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【マーケティング考】ワインの価格は高いほど味が良く感じるという研究

ワインの価格が実際の価格よりも4倍高いと、そのワインを美味しいと感じるようになるそうです。
約140人を対象とした、ワインの価格のラベルを変えてのテイスティング実験により、安いワインは高い値段がつくと美味しく感じられること、高いワインについては影響がないこと、「味の強さ」についても価格は影響しないことが示されました。

ワイン会社は、このことをよく知っているようで、ワイン市場で儲けるために、この心理的傾向を利用しているそうです。

価格を操作してのテイスティング実験

スイスのバーゼル大学の研究チームは次のような調査を行いました。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0950329321000501

140人のボランティアを対象に、少数グループでのテイスティング実験が実施されました。

使用されたワインは次の3つです。

  • 廉価版のワインA(モンテプルチャーノ・ダブルッツォ):小売価格は1本10スイスフラン(約8ポンド)
  • ワインB(2013 Tenuta Argentiera Villa Donoratico Bolgheri):中程度の品質で、小売価格は32スイスフラン(約25ポンド)
  • ワインC(トスカーナIGT、2013年、Saffredi、Fattoria Le Pupille):傑出していると評価されており、1本65スイスフラン(約50ポンド)

実験では10mlのワインが入った6つのグラスが用意されました。

3つのグラスにはワインA,B,Cが価格のラベルがない状態で入っており、残りの3つのグラスにはワインA,B,Cが本来の価格か、もしくは異なる価格のラベル(価格が操作されたラベル)が貼られていました。

参加者はほぼ均等に条件を変えたグループに振り分けられ、値札と味の評価(「心地よさ」と「味の強さ)を6段階で評価)を行ってもらいました。

参加者はいずれもワインの専門家ではない一般の人です。

ワインの価格は高いほど味が良く感じる

調査の結果、いくつかの興味深い事実が得られました。

まず、「心地よさ」ですが、価格のラベルが貼られていない場合、心地よさの評価に差が出ませんでした。
価格を知らない状態でワインを飲むと心地よさの違いは感じられない、つまり価格が品質の認識に影響を与えることが示唆されました。

そして、安いワイン(ワインA)については、実際の価格よりも4倍の価格のラベルが貼ってあったとき、心地よさが20%も向上しました。

一方、高額なワイン(ワインC)の価格を下げても心地よさには変化がありませんでした。
優れたワインの味を価格により悪くすることはできない、という示唆です。

「味の強さ」については、実際の価格と一致しており、異なる価格のラベルが貼ってあったとしても影響を受けませんでした。
ワインの濃さを価格でごまかすことはできない、という示唆です。

なお、「味の強さ」と感じる美味しさ(心地よさ)は必ずしも一致せず、濃厚が故に好まれない場合もあります。

感じ方は文脈に左右される

この調査は、期待が現実に合うように事実が曲げられる、ということを示しています。

実際、この種の話は各所で聞かれており、例えばマクドナルドのコーヒーと、スターバックスのコーヒー、どちらが美味しいと感じるか?や、ゴディバのチョコレートと森永製菓のチョコレート、どちらが美味しいと感じるか?、ストラディバリウスと練習用の安いヴァイオリン、どちらの方が音が良いか?、性別をブラインドした時の技能テスト付き採用試験での結果は変わるか?というような調査が行われています。

ブラインドテストを行うと、マクドナルドのコーヒーや森永製菓のチョコレートの方が美味しいと感じる人が多いようですし、名器と言われるヴァイオリンよりも練習用の安いヴァイオリンの方が音が良いと感じる人が多いようですし、性別をブラインドすると女性の採用比率が向上するようです。

これは良い悪いの話ではなく、人の感じ方というものは文脈に左右されてしまう、という事実を示しています。

日常生活で困ることはあまりないでしょうが、ビジネスでの意思決定が求められる場面においては、客観的に判断できるよう情報を整える必要があるでしょう。

ビジネスに役立つ「バイアス」については、こちらも参照ください。

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(個人的まとめ)デザインの敗北事例

ここではSNS上で流れている、いわゆる「デザインの敗北」について、いくつか事例をピックアップしています。
見た目の美しさ、カッコよさを優先し、機能性やTPO(不特定多数の方が使う環境での利用想定等)を軽視するとどうなるのか?という事例で、まとめていて勉強になりました。

トイレ案内板

東京ミッドタウン日比谷のトイレのアイコンが小さく見辛いので、別にわかりやすく看板を設置せざるを得なかった例。

デザインの敗北というより、遠くから見てもわかりやすく不特定多数の人に情報を提供するというデザインの根本を考えれば、そもそもデザインですら無い、という話もあります。

(補足すると、こちらのツイには、ツイ主に対して「わかり辛い案内を出しているという印象操作では?」という反論投稿も多数ありました。見る人により、諸々の印象は異なるのは当然ですね。)

Simon_Sin氏投稿より(@Simon_Sin)

こちらは別のエレベーター案内の表示です。

トイレ案内と誤認しやすいデザインですね。

筒田氏投稿より(@kinosaki_jack)

銀座ロフトのフロア案内板

横文字で並べた結果、どこのフロアで何が陳列・販売されているのかわからず、テプラで対応せざるを得なかった例。

下の方にもいくつかありますが、案内板全般はデザインの敗北として取り上げられる例が非常に多いです。

コクブカメラ氏投稿より(@kokubucamera)

コンビニエンスストアのコーヒーマシン

不特定多数の方が使用する環境下においては、非常にわかりづらく、店員の負担になり、結果としてテプラ対応せざるを得なかった事例。
日本を代表するデザイナー、佐藤可士和氏を起用して作られた、”オシャレな”デザインの模様です。

かっこいい → 不特定多数の方が利用する環境下においては、利用者にとっても店員にとっても不便 → デザイン崩壊、という図式です。

(なお、有名・偉くなればなるほど、周囲に助言・提言・苦言を出してくれる人がいなくなるので、いわゆるピーターの法則が発動しがちです。)

出典不明

別のやり過ぎ例ですが、このような物もあるようです(ここまでテプラ貼っていたら、なんだなんだ、と思ってしまい、注意喚起としての効果は高いかもですね)。

出典不明

授乳室の案内表示板

案内表示は事例が多いです。
こちらは哺乳瓶のピクトグラムが抽象的(?)すぎて、なんの案内だかわかりづらくなってしまった例ですね。
デザインの敗北に対する、テプラでの補足は定番の模様です。

静岡茶氏投稿より(@shizu_cha)

エレベーターホールの操作盤

メカニカルな部分をカッコよく見せたい、という意図なのでしょうが、どこで操作をすれば良いのかわかり辛くなってしまった模様です。
結局、ダサい案内板を設置せざるを得なくなった例です。

くろまる氏投稿より(@kuromaru6912)

歩道デザイン(動線)

くねくねした道にし、街の歩道デザインとして美しくしたかったのでしょうが、生活動線としては不便で、結論ショートカットが出来てしまった事例です。
芝生が無惨な事になっています。

クリストファー・アレグザンダー提唱の「パタン・ランゲージ」が参考になるかもしれません。

アレグザンダーは『パタン・ランゲージ』(1977年、邦訳1984年)の中で、人々が「心地よい」と感じる環境(都市、建築物)を分析して、253のパターンを挙げた。パターンが集まり、それらの関連の中で環境が形づくられる。1-94は町・コミュニティに関するパターン、 95-204は建物に関するパターン、205-253は構造・施工・インテリアに関するパターンである。
(中略)アレグザンダーによればこれらのパターンは各国の美しい街や住まいに共通する普遍的なもので、かつては誰でも知っていたものであるが、近代都市計画では無視され、急激な近代化の中で忘れられてしまったものである。

アプリのインターフェース

こちらはLINEアプリのインターフェースです。

写真を送るのに、そのアイコンが初心者にはわかり辛い場合がある、という事例です。

LINEは非常に多くの人に使われており、わかり辛さとしてあげられる事はあまりなく、トータルとしてUIは優れているのでしょうがユーザー層が拡がれば、このような声も出てくる、という事で認識しておくと良いのでしょう。

なちゅ。氏投稿より(@itacchiku)

商品パッケージデザイン(ローソンの事例)

https://twitter.com/haniwaidomath/status/1269643426154213376

ローソンの新商品パッケージのデザインです。

均質で統一されたデザインであり、見た目は確かに美しいです。

一方、商品の区別(味の種類や辛口・甘口の区別、アルコール・ノンアルコール、その他諸々)が非常につき辛く、誤認して買ってしまった方や、レジ側も誤って操作した例が非常に多い様子です。
そのため一部のお店では、わざわざポップを貼り、旧商品でいうとコレです!という表示をしている例もあるようです。

ハ二ワ二ハ氏投稿より(@haniwaidomath)
とり氏投稿より(@to_ri3)
🏚氏投稿より(@mzyy94)

いったんここまで。

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プログラミングスクール業界は自浄機能を

プログラミングスキルは、これからの未来に必ず役立つ重要な技能というだけでなく、今現在の不安定な世の中で、独立して高収入を得られるという事で注目を浴びています。
それに関連してプログラミングスクールが増えているのですが、直近、その評判は非常に悪いものになっています。

プログラミング教育市場は5年で2倍に

まず、プログラミング教育市場について見ていきましょう。

こちらにある通り、プログラミング教育市場は急激に増大を続けており、5年後には2倍の300億円規模になると推定されています。

あわせて、斯様なとおりプログラミングスクールが乱立している状況です。

正に成長市場、群雄割拠、という感じですね。

一方、非常に悪い評判も多い

ところが、上記のように急拡大し競争も激化している一方、非常に悪い評判も多く聞くようになりました。

https://togetter.com/li/1198577
https://togetter.com/li/1637696
https://togetter.com/li/1647611

Twitter上のまとめだけでなく、YouTubeでも、多くのYouTuberが言及をしています。
下記は一例です。

どういう事か?と言うと、プログラミングスクールは次のように消費達に訴えていると。

  • 未経験でもエンジニアになれる
  • 年齢関係無く自由を手に入れられる
  • 独立も有名企業就職もでき高収入を得られる

しかし、エンジニアはそのような甘い世界ではありません。

現実離れしたPRに対して、「闇」と語られている状況なのです。

プログラミングスクール業界には自浄機能が必要

ここでタイトル回収なのですが、プログラミングスクール業界には自浄機能が必要でしょう。

新聞やテレビ業界が、WEB媒体の普及に伴い厳しい事業環境に置かれていますが、凋落の原因は、多くの国民が感じている通り自浄機能が劣っている点も指摘できるのではないでしょうか。

別にメディア業界とプログラミングスクール業界の構造が似ているわけでは無いですが、本来伝えなければいけない事実を覆い隠して、自分達が伝えたい点のみを強調して情報発信を行っている点は類似しています。

  • 現実の正確なエンジニアの実態を伝達する
  • どれだけ学習にエネルギーを注がないと身につかないかを正しく伝える
  • 素人メンターでは無く、受講料に見合う適切な経験を積んだメンターを置く

こういった事を業界内で進めていかないと、業界としてプログラミングスクールって無駄だよね、行かない方がいいよね、となりかねないのでは無いでしょうか?
無料・格安のWEBスクールという競合の存在も忘れてはいけません(無料・格安系は過度な期待値で訴求している様子をあまりみかけない)。

急拡大している今こそ、本来のあるべき姿に寄せていく。
そのようなアクションが必要では無いかと考える次第です。

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マーケティング

広告換算値を追うな!~広報(PR)のKPIの考え方~

PR効果を測定する上で良く話題にあがる指標が広告換算値。
PR関係者は必ず触れる事になる指標ですが、近年は広報(PR)が採用するKPIとしては相応しくない、という意見が多いです。
今回は広告換算値について考えていきます。

こちらの記事も併せて参照ください。

広告換算値とは

広告換算値概要

何かしらのメディア媒体に露出した際に、どれだけのPR効果があったのか?はPR担当者としても、経営者としても知りたいところです。
しかしながら、PR効果というものは、決算書のような具体の数字で出せる類の数字では、当然にありません。

そこで登場したのが広告換算値です。

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、各種WEB・SNSメディア。

このような各種メディア上で取り上げられた際、仮に同様の尺や枠を購入・出稿した場合に、要した広告費の金額をPR効果の代替として用いるのが広告換算値です。
ようは、「何かメディアに取り上げられたぞ。仮に自分達が広告費払ったとしたらこれくらいの費用がかかったはずだぞ。ひゃっはー!」というのが広告換算値ですね。

広告換算値のメリット

まず、上述したようにPR効果というものは大前提として測定しづらい、という性質を持っています。

何かしらの広告を打ったとして、売上高であったり、コンバージョンレートが改善したり、とかとか、具体の成果っぽい指標が存在するわけですが。
これらの指標は、何も広告だけで変化・改善するわけではありませんね。
つまり、広告の直接的な効果を測るのは難しいのです。

また、記事のPVや露出したテレビの視聴率(から換算される視聴者数)を成果として考える方法もあるかと思いますが。
メディア毎に、当然にメディアの価値も異なるわけで、そのPV・流入数を同じ軸で測って良いのか?という問題があります。

その意味で、「仮に同様の尺・枠を購入したとしたら、いくらの広告宣伝費を要したのか?」をPR効果の指標として採用するのは、一定の合理性があるのです。
広告の直接的な効果を測れると共に、その効果を具体の金額で示す事ができますので。

(参考)広告換算値の算出方法概要

参考程度に広告換算値の算出方法について、概要を説明します。

なお、広告換算値のロジックはメディア毎に異なりますし、PR担当者によっても異なるので、共通言語として語るのは微妙に難しかったりします。
(まぁ、PR系の方々で、そのような曖昧性を気にする方も少ないですけれどね。)

新聞・雑誌:媒体毎の広告出稿料金があるので、それをベースに算出。

テレビ:15秒CMの出稿料金(スポットCM料金単価)をベースに算出(放映の時間帯に応じたA帯~C帯というものがあり、またそこから露出時間を考慮して計算する)。

ラジオ:スポットCM料金単価をベースに露出時間を考慮して算出。

WEBメディア:媒体毎にロジックが大きく異なる。PVをベースに、TOP広告の単価で算出していく、というのが基本。統計的な処理を施す場合も多い。

広告換算値の問題

さて、広告換算値にはいくつかの問題があります。

代表的な所としては次のようなものです。

  • 広告単価が入手できないと算出ができない
  • 広告はコンテンツやデザインなど自分達の意志を込められるが、メディアに取り上げられる場合はコントロール不能な場合が多い
  • 特にWEBメディア,SNSの算出のバーチャル性の高さ(ほぼほぼ無意味)

しかし、これらは問題の一部です。

冒頭で書いたのですが、広告換算値は近年は広報(PR)が採用するKPIとしては相応しくない、という意見が多いです。

それは何故か?

結論、広告換算値はあくまでも「換算効果」をバーチャルに示したものに過ぎず、「成果」を測定したものでは無いからです。

つまり、仮説としてのコストに着目したものであって、価値に目が向けられていない。

PRとは「パブリックリレーションズ(Public Relations)」の略です。
パブリックに働きかけて、何かしらの行動変容を起こしてもらい、なんぼの仕事と言えます。

PRの役割は、単純に情報を広く発信する(広報)ことではなく、「外部との関係性構築」にあるのだから、コミュニケーションのアウトカム(成果)を測定した方が良い、もっと言うとアウトカムにも縛られない社会への影響力も考慮した方が良い、という事ですね。


冒頭提示した「広報(PR)のKPIの考え方 」においても触れたバルセロナ原則ですが、このバルセロナ原則においても広告換算値はPRにおいて有効では無いとされています。

バルセロナ原則2.0「7つの原則」

  1. ゴールの設定と効果測定はコミュニケーションとPRにとって重要である。
  2. アウトプットだけの測定よりも、むしろコミュニケーションのアウトカムを測定することが推奨される。
  3. 組織のパフォーマンスへの効果は測定可能であり、可能な限り測定すべきである。
  4. 量と質を測定・評価すべきである。
  5. 広告換算値はコミュニケーションの価値ではない。
  6. ソーシャルメディアは他のメディアチャネルとともに測定可能であり、測定すべきである。
  7. 測定および評価は、透明性があり、一貫性があり、有効なものであるべきである。

以上、広告換算値と、広告換算値が現代のPR(広報)のKPIとして如何に相応しく無いか、について見てきました。

広告換算値は、リーチ、という観点では決して的外れな指標では無いので、今後も活用され続けていく事は確かでしょう。
しかし重要なのは、何のためのPR活動なのか?という点にあります。
つまり、目的とゴールの明確化ですね。

PRのKPI設定と測定は非常に難しいものがありますが、設定した目的と明確化したゴールに沿って、取り組んできた施策の検証と効果測定を自社なりに模索するのが本質的な形と言えるでしょう。

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マーケティング

大切にすべき顧客は誰なのか?~商圏人口考~

今回は、真に大切にすべき顧客は誰なのか?という話を考えてみます。
新型コロナウイルスの経済影響は、一時期よりだいぶ回復してきたとは言え、依然として厳しい業績の会社も多いです。
特に観光客、とりわけ外国人観光客に頼った所です。

観光客便りは厳しかった

戦略方針として、訪日外国人観光客をとりに行こう、観光を重視しよう、という選択をとるのは全くおかしな話ではありません。

しかし、少なくとも今回のような感染症蔓延の状況下においては、そのビジネスの脆弱性も同時に明らかになりました。

例えば、ドラッグストアでは、訪日外国人観光客を重視していたマツキヨは他のドラッグストアに比べ回復が著しく遅く、「一人負け」と揶揄されています。

月次Web<月次比較チャート>既存店グラフ より

コンビニ業界も、観光客比率の大きい京都では、東京・大阪のようなビジネスエリア(リモートワーク移行が多かったエリア)より、ダメージが大きい状態が続いていました。

コンビニ商品販売額および前年比,地域別の状況 経産省「商業動態統計」より

家電系においても、ラオックスの業績は非常に厳しい状態です。
(ラオックスを家電系と捉えるのかは微妙ですが。後、ラオックスはコロナ前から、本国である中国からも見放されている状況だったのですが。)

このように、観光客便りの会社は非常に厳しい状況に置かれていました。

これは別に感染症に限らず、災害や政情不安によっても発生し得ることであり、もう一度同じような状況に陥らないとは言い切れません。

年人換算という考え方

ここで改めて、商圏人口について考えてみましょう。

商圏(しょうけん)とは、ある商業施設や小売店、商店街などを日常的に利用する消費者が生活している地理的な範囲を指す。 商圏の中心から辺縁部までの距離を商圏距離、その施設を利用しているか否かに関わらず商圏内の全人口を商圏人口という。
Wikipediaより

主にtoB、特に実店舗のある小売系において採用される考え方が商圏人口です。
詳しい方も多いでしょう。

観光業ですと、この商圏人口という考え方が、あまり採用されません。
商圏の範囲が大きくなりすぎるため、そこで数字を出したとして、意味が無いからです。
そのため、訪日外国人人数とか、そのような数字感で顧客母数を捉えます。

しかし、それが本当に正しいのでしょうか?

年人換算という考え方があります。

ようは、年間単位で考えた時に、その商圏にどれだけの人がいるのか?という考え方です。

具体例で見てみましょう。

人口50万人の街(市)があったとして、この時の年人換算は、ほぼほぼ50万人です。
(その街から日を跨いだ移動があったとしても、長期の人は少ないし、外からの流入もある。)

訪日外国人人数ですと、直近3千万人を超えたとの事ですが、滞在日数は精々が一週間でしょう。
この時の年人換算は約60万人です。
この内、全員がその人口50万人の街に行くわけでは無いでしょうから、年人換算の流入数はごく一部になるはずです。
(下記表参照。出入国、つまり訪日外国人人数は外国人年人には5%程度の影響しか与えず、在日外国人人数が事実上の数字になる。)

そのため、年人換算で考えると経済影響は言うほど大した事が無いということがわかります(もちろん、3千万人の人が十数万円~数十万円を落としていく、という事は全体で考えれば凄い事ですよ。トータルで兆円単位になるので。)。

(参考)年人換算の詳しい算出方法

①年間の出国外国人正規数。
②出国外国人について、在日期間別に、「年人」(=平均在日日数×人数/365日)を算出する。
③出国外国人のうち、在日期間が2カ月を超える人は外国人登録を行っているとみなし、その「年人」を算出する。
④②を、出国外国人数で除することで、出国外国人の通年での在日期間の比率を算出する。
⑤③を、出国外国人数で除することで、出国外国人のうち外国人登録を行っている人の、通年での在日期間の比率を算出する。
⑥年間の入国外国人正規数。
⑦⑥に④を乗じ、その年に入国した外国人の「年人」を算出する。
⑧⑥に⑤を乗じ、その年に入国した外国人のうち外国人登録を行う者の「年人」を算出する。
⑨⑦から⑧を差し引き、その年に入国した外国人のうち外国人登録を行わない者の「年人」を算出する。
⑩年末現在の外国人登録者数。 ⑪⑩に⑨を加えることで、日本に滞在する外国人の合計「年人」を算出する。

ややこしいので、別に詳細な数字を出す必要があるとは思いません。
考え方として、単純な人数だけ捉えると凄い人数だけれども、年間単位で考えれば、元々いる人の方が多いんだよ、という事です。

今回の新型コロナウイルス影響で、観光客の取り込み”も”行うけれど、基本的にはその商圏に住んでいる方々を大事にしてきた企業は、業績回復が早い傾向があります。

ようは、結局の所、観光関連業種も商圏というものを考えないといけないのでは?という指摘をしたい次第です。

それを考えれば、企業にとって、本当に大切にすべき顧客は誰なのかが明確になっていくはずです。
(その結果として、一見客にフォーカスする、という結論に至ったのならば、それはそれで良いと思います。)

余談ですが、外国人犯罪率の話をする時に、訪日外国人人数(3千万人超)を母数に加え、「日本人より外国人の犯罪率は低い。外国人犯罪率が高いというのは偏見だ。」という言説があります。
これ、年人換算で母数を考えると、外国人犯罪率って、日本人犯罪率の倍以上になるんですよね。

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マーケティング

広報(PR)のKPIの考え方

今回は広報(PR)業務におけるKPIの考えた方についてです。
結論、PRに適切なKPI設定の考え方は存在しません。
しかし、一定、工夫の仕方はあります。
今回は、このPRにおけるKPIの設定の工夫、これについて見ていきます。

KGI・KPI・KAI

KPIの重要性については、こちらの冒頭でも触れているので、参考に。

このKGI・KPI・KAIを認識した前提で考えた時。

例えばですが、下記のような指標設定を考える事ができます。

KGI:年度終わり時点で会社組織の認知度を〇%高める

KPI:
① SNS公式アカウントのフォロワー〇万人に
② コーポレート・サイトのCEOブログPVを〇〇,〇〇〇に
③ 展示会等のイベントで登壇機会を〇回設定(総計〇,〇〇〇人に自社PRを実施)
④ リリースを〇回実施(総計露出〇〇,〇〇〇)

KAI:
① SNS公式アカウントからの発信を〇回/日
② コーポレート・サイトへのCEOブログを週〇回掲載
③ ターゲット・イベントの、主催者との関係性構築、交渉の定期実施
④ 隔週でサービス開発との対外発信前提でのmtgの実施

ただ、これらは本当に一例であり、絶対的な、こういう指標さえ置いておけば良い、というものは存在しません。

他にも、よくあるPRのKPIとしては、例えば下記のようなものがあげられます。

  • 年間のメディア露出件数
  • レビュー記事の件数
  • 会社名やサービス名の指名検索数(アクセス解析ベース)
  • NPS(Net Promoter Score)
  • 広告換算値
  • ソーシャルリスニングの結果

そもそもPR部門へのKPI設定は適切か?

ベンチャー企業において、PRへのKPI設定自体がどこまで適切なのか?という問題もあります。

例えば、マンスリーで、メディアへの掲載数や、取り組んだ施策の広告換算などを設定しても、そもそもとして、商品/サービスのあり方自体を模索しているステージの会社に対外的に発信できる話題なんて、そうそうあるわけでもなく。
また、そんな状態で広告換算とかを出して、どれだけ業績貢献するのか。

ようは、数字を追いかけるだけのPR取り組みになってしまい、本質的で無くなってしまうのです。

加えて、そもそもとして定性的なPR活動を、KPIという形で定量的に判断するのが間違っている、という考えもあります。

広告換算値

広告換算値とは、メディアへの露出や自社メディアのPV等々、各種PR施策の価値を、同じ枠や同程度の条件で、広告出稿を行った際の広告宣伝費額などに換算した指標です。

この広告換算値については、別の機会で触れます。

なお、広告出稿を行っても、最終的に自社業績に貢献しなければ意味がありません。
その観点で言うと、広告換算値も、元のPR施策が会社KGIへの連動性・貢献性が高いもので無ければ、意味の無いものになります。
広告換算値いくらいくらです!と報告されて、節約できたホクホク的な反応をされる経営者が、まぁまぁいらっしゃいますが、微妙です。

最も重要な「役割の明確化」

さて、PRのKPIを設定する上で、最重要となる考えが一つあります。

それは役割の明確化です。

例えば、営業部門ですと役割が明確化(売上)されていますよね。
そのため、KPIの方も、契約件数と契約単価、のようなシンプルな指標と、それを達成するための行動指標を設定する事が容易です。
わかりやすい。

しかし、PRの役割は曖昧になりがちです。

  • ブランディング
  • 自社/サービスの認知度向上
  • 業績(売上)への貢献

最終的な目標は、業績(売上)への貢献になるのですが、そのやり方がブランディングや認知度向上のような形を経由するのか、それともマーケティング部門のようなあり方をとり直接性高く役割を果たすのか。

この辺りの話が整理されず、ごっちゃになっている場合が珍しくなく、PR部門の役割が曖昧なまま、KPI設定も迷子になっている場合が珍しくないのです。

何よりもまず、PRの役割をどのように定義するのか?からはじめるのが最重要と言えるでしょう。

PR体制について

なお、ベンチャー企業においては、人も予算も不十分な状態であることが普通です。
そのような状態で、PR部門単独でPR活動をしていても、効果は微妙です。
PRは、PRの企画や戦略を練る事にウェイトを重く置き、実際のPR活動は全社単位、全員で行うのが良いでしょう。
例えば、従業員のSNS上での活動を推奨し、自社情報の拡散を図るという光景は、かなり一般的になってきました。

バルセロナ原則

さて、PRの役割が曖昧になりがちである、とは言いつつ、総論として「外部との関係性構築」が役割にある、という点に関しては、大きな異論はでないものと考えられます。

その意味で、次の「バルセロナ原則」は参考になるのではないかと思います。

バルセロナ原則2.0「7つの原則」

  1. ゴールの設定と効果測定はコミュニケーションとPRにとって重要である。
  2. アウトプットだけの測定よりも、むしろコミュニケーションのアウトカムを測定することが推奨される。
  3. 組織のパフォーマンスへの効果は測定可能であり、可能な限り測定すべきである。
  4. 量と質を測定・評価すべきである。
  5. 広告換算値はコミュニケーションの価値ではない。
  6. ソーシャルメディアは他のメディアチャネルとともに測定可能であり、測定すべきである。
  7. 測定および評価は、透明性があり、一貫性があり、有効なものであるべきである。

バルセロナ原則とは?的な話を簡単に言うと、AMECという団体が提唱している、PRの効果を測定する上での考え方で、上記の通り、7つの原則があげられています。

ようは、PRの役割は、単純に情報を広く発信する(広報)ことではなく、「外部との関係性構築」にあるのだから、コミュニケーションのアウトカム(成果)を測定した方が良いよね、という事を言っています。
その上で、組織のパフォーマンス(業績)と連動する指標を設定し、測定していく事が重要だ、としています。


PRのKPIは、今現代でさえ、世界中の多くの企業において悩みの種になっているのが現実です。

そもそもとして完全なKPIを設定する事は不可能だ、という大前提に立つのが良いでしょう。

その上で、PRの役割の明確化と、バルセロナ原則。

これを踏まえれば、冒頭の方で例示したKPI(KGIとKAIも)に関して、適切な粒度感、そして納得感のあるものに近づけるのではないでしょうか。

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ウィスキーの紙製ボトルは浸透するか?

ジョニー・ウォーカーが紙製ボトルを2021年から導入すると発表しました。
かつて、サントリーがトリスで行い、気が付いたら消えていた紙製ボトル。
現在はニッカが細々と取り組んでいる程度。
果たして、ウィスキーの紙製ボトルは浸透するのでしょうか?

ジョニー・ウォーカー、紙製ボトルを2021年から導入

元の記事はこちらです。

https://www.bbc.com/japanese/53399753

紙製ボトルは、下記の仕様のようです。

  • リサイクル可能なパルプを使用
  • ボトル内側にはコート剤が塗布される
  • プラスチック・コーティングは行わないので、そのままリサイクル可能

紙製ボトルのイメージの悪さ

紙製ボトルはイメージが悪い

サントリーは2005年、「トリスウイスキー」のブラックとレッドで、紙パックの商品を販売した過去があります。

焼酎や清酒では紙パックが一般的になっているので、家庭用市場で気軽に購入してもらえるように、との意図でした。

一方、酸素透過による劣化や香りの変質などを心配する意見があります。
また、ビンだからこその風流、カッコ良さもあり、雰囲気から感じる味の劣化も懸念されます。

ようはイメージが悪いのです。

結局、トリスの紙パックは今は姿を見ず、ブラック・ニッカで細々と使用されているのを見る程度です。

技術的にはクリアしているので印象の問題

じゃあ、本当に味の劣化や香りの変質がクリティカルな問題になるのか?というとそうではないです。

アルコール飲料の紙パックによる封入は1970年代にはある程度、問題がクリアされており、ポリ-紙-アルミホイルを複合的に使用し、品質を維持したパッケージの開発に成功しています。
ウイスキーに関しても、上記トリスの時代で既に紙パックで十分に保存できるだけの技術が開発されています。

今回はコート剤の付与なので、レガシー技術となっている紙パックとは異なる仕様ですが、マスターブレンダーがGoサインを出すのだから、劣化・変質問題はクリアしていると考えて良いでしょう。

ようは、印象の問題です。
ブラインドテストをしたら、絶対に区別がつかないと思います。)

紙製ボトルは浸透するか?

では、紙製ボトルは浸透するのでしょうか?

これは難しい話で、やはり上述の「印象の問題」をクリアしなければならないでしょう。
味はどうしても「印象」に引っ張られるので、ここは如何にポジティブ・イメージを広く浸透させられるか。
ブランド所有者の「ディアジオ」のPR手腕にかかっています。

ただ、世の中の圧力としては、既に環境方向に舵が切られています。
加えて、酒卸による空瓶回収システムの崩壊も指摘できます。
更に印象の問題。

今回のボトルデザインは非常に優れています(紙“パック”では無い)。

ベクトルとしてはエコに向かっているわけですので、きっかけ一つで一気に普及する可能性は、十分にあると考えられます。
インフラの問題はあるでしょうし、現実問題として情緒の話もあるので、普及価格帯の紙ボトル、高級価格帯のビンボトル、と棲み分けが行われると良いですね。

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ただの石鹸・ハンドソープでも〇〇がつくと売れるらしい。

自宅のハンドソープが切れそうになり補充を、と思ったら、いつもの商品は売れ切れの様子。
他のハンドソープは残っていたのに、〇〇という言葉がつくと売上が伸びる模様です。

「〇〇」

〇〇がついただけで品薄になっている

次のグラフを見て下さい。

まず、これは「石鹸」というキーワードのGoogleTrendsの検索推移です。

「石鹸」「日本」「過去12か月間」「すべてのカテゴリ」「WEB検索」で検索

それに対して「石鹸」というキーワードに、ある言葉が加わると、次のように変化があります。
2020年3月後半から劇的に検索数が伸びています。

「薬用石鹸」「日本」「過去12か月間」「すべてのカテゴリ」「WEB検索」で検索

そう、タイトルの〇〇は「薬用」です。

地域にもよるのでしょうが、検索数に比例して、「薬用」という名前が入った石鹸・ハンドソープの売上が伸び、品薄になっているようなのです。

実際の所、効果的にはどうなんだろう、、、?

こちらのグラフは、普通の石鹸と薬用石鹸で、どれだけ菌を落とせるのかを比較したグラフです。

除去率で換算すると普通の石鹸が約95%で、薬用石鹸が約98%と、確かに薬用石鹸の方が効果は高いのですが、実際の所は大差があまりありません。
多くの消費者は、この事実は当然知らないでしょうが、「薬用」という言葉がつくと、非常に高い効果があるような印象を持つのでしょう。
特に、今直近の状況もあるので。

これは別に良い悪いの話では無いです。
同じような効果があるのならば、少しでも売上があがるネーミングにするのは当然のことです。

そのため、実際どれくらいの宣伝効果があるのかは不明ですが、普通の石鹸の箱に「ウイルス除去に」とでも印刷するなりシールを貼るなりすれば、売上アップにつながるかもなぁ、と思った次第です。

キャッチの力

キャッチの力

ネーミングやキャッチコピーは、時折、おそろしい力を見せることがあります。

ここ最近でも、こんなツイートがバズっていました。

ベーグル専門店、つまりパン屋さんですが、緊急事態宣言前に冷凍保存が可能な旨を宣伝し、売上を伸ばした、という内容です。

上述の薬用石鹸・ハンドソープもそうなのですが、その時代、そのタイミングで適切なものを投下すると、爆発的な効果を発揮します。
薬用の場合は、そのまま成り行きで売上が伸びているだけでしょうけれども、それでも増産する商品のコントロールはできるはずです。

ちなみに普通のパンでも、冷凍すれば30日はもちます。

(追記)こんなのもありました。

如何にお客様に届けるか

「良いものを作っていれば売れる時代は終わった」と言われて久しいですが、未だ日本の多くの企業はマーケティングを軽視しているように見えます。
(もしくは、マーケティング部門という形だけの箱を作って、予算を消化するだけの部署になっている所が多い印象。)
消費者の中にも、広告を毛嫌いしている人は大勢います。

しかし、マーケティング(広告)があるからこそ企業は消費者に自社の価値を正しく伝えることができるし、消費者は、世の中にこんな商品があるんだ、ということを知ることができます。
マーケティングや広告は、何も動画の合間にうざかったりくどかったりするCMを流したりとか、テカテカしていて結局何を言いたいのかわからないチラシを作るとかだけではありません。
上記がその好例です。

今回あげた例は、極めて身近な、しかもシンプルな例です。
ヒントや気づきというものは、結構あちらこちらに転がっているものです。
薬用石鹸の件は、改めてそのことを考えさせられました。

何を当たり前のことを言っているんだ、と受け取るか、ちょっとしたことからでも示唆を得ようとする心意気でいるか。
「如何にお客様に届けるか」という気持ちがあるならば、後者の姿勢であるべきでしょう。

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マーケティング

義のマーケティング~真のロイヤルカスタマーを作るには~

今回の新型コロナウイルス騒動により、多くの人が不安に多い、多くの企業が苦境に陥っています。
そのような中、義(ぎ)、つまり利欲ではなく正義により行動する企業が賞賛されています。
いくつかの企業を参考に、真のロイヤルカスタマーを作るための、義のマーケティングについて考えていきます。

忙しい人向けまとめ

  • マーケティング活動の役割は、セリング(売り込み)を不要にすること
  • いくつかの企業が利欲ではなく、義、つまり社会のための活動を行い賞賛を浴びている
  • 「利欲にとらわれず、なすべきことをすること。」ができれば、真のロイヤルカスタマーを作ることに繋がり、長く支持される会社になれる

マーケティング活動の考え方

マーケティングの定義を考えた時に、各様に語られている世界ではあるのですが、かのコトラー氏の言葉を借りると次のようになります。

どのような価値を提供すればターゲット市場のニーズを満たせるかを探り、その価値を生み出し、顧客に届け、そこから利益を上げること。

フィリップ・コトラー

つまり、ざっくりと整理すると、次のような流れになります。

マーケティング活動による認知獲得

製品・サービスの提供

ロイヤルカスタマーが生まれる

これをもっと端的に表現し、マーケティングの目的を考えたときに、かのドラッガー氏は次のように言いました。

マーケティングの究極の目標は、セリング(売り込み)を不要にすることだ

ピーター・ドラッガー

そもそもとしてマーケティング活動・セールス活動自体を不要にする状態にしましょう、ということですね。
これに関して、今回の新型コロナウイルス騒動において社会不安が起きている中、いくつかの企業の行動が賞賛を浴びています。

久原本家グループ

こちらのツイートを見て下さい。

久原本家グループは、「茅乃舎だし」で知られる、福岡県にある総合食品メーカーです。
この久原本家が、北海道の顧客に対して、自社の商品である鍋の素や味噌汁などが無償で届けられたというのです。

そして、このツイートのリツーイトが約3,000、まとめサイトの閲覧数は約80,000と、非常に多くの人の目にとまる結果となりました。

久原本家は、以前から災害支援などに意欲的であることを知られていましたが、改めて多くの人から賞賛の声と、感謝の言葉が届けられています。

菊水酒造

次は、こちらのリリースをご覧ください。

高知県の酒造メーカーである菊水酒造が、アルコール度数77%の高濃度スピリッツ「アルコール77」を製造開始する、というニュースリリースです。

現在、世の中ではアルコール消毒剤が非常に枯渇しており、非常に入手しづらいと共に、その値段も高額になっている状況です。
そのような中での対応となります。

今回見ていて、非常に面白いと思ったのが次の一文です。

酒税:385円/本を含んでいます。

※当商品は消毒用アルコールと同等のアルコール分を含んでおりますが、消毒や除菌を目的に製造されたものではありません。

ニュースリリースより

どういうことかと言うと、消毒用アルコール製剤として販売すると、医薬関連の商品として扱われることになるため、摘要される法律が変わってしまうのです。
消毒用アルコール製剤には、一般的にイソプロピルアルコールが添加されており、飲用には適さない状態にします。
これにより酒税法の範疇ではなく、薬機法の取扱いになり、酒税がかからず第3類医薬品として安い値段で消費者の元に届く形になります。

今回の菊水酒造の対応は、「自分たちが今まで使ってきた販路で流通させられ、かつ法の範囲も守る」「酒税分は自分たちで負担する」ということになります。

このテキストを読む限り、関係した省庁・役所の方々も裏側で協力したことが伺えます。
大人の事情満載な、日本人らしい、ハイコンテクストな内容です。

こちらはニュースリリースが4月3日、まとめサイトでもとりあげられるようになったのが4月5日なので、まだ拡散は少ないものの、多くの人が関連するツイートし、5,000を超える人がまとめサイトを閲覧しています。
こちらも、多くの人から賞賛の声と、感謝の言葉が届けられています。

なお、本対応は、過去の豪雨被害に対する恩返し、とのことです。

当社は、2018年7月豪雨により甚大な被害を受けましたが、各方面から多大なご支援をいただきました。当社の有する製造設備等を活用して、皆様のお役に立てる製品を提供することで、恩返しにつながればと考えたものです。

ニュースリリースより

栄光

最後はこちらのブログ記事になります。

株式会社栄光は、同人誌印刷の会社で、その業界の方々にはよく知られている会社になります。

各イベントの自粛、中止の影響をうけ、多くの印刷会社が苦境に陥っています。
そのような中で次のようなコメントを発信しています。

そこで、心身ともに余裕のある皆様については、お願いできるのであれば本を創り続けていただきたいです。同人誌書店やピクシブさんのBOOTHなど頒布する術をお持ちの方は、即売会用に作りかけた原稿があれば、どうぞそのまま本を仕上げてください。

そして、普段からお使いになっている、印刷会社に引き続きご注文願います。

特定の同人誌印刷会社、数社だけが生き残ったのでは、ダメなのです。

ブログ記事より

この記事と関連する元ツイートは、リツイートが約27,000、4月4日に出たまとめサイトの閲覧数が約17,000となっています。
短期間で非常に多くの人の目にとまっています。

特定の誰かが頑張る、生き残るのでは駄目で、業界全体で頑張り生き残らなければいけない、という強いメッセージに感銘を受けたのか、多くの人から、励まされたという声が出ています。

義のマーケティング

これらの活動を見ていると、次のような強い想いを感じます。

  • 社会を支援したい
  • 顧客へお礼がしたい
  • 業界への貢献がしたい

もちろん、企業は営利団体ですので、自社の利益を考えた行動なのは間違いないでしょう。
それでも、こういった真摯な想いこそが、結局の所、世の中から支持され、真のロイヤルカスタマーを作ることになるのだと考えます。

つまり、義の基づいた企業活動では、通常のマーケティング活動とは異なり、次のような流れになるのです。

義のマーケティング

ロイヤルカスタマーが生まれる

製品・サービスの購買行動

なお、久原本家は1893年創業、菊水酒造は1881年創業、栄光は比較的若い会社ですが1975年創業と、企業の平均寿命が20年ちょっとであることを考えると非常に長く企業活動を続けている会社になります。

義とは、「利欲にとらわれず、なすべきことをすること。」という意味です。
企業の理念的な本質としての役割は社会貢献にあるはずで、そこに立ち返った行動をとれる企業こそが人々から賞賛され、長く存続しつづけるのでしょう。

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