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生産性・業務効率化

休み明けは仕事のパフォーマンスが下がる~月曜効果~

休み明けは憂鬱になる方は多いでしょうし、溜まったタスクをこなすためにバタバタし、やりたいことができなかったと感じている人も多いでしょう。
どうやら、統計的にも休み明けはパフォーマンスが下がる傾向があるそうです。
今回は、この“月曜効果”について解説します。

“月曜効果”とは

まず、そもそもとして“月曜効果”についてです。

相場におけるアノマリー(経験則)の一種で、特定の曜日の収益率が他の曜日よりも低く、または高くなりやすい現象のこと。月曜日の収益率がマイナスになりやすく、金曜日(週末)がプラスになりやすいといわれている。
野村證券~証券用語解説集~「曜日効果(ようびこうか)」より

“月曜効果”、より正確にいうと曜日効果は、元々証券用語でした。

曜日により投資パフォーマンスに偏りあるよね、と長らく言われており、投資判断の材料にする人もいました。

近年では、この傾向が無い、もしくは逆の傾向も示されるシチュエーションもある、というようなこともあり、人によって受け止め方は様々です。

仕事における“月曜効果”

次に、リーハイ大学をはじめとした複数大学が行った研究を紹介します。

https://pubsonline.informs.org/doi/abs/10.1287/isre.2019.0870

研究では、米国共通役務庁(連邦財産の管理維持、公文書の管理、資材の調達・供給などを行う)が12ヶ月間に収集した80万件以上の取引記録のデータを用いて、曜日ごとのオペレーション・パフォーマンスの変化を調べました。
また、中国最大級のスーパーマーケット・チェーンの注文・履行データも分析しました。

その結果、“月曜効果”が顕著に現れていることがわかりました。
(例:注文を受けてから出荷するまでの時間が、月曜日の方が他の平日よりも平均して9.68%長い。)

このような影響が現れる要因としては、週末の間に溜まったタスクを処理しなければならない、というプロセスの問題や、純粋に月曜日は憂鬱だ、という人的な問題があるとのことです。

休み明けは仕事のパフォーマンスが下がるのです。

“月曜効果”への対策は?

それでは、休み明けにパフォーマンスを維持する方法について、どのように考えれば良いでしょうか?

研究者は次のような施策を推奨しています。

  • 月曜日(休み明け)の人員を増やす
  • 月曜日(休み明け)は会議等の非業務遂行活動を抑制する
  • 従業員教育を強化する
  • 月曜日(休み明け)の憂鬱さを低減するモチベーションアップ施策をうつ(無料のコーヒー等)
  • 月曜日(休み明け)はダブルチェックを強化する
  • 業務の自動化(IT化を含む)を推進する

特に、「業務の自動化(IT化を含む)を推進する」はクリティカルな効果があると、実験の中でも示されています。

個人レベルでは次のような対策が考えられます。

  • 休み前に、重要な課題について終わらせたり、スムーズに進むよう事前に手配する
  • 月曜日(休み明け)は会議等を避けるなど、仕事モードに戻るための時間を確保する
  • ToDoリストやチェックリストを作成し、処理しなければならないことについて考えるのを省力化する
  • 休みを有意義なものになるよう、行動習慣を適正化する

“月曜効果”、休み明けは仕事のパフォーマンスが下がる、という話はよくよく考えればそうだよね、というようなものですが、意識されずに放置されているのが実態でしょう。

しかし、意識し明確に対策を打てば、その悪影響を緩和することも、比較的容易なはずです。

「月曜日(休み明け)は会議等の非業務遂行活動を抑制する」からでも良いので、実践してみるのは良いでしょう。

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生産性・業務効率化

マルチタスクを行うと生産性の低下のみならず感情をネガティブにする

マルチタスクの弊害は各所で語られています(下記記事も参照)。
生産性の低下(IQの低下)や疲労の蓄積等が代表的な弊害ですが、どうやら感情をネガティブにする側面もあるようです。
複数大学が協働して行った研究を見ていきましょう。

マルチタスクは感情をネガティブにする

複数大学の研究チームは次のような調査を行いました。

https://dl.acm.org/doi/abs/10.1145/3313831.3376282
  • 26人の被験者を対象とした
  • 被験者には期限付きの小論文の課題を与えた
  • 課題に取り組んでいる間に、2つのパターンでメールを送信し、感情の変化を映像で分析
  • パターン①:一括でメールを受信し、期限付きで即時に返信するように指示を与えた
  • パターン②:断続的にメールを受信し、同様に期限付きで即時に返信するように指示を与えた

その結果、パターン①の一括でメール返信した被験者の表情は、ニュートラルな感情を保っているものの(悲しみの感情も一部で見られた)、一方でパターン②の断続的にメール返信した被験者は、悲しみや怒りの感情、また恐怖心も混在していることが示されました。

(被験者の表情は、研究者が主観で判断したものではなく、AIによる判定が行われていたので、精度は高いと考えられる。)

つまり、マルチタスクは、生産性の低下のみならず、精神に負担をかけストレスを増加させ、感情をネガティブにすることが示されたのです。

どのように対処すれば良い?

まず研究者たちは“バッチ処理”を推奨しています。

例えば上述のようなメールに対する返信であれば、返信をするタイミング・時間を決めて、一括で返信を行うようなものです。

とは言え、現実の仕事において、横やりが入ることは珍しくないです。

特にオープンオフィス環境は、集中力を中断させる要素が非常に多く、研究者たちも懸念を示しています(下記記事も参照)。

企業ができるのは、例えばリモートワークやブースで区切られた半個室のようなものを用意し、集中して作業に取り組める環境を用意する一方、従業員間でコミュニケーションが取れるような空間や時間も用意し、適切に使い分けられるような環境やルールを制定することでしょう。

適切で生産性の高い労働環境を構築するためには、上述のような知見をインストールし、使い分けられるようになることが求められると考えられます。

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生産性・業務効率化

生産性をあげる可能性があると言われているホワイトノイズは耳に悪いかもしれない

ホワイトノイズは生産性をあげる可能性があると言われています。
以前にこちらで書いた記事では、集中力に欠ける人にとっては生産性をあげる効果が、一方で集中力がある人にとっては下げる効果がありそうだ。ただ、適度な騒音レベルというものがあるようで、人によるかもしれない、と結論づけています。
このホワイトノイズですが、長時間聞くと、耳に悪いかもしれません。

長時間騒音に晒されると脳が変化する可能性

こちらの論文では、耳鳴りの患者に対して行われる治療法の一つであるホワイトノイズが有害である可能性を示しています。

https://jamanetwork.com/journals/jamaotolaryngology/article-abstract/2697852

ホワイトノイズへの暴露が、脳に対して可塑的な影響を与え、神経の健康を損ない、認知機能を低下させることを誘発するとのことです。

この論文のシチュエーションは、対象は成人であり、また非外傷性のホワイトノイズでも悪影響が誘発されるとしています。
論文では、加齢と同様の変化が脳に起きているとしており、ホワイトノイズ(と耳鳴り)が脳の老化を促進している示唆があるとのこと。

まだ研究レベルの話なので確かなことはわかりませんが、ホワイトノイズが生産性に与えるプラスの影響が不明瞭なことを考えると、程々にするのが良いのでしょう。

現代人はイヤホン難聴も心配

ホワイトノイズへの暴露もそうなのですが、現代人にとってみればイヤホン難聴も心配です。

リモートワークも増え、また勤務中のイヤホン装着への抵抗感も減少している昨今。
仕事中の会議や、動画視聴、音楽鑑賞など、様々な場面でイヤホンを使います。

周囲の騒音からシャットするために、ついつい音量を上げてしまう人も多いでしょう。
しかし、大きな音は難聴を誘発する原因になりますし、上述の研究のことを踏まえると、耳だけでなく、脳に対しても悪影響が起きないか懸念を感じます。

こちらの記事(外部記事)では、単純に音量だけでなく、時間も問題であるとしています。
(上述の研究とも整合がとれます。)

https://medicalnote.jp/nj_articles/190717-001-MV

繰り返しになりますが、単純に音量だけでなく、時間の長さも問題であると認識して、きちんと耳を休める時間の確保にも努めるようにしましょう。
何にしても、程々が一番ということです。

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生産性・業務効率化

気温(もしくは室温)による生産性への影響は?

暑い日が続き、熱中症が不安になる季節です。
照度や騒音等について、生産性との関係が多く研究されていますが、果たして気温(もしくは室温)と生産性の関係はどうなのでしょうか?

約29度を超えると1度毎に生産性が3%低下する

ボストン大学の教授ら他複数大学のチームとインドの縫製メーカーがある調査を行いました。

https://www.npr.org/sections/goatsandsoda/2018/07/23/629871725/why-a-drop-of-4-degrees-made-a-big-difference-for-a-garment-makers-bottom-line

インドの工場では、空調設備が整っておらず、非常に暑い環境で働かなくてはならないとのこと。

そのような中、照明を蛍光灯からLEDに変えてみたら、工場内の温度が低下するのではないか?それにより生産性に良い影響を与えるのでは無いか?という着想のもと、26の工場の照明をLEDに切り替え、その前後で外気温と衣服の生産性について1日ごとに調査しました。
なお、切り替える前は4分の1の工場で、工場内の温度が約29度(熱ストレスのしきい値)を超えていたとのこと。

その結果、次のような成果を得られたそうです。

  • 切り替えた後は、工場内の温度が4度以上も低下した
  • 温度がしきい値を超え1度上がるごとに、生産性が3%、利益が2.2%低下することがわかった
  • 労働者も、暑くないと感じるようになった
  • LEDに交換したコストは8ヶ月以内で回収できる計算となった

クールビズの「28度」は意外に的を得ている模様

2005年にはじまり、今ではあまり語られることが無くなったクールビズですが、「室温28度」で快適に過ごせるよう工夫しましょう、と言われています。

法律面では労働安全衛生法というものがあり、その中の「事務所衛生基準規則」では次のような規定がされています。

(空気調和設備等による調整)
第五条 (中略)
3 事業者は、空気調和設備を設けている場合は、室の気温が十七度以上二十八度以下及び相対湿度が四十パーセント以上七十パーセント以下になるように努めなければならない。

世の中的には、あまりこの28度に根拠は無い、という話ですが、意外に的を得ていると言えそうです。


とは言え、28度という環境は、わりかし暑苦しいのが現実です。
上述の話は、あくまでも「しきい値」と認識して、快適な労働環境を構築すると良いでしょう。

なお、空調の温度設定(冷房の設定温度)を28度にしても、室温は28度にはなりません。
設定温度は一定、下げる必要があることは認識する必要があります。

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生産性・業務効率化

睡眠不足はパフォーマンスを下げるだけでなく、リスク判断を歪める

睡眠不足は酩酊と同じくらいに、人のパフォーマンスを下げる悪影響がある、と言われるようになりました。
この話は、多くの方が実体験としても同意するものでしょう。
そして、睡眠不足はパフォーマンスへの悪影響だけでなく、リスク判断を歪める可能性もあります。

睡眠不足は酩酊と同じ

時間外労働に対する規制が強化され、働き方改革の名のもとに、生活習慣や職場環境を見直す企業や人が増えています。
コロナ禍も、それに拍車をかけていると言えます。

そして、見直す対象の一つに「睡眠」もあげることができます。

睡眠不足はパフォーマンスに対して多大な悪影響を与えることが、昔から体験的に、そして近年は科学的に理解されるようになってきました。

下記の記事では、次のように海外の研究についてまとめています。

ペンシルベニア大学とワシントン州立大学が行った実験では、1日平均7~8時間睡眠をとっている健康な男女を48名集め、3つのグループに分けました。
14日後、8時間睡眠のグループに比べると、4・6時間睡眠のグループの注意力が確実に欠如していることがわかりました。
まず、6時間睡眠のグループは、酒に酔っている時と同じような状態になっていたことがわかり、4時間睡眠のグループはテストの途中で寝てしまう人も現れる始末。

https://tabi-labo.com/146649/few-hours-sleep

そして、睡眠不足によるパフォーマンスの影響はリアルに経済への影響も与えており、米シンクタンク「ランド研究所」の試算(2016年)では日本国内で1380億ドル(約15兆円)の経済的損失、国内総生産(GDP)の3%に当たる額の規模にのぼるとしています。

また、経済的な影響のみならず、労災事故や健康被害にもつながる、悪影響が目立つのが睡眠不足です。

この睡眠不足ですが、実はまだあまり知られていない悪影響があります。
それは、リスク判断を歪める可能性についての指摘です。

睡眠不足はリスク判断を歪める

デューク大学の研究チームは、平均年齢22歳の健康な成人ボランティア29人を対象に、睡眠不足が意思決定に与える影響を、注意力への影響とは別に検証しました。

被験者は、一連の経済的意思決定課題を、通常の睡眠をとった後の午前8時と、睡眠不足の後の午前6時の2回行いました。

実験では、MRIにより、ギャンブルの結果を肯定的に捉えたか、否定的に捉えたかを見ると共に、朝のセッションでは課題を与え、リスクに対する評価について計測を行いました。

https://corporate.dukehealth.org/news/sleep-deprived-people-make-risky-decisions-based-too-much-optimism

その結果として、睡眠不足がポジティブな結果を評価する脳領域の活動が活性化すると共に、逆にネガティブな結果を評価する脳領域の活動が低下することが示されました。
(それにより、ポジティブな報酬に対しては感度が高くなる一方、ネガティブな報酬に対しては感度が低下していた。)

また、金銭的な利益を重視する傾向があり、損失を軽減するような選択は減少することも示されました。


これらのとおり、睡眠不足は人へのパフォーマンス影響を与えるのみならず、リスク判断を歪める可能性が大いにあるのです。

対処法としては睡眠はしっかりとりましょう、という当たり前の話もそうなのですが、重要な意思決定は睡眠不足の時には行わないことが考えられます。

まぁ、踏ん切りがつかなくて、何かしらの後押しが必要ならば話は別なのでしょうが。

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適度な騒音はパフォーマンスをあげるのか?さげるのか?

仕事をする上において、基本的には静かであることが求められます。
一方で、適度な騒音があること、例えばホワイトノイズはパフォーマンス向上効果がある、という説もあります。
果たして、適度な騒音はパフォーマンスをあげるのでしょうか?それともさげるのでしょうか?

子どもを対象にした実験

ストックホルム大学にて、子どもを対象に、ホワイトノイズがパフォーマンスをあげるのか、それともさげるのか、研究が行われました。

https://behavioralandbrainfunctions.biomedcentral.com/articles/10.1186/1744-9081-6-55

実験では次のようなことが行われました。

  • 11~12歳の生徒51名(男子25名、女子26名)が対象となった
  • 生徒には、7段階の“注意力”の評価が行われ、6と7の評価対象生徒は“不注意グループ”とされた
  • “不注意グループ”にはADHDの診断を受けた者はおらず、薬による治療を受けた者もいなかった
  • 2×2デザイン(騒音レベル:低い高い)(グループ間変数は不注意レベル:普通不注意)を使用
  • 51人の学生が、2つの騒音条件下でエピソードに基づく言葉の自由想起テストを行った
  • 高騒音条件では、聴覚的背景雑音(ホワイトノイズ、78 dB)の中で動詞-名詞文を提示し、低騒音条件では、雑音なしで文を提示した

この結果、騒音の影響は、不注意グループの子どもの成績を向上させ、普通グループの子どもの成績を悪化させることとなりました。
(騒音が不注意グループと普通グループのエピソード記憶のスコア差を解消させた。)

騒音と注意力を変数とする記憶力の違い(普通N = 41,不注意:N = 10)

つまり、適度な騒音は、注意力に欠ける人にとってはパフォーマンス向上につながるものになる可能性がある、ということです。

“適度”の加減は人により違いがある?

研究のバックグラウンドとして得られていた知見としては、次のようなものもあるようです。

こちらのグラフは、縦軸が認知機能テストのパフォーマンスで、横軸が騒音レベルで、一般的には騒音レベルが低すぎる場合と高すぎる場合にパフォーマンスが減衰する傾向があるようです。
また、不注意な子ども(成績の悪い子どもも)は、普通の子ども(成績の良い子どもも)に比べて、パフォーマンスが最適化されるためには、より高いレベルの騒音が必要とのこと。

つまり現状では、何が一番良いのかが判断つかない状況と言えそうです。

個人レベルで、自分にとって最適と思われる静粛さ(騒音の加減)を探っていくのがよさそうです。

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自主的に学習することの重要性~確証バイアスの意外な機能~

いわゆる“確証バイアス”と呼ばれるものがあります。
自分が欲しい情報等を選択的に取り入れ、意思決定を誤らせてしまう、一般的にはネガティブに語られるものですが、実は意外にも学習において重要な役割を果たしています。
ここでは自主的に学習する事の重要性と確証バイアスの関係性について見ていきます。

選択の自由は学習効率をあげる

バイアスと学習の効率について調べた、興味深い研究があります。

https://www.nature.com/articles/s41562-020-0919-5.epdf

研究の内容は次のようなものです。

  • 参加者に対して2つのシンボル画像を見せ、どちらの画像がより多くのポイントを獲得できるのかを、試行錯誤しながら学習した
  • ポイントはお金に換金できる
  • ポイントが増える「報酬」のシンボルの方が、ポイントが減る「罰」のシンボルよりも早く学習することができた
  • シンボル画像の選択後に結果がわかる実験においては、選択したシンボルの「報酬」が多い場合と、選択しなかったシンボルがポイントが減点される「罰」の場合に、学習効果が高かった

ここまでの内容で言えることとして、「罰」よりも「報酬」の方が、学習効果が高いという点が一つ。
加えて、「報酬」の存在のみならず「罰」の存在からも高い学習ができる、という点です。

重要なのはここからです。

  • 参加者に対して選択肢を指示する「強制」の実験も行われた
  • 参加者は「強制」された選択肢を選んだ場合、「報酬」による学習も「罰」による学習も、同程度の学習効果、つまり学習効果が悪化した
  • 研究者は、自由な選択を行った場合、「確証バイアス」が働き一定の学習効果の向上が見られたが、選択肢を奪った強制環境においてはこの「確証バイアス」が消失した、としている

つまり、自主的に学習するのか、学習を強制されるのかで学習効果が異なる、ということです。

この知見を活かすには?

研修において、自主性の尊重を設計に組み込む

この知見を現実のビジネスや生活に活かすにはどうすれば良いでしょうか?

1つは、会社組織における研修への活用が考えられます。

一般的にビジネスの研修は、カリキュラムもコンテンツも決まっており、従業員に対して「強制」を行うものです。
「強制」の学習効率が悪いのは上述のとおりです。

会社としては、これこれを勉強して欲しい、という内容は当然にあるでしょう。

しかし、自由度を高めることはできるはずです。

例えば、オンライン教育に切り替え、学ぶ場所や時間を自由にさせる。
一定の学習範囲の中で“必要単位”を設定し、“単位履修”をすれば研修OKとする。
というようなものです。

つまり、自主性の尊重を研修の設計に組み込む、ということですね。

思考の偏りについて、それを正す“自由”が自分自身にあると思う

次に、自分自身の思考の偏りについて正すこともできると考えられます。

人間は一般的に、他人に間違いを指摘されると不愉快な気持ちになり、意固地になり、仮に本当に間違えていたとしてもそれを受け入れ改善につなげるのは容易ではありません。

しかし、自分自身で自分自身を正すのであれば、その不愉快さは軽減されるはずです。

ようは、自分自身を正す“自由”が存在する、ということです。

自分自身が考えていることについて、あえての反論(デビルズアドボケイト)を行ってみると良いかもしれません。
(この点については、上述の実験において研究者も一部指摘をしています。より正確には、陰謀論等にハマる人も、確証バイアスにより学習が強化されている、という指摘ですが。)

コントロール感の存在も重要か?

懸念としては、単純に自由度がある、自主的に取り組めば学習効果が高くなるかどうかは不明だ、という点です。

別の研究では、仮に自由度が高い、自主的に取り組める環境であったとしても、組織の上の立場なのか、それとも下の立場で学習効果が異なることが指摘されています。
(上の立場の方が、自主的に取り組んだ際の学習効果が高い。)

もしかしたら、“コントロール感”の重要性が大きいのかもしれません。

となると、単純な“自由度”という観点ではなく、“コントロール感”という観点で物事を設計していく方が正しいかもしれません。

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生産性・業務効率化

仕事中の“横やり”は本当に効率を下げるのか?

仕事中に、いわゆる“横やり”が入ると、集中力が途切れてしまい、効率を下げると言われています。
特にエンジニアやクリエイティブ業の方を中心に嫌われる、この“横やり”ですが、本当に効率を下げるのでしょうか?
明確な答えが無い問いですが、一つ示唆となる研究がありました。
どうやらケースバイケースのようです。

“横やり”による仕事の中断がストレスに与える影響

興味深い研究があります。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0306453020302596?via%3Dihub

研究の内容は次のようなものです。

  • 90人の参加者を対象とした
  • 保険会社勤務を想定し、実際のオフィス環境に似せた実験場を作った
  • 参加者には、紙の書類のデジタル化、販売数計算、アポイントメント等、様々な事務作業に従事
  • 実験では、標準となる業務に加え、追加のタスクを行う実験グループを用意
  • コントロールグループには、簡単な追加タスクを課し
  • 実験群には、面接の準備を行った上で、昇進に関わる面接を受けることが課された
  • この内、実験群は2つに分けられた
  • 実験群①は、定期的なアンケートと唾液の採取による“横やり”(業務の中断)が入った
  • 実験群②は、チャットメッセージにより、仕事の状況について即座に要約し共有するような“横やり”(業務の中断)が入った

この実験を通じて、ストレスレベルの測定が行われました。
結果は次のとおりです。
(ストレスレベルが大きい順に並べている。)

実験群① > 実験群② > コントロール

意外にも、“横やり”の度合いが大きい実験群②のストレスレベルが、相対的に“横やり”の度合いが小さい実験群①より低かったという結果が出たのです。

(より正確に言うと、ストレスホルモンと言われる「コルチゾール」の分泌量は、実験群②の方が実験群①より約2倍大きく出た一方、アンケート結果では逆転しており、ストレスを感じていないと評価されていた。)

“横やり”がストレスを増やすことには変わりないが。。。

上述の実験結果に対し研究者の考察は次のようなものです。

1つが、コミュニケーションを人と取る事により、仕事に対する確信やコントロール感が高まったのではないか、というもの。

もう1つが、“横やり”が却ってその後に来るストレス(面接)に対して集中をそらす効果があったのではないか、というものです。

つまり、“横やり”がストレスを増やすことには変わりは無いけれど、認知の仕方によっては、相対的にストレスを感じない、もしくは軽減させることはできるかもしれない、ということです。


これらの結果や考察から現実のビジネスに使える知見は何でしょうか?

繰り返しになりますが、“横やり”がストレスを増やすことには変わりはないのですが、コントロールすることはできそうです。

何かしらプレッシャーが大きいタスクが控えている状況で、何かしらの“横やり”が避けられないのでされば、自分自身に対する肯定感を高めるような、もしくはその後に控えているタスクを忘れさせるような“横やり”を意図的に組み込むのは有りかもしれません。

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生産性・業務効率化

勉強メモをとるにはキーボードより紙とペンで手書きが良い

勉強にパソコンやタブレットPCを使うことが珍しくなくなり、勉強メモをキーボードで取る方も多いでしょう。
ここで疑念がよく指摘されるのが、勉強メモを取る上において、キーボードと手書き、果たしてどちらが良いのか?という疑問です。
結論から言うと、紙とペンを用いた手書きが勉強には有利です。

2つの研究を通して、その内容を見ていきます。

手書きの方が脳が活性化

数十人の若者に対して脳活動を調査した研究があります。

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2020.01810/full

いわゆる“フード型電極”を装着して、キーボードによるメモ、手書きによるメモを両方行い、どちらが勉強に有利か?を調べたものです。

この研究では、手書きの方が脳の幅広い領域を活性化した(併せて学習効果も高かった)、というデータが取得できました。

キーボードメモは短期記憶に有利だが手書きは長期記憶に有利

もう一つの研究は、キーボードによるメモ、手書きによるメモの被験者を比較して、記憶の定着度を調査したものです。

https://www.wsj.com/articles/can-handwriting-make-you-smarter-1459784659

この研究では、キーボードによるメモの方が、メモを取れる量が多く、また短期的には(具体的には学習直後)記憶の定着度が高い、という結果がでました。

しかしながら、24時間後には、手書きによるメモの方が記憶の定着度が高い、という逆転現象が起きることも併せて判明しました。

2つの研究から、勉強には紙とペンを用いて手書きによりメモを取る方が良い、ということがわかります。

デメリットも

もちろん手書きによるメモにも弱点はあります。

2つめの研究でも指摘されていましたが、メモを取れる量については手書きの方が少ない、また話すスピードに併せて脳内で整理する弊害か、重要なワードや文脈を整理しきれず、ポイントを落としていた例もみられるそうです。

つまり、手書きによるメモには高い集中力が求められるのですね。


勉強以外に仕事でもこの知見を適用しようと思うとどうでしょう。

通常の会議においては、網羅性が一定求められることを考えると、キーボードによるメモの方が良いと言えるかもしれません。

一方、記憶の定着度が求められるような状況、例えば研修等においては手書きの方が良いでしょう。
また、通常の会議においても、最後に内容のまとめや確認を取るプロセスを挟めば、手書きによる網羅性の弊害もクリアできるはずです。

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人事・総務

給与の前払いは従業員の生産性をあげるかもしれない

従業員の生産性をあげるための方法は、古今東西、多くの職場で模索されてきました。
今回は、1つの示唆を紹介します。
もしかしたら、給与の前払いは従業員の生産性をあげるかもしれません。
(とはいえ、多くの経営者にとって、心理的に嫌な方法かもしれませんね。)

https://www.nber.org/papers/w28338

研究結果~給与の前払いと生産性~

インドの貧困層を対象にある実験が行われました。

内容としては、次のようなものです。

  • 約400人の主に貧困層を対象に約2週間実験が行われた
  • 実験の時期は厳禁が不足し、生活のために借金を行わなければいけないタイミングとした
  • 労働者は飲食店用の使い捨てのお皿を製造している
  • 約1月分の給与を前払いした実験群と、通常通り後払いの対照群で比較を行った
  • 給与の前払いを受けた実験群は、平均生産性が0.11標準偏差(6.2%)増加した
  • さらに(皿だけに)、製造のミスも少なく、集中力が高まったことも示唆された

給与の前払いは従業員の生産性をあげるのかもしれません。

給与の前払いにより生産性が向上する理由は?

給与の前払いにより生産性が向上する理由は、端的に言えば、お金が無いことによる心理的ストレスが軽減されるからであろうと推測されています。

多くの研究が、“現金が無い”という状況、つまりはお金の心配がストレスを生む、精神的負担になることを示唆しています。
(また、そんなの研究によらず、多くの方が実体験としてわかっているはずです。)
貧困が、寄生虫のように、有益なことに使うはずの精神的リソースを奪っていく、というのですね。

研究者曰く「貧困とは、つまりは“徹夜をしたようなもの”だ。」

つまり、給与を前払いすることにより、この心理的ストレス、精神的負担が軽減され、より生産的な仕事ができるようになった可能性が示唆されます。
(関連する研究でも、この可能性が支持されているとのことです。)

活用の想定

上述の研究の効果は、貧しい労働者程、その傾向が見られるとのことです。

また、論文に記載されている内容外の一般論として、同じ施策が長く続くと“慣れ”が生じるものであるため、短期労働に効用があると推測されます。

つまり、企業がこの知見を活用しようとするならば、短期の非正規雇用を対象に前払給与の施策を導入することが考えられます。

平均生産性が0.11標準偏差(6.2%)増加する、という効果は中々大きいものです。

企業は、給与の前払いが従業員の生産性をあげる可能性を意識し、人事施策を検討すると良いかもしれません。

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