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フェルミ推定・ロジカルシンキング

経営者は何故、目新しい施策に飛びつくのか?

経営者、特に若いベンチャー企業の社長で多いのですが、目新しい施策に飛びつく光景をよく見かけます。
それが科学的(統計学的)に効果がある、と示されていなくとも、どこか著名な経営者や企業が取り組んでいる事例、友人の経営者が取り組んでいる施策等を実施したがります。
何故、そのような行動に出るのでしょうか?

一流のアスリート程、似非科学を取り入れやすい

非常に興味深い事例があります。
それは、一流のアスリート程、似非科学を取り入れやすい、という話です。

https://theconversation.com/olympic-athletes-excel-at-their-sports-but-are-susceptible-to-unproven-alternative-therapies-165377

似非科学(えせかがく)とは、疑似科学(ぎじかがく)とも言い、科学的で事実に基づいていると主張しているにもかかわらず、科学的方法と相容れない言明・信念・行為のことです。
ようは、科学的に証明されていないにも関わらず、科学を装っているもの、が似非科学です。

上の記事では、一流のアスリートであっても、50%から80%の割合で代替医療を利用している、としています。
そして、その数字は一般人より多い、ということです。
(代替医療の例として、カッピング、カイロプラクティックの脊椎マニピュレーション、鼻ストリップ、ホログラムブレスレット、酸素ドリンク、レイキ(ヒーリングハンド)、クライオセラピー、キネシオロジーテープ(Kテープ)などがあげられています。)

代替医療は次の3つの特徴があるとしています。

  1. 強い主張と弱い根拠で販売されている。
  2. 「エネルギー」「代謝産物」「血流」などの科学的な響きを持つ言葉を使って、科学的な正当性を装っている。
  3. コントロールされていない、サンプル数が少ない、質の低い研究に基づいている。そのため、治療による実際の効果と、認識されているものや想像上のものとを区別することができない。

それでは何故、一流のアスリート程、似非科学を取り入れやすいのでしょうか?

研究者は、人間は「精神的な近道」を使い、迅速かつ不完全な解決を図るように進化してきたからだ、としています(これをヒューリスティックと言う)。

つまり、比較的少ない投資で大きな報酬が得られる(経済的ヒューリスティック)代替医療により恩恵が得られるならば、と贅沢なうたい文句の影響を受けやすくなっている、ということです。
ほんのわずかな成果の差が、勝敗をわける世界なので、当然と言えばそうなのでしょう。
(その他にも、純粋に経済的に厳しく、スポンサーの意向を汲まねばならない関係上、代替医療にも手を出しやすい構造があることが指摘されています。)

この構図は経営者にも当てはまるのでは?

そして上述の構造は、経営者にも当てはまるのではないか?と考えられます。

ベンチャー企業の場合、諸々のリソースが大企業に比べて非常に限られている場合がほとんどで、経営者の欲求として、「精神的な近道」を求めるのは自然な姿と言えます。

そのため科学的には方法論が確立されていない様々な施策に飛びつきがちになってしまうのではないでしょうか。
(OKR、1on1、オープンオフィス等々、色々と事例が挙げられます。)

代替医療の3つの特徴をもう一度見てみます(要約)。

  1. 強い主張と弱い根拠
  2. 科学的な響きを持つ言葉を使って、科学的な正当性を装っている
  3. コントロールされていない、サンプル数が少ない、質の低い研究に基づいている

どうでしょう?
著名な経営者や大企業が取り組んでいる様々な施策ですが、その根拠にまで当たって見ると、多くの事例がこの特徴に合致するのではないでしょうか?


少しでも高いパフォーマンスを、「精神的な近道」を、という気持ちは当然に理解できるものなのですが、それに飛びついた結果として待っているのは、リソースの浪費です。
結果を出すためにも、何か目新しい施策に取り組む前に、それがどのような根拠に基づいた施策なのか?それは科学的に効果が示されたものなのか?(経験則としても、長い蓄積がされたものなのか?)をきちんと検討するのが望ましいと言えるでしょう。

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マネジメント・リーダーシップ

シリコンバレーではOKRを撤廃する企業が増えている模様

日本ではベンチャー企業を中心にOKRという目標管理手法が流行しています。
元々はシリコンバレーを源流として広がった手法のようですが、当のシリコンバレーでは、OKRを取り止める企業が増えているとのこと。
その原因はなんでしょうか?

OKRのメリットを実際に得るための3つの重要な前提条件

米にてOKRを広めているコンサルタントであるMarty Cagan氏は、OKRのメリットを実際に得るための3つの重要な前提条件として次の3つがあるとしています。

  • フィーチャーチームモデルからエンパワーメントプロダクトチームモデルへの移行
  • マネージャーの目標や個人の目標を取り止め、チームの目標にフォーカスする
  • プロダクト戦略を実行に移すために、リーダーがあるべき役割を果たす必要

そして、それぞれの前提条件を元に、OKRを撤廃している企業の失敗について解説しています。

フィーチャーチーム・エンパワーメントプロダクトチームについて

フィーチャーチームとは、一般的なチームが「個々の役割を完遂すること」を目的としているのに対し、「特定の成果物を生み出すこと」を目的としたチームのこと。
特定の専門領域を分化して、それぞれの役割を果たすことにフォーカスするのではなく、複数のコンポーネントを横断し、あくまでも全体のチームとして成果物を出すことにフォーカスしている。

エンパワーメントプロダクトチームは、プロダクトチームに権限を与えることを前提とし、あくまでもプロダクト目線で問題解決を図る、そしてそのためのリソースを供給するチームのこと。

フィーチャーチームとプロダクトチームの違い

フィーチャーチームを採用している企業にとって、OKRというテクニックは文化的にマッチせず、時間と労力の無駄になる、と指摘されています。

OKRは、プロダクトチームに権限を与える、というDNAを持つ企業から生み出されました。
つまり、OKRは何よりもまず、エンパワーメントの手法と言えます。

プロダクトチームに解決すべき「真の問題」を与え、それを解決するためのリソースを与えると言うのが主軸の考えです。

しかし、企業がチームに目標を与えるとしながら、チームが提供すべきソリューションについて伝え続けていることが、文化的にミスマッチする原因となります。

マネージャーの目標とプロダクトチームの目標

多くの企業では、エンジニア、デザイナー、プロダクト等、それぞれの役割毎にマネージャーがおり、独自の組織目標を設定し、チーム内に共有を行っています。

これそのものに不合理は無いのですが、エンパワーメントプロダクトチームにおいては問題が起きます。
何故ならば、あくまでもプロダクト目線でのクロスファンクショナルな目標達成に取り組まねばならないのに、それぞれ各人の目標に取り組むことになるからです。

さらに、多くの企業では個人の目標も設定されており、プロダクト目線での目標達成意識は希薄なものになります。
(プロダクト、チーム、個人、それぞれの目標を同時に追求できるか?)

リーダーシップの役割

根本的にリーダーシップが機能していないことが指摘されています。

一般的に、チームの目標は四半期毎にその達成度が測定されます。
そして、OKRの導入により、マネージャーは管理負担が軽減されると考えますが、実際には逆で、よりクオリティの高いマネジメントが必要なのがOKRです(正確には、従来のマネジメントの概念とは異なるマネジメントが必要)。

OKRを導入し成功する企業を見て、真似をしようとするのは良いですが、相関関係と因果関係を混同してはいけません。
OKRにより成功している企業は、OKRを導入したから成功したのではなく、自分たちのエンパワーメントプロダクトチームモデルを活用しきるためにOKRを使っているからです。

フィーチャーチーム、ロードマップ、受動的なマネジメント等を基盤とした従来型組織に、全く異なる分化から生まれた手法をそのまま適用しても、効果や変化を期待することはできません。


以前にも、OKRはあくまでもツールにすぎないので、ツールの使い方が重要だよね、という内容の記事を書きました。

今回の先人の知見は、この考えを補強したものと言えます。

安易な事例模倣はリスクが高いということを認識し、それでもOKRを導入する必要がある、と感じたなら文化レベルで組織を改革するつもりで導入するのが吉と考えられます。

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人事・総務

OKRを成功させるために本当に重要なこと1点

主にベンチャー界隈で人気のある目標管理ツールにOKRというものが存在します。
人気がある一方、大多数の会社はうまくOKRを活用できているようには見えません。
ここではOKRを機能させるために本当に重要なことについて、たった一つのことを指摘します。

OKRって何?

OKRのことをある程度知っている前提で書くのですが、とは言え、ということで簡単に。

OKRとは、世の中に数多く存在する目標管理、マネジメントのツールの一つです。
GoogleやFacebookのような、輝かしいIT企業が採用していたということもあり、ベンチャー界隈を中心に、様々な業種業界で人気のツールとなっています。

じゃあどんなものか?というと、「Objectives and Key Results」という言葉の略で、1つの目標(O)に対して、複数の結果指標(KR)を設定し、それをかなり短い期間でトラッキングしながら、組織として高い成果を出して行きましょう、というものです。

特徴的な所としては、設定する目標と結果指標について、ストレッチした水準を設定するところにあります。
組織として本気で頑張ればなんとか達成できるような水準です(確度として50%から80%あたり)。

そして、このなんとかギリギリ達成できるかもしれない高い目標を、高速でグルグルまわしながら追いかけ続けるので、もしかしたらムーンショット(月に届くほどのショット)を狙えるかもしれない、という考えをもった目標管理ツールです。

詳細はググれば、いくらでも解説が出てくるので、そちらも参考にしてみてください。

OKRを成功させるために本当に重要なこと

さて、では人気のツールなわけですが、うまく活用できている企業は少ない印象です。
(OKRを使えばムーンショットを達成できるのなら、もっと多くの企業が成功していますよね。)

色々なサイトで、OKRを機能させるために重要な事を解説しています。

例えばこちらのサイト。

こちらでは、

  • 組織として聖域を除去する覚悟を持つ
  • 心理的安全性の担保
  • モチベーション3.0の存在の確認

という点を指摘しています。

また、こちらのサイトでは、逆に失敗する要因として、

  • 会社にミッションがない
  • 上層部だけで目標を設定、メンバーの意見を聞いていない
  • 値の設定が不適切

というようなことを指摘しています。

どれもそうなんだろうな、という感想は持ちつつも、ある一つの点に関して視点が抜け落ちているように思います。

というのも、OKRはどこまで行ってもツールの一つだ、という点です。

例えば、皆さんが仕事で当たり前に使うパソコンです。
パソコンは、仕事の効率を劇的にアップさせる素晴らしいツールです。
しかし、じゃあ、全てのパソコンを活用するビジネスパーソンが、パソコンを使いこなせているか?と言えば、別にそういうことは無いですよね?
ブラインドタッチで躓いている人から、本当に活用しきれている人まで様々です。

OKRも同じで、ようは数あるツールの一つでしかないので、使いこなせるか否かが重要なのです。
ツール(道具)として、使い方に熟達しないといけません。

その意味でこちらの記事にありました、時間と慣れが必要、というのが一番しっくりくる解説です。

説明は1行でも、実際の運用には時間と慣れが必要
(略)
OKRは科学とアートの中間だから、これだという正解はないことや、導入しても2、3回(半年以上)更新する経験を通してしか、組織やチームにしっくりくるOKRは設定できないのが普通ですということをお伝えしていました。
(略)
細かな設定と運用がきわめて重要です。それは個々人のインセンティブやモチベーション、組織の報酬や力関係というダイナミクスと密接に関わっていて、正しく運用しなければ、むしろ組織のモラル低下に繋がります。表層的なOKR導入で組織のモチベーションが吹き飛ぶことがあります。

CORALCAP「OKR運用失敗の3つの理由―、なぜ高すぎる目標が逆効果になるのか」より

上の、逆に失敗する要因であげた記事でも触れられていましたが、
「ウィンセッションができていない」のも、これに触れている指摘ではあります。

組織として、しっかり使っていく、そして正しく使えているよね、ということを確認していく。
それを長く根気強く続ける。

これがOKRを機能させるために本当に重要な、たった一つのことです。

この話って別にOKRに限らない

実はこの話って、OKRに限りません。

若干話をそらして、ぶっちゃけな感想を書くと、OKRでできることって、別にOKRである必然性がありません。

旧来のKPI管理をストレッチ目標で設定し、その他のイノベーションに導く組織運営手法と組み合わせれば、それで事足りるといえば事足ります。

じゃあ、KPI管理で良いのか、といえば、KPI管理はKPI管理で、やはり運営の妙があるので、ツールとして熟達しなければ使いこなせません。

ドッグイヤーという言葉が一般化して久しいですが、どこかの会社や偉人が、何か新しい取り組みをしたら、それに流されるのが世の常です。
しかし、本質は昔から変わらない、という点は重々承知しておいた方が良いでしょう。

どこまで行ってもツールなので、熟達しなければ使いこなせません。

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