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マネジメント・リーダーシップ

組織の性格はトップの性格によって決まる

組織というものはトップ次第で大きく変わる、ということは感覚的によく知られています。
トップの影響力について、重々承知している人は承知しているでしょうし、いやまさかそんな、と思う人もいるかもしれません。
トップの性格(CEOのパーソナリティ特性)が如何に組織の性格(文化的価値観)に影響しているか?
今回は、この点を示していきます。

CEOのパーソナリティ特性と文化的価値観との関連

https://link.springer.com/article/10.1007/s10869-009-9109-1
https://www.researchgate.net/publication/225810720_Leadership_and_Organizational_Culture_Linking_CEO_Characteristics_to_Cultural_Values/link/0deec5224efa832956000000/download

複数大学の研究チームは、リーダーシップと、そのリーダーが率いる組織で生まれる文化的価値観との関連性について、実証的な調査を行いました。

つまり、CEOのパーソナリティ特性と、その組織のメンバーの間で共有される文化的価値観との関係についての調査となります。

調査の方法としては、32人のCEOを対象に、Big-five方式によるパーソナリティ特性および個人的な価値観測定を行った後、その32の組織の従業員467名に対しても組織文化に関連する価値観についての測定が行われました。

その結果、CEOのパーソナリティ特性と組織の中に共有されている文化的価値観が関連していることが統計的に示されました。

トップは自分の影響力を自覚した方が良いし、株主もトップの影響力を知った方が良い

この結果は、望ましい組織文化を作っていくためには、CEOのパーソナリティ特性が重要であり、如何に適合するか?という観点について真剣に検討が必要であろうことを示しています。

組織というものはトップ次第で大きく変わる、ということは感覚的によく知られていますが、この点を具体の分析でもって示された例はあまり知られていません。

企業としての純粋な成長しかり、変革しかり、何かしらの変化を達成するためには、組織のトップ自身の大幅な変化、もしくは人事的な変化が必要と考えられます。

トップは自分自身が組織に与える影響についてもっと自覚した方が良いですし、株主もトップの影響力についてもっと知り、経営に対してもっと発言をしていくことが望ましいと言えるでしょう。

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マネジメント・リーダーシップ

部下の仕事もできる上司がいると従業員の満足度はあがるというシンプルな話

従業員の満足度は、退職率や仕事のパフォーマンスに大きく影響を与える要素です。
それでは、どうすれば従業員の満足度を高めることができるでしょうか?
マネジメント力や共感力といった要素ではなく、シンプルにその領域の専門性が高いことが重要なようです。

もう少し噛み砕いて言うと「部下の仕事もできる上司」が望ましいようです。

上司の能力と労働者の幸福度の関係

従業員満足度を高める試みや調査は様々にされていますが、よく言われることとして「従業員は仕事が嫌だから辞めるのではなく、上司が嫌だから辞めるのだ。」という話があります。
この話を裏付ける調査があります。

https://www.researchgate.net/publication/268491675_Boss_Competence_and_Worker_Well-Being

調査では、35,000人の従業員と職場に対して分析が行われました。

分析は従業員満足度と上司に関する様々な変数に対して行われ、端的に多くの従業員が仕事に満足していることがわかったのですが、その分析の中で、従業員満足度に特徴的に影響を与える要素が「上司の能力」ということも示されました。

つまり、上司が有能であることは、一般的に労働者の仕事の満足度に大きな影響を与えるのです。

この要素は、例え高い給与であることよりも大きく、また、職種や教育レベル、勤続年数、産業等、仕事の満足度に影響しうるその他の要因よりも大きな影響力を持っていました。
この点は、上司が変わった際にも影響し、有能な新しい上司が来れば、その後の従業員の仕事の満足度が向上することも示されました。

つまり、優れた上司であるためには、マネジメント力や共感力といった能力も必要ですが、その領域での専門的な知識や技術・経験も必要、ということです。

人は、上司が自分の言っていることを適切に理解している場合に満足し、幸福度が高まり、パフォーマンスも向上させる、と考えれば、この話は不自然なことではないことがわかります。

組織運営に活かすには

日本の伝統的な企業では、職種を跨ぐ配置転換が一般的でした。

多くの職種を渡り歩き、幅広く専門性を身に着けつつ人脈も構築することが出世に必要だったということなのでしょうが、上述の知見を踏まえると、あまり望ましいことではないことが推測されます。
(現に、その方法で成長してきた過去の日本企業の多くは、この2~30年で衰退していっている。)

日本の労働者の満足度は、諸外国に比較して低いことが指摘されていましたが、もしかしたら「話が通じない」という点は大きく影響しているのかもしれません。

この「部下の仕事もできる上司」というあり方は、今後の組織運営において非常に重要な視点になる可能性があります。

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ハイパフォーマーは足を引っ張られやすい~成果を共有する仕組みを~

ハイパフォーマーは組織に対して多大な貢献をします。
そのため、会社は何とかハイパフォーマーを雇いたいと思うものですが、ハイパフォーマーは同僚に足を引っ張られやすいことも一部の研究で示されています。

ハイパフォーマーが被る社会的コスト

ミネソタ大学の研究チームは、サロンで働くスタイリストおよび学生に対する心理的実験にて、ハイパフォーマーが被る社会的コストについて調査を行いました。

https://psycnet.apa.org/record/2017-06323-001

台湾の105のサロンで働きく350人のスタイリストを対象とした調査では、同僚はパフォーマンスの低い人よりも高い人を軽蔑したり、侮辱したり、評判を落としたりする傾向があることがわかりました。
また、協調性の高いチームほど、ハイパフォーマーを酷評する傾向が見られました。
(サロンは、オープンな環境であり、事業をうまく運営するためには個人的にも相互依存的にも働かなければならず、他の組織よりもワークグループと同様の特徴を持っている。)

学生284人を対象とした実験においても、この傾向は再現されました。
学生はチームにわけられ、論理的思考について各種のスキルをテストする課題をこなしました。
チーム内には、コンピューター上のスクリプトで動く仮想のメンバーが一人おり、学生よりもはるかに高いパフォーマンスを出すよう設定がされていました。
その結果、チームのリソースが限られている場合、学生はハイパフォーマー(コンピューターのスクリプト)を脅威に感じ、足を引っ張る行動を示しました。

つまり、人は他人と自分自身を比較して劣等感を抱くと、他人を貶める行動に出やすい、ということが示唆されたのです。

組織はどうするべきか?

それでは、ハイパフォーマーをうまく活用するために、組織はどうするべきでしょうか?

学生を対象とした実験では、リソースがチームで共有、つまりハイパフォーマーの支援を受けられる状態の場合、チームのメンバーはハイパフォーマーを支持することも同時に示されました。

この結果から得られる示唆としては、ハイパフォーマーを出汁にして競争を促すよりも、ハイパフォーマーによる協力を職場が得られるような文化や体制の方が望ましい、ということがわかります。

ようは、ハイパフォーマーに対して、同僚が脅威ではなく、メリットを感じれば良い、ということです。


優秀な人材を確保することは、多くの企業が苦心をしています。

また、優秀な人材を活用することも、同時に苦心をしている企業が多いです。

運よく優秀な人材がジョインをしてくれたのであれば、競争ではなく協力、脅威ではなくメリットを強調し、促すような組織体制を構築していくことが望ましいと言えるでしょう。

個人としても、自分自身の成果追求のみではなく、チームに対する支援も重視するように行動すると良いと考えられます。

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現代のロビン・フッド?~富に基づく逆差別と不正~

なんとなく、お金持ちの方がお金を落とすから、サービスを受ける上で優遇され、逆に庶民は冷遇されがち、というような印象を持っている方もいるかもしれません。
しかし、どうやら、富に基づく逆差別がおきる事例もあるようです。

お金持ちはサービスで優遇されるか?否か?

複数のビジネス・スクールによる研究チームは、次のような調査を行いました。

https://pubsonline.informs.org/doi/abs/10.1287/orsc.1090.0498

対象は、自動車の排気ガス試験における、検査官の不正(適合しない自動車を合格にする行為)についてです。

排気ガス試験では、(庶民が乗っていると推測される)一般車や(お金持ちが乗っていると推測される)高級車など、様々なグレードの自動車に対して試験が行われます。

研究チームは、(中程度の裕福さの)検査官は、高級車に対しては嫉妬や羨望等の感情を抱き、厳正に試験を行うのに対し、一般車に対しては共感を持ち試験のハードルを下げる不正を行う確率が高くなる、と推測しました。

排気ガス試験市場のデータを分析した結果、この仮説は正しく、検査官は一般車に対して不正を行う確率が高くなることが示されました。
つまり、一般車に対しては、本来ならば不合格になるはずの自動車を、検査官が合格させてしまう確率が統計的に高かったのです。

(所得水準の高い検査官の場合、逆に高級車に対して優遇する確率が高くなったとのこと。ようは、自分自身の所得水準に近しいであろう人に対して共感し、違法な援助をしたがる傾向があるようです。)

これらの示唆について、続く心理学的な実験においても同様の結果が示されました。
検査官に見立てた被験者は、高級車ではなく、一般車に乗っている“仲間”を不正に援助する傾向が同様に示されたのです。

この事例により、「富に基づく逆差別」が起き得る場合もある、ということがわかります。
(研究者達は、これらの現象に対して、「ロビン・フッド」と表現しています。)

自分たちの職場でも不正は起きていないか?

この知見は、単純に逆差別が起きる場合もあるんだね、という話ではありません。

もしかしたら、あちらこちらの業界・職場においても、同様の不正が起きている可能性があります。

BtoCサービスにおいて、顧客との直接の接点を持つ担当者の所得水準は、大体において決して高いものではありません。
そのため、従業員の顧客に対する共感等により、不当に会社が決めている基準を侵している可能性はゼロではありません。

これを防ぐ施策は、果たして検討され、対処されているでしょうか?


近年のビジネス環境は、ガバナンス体制をより高い水準で構築しよう、という動きが盛んです。

その中で、このような観点でも不正は起き得る、ということを理解しておくと、内部統制の水準向上に寄与するかもしれません。

顧客を決められたルールの範囲内で支援し、ロイヤル・カスタマーになっていただけるよう行動していくことは素晴らしいことです。
しかし、それが不正なものであれば、最終的に損害を被るのは企業、そして従業員自身です。

あるべきはあるべきに。

そのように捉え、適正なガバナンス構築を図りたいものです。

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「たまたま」により起きる弊害~人事評価を如何に考えるか?~

運も実力の内、という言葉があるにはありますが、世の中において成功するか否かの要素に「運」のウェイトが大きいと、一部で言われています。
この点に関しては、一定の研究もされており、「運」もしくは「たまたま」により起きる弊害が指摘されています。

評価にバイアスがかかりパフォーマンスの認識が誤った例

UTSビジネススクールの研究チームは、サッカーにおけるパフォーマンスと評価について調査を行いました。

https://direct.mit.edu/rest/article/101/4/658/58562/Fooled-by-Performance-Randomness-Overrewarding

ヨーロッパのサッカーリーグの試合における1万本以上のゴールポストに当たった、シュートを含むデータの分析が行われました。

分析の結果、ポストに当たった後、得点をした選手、しなかった選手のその後のパフォーマンスを調査した所、選手のパフォーマンスには大きな違いが無かったことが示されました。

しかし、偶然にゴールを決めた選手は、運悪くゴールを決められなかった選手に比較して、その後の試合で活躍をする機会が増えていることも示されました。
また、偶然のゴールであったとしても、試合の結果を左右するものである場合や、新進気鋭の選手である場合に、より高く評価されることがわかりました(評価はジャーナリストやファンからの評価も含みます)。

つまり、「たまたま」成果を出せば、パフォーマンスは同じであっても、高く評価され、また成果を出す機会が与えられる、ということです。

研究チームは、統計的に判断できるスポーツの領域でも、このような評価バイアスが起きているのだから、客観的な評価が難しいビジネスの領域でも評価バイアスが起きているであろう、と指摘しています。

現実における人事評価にて留意すべき点

上述の通り、「たまたま」成果を出して評価されるとなれば、組織における歪みが生じる恐れがあります。

もちろん結果/成果は重要なものですが、評価に偏りがあると、報酬や昇進の機会に非効率性や不公平性が生じ得ます。
それは組織にとって、潜在的なコストとなっていくでしょう。

スキルが無くても、たまたま周囲のサポートが手厚かったり、本当に運が良かっただけの人物が昇進し、スキルも才能もある人物が認められない、というような事態も起き得ます。

組織やマネージャーは、人のパフォーマンスを評価する際に、結果/成果のみならず、プロセスや努力についても考慮する必要があるでしょう。


嘘か誠かは不明ですが。

野村證券が「入社後に成長するのは、どういう人材か」を知るため、「支店長に就任した人の共通点」について、数億円の費用をかけてコンサルタント会社に調査を依頼したそうです。
その結果、入社後に伸びる人に共通しているのは、卒業した大学の偏差値や、両親の学歴・職種、家庭の裕福さとは関係なく、『入社して最初に出会った先輩や上司が優秀だったこと』と分かったとのこと。
つまり、企業としては、応募者の中から優秀な人材を選び出すためにお金をかけるより、受け入れる側の教育のほうが重要という示唆が得られます。
(一部のTwitterの投稿より。)

「運」「たまたま」で判断が歪み、組織に悪影響を残さないようにしたいものです(言うは易しですが)。

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シリコンバレーではOKRを撤廃する企業が増えている模様

日本ではベンチャー企業を中心にOKRという目標管理手法が流行しています。
元々はシリコンバレーを源流として広がった手法のようですが、当のシリコンバレーでは、OKRを取り止める企業が増えているとのこと。
その原因はなんでしょうか?

OKRのメリットを実際に得るための3つの重要な前提条件

米にてOKRを広めているコンサルタントであるMarty Cagan氏は、OKRのメリットを実際に得るための3つの重要な前提条件として次の3つがあるとしています。

  • フィーチャーチームモデルからエンパワーメントプロダクトチームモデルへの移行
  • マネージャーの目標や個人の目標を取り止め、チームの目標にフォーカスする
  • プロダクト戦略を実行に移すために、リーダーがあるべき役割を果たす必要

そして、それぞれの前提条件を元に、OKRを撤廃している企業の失敗について解説しています。

フィーチャーチーム・エンパワーメントプロダクトチームについて

フィーチャーチームとは、一般的なチームが「個々の役割を完遂すること」を目的としているのに対し、「特定の成果物を生み出すこと」を目的としたチームのこと。
特定の専門領域を分化して、それぞれの役割を果たすことにフォーカスするのではなく、複数のコンポーネントを横断し、あくまでも全体のチームとして成果物を出すことにフォーカスしている。

エンパワーメントプロダクトチームは、プロダクトチームに権限を与えることを前提とし、あくまでもプロダクト目線で問題解決を図る、そしてそのためのリソースを供給するチームのこと。

フィーチャーチームとプロダクトチームの違い

フィーチャーチームを採用している企業にとって、OKRというテクニックは文化的にマッチせず、時間と労力の無駄になる、と指摘されています。

OKRは、プロダクトチームに権限を与える、というDNAを持つ企業から生み出されました。
つまり、OKRは何よりもまず、エンパワーメントの手法と言えます。

プロダクトチームに解決すべき「真の問題」を与え、それを解決するためのリソースを与えると言うのが主軸の考えです。

しかし、企業がチームに目標を与えるとしながら、チームが提供すべきソリューションについて伝え続けていることが、文化的にミスマッチする原因となります。

マネージャーの目標とプロダクトチームの目標

多くの企業では、エンジニア、デザイナー、プロダクト等、それぞれの役割毎にマネージャーがおり、独自の組織目標を設定し、チーム内に共有を行っています。

これそのものに不合理は無いのですが、エンパワーメントプロダクトチームにおいては問題が起きます。
何故ならば、あくまでもプロダクト目線でのクロスファンクショナルな目標達成に取り組まねばならないのに、それぞれ各人の目標に取り組むことになるからです。

さらに、多くの企業では個人の目標も設定されており、プロダクト目線での目標達成意識は希薄なものになります。
(プロダクト、チーム、個人、それぞれの目標を同時に追求できるか?)

リーダーシップの役割

根本的にリーダーシップが機能していないことが指摘されています。

一般的に、チームの目標は四半期毎にその達成度が測定されます。
そして、OKRの導入により、マネージャーは管理負担が軽減されると考えますが、実際には逆で、よりクオリティの高いマネジメントが必要なのがOKRです(正確には、従来のマネジメントの概念とは異なるマネジメントが必要)。

OKRを導入し成功する企業を見て、真似をしようとするのは良いですが、相関関係と因果関係を混同してはいけません。
OKRにより成功している企業は、OKRを導入したから成功したのではなく、自分たちのエンパワーメントプロダクトチームモデルを活用しきるためにOKRを使っているからです。

フィーチャーチーム、ロードマップ、受動的なマネジメント等を基盤とした従来型組織に、全く異なる分化から生まれた手法をそのまま適用しても、効果や変化を期待することはできません。


以前にも、OKRはあくまでもツールにすぎないので、ツールの使い方が重要だよね、という内容の記事を書きました。

今回の先人の知見は、この考えを補強したものと言えます。

安易な事例模倣はリスクが高いということを認識し、それでもOKRを導入する必要がある、と感じたなら文化レベルで組織を改革するつもりで導入するのが吉と考えられます。

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コントロールできる環境はストレス耐性を高めるかもしれない

ストレスと言うとネガティブな印象が強く受けられますが、「良いストレス」がある、ということも認知されるようになってきました。
一方、同じストレスであっても、周囲の環境次第では、その影響を強く受けることがあります。
ここでは、環境をコントロールできるか否か?とストレス耐性の関係について見ていきます。

環境をコントロールできるか否か?

生きていれば挫折の一つや二つ(いや、もっと多くの)、何かしら経験するものです。
その大小に関わらず、です。

では、挫折した何かに対して、再度チャレンジをする意欲は何が要因で維持できるのでしょうか?

それは環境をコントロールできるか否かにあると、一部の研究は示しています。

https://psycnet.apa.org/record/2015-58950-001

この論文では、被験者にストレスを与えた上で、失敗体験を与え、再度チャレンジするか否かについて調査を行いました。

実験では、まず被験者にストレスを与えます。
(冷たい水が入ったバケツに2分間手を入れ、更にその様子を撮影する、という作業を行います。過去の知見では、この作業によりストレスホルモンであるコルチゾールが分泌されることがわかっています。対象群であるストレスを与えないグループでは、ぬるま湯に2分間手を入れ撮影も行いません。)

次に仮想の学位を得るための試験を受けてもらいます。
この試験は何度もチャレンジすることができ、仮に誤った答えを回答したとしても、同じ問題が出るが故に、被験者はいずれは正解に辿り着けるようになっています。
ここでのグループ設定は、一方は試験を単純に繰り返すグループ、もう一方は被験者の意志に関係無く学位の対象となる講義がランダム「休講」、つまり強制的に学位がキャンセルされてしまう可能性がある設定となっています。

つまり「ストレスの有無」と「挫折に対する環境のコントロール性の有無」の2軸でわけた4事象で、学位を得るためのチャレンジを継続するか否かが調査されました。

その結果、最もチャレンジ意欲が減衰し継続できなかったのが、「ストレスが有り」「挫折に対する環境のコントロール性が無い」グループでした。

「ストレスが有り」でも「挫折に対する環境のコントロール性が有る」グループは、「ストレスが無い」グループと同程度の継続性を示していたのと、また、「挫折に対する環境のコントロール性が無い」グループでも「ストレスが無い」場合も高い継続力を維持していたことも示されました。

つまり、ストレスとコントロール不能性の組み合わせは、人の意欲を大きく奪う、ということが示唆されているのです。

マネジメントにおける知見

この実験は仕事におけるマネジメントに非常に有用な知見を与えてくれます。

つまり、会社や上司は、従業員に対して不要なストレスを与えない方が良い、ということがわかりますし、そうは言ってもストレスをゼロにすることは不可能なので、可能な限り従業員に環境をコントロールできる仕組みを構築した方が良い、ということがわかります。

「ボス」という人種は、「部下」をなにかとコントロールしたく思うものですが、このマインドは下策だ、ということです。
(仮にあなたが、会社としての成果よりも、部下を支配する、そのような欲求を満たすことの方が大事だ、というならば致し方ないですが。)

なお、従業員に環境をコントロールできる仕組み、とは、仕事量の調節ができたり、決裁権限を柔軟に得られる、などが考えられます。

与えることができるのは持っている者のみです。
マネジメントに悩んでいる方は、これらの知見を活用してみてはいかがでしょうか。


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人間関係を長く続けるためには、肯定をするか、否定を避けるか、どちらが重要か?

人間関係に悩んでいる人は古今東西、非常に多いでしょう。
むしろ、いないといっても良いでしょう。
人間関係を長く続けるためのアドバイスとして、肯定をする、もしくは否定を避ける、というものがありますが、果たしてどちらが重要なのでしょうか?

ネガティブな感情は関係を壊す

人間の思考や感情は、「ネガティブハロー効果(もしくは、ネガティブ・バイアス)」という、ポジティブな出来事や感情よりも、ネガティブな出来事や感情に強く引っ張られ、影響をうけます。
もっとストレートに言うならば、思考や感情は容易に歪められます。

(ネガティブハロー効果とネガティブ・バイアスは意味が違うぞ、という意見もあるかもしれませんが、ここでは同じと扱います。)

コミュニケーションの中で、誉め言葉と批判が混じっているとすると(肯定と否定)、人は褒められたことを喜ぶのではなく、批判されたことに対して強く反応してしまいます。

この機構は、人類の生存にとって有利なものでした。

生活と死が隣り合わせの時代。
ネガティブなことに着目しない個体は、その生存が危うかったことは想像に難くありません。

しかし現代社会においては、この機構が逆にマイナスに働いているのでは?と感じます。

人間関係の中の、ちょっとした衝突でもネガティブな感情が人の判断力を奪い、決断を歪めるならば、それは望ましいものではないでしょう。

つまり、人間関係を長く続けるためには、肯定をするか、否定を避けるか、どちらが重要か?という問いに対しての答えは「否定を避ける」ことが重要と言えます。

ネガティブハロー効果(ネガティブ・バイアス)

しかし、「否定を避ける」だけの人間関係が健全なようには思いません。

この「ネガティブハロー効果(もしくは、ネガティブ・バイアス)」を克服する方法は無いのでしょうか?

「ネガティブハロー効果(もしくは、ネガティブ・バイアス)」とは、上述の話の通りなのですが、「ポジティブな情報よりネガティブな情報に注目し、優先的に信じたり、強く記憶に残したりする傾向のこと」を言います。

例えば、「10%の確率で失敗する」と聞くか、「90%の確率で成功する」と聞くか。
同じことなのに、「10%の確率で失敗する」と聞くと、その事象に対して否定的な態度をとるようになります。

人間関係において考えてみましょう。

何か相手が望ましくない行動をとったとしましょう。
あなたは、どのような態度をとるのが、人間関係を継続するために良いでしょうか?

  • 相手の望ましくない点を丁寧に説明し、妥協点を探る(能動-建設)
  • 相手の望ましくない点を厳しく指摘し、改善を要求する(能動-破壊)
  • 放置し、状況が改善されることを期待する(受動-建設)
  • 何も言わずに、適切な距離をとる(受動-破壊)

相手の望ましくない点を指摘する行為は非常に良い行為に見えますが、一部の研究によると、人間関係を続けるためには破壊的アクションをとらないことの方が重要という意見を示しています。
(下手に相手の良くない点を指摘する位ならば、何も言わずに放置する方が、人間関係を継続する、というためだけならばマシ、ということを示している。)

しかし、この「否定を避ける」というアクションが、本当に人間関係継続において望ましいことと言えるでしょうか?

少なくとも筆者は思いません。

未来志向の態度を

こちらの記事(部下に対する最適なフィードバックの方法は何か?)でも触れたのですが、上述のとおり、ネガティブなフィードバックは受け入れられづらい、ということがわかっています。

そこで重要な視点が「未来志向」です。

心理学的な研究において、「将来の成功のために、どれだけ新しいアイデアを生み出せるか、というような未来に焦点をあてた会話が起きた場合に、向上心を高める効果が見られた」こと、そして「フィードバックを受け入れる側が、未来志向に対する評価が高い場合においては、フィードバックを受け入れやすくなる傾向がある」ということが示されています。

つまり、「肯定的なフィードバックを混ぜて、否定的なフィードバックにより受けるダメージを緩和する」というような方法や、「具体例を示して、改善のための有益な情報を提供する。」というような方法ではなく、あくまでも未来志向の視点を持つ必要があるのです。

これはシンプルに人間関係においても使える視点なはずです。

お互いの関係向上のため、「未来に向けて物事を改善する」「何を期待しているのかの理想を明示する」「次に何をすべきか?について議論をする」
こういった態度が、より良い人間関係構築にプラスに働くはずです。

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「自分たちの職場は男女平等で差別などない」という認識は危険かもしれない

仕事はあくまでも能力や成果で評価すべきで性別で差別するのは良くない。
この認識は、多くの方が同意することでしょう。
そして、「自分たちの職場は男女平等で差別などない」と思っている方も多いかもしれません。
しかし、その認識は危険かもしれない、という研究があります。

性差別は、「無い」と思っている人によって引き起こされている可能性

英エクセター大学の研究チームは、性差別(ジェンダー・バイアス)について、その意識との関連を2つの調査を通して調べました。

https://advances.sciencemag.org/content/6/26/eaba7814

対象は、獣医師の専門家です(英国獣医師会での調査となった研究)。
イギリスの獣医学の分野では、論文公表の10年以上前から女性の数が男性を上回っており、女性の能力が不足している、という偏った認識は消えている、と考えられています。

1つ目の調査では、参加者に対して職場での性差別の経験についてヒアリングが行われました。

その結果、女性は男性よりも差別を受けたと答える人が多く、また、同僚から自分の価値を認められた経験が少ないことがわかりました。

2つ目の調査では、管理職を対象に、架空の業績評価を与えた上で、とある獣医師について評価をする実験が行われました。
業績評価は全員に同じものが渡されましたが、獣医の名前はマーク(男性名)とエリザベス(女性名)のどちらかになっています。
管理職の方は、獣医のパフォーマンス/能力を評価し、この従業員が自分の診療所にいた場合に提案する給料を示します。

この結果、性差別(ジェンダー・バイアス)は、「自分たちの職場は男女平等で差別などない」と考えている人たちによって起きている可能性が示唆されたのです。

その影響は年収相当で8%

まず、自分たちの職場について、性差別があるか否かについて、次のような認識を持っていました。

40.6%の方が「まだ性差別がある」、44.5%の方が「性差別はない」、15.0%の方が「わからない」。

全体の評価としては次のような結果で、マーク(男性)を高く評価する形となりました。

この報酬(給料)への影響額は約8%の差で、時給換算約2ドル、これが2,000時間に渡って影響する形になります。

この結果の恐ろしい点が、上述の通り、「自分たちの職場は男女平等で差別などない」と考えている人たちによって起きている可能性が示唆された点です。

8%のギャップの主な要因は、「自分たちの職場は男女平等で差別などない」と考えている管理職となっており、差別はまだ存在している、と考えている管理職はほぼ同等の報酬(給料)を提示していました。
そして、ギャップの要因となっていた管理職は、女性に管理職としての責任を与えることを奨めず、傷心の機会を与えることもしませんでした。

これらの結果は、管理職自身の性別、管理職としての経験年数、職業経験年数、そして性差別的信念を支持しているか否か、という要因について調整しても同様の結果となりました。


この研究はイギリスの獣医学/獣医師の領域で行われたものですが、他の国、他の多くの職場でも起きている可能性があります。

特に、女性の活躍について推進し、努力している企業ほど、性差別(ジェンダー・バイアス)が解決されているはずだ、と認識されている可能性があり、リスクは高いと認識した方が良いでしょう。

差別というものは、根強く残る可能性がある、ということを認識し続けることが重要と考えられます。

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メンバーによりチームのパフォーマンスはどれくらい変わるのか?

一般的には、パフォーマンスの高い個人を集めた方がチーム全体のパフォーマンスも上がると考えられています。
一方で、ごくごく普通の会社にもかかわらず、とんでもない成果を出すような光景を目にすることもあります。
果たして、メンバーによりチームのパフォーマンスはどれくらい変わるのでしょうか?

いわゆる集団的知性

いわゆる集団的知性、という言葉があり、本稿はこの集団的知性とメンバー構成について考えたいと思います

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%86%E5%9B%A3%E7%9A%84%E7%9F%A5%E6%80%A7

簡単に集団的知性とは?について、Wikipediaから引用します。

集団的知性(Collective Intelligence、CI)は、多くの個人の協力と競争の中から、その集団自体に知能、精神が存在するかのように見える知性である。
(中略)
Atlee は集団的知性を「集団思考(集団浅慮)や個人の認知バイアスに打ち勝って集団が協調し、より高い知的能力を発揮するため」のものと主張している。
(中略)
集団的知性研究のパイオニアである George Por は、集団的知性現象を「協調と革新を通してより高次の複雑な思考、問題解決、統合を勝ち取りえる、人類コミュニティの能力」と定義している。
Tom Atlee と George Por は「集団的知性は、関心をひとつに集中し、適切な行動を選択するための基準を形成する能力がある」と述べている。
(略)

なんだか小難しい感じですが、ようは「チームが協調して、ある目標の達成に向かって適切に邁進し、課題を解決していく、集団としての能力」のことと言えるでしょう。

メンバー構成と集団的知性の研究

こちらの記事である研究が紹介されています。

https://www.linkedin.com/pulse/why-some-teams-smarter-than-others-nicholas-mohnacky

複数大学の研究チームが、約200を超えるグループ(チーム)に、様々な種類の課題を与えて、そのパフォーマンスを測定したとのこと。

その結果、ある種の課題をうまく遂行できるチームは、別の課題についても同じようにうまく遂行できる傾向が示されたそうです。

そして、そういうチームの特性として集団的知性が高いという特徴(因子)があることが示されました。

研究では、IQが高い人が入っているチームが、必ずしも集団的知性も高いというわけではないことも示しました。

会社組織においてどのようなメンバーを集めるか?

ビジネスをやっている方にとって、この知見をどう活用しようか、悩む所でしょう。

一般的には「頭が良い人」の方が、パフォーマンスを発揮できると思われていますし、現実問題として、そのように見えるはずです。

一方で、研究では、必ずしもそうでは無いことを示しています。

研究は次の要素が集団的知性を高める因子だ、としています。

  • コミュニケーションが多いこと
  • 女性がいる多様なチームであること
  • 感情知能が高い人がいること(特にここが重要だとしている)

感情知能は、「心の知能とは、自己や他者の感情を知覚し、また自分の感情をコントロールする知能を指す。 」と定義されています。
ようは、自分の感情を適切に把握しコントロールできたり、人の気持ちについても精度高く察することができること、というものです。
EQ、と言われるものと近しいと考えても良いでしょう。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%83%E3%81%AE%E7%9F%A5%E8%83%BD%E6%8C%87%E6%95%B0

IQが高すぎるとマネジメント上の失敗が起きるリスクが高まる、という研究もあります。

ビジネスにおいては、職場は特定のスタープレイヤーに依存しがちですし、トップダウン型のマネジメントも広く見られます。
集団の知性や個人の感情より、個々人のパフォーマンスの方が優先されるのが会社組織のあるあるなのですが、改めて感情知能、もしくはEQについて見なおしてみるのも良いかもしれません。

(もちろん、IQも高い方が良い、両方兼ね備えているのがベストです。)

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