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【飲食店】テイクアウトデリバリーの波は続くのか?

新型コロナウイルス影響により、多くの飲食店が大打撃を受けています。
そのような中、テイクアウト/デリバリーの波に乗れた所は、なんとか業容を維持、お店によっては拡大もできています。
しかし、この波が一過性の物で終わり数字が落ち込むリスクもあります。
どういうことでしょうか?

飲食店の状況

コロナ渦での飲食店の状況は、これまで当サイトで取り扱ってきました。

結論、ファストフード系をはじめとして、テイクアウト/デリバリーに対応した、対応しやすい業態は、今回の新型コロナウイルス影響も乗り切り、数字が安定しています。

アフターコロナ/withコロナの世界では、テイクアウト/デリバリーのウェイトが大きくなっていくのは間違いが無いでしょう。
そして、テイクアウト/デリバリーに対応できない、しづらい業態は、独自の付加価値を提供できなければ、先細りになるか、消滅していくでしょう。

しかし、単純にテイクアウト/デリバリーに対応していれば良いというわけでもありません。

フードデリバリーサービスは追い風

この話を続けるにあたり、見ていただきたいアンケート調査があります。

MMD研究所が行った、「2020年インターネットでのフードデリバリーサービスに関する調査」です。

この通り、2019年と2020年では、フードデリバリーサービスの利用率に劇的な変化があります。

この理由は説明するまでも無いでしょう。

そして、単純な利用経験だけでなく、この通り利用頻度も劇的に上昇しています。

これだけ見ると、非常に追い風のように見えます。
実際に追い風であるのは確かでしょう。

利用シチュエーションの変化

それでは、どのようなシチュエーションで利用されているのでしょうか?
その変化を見てみます。

まずは、直近の資料。

次に、2019年データ。

何が大きく変化しているかと言うと、
「家族友人が集まる時」が大きく減少し(これは当然に理解できる)、
「料理をするのが面倒なとき」「その料理が食べたいとき」が大きく伸びています。

(その他全般的に、人が集まる系を除き、様々なシチュエーションで伸びています。)

これらの大きく伸びている数字は、「コロナで外出自粛のため(家にいる時間が増えた)」に集計されていませんが、リモートワークの増加などを踏まえると、トータルとして「コロナ影響」によるものが大きいと考えて、大きな外れは無いでしょう。

つまり、一定程度、コロナ影響が落ち着いたら、数字が以前までとはならないにせよ、落ち込む可能性が大いにあるのです。

消費者が求めるものは?

もうテイクアウト/デリバリーは消費行動として定着化したんだから、そうそう落ち込まないよ。という意見も当然にあるかもしれません。

では何故、筆者がコロナ影響が落ち着いたら数字が落ち込むかもしれない、と考えるのか?というと、理由は3つあります。

「Uber Eats」はブームに終わるリスク有り

こちらの資料を見ていただきたいです。

デリバリーが増えたと。
それはわかりますが、何故、直営店と出前館の数字が落ちて、「Uber Eats」だけが伸びているのでしょうか?
ちょっと、おかしくないでしょうか?

これは、完全に推測が入ってしまうのですが、「この機会に、今まで使ったことがない、話題のUber Eatsを使ってみよう!」と考えた消費者が多かったからでは無いでしょうか?
直営店のデリバリーや出前館では、何か特別な新しい物を利用した感が無いですが、「Uber Eats」なら、まだ新鮮味が大いにあります。

ここで考えていただきたいのですが、「Uber Eats」で届いた料理って、本当に美味しかったですか?
もちろん、店舗が一生懸命作った料理であり、美味しいとは思いますが、店舗で食べるよりかは味が劣ったはずです。
冷めていますし、容器もオシャレじゃ無いからです。
(人により、受け止め方は当然に違うでしょうが。)

「Uber Eats」利用で、こなれたお客様は「まぁ、こんなもんか」となって、コロナ影響が落ち着いたら、一気に離れるリスクがあるのでは?と危惧する理由です。
ようは、ブームで終わるリスクがあるのでは?ということですね。

(出前館の他、競合の台頭の存在もあります。こちらの記事も参考にしてください。)

消費者が求めるものは「価格」と「味」

また、別のアンケート調査です。
結構、昔の資料です。

ネットリサーチティムスドライブ「『フードデリバリー(出前)』に関するアンケート」より

昔の資料をわざわざ持ってきましたが、最近の資料でも基本的には傾向は一緒です。

消費者が求めるものは、今も昔もまず第一に「価格」で、次に「味」です。

「味」については、上記で触れました。

「価格」ですが、店舗側と配送側にそれぞれ手数料が乗ります。
つまり割高です。
(別に、割高なのを悪い、とは言っていません。)

繰り返しますが、端的に言って割高なのです。

消費者の心を掴むほどのバリュー感があるのか?が問題です。

体験を売れるのか?

では、バリュー感とは?の話になって時に、こちらのツイートが納得感があります。

https://twitter.com/daichi/status/1252968255049748487

ようは、店舗で食べるという行為は、単純に料理にお金を払っているのではなく、「体験」を買っているのだ、ということですね。

テイクアウト/デリバリーでは、この「体験」を売るのが難しいのです。
Uber Eatsを利用する、という体験も1,2回で十分でしょう。)


以上、今後、テイクアウト/デリバリーの数字が落ち込むリスクがあるよ、という話をしてきました。

ではどうすればよいのでしょうか?

この点はシンプルです。

テイクアウト/デリバリーに最適化された料理、容器、購買体験のパッケージを開発しましょう。

これに尽きます。

テイクアウトの大御所であるマクドナルドとかは参考になりそうですけれどね。
ハッピーセットなんかは、長く、家族世帯に売れている商品パッケージです。

飲食業界は、人口減少に伴い、間違いなくシュリンクしていくビジネスです。
そして、元々利益率が低いビジネスです。
テイクアウト/デリバリーの波に乗れたとしても、今後どうなるかがわかりません。
生半可な対応では、100%生き残れないでしょう。

何度も書いていますが、テイクアウト/デリバリーのウェイトが大きくなっているのは間違いがありません。
このチャンスを捉えて、時代の変化に対応していって欲しいものです。

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コロナに強い外食業態とは(5月外食産業前年同月比)

GW以降、新型コロナウイルスの新規感染も落ち着きを見せ始め、5月後半には各地で緊急事態宣言が解除されるなど、正常化方向に舵が切られました。
5月の外食産業も、少しずつですが回復、人が戻りつつあります。
今回は5月外食産業の既存店前年同月比を元に、状況を見ていきます。
感染症拡大に強い業態も明確になってきました。


4月の状況については下記記事をご参照ください。

5月外食産業既存店前年同月比

全体概観

5月既存店前年同月比の数字は下記の通りです。
主要な外食企業大手のデータをピックアップしています。

全体的に回復しており、4月⇒5月での回復ポイントとしては平均10%超となっています。

一部、ポイントがマイナスになっている会社もありますが、
元々コロナ影響が軽微だった吉野家、
誤差の範疇と捉えても差し支えない日高屋、ワタミ系列、という状況です。

5月で大きく回復している業態が2つあります。

寿司業態(約27%の回復)と多業態系(約24%の回復)です。

寿司業態(約27%の回復)

寿司業態が回復した理由は、おそらく「コロナ明け」を祝うようなムードがあったからと考えられます。
寿司というものは、日本人にとって、どちらかというと「ハレ」の食事であり、また家族で行くようなイメージが強いものです。
テイクアウトや宅配にも対応しているものの、ハンバーガーや牛丼業態のような気軽さはありません。

4月、我慢していたその反動からの回復、と捉えられるでしょう。
まだ前年同月比80%前後の着地ですが、反動消費は6月も続くでしょうから、今後の回復が期待できます。

多業態系(約24%の回復)

多業態系は、ランチレストランもあればディナーレストラン/居酒屋もある、多業態展開を行っている企業を分類しています。

こちらも寿司業態同様、「ハレ」要素が強めの業態であり、「コロナ明け」消費が行われたと考えられます。
ただ、4月の前年同月比が40%を切る状態での回復なので、まだ前年同月比約60%という非常に厳しい状態が続いています。

夜の消費次第なので、回復に向けた正念場と言える状況です。

業績回復が遅い業態

コロナ影響を受けていて、回復が遅い業態として、
麺類、コーヒー、ファミリーレストラン、居酒屋が上げられます。

麺類の回復が遅い理由は、お店を見れば何となくわかります。
ソーシャルディスタンスを保つため、席数を半分にしている所が多いからでしょう。
牛丼業態と同様、さくっと食べる業態にしても、提供までの多少時間を要することから、回転率が相対的に低いことも影響していると思われます。

コーヒー業態の回復が遅い理由は、席数制限の影響や、リモートワークの増加が影響していると考えられます。
加えて、今わざわざコーヒーを買いに行かなくても、という心理が働いているのでは、と推測されます。
ドトールとコメダ珈琲で差がありますが、これは、コメダ珈琲の方が、「久しぶりに行きたい」という心理が働きやすそうだ、というのは想像ができます。

ファミリーレストランは、おそらくですが、寿司業態や多業態(ランチレストラン,ディナーレストラン)に先に顧客が流れたのでは、と考えています。
隣の客との距離が離れているお店が多いので、行きやすさはあるはずですが、「晴れ」という観点でいうと弱いのです。
そのため、6月、ファミリーレストラン消費が一定大きな回復を見せるのでは、と推測しています。

居酒屋系は、未だに休業対応を行っているお店が多いですし、そもそもとして長時間居座る業態なので「行きづらいよね」という心理が働くであろうことが想像できます。
6月以降、気温の上昇と共に、ビール消費も増えるので、ここで回復の手を大きく打っていただきたいものです。

感染症耐性が高い業態は?

ここまで見てきて、感染症耐性に強い業態に関する仮説が見えてきました。

キーワードは「お一人様消費」「テイクアウト」「宅配」「短時間」そして「ハレ要素」です。

「お一人様消費」「テイクアウト」「宅配」「短時間」

「お一人様消費」「テイクアウト」「宅配」「短時間」はわかりやすいと思います。

感染リスクを考えた時に、これらのキーワードに対応した業態は、利用のしやすさが容易に想像できます。
合致しているハンバーガー、牛丼、中華の各業態は、今回の新型コロナウイルス影響を最小限に抑えたか、もしくは逆に数字を伸ばしています。

麺類業態は「お一人様消費」「短時間」に合致するのですが、席が元々密集している店づくりが多い事や、時間が立つと”のびる”ためテイクアウトや宅配を頼みづらい、という点が指摘できます。

コーヒー業態も、満たす要素はありますが、上述の通り、こういう状況でわざわざ行かないであろう事、リモートワーク移行の増加が影響していると考えられます。

「ハレ要素」

この「ハレ要素」は、影響からの回復の強さです。

停滞した雰囲気の中、ようやく外で食事ができる、という中、どういうお店に行くのかを想像すると、やはり少々良いもの、普段の生活では食べないもの、が選択肢にあがると考えられます。

その意味で、寿司屋、ランチレストラン、ディナーレストランは正に「ハレ要素」があります。

もしかしたら、ハンバーガー業態や牛丼業態なども、期間限定のプレミアム商品を投下したら数字が伸びるかもしれませんね。


以上、5月外食産業既存店前年同月比の数字を見てきました。

外食産業で前年比が10%を割る、という状況は店舗存続に関わる異常事態であり、回復傾向が見られるものの、まだまだ予断を許しません。

とはいえ、少しずつ数字が戻っている、人が街に戻っている、という状況は喜ばしく思います。
感染症のリスクは当然にあるにせよ、それは普通の風邪も、インフルエンザも同様です。
withコロナと呼ばれているように、共存していく前提で経済の立て直しに取り組んで行きたいものです。

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ワタミは強い~キャッシュ・イズ・キング~

新型コロナウイルス感染拡大による経済不況により、居酒屋業界は多大なダメージを受けています。
今回は、居酒屋業界の例として直近5月の全店前年同月比が9%(▲91%)のワタミを取り上げます。
ワタミの経営は大丈夫なのでしょうか?

直近の月次業績

早速ですが、ワタミ㈱の月次業績推移は次の通りとなります。

ワタミ㈱月次業績推移(前年同月比)_ワタミ㈱IRページより

この通り(赤色網掛部分)、全店の前年同月比が3月は60.5%、4月は8.1%、5月は9.2%という前代未聞の数字となっています。
これは、外出自粛、営業自粛要請に伴う、店舗休業の影響です。

このような状況のため、60店~80店の規模で店舗クローズを行う旨の報道が出ています。

ワタミ㈱の業績状況

それでは次に、業績、PL推移(四半期毎)です。

ワタミ㈱PL推移(四半期毎)_ワタミ㈱決算資料より作成

居酒屋業態が主要事業ですので、第3Q(10月~12月)に儲けて、他の四半期は赤字、もしくはそれに近い状態ということがわかります。

ここから上の前年同月比のデータを用いて業績シミュレーションを行いたいと思うのですが、ワタミ㈱の場合は単純には行きません。

ワタミ㈱は、居酒屋、つまり外食事業の他に、お弁当宅配の宅食事業、農業、環境事業などがあるからです。
セグメントベースで業績を考えていく必要があります。

ワタミ㈱のセグメント利益を四半期毎に輪切りしたものが次の資料です。

ワタミ㈱セグメント利益推移(四半期毎)_ワタミ㈱決算資料より作成

この資料を元に、2021年3月期の業績をシミュレーションしてみましょう。

なお、ワタミ㈱は2021年3月期の業績予想を、「合理的に算定することが困難」として公開をしていません(当然ではありますが)。

2021年3月期の業績シミュレーション

シミュレーションの前提条件は次の通りです。

外食事業のシミュレーション前提

  • 1Qは、6月に営業を再開し、多少の回復をすることを前提に四半期全体で25%の前年同月比を置く
  • 2Qは影響を引きずり60%、3Q4Qも同様ももう少し回復する前提で80%の前年同月比を置く
  • 原価率30%、人件費率30%、家賃・減価償却費等比率30%、その他費用率10%とする
    (セグメントベースで見ると、外食事業は利益がほとんど出ていないので、売上100%に対して費用も100%で設定)
  • 原価率は物流固定費の存在はとりあえず無視して完全変動費とする
  • 人件費は、休業中も正社員の給料保証を行っているので100%、パート・アルバイトは完全変動費とする
  • 正社員とパート・アルバイトの比率は50%:50%でざっくり設定
  • 家賃・減価償却費等は完全固定費とする
  • その他費用は完全変動費とする

その他、宅食事業と環境、農業、全社調整額は前年の横置き、海外事業は中国エリアの撤退やコロナ影響を考えて、前年4Qをそのまま通期に渡り横置き、としました。
(上の方で示した前年同月比で、宅食事業が増加傾向にあったので、多少プラスで置いても良いかもしれませんが、とりあえず横置きです。)

これらを反映させた、2021年3月期の業績シミュレーションは次の通りとなります。

ワタミ㈱2021年3月期業績シミュレーション

一番右下の営業損益▲8,600、単位が百万円なので営業赤字86億円という数字になりました。

すごい数字です。
本当に、ワタミ㈱の経営は大丈夫なのでしょうか?

キャッシュ・イズ・キング

結論、すくなくともこの先1年でどうこうなることは無いと言えます。

理由は、営業赤字の額面ほどのCash流出が無いことと、ワタミ㈱が多額のCashを保有していることです。

実際のCash流出額

ワタミ㈱のFY19、FY20の減価償却費は約29億円計上されています。
減損損失を計上しつつも、有形固定資産と無形固定資産の簿価残は、FY19、FY20で同程度の数字がBS上計上されており、FY21も同程度の減価償却費約29億円が計上されるものと考えられます。

つまり、実際のCash流出額(営業キャッシュ・フロー)は86億円ではなく、約57億円と考えられます。

加えて、報道の通り店舗クローズが行われるであろうことと、コスト削減を行わないということは無いでしょうから、営業キャッシュ・フローは上記ほど悪化しないことは間違いなく指摘できます。

投資キャッシュ・フローや財務キャッシュ・フローについても、追加融資を行いFY21の追加投資と借入返済分は調達するであろうことから、実際のCashOutはもっと小さくなるはずです。
(短期借入金約69億円もロールするものと思われます。)

自己資本比率が34%と、外食産業としては比較的普通な数字であることも追加融資を有利に働かせるでしょう。
売上全体では50%減にはなっていないので、融資保証は交渉が難しいかもしれませんが。

多額のCashを保有している

そしてこれが一つ大きいのですが、ワタミ㈱は2020年3月期時点で約109億円のCashを保有しています。
(過去に行われた、ワタミの介護㈱の売却がここで効いてきているわけですね。)

つまり、この先1年でワタミ㈱がどうこうなる、ということは無いと考えられます。

正に、「キャッシュ・イズ・キング」です。

ただ、キャッシュ・フロー自体は大打撃を受けている状態ですので、既に計画しているであろう不採算店のクローズ、安全資金確保のための追加融資は早々に行う必要があります。
創業オーナーは「居酒屋3割閉店を覚悟」とのことですが、これは必須と考えた方が良いでしょう。

ワタミ㈱からの学び

ワタミ㈱の財務分析を行っていて感じるのが2点あります。

1つが、上述の通り「キャッシュ・イズ・キング」です。

Cashが潤沢にあれば、とりあえず何とかなります。

2つが、異なるタイプの主力事業が他にあることの強みです。

ワタミ㈱は外食事業の他に、高齢者向けのお弁当宅配事業である宅食事業があります。
この宅食事業が十分な利益を出しており、外食事業が傾いていても、経営に致命的なダメージを及ぼさずに済んでいます。
同じ食に関連するビジネスでも、外の食と中の食で分散されており、これが今回のコロナ危機では幸運な方向に働いたと言えます。


同じ外食産業でもレストラン事業一本で経営をしている㈱ジョイフルに関しても、同様の分析を行っておりますので、参考にしてみてください。

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ジョイフルは結構大変な状況にある

㈱ジョイフルが200店舗クローズするリリースを出しました。
レストラン業態一本で経営している㈱ジョイフルは、新型コロナウイルス影響を当然に受けています。
ここでは、㈱ジョイフルの経営状況について考察していきます。

直近の業績と200店舗クローズ報道

新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言、外出自粛の影響で多くの業種業界が経済的ダメージを受けています。

レストラン業態一本で飲食店経営を行っている㈱ジョイフルも例外ではなく、直近の月次業績は次の通りとなっています。

ジョイフル前年同月比業績推移 ㈱ジョイフル_IRページより

2020年3月は82.5%、続く3月4月は43.8%、46.4%と非常に厳しい結果となっています。

これの影響もあり、6月8日には、「今後の退店計画に関するお知らせ」として、ジョイフル業態を中心に200店舗をクローズするリリースが出されていました。

(略)
今後の退店計画に関するお知らせ

当社は、2020年6月7日開催の取締役会にて、以下のとおり今後の方針を決定いたしましたので
お知らせいたします。

1.退店規模

ジョイフル業態を中心とした200店舗程度を予定

2.退店理由

今回のコロナ禍や今後も定期的に同様の感染症が発生することが見込まれる中、消費者の行動や外食に対する価値観など、外食産業を取り巻く環境が大きく変化することが見込まれます。
このような非常事態に対処すべく、今後の経営方針として、財務基盤の強化を図る観点から収益力を改善し手元流動性を高めていくため、収益改善が見込めない店舗の退店を柱とする経営合理策を実施することにいたしました。

3.退店時期

2020年7月以降順次

(略)

㈱ジョイフル「今後の退店計画に関するお知らせ」より

㈱ジョイフルの経営は大丈夫なのでしょうか?

㈱ジョイフル業績状況

それでは、具体的に業績を見てみましょう。

各決算期の数値は短信なり有報なり見ていただければ良いでしょうから、ここでは前期(2019年6月期)と当期(2020年6月期)の開示されている部分までの、四半期毎の輪切りのPLサマリーを示します。
(なお20年3Qは決算延期で、まだ開示がされていません。)

㈱ジョイフル四半期毎PLサマリー 決算資料より作成

この通り、7月~9月で利益を出し、後は赤字が続く構造、ということがわかります。
つまり、‟例年通り”進捗したとしても、まだ開示されていない1月~6月は数億円単位の営業赤字が見込まれる形となります。

次に、業績指標の推移です。
こちらは有報、四半報から抜粋します。

㈱ジョイフル業績指標推移 有価証券報告書,四半期報告書より作成

ここで一番、頭に入れておくべき数字は赤色網掛で示した部分、現預金残高です。

㈱ジョイフルは2019年12月末時点で、約49億円のCash残高がありました。

会社という物は、どんなに赤字を出したとしても、お金が尽きない限りは倒産しません。
逆に言うと、どんなに黒字が出ていたとしても、お金が無くなれば倒産です。

つまり、今回の感染症に起因する不況を乗り越えるまでに、この現預金残高約49億円がもてば、まずはOKと言えます。

業績から考えられる直近のバーン

となると次に考えるべきは、まだ開示されていない2020年1月から6月までの業績の予測です。

上述、四半期毎PLサマリーから推測されるに、㈱ジョイフルの四半期毎のPLは次の数字をモデルとして置けそうだと考えられます。

予測モデルPL 決算資料より作成

これを3で割って、1月毎の100%イメージとして横置し、同じく上述した前年同月比の影響を反映させれば、ざっくりとではありますが、2020年1月から6月までの業績を予測することができます。
まだ数字が出ていない6月は、ある程度回復しつつも3月には届かない70%と置きました。

後のパラメータは次の通りで仮置きしました。

売上原価は、完全に変動費と仮定します。
(物流固定費があるため、実際はそのようなことはあり得ませんが)
販管費は、55%を家賃や本社費用の固定費、45%を人件費(完全変動費とする)と仮定します。
減価償却費をキャッシュ・フロー計算書から持ってきて、割り振ります。
EBITDAは、営業利益に減価償却費を足した簡易的なものとし、ざっくりとしたCash回収能力の指標とします。

これらを全て反映させると、次の通りとなります。

2020年3Q,4Q予測PL

こちらにある通り、この3Q,4Qで約26億円のCashがバーンする計算になります。

結構大変な状況にある

Cashは足りない

2019年12月末のCash残高が約49億円で、3Q,4Qのバーンが約26億円なら、問題がないか?というとそうでは無さそうです。

㈱ジョイフルの第46期 第2四半期四半期報告書を見ると、「1年以内返済予定の長期借入金」が約26億円あることがわかります。

つまり、3Q,4Qのバーン金額約26億円と、借入返済約26億円とで、合計約52億円のお金が必要なことになります。
約49億円のCash残高では足りません。

例年通り7月~9月の業績で営業キャッシュの獲得が出来れば良いですが、社会トレンドを考える限り、ここに頼るのは明らかに危険でしょう。
また、業績予測の前提も、より悲観的状況になったとしたら、もっと悪い数字になります(もちろん、反対に、出血を抑えて、赤字を最小限に留められている可能性もありますが)。

必要な対策

リリース通り、業績回復が見込めない200店舗のクローズを、早々に進める必要があるでしょう。

また、(既に進めているでしょうが)運転資金として追加の融資も行う必要があります。
自己資本比率的には30%を切っており、決してゆとりのある数字ではありませんが、前年同月比で半分以下に落ちているため、新型コロナウイルス対策融資・保証を受けられるはずです。

また、約37億円ある自己株式の放出も、検討を行った方が良いでしょう。
自己株式は2,489,500株あるとのことで、直近の株価830円から換算するに、最大約20億円ほどのCash確保が可能です(希薄化もありますし、株価は水物なので、実際は、そんなにうまくいきませんが)。

最悪、オーナー一族の株をファンドに売却し、支援を得るという方策も考えられます。
(オーナー一族の株式は合計で約56.9%になる。)

ファンド支援までは何とか避けることができるでしょうが、
出血を最小限に抑えること、少しでも多くのCash確保に努めることの2点が早急に必要です。

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新型コロナウイルスの経済影響(外食産業)

緊急事態宣言および外出自粛の影響により、外食産業は甚大なダメージを受けています。
一部の業態を除き、軒並み半分程度に売上が落ち、堅調なのはファストフード系のみです。
ここでは、外食産業が受けた経済的影響について見ていきます。

概要

2020年3月はまだ緊急事態宣言および外出自粛の影響が少なく、前年同月比約83%という数字でした。
(3月までは㈳日本フードサービス協会まとめより、4月は約20社超をサンプル調査)
(固定費負担が重い外食産業にとっては、これでも甚大なダメージなのですが。)

4月に入ると緊急事態宣言の影響をダイレクトに受ける形になるため、外食産業全体では前年同月比約51%という数字になっています。

外食産業 業態別の売上高前年比推移

一部の業態を除き、4月は壊滅的な数字です。
4月は例年、新入社員の歓迎会などもあり、比較的売上があがる月でもあるので、ダメージに拍車をかけています。
特にパブ/居酒屋系は非常に厳しく、前年比▲90%以上の影響を受けている業態が多くあります。
一方、ファストフード系は堅調に推移しています。

内訳を見ていると、消費者の動向が一定見えてきて、客数は激減、客単価は全体的に高い傾向が出ています。
つまり、「このお店で完結させてしまおう。」という考えが、数字に表れているのでは、と考えられます。

外食産業 業態別の客数・客単価前年比(2020年4月)

パブ/居酒屋系が厳しい理由

パブ/居酒屋系が厳しい理由は、大きく3つあると考えられます。

  • リモートワーク移行によるニーズの減少や利用自粛
  • サクッと食べてサクッと帰るために客単価も低い
  • そもそもとして一斉休業をした店も多い

まず純粋に、リモートワークに移行したこと、外出自粛が広まったことにより、純粋に利用ニーズが減少したことがあげられます。

次に、実際に利用する人たちにしても、長居はしたくないという心理が働いているであろうことが想像されます。
これは、客単価の数字にも表れていて、他の業態は全て前年同月比100%を超える客単価が出ていますが、パブ/居酒屋系だけが前年同月比約62%と、非常に数字が悪化しています。
サクッと食べて、サクッと帰り、ワンモアドリンクはしないという消費行動が起きているのでは、と考えられます。

次に、そもそもとして一斉休業した店舗も多いです。
大手ワタミやエーピーカンパニーなどをはじめ、4月は一斉休業を行う旨のリリースが各社から出ています。

一般的なファミレスやランチ業態とは異なり、居酒屋は複数人で利用する傾向の多い業態であることと、やはりどうしても夜の業態なので「不要不急」と指摘をうけやすいであろうこともあり、他業態がなんだかんだ言って営業を続けていたのに対し、休業せざるをえないと判断したのでしょう。

(5月27日追記)

居酒屋のワタミが60店舗~80店舗の閉店を行うというスクープが出ていました。
業績的にキツイ、というのもそうでしょうし、将来に向けて、まだ閉店できるうちに閉店をする、という考えもあるのでしょう。
(閉店をするにも多額のお金がかかる。)
元々、ワタミの利益率は薄かったこともあるので、不採算店の整理をするタイミングを計っていたという見方もできるかと思います。

ファストフードが堅調な理由

ファストフードが堅調な理由

ファストフード系が堅調な理由としては、これも大きく3つあると考えられます。

  • 営業自粛の度合いが弱かった
  • サクッと食べてサクッと帰る、という使われ方
  • 持ち帰り・宅配導線が整っていた

まず、ファストフード系は、諸々の批判がありつつも、通常通り営業を続けている事業者が多く存在しました。
順次、イートインの中止や、営業時間の短縮、席数の減少などの対応が各社で取られていきましたが、全体的に対応のスピード感は緩かった印象です。

次に、そもそもの消費行動として、サクッと食べてサクッと帰るのがマッチする使われ方なので、消費者としても利用するのにためらいが少なかったのでは?と考えられます。

また、持ち帰り(テイクアウト)や宅配(ウーバーイーツなど)の導線、仕組みが整っていたこともあるでしょう。
配送手数料を無料にした事業者もちらほらおり、リモートワークが増えたこのタイミングで宅配をアピールしていた姿も見受けられます。

ハンバーガー系と牛丼系での傾向の違い

なお、一口にファストフード系と言っても、ハンバーガー系と牛丼系で傾向が変わってきます。

ファストフード系の前年比内訳(ハンバーガー、牛丼)+喫茶(比較用)

ハンバーガー系は客数が減少し、一方、客単価が向上する形で売上を維持している形でした。
テイクアウト含め、「このお店で完結させよう」という行動傾向が出ているものと推測されます。

それに対して牛丼系は、客数は減少で、客単価はほぼ維持、売上としては前年比約92%という着地です。
牛丼系は、ハンバーガー系と異なり、現在の状況下でも消費行動が大きく変わらないということなのかもしれません。
ハンバーガー系は、サラダやドリンク、デザートなどを普段は買わない人も今回は買い、一つのお店で完結。一方、牛丼系は、持ち帰りにしても一品足すようなものがそこまでなく、イートインでも普段通りの商品を注文している可能性。)

まとめ

仮に緊急事態宣言が解除された後も、一定は回復するにせよ、以前のように客足が戻るとは思えません(一時的な反動はあるかもしれませんが)。
しばらくは、外食産業にとって冬の時代が続くものと想定されます。

ファストフード系が好調であったことを参考に、地道に宅配やファストフード的消費に対応するようにオペレーションを組んでいくしかないのではないでしょうか。
吉野屋などの牛丼業態では、ECで自社製品を冷凍で販売していたりします。
調理器具を企画して販売するお店や、Youtubeでの収益をたしにしたお店も存在します。
全ての業態がECで販売できるようなものばかりでは無いでしょうし、また、宅配もやっている業態として認知されるにも(業態の方向性とのマッチ度合い含めて)時間がかかると思いますが、一つのやり方だけで生存し続けるのは経営の柔軟性が乏しく、非常にリスクが高いです。

各所で予想されている通り第二波第三波が来たときのことを想定しなければならないでしょう。
ありとあらゆる手段で売上をあげていく方向で考えないと、今を乗り越えられても、次がどうなるかがわかりません。

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