エルゴノミクス(人間工学)製品はオフィスの生産性をあげるのか?

生産性・業務効率化

近年のベンチャー企業オフィスにおいて、エルゴノミクス(人間工学)に基づいた製品を導入する例が増えてきました。
「生産性をあげるから」が理由のようですが、本当に生産性はあがるのでしょうか?
具体的な研究から示唆される内容をもとに、考えてみます。

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忙しい人向けまとめ

  • エルゴノミクス製品の使用により、快適感が向上する人がいる
  • 不快であるとする人も同割合でいて、「慣れ」「トレーニング」が必要
  • 疲労度の軽減にはあまり効果がない
  • 快適感や疲労度に関しては「バイアス」の影響が大きい
  • 素直に、睡眠・運動・リラックスをすることが重要
  • エルゴノミクス(人間工学)と「生産性」に関する研究はほとんどない
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エルゴノミクス(人間工学)とは

エルゴノミクスとは、ハードウェアやソフトウェアなどについて、快適で使いやすい道具にするための設計やデザインのことで、人間工学と訳されます。

元々は産業分野における、人が扱う機械の使いやすさから発祥した研究分野ですが、近年のITの発展に伴い、扱いやすいコンピュータ機器のデザインとして、よくその言葉を聞きます。
一般的には、エルゴノミクス製品を使うことにより、眼精疲労や肩コリ、腰痛、むくみなどが軽減され、ストレスに悩まされにくくなる、とされています。

オフィス・デザインにおいては、従業員が使うデスクやチェア、キーボード、マウス、ディスプレイなどのオフィス・ファシリティについて検討されたり、組織全体としての生産性や創造性の向上を目的に、クリエイティビティなデザインと共にエルゴノミクス製品を取り入れるオフィスが増えています。

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エルゴノミクス(人間工学)製品の有用性について

エルゴノミクス製品の有用性について、研究されたものを探したので、いくつか紹介します。

早稲田大学の研究(学生による実験)では、エルゴノミクス製品を使用することにより、筋活動量が有意に減ることが示されています。
生産性評価はされていませんが、エルゴノミクス製品の試用による疲労度の軽減が示唆されるほか、例えばノートパソコンのような作業がしにくい環境において、慣れにより疲労が蓄積しているにも関わらず、疲労を感じにくくなっていることが示唆されています。

慶応義塾大学の実証実験(広告的実験であることと、当時のリンクは無く、記事のみ)では、エルゴノミクス製品に対する慣れが進むほど、エルゴノミクス製品の方が使いやすくなることが示されている他、疲れにくくなった、という意見が出ています。
主観的評価であることと、疲労度評価がされていないことは留意です。

他にもあるにはあるのですが、主にエルゴノミクス製品を生産・発売しているメーカー発のものが多いことがわかりました。
主に「疲労度」にアプローチをあてたものが中心で、「生産性」にアプローチしているものはほとんどありませんでした。

なお、この種の研究で行われる生産性評価は、タイピングにおける打鍵数の比較や、何かものを仕分けるなどの単純タスクが中心であり、実際のオフィス環境で行われる作業内容とは乖離している場合が多いことは留意する必要があります。

エルゴノミクス製品は本当に有用か?疑問の提示

エルゴノミクス製品には「慣れ」が必要

上述、慶応義塾大学での実証実験でも一定示されていましたが、エルゴノミクス製品には「慣れ」が必要です。

米コーネル大学の研究では、エルゴノミクス製品を揃えたワークステーション環境を用意し、非エルゴノミクス環境下との比較で、その有用性が調査されています。
調査の結果、約33%ほどの従業員がエルゴノミクス製品を快適であるとしているのに対し、ほぼ同数の約33%ほどの従業員が不快であると回答しています。
勤務時間中に、首、肩、背中、手首などに不快感が報告されており、作業活動を妨げている、というのです。
つまり、快適である、と、不快である、がほぼ同数だったのです。

同研究では、エルゴノミクス環境に対して、トレーニングを積ませると、新しいワークステーション環境に適合し、問題が「軽減」されることを併せて示しています。
つまり、「慣れ」が必要であり、「教育コスト」がかかるのです。

姿勢と身体の痛みは、あまり関係がない?

オーストラリアで行われた研究では、「姿勢の悪さ」と「首の痛み」についてその関係が調査されており、座った時の姿勢と首の痛みには関係がないことが示されています。
むしろ、若い方においては、「気分」との関連性の方が大きいことが示されました。
(そうか、悩みや心の痛みは、やはり身体に影響を与えるんだね。)

こちらの研究では、もっと辛辣に、エルゴノミクス製品のような、姿勢を正す器具類の使用によって、身体の痛みを防げることは、ほぼほぼ有用でないか、まったく有用でないと、しています。
研究では、「バイアス」の影響が大きいことが言及されています。
全体として質の高い研究が少なく、エルゴノミクス製品の有用性について判断がしづらいこと、さらに質の高い研究が必要なこと、が併せて言及されています。
本研究は2018年に発表されたもので、かつメタ研究であることもあり、現時点における比較的信頼性の高い研究と言えます。

なお、別の観点での研究においてはすでに発生している痛みの軽減に関しては、エルゴノミクス製品が有用である、と示唆されています。
こちらもメタ研究であり、現時点における信頼性としては、高い報告と言えます。

疲労度軽減には素直に睡眠・運動・リラックスが有効

これまで見てきた通り、エルゴノミクス製品は人によって快適感の向上につながることが示されている一方、比較的多くの人に対して「慣れ」「トレーニング」が必要であることが示されました。
「疲労度」に関しては、軽減するとする研究もあるものの質が低く、メタ研究ではあまり効果が無い、というのが現時点での意見となっています。

エルゴノミクス製品を生産・販売している企業による広告的な研究が多い事や、エルゴノミクス製品そのものを使用していることに対する「バイアス」的なものが多いのでは?というのが研究をメタ・レビューしてみての感想です。
ただ、まだエルゴノミクス・研究は意外なほど量が少なく、十分な研究がされていない、というのが現実です。
さらに研究が進み、真に生産性を向上させるデザインが発明されることは十分に考えられます。

英ハートフォードシャー大学によるメタ研究では、エルゴノミクス製品に関して上述のような研究に触れつつ、こう意見を述べています。
睡眠、運動、リラックスをすること。

身もふたもない。

最後に私見

繰り返しますが、エルゴノミクス製品と生産性に関しては、研究がほとんどありません。
私見になりますが、「慣れた」環境が結局の所、生産性の向上(というか維持)には効果的と考えます。

一般的に普及しているスタンダードなキーボード、マウス、デスク、チェア。
オフィスにおける生産性投資に関しては、そういったもので十分であると考えられ、かつスタンダードなものはコストを明確に抑えられます。

現在の人不足からくる採用難対策として、ハイセンスでクリエイティビティのあるオフィスにすることは一定有用かもしれませんが、オフィス・ファシリティにまで、過剰に持ち込む必要はなさそうです。

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