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経営企画

人は「安全」な状況では却って高リスクな行動を取る傾向がある

企業は、組織運営の中で様々なセキュリティ運用やリスクヘッジ処置を行っています。
何かしらのインシデントが発生した場合、状況によっては会社の屋台骨に影響を与えてしまうからです。
しかし、どれだけセキュリティを高めたりリスクヘッジを行ったとしても、最後のリスクである「人」という存在がいます。

今回は、人は「安全」な状況では却って高リスクな行動を取る傾向がある、という話をします。

シートベルトの着用と運転行動の実験

TNOというオランダ、スーステルベルグにある研究機関の研究者は、シートベルトの着用と運転行動との関係について実験を行いました。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/0001457594900957#!

内容としては、車のドライバーを対象をシートベルトの着用の観点でグループ分けし、運転行動にどのような変化が起きるのか?を調べるものです。

  1. 1年間、自動車事故を起こさないことに対してインセンティブを与えたグループ
  2. 習慣的にシートベルトを着用しているグループ(対象群①)
  3. 被験者がシートベルト着用について約束をしたグループ
  4. 習慣的にシートベルトを着用しないグループ(対象群②)

その結果、1つ目のグループ(インセンティブグループ)では、より慎重で安全な運転を行うような変化が期待されていましたが、特段の変化は見られませんでした。
つまり、インセンティブがあったとしても、安全な運転行動を行うような変化は起きなかった、ということです。

また、3つ目のグループ(シートベルト着用強制/約束グループ)では、逆に速度の増加や車間距離を詰めるといった、危険な運転行動の増加が見られました。

これらをまとめると、リスクを減らしたいからといって、インシデント発生の防止に対してインセンティブを与えても期待する効果は得られず、また、セキュリティを高めた場合、却って高リスクな行動を取る傾向があると言える、ということです。

現実のセキュリティ施策/リスク管理においてどうするべきか?

上述の実験結果は、セキュリティ管理部門、リスク管理部門においては望ましくない知見です。

インセンティブを与えてもリスクは減らず、セキュリティを高めれば従業員が高リスク行動を平気で取るようになる可能性があるからです。
(セキュリティ管理部門やリスク管理部門は、「人は必ずミスをする生き物だ」という前提で、「頑張って気をつける」というありがちな対応に頼らないセキュリティ施策/リスクヘッジ施策をとっているはずです。もしかしたら、これが却って高リスク行動を誘発する要因になっている可能性がある、ということです。)

それでは、人は「安全」な状況では却って高リスクな行動を取る傾向がある、という前提を踏まえた上で、如何に対処すべきでしょうか?

一つ言えることは、やはり教育しか無いのだろうな、という点です。

どのように対処したとしても、最後のリスクは「人」であると。
また、「人」の性質として、上述のような行動傾向があるのだ、という点もきちんと認識してもらうのが効果的であると考えられます。

知るという行為は非常に強力な武器となります。
「安全」であると妄信してしまった時、知識は改めて原点に振り返り自身の行動を見直すきっかけに(わずかでも)なるはずです。

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生産性・業務効率化

リスクを取れる能力を身に着けるためには?

いわゆる“成功”のためには、適切にリスクを取ることが必要とされています。
しかし、多くの方がマイナスのリスクを過大に評価し、現実実際の行動に移せていません。
ここでは、リスクを取れる能力を身に着けるためのヒントについて考えていきます。

チェスを学ぶとリスクを取る能力が高くなる?

好意を持っている人へのアプローチや、難しい仕事・新しいことへのチェレンジは、多くの人がやりたいと思うものです。
しかし現実には、マイナスのリスクを過大に評価し、“成功”を逃してしまう人が少なくありません。

この、いわゆる“成功”のためには、適切にリスクを取ることが必要とされていますが、では、リスクを取れるようになるためには、どのようなことが必要なのでしょうか?

非常に興味深い研究があります。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0304387820301905

研究の内容は次のようなものです。

  • 15歳・16歳のチェスをしたことが無い400人の学生を対象に研究
  • 学生にチェスを教え、1年間にわたり認知能力を評価した
  • チェスを学んだ学生はリスク回避の傾向が低減し、リスクを取れるようになった
  • また、数学のスコアが向上し、論理的・合理的思考能力も向上した
  • リスク回避低下の傾向は1年後でも維持されており、効果が長期的に持続することがわかった

ようは、チェスのような勝利のためには一定のリスクを取らなければいけないゲームを学ぶことにより、適切にリスクを取れるようになる可能性がある、ということです。

リスクは取るのが馬鹿馬鹿しいものもありますが、この研究では、取る価値の無いリスクについては適切に回避する、つまりはリスク評価のスキルも身についていたことが指摘されています。

一方、その他の学業成績や創造性、集中力等には有意な効果が無いとされています。

この知見を活かすには?

それでは、この知見を活かし、リスクを取れる能力を身に着けるためにはどうしたらよいでしょうか?

考えられることとしては、訓練、それも容易にリスクを取る訓練ができるゲームの類を練習することは良いかもしれません。
(なお、上の研究では、対象が若い学生でしたが、成人においても効果がある可能性は十分にあります。)

チェスに限らず、勝敗を決める類のゲームは、一定のリスクを取る必要があるものが多いです(運に頼るものは除く)。
また、ゲームの対象も、スポーツに広げることは考えられます。
例えばテニスのようなスポーツですと、技術もそうですが、一定のリスクテイクは勝利を掴むためには必要です。

仮に失敗したとしてもダメージが少ないものを教材に、リスクテイク、リスク評価の訓練を行ってみるのは如何でしょうか?

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フェルミ推定・ロジカルシンキング

ゼロリスク症候群から脱却しよう~大事なのは定量思考~

世の中には、リスクを過剰に評価するあまり、判断をあやまる人が大勢います。
その結果論として多大な損失を被るという事例も多くあります。
ここではゼロリスク症候群に脱却の方法とあわせて解説していきます。

ゼロリスク症候群とは

ここで言うリスクとは、一定程度、危険が発生する確率が予測できるリスクや、危険の発生確率が読めない不確実性も含み、まとめてリスクと呼ぶことにします。

リスクは怖いです。
損をするのは誰しもが嫌がりますから、当然の話です。
そのため、リスクを低減するための活動は当たり前に行われます。

リスクがおきる可能性を100%から10%に減らすエネルギーと、10%から1%、1%から0%に減らすエネルギーをそれぞれ比較すると、どうなるでしょうか。
当然、下記のように、リスクを減らそうとすればするほど、必要なエネルギー、つまりコストが高くなります。

1%から0% > 10%から1% > 100%から10%

あくまでも理性で物事を考えれば、どこかで割り切って考え、意思決定を下す必要があります。
しかし、人間という生き物は不思議なもので、コストを度外視してゼロリスクを求める傾向があります。
リスクの絶対値、つまり期待値を見ず、小さなリスクの割合を更に減らすことを求める傾向があるのです。
特に、1%から0%の領域にこだわる点が指摘できます。

リソースが無限にあり、コストをいくらでもかけられるのであれば、リスクは0%に近い方が良いでしょう。
しかし、現実社会で0%のリスクなど存在しませんし、求めても意味がありません。
それでも人間は0%のリスクにこだわってしまうのです。

それにより、チャレンジをしないことにより幸せな人生を送れなかったり、既存事業だけにしか投資しない会社が衰退したり、エネルギー政策においてポートフォリオを誤り環境負荷を高めたり、感染症において対策を誤り間接的被害を広げたりするのです。
つまり、0%のリスクにこだわることは社会に対して多大なコストをかけてしまうのです。

この、本来の目的を忘れて、手段が目的化してしまい、0%のリスクにこだわることを「ゼロリスク症候群」と呼びます。
リスクは正しく認識し、対処する必要があります。

どういう要素に人はリスクを感じるのか?

そもそもとして人は、どのような要素や状況に対してリスクを感じるのでしょうか?
『「ゼロリスク社会」の罠 「怖い」が判断を狂わせる (光文社新書)』という書籍の中で解説されていた研究内容によると、人々はリスクを感じる10の認知因子があるということです。

10のリスク認知因子事例
(1)恐怖心恐怖により発生確率が低いことに対してリスクを過剰評価する
(2)制御可能性自分でコントロールできないことのリスクを過剰評価する
(3)自然か人工か添加物が含まれた食品を怖がり、自然の食べ物を好む
(4)選択可能性選択肢が少なかったり選べないとリスクを過剰評価する
(5)子どもの関与子どもなど自分の親族が関与するとリスクを過剰評価する
(6)新しいリスク新型コロナウイルスなどの新しい脅威を過剰評価する
(7)意識と関心メディアによる報道などによりリスク評価を誤る
(8)自分に起こるか自分が損失をうけるリスクを過剰評価する
(9)リスクとベネフィットリターンがあるリスクはリスクを過少評価する
(10)信頼リスクの説明をする人に対する信頼が低いとリスクを過剰評価する
10のリスク認知因子

直近の新型コロナウイルス騒動に照らし合わせて考えると、非常に当てはまります。

  • 恐怖心:感染し、最悪死に至る確率を考えると、その確率は非常に低い
  • 制御可能性・選択可能性:どうしてもリモートワークができない場合に感染リスクを制御しづらい
  • 新しいリスク:正に該当
  • 意識と感心:メディアにより繰り返し繰り返し報道されている
  • 自分に起こるか:自分が感染し、多大な健康被害をうける可能性がある
  • 信頼:名だたる大企業が率先してリモートワークに対応するなどしている

この通り、10のリスク認知因子の多くに当てはまっているのです。
インフルエンザなどでは多くの人がリスクを過小評価している点を考慮すると、「意識と感心」、つまりメディアに大きな原因があることが推測されます。

このように、どのような要素や状況に対して人がリスクを感じるのかがわかれば対策のしようがあります。

定性思考から定量思考へ

上述、10のリスク認知因子別に、どのようにリスクに対して考えていくかをまとめました。

恐怖心

リスクの発生確率を定量的に把握し、冷静に見極めましょう。

飛行機が墜落することを怖がる人がいたとしましょう。
行機が墜落する確率は0.0009%と言われています。
一方、自動車関連の交通事故に遭遇する確率は1年で0.5%程とされています。
飛行機を怖がるより、日常的に交通安全に気を配るべきです。

雷にうたれることを怖がる人がいたとしましょう。
生涯のうち、雷にうたれる確率は0.0000001%です。
心配しても仕方がありません。

制御可能性、選択可能性

リスクをコントロール下に置くか、選択肢を増やすか、気にしないと素直に割り切りましょう。

アンコントローラブルな事象は世の中たくさんあります。
アンコントローラブルなことに気を取られても意味がありません。
この領域はあくまでも、どれだけのリスクがあるのか、定量的把握するにとどめて、あとは割り切りましょう。

それ以上に、リスクを自身のコントロール下におき低減活動を図れたり、選択肢を増やし、よりリスクが少ない方法をとれる領域にフォーカスすべきです。

自然か人工か

天然の物は安全で人工物は危険、という考えは捨てましょう。

これは特に食品やエネルギー問題で顕著です。
天然の植物にも毒を持つものは多くありますし、肉や魚介類には寄生虫がいる場合や、純粋に食中毒リスクもあります。
うま味成分を、「グルタミン酸ナトリウム」と聞いたら、突然拒否反応を示す人もいますが、これはただの無知、化学アレルギーです。

また、安全なものであっても摂りすぎれば健康被害を起こす場合があります。
大事なのは、どれだけ摂らねばならないのか、どれ以上は摂ってはいけないのかを定量的に把握することです。

子どもの関与

気持ちはわかりますが冷静になりましょう。

私も人の親なので、重々理解はできるのですが、大事なのは定量的な情報です。
感情に左右されて、判断を誤るのは愚かです。

新しいリスク

確率が読める部分にフォーカスして対処し、読めない部分は素直に割り切りましょう。

確率が読める部分に関しては、冷静のその確率を定量的に把握し、そこにフォーカスしましょう。
確率が読めない部分は、気にしても仕方が無いので、素直に割り切りましょう。
制御可能性、選択可能性と同様の考えです。

意識と関心

メディアの報道や流行は偏っていると認識しましょう。

繰り返し報道されている、人々が盛んに言っている内容であっても、それが真実であったり、本当に重要なこととは限りません。
常に偏っている、間違っている、という前提にたって、溢れる情報に接するようにしましょう。

自分に起こるか

むしろ積極的にリスクテイクをすべきです。

特にビジネス領域に関して言えることですが、虎穴に入らずんば虎子を得ず、です。
チャレンジなしに成長や成功はありえません。
とれるリスクは積極的にとり、リターンの獲得を狙うべきです。

リスクとベネフィット

リスクとリターンのバランスを冷静に、定量的に把握しましょう。

ベネフィット、つまり利益に目がくらみリスク判断を誤ることが無いようにする必要があります。
どれだけのリスクがあって、それに対してどれだけのリターンが得られるのか。
このバランスを評価したうえで、リスクテイクするのか否かを意思決定するようにしましょう。

信頼

誰が言ったか、ではなく、何を言ったか、で判断するようにしましょう。

自分が信頼する人であっても間違える可能性があります。
何を言ったか、が重要です。
何とか博士とか、有名な芸能人とかの言っている事も基本的に疑ってかかる必要があります。
リスクに対する説明が、一個人の経験や推測によらず、あくまでも事実に基づいた定量的なものなのかが重要です。

定量思考を身に着けよう

これまで書いてきた通り、リスクというものは0%にはできません。
繰り返し書いてきましたが、大事なのはリスクを定量的に把握することです。

何がどれだけ危険なのか?
リスクを下げる、もしくはリスクを一定のラインに維持するには、どれだけのエネルギー、つまりコストを投下する必要があるのか?

ゼロリスク症候群に陥っている人は、どうしてもリスクはある、ということにこだわってきますが、そこを気にしても仕方がありません。
感情的にリスクを忌避するのではなく、正しくリスクを評価し、とれるリスクはとりリターンを得ていくべきです。

繰り返しますが、大事なのはリスクを定量的に把握すること、つまり定量思考です。

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