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生産性・業務効率化

頻繁なメールチェックをやめるとストレスが軽減するという研究

メールやSlackのようなチャット・ツールが当たり前になり、頻繁にデジタル・コミュニケーションのためのツールを確認する習慣がついている人は多いでしょう。
しかしながら多くの研究がマルチタスクの弊害を否定しています。
実際に、頻繁なメールチェックをやめるとストレスが研究するようです。

メールチェックの「断食」の実験

ドナルドブレンスクール(カリフォルニア大学アーバイン校)の研究チームは、メールチェックの「断食」を行うと、ストレスが減り、集中力が高まることを示しました。

https://news.uci.edu/2012/05/07/email-vacations-decrease-stress-increase-concentration/

研究チームは、被験者に心拍数モニターを装着してもらい、仕事中のウィンドウを切り替える頻度をソフトウェアセンサーにより検出を行いました。

メールチェックを頻繁に行う人はストレスが多い

その結果、メールチェックを頻繁に行う人は、画面を切り替える頻度が2倍になっており、心拍数も「厳戒態勢」で安定化してしまっていることがわかりました。
(電子メールを使用するグループは平均37回/時間の画面切り替え、一方で使用しないグループは平均18回/時間の画面切り替えだった。)

一方、メールチェックの5日間の「断食」を行った人は、自然な心拍数を維持していたことが示されました。

つまり、電子メールを生活から排除するとマルチタスクが減り、ストレスが減少するのです。
(心拍数が「厳戒態勢」で安定化してしまっている人は、ストレスに関連するホルモンであるコルチゾールの分泌が多いことがわかっている。)

現実社会のデトックスは悪影響が多いですが、デジタル・デトックスに関しては、高い検討の価値があるかもしれません。

この研究は、マルチタスクの主な要因が電子メールにある、という過去の研究をベースにしたものです。

マルチタスクは感情をネガティブにさせる

この種の研究は多く、別の研究ではマルチタスクは感情をネガティブにさせることを示しています。

この研究では、メールチェックへの返信を期限付きで行うタスクを2つのグループにわけた被験者に課しています。

一つ目のグループは、メールの受信は一括でありマルチタスク性が緩い条件で、もう一つのグループは、メールの受信が断続的であり、強制的にマルチタスク性が高まる条件です。

いずれも期限付きの条件ですが、マルチタスク性が高い条件では、人の感情をよりネガティブにさせることが示されました。


現代社会はデジタル・コミュニケーションが容易な環境にあります。
しかし、それは自然と高いストレスを誘発するものです。

意図してデジタル・コミュニケーションの環境から離れる、という取り組みは(それが許されるのであれば)心身の健康に有用と考えられます。

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マルチタスクを行うと生産性の低下のみならず感情をネガティブにする

マルチタスクの弊害は各所で語られています(下記記事も参照)。
生産性の低下(IQの低下)や疲労の蓄積等が代表的な弊害ですが、どうやら感情をネガティブにする側面もあるようです。
複数大学が協働して行った研究を見ていきましょう。

マルチタスクは感情をネガティブにする

複数大学の研究チームは次のような調査を行いました。

https://dl.acm.org/doi/abs/10.1145/3313831.3376282
  • 26人の被験者を対象とした
  • 被験者には期限付きの小論文の課題を与えた
  • 課題に取り組んでいる間に、2つのパターンでメールを送信し、感情の変化を映像で分析
  • パターン①:一括でメールを受信し、期限付きで即時に返信するように指示を与えた
  • パターン②:断続的にメールを受信し、同様に期限付きで即時に返信するように指示を与えた

その結果、パターン①の一括でメール返信した被験者の表情は、ニュートラルな感情を保っているものの(悲しみの感情も一部で見られた)、一方でパターン②の断続的にメール返信した被験者は、悲しみや怒りの感情、また恐怖心も混在していることが示されました。

(被験者の表情は、研究者が主観で判断したものではなく、AIによる判定が行われていたので、精度は高いと考えられる。)

つまり、マルチタスクは、生産性の低下のみならず、精神に負担をかけストレスを増加させ、感情をネガティブにすることが示されたのです。

どのように対処すれば良い?

まず研究者たちは“バッチ処理”を推奨しています。

例えば上述のようなメールに対する返信であれば、返信をするタイミング・時間を決めて、一括で返信を行うようなものです。

とは言え、現実の仕事において、横やりが入ることは珍しくないです。

特にオープンオフィス環境は、集中力を中断させる要素が非常に多く、研究者たちも懸念を示しています(下記記事も参照)。

企業ができるのは、例えばリモートワークやブースで区切られた半個室のようなものを用意し、集中して作業に取り組める環境を用意する一方、従業員間でコミュニケーションが取れるような空間や時間も用意し、適切に使い分けられるような環境やルールを制定することでしょう。

適切で生産性の高い労働環境を構築するためには、上述のような知見をインストールし、使い分けられるようになることが求められると考えられます。

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マルチタスクは本当に生産性を下げるのか?~一流の経営者が同じ服を着る理由~

マルチタスクは人間の生産性を下げてしまう、というのが現在の知見です。
しかしながら、マルチタスクからは中々逃げられないのが現代社会の宿命です。
ここではマルチタスクは本当に生産性を下げるのか?をテーマに複数の論文・記事を横断レビューしていきます。

これを読めば、一部の一流経営者が同じデザインの服を着ている理由がわかります。

マルチタスクは生産性を下げる

マルチタスクについては、研究の歴史がそれなりにあり、1960年代から心理学領域を中心に様々な実験がされてきました。
マルチタスクを継続して行うことにより、人間の能力が向上するのではないか?という仮説があったからです。

結論を先に言ってしまうと、マルチタスクは人間の生産性を大きく下げます。
こちらの記事(マサチューセッツ工科大学)では、マルチタスクを行っている時の人間の脳は、複数のことを同時並行して処理しているのではなく、1つのタスクを短い間集中して処理することをひたすら繰り返しているだけにすぎない、としています。
しかも、脳のリソースそのものはフル稼働している状態で、別のことを繰り返して処理しているため、1つのタスクにふりわける脳のリソースは大幅に低下してしまいます。

これがマルチタスクをすると生産性が大きく下がってしまう原因です。

生産性低下のみならず、疲労と認知機能低下を招く

更に悪いことに、マルチタスクを行っている間は高い集中力を要するため、脳内の神経科学物質をガンガン消費します。

結果、短い時間で「頭が動かない」「疲れた」と感じてしまうのです。
これは多くの働く人が経験したことがあるでしょう。

こちらの研究(英サセックス大学)では、PCやスマートフォンなど、複数のデジタル端末を同時によく利用する人と、そうでない人で比較し、複数端末の同時利用者の脳の一部(前帯状皮質灰白質)の密度が小さくなっていることが示されています。
研究では、この脳密度の低下が脳の認知機能の低下や、社会的感情の悪化を招いているのでは?としています。

こちらの記事(マギル大学)では、上述のマサチューセッツ工科大学や英ロンドン大学、カリフォルニア大学などの研究を横断的にレビューし、現代社会がいかにマルチタスク環境下におかれ、人間にストレスを与えているかを解説しています。
例えば、スマートフォンの不在着信一つをとっても、かけた側が「返信が来るに違いない」、うけた側も「折り返しかけないと」と、意識を不在着信にとられてしまうため、一見大したことが無いように思えても、脳のリソースが奪われるとしています。
メールの返信一つ(返信をする、しないの意思決定)にしても、重大な意思決定に使う脳のリソースと大きく差が無いため、雑事に気を回すと、どんどん生産性を低下させていきます。
そのため、このようなマルチタスク環境下にあると、IQ10ほど低下させてしまう、としています。

重要ではない意思決定に脳のリソースを奪われたくない。本当に大切なことに限られた脳のリソースをまわしたい。これ (服を選ぶという意思決定を削減する) が、一部の一流経営者が、毎日同じデザインの服を着る理由でもあります。

悪いとわかっているのに何でやめられないの?

上述したマサチューセッツ工科大学の解説によると、私たち人間が文明を持つ以前の生活に起源があるとしています。

現代社会は極めて安全ですが、猿の時代や、原始時代はそうではありません。
周囲は危険にあふれており、常に気を配っていないと、そもそもの生存がおぼつかない状況です。
そのため、マルチタスクに向いていない生理的性質があるにも関わらず、生存本能の観点でマルチタスクを行ってしまうのでは?としています。

また、マルチタスクを行い、複数のタスクを消化していくことが、麻薬的な報酬を脳を与えてしまうのでは?という意見もあります。

ただ、どうやらトータルのパフォーマンスはあがる可能性がある

これまで、マルチタスクが如何に人間に悪影響をおよぼすかを書いてきましたが、本当に弊害しか無いのでしょうか?
どうやら、弊害だけではなく、マルチタスクは人間のトータルのパフォーマンスを引き上げる可能性が示唆されています。

こちらの研究(ミシガン大学)では、マルチタスクを行っているという認識そのものが、人間のパフォーマンスをあげる可能性を示しています。
過去の研究の蓄積として、人間は処理するタスクの難易度があがると、努力しようとするモチベーションや、認知制御機能が向上することが示されていました。
そのため、この部分が上述のマルチタスクを行っているという認識そのものが、人間のパフォーマンスをあげる可能性につながってきます。
実験ではシングルタスクとマルチタスクのグループにわけてタスクを処理した結果、マルチタスクを行っているグループの中でさらにマルチタスクを行っていることを認識していた被験者の集中力が高かったことが示されました。

この研究は、まだ蓄積がすくなく確かなことは言えませんが、一定経験則とも合致する部分があります。

一日のはじめの、「今日やることリスト」をズラッと並べてから仕事にとりかかると、高い生産性を出せた経験は多くの人にあるでしょう。
「今日やることリスト」は一種の「マルチタスクを行っていることの認識」につながるため、これが集中力の向上につながる可能性があります。

(おまけ)女性も男性も等しくマルチタスクには向いていない

なお、以前から、女性はマルチタスクが得意(だから家事育児に向いている)という考えがありましたが、これは誤りです。
こちらの研究(ロンドン大学)で、マルチタスクの性差影響が調査されていますが、差が無いという結論が出ています。

人種だとか、性別だとか、年齢だとか。
そのようなものに縛られず、偏見なく、一人ひとりが自分自身が本当に実現したいことに素直にまい進できる世界が早く来ると良いですね。

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