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人は褒められるとパフォーマンスが向上し問題解決能力があがるという話

世の中には、褒めると調子にのってつけあがるからパフォーマンスが落ちる。だから褒めない。
という人が意外にいるのですが、これは間違いです。
その理由は、褒められるのが嫌いな人は基本的にはいないこと、人は褒められるとパフォーマンスが向上し問題解決能力があがるからです。

「褒め」とパフォーマンスの関係の研究

ハーバード・ビジネス・スクールは、「褒め」とパフォーマンスの関係の研究を行いました。

https://www.thecut.com/2015/09/please-tell-me-about-a-time-i-was-awesome.html

実験では、75人の被験者を対象に、問題解決能力を測るテストが行われました。

半分の被験者については、友人や家族、同僚に、被験者を褒める内容や場面について書いてもらいました。
そして、テストを行う直前に、そのテキストが提示されました。

残り半分の被験者については、特になにもせずに、そのままテストを行ってもらいました。

なお、行うテストは、「ドゥンカーのロウソク問題」と言われる、古典的な問題解決能力を測るための認知能力テストです。

ドゥンカーのロウソク問題:このテストでは、被験者に1つの問題が与えられる。それは、コルクボードの壁にロウソクを固定し、点火するというものである。ただし、溶けたロウが下のテーブルに滴り落ちないようにする必要がある。この問題を解決するにあたり、被験者はロウソク以外に、1束のマッチ、1箱の画鋲だけを使うことが許される。

ロウソク問題の解答:箱から画鋲を取り出して画鋲で箱をコルクボードに固定し、ロウソクを箱の中に立ててマッチで火をつけるというのが答えである。機能的固着のコンセプトが予測するところによると、被験者は箱について画鋲を入れるための道具としてのみ見て、そこに問題解決に有効活用できる別個の機能要素があるとはすぐには気付くことができない。

Wikipedia「ロウソク問題」より

人は褒められるとパフォーマンスが向上する

テストの時間制限は3分で、実験の結果、時間内に問題を解けたのは「褒められた」グループでは約51%、対照群である「褒められていない」グループでは約19%にとどまる形となりました。

つまり、人は褒められるとパフォーマンスが向上するのです。

この傾向は他の実験でも示されており、「良い状態の自分」を想起できたグループは、忍耐力が向上したり、スピーチを問題なくこなすなど冷静さを保つ能力が向上することがわかっています。

人は褒めた方が良い

これらのことから、基本的には人は褒めた方が良い、ということがわかります。

褒められることが嫌いな人は、多くの場合いないことも容易に想像できるでしょう。
実際、(それがどこまで健全かはともかく)人間関係を長く続けるためには、否定的コミュニケーションより、肯定的なコミュニケーションを重視した方が良い、とされています。

また、人は自分にとって都合の悪い、耳に痛いフィードバックについては正確性に欠ける、信頼できないものと判断する傾向があるという研究もあります。
つまり、成功の要因は個人に起因するものであり、失敗の要因は外的なものであると、以前よりも強固に感じるようになってしまう傾向があるのです。

ビジネスでも育児でも。

もちろん、褒めるだけではダメなシチュエーションもあるでしょうが、褒めることを重視してみると、非常に良い結果が返ってくるでしょう。

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テキスト・コミュニケーションは嘘をつくのに抵抗を感じにくいという話

デジタル・コミュニケーションが当たり前になり、テキスト、音声、動画といった方法による対話が頻繁に行われています。
ITリテラシーが特に高い層を中心に、効率的であるとしてテキストが最も好まれる傾向がありますが、これが必ずしも最適であるとは限りません。
人はテキストだと噓をつくのに抵抗を感じにくいからです。

模擬取引を通じた嘘のコミュニケーションの実験

ブリティッシュ・コロンビア大学が行った研究において、人は対面やWeb会議といったコミュニケーション方法よりも、テキスト・コミュニケーションにおいて嘘をつく傾向が強いことが示されています。

https://mashable.com/archive/people-more-likely-to-lie-through-texts-study

研究は、170人の学生を対象に、株式市場における「買い手」と「売り手」に分かれたロールプレイを通じて行われました。

学生たちは2人1組となり、テキスト、音声、動画、対面の4つのコミュニケーション方法のいずれかを用いて、模擬的な株式売買を行うこととなりました。

ロールプレイへの取り組みの真剣度を高めるため、学生たちには最大50ドルまでの賞金が約束されています。
売り手は、より多くの株式を販売することにより報酬を得て、買い手は株価の変動に合わせて報酬が変化します。

なお、この実験では、株価が半分に下落するように仕組まれており、このことは売り手のみに伝えられるという設計となっていました。

人はテキスト・コミュニケーションだと嘘をつきやすい

この実験の結果、人は、音声、動画、対話といった方法に比較して、テキストでのコミュニケーションにおいて、嘘をつくのに抵抗を感じにくい、ということが示されました。

テキストにより買い手に情報を提供した売り手は、動画(ビデオ会議)でのやりとりに比べて約95%、対面でのやり取りに比べて約31%、嘘をつく確率が高かったのです。

興味深いのは動画(ビデオ会議)でのやり取りでは嘘をつく傾向が、対面より低かった点です。

研究者は、動画においては、買い手が「自分自身が注目し、言動の精査をされている」と感じるため、正直になる傾向があるのでは、としています。

商談においてはWeb会議利用が望ましいか

この研究は、株式投資といった分野に限らず、一般のビジネスにおいても有用です。

効率的だから、という理由で、重要な商談をテキストで行えば、相手が何かしら嘘をつく、もしくは真実を話さない可能性が考えられるからです。

これはよくよく考えれば当然と言えるかもしれません。

リアルタイム・コミュニケーションで、しかも表情が見える状況ですと、冷静に自分にとって有利な情報のみを伝達することは難易度が高くなるのは容易に想像がつきます。

テキスト・コミュニケーションですと、ゆっくりと思案して、相手に表情が見えない状況で、しかるべき情報のみを相手に伝達することが可能です。

上述の結果を踏まえれば、重要なやり取りについてはWeb会議を用いてコミュニケーションを取るのが総合的に見て、最も効率的であると考えられます。

マネジメントにおいても有用

また、実験では、嘘をつかれたことにたいして、どれだけ怒りを感じたのか?についても調査がされています。

その結果、テキスト・コミュニケーションで嘘をつかれた場合、面と向かって嘘をつかれた場合に比べて、怒りを感じた、と答える割合が約20%も高かったことが示されました。

このことは、従業員に何か不都合な事実を伝達する場合、テキストでごまかすのではなく、きちんと対面で伝達した方が、マネジメントにプラスになることを示唆しています。

どれだけ技術が発達しても人の基本的性質に変化はありません。

相手も人である、向こう側に人がいる、ということを認識してコミュニケーションを取るのが吉と言えるでしょう。

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仕事が忙しくてストレス過多だと性格が悪くなる

三つ子の魂百まで、と言われるように人の性格は一般的には変わらないと言われていますが、それは誤解です。
例えば、仕事が忙しくてストレス過多の状況が続くと、神経症傾向が増加し、外向性と誠実性が減少することがわかっています。
有体に言えば、性格が悪くなるのです。

仕事が忙しくてストレス過多な状況が続くと性格が悪くなる

次に紹介する論文では、仕事の状況と性格の変化について記されています。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0001879115300191

研究では、オーストラリアの1,814人の家計・所得・労働動態調査を元に、仕事上の忙しさやストレス、ジョブコントロールの状況が性格がどのように変化していくのか?のモデルが探られました。
性格はビッグ5性格診断により測定されました。

その結果、まず第一に、仕事の忙しさとジョブコントロールが、仕事のストレスに正または負の影響を与えることがわかりました。
また、仕事の忙しさはストレスを増大させること、そして長期的には神経症傾向の増加と外向性と誠実性(良心)の減少を誘発することがわかりました。

一方、ジョブコントロールの増加は、協調性、誠実性(良心)、寛容さを増加させること、そして神経症傾向や外向性には影響しないことがわかりました。

つまり、三つ子の魂百まで、という言葉は誤りであり、職場の環境により人の性格は容易に変わり得る、ということです。

忙しさは成功に必要な性格である「外向性」に悪影響を与える

上述の研究は個人や組織の成功に関係している可能性があります。

例えば、次の記事では、出世にプラスの影響がある性格として「外向性」が唯一のものであること、そして、内向的な性格の人が無理に外向的に振舞うとネガティブな感情を抱き、疲労しやすいこと、を解説しています。

仕事が忙しくてストレス過多な状況が続くと外向性を減少させてしまう、ということは成功のために忙しく動いていると、成功につながる性格要素に影響を与える、というパラドックスがうまれる可能性があるのです。

また、誠実性の減少は成功に必要な性格の一要素であり、それが失われることにより悪影響が出るものです。

怒りっぽくなると過去の失敗から物事を学ばなくなる傾向についても知られており、反省し成長するためのアクションが減少してしまう可能性も考えられます。

ジョブコントロールが低い組織は成功に必要な要素に悪影響を与える

組織の成功についてはどうでしょう。

こちらの記事では、組織の成功のためにはチームの平均的な社会的感受性が高いこと、チームとして感情知能(EQ)が高いこと、が重要であることを解説しています。

忙しさは外向性や誠実性を減少させるため、チームとしての社会的感受性や感情知能に悪影響を与えることが一定推測できます。

また、ジョブコントロールも低いのならば、協調性、誠実性、寛容さ、という性格の増加が妨げられるため、同様にチームとしての社会的感受性や感情知能に悪影響を与えることが一定推測できます。


これらのことは組織設計を考える上で、非常に重要なことであると推測されます。

現代人が忙しくてストレス過多なのは、一定程度仕方がないにしても、組織設計・文化形成における努力と工夫で緩和することが必要でしょう。
成功のために忙しくなる結果として、成功に必要な性格要素が失われるリスクがあるのですから。

最低限、ジョブコントロールを従業員に渡すよう努めることには取り組んだ方が良いでしょう。

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部下に自分事で考えて動いてもらうためにはどうしたら良いのか?

統制の所在(locus of control:ローカス・オブ・コントロール)の考え方を元にした研究では、部下の職務上の自律性を高めれば、時間の経過とともに統制の所在が内的になる、つまりは自分事で考えて動いていく形にパーソナリティが変化していく、としています。

ここでは、部下に自分事で考えて動いてもらいたい、と考えるマネージャーや経営者へのヒントを提示します。

統制の所在の考え方

まずはじめに統制の所在についてです。

統制の所在(とうせいのしょざい、英: locus of control)またはローカス・オブ・コントロール(LOC)は、行動や評価の原因を自己や他人のどこに求めるかという教育心理学の概念。
統制の所在が内側 – 良くも悪くも自分のせいと考える。テストで良い/悪い点を取ると、自身の努力や能力を褒める/責める。
統制の所在が外側 – 良くも悪くも環境のせいと考える。テストで良い/悪い点を取ると、テスト内容や教師の質を褒める/責める。

Wikipedia「統制の所在」より

統制の所在が内的の人は、何かしらの課題を達成した後、目標のハードルを上げやすく、逆に失敗した場合には目標を下げる、という傾向があります。
他にも、次のような傾向があるとのことです。

  • ~したい、~することを選ぶ、是非とも~したい、という用語を使う
  • 他の人に影響を与えようとする
  • 誰が言ったか?ではなく、何を言ったか?に着目する
  • 失敗や失望に対して、自分自身を抑圧する
  • 自分がコントロールできることに時間とエネルギーを集中し、また出来事を定義し物事を実現していく

統制の所在が外的な人は、逆に、何かしらの課題を達成した後、目標のハードルを下げやすく、失敗した場合には目標をあげる、という傾向があります。
他の傾向は次のようなものです。

  • できない、~しなければならない、~するべきだ、という用語を使う
  • 周囲の人々に影響を受けやすい
  • 何を言ったか?ではなく、誰が言ったか?(ステータス、地位、肩書等)に着目する
  • 失敗に対して、不安や罪悪感を感じにくい
  • 日々の出来事に反応する、人に頼りがち

統制の所在が内的だと「自分事で考えて動ける」

この統制の所在自体には良し悪しは無いはずではあるのですが、一般的には統制の所在が内的の方がメリットが多いと言われています。

例えば、母親の統制の所在が内的の子どもは、学力が高くなる傾向があるとされています。

子どものためにより良い食事を与えたり、物語を聞かせたりするため、子どもも勉強に関心を持ちやすい、ということです。
逆に統制の所在が外的な人の子どもは、自分の子どもの成績が悪いのは遺伝の影響や、学校の問題だ、と言う風に考える傾向があります。

そして、統制の所在が内的だと「自分事で考えて動ける」ため、成功者に多い気質だとされています。

部下に権限を与えて自由に仕事をしてもらえば、自分事で考えて動けるようになっていく

部下に仕事上の自律性を与えると統制の所在が内的になる

それでは本題ですが、次に紹介する論文は、部下に仕事上の自律性を与えると統制の所在が内的になる、つまりは自分事で考えて動けるようになることを示唆しています。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0001879115000585

研究では、約3千人の被験者を対象に、4年間に渡る追跡調査が行われました。
調査では、仕事上の自律性やスキル活用が、従業員満足度や統制の所在にどのように影響を与えるのかが分析されました。

分析の結果、仕事上の自律性が、統制の所在を内的にすることに影響していることが示されました。
スキルの活用度合については、従業員満足度を高めることには繋がれど、統制の所在に影響を与えることはありませんでした。
また、従業員満足度が統制の所在に影響を与えることも確認できていません。

部下に権限を与えるのが重要、ということ

つまり、部下に権限を与えて自由に仕事をしてもらえば、自分事で考えて動けるようになっていく、ということです。

ジョブとスキルがマッチした環境とか、従業員満足度が高い環境とか、そういうものは部下が自分事で考えて動くかどうかには、関係がない、ということでもあります。
(日本だと、ここにフォーカスした施策の方が多い感じですね。)

非常に当たり前で、一般的にそうだよね、と思われるであろうことです。

しかし、多くの職場で、「自分事で考えろ!」「もっと自律的に動け!」と言うものの、適切な権限を与えない、自分で考えて行動したら「勝手なことをするな!」と叱られる、というようなことが行われているのではないでしょうか?

部下が自分事で考えない、尻が重くて中々動かない、とするのであれば、その責任は部下ではなく上司や経営者にあります。
そして、そのように捉えることこそ、統制の所在が内的であると言えます。

部下に「統制の所在が内的であって欲しい」と思うのであれば、それを実行するのは上司・経営者からです。

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マネジメントについてまとめ

マネジメント関連の記事についてのまとめになります。

組織の人数

マネジメントの心構え

従業員満足度を高めるためには?

目標管理等々

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成功するチームに必要なことは?~優秀さではなく規範が重要~

経営者やチームのマネージャーにとって、優れた成功できるチームを作ることは非常に関心が高いことのはずです。
それでは、成功するチームに必要なこととして、どのような要因があげられるでしょうか?
Googleが180ものチームを分析して出した結論は「行動規範」でした。

Googleが成功するチームには「行動規範」であることを発見

Googleは社内の180のチームを分析し、「チームを成功させる(あるいは成功させない)ものは何か?」について調査を行いました。

「社内の180のチームを調査しました。たくさんのデータがありましたが、特定の性格タイプやスキル、経歴の組み合わせによって違いがでることを示すものはありませんでした。“誰が”という部分が重要ではないように思えたのです。」

調査では、一般的に考えられるであろう成功要因の仮説、例えばエンジニアと非エンジニアの比率や、シニアとジュニアの比率など、そのような変数が成功要因と関連していないことを見出しました。

そして、最終的にチームの構成より、チームの「行動規範」の方が重要な決定要因であることを示しました。
行動規範とは、チームがどのように行動し、機能するかについての合意のことです(明文化されている必要はない)。

さらに、ある課題でうまく機能したチームは、別の他の課題でも機能することが多いことが示されました。
(また、その逆もしかり。)

正しい行動規範はチームの集合知を高め、間違った行動規範は例えチームが優秀なメンバーで構成されていたとしても、お互いに足を引っ張り合う可能性がある、ということのようです。

成功する「行動規範」は?

成功する「行動規範」として2つのものがあげられています。

1つ目が「会話のターンテイキング分布の均等性」です。
つまり、良いチームは、メンバーがほぼ同じ割合で発言している、とのこと。

2つ目が「チームの平均的な社会的感受性が高いこと」です。

2つ目の点については、別の記事で高いパフォーマンスを発揮する要素として、どのようなものがあるか?を書きましたが、そこでも指摘がされています。

Googleの調査は学術的なものではありませんが、別の学術的な研究で、「優れたチームは集団的知性が高いという特徴」があること、そして「IQが高い人が入っているチームが、必ずしも集団的知性も高いというわけではない」ということが示されています。

そして、その集団的知性が高いチームの重要な要素として「感情知能が高い人がいること」があるとされています。
あわせて、そのようなチームは「ある種の課題をうまく遂行できるチームは、別の課題についても同じようにうまく遂行できる傾向」があることも示されており、Googleが行った調査の確からしさがわかります。

(感情知能とは、自分の感情を適切に把握しコントロールできたり、人の気持ちについても精度高く察することができる能力のこと。)


つまり結論として、チームの(マネージャーを含む)メンバー同士がお互いにどう接しているか?にかかっている、と言えます。
賢く優れた人物であろう、とする姿勢は非常に重要ですが、それ以上に共に働く仲間たちを尊重し敬意をもって思いやれるか。
ある種、人間同士の関係性として当たり前の結論ではあるのですが、この点については改めて全ての働く人たちが認識すると良いでしょう。

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何故、上司は部下の心がわからないのか?~権力と共感性の関係~

上司に対して「何故、自分たちの気持ちをわかってくれないのだろう?」と思うことがあるかもしれません。
逆に、部下に対して「何を考えているのかわからない。」と思う上司もいることでしょう。
何故、上司という生き物は部下の心がわからなくなりがちなのでしょうか?

こちらの記事では、高い地位につくと「注意の焦点化」という現象が起き、本来正しく認識し判断するための情報をインプットできなくなる状況について解説しました。
(注意の焦点化とは、ある目標に意識がフォーカスされるあまり、他の情報に意識がいかなくなってしまう現象のこと。)
加えて、権力を持つことが支配感を抱かせてしまい、認知が歪んでしまうことについても併せて解説しました。

ここでは、権力を持つことが共感性にどのような影響を与えるかについて見ていきます。

権力を持つと共感性が低下する

こちらの心理学の論文では、権力を持つと共感性が低下する、ということが示されています。

部下の数や権力の強さについてパラメータを設定し実験を行った所、部下の数が多ければ多いほど、道徳観が低下することが示されました。
また、保持する権力が強ければ強いほど、利己的行動に出やすくなることも示されました。

つまり、権力が人の認知を歪ませ、心と行動に影響を与える、ということです。

また、こちらの論文では、脳生理学的に共感性の低下が起きていることを示しています。

https://psycnet.apa.org/record/2013-23517-001

人の脳は、他人が何かしらの行動を行っているのを見ている時、自分自身がその行動を取っているのと同じ部位が活性化する現象が起きます。
これは、共感性と関連する脳作用とされています。

この現象を利用して、権力の有無と上述の“脳の鏡”との関係を調べた所、権力が強ければ強いほど、脳が活性化しない、つまり共感性が低下しているのではないか、ということが示されました。

つまり、強い権力を持つと共感性が低下し、それにより道徳観の低下も引き起こし、利己的行動に出やすくなる可能性がある、ということです。

これらの現象が「上司は部下の心がわからない」という状況を引き起こしている一因ではないか?と推測されます。

上司の基本的な道徳観にもよる

どのような上司だと部下の従業員満足度があがるのか?という点について解説した記事では、「部下の仕事もできる上司」が良い、としました。

この理由は、部下の仕事がわかるということは、部下の話を上司が理解できるが故に、部下にしてみれば「この上司は話がわかる」「自分のことを理解してくれる」と感じることが要因としてあります。
つまり、共感性がポイントということです。

この点を踏まえると、上述の権力により引き起こされる共感性の低下は問題です。

それでは、どのように対処すれば良いのでしょうか?

こちらの論文では、基本的な道徳観が左右する、ということが示されています。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22250668/

どのような内容か?というと、弱いモラル・アイデンティティを持っている人が権力を握ると、利己的行動が大きくなる一方、強いモラル・アイデンティティを持っている人が権力を握った場合には逆に、自己利益行動の低下が起きる、というものです。

つまり、繰り返しになりますが、権力が及ぼす心理的影響は、本人の基本的な道徳観による、ということです。

この知見を踏まえると、「権力を持つと共感性の低下、道徳観の低下、利己的行動の増幅という心理的影響が起きる」という基本的なことを認識した上で、自分自身を強く律しようという意識を持つことが重要と考えられます。
権力に溺れず良き上司であろうとするならば、それは強いモラル・アイデンティティとなり、権力が与える心理的影響から脱することができるはずです。

改めて自分の心と向き合うことに取り組んでみるのは良いかもしれません。

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何故、上司は無茶ぶりをするのか?~“権力”がもたらすバイアス~

上司という生き物は、何かしら無茶ぶりをする生き物です。
部下を適切にストレッチすることは必要なことではあるので、無茶ぶり自体が悪いことではありませんが、過度になると多くの悪影響を及ぼします。
何故、上司は無茶ぶりをするのでしょうか?

どうやら“権力”が2つのバイアスを与えているようです。

“権力”を持つと必要な時間を過小評価しがち

ダラム大学とUCLの研究者は、“権力”がもたらす時間に対する認識について研究を行いました。

https://www.researchgate.net/publication/228905402_How_long_will_it_take_Power_biases_time_predictions

ある目標の達成に注意が集中し過ぎると、タスクを遂行するのに必要な情報を無視する傾向があります。
(これを注意の焦点化、と言います。)

この研究では、権力(より正確には責任と権限、という方が良いか)を持つと、注意の焦点化が起きやすくなり、タスクを遂行するために必要な時間を過小評価するであろう、という仮説を確かめるために複数の研究を行いました。

その結果、権力は一貫して、より楽観的で、より正確でない時間予測をもたらすことが示されました。

またこの結果は、楽観性や自己効力感、気分の違い等は影響せず、あくませも注意の焦点化が基礎的なメカニズムとして存在していることが支持されました。

“権力”を持つとそもそも時間に対する認識が歪みがち

もう一つの研究はカリフォルニア大学で行われたものです。

この研究では、権力がある立場にいることで、時間に対する認識がどのように歪められるのかが調べられました。

被験者は上司役、部下役に割り当てられます。
上司役の被験者は、部下役に対して脳トレ問題を選択して与え、また報酬として与えるお菓子の分配方法についても決定を行いました。
また、アンケートにて、時間的余裕についての認識の測定がされました。

この結果、権力を持つことにより、使える時間を多く認識する傾向が強くなることが示されました。

このメカニズムは、人生のさまざまな側面をコントロールしている、という気持ちが時間感覚にも及ぶからだ、と推測されています。
(ある別の研究によると、運勢がダイスの出目に左右される、というゲームにおいても権力を持っている人は他の人にダイスをふらせず、自分自身でダイスをふることを好む傾向が示されています。)


上述の研究をまとめると、「必要な時間を過小評価しがち」そして「使える時間を過大に認識しがち」という2つのバイアスが、上司による無茶ぶり、を発生させていると言えます。

この結論は、単純に業務領域に精通している上司であれば無茶ぶりを防げるということにはつながらない可能性を示唆しています。
何故ならば、仮に必要な時間を正確に見積もれたとしても、使える時間がバイアスにより過大に歪められているのならば、無茶ぶりは起きてしまうからです。

良き上司であろうとするならば、これら2つのバイアスについて自覚し、タスクに対する時間感覚、リソースに対する時間感覚について正常化させようとする努力が必要と言えるでしょう。

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上司は部下と仲良くなった方が良い

何というか当たり前の話なのですが、今回は「上司は部下と仲良くなった方が良い」という話です。
多くの部下を持っている上司にとって、部下との関係構築は重要な課題でしょう。
「部下と友達になるな」と言う方もおり、一理あるのですが、とりあえず統計的な事実を提示します。

上司と部下との交流とパフォーマンスの関係

複数大学の研究チームは、上司と部下との交流(関係性)とパフォーマンスの関連性について、メタ分析を実施しました。
上司と部下との交流(関係性)についてはLMXという略語で表現されています。
下記リンクのPDFダウンロードから論文がダウンロードできる。)

https://www.researchgate.net/publication/267764955_Leader-member_Exchange_LMX_and_Performance_A_Meta-Analytic_Review

メタ分析なので、複数の論文を横断的に分析を行っているものなのですが、結論を端的に言うと、LMXとタスク・パフォーマンスには正の相関性がある、ということが示されました。
また、LMXが良好な場合、部下は仲間を助けたりする傾向が強いことも示されました(シチズンシップ・パフォーマンス)。

LMXとパフォーマンスとの関連性については、信頼度、モチベーション、エンパワーメント、従業員満足度が媒介するのですが、リーダーへの信頼が最も大きく影響していることが示されたのです。

(なお、タスク・パフォーマンスが高いからと言ってLMXが良好とは限らない、ということで逆方向の関係は無かった、とのことです。)

「上司は部下と仲良くなった方が良い」は正しい

つまり、「上司は部下と仲良くなった方が良い」は統計的に正しい、ということです。

上司に求められるコンピテンシーは様々にありますが、一つ、部下と良好な関係を構築する、ということを目標とするのは効率が良いと言えるでしょう。
(もちろん、部下の顔色を窺うような関係性は望ましくないですが。)

参考記事

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うつ病の原因は仕事量ではなく上司にある!

長時間労働や捌ききれない仕事量がうつ病の原因である、とよく言われていますが、果たしてこれは本当でしょうか?
心理学的な研究では、どうやらうつ病の原因は仕事量ではなく、上司の存在次第だ、ということが示されています。
経験的にわかっている人もいるかもしれません。
「仕事が嫌なんじゃない。人が嫌だから辞めるんだ。」

上司の存在とうつ病の関係

長時間労働や捌ききれない仕事量がうつ病の原因である、とよく言われていますが、こちらで示されている研究によると、どうやらうつ病の原因は仕事量ではなく、上司の存在次第だ、ということのようです。

デンマークの公務員4千人以上を対象とした2年間に渡る追跡調査の結果、驚くべきことがわかりました。
(複数の研究が行われ、うつ病と職場環境の調査では4,237名が、コルチゾールとの関係を調べた調査では4,467名が最初に参加した)
(調査では、従業員が職場で感じる不公平感についてアンケート調査が行われると共に、ストレスホルモンであるコルチゾールの濃度が調べられた。)

研究では、仕事量の多さは従業員がうつ病になるかどうかには影響しない、と結論付けられています。

山積みになっている仕事の原因ではなく、従業員のメンタルに最も悪影響を与えているのは、職場環境や管理監督者から不当な扱いを受けていると感じること、にあるとしています。
つまり、不公平な上司の存在が原因だ、ということです。

仕事量を減らすだけではメンタル改善は難しい

この事実はあることを示唆しています。

それは、仕事量を減らすだけではメンタル改善は難しい、ということです。

ここ近年は働き方改革の名の下に労働時間の削減が進んでいますが、うつ病、メンタル改善、という観点では効果が無いことがわかります。

うつ病の予防に重要なのは、従業員自身による職場環境に対する評価/フィードバックや、職場環境を変更できるか、という点にあると考えられます。

組織は、従業員に対して「適切かつ公平に扱う」というメッセージ発信が必要でしょうし、実態を伴った「透明性のある組織構造とマネジメントスタイル」を構築していくことも必要でしょう。

その意味で、変われる所は既に変わっているでしょうし、現状、そうでない企業に変化を求めることは難しいと言えるかもしれません。

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