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【人生のスパイス】ピンチをチャンスに変える考え方

不思議なことに、ビジネスをやっているとピンチが定期的にやってきます。
来たら来たで憂鬱なものですが、慣れてくると楽しくなってくるのもまたピンチです。
今回は、ピンチをチャンスに変える考え方と題して、ピンチは「人生のスパイス」だというスタンスで書いていきます。

忙しい人向けまとめ

ピンチに対する考え方

  • ピンチが来た、ということはチャレンジをしている証拠
  • ピンチは、自分たちや会社を成長させるためのチャンス
  • ピンチは慣れる、だんだんと「人生のスパイス」に思えて楽しくなってくる
  • 乗り越えるためには「今、やれること、やるべきことにフォーカスする」、これしかない

ピンチをチャンスに変える考え方

  • 絶対に譲ってはいけない、守らなくてはいけないものは何か?
  • 各人の感情や過去のしがらみは脇において、締められる蛇口は何か?
  • 自分のプライドも脇において、周囲に求められる援助は無いか?
  • そして思いついた考えを実行していくために具体的に何をいつまでにすれば良いか?

ピンチはチャレンジをしていると定期的にやってくる

ビジネスをやっていると定期的に訪れるものがあります。
タイトルの通りなのですが、ピンチですね。
というか、何かしらチャンレジをしてくれるとピンチは普通に来ます。

今何かにチャレンジをしている人にとってみれば、おそらく納得のいく話かと思います。
自分の経営判断のミスから来るピンチかもしれませんし、取引先がいきなり飛んだことから来るものかもしれません。
それとも、最近、世界を騒がしている新型ウイルス騒動から来る、コントロール不能な性格が強い経営危機かもしれません。

そして規模も様々です。
単純に仲の良かった人たちが離れていってしまう、というものから、全ての財産その他諸々を失うものまで、その程度の大きさもチャレンジの大きさに比例して変わってきます。

そのため、最初に言いたいことは「ピンチが来た、ということはチャンレンジしている証拠だよ」という点です。

ピンチだからこそ底力が出る、成長できる

ピンチが来たら、何とかして乗り越えなければいけません。
乗り越えなかったら、会社が倒産するなり、自己破産するなり、まあまあ面白くない結果が待ち受けているからです。

だからなのか、不思議なことにピンチがくると「戦闘能力が爆上がり」する現象を体験することになります。

仮に、何かしらの要因で今までの事業規模からはイメージできなかった借金(銀行借入)をすることになったとしましょう。
(銀行借入ができる、という時点で立派なものなのですが)経営者本人の焦りは相当なもののはずです。

契約に則って返済をしなければ、会社は高い可能性で潰れてしまいます。
返済が遅延した場合、「期限の利益」というものを喪失してしまう契約になっているからです。

そうなると、必死に事業をまわして利益をだして返済のためのお金を稼ぐ。
今までどこに眠っていたのかわからない底力が湧いてきて、このピンチを何とかする。
そんな日々を死に物狂いで送るようになります。
ピンチになって、ようやく本気を出せたのですね。
(もちろん、中には、そんな状況になっても本気になれない人もいるのですが。)

そしていつしか全ての借入を返済し終わった時に気が付くはずです。
会社が、自分たちが強くなっているということに。
もう一度、同じレベルのピンチが来たとして、たぶん、普通に乗り越えられるようになっています。

だから次に言いたいのは「ピンチは、自分たちを成長させるチャンスなんだよ」という点です。

ピンチは慣れる、というか「人生のスパイス」になる

ピンチが来ると、心身ともに辛いものです。
まあまあ寝不足になります(睡眠が浅くなる)。
まあまあ胃腸の調子が悪くなります。
まあまあ暴飲暴食も増えます(人による)。

そんな状況でも既に来たピンチは待ってくれません。
なんとか乗り越えなければいけません。
逃げずに立ち向かって、やれること・やるべきことに最善を尽くす以外にありません。
悲観にくれているだけでしたら詰むのですから。

必死になって乗り越えるための日々を送っていると、不思議なことに達観をしてきます。
仮に職と財産・信頼諸々全てを失ったって、自分が今まで得てきた知識や経験が無くなるわけではないですし、物理的に死んでしまうこともありません。
最悪、自己破産でもして、ゼロからやり直せばよい。
そう考えて、何度かピンチを乗り越えていくと、だんだんと慣れてくるのです。

(睡眠は浅いままですが)普通に眠れるようになってきます。
(胃腸とかが物理的に辛いのはそうなんだけれども)冷静に対処ができるようになってきます。
「どうしよう、、、」という気持ちがゼロにはなりませんが、「今やれることは何か?今やるべきことは何か?」という考えを自然に優先的にできるようになってきます。
過去のピンチを乗り越えた成功体験もあるのか、落ち着いて考えられるようになってくるのです。

そうすると、これまた不思議なことに、だんだんと楽しくなってきます。
「よっしゃ!また成長機会が来た!」とも思いますし、難しいシチュエーションをクリアするゲームのような感覚も出てきます。
ピンチが人生のスパイスになってくるのです。

だから3つ目に言いたいのは、「大丈夫、慣れるから」という点です。

とりあえず落ち着いて考えて

ピンチが来たら非常に焦ると思います。

いくら「チャレンジしている証拠だよ」「成長のチャンスだよ」「そのうち慣れるよ」なんて言われても、今目の前が大変なのには変わりません。
ポジティブなマインドだけでは何も解決しません。

しかし、落ち着いて正しく対処しなければ、物事が解決しないのも確かです。

ですので、「今やれること」と「今やるべきこと」にフォーカスして対処してください。

  • 絶対に譲ってはいけない、守らなくてはいけないものは何か?
  • 各人の感情や過去のしがらみは脇において、締められる蛇口は何か?
  • 自分のプライドも脇において、周囲に求められる援助は無いか?
  • そして思いついた考えを実行していくために具体的に何をいつまでにすれば良いか?

ピンチの度合いが大きくても、やることは基本的には同じです。
むしろ、ピンチの度合いが大きくなると、「今やれること」が限定されると共に、「今やるべきこと」が明確になる場合が多いです。
だから、気持ちの問題はともかく、対処の過程的には焦らずにすむ場合が多い印象を持っています。
(ハードワークになるのは変わらないけれど。)

最後に言いたいのがこの、ピンチを乗り越えるためには「今、やれること、やるべきことにフォーカスする」、これしか無い、という点です。

あなたのチャレンジが、正しく世の中に貢献するものであり、そしてその想いと行動が本物であるならば、ピンチは絶対に乗り越えられるはずです。

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効果的な1on1運用は高難易度~形だけの無駄な1on1ならやるな!~

ここ数年、上司と部下が1対1で定期的にミーティングをする「1on1」がベンチャー業界を中心に流行っています。
適切に運用すれば高い効果のある1on1ですが、形だけの導入では上司は疲弊し、部下は会社不信を抱く、悪影響を招くだけの結果をもたらす可能性もあります。
今回は、この1on1に関して、無駄になりやすいから、基本的には実施しない方がいいよ、という観点で解説していきます。

1on1は何故、実施しない方がよいのでしょうか?
仮に実施するとしたら、どのようなやり方なら有効なのでしょうか?

忙しい人向けまとめ

  • 1on1は、上司と部下の1対1で定期的に行うミーティングで、仕事の悩みを中心に主体的な自己解決を促すための取り組み
  • 1on1は次の3点の理由で、基本的には無駄だと言える
    ① 1on1のコンテンツは、仕事の中で、その場で指導すれば解決するものが多い
    ② 「コーチング」の要素が強く、上司部下双方に一定のスキルが必要
    ③ 「コーチング」ではなく、「ティーチング」が必要な場面が多い
  • 仮に1on1に取り組むとして、必要な前提条件や、整えなければいけない制度が多く、また時間もかかる

1on1とは?とりあえず基本的なことの確認

1on1は、アメリカシリコンバレーを中心に広がった、広義の意味で人事制度の一種です。
部下と上司が1対1で、短時間の面談を頻繁に行い、コミュニケーションをとると共に、仕事の成果をあげることを目的として実施されます。

日本においても、部下の本音を聞き出し、モチベーションを高めてもらう効果を狙い、ベンチャー業界を中心に広がっています。

つまり、部下の育成やマネジメントにおいて有効だ、と言われているわけですね。

しかし、この1on1ですが、その本質を理解せずに、流行だけに乗る、形だけ導入してしまうと、効果があるどころか、悪影響が発生します。
基本的には、何も考えないで1on1を実施する位なら、やらない方がマシな無駄なものなのです。

それでは、何故、1on1は基本的には無駄なのでしょうか?

1on1は基本的には無駄!

具体例として、ヤフーで行われているという1on1について、そのプロトコルを見てみます。

一週間に一度、30分/人とする。
部下は10人以下とする。
以下のアジェンダとする。

 ① 目標に対しての現状の確認と問題点の特定(10分)
 ② 業務上の経験や気づきの振り返り(10分)
 ③ チームや組織に対する意見や気づき(5分)
 ④ その他の悩みや相談(5分)

また、聴くことを心掛ける。

『人事こそ最強の経営戦略』

これを見ると1on1のコンテンツとしては、業務遂行、人間関係、プライベートなことに関して、悩み諸々を聴き主体的な自己解決に導く「コーチング」的なものであると解釈することができます。

私が1on1は基本的には無駄だ、という理由は上記をうけて、次の3点の理由になります。

  • 1on1という体裁をとるまでも無くその場で指導すれば良いはず
  • 「コーチング」の一種なのだから、上司・部下共に聴く・話すスキルが必要
  • 「コーチング」ではなく「ティーチング」が必要な場面は多いはず

1on1という体裁をとるまでも無くその場で指導すれば良いはず

いきなり結論なのですが、普段から部下のことを気にかけていれば解決できることばかりなはずです。

業務遂行上、例えばシンプルにタスクの処理の仕方や、複雑なものでプロジェクト進行上の悩みが部下にあったとしましょう。
それならば、タスク上のHowならその場で指導すれば良いですし、プロジェクト進行なら定例ミーティングで状況を確認し、これもその場で指導したり、主体的な自己解決を促すアドバイスを行えば良いだけのはずです。

人間関係の悩みも、普段からチームの様子を見ていれば、「AさんはBさんのことが苦手なんだな」「Cさんは人当りが強くてまわりを委縮させてるな」「Dさんは怠け癖があって、まわりから疎まれているな」なんてのはわかるはずです。
1on1ミーティングの場でしか、このような状況をキャッチできない上司に対して、そもそもとして部下は信用・信頼し、ついていくと思うのでしょうか?
組織上(チームメンバー上)の問題も、問題がある人を呼び出して、即座に注意をすれば良いだけのはずです。

プライベートの悩みに関しては、基本的に、仕事にプライベートの問題を持ち込むこと自体がナンセンスです。
職場は学校や悩み相談室では無いのですから、プライベートの悩みを解決するようなアクションはそもそもとして不要です。
仮に、そのような悩みを解決しないと機能しない部下がいるのであれば、それは採用の問題です。
1on1の導入以前の問題として、採用を見直した方が良いでしょう。
取り組むとして、ランチや本人が望むのであれば飲みの場で話を聞き、個人的に相談にのる、というのは全く構わないでしょう。

ようは、1on1のコンテンツを見る限り、ごくごく普通に仕事中や休憩時間、仕事後などにコミュニケーションをとれば、それで事足りるものばかりのはずなのです。

即時解決を図るならば、タイムリーですし、時間的にリーズナブルな点も指摘できます。

「コーチング」の一種なのだから、上司・部下共に聴く・話すスキルが必要

次に、1on1は問題解決のための「コーチング」の一種だという点が、難しいポイントです。

つまり、上司に1on1のスキルと、部下に話をする内容や、問題をまとめて適切に伝えるスキルが無ければ、機能しづらいのです。
つまり、実施する側、受ける側双方に一定の知識やスキル・経験があるからこそ成り立つものなのです。
機能しない1on1を惰性でやることは、会社や人事に対する不信につながりかねません。

まず、コーチングはそもそもとして難しいのだから、その素人である部課長にやらせることが本当に良いことなのか?はしっかりと検討した方が良いでしょう。

次に、問題解決の視点で考えた時に、問題が解決しないことにより、かえって溝が深まる可能性も考えられます。
組織が抱える悩みというのは、一部課長によって簡単に解決できるものばかりでは無いはずで、また仮に解決できるにせよ簡単に即座に解決できるとは限りません。

つまり、問題解決という視点で見た場合に、1on1は高い可能性で機能しない運命が待ち受けているのです。
解決できる、解決しやすい問題に関しては、上記「その場で指導すれば良い」の通り、1on1でやる必然性があまりありません。

このため、普段から部下たちのことをしっかり見ている上司や、自走できる部下にとては、時間の無駄なのです。
双方疲弊するだけです。
適切に1on1を運用しようとすると、実施時間だけでなく、準備時間も必要であることは認識しなければなりません。

「コーチング」ではなく「ティーチング」が必要な場面は多いはず

上述の通り、コーチングは、実施する側、受ける側に一定の知識やスキル・経験があるからこそ成り立つものだ、と書きました。
この「一定の知識やスキル・経験」が、特に受ける側に無い場合、必要なことは「ティーチング」です。

「コーチング」は受ける本人が内に持っているもの(知識や経験のみならずマインド的なもの含め様々なもの)を引き出し、主体的に自己解決を促すための取り組みです。
そのため、受ける本人のスキル水準が低い場合は、きちんと具体のHowを教え込まなければいけないでしょう。

また、会社の業務の多くはスキルフル、キャリア的なものばかりでは無いはずです。
毎日、決まったタスクを淡々と効率的に処理するようなことが求められる業務は多いはずで、この役割においては、主体的なことは期待されていないはずです。
この役割の方々に対して、「コーチング」的1on1を実施することに、どこまでの効能が期待できるのでしょうか?
(この点は、役割の上下の話をしているのではなく、役割の性質の話をしていることは留意ください。)

加えて、何度も書いている通り、「コーチング」は主体的な自己解決を促すための取り組みであることを考えると、1on1の実施自体が矛盾をはらんでいることに気が付くはずです。
どういうことかと言うと、会社から1on1を促している、という時点で既に主体的ではない、といことです。
部下本人が1on1をしたい、というのならば、上司はそれを歓迎すれば良いだけのはずです。

それでは、効果的に1on1を運用するには、どのように行えば良いのでしょうか?

もし、1on1に取り組むのならば?

実施の前提条件

まず、会社が取り組んでいる事業や、従業員たちの属性に関して検討する必要があるでしょう。

事業からくる業務の特性が、タスク性や定型性の高いものでしたら、1on1は機能しづらいです。
新規事業への取り組みのような場合は、そもそもとして1on1が必要な人材を投入するのは失敗の可能性を高くするでしょう。
自走・爆走ができる人が適切なはずです。
これを踏まえると、事業特性として「ある程度軌道に乗った新規事業」「不備は多いもののある程度の形ができあがった業務」のような状況において1on1が機能する可能性が出てきます。

従業員の属性に関しては、部下側のスキル水準が一定以上であること(中途人材が中心か)、主体性・やる気があること、が条件となるでしょう。

制度として整えなければいけない事項

そのような前提条件が揃った上で、制度として下記を整える必要があるでしょう。

  • 1on1の意義の説明
  • 1on1の手順・方法など具体的なスキルに関する教育の実施
  • コンテンツを一定程度用意する
  • 仮にやるのなら徹底させる(忙しいからなどの理由で中途半端にさせない)
  • 人事からのフォローを必須で行う(1on1の内容のくみ上げと、適切な現場フォロー)

加えて、1on1の結果として成果を出したのならば、上司部下共に評価に反映させ、報酬をあげていかねばならないでしょう。
1on1だけ独立した人事制度として存在していて、評価・報酬制度と連動していなかったら、白けるリスクが高まります。

対象人数を絞るのも手

アイデアベースで考えるならば、「外部セミナー手当」や「読書手当」のようなものを制定することも考えられます。

従業員自身で希望する「外部セミナー」や「業務に役立つ書籍」を選定し、購入します。
これに対して、「報告書」を会社に提出することにより、会社側はそのセミナー代金や書籍代金を補助する、という仕組みです。

多くの場合、この種の取り組みは、ほとんどの従業員が活用しません。
しかし、逆に考えると、自主的に行動する従業員を見出すことができます。

1on1をやる場合、この自主的に研鑽にはげむ人たちにフォーカスをあてて実施すると、高い効果を期待できます。
対象人数を絞れるので、負担も減らせます。

クロス・ミーティングも考えられる

また、クロス・ミーティングも可能性として考えられます。
他部署の部課長に1on1を実施してもらうのです。

これなら、部署間交流も図れると共に、普段接点のない双方だからこそ客観的に取り組めます。
ただし、これも双方に1on1のスキルがあることが前提です。

最後に

適切に機能する1on1を実施しようとするのは、非常に難しいことです。
制度として整えなければいけない事項が多くなりますし、また時間もかかります。

上司と部下の双方で取り組む意義を理解し、1on1を良くしていこう、という想いをもって、取り組んで行かなければなりません。
それができないのであれば、1on1はやらない方が良いです。

そして、その組織として1on1を良くしていこうとする取り組みができる人たちに、そもそもとして1on1が必要なのか?
これを考えると、どうしても、1on1って本当に必要なのだろうかと疑問に思います。

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マネージャーとはどうあるべきか?~チームの運用と部下の育成~

マネージャーに就任したあなた。
チームの重要課題が明確になり、方針も策定し、あとは実際に日々のチーム運営で成果を出すだけ。
というのに不安で一杯で仕方ありません。

マネージャー教育というものがほとんど行われないこの日本において、そんなマネージャーに向けて、マネージャーとはどうあるべきか?について解説していきます。

前半後半にわけて書いていき、今回は後半「チームの運用と部下の育成」についてです。

忙しい人向けまとめ

  • 安心感は「成果をだすことに集中できる環境」を作る
  • 褒める時は人前で、叱る時は1対1で
  • コーチングとティーチングは適切に使い分ける
  • 全員に高い人事評価をつけられるように、逆算でチーム運営を行う
  • 1on1はツールなので、絶対視しない

前回の概要

  • マネージャーの役割はチーム全体で「成果を出すこと」
  • マネージャーというポジションは多くの情報が集約される「砂時計のくびれの部分」、情報伝達のキーパーソンと言える
  • 「部下に尽くす」と自己変革(自己洗脳)を行うのが重要
  • 着任後、短い時間でチームをグリップする、グリップに時間をかけるとチーム運営の難易度があがっていく

マネージャーというものの例えについて、前回は「砂時計のくびれの部分」のようなものだと例えました。
マネージャーの所で、経営の情報と、現場の情報が交差する、情報伝達のキーパーソンとなるからです。

そして、マネージャーの最大の役割は、チームとして「成果をだす」ことだと書きました。
そのため副次的な役割として、次の役割を担う形になります。

  • 業績のコントロール
     チームの方針の策定
     策定された方針の遂行状況のチェック
  • 砂時計のくびれの機能
     経営・部長への報告
     部下への方針と情報の伝達
  • チームの運用と部下の育成
     部下の状態の把握と健康・モチベーション維持
     部下の育成、パフォーマンスの引き出し・引き上げ
  • 社内外との調整
     他部署や外部との交渉・政治

今回は、この役割のうち「チームの運用と部下の育成」についてです。

チームの運用と部下の育成

成果を長期的に出し続けていくために必要なことが、チームの運用と部下の育成がです。
このチームの運用と部下の育成について、次の点でポイントを解説していきます。

  • 安心感
  • 褒めと叱り
  • コーチングとティーチング
  • 人事評価と1on1

チームメンバーに安心感をもってもらう

前回の記事で書いた通り、マネージャーに就任した際には「自己変革」が重要になります。
それは、マネージャーは、チームのメンバーにとっては影響力が大きいポジションだからです。
管理職としては最下層に位置するポジションですが、「ノブリス・オブリージュ」の精神を、自主的にもった方がよい、と書きました。

そして、マネージャーがもつ影響力はチームの雰囲気も左右します。
成果をだすことに集中できる環境を作ることを、仕事の一つとして捉えましょう。
そして、成果をだすことに集中できる環境とは、「安心感」がある環境のことを指します。

安心感のある環境のポイントは次の3つです。

  • 明瞭明確な指示・伝達
  • 圧倒的な責任感
  • どっしりとした態度

仕事そのものに対しては、部下にその意味・意義を示し、やりがいをもってもらえるようにすることが必要です。
指示については、曖昧に伝えず、明確に言語化し、わかりやすく伝える方がチーム運営が円滑に進みます。
やるべきことが明確な状態は、迷いや不安を減らします。

失敗に関しても、チームや部下の失敗は、すべて自分の責任として捉えるようにしましょう。
不幸にも、働きの悪い部下がいて、明確にその人の責任であったとしてもです。
「何かおきてもマネージャーに守ってもらえる」という状態は、明確にメンバーに安心感を与えます。
ただし、失敗した人を放置するような「ぬるま湯」環境を作ることと混同してはいけません。
「ぬるま湯」は、最終的にはマネージャーに対する不信を招き、チームを崩壊させます。
ようは、守ることと叱ることは、両立できるということです。
褒め方・叱り方に関しては、次項で触れます。

また、辛いことがあったとしても一々、動揺していてはいけません。
マネージャーの気持ちの浮き沈みは、部下にも伝わります。
不安がっている人の指示を、安心して遂行できるでしょうか?
常に疲労を顔ににじませた人が、出世して社会に貢献したいと思うでしょうか?
あくまでも自分は成果を出すための装置だと考え、気持ちを常にフラットに保つよう、努めましょう。
常にフラットを自然体にでき、どっしりとしていれば、チームメンバーは安心します。

なお、ここで言っている雰囲気は、「成果をだすことに集中できる環境」のことをいっており、「雰囲気の良し悪し」については書いていません。
組織の雰囲気の良し悪しと業績には相関性がないことが、各種の研究でわかっています。
(ギスギスしていても、ひたすらに成果を求める環境であれば、業績向上には確かにつながりやすい。)
ですので、無理に仲良しこよしの環境を作る必要はありません。
ただ、せっかく同じ働くのであれば、雰囲気が良い方がいいのは確かなはずなので、どうせ「成果をだすことに集中できる環境」を作るのであれば、ついでに雰囲気も良くするように努めると良いでしょう。

褒めと叱り

褒められると人は喜び、叱られると辛い思いをする、のは説明をするまでもないでしょう。

とりあえず先に一番重要なことを書くと、「褒める時は人前で、叱る時は1対1で」です。
人前で褒められれば自尊心は高まりますし、逆に人前で叱られれば自尊心は傷つきます。

さて、成果を出していても、何も伝えられなければモチベーションは自然と低下していきます。
部下の能力や出した成果にあわせて、褒めていくことが必要です。
この際に、自分自身を尺度にしてはいけません。
あくまでもその人を基準に褒め方を考える必要があります。

過度な褒めは、薄っぺらさを招いてしまいますが、仮にそうなったとしても実害は少なく、褒めの難易度はまだ低いといえます。
褒められること自体は人を喜ばせるからで、難しいのは叱り方です。

叱りは、人によっては人格攻撃と捉えてしまうこともあり、大切なことであっても全く伝わらない場合があります。
人は基本的に変化を恐れる生き物なので、変えようとする圧力には自然と抵抗してしまいます。
自ら、自分を変えるような促しが必要です。
例えば、マネージャー本人の失敗談などを交えて、その叱りの対象について変化しないことのリスクを理解してもらうなどの工夫が考えられます。
ただし、これも人によって工夫の仕方は考えなければいけません。
「自分の失敗談を語る」というテクニックを知っていて、それを小賢しいと思う部下であれば、かえって反発を招く場合もあるからです。
どうすりゃいいねん。

ひたすら経験を積んでいくしかない、というのが一つの答えですが、比較的汎用性の高い叱り方のポイントはあります。
それは次の4つです。

  1. 事実関係の確認:動機が正しいミスであれば問題なく、そのミスについて部下に考えさせる
  2. 問題に至った原因の究明をさせる(責任追及は別の場所でやる、もしくは割り切ってやらない)
  3. それでも気がつかないのなら直接原因を伝える
  4. 最後に感情のフォローアップをする

コーチングとティーチング

仕事ができる部下を伸ばすのも大事ですが、パフォーマンスが低い部下を引き上げる方が、チーム全体の成果にはつながりやすいです。
そこで、コーチングとティーチングという手法が登場してきます。

コーチングとは、すでに対象者がもっているものを引き出すサポートのことで、
ティーチングとは、対象者がもっていないものを与えるサポートのことです。

つまり、相手のスキルやマインドセットに応じて、コーチングとティーチングを使い分ける必要があります。

スキル水準が低い人には、ティーチングが必須です。
世の中にはコーチングの書籍が多数あり、コーチングの習得に熱をあげるマネージャーも多いのですが、コーチングが適切に機能するとは限らない事は覚えておかねばなりません。
スキル水準が低い人に、コーチングをしても意味がないからです。
本人の中に、引き出すだけのスキルが無いのならば、なにも引き出せないのは想像すればわかるでしょう。

ある程度のスキル・経験があり、自走できる人はコーチングが機能するでしょう。
コーチングの心構えと禁止事項について、3つずつ示しておきます。

3つの心構え

  • 価値を認め、可能性を信じる
  • 秘密を守り、信頼を築く
  • コーチングですべてが解決できると思わない

3つの禁止事項

  • アドバイスや指示、提案
  • YES/NOで答えられる質問
  • 非難に聞こえる「なぜ?」という投げかけ

人事評価について

人事評価のそもそも論なのですが、全員に高い評価をつけられるようにチームを運営していくことが重要です。
つまり、誰かに対して低い人事評価を行う、ということ自体がマネージャーの責任なのです。
高い人事評価がつけられるよう、逆算でのチーム運営を行わなければなりません。

その、そもそも論がある上で書いていくと、人事評価の要諦は、あくまでも成果を基準に考えることです。
成果は、これまで出してきた成果と、これから出すであろう成果の二軸で考えます。

後者のこれから出すであろう成果の期待値が大きいメンバーは昇格させます。
部下の昇格に全力を尽くすのはマネージャーの役割の一つです。

人事評価の際に重要なのは、好き嫌いで評価しないという点です。
客観的に、自分の感情をおしころして判断しなければなりません。
好き嫌いでの評価は、上述した「安心感」の毀損を招き、信頼を失い、チームを崩壊させていきます。
また、明確に失敗をした部下に対しても、下手な温情は不要です。
下手な温情は部下の成長機会を奪うことに繋がりうるからです。

低い評価をださなければいけない場合には、人事評価のタイミングでいきなり伝えるのではなく、定期的に評価に関するコミュニケーションをとり、「低い評価」に関してサインを発信していくことが必要です。
本人は頑張っていたつもりでいて、いきなり低い評価を与えられれば、びっくりしますし、マネージャーに対して恨みや不信を抱いてしまうものです。
ただし、繰り返しになりますが、下手な温情は不要です。
今後の期待を中心に話をし、低い評価を前向きに捉えられるように努めましょう。

1on1について

1on1はベンチャー界隈を中心に流行ってはいますが、絶対性のあるものではありません。
辛辣に表現するのならば、1on1は「マネージャーのコミュニケーション能力の低さを補うツール」です。

実際に、1on1は有効でしょう。
しかし、常日頃から部下のことを気にかけ、その言動を見守り、業務の進捗を確認できているのならば、実は1on1はあまり必要がありません。
部下が成果を出したらその場で褒めれば良いですし、何かやらかしたのであれば即日フィードバックすれば良いだけです。
マネージャー自身の貴重な時間的リソースを奪うことも言うまでもありません。

これらを踏まえた上で、1on1というツールが自身にとって有効だと思うのであれば、やってみれば良いと思います。
1on1はあくまでもツールですので、使い方が適切ならば、適切に機能します。
(昭和なコミュニケーションと基本一緒で、使い方を誤れば害を生みますし、相手や環境を間違えなければ適切に機能するのです。)

1on1を実施する場合、どこか個室の会議室でやる、と決めずに、ランチでもいいし、おやつの時間にカフェでコーヒーすすりながらでもいいし、飲みの場でも良いでしょう。
自分自身と、相手にとってやりやすい場所と方法を変えるのが吉です。

まとめ

前回も書きましたが、ここまで書いてきたことは「高尚」なことで、実際に難しいことばかりです。
簡単にできるのならば、誰も悩みはしませんし、苦労はしません。
しかし、やりながら、失敗しながらトライ&エラーを繰り返していかなければ、スキルも経験も身に付きません。

ですので、大事なことは「全部を完璧にやる」ことではなく、「そうあろうと努める」ことです。

努力が必ず実るとは限りませんが、実った成果の背景には必ず努力があります。
身構えすぎず、自然体に、確かな日々を積み重ねていけば、開ける世界があるはずです。

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マネージャーとはどうあるべきか?~その意味と役割、やるべきこと~

ある日突然、部長に呼ばれたと思ったら「マネージャーを任せる」と伝えられました。
この時、あなたはどう考えますか?どうしていきますか?
マネージャー教育というものがほとんど行われないこの日本において、マネージャーについた方々に向けて、マネージャーとはどうあるべきか?について解説していきます。

前半後半にわけて書いていき、今回は前半「その意味と役割、やるべきこと」についてです。

忙しい人向けまとめ

  • マネージャーの役割はチーム全体で「成果を出すこと」
  • マネージャーというポジションは多くの情報が集約される「砂時計のくびれの部分」、情報伝達のキーパーソンと言える
  • 「部下に尽くす」と自己変革(自己洗脳)を行うのが重要
  • 着任後、短い時間でチームをグリップする、グリップに時間をかけるとチーム運営の難易度があがっていく

後半はこちら

マネージャーの役割

マネージャーというのは砂時計のくびれの部分のようなものです。
チーム運営上、方針を含む必要な情報が経営者や部長から伝達される(集約されてくる)ポジションであり(場合によっては自分で取りにいかなければならない、こっちの場合の方が多いかも)、そして、得た方針や情報をチームメンバー一人一人に、必要な部分に絞ってサイド伝達する必要があります。
そして、現場の情報を経営にあげる必要もあります。
つまり、マネージャーのところで、経営の情報と、現場の情報が交差する、情報伝達のキーパーソンとなるわけです。
「砂時計のくびれの部分」という例えのイメージが湧いてきませんか?

その「砂時計のくびれの部分」のポジションであるマネージャーの最大の役割、それはチーム全体で「成果をだす」ことです。
そして、「成果をだす」ために、チームを適切に運用しなければなりません。

そのため副次的な役割として、次の役割を担う形になります。

  • 業績のコントロール
    チームの方針の策定
    策定された方針の遂行状況のチェック
  • 砂時計のくびれの機能
    経営・部長への報告
    部下への方針と情報の伝達
  • チームの運用と部下の育成
    部下の状態の把握と健康・モチベーション維持
    部下の育成、パフォーマンスの引き出し・引き上げ
  • 社内外との調整
    他部署や外部との交渉・政治

ようは、チームとして成果を出していくために、具体的な実務からは卒業し、新しいステージで仕事に向き合う、ということです。

次項からは、マネージャーのポジションに着任したらすぐにやるべきことについて書いていきます。

マネージャーになったら即刻やるべきこと

意識の自己変革

まずは、自己洗脳してください。

マネージャーはチームメンバーのために尽くす、という意識を持つべきです。
マネージャーというポジションは、管理職としては最下層に位置するポジションですが、一般のメンバーにとってみれば、身近なだけで、あくまでも「上司」です。
高い地位についている人には、人々のために尽くす義務があります。
つまり、「ノブリス・オブリージュ」の精神です。

そして、一番距離が近い上司であるが故に、自然とメンバーにとっての「教師役」となる場合も多くなります。
あなた自身も、「あの人は自分にとっての人生の師だった」という人がいるかもしれません。
その時の「あの人」に、自分自身がなる可能性があるのです。
思い上がりでも構いませんので、自分の行動が部下たちの人生に影響を与えてしまう可能性もある、ということを意識し、部下たちの人生を良くするための、最大の支援者になるよう努めましょう。

また、常に有言実行であり、少なくとも自分が部下たちに言ったことは、自分自身が実行できなくてはなりません。
メンバーみんなにだけ求め、自分はやらない、となれば、信頼は当然に得られません。
スキル面においての不安があったとしても、必死に努力して、後から身に着けていけばよいです。
自分自身が体現していく、という意識をもって行動していきましょう。

これができるのであれば、必然的に次のステップ(部長への道)に進んでいくはずです。

チームのグリップ

次に、マネージャーというポジションとして何を成すのか?を決めていきます。

いわゆる「緊急ではないが重要なこと」について、何か最低1つは改革を起こす、と決めるのが良いでしょう。
そのためにチームメンバー全員との面談を実施していきます。

チームメンバー全員との面談によって、チーム全体の業務の流れと、一人一人の個性や考え方について大枠を掴みます。
業務の子細に入る箇所はメンバーに任せ、マネージャーは大枠を掴めばよい、という意識を持つのが肝要です。
(最近は、業務をやりながらマネジメントもするプレイングマネージャーがほとんどだが、それはマネージャーの本質ではない。)

メンバーたちの状況については、業務もそうですが、能力やモチベーション、体調、メンタルヘルス、家族の状況、そして将来やりたいこと・夢について、ばくっと把握します。
これらを知っていれば、コーチングやティーチングのやりやすさがあがる上、本人が不調のときに察知がしやすくなる、というメリットがあります。
プライベートな部分に入り込むので、無理に聞き出す必要はありませんが、聞けるのであれば聞いておいた方が、後々プラスになります。

なお、この際、(幸いにも)前任のマネージャーから引継を受けられた場合においても、あくまでも自分の耳で聞き、目で見て、判断するということが重要です。
これは、前任者が間違っている場合や抜け漏れがある場合もありますし、シンプルに前任者と自分は違う人間なので、やり方一つとってみても得手不得手がある場合も当然にある、ということです。

こうして、チーム全体の状況と、チームの方針と成すべきことを決めたら、部長に報告をします。
これは、なるべく早い方がよいでしょう。
この期間でこれだけのことをやる、とコミットし、期待値調整をしておけば、支援を得やすくなりますし、何かあった時の事故被害を軽減できる効果もあります。
社内政治の一種で、嫌う人もいるアクションではありますが、人間同士の付き合いなので怠けてはいけません。
この部長とのコミュニケーションは、定期的に行っていきましょう。
(なお、部長がダメだと思ったら、部長の上司、本部長なり執行役員とのコミュニケーションを密にしましょう。生殺与奪権をダメな部長一人に握らせておくのは危険です。)

そして、部長と握ったチームの方針と成すべきことを、チーム全体に共有したら、日々日々の進捗を追いかけていくフェーズに移行していくことになります。

最後に、チーム全体のことをグリップする上で重要なこととしては、早ければ早い方がよい、という点です。
人は慣れてしまったら、その慣れから逸脱する、つまりこれまでやってきたことを変えるのは心理的に拒否反応を示すものです。
これを変えるタイミングは、新任マネージャーの着任直後からわずかの期間だけです。
ここを逃すと、あとあとチーム運営のやり辛さがあがってしまうことは覚えておきましょう。

まとめ

これまで書いてきたことは「高尚」なことのように聞こえて、非常に難しいものであると受け止められてしまうかもしれません。
実際、難しいことです。

ですが、大事なことは、これをいきなり「全部完璧にやる」ことではありません。
「そうあろうと努める」ことこそが大事です。

マネージャーの頑張りは、部下たちに伝わります。
頑張っている人を応援したくなるのはあなただけではなく、部下たちもそうなはずです。

チームとはマネージャー一人の力によって作られるものではなく、自分自身も含めたチームメンバー全員で作っていくものです。
一人一人が、今は力足らずとも、成果と目標のために頑張り続けられるのであれば、自然とチームは出来上がっていくでしょう。

今回はここまでで、後半では「チームの運用と部下の育成」について書いていきます。

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マネジメント・リーダーシップ

経営危機のリーダー~非常時・緊急時のリーダーシップのあり方~

今回の新型ウイルスが引き起こしたパニックは、実際の科学的な脅威度を超えて、世界中で猛威を振るっています。
景気停滞による経済危機です。
すでに倒産の報をいくつもきくこの状況、リーダーはどのように振る舞うべきでしょうか?

リーダーシップとは

書店のビジネス書コーナーをのぞけば、必ず陳列されているテーマがあります。
それは「リーダーシップ」です。

リーダーシップ論は古代ギリシャの時代から語られている歴史の長いテーマです。
ビジネスの現場に限らず、人間が2人以上集まって何かをしようと思ったとき、自覚・無自覚関わらず、リーダーシップは避けて通れない話だからです。
また、時代やその時々の状況によっても捉え方やその姿が変わるものです。
孫子はリーダーシップを「智信仁勇厳をそなえること」、「戦争論」のクラウゼヴィッツは「知性と情熱を兼ねる高度な精神を持つこと」と、ドラッカーは「組織の使命を考え抜き、それを目に見える形で明確に確立すること」と定義づけました。
このように、歴史や人のうつろいと共に、言葉やあり方を変えながら様々に議論されてきました。

現代のリーダーシップ論では、具体的なビジネスの現場や環境変化に対応する「適材適所」という観点でのリーダーシップが研究されています。
ようは「時代や状況の変化への対応力」としてのリーダーシップです。

そしてその「状況の変化」の一つが非常時に会社が経営危機に陥った時のリーダーシップで、今回はこの「経営危機のリーダー」がテーマです。

コロナ関連の倒産が急増している、今は平時ではなく戦時である

TDBが公表している下記の資料の通り、すでに倒産の報を出している企業が多数でています(3月11日現在)。

2020年3月11日13時現在で判明している新型コロナウイルスの影響を受けた倒産(法的整理または事業停止)は、全国に8件あることが判明。法的整理が5件、事業停止が3件
エリア別に見ると「近畿」が3件で最多。「北海道」「東北」「北陸」「中部」「中国」がそれぞれ1件
どのケースももともと経営難、厳しい経営環境に置かれていた共通点があり、新型コロナウイルスが追い打ちをかけ法的整理・事業停止に踏み切っている。今後は、エリア拡大や新型コロナウイルスが主要因となる倒産、連鎖倒産の発生が懸念される

TDBリリースより

これは、一部であると思われ実際はもっと多く、そして参照記事にもある通り、これからも発生していくものと思われます。
すぐには倒産とまではいかなくとも、すでに実態として経営に影響が出ている企業も多いでしょう。
私が関与する企業においても、影響がではじめており、事業計画の修正対応を検討しています。

つまり、今現在は平時ではなく戦時、非常時であり緊急時です。
リーダーシップのあり方も、これに対応して変化をつけなければいけません。

経営危機のリーダー

特に日本においてそうなのですが、組織のトップは、大勢の意思を尊重し、異なる意見を調整するやくわり、いわゆる「調整型」のリーダーが多いという印象をうけます。
もしくは、とくに公的機関で多いお飾りとしてのトップであったり、伸びない中小企業における極端なワンマン。
こういったリーダーでも通常時、平時には問題が起きません(より正確にいうと問題が顕在化しません)。

しかしながら戦時、非常時はそうはいきません。
リアルに経営危機に陥っているか、陥るリスクがある状況では、判断を誤ればすぐに倒産してしまうからです。
経営危機の状況では、多少の摩擦も恐れず、思い切った決断と行動ができるリーダーが必要です。
自分自身の保身や既得権益の保護のためではない、危機を乗り切るための、会社にとっての「安全第一」を真にやり切れるリーダーが必要なのです。

そのようなリーダーがもつべき指針は次の5つであると考えます。

  • ミッション,ビジョンをぶらさない
  • メンバーを安心させ鼓舞する
  • 危機の最前線に立つ
  • 限られたチャンスに喰らいつく
  • 未来に向けてやれることをやる

¶ ミッション,ビジョンをぶらさない

会社は、創業者と創業メンバーが「世の中に変革を起こしたい」からこそ創業したもので、つまりミッション・ビジョンが存在します。
どのような危機にあたってもこのミッション・ビジョンはぶらしてはいけません。

「生存のため」だけに、経営の舵を切った結果として、これまで事業を支えてくれた顧客・取引先が離れてしまっては、後に何が残るでしょうか?
ミッション・ビジョンに共感をしてジョインしてくれたメンバーたちが去ってしまっては、どのようにミッション・ビジョンを達成していくのでしょうか?

ミッション・ビジョンは、会社経営における中心軸であり、同時に絶対軸です。
そもそもとして、ここをぶらしてしまっては、会社自体が存続する意義が無い、つまり危機を乗り越える必要性が無い、と考えましょう。

¶ メンバーを安心させ鼓舞する

ヤバイ、大変だ、危機だ、倒産する、そう喚くのは簡単なことです。
ただ、それではメンバーたちは不安に思わせるだけです。
リーダーはメンバーを安心させ、鼓舞するものです。

この時に必要なことは、

  • 何が起きているのかという客観的な事実の説明
  • これからどうしていくのかという明確な方針の説明
  • そしてみんなの力が必要だという真摯な助力の要請

この3つです。
何が起きているかを知れれば、メンバーは自分達で何ができるかを考えるでしょう。
会社の方針を明確に知れれば、メンバーは自分達でできることやるべきことを実行に移せるでしょう。
リーダーから誠実に助けを求められれば、一人一人が協力しあい、組織のために尽くせるでしょう。

「自分についてこい」というマッチョイムズも時には有効ですが、それ以上に、果敢にかつ誠実に、真摯に物事に向き合う姿勢が重要です。

¶ 危機の最前線に立つ

口だけ達者な、表面的に誠実なだけの人を、誰が信じるでしょうか?
経営の危機にあっては、リーダー自らが最前線に立ち、共に戦う同士であると、そうメンバーに思わせることが必要です。

人がリーダーに従う要件として、2つのことがあります。
それは、正当性と信頼感です。
この内、正当性は多くの場合与えられるものですが、信頼感は自ら勝ち得るものです。
そして危機時においては行動によってしか示せません。

ある食品メーカー、誰しもが知っているインスタント焼きそばの会社において、異物混入騒動がおきました。
初期対応のまずさもあって、商品回収、販売自粛、工場停止が何か月にも渡り続きました。
その際、社長は自らが現場に立ち、商品を回収し、取引先と顧客に謝り、メンバーたちと共に戦い続けました。
この結果として、騒動以前より信頼を得て、業績も大幅に回復する状況になりました。
これはほんの一例ですが、危機時におけるリーダーがとるべき行動の参考になるはずです。

¶ 限られたチャンスに喰らいつく

危機時は、顧客も、取引先も、メンバーたちも離れていってしまうものです。
今までできていたことができなくなり、リソースも減っていく。
絶望的な状況、とそう見えるはずです。

しかし、それだけではなく、光明がどこかにあるはずです。
経済社会において、いままで流れていたお金がとまった場合、必ずどこか別の場所に流れているか、単純に滞留しているだけのはずです。
視点を変えて、柔軟に取り組みを変える必要があります。

例えば、今回の騒動ですと、人々は外出を控え、自宅やオフィスの中での生活の比率が増えました。
そうなると、確かに今までオフラインでお店に来ていてくれた顧客は来てくれなくなります。
しかし、飲食店ならば宅配ができるはずです。
アパレルならばECの強化ができるはずです。
元々Webサービスを提供していた会社ならば急拡大のチャンスです。

社会全体を見れば、へこんだ所もあるならば、必ず伸びている所もあるはずで、そのようなチャンスがある場所を鋭敏に嗅ぎ分けるのもリーダーにとって必要なことでしょう。

¶ 未来に向けてやれることをやる

上述「限られたチャンスに喰らいつく」ともかぶりますが、危機時にはできることが限られるのが通常です。
今まで取り組めていたはずのことが、予算カットによりできなくなってしまうのです。
しかし、本当に何もできないのでしょうか?
そんなことは無いはずで、今までできていたことができなくなった分、逆にできていなかったことができるようになる可能性があります。

マーケティング部門を例に考えてみます。
マーケティング部門は予算があってなんぼの部門です。
現代社会における主流な手法であるWebマーケティング、これにはまあまあ多額な予算が必要です。
これがカットされては、地道なPR的な手法に限定されていて、そしてこれは大体のマーケッターは苦手としているものです。

では、何ができるでしょうか?
それは「過去のノウハウの再整理」です。
PDCAサイクル、というものがビジネスの現場ではよく使われますが、日々の忙しさを背景に、現実的にはPDPDサイクルになっている場合が多いでしょう。
活動が制限されるという状況は、この観点で見るとチャンスです。
今までのマーケティング活動の総整理を行い、これまでできていなかった分析に一気に取り組むのです。
そして、危機を乗り切った後のマーケティング活動に活かすのです。

このように、一度「しゃがむ」ことによって、次の「ジャンプ」への力を溜めるのです。
これは、今までできていたことができなくなったからこそ生まれた、新しい今できることです。
あくまでも未来を見据えて、今できることに取り組んで行きましょう。

まとめ

これまでのことを一言でまとめると「未来に向かって今できることを全力でやる」になります。
これが経営危機におけるリーダーシップです。

なお、本文では主に「経営者」やそれに準ずる幹部に向かって書いてきましたが、リーダーとは必ずしも「社長」や「部課長」しかなれないものではありません。
なぜならば、「役職は人から与えられるもの」ですが、「リーダーは自らなるもの」だからです。
つまり、一人一人が、誰しもがリーダーになれるのです。
(もっと言うと、人生においては「自分自身」こそが「経営者」であり「リーダー」であり、「主人公」のはず。)

状況に悲観せず冷静に捉え、行動は楽観的に果敢に。
一人一人がリーダーである組織が作れれば、必ず経営危機は乗り越えられるはずです。
そして、一人一人がリーダーである組織になるためには、やはり「経営者」自身が真のリーダーになる必要があります。

これまでも、今日も、そして明日からも、ミッション・ビジョンの達成のために、未来に向かってチャレンジしていきましょう。

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