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マーケティング

広報(PR)のKPIの考え方

今回は広報(PR)業務におけるKPIの考えた方についてです。
結論、PRに適切なKPI設定の考え方は存在しません。
しかし、一定、工夫の仕方はあります。
今回は、このPRにおけるKPIの設定の工夫、これについて見ていきます。

KGI・KPI・KAI

KPIの重要性については、こちらの冒頭でも触れているので、参考に。

このKGI・KPI・KAIを認識した前提で考えた時。

例えばですが、下記のような指標設定を考える事ができます。

KGI:年度終わり時点で会社組織の認知度を〇%高める

KPI:
① SNS公式アカウントのフォロワー〇万人に
② コーポレート・サイトのCEOブログPVを〇〇,〇〇〇に
③ 展示会等のイベントで登壇機会を〇回設定(総計〇,〇〇〇人に自社PRを実施)
④ リリースを〇回実施(総計露出〇〇,〇〇〇)

KAI:
① SNS公式アカウントからの発信を〇回/日
② コーポレート・サイトへのCEOブログを週〇回掲載
③ ターゲット・イベントの、主催者との関係性構築、交渉の定期実施
④ 隔週でサービス開発との対外発信前提でのmtgの実施

ただ、これらは本当に一例であり、絶対的な、こういう指標さえ置いておけば良い、というものは存在しません。

他にも、よくあるPRのKPIとしては、例えば下記のようなものがあげられます。

  • 年間のメディア露出件数
  • レビュー記事の件数
  • 会社名やサービス名の指名検索数(アクセス解析ベース)
  • NPS(Net Promoter Score)
  • 広告換算値
  • ソーシャルリスニングの結果

そもそもPR部門へのKPI設定は適切か?

ベンチャー企業において、PRへのKPI設定自体がどこまで適切なのか?という問題もあります。

例えば、マンスリーで、メディアへの掲載数や、取り組んだ施策の広告換算などを設定しても、そもそもとして、商品/サービスのあり方自体を模索しているステージの会社に対外的に発信できる話題なんて、そうそうあるわけでもなく。
また、そんな状態で広告換算とかを出して、どれだけ業績貢献するのか。

ようは、数字を追いかけるだけのPR取り組みになってしまい、本質的で無くなってしまうのです。

加えて、そもそもとして定性的なPR活動を、KPIという形で定量的に判断するのが間違っている、という考えもあります。

広告換算値

広告換算値とは、メディアへの露出や自社メディアのPV等々、各種PR施策の価値を、同じ枠や同程度の条件で、広告出稿を行った際の広告宣伝費額などに換算した指標です。

この広告換算値については、別の機会で触れます。

なお、広告出稿を行っても、最終的に自社業績に貢献しなければ意味がありません。
その観点で言うと、広告換算値も、元のPR施策が会社KGIへの連動性・貢献性が高いもので無ければ、意味の無いものになります。
広告換算値いくらいくらです!と報告されて、節約できたホクホク的な反応をされる経営者が、まぁまぁいらっしゃいますが、微妙です。

最も重要な「役割の明確化」

さて、PRのKPIを設定する上で、最重要となる考えが一つあります。

それは役割の明確化です。

例えば、営業部門ですと役割が明確化(売上)されていますよね。
そのため、KPIの方も、契約件数と契約単価、のようなシンプルな指標と、それを達成するための行動指標を設定する事が容易です。
わかりやすい。

しかし、PRの役割は曖昧になりがちです。

  • ブランディング
  • 自社/サービスの認知度向上
  • 業績(売上)への貢献

最終的な目標は、業績(売上)への貢献になるのですが、そのやり方がブランディングや認知度向上のような形を経由するのか、それともマーケティング部門のようなあり方をとり直接性高く役割を果たすのか。

この辺りの話が整理されず、ごっちゃになっている場合が珍しくなく、PR部門の役割が曖昧なまま、KPI設定も迷子になっている場合が珍しくないのです。

何よりもまず、PRの役割をどのように定義するのか?からはじめるのが最重要と言えるでしょう。

PR体制について

なお、ベンチャー企業においては、人も予算も不十分な状態であることが普通です。
そのような状態で、PR部門単独でPR活動をしていても、効果は微妙です。
PRは、PRの企画や戦略を練る事にウェイトを重く置き、実際のPR活動は全社単位、全員で行うのが良いでしょう。
例えば、従業員のSNS上での活動を推奨し、自社情報の拡散を図るという光景は、かなり一般的になってきました。

バルセロナ原則

さて、PRの役割が曖昧になりがちである、とは言いつつ、総論として「外部との関係性構築」が役割にある、という点に関しては、大きな異論はでないものと考えられます。

その意味で、次の「バルセロナ原則」は参考になるのではないかと思います。

バルセロナ原則2.0「7つの原則」

  1. ゴールの設定と効果測定はコミュニケーションとPRにとって重要である。
  2. アウトプットだけの測定よりも、むしろコミュニケーションのアウトカムを測定することが推奨される。
  3. 組織のパフォーマンスへの効果は測定可能であり、可能な限り測定すべきである。
  4. 量と質を測定・評価すべきである。
  5. 広告換算値はコミュニケーションの価値ではない。
  6. ソーシャルメディアは他のメディアチャネルとともに測定可能であり、測定すべきである。
  7. 測定および評価は、透明性があり、一貫性があり、有効なものであるべきである。

バルセロナ原則とは?的な話を簡単に言うと、AMECという団体が提唱している、PRの効果を測定する上での考え方で、上記の通り、7つの原則があげられています。

ようは、PRの役割は、単純に情報を広く発信する(広報)ことではなく、「外部との関係性構築」にあるのだから、コミュニケーションのアウトカム(成果)を測定した方が良いよね、という事を言っています。
その上で、組織のパフォーマンス(業績)と連動する指標を設定し、測定していく事が重要だ、としています。


PRのKPIは、今現代でさえ、世界中の多くの企業において悩みの種になっているのが現実です。

そもそもとして完全なKPIを設定する事は不可能だ、という大前提に立つのが良いでしょう。

その上で、PRの役割の明確化と、バルセロナ原則。

これを踏まえれば、冒頭の方で例示したKPI(KGIとKAIも)に関して、適切な粒度感、そして納得感のあるものに近づけるのではないでしょうか。

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IR

IPOにおける広報の役割~前半~

IPO(新規株式上場)は、ベンチャー企業経営者や、そこで働く人達にとって夢の一つであり、より広く大きく社会に貢献する、未来に羽ばたくための大事な通過点の一つです。
ここでは、IPOにおける広報が果たす役割について、ベンチャー企業のPRもしくはIR(Investor Relations:投資家向け広報)の担当者向けに、IPOにおける広報・IRの役割について解説していきます。

長くなってしまうので、前半後半にわけて解説し、前半は大枠の考え方と実際のToDo的な話の一部を、後半はToDo的な話の続きと戦略よりの話を書いていきます。
IPO準備の全体像は別の場所で書いていきたいと思います。

IPOにおける広報・IRの役割大枠

全ての企業は、非公開企業、つまりクローズドな世界で限られた株主のみで構成された状態で、この世に誕生します。
この企業の株式を公開することにより、広く世の中の人たちが経営に参画できる状態にすることを新規公開、IPO(Initial(最初の)Public(公での)Offering(売り物))と言います。
IPOの目的は大きく3つほどあげられます。

  • 知名度の向上
  • 信頼度の向上
  • 多額の資金の調達

成長志向のベンチャー企業にとって、この3つ目の「多額の資金の調達」がポイントで、IPOをする企業の株式を投資家たちが購入することにより、投資家は企業への経営の参画ができる状態になり、そして企業は事業運営のための多額の資金を調達することができます。
企業にとっては、この多額の資金を活用することにより、事業を大きくステップアップさせ、次のステージへの成長段階に羽ばたかせることができるわけです。
(戦略的に多額の資金を要せず、知名度の向上や信頼度の向上を主目的としてIPOを実施する会社も実際は多い。

さて、IPOをするまでは企業の情報を外部に発信することはマーケティングやブランディング以外の側面では基本ありません。
しかし、IPO後は情報の発信のあり方が大きく変わります。
企業の業績の情報や企業組織の体制をはじめ、どのような事業をどのような戦略でもって取り組んで行くのかという事業計画の情報などなどなどなどを事細かに発信する必要がでてきます。
それがマストで守らなければならないルールだからです。
企業をクローズドな世界からオープン(Public)にしていくにあたり、企業と社会(投資家)との接点を作る(情報を発信していく)、ここにIPOにおける広報の重大な役割があります。

IPOにより自社が「社会の公器」として「社会の眼」にさらされるということは、コンプライアンスを遵守した経営を行うということはもちろんのこと、自社が「社会に必要な事業を行う」ということを、事業をもって示すということです。
広報担当者の市場への発表内容により、資本構成や株価が変化し、場合によっては経営に直結することも出てきます。

IPOにおける広報・IRの役割は、IPO後の会社経営自体につながる仕事をしているのです。
広報・IRに携わる方は、是非「IPOによって自社が社会にどのようなインパクトを与えられるのか」を意識した広報活動を心がける必要があるでしょう。

上場前に広報・IRが準備しておくこと

大枠の考え方に続いて、ここからは実際に取り組んで行かなければならないことを順番に解説していきます。

  • 認知度向上のためのPR実施
  • 目論見書の作成
  • IRサイトの作成
  • 上場セレモニーの準備

なお、長くなってしまうので今回はここで切り、下記を後半で書いていきます。

  • プレスリリースの準備
  • ロードショー用資料の作成
  • 役員のメディアトレーニング
  • 決算説明会の準備
  • その他

認知度向上のためのPR実施

IPOを成功させるには、顧客や取引先のみならず、今まで関係性のなかった一般の人々(個人投資家)や機関投資家(大口投資家)に、自社のことを知ってもらう必要があります。
なお、ここで言っている「成功」とは、上場承認をうけてIPOができることではなく、IPOを行うための自社にとっての目的を達成することを指しています。

企業やブランドの認知度向上のためのPRは早めに準備し、実施していきましょう。
マザーズ市場(そしておそらくグロース市場も)の年間取引額のうち、約6割は国内個人投資家であり、この国内個人投資家へのブランド訴求はおろそかにはできません。
機関投資家に対しても同様で、事業戦略の前提となる企業のミッション・ビジョンを正確に理解してもらうことは、自社の戦略ストーリーの理解にもつながるため、IPO上有利に働きます。

IPO時の広報・IRの担当者構成は、経営企画領域の担当者と、広報・マーケティング領域の担当者が連携してチームを組成する形がおおいですが、この認知度向上のためのPR実施は、主に後者の広報・マーケティング領域の担当者の仕事となるでしょう。
PR会社と契約してプレスリリース配信の体制を整備したり、ブランディング・コンサルを活用してコーポレート・アイデンティティの刷新、記者懇親会や勉強会の開催などを行うことが考えられます。

目論見書の作成

目論見書(もくろみしょ)とは、IPO時の需要申告(ブックビルディング)、もしくは購入申し込みをする投資家に対して交付される書類のことです。
企業の概要や募集・売出をする株式の条件などが記載されており、投資家にとって投資判断を行うための重要な情報源となります。

新規上場時に有価証券届出書という書類を作成するのですが、この有価証券届出書を抜粋する形で目論見書は作成されます。
具体的に事例を見た方がイメージがつきやすいでしょう。

事例の通り、目論見書には本文の内容を要約し、図表等を用いて説明するダイジェスト部分があります。
ここは会社のイメージをグラフィカルに伝えられる、ダイレクトに印象が伝わってしまう部分になるので、経営企画領域の担当者、広報・マーケティング領域の担当者、デザイン・クレイティブ領域に明るい社内外のメンバーが連携して作成するのがよいでしょう。
(事例として出したライフネット生命保険㈱の目論見書からは、お堅いイメージが伝わってきますね。)

なお、目論見書は電子交付のみならず、印刷して交付する必要もあるため、印刷のための期間も考慮してスケジュールを組む必要があります。
さらに加えて、目論見書(有価証券届出書も)は未確定の部分がある段階で作成を行う必要があり、実際にブックビルディング方式で募集・売り出し条件が確定し、募集価格・発行価格が確定した段階で訂正目論見書(訂正届出書)を作成、提出を行う必要があります。
この部分は、完全に経営企画領域の担当者がスケジュールを組み、プロジェクト・マネジメントを行っていく形になります。

IRサイトの作成

IRサイトは目論見書と同様、投資家と自社とをつなぐ大事なツールとなります。
特に、個人投資家にとっては、IRサイトは重要な情報源となるため、個人を意識したIRサイトの充実が効果的な施策となります。
個人投資家の多くは事業面でのプロでは無いため、何をやっているのか?将来どうなるのか?についての「わかりやすさ」が重要となります。

上場当日にIRサイトをオープンできるよう、予め準備しておく必要があります。
なお、情報漏洩や改ざん防止などのセキュリティ上の観点から、証券会社や印刷会社のサービスを使うケースが多いです。

IRサイトの良い事例としては、個人投資家に理解してもらうために、わかりやすいコンテンツを多数掲載しているシスメックスパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスなどがあげられます。
また、個人投資家のレベルにあわせて資料を提示できるよう、わかりやすい難易度表記があるオリエンタルランドも特徴的です。

上場セレモニーの準備

上場日当日には、証券取引所において、上場セレモニーが実施されます。
取引所内にはスタジオが併設されており、動画の撮影・配信をはじめ、初値決定の瞬間を見るなどのイベントがあります。
なお、上場セレモニーには人数制限があるため、社員数が多い企業では全員で祝うことができません。

言葉では表現しづらい所も多々あるので、こちらこちらを見るのが良いでしょう。
他にも「上場セレモニー」でGoogle検索をすると、多数、IPOを達成した企業の様子を見ることができます。

動画の撮影・配信については、こちらを見るとイメージがつきやすいでしょう。

上場セレモニーでは、上場認証式や記念撮影の後、東証内にある「鐘」を打ち鳴らします。
この際、鐘は「五穀豊穣」にちなみ、5回打つことができます。
創業者が1人で5回、その後主要なメンバー5人ずつで4回で、最大21人が参加することができます。

この上場セレモニーの準備として、当日の流れの確認やスケジュール組み、参加メンバーの確定、撮影する内容(社長の話の構成)の決定、などがあります。
後半の方で説明しますが、「しゃべって良いこと、悪いこと」がありますので、社長をはじめ役員・幹部に対するメディアトレーニングが効いてくる段階になります。

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