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完全オンライン株主総会のハードルが大きく下がりそう

株主総会をオンラインのみで開催できるようにする法律が9日可決されました。
これまではバーチャルオンリー株主総会のハードルは非常に高いものでしたが、今回の改正で大きくハードルが下がる可能性があります。
しばらくはハイブリッド型がメインになるでしょうが、実例が増えれば会社・株主双方の利便性が大きく向上するかもしれません。

改正産業競争力強化法が改正

次のとおり、「改正産業協力強化法」が改正された模様です。

第六十六条 金融商品取引法第二条第十六項に規定する金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社(以下この条において「上場会社」という。)は、株主総会(種類株主総会を含む。以下この項及び次項において同じ。)を場所の定めのない株主総会(種類株主総会にあっては、場所の定めのない種類株主総会。以下この項及び次項において同じ。)とすることが株主の利益の確保に配慮しつつ産業競争力を強化することに資する場合として経済産業省令・法務省令で定める要件に該当することについて、経済産業省令・法務省令で定めるところにより、経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた場合には、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる旨を定款で定めることができる。

衆議院「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案

経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた場合、とあるのですが、ここの部分が具体どういう事なのか?
こちらは具体がわかり次第、記事にしていきたいと思います。

準備を進めている企業の存在も

審議が遅れた影響で今期(2021年3月期決算)の株主総会には間に合わないでしょうが、着々と開催できるよう準備を進めている企業も存在します。

例えば武田薬品は今回直近の株主総会で、次のような定款変更を上程しています。

武田薬品「IRページ」より


別の会社ですとZホールディングスも準備を進めています。

Zホールディングス「IRページ」より

まだまだ完全オンラインの株主総会は、具体の運営上の課題が見えていない(解像度が低い)点もありますが、間違いなく実例は増えていくでしょう。

関連してハイブリッド型の株主総会の導入は必須となってくるのでは無いでしょうか。

上場企業は大体において東京に集中しているので、オンライン株主総会の普及は地方や海外在住の株主にとっても、極めて利便性が高くなるのは間違いありません。


今後は、具体の運用部分まで踏み込んで法改正されることを望みます。

株主総会が行われるより前に、決算発表、決算説明会はすでに終わっており、株主総会の開催までに1ヶ月以上の期間が空くのは通常の事です。

この期間で、質問を公に見える形で募集しつつ回答も行う。
十分な説明も事前に動画等で公表する。
株主総会本体自身は、あくまでも実際の決議を行う場(オフィシャルに意思決定を行う最高機関としての場)とする。

そのような具体の運用まで可能とする法改正にブラッシュアップできれば、日本のIRも相当な水準向上が図れるでしょう。

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株主総会

株主総会のお土産を廃止しよう

株主総会にとって「お土産」は悪名高い代物で、大体の共通認識はとれるかと思います。
昨今の情勢に照らし合わせて、廃止・中止をする企業も増えています。
非常にタイミングが良いので、株主総会のお土産を廃止し、本質的な質疑が行われる株主総会を目指しませんか?
ここでは、株主総会のお土産について解説します。

忙しい人向けまとめ

  • 株主総会のお土産を廃止する企業が増えている
  • 以前から、お土産問題は悪名高いものだった
  • 機関投資家にとっても、バーチャル参加する株主にとっても不公平な存在
  • お土産の廃止により、来場自粛を促す効果がある
  • それでも参加する株主は、会社に興味をもっている方のはずなので、そのような方々とあるべき関係構築を図るのが望ましい

お土産を廃止する所が増えている

以前より、株主総会における「お土産」は、企業側担当者たちにとって、悪名高いものでした。
というのも、お土産を受け取るだけ受け取った後、さっさと帰り、株主総会には参加しないという株主が大勢いるからです。
中には株主総会をはしごし、複数の会社のお土産を受け取る方や、一度お土産を受け取ったにも関わらず、総会の終わり頃を見計らって、もう一度お土産を受け取ろうとする方もいらっしゃいます。
(拒否をすると大騒ぎをする酷い方もいらっしゃるので、渡してしまう会社もあり、更に問題を根深くします。「どこどこの会社はくれた。」「去年はもらえた。」云々)

そのようなこともあり、近年はお土産を廃止する企業が増えてきていました。

2020年も、新型コロナウイルス拡大の影響を受け、3月は株式会社ワイヤレスゲート、5月はイオンディライト株式会社、6月はスターゼン株式会社などが、廃止や中止を表明しています。
他にも、大塚HD、タカキュー、松屋、ベルク、しまむら、トライステージ、カネ美、ラピーヌ、JTなども、廃止や中止の対応をとっています。

お土産の問題

機関投資家にとっての不公平

お土産の問題は、上述の「さっさと帰る株主」の他に、機関投資家にとってメリットが全く無い、という点も以前から指摘されていました。
そのため、お土産を廃止し、配当などを重視する姿勢をとる企業が増えていたのです。

通信費の負担という新たな不公平

新しい意味での不公平感も存在します。
従前、お土産は、わざわざ株主総会にお越しいただいたことに対するお礼、足代の意味が含まれていました。
それでは、バーチャル株主総会や、単純に配信された動画を視聴する場合を考えるとどうでしょうか?
その通信代の負担の意味合いで、お土産を来場株主に渡すこと自体に不公平感が産まれてしまうのです。
(このロジックも本質的とは思えないのですが、このように考えることは可能。)

そもそも、お土産は必須ではない

そもそもとして、お土産は必須ではありません。

お土産は、法律の要請は一切なく、あくまでも会社が任意で実施するものでした。
つまり、お土産を廃止・中止したとしても法的な問題は一切、発生しないのです。

時代の変化にあわせた対応を

上述の通り、株主総会の「お土産」は多くの微妙な問題を抱えています。
(ぶっちゃけこんなことで議論をしたくないくらい、どうでもいい問題です。お土産の受け取りだけをしても往復2時間とかかかるから、時間コストを考えたら絶対に損なのに、人生軸での費用対効果を考えないのだろうか?)

時代は変化しておりますので、昨今の情勢を踏まえて廃止、もしくは中止をするという選択を検討した方が良いでしょう。

感染拡大の防止対策アピールにもつながる

上述の不公平感の解消だけでなく、新型コロナウイルスの感染拡大の防止対策アピールにもつながります。

過去の実例により、お土産を廃止すると、来場する株主が減少することは確かです。
会社によっては、激減し、半分くらいになる事例もあります。

廃止や中止は、来場自粛効果が高いと見込まれますし、またタイミングも良いです。
反発が少なく、廃止・中止をできる機会ですので、逃さない手はないでしょう。

廃止や中止の場合は通知・公表が必要

ただし、タイミング的に良い、といってもクレームが寄せられる可能性はあります。

お土産の廃止や中止を決断した場合は、招集通知や同封する書類内に、その旨を記載し、通知するようにしないと不味いでしょう。
またあわせて、HPなどでお土産の廃止・中止の公表も、早々に実施した方が良いでしょう。

お土産に固執する方々の気持ちは共感できないものの、一定数存在することは確かであり、理解ができます。
株主総会当日に、苦情対応等で混乱しても仕方が無いので、きちんと周知することが望ましいです。

本質的な質疑が行われる株主総会に

お土産がない、という中で株主総会に参加していただける株主は、本当の意味で会社に興味をもっていただけている可能性が高いです。
そのような株主の方に参加いただき、本質的な質疑を行えれば、会社の経営にも資するでしょう。

あるべき株主との関係性構築を図るためにも、お土産という微妙な存在は廃止するのが望ましい。
そのように考えます。

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株主総会

ハイブリッド出席型バーチャル株主総会の開催事例(予定含む)

バーチャル株主総会において、会社法上の出席となる形式がハイブリッド出席型となります。
参加型は、要件が厳しく、コスト上の問題や事例が少ないという意味で会社法的リスクも存在します。
ここでは、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会の開催に関して、株主への案内の方法など、事例を見ていきます。

富士ソフト㈱とパイプドHD㈱(予定)の2社について、具体を掘り下げていきます。

バーチャル株主総会についての全体像はこちらの記事を、

バーチャルオンリー株主総会の開催がなぜできないのか?はこちらの記事を、

会社法上の出席とはならない参加型に関しては、こちらの記事をご参照ください。

ポイント

  • 会社法上の取扱いを明言する
  • ID・パスワード方式による専用システムへのログインと本人確認を行う
  • 参加環境は多様な方法が選択可能で、システムは一つで完結するものが望ましい
  • 代理人は認めない
  • 事前の議決権行使と当日の議決権行使の関係を明確化する
  • 質問のポリシーを定める(濫用時の途絶を含めて)
  • 動議は認めない、加えて扱いを明確化する
  • 免責事項を明言する

富士ソフト㈱の事例

概要

システム開発会社の富士ソフト㈱は2020年3月13日(金)に、出席型のハイブリッド型バーチャル株主総会を開催しました。
リアル株主総会への参加が約160名、バーチャル株主総会への参加が約10名とのこと。
おそらく招集通知上の修正は対応できなかったのでしょう。
招集通知と同封する形で「インターネット出席に関する株主通知事項」という案内を出しています。

招集通知上では、インターネットによる議決権行使の場合の案内欄末尾に
「インターネットによる議決権行使に際しては、同封のリーフレット記載の「インターネットによる議決権行使のご案内」もご確認ください。」
と一文を付しています。

バーチャル株主総会の案内について

バーチャル株主総会の案内については、冒頭で新型コロナウイルス対策について触れた後に、インターネット出席について
「(略)
感染予防の対策をいたします。
また今回、インターネット等の手段を用いて株主総会に「出席」いただく、「インターネット出席」の方法を導入することといたしました。」

と案内を出しています。

会社法上の取扱いの案内

会社法上の取扱いは、
「開催日当日に実際に株主総会の会場にお越しいただいてご出席いただく場合と同様、会社法上、株主総会に「出席」したものと取り扱われます。」
と、明確に会社法上の出席となる旨を記載しています。
※ 括弧書きは削除

ハイブリッド型バーチャル株主総会にしても、参加型なのか、出席型なのかが、人によってはわかりづらい場合もあるでしょうから、明確にどちらなのかを記載するのが良いのでしょう。

ID・パスワードについて

ID・パスワードは、バーチャル株主総会への出席を希望する株主様に限定する形で、
「必要な ID とパスワードは、インターネット出席を希望する旨のお申込みをいただいたのちに当社から改めてご案内させていただきます。」
と案内を出しています。

問い合わせベースでのID・パスワード発行は煩雑なので、最初からインターネットによる議決権行使と同じID・パスワードが利用できるような方式に変わっていくものと考えられます。

参加環境について

参加環境は複雑と言いますか、めんどくさい感じです。

「インターネット出席いただくためには、株主の皆様におかれて、少なくとも以下の環境を整えていただく必要がございます。」
と案内を出した上で、

  • 映像視聴はWindowsパソコンからのみ対応
  • 資料の閲覧や議決権の行使には「iPad」のみ対応
  • 質問は電話のみ受け付け

と制限が多い形となっています。
結論、バーチャル株主総会への出席人数が少なかったのも、頷けます。

この事例は技術的にはハードルが低いものの、今後この方式を採用する企業は少ないか、いたとしても「形だけ整えました」という感じになるのでは、と考えます。

本人確認について

本人確認は、シンプルにID・パスワードによる認証です。
「ご案内する ID とパスワードを用いて当社ホームページ、アプリケーション等にログインいただく方法で、株主様の本人確認を実施させていただきます。」

この方式、つまりID・パスワードによる本人確認は、今後のスタンダードになっていくでしょう。
出席環境が整ってきたら、二段階認証方式などが採用されていくのでしょうね。

代理人について

代理人の出席は、
「株主様本人のみに限定させていただき、代理人等による参加はご遠慮いただきますようお願いいたします(代理人等による出席をご希望される株主様は、会社法及び定款等の定めに従い、会場出席いただきますようお願いいたします。)。」
と明確に認めない方針を打ち出しています。

この方式も、今後のスタンダードになっていくでしょう。

議決権行使の取扱い

議決権行使に関しては、
「開催日当日、インターネット出席の方法で定時株主総会にご出席いただいた時点で、事前の議決権行使の効力は破棄するものといたします。
(中略)
また、事前に議決権行使いただいたうえで、定時株主総会にインターネット出席いただいたものの、採決に参加せず、議決権の行使がなされなかった場合には、会場出席株主様と同様、棄権として取り扱うことといたします。
(中略)
事前に行った議決権行使の効力を維持しつつ、株主総会の議事進行の様子をご覧いただきたい場合には、インターネット出席のためのシステムにログインすることなく、ライブ配信のみをご利用ください。」

としています。

整理すると、下記の通りです。

  • インターネットで議決権行使を行ったら、それが優先される
  • 事前行使をし、インターネット出席した場合は、事前行使分が無効になり、棄権扱いになる
  • 事前行使して、変更意思が無い場合は、傍聴のみとするよう案内している

経産省のガイドでは、会社法上の解釈の中で、上記の取扱いとしているので、今後、会社法の改正があれば、この整理は変更が入る可能性があります。
むしろ、面倒ですし、本質的な意味合いは無いので、改正して欲しいですね。

質問について

質問は、
「固定電話又は携帯電話から会場にいる当社のオペレーターにお電話をいただき、議長の許可を得て質問をすることができます。」
と、電話のみであることを明言しています。

質問に対する方針や、質問権濫用への対応については、
「説明することが不適当な質問に対しては、質問を取り上げず、ご回答しないものといたします。
(略)
濫用的な質問であると議長が判断した場合には、当社から当該インターネット出席株主様との通話を強制的に途絶させていただく場合がございます。」

とし、不適切な質問には回答しないこと、質問権濫用は通話を切ることを明言しています。

会社のスタンスに応じて、ここの方針・記載は変わってくるのでしょうが、今の世の中の流れ的に、毅然と対応する方向性がスタンダードになっていくのではないでしょうか。

動議について

動議は、
「動議につきましては、(略)インターネット出席株主様からの提出は受け付けないこととさせていただきます。
(略)
動議の採決につきましても
(略)
インターネット出席株主様は棄権又は欠席と取り扱うこととさせていただきます。
(略)
希望される株主様におかれましては、会場出席の方法で定時株主総会にご出席いただきますようお願い申し上げます。」

とし、バーチャル株主総会出席の場合は受け付けず、動議を行いたい、採決に加わりたい、と希望する場合はリアル株主総会への出席を行うよう案内しています。

これは、コミュニケーションの即時性・双方向性の質が向上したら、もしかしたら変わるかもしれませんが、会社的にあまりメリットは無いので、上記の方向性がスタンダードになる可能性が高いです。

お土産について

お土産は、
「インターネット出席株主様に対して、お土産をお渡しすることはできませんので、併せてご注意ください。」
バーチャル株主総会では配布無しが明言されています。

これは、株主の属性によってはトラブルになりえますが、この方向性を世の中のスタンダードとして欲しいですね。
お土産にこだわる株主が一定数存在しますが、時間コストを考えたら、どう考えたって釣り合わないので、正直不思議です。

免責・インターネット参加する場合のリスクの案内

免責・リスクに関する説明は、手厚くされています。

「もっとも、システム等の都合上、会場出席株主様と完全に同じ取扱いをさせていただくことは難しい点、ご了承ください。
また、インターネット出席の方法は、(i) システム及び通信環境の影響を鑑み、日本国内に在所する株主様のみを対象に実施すること、(ii) 提供できるシステムの言語は日本語に限定させていただくこと、いずれもご了承ください。
(略)通信障害が発生する可能性がございます。当社としては、このような通信障害によってインターネット出席株主様の皆様が被った不利益に関しては、一切責任を負いかねます。
なお、インターネット出席に際して必要な通信・通話のための機器類及び利用料等一切の費用については、株主様のご負担とさせていただきますのでご了承ください。
(略)
想定外の不利益が生じる可能性も踏まえて、会場出席の方法で定時株主総会にご出席いただくか、インターネット出席の方法で定時株主総会にご出席いただくかをご判断くださいますようお願い申し上げます。」

このように、大前提として、リアル株主総会への出席者とは同じ扱いができない点を明言し、その上で、下記について案内を出しています。

  • 日本国在所に限定
  • 言語は日本語に限定
  • 通信生涯が起きうること、とその損害の責任は負わないこと
  • 各種費用負担は株主様が負うこと
  • リスクを承知の上で、リアルかバーチャルかを選択すること

パイプドHD㈱の事例

バーチャル株主総会の案内について

パイプドHD㈱は2020年5月27日(水)開催なので、現時点では「予定」となります。
招集通知上で全ての案内を出しています。
パイプドHD㈱の案内は、富士ソフト㈱の案内に比較して、かなりあっさりとしたものになっています。

可能な限り、書面(郵送)またはインターネットによる方法での議決権行使をお願い申しあげます。
(中略)
本株主総会はハイブリッド出席型バーチャル株主総会として実施しますので、当日、インターネット上で出席し、議決権を行使することもできます。

「パイプドHD㈱ 第5回定時株主総会招集ご通知」より

ID・パスワードについて

富士ソフト㈱と同様ID・パスワード方式ですが、
「議決権行使サイトにアクセスし、同封の議決権行使書用紙に表示された「ログインID」及び「パスワード」でログインしてください。」
と、議決権行使書に記載のあるものを利用する形になっています。

これは一番しっくりくる方法です。
今後のスタンダードになっていくでしょう。

代理人について

代理人は「代理人によるバーチャル出席はお受けいたしません。」と富士ソフト㈱と同じ扱いです。

議決権行使の取扱い

議決権行使は、
「議決権を行使された後、採決において議長が締め切る時まで、再度議決権を行使し直すことができますが、この場合、最後の議決権行使を有効な行使としてお取扱いいたします。」
と、繰り返し行使できる旨の記載がありますが、事前行使との関係が示されておりません。

リスクが高いのではと感じます。
事例がどれだけ積みあがるかにもよりますが、流石にここまであっさりとするのは問題があるでしょう。

富士ソフト㈱の記載が良いと考えます。

質問について

質問は、インターネットによる事前の議決権行使における「コメント」と同じ扱いにする旨を記載しつつ、シンプルに
「いただいた質問は、株主総会事務局が取りまとめ、議長より回答いたします。」
と、回答する旨を記載しています。

動議について

動議は、富士ソフト㈱と同様、
「バーチャル出席される株主様の動議については、取り上げることが困難なため、お受けいたしません。
当日ご来場の株主様から動議提案がされ採決が必要になった場合、バーチャル出席されている株主様は賛否の表明ができません。事前に議決権行使書用紙の郵送またはインターネットにより議決権を行使し当日ご出席されない株主様と同じお取扱いとなります。」

としています。

会社側からすれば、動議を取り上げるメリットはあまりありません。

免責・インターネット参加する場合のリスクの案内

免責、出席環境については、インターネットによる事前の議決権行使における環境と同じ扱いにしています。

免責事項なのに、
「(略)
通信障害や通信遅延が発生する可能性があります。このような通信障害により株主様に生じた不利益に関して、一切責任を負いかねます。バーチャル出席される株主様におかれましては、可能な限り、事前に議決権行使を済ませた上で、バーチャル出席くださいますようお願い申しあげます。
(略)
また、不測の事態が生じた場合には、当社として適切な措置を講じることがあるほか、株主様におきましては、リアル株主総会への出席と比較して、制約事項や想定外の不利益が生じる可能性がございます。」

と、あっさりとした記載にしています。

パイプドHD㈱の記載例は全体的にかなりあっさりしており、事例が積みあがっていない現状では、不安に思うほどです。
ベースとしては富士ソフト㈱の方針に倣いつつ、使用するツール的には視聴環境から質問・議決権行使まで、一つのシステムで完結できるようなもので実施するのが良いでしょう。

㈱ガイアックスの運営事例-Zoom使用

㈱ガイアックスは3月27日、ハイブリッド出席型のバーチャル株主総会を実施しています。

使用ツールはZoomで、議長をはじめとする取締役・執行役の全員がオンライン参加をする形式です。

運営方法としては、下記の流れです。

  • バーチャル株主総会の参加希望株主に対して、専用の案内窓口をを通知
  • 専用案内窓口にて本人確認(株主番号、氏名住所)を実施
  • 本人確認と併せて、Zoomのカメラやマイクをオンにするなどの注意事項を伝達
  • メールアドレスを確認し、ZoomURLを送付
  • 総会本番では、順番に株主番号を確認し、出席番号を付与
  • 質疑はカメラ前で挙手
  • 議案・採決はカメラ前で拍手

かなりアナログな運営フローですが、確かにハイブリッド出席型の要件を満たしてはいるので、一つの方法として参考にはできます。

ただし、これは株主数が少ないことが前提です。
バーチャル参加が10名程とのことですので、この人数だからこそできる運営と言えます。
現実的な選択肢としては、難しいと言えるでしょう。

(参考)具体的なソリューション

現在、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会を運営するためのソリューション(システム)としては、下記のようなものがあります。

なお、富士ソフト㈱は上述の通り、視聴環境と質問環境が分離されているので、選択肢としては厳しいものがあるのでは、と考えられます。
その意味で、実績のあるサービスは現状存在しない状況です。

(補足)実質的なバーチャルオンリー株主総会

バーチャルオンリー株主総会を開催したい場合は、経済産業省の「株主総会運営に係るQ&A」で示されている下記の見解が参考になります。

設定した会場に株主が出席していなくても、株主総会を開催することは可能

株主総会運営に係るQ&A 2020年4月2日

つまり、リアル株主総会の場所を用意すれば、そこに株主が参加していなくても、株主総会は開催したことにできる、ということです。
ハイブリッド出席型の形式をとりつつ、会場出席者がいないのであれば、「実質的なバーチャルオンリー株主総会」になり、法的に問題がありません。

バーチャルオンリー株主総会は会社法的に開催できないのですが、この「実質的なバーチャルオンリー株主総会」を目指すことは可能です。

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ハイブリッド参加型バーチャル株主総会の開催事例

バーチャル株主総会の開催にあたっては、バーチャルオンリー株主総会は会社法的に開催ができず、ハイブリッド型の開催のみが選択肢となります。
ハイブリッド型には、会社法上の出席とならない参加型と、会社法上の出席となる出席型があります。
ここでは、ハイブリッド参加型バーチャル株主総会の開催に関して、株主への案内の方法など、事例を見ていきます。

バーチャル株主総会についての全体像はこちらの記事を、

バーチャルオンリー株主総会の開催がなぜできないのか?はこちらの記事をご参照ください。

㈱ブイキューブの事例

参加型のハイブリッド型バーチャル株主総会を開催した代表企業例は、WEB会議システムの㈱ブイキューブです。
㈱ブイキューブは、12月決算で、2020年3月25日(水)に定時株主総会が開催されました。
当日は、リアル株主総会に約10名、バーチャル参加が約100名という状況になったとのことです。

招集通知上の案内

㈱ブイキューブは2015年より、ライブ配信を行っており、招集通知上で下記のように案内を出していました。

【お願い】
当日ご出席の際は、お手数ながら同封の議決権行使書用紙を会場受付にご提出ください。 当日の模様を、当社の「V-CUBE セミナー」でライブ配信いたします。詳しくは次ページをご参照ください。

【お知らせ】
(略)
(3) 今般の新型コロナウイルスの流行に伴い、当日は、当社役職員及び係員に対し、マスクの着用その他感染拡大予防のための措置を講じる場合がございます。予めご了承のほどお願い申し上げます。

第20期定時株主総会 ライブ配信のご案内

第20期定時株主総会の模様を、当社の「V-CUBE セミナー」でライブ配信いたします。詳細につきましては、当社ウェブサイトIR情報ページをご覧ください。
https://ir.vcube.com/jp/

【ご注意事項】
・会場後方からの撮影とし、可能な範囲において、ご出席株主様の容姿が撮影されないように配慮いたしますが、会場都合等により撮影されてしまう場合がございます。ご出席いただける場合はあらかじめご了承をお願い申しあげます。
・ご使用の機器やネットワーク環境によってはご視聴いただけない場合がございます。 「V-CUBE セミナー」の推奨動作環境ページのご確認をお願い申しあげます。
https://jp.vcube.com/support/requirements/req_seminar.html
・オンデマンド配信では、ご出席株主様の肖像権・プライバシー等に配慮し、ご質問部分は割愛させていただきます。あらかじめご了承をお願い申しあげます。
・当社ウェブサイトやライブ配信、オンデマンド配信をご視聴いただくための通信料につきましては、株主様にてご負担くださいますようお願い申しあげます。
・万一、何らかの事情により配信を行わない場合は、当社ウェブサイトIR情報ページ(https://ir.vcube.com/jp/)にてお知らせいたします。

「㈱ブイキューブ 第20期定時株主総会招集ご通知」より

この招集通知の通り、下記の点に関して端的かつ丁寧に案内が発信されていました。

  • ライブ配信を行う旨
  • 感染拡大の防止措置についての発信
  • 肖像権・プライバシー等に対する配慮と確認
  • 視聴環境に関する案内
  • 視聴にかかる費用負担に関する注意喚起
  • 情報の発信場所

ハイブリッド参加型バーチャル株主総会を開催する上では、円滑に開催するための環境整備、株主のインターネット活用、肖像権等への配慮、が留意事項となりますので、これらに配慮した形になります。

(重要)追加の情報発信

さらに、招集通知とは別にバーチャル株主総会実施に関する案内を出しています。

案内の通り、時代の要請にあわせて試験的導入という位置づけにしています。

ハイブリッド型バーチャル株主総会の実現のためのインフラ提供を目指し、
(中略)
実現に向けた新機能の試験運用を実施することといたしましたので、お知らせいたします。

「㈱ブイキューブ 第20期定時株主総会におけるハイブリッド型バーチャル株主総会の実現に向けた新機能の試験的導入に関するお知らせ」より

この案内の中では、下記のメッセージを発信しています。
質問に関しては、株主の権利である「質問」ではなく、「コメント」という扱いを明確にしています。

  • ライブ配信で株主総会を視聴できる
  • 会社法上の出席とはならない旨の案内
  • 併せて事前に議決権を行使するよう促し
  • チャット機能で「コメント」ができる
  • 「コメント」に対する回答の方針の明確化

会社法上の取扱いに関する注意喚起

会社法上の取扱いに関しては
「本試験運用を通じ本総会に参加いただく株主の皆様は、会社法上、本総会にご出席いただいた株主様(以下「ご出席株主様」といいます。)として扱われるわけではありません。」
と、会社法上出席とならないことを明言しています。

議決権の行使に関する注意喚起

そのため、議決権に関して
「『第20期定時株主総会招集ご通知』に記載の方法(事前の議決権行使書面又はインターネット投票による投票)により、必ず事前に議決権を行使いただきますようお願い申し上げます。」
という形で、事前の行使を行うように促しています。

「コメント」の取扱いに関する案内

「コメント」に対しては
「議長その他の当社役員に対し、ご質問(ご出席株主様による質問権の行使としてのご質問と区別して、以下「コメント」といいます。)をいただくことができます。」
とした上で、
「当社の判断において実務上可能な限りのご回答は申し上げる予定であるものの、当社にはご回答を申し上げる会社法上の義務はないものと整理されます。」
とし、義務は無いものの、現実的な範囲内で回答するという会社の方針を明確化しています。

これらの追加の情報発信は、株主に対する丁寧な情報発信と言えますし、また何か問題が起きた際のリスクヘッジともなりますので、ハイブリッド参加型バーチャル株主総会を実施する上での参考となるでしょう。

ハイブリッド参加型バーチャル株主総会に対する所感

ハイブリッド参加型バーチャル株主総会は、ライブ配信とコメントを受け付ける機能さえ充足されているのならば、会社法上、障害がなく開催できるバーチャル株主総会の形式です。

現実の株主総会では、事実上、決議の結果が決まっており、直接経営者たちの声を聞ける、会社-株主間でコミュニケーションをとれる場となっているのが実態です。

となれば、無理に会社法上のリスクをおかしてまで出席型の形式をとる必要性が低いので、参加型はバーチャル株主総会を開催する上での、ローコストかつローリスクの現実的な選択肢と言えるでしょう。

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株主総会

バーチャルオンリー株主総会(オンラインオンリー株主総会)は開催できるのか?

新型コロナウイルスの影響により、バーチャル株主総会(オンライン株主総会)の関心が高まっています。
ここではバーチャル株主総会(オンラインオンリー株主総会)は開催できるのか否かを見ていきます。

なお、経済産業省より「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」が公開されています。
少々ボリュームがありますが、全体をしっかり理解するには、ガイドも参照ください。

忙しい人向けまとめ

  • バーチャルオンリー型株主総会は開催できない
  • 会社法上はリアルな「場所」が必要
  • 時代の変化に応じた、会社法の改正が求められる
  • ただし、リアル会場を用意すれば「実質的なバーチャルオンリー株主総会」は可能

バーチャル株主総会(オンライン株主総会)とは

まずバーチャル株主総会ですが、これは2種類存在します。

ハイブリッド型とバーチャルオンリー型です。

ハイブリッド型は、リアル株主総会とオンラインでの株主総会参加のどちらかを選択可能な株主総会です。
これはさらに、会社法上の出席とはならず傍聴するだけの「参加型」と会社法上の出席となる「出席型」に分類されます。

一方、バーチャルオンリー型株主総会は、言葉通りで、リアル株主総会を開催せず、オンラインのみで会社法上の要件を満たすことを目指す株主総会です。

簡単にまとめると、下記の図のようにイメージできます。

バーチャルオンリー型株主総会(オンラインオンリー型株主総会)

バーチャルオンリー型は開催できない

上述の通り、バーチャルオンリー型株主総会は、リアル株主総会の開催は無く、インターネット等の手段のみで会社法上の「出席」をする株主総会のことです。

結論を言うと、バーチャルオンリー型株主総会は開催できません。

それは、現行の会社法では解釈が難しいからとなっています。

○松平委員
(略)
そこで、まずこの現行法の解釈を伺いたいんですが、ハイブリッド型とバーチャルオンリー型の株主総会、これは日本ではできるのかどうか、法律上許容されるのかどうか、これを伺いたいと思います。

○小野瀬政府参考人 お答えいたします。
まず、委員御指摘のハイブリッド型についてでございますが、取締役が実際に開催する株主総会の場所を決定し、これを株主に通知した上で、その場所に来ていない株主等についても、情報伝達の双方向性及び即時性が確保されるような方式によって株主総会に出席することを認めることは、会社法上許容されるものと解されます。したがいまして、実際に開催されている株主総会に株主がオンラインで参加することを許容すること、いわゆる御指摘のハイブリッド型の株主総会を行うことは、会社法上許容され得るものと解されます。

これに対しまして、実際に開催する株主総会の場所がなく、バーチャル空間のみで行う方式での株主総会、いわゆるバーチャルオンリー型の株主総会を許容することができるかどうかにつきましては、会社法上、株主総会の招集に際しては株主総会の場所を定めなければならないとされていることなどに照らしますと、解釈上難しい面があるものと考えております。

第197回国会法務委員会第2号(平成30年11月13日(火曜日))

会社法の記載

根拠条文的には会社法の298条1項1号にある、「株主総会の日時及び場所」の記載です。
ようは、会社法的に「場所」が必要であり、バーチャルオンリー型は場所が存在しない形になるため、解釈上の困難がある、ということです。

(株主総会の招集の決定)
第二百九十八条 取締役(前条第四項の規定により株主が株主総会を招集する場合にあっては、当該株主。次項本文及び次条から第三百二条までにおいて同じ。)は、株主総会を招集する場合には、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 株主総会の日時及び場所
(以下略)

会社法

リアルな場所が必要

ようは、リアルに参加ができる「場所」が無ければならず、バーチャル株主総会を開催する場合は、リアルに参加できる場所を何かしら用意して、選択できるようにしなければならないのです。

(会社法に規定される「場所」は仮想現実を設定できる旨の判断が出ていない。
オンラインに対応できない方のために、リアルな「場所」での権利行使の機会確保が必要になる、という考えなのでしょう。)

本質的には、会社側と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されているならば、リアルだろうがオンラインだろうが、変わりは無いはずです。

時代は変化していますので、早々に会社法の改正が求められます。
(声をあげていきましょう。)

(追記)実質的なバーチャルオンリー株主総会

経済産業省の「株主総会運営に係るQ&A」で示された見解では、下記の通りとなっています。

設定した会場に株主が出席していなくても、株主総会を開催することは可能

株主総会運営に係るQ&A 2020年4月2日

つまり、リアル株主総会の場所を用意すれば、そこに株主が参加していなくても、株主総会は開催したことにできる、ということです。
ハイブリッド出席型の形式をとりつつ、会場出席者がいないのであれば、「実質的なバーチャルオンリー株主総会」になり、法的に問題がありません。

インターネット参加ができない人もいるであろう前提の元、リアル会場は用意しつつ、この「実質的なバーチャルオンリー株主総会」を目指すのが良いと考えられます。

補足

なお、株主全員の同意がある場合は、株主総会自体を開かず「みなし決議」という形式をとることも可能です。
上場企業では事実上不可能な方法なので、中小企業、ベンチャー企業向けの選択肢ですね。

(株主総会の決議の省略) 第三百十九条 取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。

会社法

バーチャル株主総会を現実的に開催しようとする場合は、ハイブリッド型となります。
バーチャル株主総会(オンライン株主総会)全体について要約した記事は下記にありますので、併せてご参考に。

カテゴリー
株主総会

バーチャル株主総会(オンライン株主総会)の考え方整理(経産省資料の要約)

経済産業省より「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」が公開されています。
コンパクトにまとまってはいるものの、言い回しとかが小難しく、ごちゃっているので整理しました。
バーチャル株主総会(オンライン株主総会)を検討する際のベースとなるので、ご参考に。

元資料はこちらです。

なお、下記については、Excelの表でもまとめてあり(サムネイル画像の物)、こちらからダウンロードできます。

リアル株主総会

物理的に開催される一般的な株主総会。
会社法上の出席となる。

株主総会には、決議の取消事由(法第831条1項)があるため、慎重に運営されてきた、これまでの実績・判例、つまり「あるべき実務」がある。
リアル株主総会は、一般的に認められている「あるべき実務」と言え、リスクが少ない。

ハイブリッド型バーチャル株主総会の種類について

リアル株主総会とインターネット等の手段によりリモートで参加・出席することの、両方が選択できる株主総会。

参加型と出席型がある。

参加型は会社法上の出席とはならない。
出席型が会社法上の出席となる。

ざっくりとまとめると下記のようになります。

以下、「ハイブリッド型」は省略し、参加型は「参加型バーチャル株主総会」、出席型は「出席型バーチャル株主総会」と表記。

参加型バーチャル株主総会(会社法上は出席とならない)

概要

リアル株主総会の開催に加え、リモート開催を行う。
会社法上の「出席」とはせず、審議等を確認・傍聴することができる。

ポイント:コメントの取扱い

  • コメントの受け付け

    当日のコメント受け付けの他、事前にコメントを受け付け、一括回答する形など、工夫が可能。
  • リアル株主総会の開催中に紹介・回答

    コメント等について、リアル出席株主からの質疑を優先しつつ、可能な範囲で紹介、回答する。
  • 株主総会終了後に紹介・回答

    株主総会終了後に、株主懇談会等の場を活用することが考えられる。
  • 後日HPで紹介・回答

    後日、会社のHP等で動画公開と共に、紹介、回答する。

メリット

  • 遠方株主の傍聴が可能
  • 複数の株主総会を傍聴可能
  • 株主重視の姿勢をアピール
  • 透明性の向上
  • 情報開示の充実

留意事項

  • 円滑な参加に向けた環境整備が必要
  • 株主がインターネット等を活用可能であることが前提
  • 肖像権等への配慮が必要(株主への限定配信の場合には、問題が生じにくい。)

具体的な運用

ID・パスワード等による株主確認を行い、配信される中継動画を傍聴。
ID・パスワード等の通知方法は、招集通知に記載するか、同封するかなど。
中継動画等を公開するなら、ID・パスワード等による株主の本人確認は必要がない。

質問・動議

会社法上の「出席」ではないため、質問や動議はできないが、参加者から受け付けたコメント等を取り上げることは可能。

議決権の行使

バーチャル出席株主は、当日の決議に参加できないため、事前に招集通知等で事前行使を促すことが必要。

出席型バーチャル株主総会(会社法上の出席となる)

概要

リアル株主総会の開催に加え、会社法上の「出席」となるリモート開催を行う。

「開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されている」ことを前提に、出席型による開催が許容。
会社側の通信障害について対策が必要。
株主が容易にアクセスできるための情報提供等も必要。

株主側の問題に起因する不具合については、交通機関の障害等と同様、総会決議の瑕疵とはならない。

ポイント

  • 前提となる環境整備(通信障害についての考え方)、経済合理的な範囲において導入可能なサイバーセキュリティ対策
  • バーチャル株主総会にアクセスするために必要となる環境(通信速度、OSやアプリケーション等)や、アクセスするための手順についての通知、通信障害リスクの告知
  • 株主総会の出席と事前の議決権行使の効力の関係
  • 質問・動議の取り扱い

メリット

参加型のメリットに加え、

  • 出席機会の拡大
  • 複数の株主総会に出席することが容易
  • 質疑等を踏まえた議決権の行使が可能
  • 株主総会における議論(対話)が深まる
  • 議決権行使の活性化

留意事項

参加型の留意事項に加え、

  • 議事の恣意的な運用可能性
  • 出席型の要件を満たす環境整備
  • どのような場合に決議取消事由にあたるかについての経験則の不足
  • 濫用的な質問が増加
  • 事前行使インセンティブが低下し、当日の議決権行使もされず、議決権行使率が下がる可能性

具体的な運用

1)本人確認:バーチャル出席株主の本人確認は、事前通知する固有のID・パスワード等で実施。

2)代理人:代理人の出席はリアル株主総会に限るとすることも、妥当な判断。事前通知が必要。
代理人を受け付けるならば、リアル株主総会と同様、定款をベースとし、委任者から委任状・委任者の本人確認書類を受領し、代理人による委任者の議決権行使を可能とする必要がある。

3)なりすまし対策:二段階認証やID・パスワードの記載面を再貼付不可なシールで覆う等の工夫が考えられる。

4)株主総会の出席と事前の議決権行使の効力の関係:審議中、ログイン時点では事前の議決権行使の効力を取り消さずに維持する。
採決のタイミングで新たな議決権行使があった場合に限り、事前の議決権行使の効力を破棄する。
ログインしたものの、採決に出席しなかった場合には、事前の議決権行使の効力が維持。
議決権行使判断の変更意思がない株主のために、出席型ログイン画面の他に、参加(傍聴)型のライブ配信等を準備するといった工夫も考えられる。

5)招集通知の場所の案内:「株主総会の(中略)場所」の記載に当たっては、法施行規則72条3項1号の規定を準用し、リアル株主総会の開催場所と共に、サイトアドレスを明記し、参加マニュアルを明記すればよいものと考えられる。

6)お土産の取扱い:お土産は、リアル出席へのお礼であり、バーチャル出席株主にお土産を配布せずとも不公平ではない。

質問・動議

【質問】

  • 質問回数や文字数、送信期限(質疑終了予定時刻より早く設定)、質問を取り上げる際の考え方(個人情報の取扱いなど含め)ついて、運営ルールを定め、招集通知やweb上で通知する 。
  • バーチャル出席株主は、所定のフォームを使用し、会社側は運営ルールに従い取り扱う。
    後日、回答できなかった質問の公開などが考えられる。

【動議】

事前通知を前提に、

  • 動議の提出:動議提出はリアル出席株主からのみ受け付ける。
  • 動議の採決:バーチャル出席株主は、実質的動議は棄権、手続的動議は欠席として取扱う。
  • 仮にシステム的に動議の提出・採決が可能な場合:濫用した場合は、取り上げないことが許容。
    濫用の程度によっては、リアル株主総会同様、退場権限が議長にある(通信を強制的に切る)。

議決権の行使

バーチャル出席株主による、総会当日の議決権行使ができるよう、システムを整える必要がある。
事前に議決権行使を行った場合の、当日バーチャル出席については、「株主総会の出席と事前の議決権行使の効力の関係」を留意する必要がある。

臨時報告書には、事前行使分、当日出席大株主分で可決要件を満たし、決議が成立したならば、バーチャル出席株主含めて、集計しなくてもよい(理由の開示でよい)。

バーチャルオンリー型株主総会

リアル株主総会の開催は無し(オンラインのみ)。
インターネット等の手段のみで会社法上の「出席」をする株主総会。

現行の会社法では解釈が難しく、バーチャルオンリー型株主総会は開催できない。

「・・・実際に開催する株主総会の場所がなく、バーチャル空間のみで行う方式での株主総会、いわゆるバーチャルオンリー型の株主総会を許容するかどうかにつきましては、会社法上、株主総会の招集に際しては株主総会の場所を定めなければならないとされていることなどに照らしますと、解釈上難しい面があるものと考えております」

(第197回国会法務委員会第2号 平成30年11月13日 小野瀬厚政府参考人 法務省民事局長(当時))

所感

現状、バーチャルオンリー型株主総会は開催が不可能です。

出席型バーチャル株主総会も世の中的に知見がたまっておらず、加えて追加コストを会社側が負担せねばならない状況です。
そのような中、株主総会の成立可否に関するリスクだけを背負う形になってしまいます。

会社法の改正が進むまで、現実的にはリアル株主総会となり、やるにしても精々が参加型のバーチャル株主総会になるでしょう。

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