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大戸屋の債務超過が拡大、コロワイドも自己資本比率が低下中

コロワイドの傘下となった大戸屋が、コロナ影響も大きく、その債務超過が拡大しています。
親会社のコロワイド全体の業績も決して芳しくない状況。
今回は、両社の業績を概観していきます。

大戸屋の債務超過が拡大

大戸屋の債務超過が拡大しています。
FY21_1Qが16億円のプラスの純資産で、同2Qが▲14億円の債務超過、そして同3Qで▲18億円という状況です。

㈱大戸屋ホールディングス 2021年3月期第三四半期報告書より

コロワイドの傘下に入った後、食材の調達等でコスト削減に取り組んでいるようですが、コロナ影響は甚大です。

月次の業績推移は下記の通り。

上半期合計で▲31%の前年比、下期も▲11%~▲31%で推移している模様です。

㈱大戸屋ホールディングス IRページより

ただ、減少幅を見ていると、世の中全体よりかは影響が大きい模様です。

下記の表は外食産業全体の売上高前年比の推移です。
大戸屋はレストラン業態ですが、純粋ファミレスでは無いですし、ディナーレストランでもありませんので、全体との比較なのですが、数ポイントから十数ポイント、世の中全体平均よりマイナス幅が大きいです。

一般社団法人日本フードサービス協会 データから見る外食産業より

やはり、TOB合戦の印象がよろしく無いのでしょうか?

とりあえず、親会社のコロワイドに優先株を発行して資金を調達し、債務超過を解消していく方針のようです。

(参考)大戸屋とコロワイドのTOB合戦

大戸屋とコロワイドとのTOB合戦については、以下の記事で解説していますので、参考に。

コロワイドの業績は?

それでは、コロワイドの方は大丈夫なのでしょうか?
当然、外食事業の会社ですので、コロナ影響は大きいはずです。

(そもそも、コロワイドは実態として債務超過状態なのでは?という懸念もあるようですが。)

コロワイドのFY21_3Q決算を見ていると、事業利益は▲83億円と赤字、純利益も▲63億円の赤字です(親会社帰属部分)。
親会社帰属部分の純資産は230億円ですが(資本金は292億円)、自己資本比率は8.7%と非常に低い水準です。

一方、Cash残高は366億円あるので、目の前の弾丸は何とかなる模様です。

㈱コロワイド 2021年3月期第3四半期決算短信より

FY22はFY21程のダメージにはならないでしょうから、赤字幅的に一応、いきなり数字上、債務超過にはならない感じです(FY21_3Qの営業損失が83億円で、資本金292億円)。

ただ懸念が無いわけではありません。

㈱コロワイド 2021年3月期第3四半期決算短信より

コロワイドは、約828億円ののれんを抱えています。

このまま各事業で赤字が続けば、のれんの評価も入るので、急転債務超過のリスクもゼロではありません。

いずれにせよ、コロナ影響がどれだけ早期に収まるのか、というアンコントローラブルな要素もありますので、何とか凌いでもらいたいものです。

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大戸屋臨時株主総会_経営陣刷新が決議されました

TOBが成立していた大戸屋VSコロワイド。
11月4日に臨時株主総会があり、現経営陣の解約と新経営陣の選任が決議されました。
株主構成だけでなく経営陣も、これで入れ替わった形になります。

成立時の記事はこちらになります。

報道内容

まあ、既定路線ではありましたが、場がひっくり返る、という奇跡は起きなかったようです。

臨時報告書はまだ開示されないでしょうから、どれだけの比率だったのかは不明ですが、報道からは賛否、意見がわかれている様子ですね。

改革は必要だよね、という一方で、納得がいかない、という形です。

牛角などを運営する外食大手コロワイドによる定食チェーンの大戸屋ホールディングスへのTOB=株式の公開買い付けが成立したことを受けた大戸屋の臨時の株主総会が開かれ、コロワイド側が提案していた経営陣の刷新を求める議案が可決されました。

(中略)

「今の経営陣では結果を出せていないことが明らかで、コロワイドがいいかどうかはまだ分からないが、改革は必要だと思った。守るものは守りつついい方向に変わってほしい」

(中略)

「大戸屋の定食が好きでよく食べていたけれど、今後は行かなくなると思う。お金を積んで株を買い上げたものの、十分な説明もなく納得できない」

NHK「大戸屋 臨時株主総会 経営陣の刷新求める議案が可決」より

経営陣は諦めていた模様

招集通知を見ると、経営陣は既に諦めていた様子が伺えます。

当社取締役会の意見

当社は、2020年6月25日開催の定時株主総会に係る株式会社コロワイド(以下「コロワイド」といいます。)の株主提案及びコロワイドにより2020年7月10日に開始された当社の株式に対する公開買付け(以下「本公開買付け」といいます。)について、コロワイドによる当社の連結子会社化は当社の企業価値を毀損し、株主共同の利益を害するおそれが高く、当社の現経営陣が中期経営計画を着実に実行することが最良の判断であることを主な理由として、反対の意見表明を行っておりました。もっとも、2020年9月9日付プレスリリース「株式会社コロワイドによる当社株券に対する公開買付けの結果及びその他の関係会社の異動に関するお知らせ」においてお知らせいたしましたとおり、一定数の株主が本公開買付けに応募し、本公開買付けが成立したことを踏まえ、当社取締役会において、本臨時株主総会に係る株主提案(第1号議案及び第2号議案)に賛成するか否かについては当社の株主の皆様のご判断に委ねることを決議いたしました。

株式会社大戸屋ホールディングス 臨時株主総会招集ご通知より

最後の抵抗は行わなかったようです。

おそらく現経営陣は退任と共に、社内役員については同時に会社を去る事にもなるでしょう。
真偽定かではありませんが、「社風の違いは明白で、大戸屋では社員の退職が相次ぎ、社内の空気は思いという。」という話もあります。

名実ともに、大戸屋はコロワイドの傘下となったわけですが、果たしてPMIはどこまで順調に行くでしょうか?

(現経営陣、自分達で”真”大戸屋を作るのとか、良いんじゃないでしょうかね?)

コロワイドの勝因は?

結論から言って、今回のコロワイドの勝因は「勝つまで戦う」というスタンスにあります。

こちらの記事でも触れているのですがコロワイドは期間の延長と共に、下限を引き下げるという徹底ぶりでした。

一方、大戸屋側の経営陣は株主に対する、あまり根拠の無い信頼があったのか、具体的な買収防衛策を終始一貫してとっていませんでした。

やれる事があったはずなのに、事実上、ノーガード戦法です。
(もっと言うと、創業家と揉めた段階で対処が必要だった。)

今回の結果は明白だったと言えるでしょう。


今回の大戸屋VSコロワイドからいくつかの教訓があります。

  1. 買収防衛策ってやっぱり大事だよね
  2. 創業家との付き合い方は慎重に(というかコミュニケーションはしっかり)
  3. 言い方って大事(コロワイドの創業者・経営陣ね)

2.と3.に関しては、こちらの記事も参照ください。

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新潮の言う通りコロワイドは債務超過なのか?

少し古い話題なのですが、新潮社が記事(著者は細野祐二氏)にてコロワイドは債務超過なのでは無いか?と掲載し、コロワイドとバチバチやっていました。
今回は、コロワイドは本当に、新潮の言う通り債務超過なのか否かを考えてみます。

新潮社とコロワイドのやりとり経緯

新潮社は、大戸屋VSコロワイドとのやり取りに関連して、いくつかの切り口でコロワイドを批判する記事を掲載していました。

新潮社 VS コロワイド

その内の一つが「コロワイド、大戸屋プロキシーファイトに敗れて…前門の虎と後門の狼」(2020年7月6日)です。
記事の中では、ざっくり下記の通りを指摘しています。

  • コロワイドはM&Aをベースに成長し、700億円を超える「のれん」の他、200億円近い”疑似資産”を計上している
  • 「のれん」の評価(減損テスト)は適正ではなく、「のれん」の減損想定分を考慮するとコロワイドは債務超過状態になる(関連して監査法人の交代を行っている事を指摘)
  • 大戸屋株式についても、多額の「のれん」を計上するので、実質債務超過は膨らむ

一見、それっぽい内容となっており、会計に明るくない人なら、「そんな状態なのか、、、、、」とネガティブに受け止めてしまうかもしれません。

それに対して、コロワイドは自社IRにて反論(2020年7月6日)を行っています。
反論の内容は、下記のようなものです。

  • 新潮社は複数回に渡りコロワイドを誹謗中傷する記事を掲載している
  • 「のれん」の減損テストはIFRSベースの会計基準に則って行われており、記事の内容は「IFRSはもとより一般的会計知識を著しく欠く、全くもって虚偽のもの」
  • あずさ監査法人とは円満に監査契約を終了している
  • 記事筆者の細野氏は、「会計士界のレジェンド」と呼ばれているが、2004年に有価証券報告書虚偽記載事件により、最終的に執行猶予付き懲役刑が確定し、公認会計士登録が抹消されている

新潮社(細野氏)側は上記に対しても、再反論「コロワイドの反論に反論する…のれんと監査法人の変更について」(2020年7月17日)を行っています。
内容としては、ざっくり「コロワイド側の主張は、適切な根拠に基づいておらず、監査基準に基づく合理的な推論を自らの意に沿わないとして抑圧するのは、言論の自由を保障する日本国憲法違反であり、上場会社としてあってはならない。」という物です。

やり取りに関して、どちらに総合的な適正性があるかはここでは論じませんが、新潮社(細野氏)側の言い分は言いがかりに近いものがあるようには感じます。

(参考)議論の是非に関する補足

例えば、新潮記事では、下記のようにコロワイドを批判しています。

=====
「のれんの減損テストは、回収可能額としての公正価値と使用価値のいずれか高い金額と、対象事業に関する資産帳簿価額を比較し、帳簿価額が回収可能額を上回る場合に、のれんの減損を認識する」と言うばかりで、公正価値算定の基礎となった事業計画の内容を開示しない。これでは減損テストで使用した公正価値の妥当性を検証的に判断することはできない。自らは根拠を示すことなく、根拠の全てを示す論述を論難することはできない。
=====

ただ、会計基準に則って、会計処理を行うのは当然です。
また公正価値算定の基礎となった事業計画の内容自体を開示しないのも、上場企業であっても一般的であり、これを持って「自らは根拠を示すことなく」と批判するのは、流石に言い過ぎのように思います。

なお、他記事でもコロワイド側を擁護するものが出ています。

「著者も、デイリー新潮の記事に掲載されている、のれんの超過収益力を認めることができないとする「根拠」について、一般の会計基準に照らした会計処理から納得し難いと考える。
(中略)
投資家が独自の指標で企業価値を算定するのであれば構わないが、監査法人はこのような手法で減損テストは行わない。したがってROEが低いからのれんの超過収益力が認められないと判断することは、あまりに乱暴な判断だといわざるを得ない。」
ITmedia「減損テストから見る、コロワイドが新潮にブチ切れた理由(後編)」より

一方、下記の指摘も新潮社側は行っています。

=====
会社は連結株主持分250億円をはるかに上回る718億円もの「のれん」を資産として計上しているのだから、もとよりその資産性には強い根拠が求められることは言うまでもない。巨額ののれんを計上する上場企業が強い社会的批判の目にさらされるのは当然のことであり、それを《IAS第36号に則り「のれん」の減損テストを実施しています》というだけではお話にならない。
=====

これに関しては確かに一理ある部分はあります。

下記参考画像の通り、コロワイドの自己資本に対するのれんの金額比率は尋常じゃなく高く、その資産性や計算の合理性に対して、他社以上に丁寧に説明することは、IR的観点で必要なようには思います。

IFRSの肝は、比較可能性にもありますが、「自社にとって開示しなければいけない本質的な論点」の開示についてもあるはずです。
会計ルール・開示基準に記載されていないから、と言って、説明が基準内のものに留まっている事に関して、一定の批判をうけるのは致し方無い面はあります。

(参考画像)「のれん」の比率が高い居酒屋企業ランキング

もう少しシンプルに考えてみる

とりあえず、現状としてコロワイドが開示している資料は監査法人の適正意見をもって開示されているものであり、真に正しいかはともかくとして、ルールに則っているものと判断するのが適切です。

ここで会計処理の適正性等々に関して論じても致し方が無いと思うので、別の観点でシンプルに考えてみます。

日本基準だったとしたら「のれん」影響はどうなっていた?

まずは、コロワイドののれんの金額と、その内訳です。
(出典は㈱コロワイドの2020年3月期有価証券報告書からです。)

この通り、700億円超の「のれん」が計上されています。

さて、コロワイドは前段でも触れていましたが「IFRS(国際会計基準)」を適用しています。
このIFRSベースでは、のれんは償却をせず、その”価値”を算定し計上している金額との差額を損益処理する手続きが行われます(何度か触れている「減損テスト」とかですね)。

小難しいことは省略しますが、ようは、毎期一定額ずつ償却する日本基準に対して減損判断をするIFRSという違いがあります(これでも小難しいですけれどね。。。)。
で、この話の何がよく問題になるかというと、IFRSを適用し、減損に該当しないだけの業績が上がり続けているならば、日本基準より利益が高く見える(償却されないので)、逆に業績が傾いた時に一気に減損も入りダブルパンチを受ける、という点です。

ここがシンプルに考えるポイントです。

仮に、コロワイドが日本基準を採用していて、毎期「のれん償却額」を計上していたら、どのような業績になるでしょう?
(超厳密には、このシミュレーションも詮無いことなのですが、まぁ頭の体操だと思ってください。)

コロワイドがIFRSに移行したのが2017年3月期からで、開示資料としては2015年4月1日以降のものが、IFRSベースの数字になっています。

2016年3月期以前の有価証券報告書を見る限り、のれんの償却年数は20年を設定していたようです。

この20年をベースに考えると、ざっくり毎期の償却額は約3,500百万円(35億円)です。

過去5年間、56億円から100億円の事業利益が計上されていましたが、これがざっくり35億円ずつ小さくなる、という事がわかります。
事業利益ベースですと赤字では無いものの、黒字幅が大きく減少、事業利益率は0.9%~2.7%という状況になるとシミュレーションされます。
(当期純利益に関しては、税効果分があるので35億円ダイレクトにはヒットしない事に留意。)

経常利益ベースで考えると?

次に経常利益ベースで考えてみましょう。
営業利益もそうですが、経常利益で会社業績を見るのは一般的ですからね。

まずはPL全体像です。

ここで注目していただきたいのが金融収益と金融費用です。

営業外収益と営業外費用は、日本基準だと特別項目に入るものも混じっているのと(減損損失とか)、金額感、ニアリーイコールなので、金融部分に絞って考えます。

金融収益は銀行預金の利息や、他法人への貸付によるもので、
金融費用は銀行借入や社債、そしてリース(使用権資産)の支払利息です。

期によって計上額が異なるのですが、少なくとも2019年3月期は約13億円、2020年3月期は約42億円の利益アンダーインパクトがあることがわかります。

つまり、上記のれん分を含めて、2020年3月期は約21億円の経常赤字を計上していた(2019年3月期は約36億円の経常利益)、とシミュレーションできることになります。


繰り返しますが、コロワイドはIFRS適用会社なので、日本基準に換算してどうのこうの、というのは詮無いことではあります。
ですので上記の論考に対しては、別に是非を問いたいものでは無い、という事はご承知おきください。

いずれにせよ、コロナ影響もあり非常に厳しい経営環境にある事、そして大戸屋株式の買収に伴う「減損予備軍」のれんの多額の計上に関しては、事実ではあります。

今後、どのように経営を舵とっていくのか、継続して見ていきましょう。

最後、微妙に忘れていましたが、35億円×5年分で、約170億円がバーチャルなのれん償却額です。
2021年3月期第1四半期報告書ベースですと「親会社の所有に帰属する持分合計」は約200億円、資本合計が約325億円なので、ざっくりシミュレーションベースでも債務超過とは、まだ言えない感じです。
(ただし、2021年3月期も通期赤字の場合は税効果の話や、話題にあがっていた「のれん」の評価の話もあるので、一気に債務超過に転落するリスクは、結構高いとは感じています。)

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コロワイドによる大戸屋へのTOB、成立との事

2020年9月8日、各誌よりコロワイドによる大戸屋TOBが成立したとの報が出ました。
併せて、コロワイドからもリリースが出て、47%程の着地で成立する事が確実となりました。
とりあえず、現時点でのまとめです。

(注)本日の中で一定の動きがあったので、一番下の方で追記をしています。

当ブログでの過去記事

とりあえず、過去記事です。
経緯等を把握したい方は、下記もご参照ください。

コロワイドのTOB成立リリース

各誌より、コロワイドによる、大戸屋TOBが成立したとの報道が流れ、併せて㈱コロワイドより、次のようにリリースが出ていました。

第2ラウンドにて、とりあえずの決着、という形になりました。
ほぼほぼ既定路線ではありましたが。

状況の解説

筆者のツイートをベースに、状況の解説をしていきます。

結果47%で着地

大戸屋ですが、個人投資家からの支持が非常に強い会社で、既報の通り下限45%では成立がしませんでした。

この点については多くの外部投資家も一定読んでいたようで、様子見スタンスをとっていました。

仮に手を出して、結論として不成立で着地してしまったら、手元に残る株式の処分に困るわけです(TOBで上がっている株価が、不成立だとまた下がるリスクも大きいですし)。

これが下限40%に条件変更があった事で、成立の可能性が一気に高まったので、利ザヤを取るだけのリスクが大きく下がりました。
結果、トータル47%程での着地となったわけです。
躊躇していたのが問題無いと見込まれたのですね。

なお、投資家の躊躇は上限に関しても存在していました。

仮に上限を超えて成立した場合に、抽選に外れたら、処分に困る株式がこれもまた手元に残るからです。

まぁ、株価を見ていると、下限40%に下げても不成立の可能性がありそうだ、という着地にはなっています。

どれだけ投資家から、大戸屋株主による大戸屋への支持が厚いか、逆にコロワイドに対する支持が弱いか、と受け止められていたのかが読み取れます。

上場廃止とスクイーズアウトは無い

さて、本件は入り口から上場廃止を目的としていなかったので、上場廃止は無く、スクイーズアウト(少数株主の排除)は無いです。

持株比率が47%でも、議決権行使比率を考えると実質過半数であり、支配力を得ているから、無理して100%子会社化する必要が無いのですね。

このまま行けば、経営陣の刷新、経営方針の転換は必至でしょう。

今後の重要事項~PMI~

さて、今後のイベントはPMIです。

PMIとは、買収後の経営統合プロセスの事です。
ポスト・マージャー・インテグレーションの略で、経営面、業務面、意識面において、統合を図ります。

株式を買い、おたくを子会社化しました、これで決着、後は我々の指示に従ってください。
とは当然ですがなりません。
(これをすると、ただの株式投資になってしまいますね。)

買収する側の会社が、買収した会社に入り込んで、様々な面で影響力を発揮しなければいけないのです。
(これにより、買収した会社の価値をあげるなり、買収する側の会社とシナジーを出して、トータルとして投資に対してリターンを得る必要があるからです。)

ただ、このPMIが難航しそうです。

従業員側の反発は結構強かったという報道をチラホラ散見します。

会見で三上氏は「コロワイドは大戸屋の経営理念を軽んじ、あるいは否定している。(コロワイド傘下になれば)店内調理を守れないのではないかという不安がある」と主張。コロワイド傘下となった場合には退社する意向を示している社員がいると明かし「私もコロワイド傘下となれば退社する意思だ。店内調理や『おいしい料理を提供する』という経営理念が薄まるのなら(大戸屋で)仕事をする意味はない」と話した。

日経ビジネス「大戸屋社員がTOBに反対表明「コロワイド傘下なら辞める」」より

入り口として反発の強い方々とどのようにコミュニケーションをとっていくのか。

上でのツイートにもある通り、飲食店の成否は従業員の存在が強く影響します。

これまでの大戸屋に対する強圧的態度を続けていては、PMIが難航する事は確実でしょう。

大戸屋側はどう動くのか?

経営の独立性を主張する大戸屋は提携先への第三者割当増資などを検討しており、両社の対立は長期化しそうだ。
(中略)
これに対し、大戸屋側はコロワイドによる臨時株主総会の招集請求に備える一方、新たな外部資本を模索。8月には食材宅配オイシックス・ラ・大地と業務提携しており、買収阻止に向け対抗措置の検討を続ける。

時事ドットコムニュース「コロワイド、敵対的TOB成立 大戸屋と対立長期化も」より

さて、大戸屋側の動きですが、今後、どのように出るでしょうか?

報道では、臨時株主総会の招集請求に備えるのと、第三者割当を模索、とあります。

招集請求は当然そうですね。
ここで経営陣の刷新が行われるのですから。

対抗策として第三者割当増資があるそうですが、果たしてどうなるでしょうか。
有利発行でなければ、公開会社の場合、取締役会決議で第三者割当増資を行えますが、果たして逆転の一手を打てるでしょうか。

(追記)9月9日中の動き

さて、9月9日中の動きですが、次のように、コロワイドからリリースが出ていました。
コロワイドから大戸屋に対する、臨時株主総会の開催請求ですね(上で言及した通りです)。

コロワイドからは、現在の大戸屋の取締役11名の解任と、コロワイド側が推薦する7名の取締役の選任を目的事項とした、臨時株主総会の開催を請求しています。

これに関しては、大戸屋側からもリリースが出ています(当然ですが、内容に相違はありません)。

一方、コロワイドは次のようにも記載しています。

同上

ようは、会社側(大戸屋側)が協力姿勢を示すなら、少なくとも目の前において、一部の取締役の留任は飲み込んでも良いよ、と言っているわけです。

このコロワイド側の柔軟姿勢には、いきなり現取締役を解任したらPMIがリアルに難航する、大戸屋株主のコロワイドに対する感情の氷解意図などが考えられます。

さて、これから大戸屋側をどのように出るでしょうか?


引き続き、状況を見ていきたいと思います。

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大戸屋VSコロワイド、第1回戦は大戸屋の勝利の模様(TOB期間延長へ)

昨日8月25日、コロワイドよりTOBの期間延長と下限引き下げのリリースがありました。
大戸屋VSコロワイドの敵対的TOBは、第1回戦は大戸屋の勝利の模様です。
とは言え、期間延長ですので大戸屋側にとって厳しい状況であるのは変わりません。
状況を見ていきましょう。

こちらも参考にしてください。

TOB期間が延長を条件変更 ⇒ 9月8日に&下限引き下げ

コロワイド側のリリースはリンク先の通りです。

目的として「当初の買付予定数の下限に達しないことが明らかになったことから、本公開買付けの成立可能性を高めることを目的として、買付予定数の下限を上記のとおり引き下げることといたしました。」と明確な記載がありましたので、結論、当初条件では失敗し、延長と下限引き下げを行う必要があった、という事ですね。

内容としては、大きく下記の2点の変更です。

TOB期間の終了日 2020年8月25日(火) ⇒ 2020年9月8日(火)(10営業日の延長)

買付予定数の下限 1,872,392株(元々ホールドしてい19%とあわせて45%) ⇒ 1,510,138株(同40%)

その他、諸々テキストを追加し、次のようなことを主張しています。

  • IFRS(コロワイド採用会計基準)だと、過半数に満たなくても実質的に支配していれば連結子会社にできる
  • 大戸屋の業績が非常に悪いから、早急に関与して業績回復を優先させないといけない
  • 大戸屋の議決権行使割合が低いから、40%の確保でも、取締役の入れ替えができる
  • オイシックスと提携するとのことだが、効果が全く示されていない

書いてあることは、現実としてそうだよね、という内容なのですが、状況を踏まえると書き方、もう少しどうかならんかったのかなー、と思います。
この点は後述しますね。

敵対的TOBは成功確率が低い

私はドラマが苦手なので半沢直樹は視聴していないのですが、どうやら敵対的TOBとかが話題にされているようですね。
そのため、ストーリーは全く知らないので、もしかしたら頓珍漢な取扱い方かもですが。

敵対的TOBと聞いて、どのようなイメージを抱きますか?

おそらく日本人の多くの方は、ネガティブなイメージを抱くのではないでしょうか。

そして、人間という生き物は(経済学的に)非合理的な生き物ですので、(経済学的に)ロジカルに自分達が儲かるか?という観点では無く、何か気に入らなければ感情で(経済学的に)非合理的な判断を下しがちです。
(別に、これを悪いとは言っていないですよ。)

では、この話を続ける前に、こちらの資料を。

M&A Online「M&A市場を席捲する敵対的TOB 高まる成功率」より

これは敵対的TOBの成否の一覧です。
実に、成功率は50%未満です。

敵対的TOBは仕掛けられた側が抵抗するから、という点もあるのですが、上述した人間の非合理性も影響します。

ようは、機関投資家はロジカルに意思決定をしますが、個人投資家は感情での意思決定要素が非常に大きくなるのです。
(何度も言いますが、別にこれを悪いとか、そのような話はしていないですよ。そういうものだ、という事です。)

過去にも記事にしましたが、今回のコロワイド側のTOBの仕掛け方は、正直な感想、礼節に欠けるものです。
コロワイド側に対して、快く思っていない個人投資家は多いでしょう。

では、どれくらいの個人投資家がいるのか?というとこちらの資料をご覧ください。
大戸屋の2020年3月期有価証券報告書からの抜粋です。

株式会社大戸屋ホールディングス_2020年3月期有価証券報告書より

そうです。
個人投資家の割合が64.58%もいらっしゃいます。
一般の方に愛されている会社という事ですね。

法人投資家、外国人投資家は、かなりの割合がTOBに応じるはずなので、今回の8月25日期限TOBにおいて、個人投資家がほとんど応じなかった、と推測されます。
全くと言って良いほど、コロワイド側は支持されていないのです。

こちらの大戸屋株価推移もご覧ください。

Googleより 大戸屋ホールディングスの株価推移

19年程前に3,000円を一瞬超える時期があったにせよ、そこから19年間に渡り、今回のTOB価格(3,081円)に到達した時期が全くありません。
このような状況を冷静に考えれば、大戸屋株式で利益を得る最大のチャンスが今回のTOBなのですが、それに大戸屋株主が賛同していないのです。

今後どうなるか?

ここで、改めてコロワイド側のリリースを読んでみて下さい(リンク先はコロワイドのリリースPDFです)。

リリース①

リリース②

上で、もう少し書き方どうにかならんもんか、と書きましたが、コロワイド側は大戸屋株主から前提として支持されていない、ということを、もう少し真摯に捉えた方が良いように思います。
大戸屋の株主の約65%が個人投資家がであり、そして一般論として個人投資家の多くが高齢者であることは既知の事実です。

もし、コロワイド側が正しく歓迎される形で今回のTOBを成立させたいのであれば、個人投資家達の心を軟化させ、賛同をいただけるようなメッセージを発信した方が良いでしょう。
第1回戦は大戸屋側に軍配が上がったものの、依然としてコロワイド側が極めて有利な状況であることには変わり有りません。
どうせなら、貫禄のある成立をして欲しいものです。

一方、大戸屋側ですが、個人投資家の方々の心に訴えるような作戦は、とりあえず奏功したわけですが、感情に訴える作戦だけでは正直、買収防衛策としては弱いと言わざるを得ません。
今回の、期間延長と下限引き下げで、いよいよ本格的に、敵対的TOBが成立する方向で進んでいくでしょう(再延長ができることも、当然に指摘できます)。

短い時間ですが確保できたのですから、とれる選択肢はほとんど無いにせよ、追加の対策が必要です。

このまま行けば、TOBが成立する、という流れのままなのは変わりがありません。


引き続き、状況を見ていきたいと思います。

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