動レベル:週に150分の中強度の運動、または75分の激しい運動、またはその両方

注意点、もしくは懸念

この研究の問題は、観察研究であるが故に、あくまでも相関性が示されただけ、という点にあります。
メカニズムもわかっていませんし、因果関係も示されています。

つまり、運動できるだけの、そもそもの気力、体力、健康がある人が運動をしているだけで、実は関係が無い、という可能性がゼロではないのです。

とは言え、各種の研究により、運動が健康にプラスの影響を与えることは一定わかっている話ですので、上述の話には、高い水準で信ぴょう性があると考えられます。

運動がメンタルに対してもプラスの影響を与えることも、同様の観察研究で示されているので、心身ともに健康的な生活を送りたいのであれば、適度な運動は必須と言って良いでしょう。

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