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種苗法改正案はアグリベンチャーの追い風にできるはず

この1,2月程、種苗法改正について話題が飛び交っていました。
結局、今回の成立は見送りなのか、それとも誤報なのか錯綜していますが、このまま見送りとなれば、非常にもったいない話だと考えています。
それは、「日本の農業をどうしていくのか?」という大前提、つまりポリシーレベルの話が抜け落ちているように思えるからです。
ここでは、種苗法が掲げている内容、その賛否意見などについて考えていきます。

種苗法改正案のポイント

用語について

まず最初に、種苗法改正案の内容について、そのポイントを示します。

その前に簡単に用語について。

種苗とは、種と苗のことで、つまり農作物の繁殖に使うものです。
種苗法とは、新しい品種を開発した人の権利保護の法律で、いわざ農業における「知的財産権」のような法律です。

種苗法改正案のポイント

この種苗法の改正についての論点、改正案のポイントは次の2つです。

  1. 日本ブランドの海外流出の防止
  2. 新品種開発者の権利保護の強化

まず、日本ブランドの海外流出の防止についてです。

各報道ですと、実際に中国や韓国に流出したという「シャインマスカット」や、韓国で栽培がされてしまったというイチゴの各品種(とちおとめ等)が代表例としてあげられていました。
今回の改正では、上記のような海外流出を防ぐために、開発者が輸出や栽培可能な国や地域を指定できる、つまり指定地域以外への持ち出しを禁止することができる内容に、と案が出されています。

次に、新品種開発者の権利保護の強化についてです。

農家では、収穫された農作物から種などを採取して次の栽培に使う「自家増殖(自家採種)」というものが当たり前に行われてきました。
つまり、仮にコストをかけて新品種を開発しても、自家増殖によって種苗販売が阻害されては、新品種開発の投資回収ができないのです。
(最初に販売する種を高額に設定しないといけない。)
今回の改正では、この自家増殖について制限を加える、つまり投資を行い新品種開発をした人の権利を強化、登録品種について開発者の許認可を必要とする内容に、と案が出されています。

この改正案について、賛否が飛び交っていたのです。

一応、登場人物についても整理

後、一口に農家といっても、種苗についての権利を持っていたり、種苗を生産をしている種苗業者(育成農家)と、
実際に種苗を買い付けて農産物を生産する農業生産者(生産農家)と、登場人物がわかれます。

どちらにとってのメリット・デメリットなのか?も考えないといけないので、大前提の一つとして、これも整理しておかないといけないです。

構造としては、種苗法改正案は種苗業者(育成農家)にとってメリットのある話で、農業生産者(生産農家)にとっては制約が増える話になります。

賛成意見の内容

それでは、まずは賛成意見について、いくつかピックアップをしてみます。

登録品種のみだから影響が少ない

こちらの資料をご覧ください。

この通り、今回の改正案はあくまでも「登録品種」が対象です。
日本の農産物は、一般品種と登録品種があり、そして自家増殖について制限の無い一般品種が全体の90%以上を占めています。

つまり、仮に登録品種に関して自家増殖ができず、栽培のたびに種苗を買い付けることになったとしても、大多数の農業生産者にとっては影響の無い話なのです。
生産対象となる農産物の90%以上が一般品種だからです。

自家増殖を行っていない農家の方が多く、また行っていても既に許諾をとっている場合もある

これは自家増殖を行っている農家の割合です。
約38.2%が自家増殖を行っているようです(平成20年時点)。

また、自家増殖を行っており、すでに許諾契約が結ばれている割合は約29%となっています。
つまり、全体としては自家増殖を行っていて、許諾契約が結ばれていない割合は全体の約27%になります。

ようは、マジョリティとしては自家増殖を行っていないか、行っていて既に許諾契約をとっており、上述一般品種の話とあわせて、全体感として既存の農家に与える影響は少ない、という意見です。

加えて、例えば野菜などはF1種(自家増殖ができない品種)であり、そもそもとして自家増殖していないよね、という意見もあります。

(少なくとも国内の範囲では)日本ブランドの海外流出防止効果がある

一方、反対意見に関して一部書くと、日本ブランドの海外流出防止ですが、実は海外各国において品種登録もしなければ制限がかけられず、実態としてはあまり効果が無いのでは、という声があります。

これについて、少なくとも日本国内の範囲では、海外への流出防止効果があるから進めるべきだ、という意見があります。

違反すると、10年以下の懲役1000万以下の罰金(農業生産法人は3億円以下の罰金)を科せられる形になるので抑止力になる、ということです。

そもそも世界種苗大手は日本市場を相手にしていない

さらに、農作物の品目別に見てみると、そもそもとして世界の種苗大手は日本市場を相手にしていないよね、という意見も出ています。
これは、反対意見として出ている、海外大資本に日本の食を支配される懸念についての、反証意見です。

例えば、小麦や大豆などの穀物類の食糧自給率は10%を切っています。
一方、米はほぼほぼ100%に近く、野菜は80%超の自給率です。
野菜に関しても、輸入品は主に加工用なので、日本国内全体での米・野菜の自給率はほぼほぼ100%となっており、この領域にわざわざ売り込みをかけようとしないであろう、という意見です。

小麦や大豆、トウモロコシなどにおいて、既に欧米、特にアメリカが事実上日本を占有している状態である上に、日本市場でのこれ以上の食い込みにビジネス的なうま味が無い、ということです。

少しカーブから入った意見では、TPPの時も悲観的意見が多く出たけれども(日本亡国論として)、結局、日本は崩壊していないよね、結局、大資本による食の支配とかって、ただの陰謀論だよね、という声もあります。

そこまでカーブを効かせた意見でなくても、欧米種苗業者と、日本国内の種苗業者では、得意な作物が異なるため、批判的意見を持つ方に対して、一概に欧米巨大資本に支配されるとは言えない、という声もあります。

反対意見の内容

それでは反対意見の一部ピックアップです。

自家増殖をしている農家にとって負担が増える

上述の通り、全体として自家増殖を行っていて、許諾契約が結ばれていない割合は全体の約27%になります。

マジョリティとしては低いにせよ、割合としては約27%も自家増殖を行っており、また確かに登録品種に限るといっても影響する農家が出る以上、影響が出ることには変わりはないのだから、この点についてはどうするのか?という意見です。

今まで、登録品種に関して自家増殖を行っていて、許諾をとっていないのならば、後出しじゃんけん的に制限されるわけなので、拒否反応を示すのは当然と言えば当然でしょう。

自家増殖を監視する仕組みが整っていないから意味が無い

また、仮に自家増殖に制限が加わったとして、それに対する監視体制はどうするのか?という意見もあります。

つまり、真面目に許諾を結んだり、一般品種への栽培に切り替えたりした農家が損をし、実質的に監視がされていない状況で黙って登録品種の自家増殖を継続した農家だけが一方的に得をする。
そのような状況は、果たして許されるのか?ということですね。

海外での品種登録をしないといけないから流出防止効果は低い

これに関しては上でも述べたのですが、日本国内で制限をかけても、海外にはその法が及びません。

海外での品種登録については、UPOV条約というものがあり、自国内での譲渡開始後(新品種の販売開始)、4年以内(果樹など木本性植物は6年以内)に出願申請を行わなければなりません。
しかも、流出可能性のある国で、それぞれ個別に申請をする必要があります。
4年という期間を過ぎると品種登録はできなくなり、また海外での手続きになるため、高負担となっています。

つまり、今回の種苗法改正と、海外への新品種の流出防止は関係が無い、効果は低い、ということです。
シャインマスカットについても、登録期限が切れたことが問題で、仮に登録が通っていれば問題がなく差し止めができたはずであり、種苗法とは関係がないのです。

日本の食を大資本に支配される

そして、反対意見として一番ウェイトが重いように感じるのが、日本の食の大資本による支配についてです。
(日本の農家を保護せよ、と言いつつ、主張の帰結として、ここに持っていっている論者が多いように感じる。)

今回の改正が仮に通ったのならば、モンサント、コルテバ、シンジェンタのような種苗大手が、日本の食を支配し、日本人は海外の言いなりになってしまう、という意見です。

登録品種の内、約7割が外資によって登録されている、という話もあり、一方的に海外にやられてしまうのでは、という具体的な意見も出ています。

日本の種苗大手は、「サカタのタネ」や下記リストにはありませんが「タキイ種苗」などに限定されるため、グローバル・レベルでは確かに弱いと言えます。
この点について、食と言う生存やアイデンティティの根幹について懸念した声が出ているわけです。

併せて、政治家たちは自分たちの利権のために、日本を欧米、特にアメリカに売り渡すつもりだ、という主張もあります。

種苗法改正案はアグリベンチャーの追い風にできるはず

上記の意見を見ていると、世界規模での農業経済や国家政策、外交の話も絡んでくるので、何が正解なのかは見通しづらいように思えます。
少なくとも、かなり広範かつ深堀して、この領域で研究をしないと簡単に立場を表明できそうにはありません。

さらに、結局の所この話は、「日本の農業をどうしていきたいのか?」という点が重要になります。
つまり、ポリシーの話です。
ここのポリシーを明確にし、目標設定をした上で、じゃあその目標設定のために何をするのが一番良いのか?を議論しなければ、話が進まないでしょう。

その観点で考えた時に、私は農業というビジネスが、若い人たちも喜んで、そして楽しんで参入できる業界になるのが、一番良いのでは、と考えます。
(話が飛躍していて恐縮ですが、つまるところどうする?を考えると、ここに行きつくかな、と思いまして。)

日本の農家の高齢化は問題になっており、かつ古い体質の業界であることも良く知られた話です(下記表も参照)。
若い人たちが何かしらの形で農業に参入していく仕組みが必要です。

また、生活の安定も重要で、補助金への依存度を低くして利益を出していく方法の模索が必要です。

その他諸々の日本の農業が抱える問題を踏まえて、じゃあ農業というビジネスが、若い人たちも喜んで、そして楽しんで参入できる業界になるためにはどうすれば良いのか?を考えると、少なくとも既存の延長線上には方法が無いことが想像できます。

これもポリシーの話でしか無いのですが、私はアグリ・ベンチャーの活性化しか無いのでは?と考えています。

理由は、儲けられる可能性のあるベンチャー領域こそが、野心のある若い人たちを呼び込める一番のステージだからです。

まず、今現代の日本はベンチャーエコノミクスが発展しつつあり、資金調達環境からIPO含むイグジットまでの導線が以前よりきれいになっています。
また、高付加価値新品種によるブランド化商品は利益率が高く、また世界でも戦える商材です。
育成農家にとっても、投資回収ができて、安定的に収益が出る仕組みがあるのならば、是非ともチャレンジしたい領域のはずです。

つまり、種苗法改正が掲げている育成農家保護は、若くてやる気と能力がある人たちをアグリベンチャーの世界に呼び込み、同時にお金も集める機会になれるのではないかと考えます。

育成農家が新品種を開発し、またその感性とセンスでもって世界でブランド化をする(農業には素人でも、グローバルレベルでマーケティングができる人とタッグを組むのもアリ)。
そして、例えば「サカタのタネ」や「タキイ種苗」のような、グローバルで戦える日本の種苗大手が、彼らの国内を含めた各国販売におけるサポートをしつつ、世界での品種登録のサポートをする。

このようなスクラムを組めるのならば、若手アグリベンチャー(中小)と大手資本にとってWin-Winの関係ができ、日本の農業が再生するのではと、こう希望が持てるはずです。
生産農家にとっても、既に新品種開発が進んでいた領域のみならず、遅れが出ていた領域(果樹やこんにゃく芋、いちごなどの栄養繁殖する植物)について、より食味の良い優れた品種が安定的に提供できるようになるのならば、プラスになるはずです。

見送りは一部報道による誤報だという話があり、よくわからないのですが、ここまで盛り上がったのならば、もう少しポリシーレベルの話からして、日本農業をどうしていくのかが議論されることを望みます。

追記

素朴な意見を蛇足的に追記すると、著作権の世界では海賊版が許されないのに、農業の世界ではそれに近い事が許される(登録品種の自家増殖)、という状況に首をかしげます。
(過去の経緯とかもろもろあるのでしょうから、現状の農業や農家を批判しているわけではないですよ)
農業をより、ごくごく普通のビジネススタンダードが通用する世界にしていきましょう、という意味では全く問題の無い改正案だと感じます。

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新型コロナウイルスによる新設住宅着工戸数への影響

国土交通省より、2020年4月分の新設住宅の着工戸数統計が発表されています。
2020年4月は、9年ぶりに7万戸を下回るという、非常に大きなマイナス着地になっています。
ここでは、この新設住宅着工統計について、解説していきます。

2020年4月の新設住宅着工戸数概要

国土交通省より、2020年4月分の新設住宅の着工戸数統計が発表されています。

2020年4月の住宅着工戸数は69,162戸(前年同月比▲12.9%)で、東日本大震災があった2011年以来の9年ぶりに7万戸を下回ったとのことです。
また、10ヶ月連続のマイナスにもなっており、消費税増税により駆け込み需要の反動減に加え、コロナショックによるマイナス影響が表れた結果となりました。

新型コロナウイルスの影響については、経済影響に加え、各国各地で生産している建築資材の不足、営業活動の制限、緊急事態宣言による手続きの滞りなどがあります。

新設住宅着工戸数統計の概観

新設住宅着工戸数統計(月別)

新設住宅統計は比較的充実しており、1965年頃より数字が取得できます。

こちらが、月別の新設住宅着工戸数推移になります。

月別新設住宅着工戸数推移(1965年~)

このグラフを見ているとわかる通り、過去の主要な経済イベントの影響を大きく受けていることがわかります。

(参考)過去の主要な経済イベント

高度経済成長期:1954年~1970年
ニクソン・ショック:1971年
オイルショック:1973年
バブル:1985年~
消費税新設(3%):1989年
バブル崩壊(失われた30年の開始):1991年~1993年
消費税増税(3%⇒5%):1997年
ITバブル:1990年頃~2000年初期
サブプライム問題:2007年~
リーマンショック:2008年9月
東日本大震災:2011年3月
アベノミクススタート:2012年11月
消費税増税(5%⇒8%):2014年
消費税増税(8%⇒10%):2019年10月

毎年4月は床面積が大きい

さて、上記のグラフを見ていると、床面積の線が波打っていることに気が付くかと思います。

面白いなと思う所なのですが、どうやら4月(新年度のスタート月)は、1年でもっとも床面積が大きい月のようなのです。

月別の床面積(1965年~2019年の新設住宅着工の床面積加重平均)

年を改めての家を買う、という行為は、気を大きくするのかもしれませんね。

住宅種類別の概観

住宅種類別の積み上げで見てみると、実数、比率でそれぞれ次のようになります。

年別住宅種類別新設住宅着工戸数推移(1965年~)
年別住宅種類別新設住宅着工比率推移(1965年~)

長らく1,000,000戸を超える水準で推移していたものが、リーマンショックを得て大幅に下落、その後アベノミクス効果により緩やかに回復も、2回に渡る消費税増税のマイナス影響を受ける、という概観です。
これを踏まえて、この10年をばくっと見ると、ほぼほぼ横ばいで推移しているという状況ですね。

比率で見てみるとわかるのですが、1990年代中頃より一度落ち込んだ持家比率(分譲住宅含む)が高くなっており、ここ20年~30年の間で、持家神話が続いていると見えます。
日本人のマインドは、良くも悪くも、そうそう景気影響を受けない、ということなのでしょう。

2020年4月のスコープ

4月はなぜ重要か?

さて、いくつかの経済紙では話題になりましたが、何故4月の数字は重要なのでしょうか?

それは、こちらのグラフにある通り、ある年の着工戸数は、4月の数字である程度占えるからです。

4月は決して一番着工戸数が多い月では無いのですが、概ね4月の数字をトップラインに、全体感を掴めるようなイメージになります。

過去5年(2015年~2019年)の月別着工戸数

消費税増税と新型コロナウイルスの影響

さて、冒頭の記載の通り、2020年4月の住宅着工戸数は69,162戸(前年同月比▲12.9%)と、2011年以来9年ぶりの7万戸を下回った月となりました。

なお、7万アンダーという数字は2008年のリーマンショック影響より過去にさかのぼると、1966年の69,342戸以来、約40年以上も出たことがない数字です。

着工戸数4月のみ抽出

新型コロナウイルスの影響は、ここまで甚大な影響を及ぼしているのです。
一方、空き家問題もあり、新設住宅着工の抑制も行っていかなければならないことも別観点で指摘できます。

建築業界にとっても、しばらくは非常に厳しい状況が続くと予想されます。


新型コロナウイルスの影響による持ち家ニーズの変化考察については、こちらの記事も参照ください。

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新型コロナウイルスが与えた小売業態への影響(2020年4月既存店前年比)

2020年4月は緊急事態宣言が出ていることもあり、新型コロナウイルスの影響が丸々出ている月となります。
この月の各小売業態の業績を元に、消費者の購買行動をはじめ、世の中がどのように変化をしたのか、概観していきます。

各小売業態の既存店前年比(2020年4月)

既存店売上高

まずは、全体の概観です。

既存店売上高では、食品スーパー、ドラッグストア、ホームセンターがプラス。
総合スーパー、コンビニがマイナス。
アパレルと雑貨(良品計画やドン・キホーテなど)が大幅にマイナス、という概観のようです。

各小売業態の既存店売上高前年比(2020年4月)

食品スーパーは地域の食事事情のインフラですので、外食産業が軒並みマイナスな一方で、その分の食事消費が流れたと理解できます。

総合スーパーがマイナスなのは、おそらく「大勢の客が集中するであろう」環境を人々が避けた可能性、そして時短営業などの営業時間が短い事の影響などが出ているのでは、と推測されます。

アパレルの減少幅は、リモートワークの増大により、服を新調しなければならない動機が減ったことが影響していると推測されます。
なお、私が関与していたEC受託の会社から聞くに、アパレルのEC販売は空前のバブルという話です。
リモートワークへの移行が、日本全体の10%~20%程度、ということで完全に衣服に対する需要が落ち込んだわけではなく、単純に購買経路が変わったものという理解が正しいでしょう。

雑貨に関しては、様々なものが混じっているが故に一概に言えませんが(食品も販売しているため)、一番は休業や時短営業の影響があるものと推測されます。

既存店客数

次に客数前年比。

ドラッグストア、ホームセンターがプラス。
食品スーパー、総合スーパーがマイナス。
コンビニ、アパレル、雑貨が大幅にマイナス、という状況です。

各小売業態の既存店客数前年比(2020年4月)

総合スーパーのマイナスは、上述売上にもある通り、人が集中する所を避けた影響と、時短営業の影響と考えられます。

コンビニは地域にもよるものと考えられます。
リモートワークへの移行を行った企業は売上が大きく見込める都市部に集中していると考えられ、それが客数という数字に表れたのではないかと考えられます。
店舗にもよりますが、時短営業や休業の対応をとったコンビニは全体としては少数なので、リモートワークの影響が多いものと推測されます。

アパレル、雑貨は上述売上にもある通りです。

既存店客単価

最後に既存店客単価。

ドラッグストア、ホームセンター、アパレルが若干のマイナスで、他の業態は全て軒並みプラスという着地のようです。

各小売業態の既存店客単価前年比(2020年4月)

特徴的なのは客単価です。
食品スーパー、総合スーパー、コンビニ、雑貨で客単価があがっています。

これは「一つのお店で完結させよう」という購買行動につながっているものと推測されます。
(あちらこちらのお店に行って、万が一感染するのは嫌だ、という心理が働いているものと推測されます。)
購入回数を減らして、まとめ買いをするという購買行動もあるかもしれません。

ドラッグストア、ホームセンター、アパレルはマイナス傾向があるものの、まだ全体感としては誤差の範囲と捉えられるマイナス幅です(マイナス3%は随分な大きさですけれどね)。

各業態店舗別の既存店売上高前年比

次に、具体の店舗名ごとにいくつか業績を見ていきます。

食事のインフラとしての小売業態

食品スーパーは店舗別に見ても軒並み好調です。
町の食事のインフラとして機能している、ということが明確に数字に表れています。

食品スーパー既存店売上高前年比

一方、総合スーパーはバラつきがあります。
オリンピックは、食品スーパー業態も多くあるので、その影響が大きいと考えられます。
全体感としては、地域での展開具体や休業・時短営業の対応度が出ているように見えます。

総合スーパー既存店売上高前年比

コンビニ系は軒並みマイナスですね。
地域別に見れると、傾向が別れるかもしれません。

コンビニ既存店売上高前年比

自粛への対応度合いが別れた小売業態

ドラッグストア、ホームセンター、アパレル、雑貨の業態は、企業別に業績かなりわかれている印象です。

ドラッグストア既存店売上高前年比

ドラッグストア業態では、例えばココカラファインは都市エリアに多い業態なので、リモートワークの影響を受けていることがわかります。
一方、ウェルシア、ツルハ、マツモトキヨシ、サンドラッグのような、全体感としての展開エリアのそこまで差がない業態で差が出ているのは疑問です。

自粛に対する企業の対応の差が表れている印象です。

この点はホームセンター、アパレル、雑貨でも指摘できます。

ホームセンター既存店売上高前年比
アパレル既存店売上高前年比
雑貨既存店売上高前年比

あくまでも全体感ですが、休業対応、時短営業の対応割合が多い企業は業績が悪化しており、一方対応度合いの小さい企業の業績は好調という結果です。

例えば、アパレルでは、(ホームセンター系のアパレルである)ワークマンや西松屋チェーンは、路面店が多いということもあり、休業対応をとったのはモール系店舗に限定されます。
アパレル業態は、(百貨店や駅ナカ含む)モール系で展開するのが一般的であるため、自前の単独店舗を持っていない業態は厳しい状況になったと言えます。

この傾向は、様々な業態で指摘でき、基本自前の単独店舗である食品スーパーは好調な一方、モール系と言える総合スーパーはダメージが大きい状況です。
地域内の路面店が多いセリアは業績を維持した一方、ほぼほぼモール系である良品計画は大打撃です。

企業倫理の話を持ち出すと、色々とややこしくなるので、これ以上は踏み込みませんが、自社単独で意思決定ができる領域が広い企業は、新型コロナウイルスの影響を最小限に抑えられている印象です。

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新型コロナウイルスの経済影響(外食産業)

緊急事態宣言および外出自粛の影響により、外食産業は甚大なダメージを受けています。
一部の業態を除き、軒並み半分程度に売上が落ち、堅調なのはファストフード系のみです。
ここでは、外食産業が受けた経済的影響について見ていきます。

概要

2020年3月はまだ緊急事態宣言および外出自粛の影響が少なく、前年同月比約83%という数字でした。
(3月までは㈳日本フードサービス協会まとめより、4月は約20社超をサンプル調査)
(固定費負担が重い外食産業にとっては、これでも甚大なダメージなのですが。)

4月に入ると緊急事態宣言の影響をダイレクトに受ける形になるため、外食産業全体では前年同月比約51%という数字になっています。

外食産業 業態別の売上高前年比推移

一部の業態を除き、4月は壊滅的な数字です。
4月は例年、新入社員の歓迎会などもあり、比較的売上があがる月でもあるので、ダメージに拍車をかけています。
特にパブ/居酒屋系は非常に厳しく、前年比▲90%以上の影響を受けている業態が多くあります。
一方、ファストフード系は堅調に推移しています。

内訳を見ていると、消費者の動向が一定見えてきて、客数は激減、客単価は全体的に高い傾向が出ています。
つまり、「このお店で完結させてしまおう。」という考えが、数字に表れているのでは、と考えられます。

外食産業 業態別の客数・客単価前年比(2020年4月)

パブ/居酒屋系が厳しい理由

パブ/居酒屋系が厳しい理由は、大きく3つあると考えられます。

  • リモートワーク移行によるニーズの減少や利用自粛
  • サクッと食べてサクッと帰るために客単価も低い
  • そもそもとして一斉休業をした店も多い

まず純粋に、リモートワークに移行したこと、外出自粛が広まったことにより、純粋に利用ニーズが減少したことがあげられます。

次に、実際に利用する人たちにしても、長居はしたくないという心理が働いているであろうことが想像されます。
これは、客単価の数字にも表れていて、他の業態は全て前年同月比100%を超える客単価が出ていますが、パブ/居酒屋系だけが前年同月比約62%と、非常に数字が悪化しています。
サクッと食べて、サクッと帰り、ワンモアドリンクはしないという消費行動が起きているのでは、と考えられます。

次に、そもそもとして一斉休業した店舗も多いです。
大手ワタミやエーピーカンパニーなどをはじめ、4月は一斉休業を行う旨のリリースが各社から出ています。

一般的なファミレスやランチ業態とは異なり、居酒屋は複数人で利用する傾向の多い業態であることと、やはりどうしても夜の業態なので「不要不急」と指摘をうけやすいであろうこともあり、他業態がなんだかんだ言って営業を続けていたのに対し、休業せざるをえないと判断したのでしょう。

(5月27日追記)

居酒屋のワタミが60店舗~80店舗の閉店を行うというスクープが出ていました。
業績的にキツイ、というのもそうでしょうし、将来に向けて、まだ閉店できるうちに閉店をする、という考えもあるのでしょう。
(閉店をするにも多額のお金がかかる。)
元々、ワタミの利益率は薄かったこともあるので、不採算店の整理をするタイミングを計っていたという見方もできるかと思います。

ファストフードが堅調な理由

ファストフードが堅調な理由

ファストフード系が堅調な理由としては、これも大きく3つあると考えられます。

  • 営業自粛の度合いが弱かった
  • サクッと食べてサクッと帰る、という使われ方
  • 持ち帰り・宅配導線が整っていた

まず、ファストフード系は、諸々の批判がありつつも、通常通り営業を続けている事業者が多く存在しました。
順次、イートインの中止や、営業時間の短縮、席数の減少などの対応が各社で取られていきましたが、全体的に対応のスピード感は緩かった印象です。

次に、そもそもの消費行動として、サクッと食べてサクッと帰るのがマッチする使われ方なので、消費者としても利用するのにためらいが少なかったのでは?と考えられます。

また、持ち帰り(テイクアウト)や宅配(ウーバーイーツなど)の導線、仕組みが整っていたこともあるでしょう。
配送手数料を無料にした事業者もちらほらおり、リモートワークが増えたこのタイミングで宅配をアピールしていた姿も見受けられます。

ハンバーガー系と牛丼系での傾向の違い

なお、一口にファストフード系と言っても、ハンバーガー系と牛丼系で傾向が変わってきます。

ファストフード系の前年比内訳(ハンバーガー、牛丼)+喫茶(比較用)

ハンバーガー系は客数が減少し、一方、客単価が向上する形で売上を維持している形でした。
テイクアウト含め、「このお店で完結させよう」という行動傾向が出ているものと推測されます。

それに対して牛丼系は、客数は減少で、客単価はほぼ維持、売上としては前年比約92%という着地です。
牛丼系は、ハンバーガー系と異なり、現在の状況下でも消費行動が大きく変わらないということなのかもしれません。
ハンバーガー系は、サラダやドリンク、デザートなどを普段は買わない人も今回は買い、一つのお店で完結。一方、牛丼系は、持ち帰りにしても一品足すようなものがそこまでなく、イートインでも普段通りの商品を注文している可能性。)

まとめ

仮に緊急事態宣言が解除された後も、一定は回復するにせよ、以前のように客足が戻るとは思えません(一時的な反動はあるかもしれませんが)。
しばらくは、外食産業にとって冬の時代が続くものと想定されます。

ファストフード系が好調であったことを参考に、地道に宅配やファストフード的消費に対応するようにオペレーションを組んでいくしかないのではないでしょうか。
吉野屋などの牛丼業態では、ECで自社製品を冷凍で販売していたりします。
調理器具を企画して販売するお店や、Youtubeでの収益をたしにしたお店も存在します。
全ての業態がECで販売できるようなものばかりでは無いでしょうし、また、宅配もやっている業態として認知されるにも(業態の方向性とのマッチ度合い含めて)時間がかかると思いますが、一つのやり方だけで生存し続けるのは経営の柔軟性が乏しく、非常にリスクが高いです。

各所で予想されている通り第二波第三波が来たときのことを想定しなければならないでしょう。
ありとあらゆる手段で売上をあげていく方向で考えないと、今を乗り越えられても、次がどうなるかがわかりません。

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緊急事態宣言解除を控えて改めて注視したい統計情報

新型コロナウイルスの感染者数も落ち着いてきて、報道では緊急事態宣言解除も近いと言われています。
ここでは、人類に未曾有のダメージを与えた新型コロナウイルスに関連して、今後の推移が懸念される統計情報を見ていきます。

現在の関連倒産件数

帝国データバンクが5月22日に公表した、新型コロナウイルス関連倒産数は176件とのことでした。

帝国データバンクより)

  • 「新型コロナウイルス関連倒産」は、全国に176件判明(5月22日16時現在)
  • 法的整理111件、事業停止は65件
  • 業種別上位は「ホテル・旅館」(35件)、「飲食店」(21件)、「アパレル・雑貨小売店」(14件)、「食品製造」(13件)、「食品卸」(8件)、「建設」(7件)など

この数字(176件)は、私的整理も一部含まれているものの、これ以外に多く世の中で発生している実質的な倒産(私的整理のうち、自主廃業、投げ売り売却、夜逃げなど)は含まれていません。
法的整理は裁判所を通るため、TDPなどのデータに蓄積されますが、私的整理は実態がわからない場合がほとんどです。
倒産扱いにならない自主廃業を選択する事業者も多いため、実態、つまり「隠れ倒産」はもっと多いでしょうし、これから増えていくものと推測されます。

関連統計

懸念される統計一つ目

まず、懸念されるのが、自ら人生の幕を閉じられる方の人数です。

この統計は1998年より毎年3万人超に急増し、2010年頃を境に減少を続け、ここ最近は約2万人と改善が続いていました。
この数字の悪化が非常に心配です。

なお、1998年に急増した理由は消費税増税(3%⇒5%)の影響が大きいと言われています。

幸い現時点(2020年4月)では2019年より良好な数値になっています。

緊急事態宣言解除後も経済不況は続くと思われるので、今後の増加が無いことを切に願います。

完全失業者数、倒産件数統計

上記の引き金になる統計が、完全失業者数、倒産件数です。

務省統計局労働力調査および東京商工リサーチより

完全失業者数、倒産件数はバブル崩壊(1990年~)を境に急増し、次のITバブル(2000年頃)の時期がくるまで悪化し続けました。
その後は改善の傾向がみられていたものの、次にくるリーマンショック(2008)で再び悪化します。

これらの数字と、自ら人生の幕を閉じられる方の人数は関連性が高く、相関係数としても失業者数とは0.89、倒産件数とは0.84(いずれもこの20年の数字との単純相関)となっています。

日経平均

日経平均も同様に見ていかなければなりません。

日経平均

日経平均の数字は倒産件数(そして完全失業者数)と逆相関の関係があります。
自ら人生の幕を閉じられる方の人数とも、▲0.8の相関係数があります。

完全失業者数、倒産件数、日経平均といった統計数値について、明らかに悪化が予想される(既に悪化している)ため、最初の統計について、今後の推移が多いに懸念されるのです。

疾病関連の各種統計

さて、新型コロナウイルスに関連する各種疾病の統計です。

新型コロナウイルスによりおなくなりになられた方が世界で約34万人、日本では約900人弱とのことです。
一方、肺炎とインフルエンザの数字と比較すると、それぞれ下記のようになります。

世界
日本

次に、2020年5月23日までの感染者数、おなくなりになられた方の人数、トラジェクトリー解析をそれぞれ示すと次のようになります。

ロックダウンを行った国や地域封鎖を行った国と、そうでない国で大きな差異が見られない(場合によっては数値が良好)ということを踏まえつつ、各種疾病の統計をみて、どうしてもこれまでの対応に疑問を覚えます。
人類がとってきた選択がどこまで正しかったのか、これから総括が行われていくでしょう。

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統計・経済

【経済統計・景気動向】新型コロナウイルスによる景気・経済への影響(2020年2月~4月)

新型コロナウイルス影響による経済統計・景気動向について、2020年2月~4月までの状況を整理しました。
消費支出に大きな落ち込みがあるものの、全体感としては、まだ数値には表れていない条項です。
今後の動向が多いに懸念されます。

忙しい人向けまとめ

いずれも、2020年2月~4月の統計・景気指標になります。
以下、「現時点」は2020年2月~4月頃を指します。

  • 景気動向指数では大きな影響が出ていない
  • いわゆる「不要不急」な消費支出は大きく落ちている
  • 失業率には変化がないが、有効求人倍率が低下し、就労環境の悪化が出始めている
  • 企業倒産件数はまだ増えていない、金融資産の現金化や借入の増加でしのいでいるのでは
  • 日経平均は2年半ぶりに20,000円を下回っている(2ヶ月連続)

景気動向指数では大きな影響が出ていない

現時点では、景気動向指数、各種産業活動指数に大きな影響は出ていません。

景気動向・産業指数

ここ数ヶ月の全体的な落ち込みは、新型コロナウイルスの影響ではなく、米中貿易戦争や消費税増税の影響によるところが大きいです。
先行指数は91.7、一致指数は95.5です。

いわゆる「不要不急」な消費支出は大きく落ちている

消費統計は、特に2020年3月で影響が見えます。

消費統計

消費支出は消費税増税の影響から抜け出し、前年比トントン位で着地(▲0.3%)。
小売業販売額は、おそらく飲食店をはじめとしてマイナスがある一方、家庭での消費は増えたでしょうから概ね相殺されて▲4.6%の着地です。

一方、百貨店売上高は▲33.4%と激減、旅行取扱高も▲18.9%となっています。
百貨店のテナント引き揚げやそれによる箱の業績悪化、旅行関連業種の倒産が懸念されます。

新車販売台数

同様、新車販売も大きく落ち込んでおり、昨年対比▲28.7%となっています。
直近4月の販売台数と過去1年間の販売台数平均で比較すると▲35.7%となり、2020年4月は過去にないレベルの減少となります。

全体として、いわゆる「不要不急」な消費支出が大きく落ちている、という状況です。

失業率には変化がないが、有効求人倍率が低下し、就労環境の悪化が出始めている

労働統計としては、まだ現時点では大きな変化がありません。

労働統計

この表の通り、常用雇用者指数は2%前後を維持しており、完全失業率も若干の増加の兆しが見えるものの2020年3月で2.5%の着地となっています。

有効求人倍率

一方、有効求人倍率は落ち込みが激しくなっています。
米中貿易戦争や消費税増税の前後から落ち込みが始まっているのですが、2020年3月で1.39倍と、2020年4月から2019年6月までの期間1.6倍を超えていたことを考えると、かなりの急落です。
今後の動向が懸念されます。

所定外労働時間

参考程度ですが、所定外労働時間は20ヶ月連続で減少を続けています。
労働環境そのもので見た場合には、改善が進んでいる状況です。

企業倒産件数はまだ増えていない、金融資産の現金化や借入の増加でしのいでいるのでは

企業倒産件数は、まだ大きな増加は見られません。

企業倒産件数とM3増加率

2020年3月は740件の着地となりました。
過去1年間の平均が713件なので、増加傾向は見られますが、まだこれからということなのでしょう。

併せてM3増加率を見た時に、2020年3月で2.7%となっており、過去1年間と比較して+0.6%となっています。
金融資産の現金化、銀行借入の増加により、現状は倒産を防いでいる、なんとかしのいでいる、という状況と考えられます。

今後、影響が長期化すれば、急激に倒産件数が増加していくことは間違い無いので、今後の動向が懸念されます。

日経平均は2年半ぶりに20,000円を下回っている(2ヶ月連続)

日経平均は当然ですが、落ち込みを見せています。

日経平均、上場株価時価総額

2年半ぶりに20,000円を下回る状況が続いており(2ヶ月連続)、あわせて上場企業時価総額も低下しています。
マネーサプライの状況によっては大暴落もありうるので、こちらも併せてウォッチしていく必要があります。

(参考)資料の一覧と出典元

各グラフの元データは下記になります(Excelデータ)。

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統計・経済

ロックダウンってあまり意味が無いっぽいぞ、多分、緊急事態宣言も

先行きが不透明な状況が続いています。
将来のシナリオを推定する前提として、まず、新型コロナウイルスの感染拡大はいつまで続くのか?を考える必要があると考えました。
それについて考察すると共に、考察の過程ででてきた仮説を解説します。
ロックダウンはおそらく効果が無いようです。

感染の急拡大が進む期間は1月半ほど

次の対数グラフを見て下さい。
これは、感染の多い国をいくつかピックアップして、感染者数の推移を対数グラフで表現したものです。
(イタリア、フランス、ドイツ、イギリス、韓国、オーストラリア、アメリカ、カナダ)
(比較として日本も入れている)

こちらにある通り、多くの国において、1ヶ月から2ヶ月ほどで感染の急拡大が落ち着いています。

もう一度書きますが、対数グラフの動き方を見ている限り、感染が急拡大するのは、せいぜいが1月半程度なのです。

日本でも換算の急拡大がはじまったのが2020年2月26日頃からなので、統計的なサイクルで考えるならば、すでに感染のピークを越えて、終焉に向かっている可能性があります。
潜伏期間の様子見2週間、継続して発生する感染者対応で+αで考えると、日本ではGW明けには、かなり収束した状況になっているのでは?と希望観測的に考えます。

5月はGWに入るため、多くの働く方にとって、休みやすい環境に入ることと、気温湿度が共に上昇していき、ウイルスにとって生存しにくい環境に入ることも指摘できます。

このままなんとか、感染の拡大が落ち着いてくれると良いのですが。

ロックダウンはコロナウイルスの感染拡大防止には効果が無い

感染拡大封じ込めのためにロックダウンを行っている国があります。
部分的な封鎖や、緊急事態宣言に留めている国もあります。
その効果の程はどうなのでしょうか?

次のグラフを見て下さい。

この対数グラフは次の視点での比較を行ったものです。

  • ロックダウンを行ったイタリアとスイス
  • 地域封鎖にとどめたアメリカ
  • 何もしていないスウェーデンとベラルーシ
  • 比較として日本

対数グラフを見る限り、もちろん国によって動き方に差異はあるにせよ、ロックダウンを行った国と、行っていない国、部分的な地域封鎖に留めた国で大きな差異がありません。
疫学的な観点ではなく、統計学的な観点において、どうやらロックダウンや地域封鎖は、感染拡大防止の効果が無いようなのです。

緊急事態宣言を行った日本の推移は不思議な感じです。

なお、死者数の推移としては下記の通りになります。
こちらのグラフからも、新型コロナウイルスの影響は(感染という観点のみで)落ち着きを見せ始めていることがわかると共に、ロックダウンや地域封鎖を行っていようが、いまいが、差異が無い、ということがわかります。

日本の推移が不思議な感じ

日本は何故、感染が急拡大しつつも、他国に比べてそのペースを抑制できているのでしょうか?
これは、現時点において、説明をするだけのデータが揃っていません。
仮説として考えられるのは、次のようなものです。

  • そもそもとして接触が少ない文化(握手やハグが無い)
  • マスクを当たり前に着用する文化
  • 手洗いうがい、と言われるように幼少期より衛生面での教育が行われている
  • 他国に比べて規律正しいから外出自粛に全体として大人しく従っている可能性
  • PCR検査の数が少ないだけ(別にこれは悪くはない)

将来的に新たな感染症脅威が訪れた時のためにも、何故、日本は感染拡大のペースが少ないのか、医学や疫学的な観点だけでなく、行動的観点からも解明が必要でしょうね。
とりあえず、上述の通り、GWを乗り越えれば感染急拡大は落ち着くはずなので、ここまで来たのならば後少々、外出を自粛し、封じ込め切るのが良作でしょう。

(私個人の考えとしては、当たり前の衛生対応、つまり無駄に人や物に接触しない、マスク着用、手洗いうがいをしていれば問題なく、外出自粛は過剰対応、という前提に立っている。)

(参考)対数グラフについて

上で掲載したグラフは、対数グラフと呼びます。
対数グラフとは、グラフの軸を実数ベースのスケールではなく対数スケールで表現したグラフのことです。
数字の範囲が非常に広いデータを取り扱えます。

感染症の観点では、次の効果があります。

  • 感染症は指数関数的に拡大していくため、実態に即している
  • 感染拡大の推移(変化)を直線的な変化で表現できるため、シナリオとしてどのような状況にあるのかがわかりやすい
  • 状況が似ている国や異なる国が直感的にわかるので、参考にする国を抽出しやすい
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統計・経済

マスク転売禁止とアベノマスク(マスク2枚配布)~経済学的には転売禁止は意味がない~

マスクの品薄の影響を受けて、マスク転売禁止措置と、マスク2枚の全世帯への配布方針の発表が行われました。
これらに関して、経済学的観点から、転売そのものは決して悪いことでは無いんだよ、むしろ転売禁止は意味が無いよ、という話と、マスク2毎の全世帯配布は微妙だけれども叩かれるほど悪いことでは無いんだよ、という話をしていきます。

忙しい人向けまとめ

  • 転売禁止は多くの人の感情は満足させるかもしれない
  • 転売禁止では、マスクの品薄は解消されない
  • 再流通を抑制してしまうので、買い占められる人だけが買占め、必要な人の手にまわらなくなるため
  • 経済学的観点でいうと、需要と供給が安定するまで値段が釣り上げるのが本来的に適正
  • 「取引効用理論」によって生まれる不満や怒りにより転売ヤーたちは嫌われる
  • 経済学的理論に則って小売店が値段を釣り上げると、今度は不満や怒りが小売店に向く
  • そのため、小売店では経済学的に正しい行動がとれない
  • アベノマスクは微妙なれど、マスクが必要なのに購入できない人たちにとってはプラスになる
  • 買占め行動の抑制にもつながりうる
  • 整理券方式や時差販売、一律値上げの要請など政府ができた施策はあったはず

転売禁止とアベノマスクについて

3月15日、国民生活安定緊急措置法が改正され、卸売業者と小売業者を除き、マスクの高額転売が禁止されました。
これにより、小売店からマスクを買い占めたり、購入したマスクを高額転売したことが判明した場合、罰則を適用できるようになりました。
罰則は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金です。
これで、いわゆる「転売ヤー」による転売を禁止する流れになることが期待されています。

しかし、現状では隠語の使用や画像を隠蔽してのマスクが取引が行われています。
各種転売に利用されているサイトでは、巧妙な方法での転売が行われ、運営サイトや出品禁止の調査している側にはわからないようになっています。
このいたちごっこは続くと思われ、取引の方法がより巧妙化することが予想されます。

もう一つ話題になっているニュースとして、「マスクの全世帯への2枚配布」があります。
政府方針として出されたものですが、これに関して、世間から総ツッコミが出ている状態です
アベノミクスにかけて、「アベノマスク」という造語がでてくるほどです。

これらに関して、転売禁止は微妙だよ、転売そのものは決して悪いことでは無いんだよ、という話とアベノマスクは微妙だけれども叩かれるほど悪いことでは無いんだよ、まだマシだよ、という話をします。

転売そのものは悪くない

世間では「転売ヤー」に対する憎悪に満ち溢れています。
まず最初に、転売そのものは悪くはない、ということを解説します。
ここでする話は、道徳とか倫理観の話ではなく、あくまでも経済学的な話になります。
ですので、一部の悪質と言われている転売ヤーに対する擁護ではない点は認識ください。

さて、転売ヤーが嫌われる要因として、社会に対する価値貢献がされていないから、という理由があげられます。
これは本当でしょうか?
実は、転売という行為そのものは社会への貢献がなされる行為と言えます。

どのような社会貢献か?と言うと、それは「市場の効率化」への寄与です。
自由競争市場において、品物の価格は需要と供給で決定されます。
台風などによる不作で、野菜の値段が高くなる、という経験はあるはずです。
需要に対して供給が不足するならば、値段が高くなるのは至極当然のことで、転売はこの品物の価格調整に貢献をしているのです。

転売によって不当に品物の値段が釣り上げられている、という印象をどうしても持ってしまうでしょうがそうではなく、誰も買わなければそもそも値段は上がらないのです。
転売行為でも買う人がいる(需要がある)からこそ値段は上がるのです。
つまり、転売ヤーが売り、実際に代われる値段こそが適正価格であり、非常事態においては「普段の値段」こそが不適正な価格なのです。

そうは言っても、やはり転売ヤーがいなければ通常通り「普段の値段」で買えるのでは?と思う人がいるでしょう。
次項では、これについて解説します。

転売禁止をすると「買い占められる人間」だけに回る

転売ヤーがいなければ通常通り「普段の値段」で買えるのでは?
そう思うのは自然なことではありますが、仮に転売ヤーの存在がいなかったとしても品薄になるのは避けられず、入手困難な状態に陥ると考えられます。
それはなぜでしょうか?

それは、結局の所特定の買い占める人間が買ってしまい、その後再流通がされないからです。

世の中には、一定割合で強迫的に不安を敏感に思う人がいて、積極的な買占め行動に出ます。
また、同じく一定割合で、日本では特に多いのですが、同調圧力に弱い人がいて、買占め行動に引っ張られる形で、同じく買占め行動に出ます。
普段は理性的でも、不安に弱い人や同調圧力に弱い人は、現在のような異常自体において、理性的で無い行動に出てしまうのです。

こういった人たちがいる以上、転売を禁止すると何が起きるか?と言うと、再流通がなされずに、メーカーと小売店により再供給がされるまで、本当に必要だけれども入手できない人たちに回らなくなる、という状態に陥るのです。
高くても買える状態があるならば、本当に必要な人(で買える人)には、品物がまわる状態になります。
あくまでも合理的な経済学の上では、それは需給のバランスがとれている真っ当な状態なのです。

なお、不安に弱い人、同調圧力に弱い人たちを見ていると、正直、浅ましいとは思います。
思いますが、これは決して間違った行動(戦略)ではありません。
というのも、本当の極限状況において、積極的に他者を顧みず、自分勝手な行動に出ることそのものは、リアルな生存確率の向上に寄与するからです。
そのため、この種の層の人たちがいることは、人間種の生存という観点でみると、正解と言えば正解なのです。
理性的なことを是とする人間にしてみれば、何ともいえない気持ちになる買占め行動は、一方的に否定するものではないのです。
(私は理性的でありたいと思いますが。)

さて、話を戻すと共に繰り返すと、転売を禁止することにより、朝からお店に行列を作って並んで買占めができる人、言い換えると社会の中で忙しく働いていない人だけが購入でき、その後再流通がされない状態になってしまいます。
何度も繰り返しますが、マスク転売規制はマスク品薄を加速させるのです。
加えて、規制を気にしない国外の転売ヤーグループは活動を続けると考えられる、結局の所、日本という枠組みだけで見た場合に、日本人は誰も得をしなくなってしまうのです。

買い占めは膨大な需要に対して供給が限られている状態、かつ「普段の値段」で販売を行うことで発生します。
つまり、人々の手に適正に入手できるようにするためのもっとも効果的な対応は、需要と供給の状態が安定するまで値段を引き上げることです(需給均衡と言う)

では、なぜメーカーや小売店は「適正価格」にまで価格を引き上げないのでしょうか?

メーカーや小売店が適正価格で販売すると何がおきるか

多くの人は転売ヤーは嫌いだと思います。
嫌いな理由として様々あるとは思いますが、経済学的観点での転売ヤーが嫌われる理由を解説します。
転売ヤーが嫌われる理由を解説をしないと、メーカーや小売店が「適正価格」で販売できない理由を十分に説明できないからです。

なお、道徳とか倫理的な観点ではなく、あくまでも経済学的観点です。
道徳とか倫理的な観点では、私も転売ヤーは嫌いです。

転売ヤーが嫌われる経済学的理由として、「取引効用理論」というものがあります。
「取引効用理論」では、何か品物を購入した時の満足感(全体効用と言う)について次の式で表現しています。

全体効用 = 獲得効用 + 取引効用

獲得効用は、購入した品物自体から得られる効用のことを指します。
取引効用は買った人(消費者)の参照価格(内的参照価格)と支払価格(購買価格)との差によって規定されます。
この内、内的参照価格は、実際に支払わなけばならないと提示されている価格(外的参照価格)から影響される、支払いに至るまでの文脈であったり、消費者の知識量、はては社会的な公平性や倫理的観点などから決定されます。
ようは、取引効用とは「お得感」のことです。

これを転売ヤーが嫌われる理由と絡めて説明すると、転売ヤーから高額マスクを購入した場合、マスクを入手し使用できた、という喜びに対して、支払う価格の不当感の大きさ、お得感の無さから来る不満や怒り、が大きい、という状態になるのです。
もしくは、そもそも獲得効用が得られない(小売店で品切れ)、購入するにも高額マスクしかない、という状態での不満や怒りもですね。
そして、この不満や怒りの矛先が転売ヤーに向くのです。
マスコミから報道があり、SNSで話題にあがるから目立つのです。

ここで考えてみて下さい。
仮にメーカーや小売店、特に小売店が値上げを行うとどうなると思いますか?
今度は、不満や怒りの矛先が小売店に向く
とは思いませんか?
震災などの災害時に「便乗値上げ」という言葉が多く出ましたが、そういう言葉を投げかけられ、企業としてのブランドが低下すると思いませんか?

経済学的な需給均衡から来る値上げは本来、真っ当な行為なはずなのですが、それは、企業のブランドをも守らなければいけない立場としてはできないのです。
社会的に需要に応じて、自動的に価格が変動する、いわゆる「ダイナミックプライシング」が一般的になれば、今回のような転売禁止のような状態にはならなかったでしょうし、マスクの品薄もおきなかったでしょう。

アベノマスクは確かに微妙だが、100%意味不明というわけでもない

ここまで踏まえてアベノマスクを考えてみます。
マスク2枚の全世帯への配布は、確かに微妙で、他にやること無いのか?と思います。
しかしです、忙しくてマスクを買いに行けない、経済的に苦しくて高額マスクに手が出せない、という人たちが世の中には大勢いるはずです。
この人たちにとって、マスク2枚の配布はプラスになる施策と言えます。

また、微妙と思いつつも繰り返し使えるマスクが家にある状態ですと、無理に買占めに出なくても、という心理状態になるとも推測できます。
このことから、不安に弱い人たちは相変わらず買占め行動に出るでしょうが、同調圧力に弱い人の買占め行動は抑制されるはずなのです。
実際にはふたをあけてみないとわからないですけれどね。

世の中の心情として、政府に期待していることと、政府の行動に乖離があるから、不満や怒りが相対的に大きくなってしまうのです。
上述の取引効用理論に似ていますね。
なお、別に政府擁護を無理にしたいわけでもないですし、批判をしたいわけでもないです。

アベノマスク擁護的な上述記載に対して、批判的に考えると次のようになります。
小売店に対して、販売は一人一個や、忙しくても買えるタイミングで買える整理券方式の採用、早朝から並ぶのを防ぐ時間差販売などの方法の提案・協力を早々に要請を出す、という方法や、小売店から「適正価格」にできないのであれば、一律値上げの協力要請を政府から出す、という方法もあったはずなのです(経済学的にはこれが一番正しいと思われる)。
リーズナブル性が高い上に、効果も期待できます。

なんで、こういうことをやらないのでしょうか?

最後に企業としての教訓、特に小売店

転売の不満や怒りの矛先は転売ヤーに向いていますが、残念ながら店舗の現場レベルでは違います。
品物が無いことにより、店舗に立っている現場の方々には、直接的にその不満や怒りがさらされていると聞きます。

現場の疲弊を防ぐと共に、顧客満足度を高め、ブランド価値も高める方法があります。

それは、すでに上に書いてある通り、忙しくても買えるタイミングで買える整理券方式の採用や、早朝から並ぶのを防ぐ時間差販売などの方法を、買占め行動の予兆が見られたときに早々に打ってしまうのです。
迅速かつ的確な行動は、消費者からの信頼を勝ち得るでしょう。
また、顧客貢献・社会貢献という、企業本来のミッション・ビジョンにもかないます。

今回の騒動から、少しでも教訓を得て、次の何かに活かしたいものです。

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統計・経済

アンケートサンプル数の計算方法

企画担当者にとってよく行う調査にアンケートがあります。
その中で、サンプル数の設定はよくある悩みの種です。

サンプル数が少ないと調査の信頼性が下がり、サンプル数が多いとコストが跳ね上がってきます。
ここでは、アンケートを実施する際の適切なサンプル数の設定について解説していきます。


(2020年7月6日追記)選挙で開票がはじまっていない、もしくははじまって間もないのに「当確」報道が出ることが珍しくありません。
これは、統計学的には「400」のサンプルを取得すれば、概ね全体像を把握することができるからです。
「16,000」まで集まれば、ほぼほぼ誤差がなく正解も出せます。

とりあえず結論だけ知りたい人向け

母集団の総数が10,000を超える場合、サンプル数の目安は「400」です。
「400」集まれば十分、と考えて下さい。

なお、母集団の総数が1,000程度の場合は「300」、
100程度の場合は「100」、
10程度の場合は「10」、つまり全調査が必要になります。

用語の意味等、諸々理解されている方は、こちらを見てください。

基本的な用語

ここから、その根拠を理解するための必要な用語知識や計算について解説していきます。

母集団:ターゲットとなる対象の集団全体のこと

母集団数:母集団の対象総数のこと

サンプリング調査:母集団の中から何人かをピックアップして母集団全体の状況を見る調査のこと

サンプル数(サンプルサイズ):サンプリング調査におけるピックアップする対象数のこと

許容誤差:母集団からどの位のズレがあるのかの可能性を示す指標

例えば、許容誤差5%の設定で、ある事象への好感度が70%だとした場合、その「ある事象への好感度」は「65%~75%」ということになります。
ようは、アンケートからえられた結果が「どれだけ実態からかけ離れているか」を示します。
アンケートの目的にもよるのですが、通常は許容誤差5%が設定されます。

信頼度:えられたサンプルが、どれくらいの確率で許容誤差内の結果におさまるのかを示す指標

例えば、信頼度95%の設定で、回答者数が100人、上記の許容誤差5%、ある事象への好感度が70%の場合、「100人中95人」は「ある事象への好感度が65%~75%」ということになります。
アンケートの目的にもよるのですが、通常は信頼度95%が設定されます。
なお、信頼度は許容誤差以上に、必要なサンプル数に与える影響度(感度)が大きいので、無理に高めようとする場合には、よく検討が必要です。

回答率:特定の回答を選択するサンプルの比率のこと

例えば、上記の「ある事象への好感度が70%」の場合は、回答率は70%が設定されます。
ようは、ある程度、回答の傾向がわかっている場合は、必要なサンプル数が減るのです。
ただ、回答傾向は設問内容やターゲットによって変わりますし、基本的には結果がわからない前提でいるはずなので、通常は回答率50%を設定します。
こんな適当な設定でよいのか疑問に思われるかもしれませんが、サンプル数の計算の関係上、50%を設定すると、必要なサンプル数が最大になるため、最も保守的な設定になるのです。

回収率:アンケートを実施した際の回収率のこと、必要なアンケート数に影響する

例えば、不特定多数のアンケートをお願いして戻ってくる想定が10%(10人に1人が回答する)とした場合で、必要なサンプル数が400人なら、4,000人にアンケートを依頼する必要があります。

計算式について

さて、ここで必要なサンプル数を求める計算式を提示します。

それぞれの意味は下記のとおりです。
数値を代入していけば、サンプル数(n)が求められます。

  • n : 必要なサンプル数
  • N : 母集団数
  • z : 信頼度(Zスコアというものをあてはめます。)
  • e : 許容誤差(%での計算なので小数点で計算します、5%なら0.05です。)
  • p : 回答率(%での計算なので小数点で計算します、50%なら0.5です。)

ここで信頼度(z)について簡単に触れます。
zスコアは信頼度の%そのままではなく、統計的に対応する数字をあてはめることになります。
統計学のt分布の自由度∞の数字で、信頼度95%なら1.96、信頼度99%なら2.58というように、一律で決定されます。
参考として、末尾にzスコア一覧を掲載しておきます。

具体的に計算してみましょう。
母集団数Nを10,000、信頼度zに1.96、許容誤差eに0.05、回答率pに0.5と設定し、上記の式にあてはめると、369.9837,,,となるはずです。
つまり小数点以下を四捨五入して、「370」です。

ただ、これを一々計算していては身がもたないので、冒頭でも掲示した、このような必要サンプル数の一覧表を見るのが一般的です。

これを見ればわかると思うのですが、許容誤差や信頼度について、精度を高めようと思えば思うほど、必要なサンプル数が一気に増えてしまいます。
そのため、多くの研究やビジネスの現場では、一定水準で精度を確保しつつ、リーズナブルにできる許容誤差5%、信頼度95%、という数字を設定して計算するのです。

逆に考えると、ざっくりと市況感やニーズ感を掴みたい、というのであれば大幅に必要なサンプル数を減らすことができます。
許容誤差10%、信頼度90で設定すれば、サンプル数「100」もあれば、十分以上に知りたいことの概観を掴むことができます。

具体的な検討ステップ

ここからは、より具体的なサンプル数の算出ステップに関して解説していきます。

¶ 母集団数の設定:母集団の規模はどの程度の大きさなのか?

最初のステップが「母集団数の設定」です。

例えば、福利厚生のサービスを提供している日本の会社において、世の中の労働者にとっての福利厚生へのニーズを調査したいとします。
この場合は母集団としては日本の雇用者となります。
数としては雇用者数全体となり、約6,000万人が母集団数となります。
これは就業者数の中の雇用者数全体となるので、より福利厚生を意識するであろう正社員に限定したい場合は、約3,500万人が母集団数となります。

¶ 目的の設定:どの程度の正確性(誤差と信頼度)を要求するのか?

次のステップが正確性、精度の設定、よりかみ砕きつつ正確に言うと、目的の設定です。

調査の目的が、ざっくり粗々にニーズ感を掴みたいのか、それとも具体的なサービスが既にあってそれに対しての情報が欲しいのか、新規事業があって精度高く設定価格の情報をえたいのか、このような形で、どれくらいの正確性、精度を調査に求めるのかを考えます。

ここで上述の通り、許容誤差と信頼度を設定する形になります。
ここのパラメータを個別に検討することには(こういうと統計の専門家からは怒られるかもしれませんが)あまり意味がありません。
ですのでざっくりと3パターン位で考えるのが良いです。
サンプル数は母集団10,000で考えています。

精度重視:許容誤差5%、信頼度95%(サンプル数約400)

標準調査:許容誤差5%~10%、信頼度95%~90%(サンプル数約70~400)

ざっくり:許容誤差10%~20%、信頼度90%~80%(サンプル数約10~70)

許容誤差と信頼度を設定できたら、回答率は50%で設定すればよいので、そのまま必要サンプル数を算出できます。

アンケート依頼数の計算:どういった対象に依頼し回収していくのか?

最後に、どれだけのどういった対象にアンケートを依頼すれば良いのか?の話になります。

アンケート調査代行会社に依頼するのならば、シンプルに「必要サンプル数は400」と伝えれば良いでしょう。
自社でアンケートを実施する場合は、依頼対象との関係性で回収率も変わるので、依頼数が大きく変わります。

必要サンプル数が400で、回収率が20%であるならば、必要依頼数は2,000になります。

アンケート対象が少数ならば、追いかけも可能ですが、100も超えれば現実的には追いかけが困難になります。
ですので、回収率は10%~20%のレンジ内で堅実に設定するのが良いでしょう。

(参考)AIの導入にあたって、何故、膨大なデータ必要なのか?

AIは、ざっくり言うと、過去の膨大な統計データをもとに、ある何かの事象を自動で判定するものです。

上で提示した通り、アンケートによってえられた結果には、誤差があり、かつ信頼レベルも設定されています。
つまり、精度という観点では、あまり質が高くないのです。
現実の研究やビジネスの中では、そこまでの精度を求めてはいないので、必要なサンプル数の中で検証をしていくわけですが、AIにおいては限られたサンプル数(教師データ)では問題がおきます。

というのも、仮にトータルとしての精度を99%にまで高められたとしても、試行100回につき1回は誤った出力をしてしまうのです。
業務内容にもよるのですが、これでは安心して自動化にAIを組み込むことができません。

そのため、膨大な統計データを用意し、トータルとしての精度を99.99,,,と高めて運用する形になります。
(もしくは、素直に精度が低い前提で業務に組み込みます。どちらかというと、こちらの方が現在の主流ですね。)

(参考)信頼度にあてはめるzスコア一覧

信頼度zスコア
99.9%3.290
99.8%3.090
99.0%2.576
98.0%2.326
95.0%1.960
90.0%1.645
80.0%1.282
70.0%1.036
60.0%0.842
50.0%0.674
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統計・経済

2019年10月-12月実質GDP▲6.3%成長率_今後の成長にも懸念

2月17日に四半期別GDP速報が公表されています。
各所で既に取り上げられている話題ではあるのですが、市況環境はIPO進行上、無視はできない要素ですので、こちらでも取り上げていきます。

直近2019年10月-12月期の実質GDP成長率は▲6.3%

内閣府資料より作成(実質季節調整系列)

タイトルの通り、直近期のGDP成長率は▲6.3%です。
これらの要因は、下記の通りで、増税前の駆け込み需要の反動と、その後に続く大型台風、暖冬により民間最終支出消費が大きく落ち込んだ結果となりました(あわせて企業の設備投資も大きく落ちています)。

  • 消費税増税
  • 大型台風
  • 暖冬
  • 12月から発生したコロナウイルスの影響が少なからず

なお、グラフ灰色線が成長率推移なのですが、大きく落ちている箇所がいくつかあります。 代表的な部分を取り上げると、下記が主な要因となります。

  • 2009年1-3月 リーマン・ショック
  • 2011年1-3月 東日本大震災
  • 2014年4-6月 消費税8%への増税

日経平均には盛り込まれていない?

Yahooファイナンスより

様々な心配事はあるのですが、その一つが日経平均です。
日経平均推移を見ていると、2月21日時点で23,386という数字となっており、2019年10月からの推移を見て、23,000~24,000のレンジがキープされています。
過去のSARSの時を考えると、ここしばらくは調整が続きそうです。
調整がどれだけの期間となるか、短期で決着がつけられるか、が注目です。

コロナウイルスの影響も懸念

もう一つの心配事はコロナウイルスの影響です。

インバウンド消費の落ち込みと、中国サプライチェーンの稼働不良による世界経済への影響。
これらがどれだけのインパクトがあるのか、そして影響はどれだけ長引くのか、が懸念されます。
2020年は東京オリンピックも開催されます。

インバウンド消費の落ち込みだけで、第一生命経済研究所試算では▲4,833億円、野村総合研究所試算では▲7,760億円とされています。

ただし、海外渡航が抑制されれば、日本人の海外旅行やインバウンド抑制によるサービス輸出入 の減少という経路を通じても、経済全体への悪影響はさらに大きなものとなる。これらも加味し てSARSの時と同程度の影響が出るケースを試算すると、わが国の名目GDPは▲4,833 億円 程度押し下げられることになる。

第一生命経済研究所「 新型肺炎が日本経済に及ぼす影響 」より

新型肺炎の影響により、2020年の訪日観光客数がこれと同じ割合で減少するとした場合、中国からの訪日観光客数の減少は2020年の日本のGDPを2,650億円押し下げ、訪日観光客数全体では7,760億円押し下げる計算となる。ちなみに後者については、GDPを0.14%押し下げる計算だ。

野村総合研究所「 新型肺炎がインバウンド需要の減少を通じて日本経済に与える影響試算 」より

政府の対応の是非も各所で議論されていますが、それ以上にメディアによる過剰報道が気になります。
政府もメディアも「正しく恐れ、正しく対処する」ことを呼び掛けていただきたいものです。

企業経営側としては、一つ一つやれることをやっていきましょう。

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