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リモートワーク

「偶然のコミュニケーション」のために本当にオフィスは必要か?~イノベーションを考える~

テレワークが普及し、生産性が向上した、という声が多く出た一方、弊害についても聞かれるようになりました。
しかし、その弊害(イノベーションが生まれにくい、という意見)に科学的根拠はありません。
ここでは、オフィスとイノベーションについて、考えてみます。

やっぱりオフィスって必要だよね

テレワークが普及し、生産性が向上した、という声が多く出た一方、弊害についても聞かれるようになりました。

その一つがイノベーションの阻害。
いわゆる「偶然のコミュニケーション」が無くなることにより、イノベーションが生まれにくい環境が出来てしまった、という声です。

著名な人の声ですと、Appleのティム・クックCEOは「イノベーションは必ずしも計画的に行われるものではない。」とし、JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは「在宅勤務は自然発生的なアイデア創発には使えない。」というものがあります。

これに限らず、各所で同様の声が出て、「やっぱりオフィスって必要だよね。」という考えが経営層を中心に見受けられるようになりました。

https://diamond.jp/articles/-/243734

そこに科学的根拠は無い

優秀な方々の発言なので、「やっぱりオフィスって必要だよね。」は正しいのでしょうか?

結論から言うと、そこに科学的根拠はありません。
より正確に言うと、テレワークでもイノベーションが十分に生まれる、という研究もまだ蓄積されていないし、オフィスが無ければイノベーションが生まれない、という研究もまだ蓄積されていない状況です。
ようは、「わからない」というのが今現時点での正しい捉え方でしょう。

一方、厳しい指摘もあります。

いわく、オフィスというものはごく少数の人、特に経営層にとって居心地の良いように設計されている(からそのような発想になるのだ)、というものです。
多くの労働者にとっては、決められた時間と場所でオフィスワークを行うことは、居心地が悪い状況です。
その結果として、長時間労働、燃え尽き症候群、身心の疾患諸々、という悪影響につながっています。

(このような話もあります。)

オフィスが居心地が良いと感じる一部の人にとっては、対面コミュニケーションは望ましい、必要と感じる者でしょうし、その逆はそうではない、ということです。
コミュニケーションを取りたがる人は、どのような環境でも取りたがるし、そうでない人はオフィスでヘッドホン/イヤホンを付けて、声をかけられない様に仕事していますよね?

「偶然のコミュニケーション」によるイノベーション創発は、ごくごく少数の人による偏ったものの可能性があるのです。

(オープンオフィスの生産性については、こちらの記事も参照。)

テレワーク環境でもイノベーションに繋げるには?

オフィスに対する疑念もある中、実際、テレワーク環境でもイノベーションに繋げる考え方やアイデアが登場してきています。

例えば、そもそもとして、イノベーションが生まれやすい、もしくは生まれない、というものは組織風土の問題だ、という考えです。

確かに、これまでオフィスワークが当たり前だった環境が長年続いていますが、イノベーションからはかけ離れた企業が腐るほど存在していたのは、動かしがたい事実と言えます。

https://www.dhbr.net/articles/-/6781

また、せっかくこれだけ技術が発達してきているのだから、それを活用しよう、というアイデアもあります。
具体としては、「仮想オフィス」を設置し、そこでコミュニケーションを取ろう、というものです。
(これらは、ほんの一例です。)

対面だとコミュニケーションが取りづらかった人でも、オンラインだとコミュニケーションが取れる場合があるので、より多くの視点を得ることに繋げることもできるでしょう。
(いわゆる“コミュニケーション能力”的観点のみならず、遠隔地にいる多様な人とコミュニケーションが取りやすくなる、という視点も当然にある。)

https://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/m005933.html

オフィスに対して否定的意見を書いてきましたが、一概に否定するものではないと考えています。
テレワークが当たり前になると、逆にたまに顔をあわせてのコミュニケーションが新鮮に、楽しく感じるものです。
(ネガティブに捉えると、出社する人が優遇され、テレワークで働く人が冷遇されるリスクも考えられる。)

そして、テレワークには明確なメリット、作業にフォーカスした場合の生産性向上、がありますので、活用しない手はありません。

イノベーション云々については上述のとおり答えのある世界では無いので、目の前の組織・働き方設計としては、うまくハイブリッドさせていくのが良い塩梅では無いかと考えます。

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生産性・業務効率化

アイスランドが「給与そのままで週休3日試験導入」を成功させたようです

アイスランドにて、週休3日制の試験導入が行われて、一定の成功を収めたようです。
トライアルには全労働人口の1%にあたる2,500人が参加し、普遍的に対応できると結論付けられたとのこと。
労働者のメンタル面や幸福度等にもプラスの影響を与えているとのことです。
内容を見てみましょう。

大元のPDFデータはこちらで見れます。

https://en.alda.is/wp-content/uploads/2021/07/ICELAND_4DW.pdf

概要

週休3日制のトライアルが給与の削減を伴わない形で、アイスランドで行われました。
期間はトータル、7年間行われたそうです。
(週休3日制、というよりかは労働時間の削減、の方が正確か。)

目的は、ワークライフバランスの改善のみならず、生産性の維持・向上も図るものです。
対象は、オフィスや学校、病院等々、幅広い業種において行われました。

結論として、多くの職場において、労働時間を削減したとしても生産性とサービス提供の質は変わらないか、むしろ向上した、とされています。
加えて、ストレス、燃え尽き症候群、健康、ワークライフバランス等々の様々な指標の改善につながりました。

アイスランドでは、このトライアルの結果を受けて、国全体として労働時間の短縮が進んでおり、この流れは止まらないだろう、とされています。

どのような結果がもたらされたか?

労働時間の短縮により、労働者のウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態)とワークライフバランス大幅に向上し、その一方で、既存のサービス提供レベルと生産性は少なくとも維持され、場合によっては向上したことがわかりました。

例えば、次のような有益な効果が出たそうです。

  • パートナーと過ごす時間や家事に費やす時間が増えることで、家庭でのストレスが軽減される
  • より広い範囲の家族や友人と過ごす時間が増える
  • 趣味や情熱、その他の関心事、あるいは単に休息のための自分のための時間が増える
  • 平日に家事や家事に費やす時間が増えることで、週末に使える時間が増え、その質が向上する
  • 男性が家事の責任を負うことで、より公平な役割分担が可能になる

また、この効果は短期的なものではなく、継続的に見られたとのこと。

全労働力の1%が参加し様々な職種で明確な成果が出たことを受け、労働時間の短縮が実行可能性のある非常に有益な政策であること、このトライアルが旗振り役となるであろうことがレポートには記載されています。

どんなことに取り組んだ?マイナスはないのか?

労働時間の短縮に表面上取り組むと、同じ生産量を維持するために、労働者は公式または非公式の残業によって「失われた時間」を補うことになり、意図せずに過労死につながるという懸念がよく聞かれます。

このトライアルは、この一般論に反する結果となりました。

では、どのようなことに取り組み、このような結果につながったのかというと、会議の短縮、不要な作業の削減、シフトの調整、仕事の進め方の見直し、というようなある種、取り組みやすい改善策があげられます。

また、会社の社長やマネージャーといった役職者も率先して、これらの“働き方改革”に取り組んだことが見て取れます。
上の立場の人間が、率先して会社の慣行を変えようとしなければ、組織全体の慣行を変えることはできないので、この点は非常に大きなウェイトをしめているのでは、と推測されます。

一方、多くの職場において業務プロセスは複雑で無く、より最適化された働き方について見出だしやすかった、というような指摘もあります。
欧米ではジョブディスクリプションが日本より明確になっている場合が多いため、この点も労働時間の短縮による生産性の維持・向上が成功しやすかった要因では無いかと推測されます。

また、難点もあります。
主にヘルスケア分野において、不足するリソースを補うために、追加の人員を採用した例もある、というような記述も見かけます。
レポート内では「大した負担ではない」と書かれていますが、利益率の低い産業や国においては、単純に模倣することができないのでは、というような疑念を抱きます。


以上、簡単ですが、アイスランドでの労働時間の短縮により、生産性の維持・向上の取り組みについて、レポートの内容を抜粋してきました。

所感としては、「日本では無理だな」という点です。

根本的な効率化について、それを阻む風潮が国全体としてありますし、また元々利益率が低い国柄でもあります。
会社慣行をトップが率先して変えよう、というような動きも起き辛いでしょう。

一方、先進的な考え方を持っている企業では導入が可能な取組みとも言えます。
国単位での導入は夢物語でしょうが、競争力の維持・向上を図りたい企業は、アイスランドの事例を参考にしてみるのは価値がある可能性があります。

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生産性・業務効率化

高速で「習慣化」する方法

何かこれまで出来ていなかったことを「習慣化」したいと考える人は多いはずです。
しかし、習慣化には時間がかかり、3週間かかるという話もあれば、2ヶ月以上の時間が必要だ、という話もあります。
今回は、この時間がかかる習慣化を高速で行う方法について考えてみます。

「習慣化」かかる時間

さて、「習慣化」にかかる時間ですが、これは各所で語られている所なので、概要だけ示します。

結論、諸説があり、よくわかりません。

その上で、多くの場所で引き合いに出されている研究で示されている日数が「18日~250日以上」となっており、平均は「66日」との事です。

こちらの記事も参考になります。
記事内では、上記の日数が示されると共に、下記の2点について言及しています。

  • 習慣化に必要な日数ははっきりとはわからない
  • 簡単な行動ほど習慣化しやすく、難しい行動ほど習慣化しづらい

つまり、どれくらいかかるかわからないし、少なくとも長い時間が必要だ、という事です。

例示記事以外ですと、例えば下記のようなヒントも提示されていますが、やはり大変そうです。

  • 複雑なものより、簡単にできる小さなノルマから始める
  • 2日以上はサボらないようにする
  • とりあえず、66日間は続けてみる

これで話を終わらせては「チーン」ですので、もう少し考えてみましょう。

高速で「習慣化」する方法

それでは本題の、高速で「習慣化」する方法に入ってみます。

為念で言っておくと、これから書くのも所詮は「ヒント」です。
身も蓋も無いことを言うと、習慣化できる人は習慣化できますし、できない人はできません。
それ前提で、読んでください。

海外のニュース記事の投稿サイトの書き込みです。

米空軍での習慣化トレーニング法「10回以上の即時反復」

空軍の基本トレーニングでは、習慣化のために、次のことを短い時間の内に反復する。

1)指導教官が部屋の照明をオンにする ⇒ 訓練兵は即時に起床し、数秒でベッドメイクをする
2)指導教官が部屋の照明をオフにする ⇒ ベッドに戻り睡眠に入る
3)適度な時間を起き1)と2)を行う、以下繰り返し

これを続けて10回~20回繰り返すと、新しい習慣が身体に刻まれる。

日常のことに置きかえて考えてみる。

例えば「帰宅した時にコートを放り投げて散らかす癖を直したい」という場合。

1)帰宅したらすぐにクローゼットにハンガーにかけて吊るす
2)コートを着用し外出する
3)しばらくしたら帰宅し1)と2)を実行、以下繰り返し

これを10回ほど繰り返すと、帰宅するとコートを放り投げずにクローゼットに吊るす、という習慣が身に付く。

(原文)
LPT: Repeat a desired habit immediately >10x to ‘lock it in.’

In Air Force basic training the training instructors would turn on the lights and we’d jump out of bed and make the bed in seconds. Then they’d tell us to get back into bed, turn off the lights, and do it again (good times).

After ten or twenty repetitions in a row, your body gets the idea.

I used this recently to teach myself to hang up my coat when I get in. Enter home, walk to closet, hang coat on hanger. Grab coat, walk back out of home. Repeat ten or so times and it replaces ‘chuck your coat wherever’ reflex.

Edit: wrong version of hanger. Not where we kept our airplanes.

どう感じましたか?

筆者はこれを最初に読んだ時、「なるほど!」と思いました。

教育学における知見で「過剰学習」というものがあります。

「過剰学習」とは、簡単に言うと、身に着けた行動(実行可能な行動)を短期間に過剰なまでに繰り返すことにより、理解度の向上と、長期の定着を導ける、という知見です。

上記の空軍トレーニングは、それが本当に行われている事なのかどうかは果たして知りませんが、この「過剰学習」に通ずる所があるように思います。

結局の所、「人による」ということになるのでしょうが、何か新しい事を高速で習慣化したいと考えるならば、実行する価値はあるのではないでしょうか。


以上、高速で「習慣化」する方法について考えてきました。

なお、この種のノウハウやヒントについて、「それはいいね!」と反応を返す人は、まぁまぁいます。
しかし、実行に移して血肉にする人は、極めて限られます。

個人的には、「習慣化」に本当に必要な事は、「すぐに実行する」という行動マインドのようにも思いますね。

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生産性・業務効率化

改めて考える根性論の肯定

根性論、という言葉がネガティブな意味合いを持ち久しくなりました。
著名なスポーツ選手をはじめ、根性論は良くないよね、という主張が出ており、また、いわゆる‟ブラック企業”の存在により、根性論は悪だ、というイメージが定着しました。
しかし、本当に根性論は不要な、意味が無いものなのでしょうか?

結論、根性論は必要で、効果があります。ただし、条件付きです。

根性論が嫌われる理由

根性論は何故嫌われるのでしょうか?

答えはシンプルで、無理強いをする場面でよく使われるからです。

ここ最近では、全くの感染症対策を行わず、
「一人一人が気をつけて、健康管理に万全の注意を払っていれば問題無し(よって、会社としての対策は不要)」
という経営者がいました。

営業成績で、会社としての戦略に欠ける状況で、社員一人一人の頑張りだけに依拠するような場面でも言及されます。
「なんで、成績が出ないんだ!もっと、頑張れ!」
「(店内から感染者が出たけれど)数字のために自分たちは頑張ろう!」

ここ近年では急激に是正されていますが、長時間労働でもそうです。
「なんで皆が頑張っているのに、お前は早く帰るんだ。もっと仕事しろ!」

いわゆる‟ブラック企業”というものの存在です。

このような、強いられた環境で、心や身体をすり減らす人が大勢おり、根性論にネガティブなイメージがついてきました。
そのため、根性論を肯定する言説は、奴隷的根性というような形で揶揄されるようになりました。

この観点での根性論否定は全く正しいと考えます。
上記の例は、極めて合理性に欠ける話だからです。

根性論の肯定

ただし、ある場面においては、極めて有効に機能するのも根性論です。

それは、戦略面もしくは方法論がしっかりしている状況で、その戦略や方法論を実行する場面においてです。

例えば、スポーツ選手で考えてみましょう。
科学的で無いトレーニングを長時間やっても無駄で、むしろ身体を壊すリスクが高いのは自明でしょう。
しかし、科学的なトレーニングを長期間行うのは当然に有効です。
ここで問題になるのは、では、その科学的なトレーニングを本当に長期間、間違いなく実行し続けられるのか?という点です。
成果を出している選手は、想像を絶する膨大な量のトレーニングを積んでいます。
そして、本当に栄光を掴めるかどうかわからない状況下で、その想像を絶する膨大な量を支えているのが、例えば「絶対に勝つ!」という精神から来るもの、つまり根性論です。

ビジネスの場面でもそうです。
営業を1件でも多くまわる、ブログを1本毎日更新する、今日はここまで絶対に終わらせる、etc。

新型コロナウイルスによる経済的影響もそうです。
一例では、銀行融資・VCからの投資、これを受けられるように最後の最後まで努力した会社は資金調達に成功しています。
(追い打ちをかける意図はありませんが、倒産をした企業の中には、経営者として別の会社に0円で売却をし負債を引き受けてもらまでの覚悟を決めたなら、存続の道はまだあったはずです。)

同じような能力を持った人間同士が成果を競い合った場合、勝敗をわけるのは、最後の+α、根性論です。

イメージとしては次の図です。

下の土台無しの根性論は、短期的には成果は出るかもしれませんが、人々を疲弊させ、強いては組織の崩壊につながっていきます。
(最近話題にあがっている、かんぽの不正も、具体的な戦略・戦術が無い状況で、数字と言うノルマを押し付けた結果として起きていますね。)

まとめ

これまでの内容をまとめると次のようになります。

  • 無理強いしてはいけない、従業員の疲弊や不正が起きる
  • 戦略や方法論があって機能する(科学的、合理的であること)
  • 最後の一押し、勝負をわける

結局、世の中で成功をおさめている人たちは、何かしら最後の最後で根性を見せています。
そして、これは日本だけに限らず、グローバルな話で共通です。

単純に条件反射的に根性論を否定するのは、人生と言う観点で損をします。
根性論を肯定的観点で捉えるてみるのはいかがでしょうか。

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生産性・業務効率化

リモートワークは生産性が悪いらしい、が望まれているらしい

ピアボーナス「Unipos」を提供しているUnipos㈱より、「テレワーク長期化に伴う組織課題」に関する意識調査の結果が公表されました。
どうやら、リモートワークは生産性が悪くなるらしいです。
そして、それでもリモートワークの継続を望む人が多いらしいです。

リモートワークの生産性は研究ベースだと「よくわからない」

以前の記事で、リモートワークの生産性の記事を書きました。

様々な研究を横断的にレビューした結果として、リモートワークは個人にとっても企業にとっても、メリット・デメリットがあり、その生産性については「よくわからない」という結論です。

今回、Unipos社は、リモートワークの課題についてアンケート調査を実施しました。
その中でリモートワークの生産性について触れられていたので、今回取り上げます。

Unipos社の調査

調査概要

Uniposu社は、4月24日~27日の4日間にわたり、インターネットリサーチの方法で管理職333名を含む、総計886名の20-59歳男女にアンケート調査をとりました。

調査項目は下記の7つです。

  • リモートワークの導入状況
  • チームの生産性の変化
  • 部下の仕事ぶりの変化
  • 上司や同僚の様子の変化
  • リモートワーク長期化に伴う課題
  • リモートワーク開始にあわせて導入したITツールの生産性
  • コロナ影響収束後のリモートワーク継続の意思

とりあえず詳細はUnipos社リリースを参照ください。
自社システムの導入を促すポジション調査ではある印象ですが、n数は大きいので参考になるはずです。

検証材料から除外

リモートワークの導入状況については、クロス集計がされた資料があれば、言える事もでてくるのですが、これだけだと各回答にどのような影響があるのかわからないのでパスします。

ITツールの生産性も、導入した結果、生産性があがったのか下がったのか、それとも既存のITツールに対する評価も含みなのかがよくわからないのでパスします。
というか、従業員エンゲージメント向上ツールを導入した結果、生産性が高くなったが26.7%なのに対し、低くなったが23.3%もいるので、「結局、組織によるのでは?」疑惑があるので、これで何が言えるのかも不明ですし。

リモートワークで生産性は悪化、周囲の様子の把握に難点がある

悪化したというLOW層が50%存在

Unipos社調査をサマると下記のようなイメージになります。
HIは、生産性が高くなった、周囲の様子がよくわかった、リモートワークを継続したい、などのポジティブな反応。
LOWは、逆に低くなった、わかりづらい、リモートワークを継続したくない、というネガティブな反応です。
NLはニュートラルな反応を示しています。

Unipos社調査より作成

これを見ると、生産性は明らかに悪化したという反応が出ていることがわかります。
同様に、部下の仕事ぶりや、上司・同僚の様子についても、わかりづらいという反応が出ています。

一方、HI層はこの3項目に関しては、いずれも1桁%台なので、リモートワークによって生産性が高くなった、周囲の様子がよくわかるようになった、というのはマイノリティだ、ということがわかります。

NL層の存在が重要

不思議に思うのがNL層です。
NL層が3つの質問いずれも40%前後存在し、オフィスワークもリモートワークも大して変わらないと感じている層が結構なボリュームで存在することがわかります。

私は、このNL層が重要だと感じています。
オフィスワークとリモートワークを対立させた場合、仮に生産性が変わらないのであるならば、リモートワークを選択した方が良いはずだからです。
(個人レベルで見たら時間の節約になりますし、会社レベルで見てもオフィス費用という高い固定費を削減できるので。)

そう考えると、NL層はHI層と合算して考えるのが適切だと思われます。
つまり、リモートワークによって、0以上の生産性があった層(変化なしの0を含む)と、マイナス層がほぼ同じ割合がいるということです。

これだけ見ると、リモートワークでいいんじゃない?という考えに、やはりなってしまいますね。

とりあえず、多くの働く人はオフィスワークは嫌なご様子

生産性が低下した、周囲の様子がわかりづらい、というLOW層が50%前後存在する一方、リモートワークの継続を望む方も50%前後存在します。
特に管理職です(56.1%)。

そんなにオフィスワークは嫌か、と思いはしますが、まあそうですよね。

何はともあれ、新型コロナウイルスの影響が落ち着いても、リモートワークを経験した会社・人においては、リモートワークの継続圧力が高まることが予想されます。
こちらに関しては、予想どおり、既得権益化してきたようです。

課題認識

課題認識については、n数を分母として、割合で再作成しました。

Unipos社調査より作成

内容としては、概ねそうだろうな、というものです。

よくわからないのが、管理職の方が軒並みパーセンテージが高い点です。

これは、管理職の方が目線が高いから感じる課題意識も高いのか、それとも年齢層が高くなり最新のITツールを使いこなせない、文化になじめないからなのかが読み取れないからです。

どちらの可能性もありそうではあります。

アフターコロナはやはりリモートワークの社会になりそう

通して感じることとしては、二極化が進んでいくのだろうな、ということです。

まず、多くの人がリモートワークを望んでいることがわかりました。
その上で、生産については0以上とマイナスが半々ずつです。

アフターコロナの世界では、リモートワークを継続し生産性も下げずに対応しきった組織と、リモートワークを継続するも生産性が下がった組織やそもそもリモートワークをやれずにジリ貧で経営を続ける組織の2つに、大きく分かれていきそうな予感がします。
とりあえず、社会がリモートワーク化していくことは間違いなさそうです。
(それでも、トータルで見てみると前年比+〇%、みたいな少しずつには落ち着くのでしょうが。)

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生産性・業務効率化

もしかしたら日本は生まれ変われるかもしれない~リモート化がグローバル化に繋がる~

日本は島国気質であり、グローバル化への対応も諸外国に比べて相対的に遅れています。
これがもしかしたら変化するかもしれない、とここ最近思い始めています。
それはリモート化により、コミュニケーション・コンテクストに変化が起きるからです。
リモート化を企業のレベルアップにつなげたいと考えている方向けに解説していきます。

忙しい人向けまとめ

リモート化により起きる変化

  • リモート化により日本でローコンテクスト文化が浸透する
  • これによりグローバル化への対応が自然と進む
  • なぜならば、欧米のコミュニケーションはローコンテクスト文化だから

コンテクストとは

  • ハイコンテクストとは「空気を読む」「察し」の文化、日本の特徴
  • ローコンテクストとは、言葉そのものでコミュニケーションが行われる文化、明確で正確な指示が必要
  • 日本のハイコンテクスト文化が、グローバル化への対応の妨げになっていた

リモート化対応で必要なこと、起きること

  • リモート化にはローコンテクストコミュニケーションへの移行が必要
  • 「顔が見えない」「言葉以外で伝えようがない」から
  • ローコンテクストコミュニケーションにより、情報の保存性や共有性が向上する
  • ロジカルに考える癖も身に付きやすい環境に置かれる
  • 生産性が向上し、グローバル化への対応も進むかもしれない

ローコンテクストコミュニケーションのポイント

  • 「言語化」「可視化」「定量化」を明確に正確に行うこと
  • そして、個々人の感情への配慮

リモート化によりコミュニケーション・コンテクストに変化が起きる

リモート化があちらこちらの会社で進み、どのように感じているでしょうか?
コミュニケーションがやりづらい、つい電話であったり、テレビ会議を多用したり、なんとか今まで通りに近いコミュニケーションをとろうとしてはいませんでしょうか?

何故、このようなことが起きるかというと、日本はハイコンテクスト文化のコミュニケーションが浸透しているからです。
一方、Slackのようなビジネス・チャットツール上でのコミュニケーションは、必然的にローコンテクストになりやすい環境でのやりとりになります。

そのため、全ての企業や、順応できる企業でもいきなりは無理でしょうが、日本のコミュニケーション文化がハイコンテクスト文化から、ローコンテクスト文化に変化していくのでは?と考えました。
そして、このローコンテクスト文化の浸透は、日本人が今まで苦手としていたグローバル化への対応にもつながる、と考えました。

三段論法的に言うと、リモート化により日本でローコンテクスト文化が浸透する、これによりグローバル化への対応が自然と進む(なぜならば、欧米のコミュニケーションはローコンテクスト文化だから)、というロジック構造です。

コンテクストとは

そもそもとしてコンテクストとは?という話をする必要があるかと思います。

コンテクストとは一言で書くと「コミュニケーションを取り巻く様々な状況」のことです。
コミュニケーションを取り巻く様々な状況とは、時間や状況、場所などの、つまりは「TPO」のことです。

ある人ともう一人別の人が会話をするとき、様々な状況がその二人を取り巻いています。
例えば、話す場所や時間帯、周囲にいる人々、その時々の気分やタイミング、二人の関係性などです。
こういった様々な状況を考慮せずにコミュニケーションを取る人に対して、日本では「空気が読めない」と揶揄をします。

このような、「空気を読む」行為、TPOから多くの情報を得ようとするコミュニケーション文化のことを「ハイコンテクスト」と言います。
つまりは、「察し」の文化ですね。
ビジネス上でのやり取りでは、曖昧な指示などが飛んだ場合、これがローコンテクストです。

一方、TPOなどのコンテクストよりも、実際に表現された言葉から意味や情報を得ようとする文化のことを「ローコンテクスト」と言います。
言葉通りのコミュニケーションになるわけですね。
ビジネス上でのやり取りでは、明確で正確な指示が必要になります。

ハイコンテクストなコミュニケーション文化は、日本のような長い歴史をもち、かつ人々の流動性が少ない国で見られる光景です。
日本以外ですと、中国や韓国を中心としたアジア諸国、アフリカ系コミュニティや各国の先住民系コミュニティがハイコンテクスト文化を持っています。
一方、欧米は人々の流動性が高く、歴史の分断が大きい傾向が強く、ローコンテクスト文化が浸透しています。
イタリアやラテン系、アラブ諸国などは中間位です。

異文化コミュニケーションを行う場合、ハイコンテクスト文化に所属する人は、ローコンテクスト文化の人たちに対して、できるだけ明確で正確に多くの言葉を使ってコミュニケーションをとる必要があります。
曖昧な表現では伝わらないのです。
ローコンテクスト文化の人がハイコンテクスト文化の人にコミュニケーションをとる場合は、ハイコンテクスト側からすると「ストレートに言うなぁ、、、」とは思うことが多いですが、とりたいコミュニケーションの内容自体はとれるので、あまり問題はありません。
(これは、あくまでもマクロ的な全体感、傾向の話なので、個別コミュニケーションでは該当しないことは当然に多い。)

リモートワークで大事なローコンテクストコミュニケーション

リモートワークで大事なのはローコンテクストコミュニケーションです。
これは、お互いに「顔が見えない」「言葉以外で伝えようがない」からです。
(実際には、オフィスワークでも必要なはずなのだが。)

中高年の方でリモートワークに苦手意識や場合によっては嫌悪感を抱くのは、このローコンテクストコミュニケーションが不得手だからなのでは、と推測しています。
中高年の方の会話はどうしてもハイコンテクストになりがちで、そのため社歴であったり世代やグローバルの壁を越えにくいのでは、そしてそれはリモートにも影響している可能性があります。
これにより、ついつい電話をしたくなったりしないでしょうか?中高年の方。

これは、電話を嫌がる傾向が強い今の若者たちにとっても、組織にとっても悪影響を及ぼします。
コミュニケーション内容の保存性や共有性の観点から、非生産的であるからです。

逆にいうと、コミュニケーションをローコンテクストにすることにより、そして最新のデジタルツールを活用することによって、日本企業はその生産性をあげることができるのではないでしょうか?
日本では長らくハイコンテクストコミュニケーションがとられ、それを汲み取ることを良しとされてきました。
ロジカルで明確なコミュニケーションは軽視されてきました。
そのため、多くの日本企業が社外とのリレーションシップを苦手としており、特に海外対応、つまりはグローバル化対応を阻む要因になってきたと考えています。

Slackのようなチャットツールでは明確に空気感は伝わらないですし、Zoomのような会議ツールでは、多少は空気感が伝わりますが、対面コミュニケーション以上には伝わりません。
リモート化に対応するためには、事前に情報を整理しロジカルに考えるなど準備をし、ローコンテクストに語る必要があります。
なあなあの会話でやってきたことが通用しなくなるので、必然的にロジカルに考える環境に身を置かれることになります。
ローコンテクスト文化ですと、背景の異なる第三者とのコミュニケーション上の認識のズレが起きづらくなるのです。

ハイコンテクストコミュニケーションをとりたい、という欲求を抑え、ローコンテクストに移行すれば、日本企業の生産性は向上し、またグローバル化への対応も進むはずなのです。

ローコンテクストなコミュニケーションをとろう

最後にローコンテクストコミュニケーションをとるための指針を書いていきます。

プロジェクトの生産性を高めるローコンテクストコミュニケーション

  • 方針、ポリシーを言語化し、メンバーが同じものを見れるようにする
  • タスクを可視化し、いつまでに何をやらなければならないか定量化する
  • 情報をオープンにしメンバーが自分でデータをとれるようにする
  • リモート会議を減らしテキストベースで完結させる
  • 働く時間を明確化しメリハリをつける

チームの生産性を高めるローコンテクストコミュニケーション

  • ローコンテクストコミュニケーションを心がける
  • きちんと挨拶をし、その日の調子を伝える
  • ポジティブ面もネガティブ面も含め、フィードバックをする
  • 絵文字やカジュアルワードで、感情が読みやすいテキストにする
  • 積極的に雑談する

ポイントは「言語化」「可視化」「定量化」です。
ローコンテクストであることを前提に、ビジネス上でのやり取りを、明確に正確に言語化して物事を伝えるようにしましょう。
煩雑なコミュニケーションをとらなくても、メンバーが情報をとれるように、できるかぎり情報のオープン化につとめましょう。
そして、「言語化」「可視化」されたコミュニケーション・情報については、極力「定量化」を行うように心がけましょう。

また、個々人の感情にも気を配るようにすることも大事です。
ローコンテクストコミュニケーションは冷たく受け止められがちです。
(欧米の人も、ストレートに伝えすぎると、結構傷つく。コンテクスト部分がゼロなわけではない。)
テキスト発信に関して、何かしらスタンプなどリアクションを行う、できれば返信を行う、感謝の気持ちはストレートに伝える、特にポジティブフィードバックについては積極的に伝える。
このように、テキスト上でのやり取りに感情を込める習慣化が大事です。

このリモート化を、致し方なく対応するものではなく、一つのチャンスだと捉えていきたいものです。

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生産性・業務効率化

エルゴノミクス(人間工学)製品はオフィスの生産性をあげるのか?

近年のベンチャー企業オフィスにおいて、エルゴノミクス(人間工学)に基づいた製品を導入する例が増えてきました。
「生産性をあげるから」が理由のようですが、本当に生産性はあがるのでしょうか?
具体的な研究から示唆される内容をもとに、考えてみます。

忙しい人向けまとめ

  • エルゴノミクス製品の使用により、快適感が向上する人がいる
  • 不快であるとする人も同割合でいて、「慣れ」「トレーニング」が必要
  • 疲労度の軽減にはあまり効果がない
  • 快適感や疲労度に関しては「バイアス」の影響が大きい
  • 素直に、睡眠・運動・リラックスをすることが重要
  • エルゴノミクス(人間工学)と「生産性」に関する研究はほとんどない

エルゴノミクス(人間工学)とは

エルゴノミクスとは、ハードウェアやソフトウェアなどについて、快適で使いやすい道具にするための設計やデザインのことで、人間工学と訳されます。

元々は産業分野における、人が扱う機械の使いやすさから発祥した研究分野ですが、近年のITの発展に伴い、扱いやすいコンピュータ機器のデザインとして、よくその言葉を聞きます。
一般的には、エルゴノミクス製品を使うことにより、眼精疲労や肩コリ、腰痛、むくみなどが軽減され、ストレスに悩まされにくくなる、とされています。

オフィス・デザインにおいては、従業員が使うデスクやチェア、キーボード、マウス、ディスプレイなどのオフィス・ファシリティについて検討されたり、組織全体としての生産性や創造性の向上を目的に、クリエイティビティなデザインと共にエルゴノミクス製品を取り入れるオフィスが増えています。

エルゴノミクス(人間工学)製品の有用性について

エルゴノミクス製品の有用性について、研究されたものを探したので、いくつか紹介します。

早稲田大学の研究(学生による実験)では、エルゴノミクス製品を使用することにより、筋活動量が有意に減ることが示されています。
生産性評価はされていませんが、エルゴノミクス製品の試用による疲労度の軽減が示唆されるほか、例えばノートパソコンのような作業がしにくい環境において、慣れにより疲労が蓄積しているにも関わらず、疲労を感じにくくなっていることが示唆されています。

慶応義塾大学の実証実験(広告的実験であることと、当時のリンクは無く、記事のみ)では、エルゴノミクス製品に対する慣れが進むほど、エルゴノミクス製品の方が使いやすくなることが示されている他、疲れにくくなった、という意見が出ています。
主観的評価であることと、疲労度評価がされていないことは留意です。

他にもあるにはあるのですが、主にエルゴノミクス製品を生産・発売しているメーカー発のものが多いことがわかりました。
主に「疲労度」にアプローチをあてたものが中心で、「生産性」にアプローチしているものはほとんどありませんでした。

なお、この種の研究で行われる生産性評価は、タイピングにおける打鍵数の比較や、何かものを仕分けるなどの単純タスクが中心であり、実際のオフィス環境で行われる作業内容とは乖離している場合が多いことは留意する必要があります。

エルゴノミクス製品は本当に有用か?疑問の提示

エルゴノミクス製品には「慣れ」が必要

上述、慶応義塾大学での実証実験でも一定示されていましたが、エルゴノミクス製品には「慣れ」が必要です。

米コーネル大学の研究では、エルゴノミクス製品を揃えたワークステーション環境を用意し、非エルゴノミクス環境下との比較で、その有用性が調査されています。
調査の結果、約33%ほどの従業員がエルゴノミクス製品を快適であるとしているのに対し、ほぼ同数の約33%ほどの従業員が不快であると回答しています。
勤務時間中に、首、肩、背中、手首などに不快感が報告されており、作業活動を妨げている、というのです。
つまり、快適である、と、不快である、がほぼ同数だったのです。

同研究では、エルゴノミクス環境に対して、トレーニングを積ませると、新しいワークステーション環境に適合し、問題が「軽減」されることを併せて示しています。
つまり、「慣れ」が必要であり、「教育コスト」がかかるのです。

姿勢と身体の痛みは、あまり関係がない?

オーストラリアで行われた研究では、「姿勢の悪さ」と「首の痛み」についてその関係が調査されており、座った時の姿勢と首の痛みには関係がないことが示されています。
むしろ、若い方においては、「気分」との関連性の方が大きいことが示されました。
(そうか、悩みや心の痛みは、やはり身体に影響を与えるんだね。)

こちらの研究では、もっと辛辣に、エルゴノミクス製品のような、姿勢を正す器具類の使用によって、身体の痛みを防げることは、ほぼほぼ有用でないか、まったく有用でないと、しています。
研究では、「バイアス」の影響が大きいことが言及されています。
全体として質の高い研究が少なく、エルゴノミクス製品の有用性について判断がしづらいこと、さらに質の高い研究が必要なこと、が併せて言及されています。
本研究は2018年に発表されたもので、かつメタ研究であることもあり、現時点における比較的信頼性の高い研究と言えます。

なお、別の観点での研究においてはすでに発生している痛みの軽減に関しては、エルゴノミクス製品が有用である、と示唆されています。
こちらもメタ研究であり、現時点における信頼性としては、高い報告と言えます。

疲労度軽減には素直に睡眠・運動・リラックスが有効

これまで見てきた通り、エルゴノミクス製品は人によって快適感の向上につながることが示されている一方、比較的多くの人に対して「慣れ」「トレーニング」が必要であることが示されました。
「疲労度」に関しては、軽減するとする研究もあるものの質が低く、メタ研究ではあまり効果が無い、というのが現時点での意見となっています。

エルゴノミクス製品を生産・販売している企業による広告的な研究が多い事や、エルゴノミクス製品そのものを使用していることに対する「バイアス」的なものが多いのでは?というのが研究をメタ・レビューしてみての感想です。
ただ、まだエルゴノミクス・研究は意外なほど量が少なく、十分な研究がされていない、というのが現実です。
さらに研究が進み、真に生産性を向上させるデザインが発明されることは十分に考えられます。

英ハートフォードシャー大学によるメタ研究では、エルゴノミクス製品に関して上述のような研究に触れつつ、こう意見を述べています。
睡眠、運動、リラックスをすること。

身もふたもない。

最後に私見

繰り返しますが、エルゴノミクス製品と生産性に関しては、研究がほとんどありません。
私見になりますが、「慣れた」環境が結局の所、生産性の向上(というか維持)には効果的と考えます。

一般的に普及しているスタンダードなキーボード、マウス、デスク、チェア。
オフィスにおける生産性投資に関しては、そういったもので十分であると考えられ、かつスタンダードなものはコストを明確に抑えられます。

現在の人不足からくる採用難対策として、ハイセンスでクリエイティビティのあるオフィスにすることは一定有用かもしれませんが、オフィス・ファシリティにまで、過剰に持ち込む必要はなさそうです。

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生産性・業務効率化

オープンオフィスの議論~本当に生産性をあげるのか?~

日本では従来よりオープン形式のオフィスが主流で、近年では特にITベンチャー企業を中心に、デザイン性の高い、クリエイティブな空間を意識したオープンオフィスが流行しています。
しかしながら、オープンオフィスは、その生産性について多くのネガティブな研究が発表されているのが事実です。

ここでは、オープンオフィスの生産性について、実際の研究を元に解説していきます。

生産性については多数のネガティブな研究が報告されている

オープンオフィスは、その文字通りオープンに広がった環境によって、アイデアが生まれやすくなったり、仕事の効率、つまりは生産性が高まるというメリットが語られてきいました。
ここで、オープンオフィスの大本を辿ってみると、1950年代のドイツにさかのぼります。
元々の思想としては、集団のコミュニケーションを活発にし、チームワークを高める、つまりはチームビルディング効果を高める目的をかかげ、導入されました。
つまり、元々は生産性については語られておらず、その先進性だけが世界各国の企業に広まっていった、という点が、まずはの大前提です。

次にいくつかの研究を紹介します。

米ハーバード大学で行われた研究では、オープンオフィスでは、かえってコミュニケーションが減り、集合知も生まれにくくなることが示されました。
オープンオフィスとクローズオフィスで比較した結果、オープンオフィスではクローズオフィスに比べて、コミュニケーションの時間が約70%減少し、デジタル上でのやり取りが平均約40%増加しました。
併せて、生産性も低下した、とされています。

研究では、同じチームに所属していたメンバー同士では、直接のやりとりが増える傾向があったものの、大きな影響は無かったとのことです。
なお、性別とコミュニケーション量には相関関係がなかったとのことです。

別の研究では、オープンオフィスを採用した結果、従業員の集中力が低下し、生産性が15%低下したという結果がでています。
従業員が何かしらの病気にかかる頻度も2倍に増えたとのことです。

実際、対象となった職場では、時間内で業務を終えられず、自宅に持ち帰って仕事をする頻度が増えたとのことです。

こちらの研究でも、オープンオフィスで働く人と、クローズオフィスで働く人では、オープンオフィスで働く人の方が明確に生産性が低いことが示されています。

こういった結果は限られた研究が出したネガティブキャンペーンではなく、非常に多くの研究がオープンオフィスの生産性について、ネガティブな報告を出しています   )。

一応、オープンオフィスのメリットはある

それでは、本当にネガティブな効果だけなのでしょうか?

調査してみた結果、ポジティブな研究はありました。
しかしながら内容としては、運動量が増加する、というものでした。

オープンオフィスにした結果、運動量が増加するので、運動不足になりがちなオフィスワーカーにとって健康効果が増進し、運動不足に起因するストレスが低下するという報告が出ています。

確かにメリットといえばメリットなのですが、クリエイティブ、アイデア云々という点で期待していた点とは方向性が全く異なります。

オープンオフィスの何が良くないのか?

それでは、オープンオフィスの何が良くないのでしょうか?

それは、次の通りです。 一つ一つ見ていきます。

  • 集中力の低下
  • プライバシーの喪失
  • 健康への悪影響
  • 騒音による悪影響
  • コミュニケーションの質の低下

集中力の低下

オープンオフィスがうまく行かない最も大きな原因と推測されるのが、集中力の低下です。

こちらの記事でも解説していますが、人間は「マルチタスク」を行うのには向いていません。

いったん集中が途切れた人は、元の集中した状態に戻るのに、約27分がかかるという報告があります

また、こちらの記事でも簡単に触れていますが、人は記憶力を高めるのに、「関連付け」を行うと記憶効率があがることが伝統的に言われています。

オフィスにおいては、同じ場所にとどまり仕事をすることにより、多くの記憶を保ち、他の記憶との関連付けができるようになります。
人は自然と、記憶を周囲に存在する様々なものや場所と関連付けて、詳細にその記憶を保つ行為を行っています(これを「記憶の城」といいます)。

つまり、オープンオフィスでは、関連付けを行うにあたって、そもそもとして場所の範囲が広すぎて脳の処理能力を超えてしまうこと、また場所が頻繁に変わる場合には、場所との関連付けができないため、何かを思い出す際の障害になってしまうのです。
記憶の観点でも生産性低下につながってしまうのです。

筆者自身、自分のオフィスでは思い出せることが、外部のオフィス、特にオープンオフィスで働いているときは、失語症なんじゃないか?と自分自身で疑うくらいに、言いたいことが思い出せない現象を実感しています。

プライバシーの喪失

心理学の観点では、人は適度なプライバシーが確保されているときに生産性が高まるとされています。
また、人は自分自身で物事をコントロールできない状態のときに、無力感が高まり、生産性が低下するとされています。

オープンオフィスでは、プライバシーの確保が困難であることに加え、オフィスのドアの開け閉めなど、そのプライバシーの選択権に関して存在しない状態に置かれます。
また、人によって適切と感じる照度(明るさ)や室温・湿度が異なります。
これをオフィス全体で一律に決められてしまうと、快適と思う人がいる一方、そうではないと感じる人も出てしまいます。

監視下に置かれないと、怠けてしまい、仕事に対する集中力が出ない人も、いるにはいると思うのですが、これはマネジメントの世界で解決すべき問題です。
心理学的に、プライバシーの喪失による悪影響は、決して無視すべきではないでしょう。
基本的には「監視されている」ような感覚は、人にストレスを与えるのです。

健康への悪影響

上述した通り、オープンオフィスは病気にかかる頻度が増えるという研究結果が出ています。
これも一つの研究ではなく、複数の研究が、病気による欠勤が増えたことを支持しています。

これは、一つ上で触れた、プライバシーの喪失のからくるストレスも原因であると共に、オープンな空間であること特有の問題もあります。
それは、オープンな空間はウイルスなどが拡散しやすいのです。

物理的に仕切りが無いため空気の流れを遮るものが無い点と、その空気を空調によって循環させてしまう、この2点により、オフィス内に人の健康に悪影響をおよぼすウイルスが存在した場合、このウイルスを広く拡散させてしまうのです。
日本人は、例え具合が悪くても、無理をして出勤することを良しとしてしまう文化がありますが、これは健康への悪影響を、拡大してしまうことを助長しています。

騒音による悪影響

まず、騒音と認知能力(脳の処理能力)との間には、負の相関関係があります。
つまり、オフィス内の騒音が、生産性をダイレクトに悪化させてしまうのです。

単純に生産性が低下するだけならまだ良いのですが(良くはない)、片頭痛や潰瘍のようなストレス性疾患を悪化させてしまうという報告もあります

実際、いくつかの研究では、オープンオフィスで数時間騒音にさらされた結果、従業員のアドレナリンの水準が非常に高まった、という報告が出ています。
アドレナリンは「闘争」か「逃走」に関連するホルモンです。
つまり、オフィスの騒音は、従業員に、非常に高い、場合によっては恐怖にも近しいストレスを与えてしまう可能性が示唆されているのです。

また、騒音は、外交的な人より、内向的な人に、より強く影響を与えるという研究があります。
若者がどうこう、を語るつもりは一切ないのですが、ひと昔前に比べて現代の若者の内向性は高い傾向があります(これを悪いとは言っていないので留意)。
つまり、現代社会の若者と、騒音の影響を受けやすいオープンオフィスは、本質的には相性が悪いはずなのです。
せっかくのオープンオフィスで、ヘッドホンやイヤホンをつけて、自分の殻にこもる方を見かけるのも、この点が一因である可能性があります。

コミュニケーションの質の低下

現代において、オープンオフィスが推奨される理由の一つとして、コミュニケーションにおよる、新しいアイデアの創発、クリエイティブな側面があげられています。

しかしながら、この点においてもネガティブな研究や意見が多くでています。
実際には、オープンオフィスで働いている人がアイデアを持ち寄ったり、ブレインストーミングによってクリエイティブな価値を発揮する、ということは、期待されていたほど多くないことがわかっています。
こちらの研究では、ブレインストーミングのような、アイデアを多数で持ち寄って何かを生み出すようなことが、クリエイティブな課題を解決するのに、役立っていないことが示されています。
ここでは、オープンオフィスの大本の考え方である、チームビルディング効果の方が支持されています。

また、オープンな環境であることが故に、周囲の耳を気にして、内容の薄い会話しかできない、という点も指摘されています。
例えば、家族の話題や、芸能人の話題など、仕事に関連しない内容であったり、仕事に関連する内容であっても当たり障りのない会話になってしまうのです。

ここまで見た通り、たとえオフィスの壁を取り払っても、従業員同士の距離は縮まらず、広いスペースに散らばってしまうだけなのです。
また、距離が近い場合でもヘッドフォン・イヤフォンをして自分の殻に閉じこもってしまうのです。
そして、可能な限り忙しいフリをして、仕事をしているアピールをするなり、邪魔をされないようにするなりしてしまうだけなのです。

では、どうすれば?

日本のオフィス面積はアメリカなどと比較して狭いので、現実的にはオープンな環境にならざるを得ないのが実態でしょう。
また、オフィス投資は多額のコストがかかるので、そうそう簡単には改修できない現実もあります。
日本の生産性は諸外国に比べて低いとされていますが、そもそもとして置かれている環境が生産性という観点で不利である、ことは指摘できるでしょう。

そのような中、目新しい取り組みをしている企業が存在します。
こちらの企業では、ベースはオープンオフィスなのですが、半個室のブースを用意し、集中して作業ができるエリアで働くこともできる、選択が可能な様式を採用しています。
上述の通り、選択は心理的安全性を高めるので、生産性向上に寄与することが想定できます。

パソコンのディスプレイにはる「プライバシーフィルム」などの採用や、「耳栓」の配布などもリーズナブルにできる対応でしょう。
ベンチャー企業においては、素直に個室があるコワーキングスペースを利用する、という選択肢も考えられます。
オープンオフィスの大本の考え方である、チームビルディング効果に振り切ってしまう、というのもポリシーとしては採用の価値があります。

オフィスは物理的かつ多額のお金がからむものであるため、簡単には対処できないことが多いですが、知恵を絞ればまだまだできることがあるはずです。

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生産性・業務効率化

マルチタスクは本当に生産性を下げるのか?~一流の経営者が同じ服を着る理由~

マルチタスクは人間の生産性を下げてしまう、というのが現在の知見です。
しかしながら、マルチタスクからは中々逃げられないのが現代社会の宿命です。
ここではマルチタスクは本当に生産性を下げるのか?をテーマに複数の論文・記事を横断レビューしていきます。

これを読めば、一部の一流経営者が同じデザインの服を着ている理由がわかります。

マルチタスクは生産性を下げる

マルチタスクについては、研究の歴史がそれなりにあり、1960年代から心理学領域を中心に様々な実験がされてきました。
マルチタスクを継続して行うことにより、人間の能力が向上するのではないか?という仮説があったからです。

結論を先に言ってしまうと、マルチタスクは人間の生産性を大きく下げます。
こちらの記事(マサチューセッツ工科大学)では、マルチタスクを行っている時の人間の脳は、複数のことを同時並行して処理しているのではなく、1つのタスクを短い間集中して処理することをひたすら繰り返しているだけにすぎない、としています。
しかも、脳のリソースそのものはフル稼働している状態で、別のことを繰り返して処理しているため、1つのタスクにふりわける脳のリソースは大幅に低下してしまいます。

これがマルチタスクをすると生産性が大きく下がってしまう原因です。

生産性低下のみならず、疲労と認知機能低下を招く

更に悪いことに、マルチタスクを行っている間は高い集中力を要するため、脳内の神経科学物質をガンガン消費します。

結果、短い時間で「頭が動かない」「疲れた」と感じてしまうのです。
これは多くの働く人が経験したことがあるでしょう。

こちらの研究(英サセックス大学)では、PCやスマートフォンなど、複数のデジタル端末を同時によく利用する人と、そうでない人で比較し、複数端末の同時利用者の脳の一部(前帯状皮質灰白質)の密度が小さくなっていることが示されています。
研究では、この脳密度の低下が脳の認知機能の低下や、社会的感情の悪化を招いているのでは?としています。

こちらの記事(マギル大学)では、上述のマサチューセッツ工科大学や英ロンドン大学、カリフォルニア大学などの研究を横断的にレビューし、現代社会がいかにマルチタスク環境下におかれ、人間にストレスを与えているかを解説しています。
例えば、スマートフォンの不在着信一つをとっても、かけた側が「返信が来るに違いない」、うけた側も「折り返しかけないと」と、意識を不在着信にとられてしまうため、一見大したことが無いように思えても、脳のリソースが奪われるとしています。
メールの返信一つ(返信をする、しないの意思決定)にしても、重大な意思決定に使う脳のリソースと大きく差が無いため、雑事に気を回すと、どんどん生産性を低下させていきます。
そのため、このようなマルチタスク環境下にあると、IQ10ほど低下させてしまう、としています。

重要ではない意思決定に脳のリソースを奪われたくない。本当に大切なことに限られた脳のリソースをまわしたい。これ (服を選ぶという意思決定を削減する) が、一部の一流経営者が、毎日同じデザインの服を着る理由でもあります。

悪いとわかっているのに何でやめられないの?

上述したマサチューセッツ工科大学の解説によると、私たち人間が文明を持つ以前の生活に起源があるとしています。

現代社会は極めて安全ですが、猿の時代や、原始時代はそうではありません。
周囲は危険にあふれており、常に気を配っていないと、そもそもの生存がおぼつかない状況です。
そのため、マルチタスクに向いていない生理的性質があるにも関わらず、生存本能の観点でマルチタスクを行ってしまうのでは?としています。

また、マルチタスクを行い、複数のタスクを消化していくことが、麻薬的な報酬を脳を与えてしまうのでは?という意見もあります。

ただ、どうやらトータルのパフォーマンスはあがる可能性がある

これまで、マルチタスクが如何に人間に悪影響をおよぼすかを書いてきましたが、本当に弊害しか無いのでしょうか?
どうやら、弊害だけではなく、マルチタスクは人間のトータルのパフォーマンスを引き上げる可能性が示唆されています。

こちらの研究(ミシガン大学)では、マルチタスクを行っているという認識そのものが、人間のパフォーマンスをあげる可能性を示しています。
過去の研究の蓄積として、人間は処理するタスクの難易度があがると、努力しようとするモチベーションや、認知制御機能が向上することが示されていました。
そのため、この部分が上述のマルチタスクを行っているという認識そのものが、人間のパフォーマンスをあげる可能性につながってきます。
実験ではシングルタスクとマルチタスクのグループにわけてタスクを処理した結果、マルチタスクを行っているグループの中でさらにマルチタスクを行っていることを認識していた被験者の集中力が高かったことが示されました。

この研究は、まだ蓄積がすくなく確かなことは言えませんが、一定経験則とも合致する部分があります。

一日のはじめの、「今日やることリスト」をズラッと並べてから仕事にとりかかると、高い生産性を出せた経験は多くの人にあるでしょう。
「今日やることリスト」は一種の「マルチタスクを行っていることの認識」につながるため、これが集中力の向上につながる可能性があります。

(おまけ)女性も男性も等しくマルチタスクには向いていない

なお、以前から、女性はマルチタスクが得意(だから家事育児に向いている)という考えがありましたが、これは誤りです。
こちらの研究(ロンドン大学)で、マルチタスクの性差影響が調査されていますが、差が無いという結論が出ています。

人種だとか、性別だとか、年齢だとか。
そのようなものに縛られず、偏見なく、一人ひとりが自分自身が本当に実現したいことに素直にまい進できる世界が早く来ると良いですね。

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