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サブスクリプションの管理会計~演習問題解答解説~

今回は、「サブスクリプションの管理会計~演習問題~」の解答および解説になります。

演習問題はこちらになります。

解答解説①

「サブスクリプション・ビジネス」の理解について、最も正確で無いものを1つ選択してください。

  1. サブスクリプションとは、定期購入の意味である
  2. サブスクリプションビジネスにおいて、顧客の体験価値を高める事は重要である
  3. 良い製品を作りさえすれば、サブスクリプションビジネスは成功する
  4. 企業にとって、毎月の費用がわかりやすく、また変動費化できる点もBtoBサブスクリプションサービス導入の動機になっている
  5. 正確で無いものは一つもない

正解は「3.良い製品を作りさえすれば、サブスクリプションビジネスは成功する」です。

良い製品でなければ成功確度が下がるのは確かですが、良い製品であれば成功するか?と考えれば、別にサブスクリプション・ビジネスに限らす、そうではない事がわかります。

サブスクリプション・ビジネスにおいて、最も大事なのは「顧客の成功:カスタマーサクセス」を通じた顧客との関係性構築にあります。

そのため、良い製品であることは前提としつつ、カスタマーサクセスにつながる様々な活動(オンボーディングやサポート、各種コンサルティング等)に取り組んでいく事が必要です。

別の観点で言うと、「良い製品を作れば成功する(売れる)」という考えは今の時代、大前提として非常に危険です。
この発想(プロダクト・アウトの発想)により、日本企業の多くが諸外国に追い抜かれ、現状、遅れをとっている状況に陥っています。

解答解説②

「THE MODEL」の理解について、最も正確なものを1つ選択してください。

  1. THE MODELはどのようなサブスクリプションビジネスにおいても適用できる万能性の高い手法である
  2. THE MODELロールにおいては、各部署が自部署KPIの最大化を図れば、ビジネスは成功する
  3. カスタマーサクセスの至上目的は解約率(チャーンレート)を下げる事である
  4. マーケティングは、大量にリードを確保し、次工程に渡す事が重要である
  5. 正確な理解は一つもない

正解は「5.正確な理解は一つもない」です。

THE MODELロールは、主にSMB(スモールビジネス)において有効性の高い、また再現性の高い手法です。
つまりエンタープライズ(大企業)向けサービスにおいては適合性が大きく下がります。
また、サブスクリプション・ビジネスと一口に言っても様々なサービスが存在しており、例えSMB向けであったとしても、一様にTHE MODELロールが通用するとは限りません。
あくまでも、自社にとって最適な手法にカスタマイズ、模索することが必要です。

自部署KPIの追求はある側面において重要ではありますが、それだけではいけません。
質の悪いリードを大量に渡されてもセールス部門は困りますね。
部分最適化に陥らないよう、あくまでも全社単位での最適化、KPIの最適化が必要です。

カスタマーサクセスの至上目的はカスタマーサクセスです(まぁ、人によって考え方は違うかもですが)。
解約率(チャーンレート)の低減は、詰まる所、カスタマーサクセスの結果として生じる現象です。
チャーンレート低減は重要ですが、ここは決して目的ではありません。

上述した通り、質の悪いリードを大量に渡されてもセールス部門は困ります。
質の良いリード(商談設定率や契約確度の高いリード、さらに言うと長期的に取引してくれそうなリード)を確保し、次工程に渡していく事が求められます。
もっとも上流工程にいるため、全体感を持って、全体施策の最適化を行う役目も一側面としてはあります。

解答解説③

MRRの定義は?正しいものを1つ選択してください。

  1. 年間定額収益
  2. 月間定額収益
  3. 平均顧客単価
  4. 顧客生涯収益
  5. どれも正しくない

正解は、「2.月間定額収益」ですね。

MRRはMonthly Recurring Revenue:月次収益,月間定額収益の略です。

用語略語の意味をしっかりと理解し覚えていきましょう。

解答解説④

リードを獲得するためのコスト、CPA/CPLに関係する会計科目として適切で無いものは?最も正確で無いものを1つ選択してください。

  1. 売上原価
  2. 人件費
  3. 広告宣伝費
  4. システム利用料
  5. 正確な勘定科目は一つもない

正解は「1.売上原価」です。

CPL(リードを確保するのに必要な費用)ですが、まず代表格としては「広告宣伝費」があります。
SNS/WEBマーケティングを中心に、雑誌や展示会等々、様々な広告手法により認知度を高めリードを確保していきます。

そして、それらの活動を行うにあたって人やシステムが必要であり「人件費」「システム利用料」といった費用がかかってきます。

売上原価は、実際に成約(契約)がとれた後、実際にサービスを提供していく段階になって計上されていく費用科目ですね。

解答解説⑤

Payback Periodsの理解について、正しいものを選んで下さい。

  1. 大きい方が良い
  2. 小さい方が良い
  3. 数字の適切な目安はものにより異なるので、良い悪いはない

正解は「2.小さい方が良い」です。

Payback PeriodsはCACを回収できるまでに必要な期間です。
当たり前ですが、コストをかければかけるほど顧客を獲得するのが容易となり、またかけたコスト(投資)の回収は困難になります。
つまり、Payback Periodが短ければ短いほど、投資回収は容易である事、逆に長ければ長いほど困難になります。

解答解説⑥

Churn Rateの理解について、正しく無いものを1つ選択してください。

  1. 初期導入のお手伝い(オンボーディングやトレーニング)は重要なアクションである
  2. 旧来のコールセンター(カスタマーサポート)も、チャーンレート低減のための重要な役割である
  3. チャーンレートを下げるために、契約やサービス画面の設計で、解約し辛いものにする
  4. チャーンレートは0以下にできる
  5. 正しく無いものは一つもない

正解は「3.チャーンレートを下げるために、契約やサービス画面の設計で、解約し辛いものにする」です。

大前提として。
もし、「チャーンレートを下げるために、解約し辛いようにしてしまおう!」という発想をしているのであれば、早々にその考えを改めた方が良いでしょう。

自分自身の事を考えてみればわかると思うのですが、もう解約したい、というサービスがあったとして、どうやったら解約できるのか、サービスの管理画面やHPを見てもよくわからない。
わかったとしても、その方法がコールセンター(しかも、平日日中しか受け付けていない)への架電での依頼だとしたら、非常に面倒でイライラしませんか?
酷い場合だと、解約専用の電話番号が海外で、言葉がうまく通じず、一向に解約できない、というサービスも存在します。

普通に考えたら、このような目にあったら、そのもう解約しようとしているサービスに対して、憎悪の念を抱く、とわかるはずです。
解約し辛いようにする、という発想は非常に浅ましいものなので、早々に改めましょう。

なお、チャーンレートの中でのネット・チャーンは0以下にすることができ、この状況を「ネガティブ・チャーン」と言います。
KPI解説も参考にしてください。

解答解説⑦

LTV/CAC(ユニットエコノミクス)の理解について、正しいものを選んで下さい。

  1. 大きい方が良い
  2. 小さい方が良い
  3. 数字の適切な目安はものにより異なるので、良い悪いはない

正解は「1.大きい方が良い」です。

ユニットエコノミクスは事業の経済性(収益性)を経済ユニット単位で示したものです。

まず、LTVは、一顧客が、取引期間を通じて企業にもたらす利益の総額でしたね。
そのため大きければ大きい方が良く、またCACはようはコストなので小さければ小さい方が良いです。

つまり、LTV/CACは大きければ大きい方が良い、という事になります。

数値の目安としては、経験則でしか無いのですが、「ユニットエコノミクス > 3」が望ましいとされています。


演習問題の⑧と⑨は自由回答方式なので、別に明確な答えが存在するものではありません。
(そのため、解説的なものは省略します。)

ポイント的なものをあえて解説するのならば、「自社のビジネスを良くするために、どうしていくか?」という、視点が必要、という事です。

日々忙しいと目の前のタスクに埋もれがちです。
日々のタスクは重要ではあるのですが、こういう何かを考えるタイミングでは、もっとマクロ的な視点で「どうあるべきか?」を考え、テキストとしてまとめるのが良いでしょう。

最終的にタスクに落とし込む段階では「どうあるべきか?(何をやるべきか?)」「自分達(もしくは自分自身個人)がやれることは何か?」「自分達(もしくは自分自身個人)がやりたいことは何か?」が極力重なっている領域にフォーカスしていくことが重要です。

自社の課題を整理した上で、マクロ的にどうしていけばよいか?につなげ、最終的に個人レベルのタスクに落とし込めれば、この種の演習としては満点と言えるでしょう。

演習問題⑧
自社のビジネス(サブスクリプション系と想定する)において、あなたがTHE MODELにおける一連のKPIを「最適化」に取り組むとしたら、どのような事に取り組みますか?(自由回答方式)

演習問題⑨
自社のビジネス(サブスクリプション系と想定する)において、カスタマーサクセスの観点で問題だと思う事は何ですか?(自由回答方式)

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サブスクリプションの管理会計~演習問題~

サブスクリプションの管理会計に対する理解度確認用の演習問題です。
解答および解説は次回に行います。

演習問題①

「サブスクリプション・ビジネス」の理解について、最も正確で無いものを1つ選択してください。

  1. サブスクリプションとは、定期購入の意味である
  2. サブスクリプションビジネスにおいて、顧客の体験価値を高める事は重要である
  3. 良い製品を作りさえすれば、サブスクリプションビジネスは成功する
  4. 企業にとって、毎月の費用がわかりやすく、また変動費化できる点もBtoBサブスクリプションサービス導入の動機になっている
  5. 正確で無いものは一つもない

演習問題②

「THE MODEL」の理解について、最も正確なものを1つ選択してください。

  1. THE MODELはどのようなサブスクリプションビジネスにおいても適用できる万能性の高い手法である
  2. THE MODELロールにおいては、各部署が自部署KPIの最大化を図れば、ビジネスは成功する
  3. カスタマーサクセスの至上目的は解約率(チャーンレート)を下げる事である
  4. マーケティングは、大量にリードを確保し、次工程に渡す事が重要である
  5. 正確な理解は一つもない

演習問題③

MRRの定義は?正しいものを1つ選択してください。

  1. 年間定額収益
  2. 月間定額収益
  3. 平均顧客単価
  4. 顧客生涯収益
  5. どれも正しくない

演習問題④

リードを獲得するためのコスト、CPA/CPLに関係する会計科目として適切で無いものは?最も正確で無いものを1つ選択してください。

  1. 売上原価
  2. 人件費
  3. 広告宣伝費
  4. システム利用料
  5. 正確な勘定科目は一つもない

演習問題⑤

Payback Periodsの理解について、正しいものを選んで下さい。

  1. 大きい方が良い
  2. 小さい方が良い
  3. 数字の適切な目安はものにより異なるので、良い悪いはない

演習問題⑥

Churn Rateの理解について、正しく無いものを1つ選択してください。

  1. 初期導入のお手伝い(オンボーディングやトレーニング)は重要なアクションである
  2. 旧来のコールセンター(カスタマーサポート)も、チャーンレート低減のための重要な役割である
  3. チャーンレートを下げるために、契約やサービス画面の設計で、解約し辛いものにする
  4. チャーンレートは0以下にできる
  5. 正しく無いものは一つもない

演習問題⑦

LTV/CAC(ユニットエコノミクス)の理解について、正しいものを選んで下さい。

  1. 大きい方が良い
  2. 小さい方が良い
  3. 数字の適切な目安はものにより異なるので、良い悪いはない

演習問題⑧

自社のビジネス(サブスクリプション系と想定する)において、あなたがTHE MODELにおける一連のKPIを「最適化」に取り組むとしたら、どのような事に取り組みますか?(自由回答方式)

演習問題⑨

自社のビジネス(サブスクリプション系と想定する)において、カスタマーサクセスの観点で問題だと思う事は何ですか?(自由回答方式)


解答および解説は次回に行います。

上記演習問題利用したい場合は自由にご利用ください。
カスタマイズもご自由に行ってください。

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インサイドセールスにおいて行動量が大事な理由

インサイドセールスには様々なKPIを設定し得ます。
そのような中、どのような組織においても共通的に設定できるKPIが1つあります。
それが行動量です。
今回は、インサイドセールスにおける行動量について補足します。

インサイドセールスについては、こちらの記事も参照してください。

インサイドセールスのKPI

インサイドセールスの基本的KPIは有効商談化率です。

この有効商談化率を高めるためのナーチャリング手法やクオリフィケーションの考え方に基づいて、細かいKPIを会社毎に設計していく形になります。

オウンドメディア/SNSであれば、流入数やそこからのコンバージョン・レート
メルマガであれば、開封率クリック率
ホワイトペーパーDLであれば、DL率(コンバージョン・レート)。
セミナー/ウェビナーであれば、フォロー架電の継続率

こういったものです。

とは言え、一つ、確実に設定できる共通的なKPIがあります。

それは、行動量です。

インサイドセールスの役割は、大量のリードに対して、ナーチャリングなりクオリフィケーションなりで、マーケティングに戻したり、クロージング担当にパスしたりする事です。
このプロセスに必要な重要な事は、圧倒的な行動量です。

この行動量を施策毎に最大化・最適化していく事は、どのような形でインサイドセールス体制を構築しようが、避けてはいけない目標となります。

リードにコンタクトできる時間、という制約

さて、上記はインサイドセールスについて解説した記事の再掲となります。

もう一つ、別の観点で行動量が大切な理由を説明します。

「THE MODEL」からの抜粋です。

そもそもインサイドセールスの仕事は時間が限定される。
リードにコンタクトするのに、早朝や深夜に連絡するわけにはいかないからだ。

常識的な範囲としては朝9時から夕方6時位までと考えるべきだろう。
そのうち昼食の時間を避けるとすると、1日8時間、週5日と言う時間的制約の中で最大限の成果を出さなければならない。
営業であれば、件数を負わずとも金額の大きな商談を受注することでカバーできるが、インサイドセールスはそうはいかない。
金額をコントロールするのは営業なので、数を重視するしかない。
一見あたりにかける時間を30分と仮定すると、1週間で8時間× 5日× 2の80コマをどう使うかというタイムマネジメントの勝負になる。

つまりどれだけ業務効率を上げられるかが成果に直結するのがインサイドセールスなのだ。  

福田康隆著「THE MODEL」(P95)より

こちらにある通り、仮に無制限に時間を使えるとしたとしても、見込顧客、リードはそうではありません。

常識的な範囲内として、平日日中のお昼時を除く、8時時間の範囲内がコンタクト可能な時間です。

つまり、このコンタクト可能な時間を最大限に活用する必要があるのです。

インサイドセールス人員を管理監督する人員を1名設置し(マネージャー職が相当するであろう、営業企画機能を別に設けるか、このマネージャー職が行うかも要検討)、その管理監督者の元、インサイドセールス・メンバー全員が、ただひたすらにリードにコンタクトをとる。

こういった体制を如何に構築できるか、が重要です。


① そもそもとして行動量がパフォーマンス向上につながるのがインサイドセールスのKPIの特徴
② リードの時間的制約がある以上、その範囲内で行動量を最大化する必要がある

この2点の理由から、インサイドセールスにおいて、行動量が最も大事であると言えます。

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サブスクリプションの管理会計各論~インサイドセールスとは?~

これまでTHE MODELにおける4つの役割として、インサイドセールスという言葉を使ってきました。
今回は、外勤型のフィールドセールスに対して、内勤型営業と理解されがちな、このインサイドセールスという役割について概説します。

インサイドセールスとは?

一般的に営業というと、どのような仕事の仕方をイメージするでしょうか?

おそらく大多数の方は、外回り、見込顧客や取引先の所へいくつもまわって商談を行い、成約を取り付ける。
そのような、いわゆる“外勤型営業”を思い浮かべるのではないかと思います。

この外勤型営業、THE MODELロールにおいてはフィールドセールスと呼ばれる営業形態ですが、良い所も多数ある一方、効率面においては大きな弱点を抱えています。
一人のフィールドセールス担当者が対応できる顧客の数には、当然に制限がある中、仮に見込顧客の発掘からクロージングに至るまでの全ての活動を行う事は、非常に非効率と言えますね。
(この非効率には、情報共有の観点でもそうですし、顧客の購買・意思決定プロセスの長期化・複雑化による、セールス活動そのものの非効率化も指摘できます。)

この非効率を解消したい、というニーズがある中、営業の分業化は進んできたわけですが、近年、インサイドセールスという形で新たな営業の形が誕生しました。
インサイドセールスは、電話をはじめとした、内勤にて対応できるツールを活用して行う営業の形態です。
(ITの発展により膨大な数の見込顧客に容易にアプローチできるようになった事や、企業間の競争が激化すると共に、ありとあらゆる分野で人手不足が発生している事が、この非効率の解消ニーズを高めました。)

近年は、インサイドセールスとフィールドセールスの得意分野の異なる営業形態を組み合わせて営業を行う事が増えてきました。

(参考)インサイドセールスのメリット

・効率的な営業活動を行いたい、というニーズのもとインサイドセールスという役割が誕生した
・面談の時間や移動時間が無い事や、ITの活用により、圧倒的に多い数の顧客にアプローチを行う事ができる
・フィールドセールスの成約率向上(確度の高い見込顧客のパス)が可能となる
・リードのリサイクルをはじめとした、ターゲット顧客の枯渇にも対応できる

インサイドセールスの役割

インサイドセールスの役割は、商談、つまりセールス部門としての役割もあるのですが、一方、マーケティング部門としての性格も帯びています。

リードナーチャリング

まず一つ、インサイドセールスの重要な役割として指摘できるのがリードナーチャリングです。

リードナーチャリングとは、潜在的にはニーズを抱えている見込顧客に対して、各種のマーケティング・セールス手法により、その潜在的ニーズを顕在化させ、購買意欲を高めていくプロセスの事です。
見込顧客の興味関心を育てる、という意味でナーチャリング(育成)という言葉が使われています。
なお、この見込顧客の事を、一般的にはリードと呼びます。

ナーチャリングの手法としては、展示会やメルマガ、セミナー、ホワイトペーパー、フォロー架電など、上述の通り各種のマーケティング・セールス手法が活用されます。

商談につなげられていないリードの掘り起こしや、失注案件・休眠顧客・解約顧客のリサイクルなども、このリードナーチャリングの内数と言えるでしょう。

(参考)ナーチャリングの手法

ナーチャリングの手法には、例えば次のようなものがあります。
マーケティングの手法ともだいぶ被りますね。

・展示会
・オウンドメディア/SNS
・メールマガジン
・ホワイトペーパー
・セミナー/ウェビナー
・フォロー架電

展示会への出展や、オウンドメディア/SNSでの露出により、顧客の自社理解・商品理解を進めつつ、メールマガジンなどで興味・関心を醸成する。
その後、ランディング・ページ経由でホワイトペーパーのDLやセミナー/ウェビナーへ誘導していき、確度の高い顧客に育てていく。
最後に、フォロー架電によりヒアリング等を通じながら、顧客との関係性を構築し商談化、クロージング担当にパスをする。

この流れが、基本的なインサイドセールスのナーチャリングの流れになります。

会社によっては、インサイドセールスが担当するナーチャリングの範囲を、フォロー架電に限定し、そこに特化している、というパターンも良く見かけます。

リードクオリフィケーション

もう一つ重要な役割がリードクオリフィケーションです。

インサイドセールスは、実際にクロージングを行う前の、いわばプレ商談を行う部署です。

つまりリードの興味関心・ナーチャリングの度合いを見極める役割をになっています。
この、ナーチャリングの度合いの見極めがリードクオリフィケーションです。

成約確度が高そうな案件は、すぐにでもクロージング担当に渡す事が求められます。
一方、そもそもとしてナーチャリングができるステータスに来ていないリードは、マーケティング部門に戻す事も同時に求められます。
ようは、優先順位付けです。

このように、マーケティング/セールス活動の分業化によって起きた、役割間をつなぐ仕事もインサイドセールスの役割という事ですね。

(参考)クオリフィケーションの考え方

リードの状態は大きく次の4つの状態にあると整理できます。

1)対象外:自社に対して明らかに興味関心が無い、予算やニーズなどが明らかにマッチしていない
2)潜在層:担当者レベルの情報収集段階、組織としては導入意志が無い
3)準潜在層:何かしらの課題があり情報収集を行っているが、組織課題や最適なソリューションが明確化されていない
4)顕在層:明確な意思に基づいてアクションを行っており、商品選定を進めている

この内、1)対象外の顧客に関しては、ナーチャリングの活動を行っても意味がありません。
リード未満であると判断して、マーケティング担当に戻すのが適切です。
逆に4)顕在層の場合は、即座にクロージング担当に引き渡すのが良いでしょう。
すぐにでも商品を導入したい、と考えている顧客かもしれません。

さて、この大枠の整理指針で考えるのも良いですが、担当者による属人化が進むというデメリットもあります。
このデメリットの解消法として、スコアリングを導入する方法もあります。

スコアリングは、例えば、メルマガを開封したら10点、リンクを踏んで資料DLしたら30点、問い合わせフォームで「説明希望」としたら50点、というような形で、リードの状態を定量化する、という方法です。

このスコアリングが適切か否かは組織によるのですが、膨大な数のリードが存在する場合は、機械的に対処する事も検討した方が良いでしょう。

インサイドセールスの2つのタイプ

なお、インサイドセールスの役割は、その切り口によってはSDRとBDRという2つのタイプで捉える事もできます。

SDR
(Sales Development Representative)
BDR
(Business Development Representative)
反響型新規開拓型
インバウンドアウトバウンド
SMB向けエンタープライズ向け
インサイドセールスの2つのタイプ

SDR(Sales Development Representative)

SDRは、一般的には「反響型営業」と訳されるインサイドセールスのタイプで、顧客側から商品/サービスを提供している企業に対して接触してきた案件に対して営業を行う形態です。
問い合わせフォームへの問い合わせ、ホワイトペーパーのダウンロード等が代表的な接点です。

基本的にはSMB(スモールビジネス:中小企業)向けです。

BDR(Business Development Representative)

BDRは、「新規開拓型営業」と訳されるもので、SDRとは逆に、企業側から顧客に対してアプローチし、案件化(商談化)に繋げていく営業の形態です。
新規架電、(物理的な)手紙の送付、(デジタルな)ダイレクト・メールの送信、等が代表的なアプローチ手法です。

基本的にはエンタープライズ(中・大企業)向けです。

会社によって、SDRとBDRを分けたり、一つのチームで実施したり、片方(主にSDR)しか実施しなかったりと、その方針はまちまちです。

インサイドセールスのKPI

インサイドセールスのKPI

サブスクリプション/SaaSのKPIの回でも説明したのですが、インサイドセールスの基本的KPIは有効商談化率です。

有効商談化率 = (案件化数)商談化数 ÷ リード数(見込顧客数)

後は、この有効商談化率を高めるためのナーチャリング手法やクオリフィケーションの考え方に基づいて、細かいKPIを会社毎に設計していく形になります。

オウンドメディア/SNSであれば、流入数やそこからのコンバージョン・レート
メルマガであれば、開封率クリック率
ホワイトペーパーDLであれば、DL率(コンバージョン・レート)。
セミナー/ウェビナーであれば、フォロー架電の継続率

こういったものです。

とは言え、一つ、確実に設定できる共通的なKPIがあります。

それは、行動量です。

インサイドセールスの役割は、大量のリードに対して、ナーチャリングなりクオリフィケーションなりで、マーケティングに戻したり、クロージング担当にパスしたりする事です。
このプロセスに必要な重要な事は、圧倒的な行動量です。
この行動量を施策毎に最大化・最適化していく事は、どのような形でインサイドセールス体制を構築しようが、避けてはいけない目標となります。

マーケティングとクロージング担当をつなぐ、という事への意識

さて、KPIを考える上で、もう一つ絶対に避けなければいけない事があります。

その絶対に避けなければいけない事は、部分最適化です。

非常にあるある話なのですが。
商談(や成約)というKPIを最大化したがために、「燃えた」案件をクロージング担当や、その先、カスタマーサクセスのプロセスに渡すという事が、サブスクリプション/SaaSビジネスでは良く見かける光景です。
はっきりと言って、これでは意味がありません。

これはインサイドセールスに限らず、の話なのですが、相互に連携し、情報交換を行い、会社全体としてのKPIの最適化を行う事が重要です。

THE MODELロールでのマーケティング/セールス体制を構築する際には、この点を従業員全員に認識いただく事は必須です。
特に、インサイドセールスに関しては、マーケティングとクロージング担当をつなぐポジションにいる、という事から、ある意味において最もこの役割を求められると言えるかもしれません。

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サブスクリプション/SaaSビジネス管理会計まとめ

こちらはサブスクリプション/SaaSビジネスの管理会計の記事まとめ集となります。

サブスクリプションの管理会計

こちらは概論となります。

サブスクリプションの管理会計各論

こちらは個別テーマごとに取り上げた各論になります。

演習問題

会計基礎講座

会計基礎講座のまとめ集はこちらです。

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サブスクリプションの管理会計⑤~KPIの開示例~

ここではサブスクリプション系の上場会社の開示資料を参照しながら、KPIの具体例を見ていきます。
サブスクリプション/SaaS系ビジネスのKPIは、だいぶ一般的になってきたのか、開示資料内においても掲載される例が増えていきました。

本稿では、これまでの説明を踏まえて、具体の開示例を見ながらKPIに対するイメージを掴んでいただければと考えています。

前回はこちら↓

収益性:ARR,ARPA

マネーフォワードは、次の通り年次単位でのARRを開示しています。

成長率も併せて示しており、伸び具合が明確にわかります。

株式会社マネーフォワード 2019年11月期通期決算説明会資料より

freeeはIPO時の成長可能性資料の中で、CAGRを示し、中長期での成長について説明しています。

freee㈱成長可能性に関する説明資料

チャットワークは、無料プランの数も多い事から、ID数について重要視して開示しています。

具体的にはDAU(※)と課金ID数の数字と併せて、登録ID数全体を示しています。
DAUと課金ID数の伸びは、確かに単独だと鈍い要素があるので、登録ID数と併せて示す事により、アップセル余地が大きい事を説明しています。

Chartwork㈱成長可能性に関する説明資料

※ DAU(Daily Active User)は1日に1度以上「Chatwork」を利用したユーザーID数のことであり、対象期間内での最大値

マネーフォワードはARPAの開示も行っています。

クロスセル/アップセルでの増加と、新規プランのリリースによるARPA拡大を示し、ARR(MRR)への貢献を説明しています。

株式会社マネーフォワード 2019年11月期通期決算説明会資料より

一方、freeeはARPAではなく、ARPUでの開示を行っています。

freee㈱成長可能性に関する説明資料

生産性:セールス効率

生産性指標について開示している所は少なく、カオナビがコンバージョン・レートとリード数推移について開示していました。

これは成長の源泉でもあるので、明確に示せるのであれば、直近短期での成長見通しがわかりやすくなります。

㈱カオナビ 2020年3月期決算説明資料より

その他、セールス効率を示しているのがfreeeです。

推移と、明示はしていないものの他社比較の中で、自社のセールス効率が向上している事と他社と比較し優位性が一定あることを説明しています。

freee㈱成長可能性に関する説明資料

継続性:Churn Rate,プロダクト・エンゲージメント

解約率ですが、スマレジがMRRベースの Gross Churn Rate を開示しています。

開示例で多いのはGrossですね(数字が良く見えるので)。

㈱スマレジ 第15期決算説明資料FY2020 より

一方、Sansanは、同じMRRベースの解約率でも Net Churn Rate を開示しています。

Netで1%を大きく切る解約率ですので、驚異的な数字です。
確かに自信をもって開示したくなります。

Sansan㈱成長可能性に関する説明資料より

Negative Churn についての開示は、指標としての説明より成長可能性に関する説明資料の中で、自社の成長度合いをコホート推移で示している例が一般的です。

こちらはチャットワークの Negative Churn の説明例です。

Chartwork㈱成長可能性に関する説明資料

プロダクト・エンゲージメントについては、開示例がほとんどありませんでしたが、freeeが独自の指標を開示しています。

具体的には、手作業工数について「マジ価値KPI」と称し、カスタマーサクセスの成功度合に関して説明しています。

freee㈱成長可能性に関する説明資料

事業性:ユニットエコノミクス

ユニットエコノミクスも開示例が少ない指標です。

カオナビがマーケティング関連費用の推移と併せて、ユニットエコノミクスの開示を行っています。

㈱カオナビ 2020年3月期決算説明資料より

「サブスクリプションの管理会計」の本編については、これで以上とし、次回からは各論・補足という形でサブスクリプション/SaaS系ビジネスに関連する話に触れていきます。

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サブスクリプションの管理会計④~KPIの重要性~

今回はサブスクリプション/SaaS系ビジネスにおけるKPIの重要性について解説していきます。
前回のサブスクリプションの管理会計③~KPIの解説~とセットで見て下さい。

前回は↓

KGI、KPI、KAIについて

KPI(Key Performance Indicator:重要業績指標)とは、ビジネスを行う上でのキーとなる、重要な経営指標のことです。
経営の現場では、目標(KGI:Key Goal Indicator)を達成するための、その進捗、達成度合いを測る指標となります。

適切なKPIが設定させる事により、成長や改善のための企画や施策が練られ、そしてそこから具体的な活動を導き出す事につながり得ます。
この具体的な活動をKAI(Key Action Indicator)と呼びます。

構造としては次のようなイメージですね。

プレジャーサポート㈱「明確な指標をつくり、成果をあげるKIマネジメント。」より

サブスクリプション/SaaS系ビジネスでなぜKPIが重要か?

これまで見てきた通り、サブスクリプション/SaaS系ビジネスは、事業モデル的に従来のBS・PL・CFといった財務諸表だけでは業績を見通すのがやり辛く、一方、KPIにより将来の収益シミュレーションを立てやすい、という性質があります。
また、成長のためのプロセスがマーケティング→インサイドセールス→フィールドセールス→カスタマーサクセスと、明確なフローになっておりKPI管理をしやすい点も指摘できます。

ようは、サブスクリプション/SaaS系ビジネスとKPIの親和性が極めて高いのです。

自分たちなりのKPIを設定する事が重要

さて、前回でも示した通り、サブスクリプション/SaaS系ビジネスにおけるKPIはある程度、ノウハウが蓄積されており、一般化されています。

しかし、一口に同じサブスクリプション系だと言っても、会社ごとに取り組んでいる事業もターゲットとしている顧客も異なります。

BtoBなのかBtoCなのか。
デジタルベースで完結する物なのか、それとも実物の商品や人を介在するサービスがあるのか。

ようは、自分たちなりのKPIを設定し、模索し続ける事が重要です。

ここで「続ける」と表現したのは、会社の成長フェーズによっても変わるからです。

例えば、CACという指標は、一般的に会社の成長フェーズがあがればあがるほど、悪化していくのが一般的です。
とすると、ブランディングにかけていた経費に関してはCACの算出前提から取り除き、マーケティング経費とは別管理する(別のKPIを設定する)という判断もありうるでしょうし、CACの目安(目標とする予算)自体を調整し、追いかける数字を変える、という判断も考えられます。

KPIの設定を誤ったり、見直しを怠ったりすると、事業の成長にマイナスの影響が起きる可能性が高いです。

  1. 事業内容とKPIの整合性・親和性
  2. 自分達の成長フェーズ

この2点に関しては、十分に認識の上、KPIを考えていく事が肝要です。

(参考)

ベンチャー企業が良く使う指標として、TAM/SAM/SOMという物があります。
これについては、次の記事を参考にしてください。

KPIに関連して「OKR」という物も良く使われます。

これに関しては次の記事も参考にしてください。


今回は、前回のサブスクリプションの管理会計③~KPIの解説~が、気持ち長めだったので、一旦これで切ります。

次回は、サブスクリプション/SaaS系の上場企業の開示資料を参照しながら、KPIの具体例を眺めていきます。

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サブスクリプションの管理会計③~KPIの解説~

サブスクリプションとは?THE MODELとは?の2つの前提を踏まえ、今回はサブスクリプション/SaaS系ビジネスのKPIについて解説します。
用語の話に限定し、そもそものKPI云々については、別の場所で触れます。

前回は↓

ここではKPIを5つに区分して話をします。

サブスクリプション/SaaS系のKPI区分については、明確に分けられているものではなく、分類する人によって変わるのですが、私は便宜的に「収益性」「生産性」「継続性」「事業性」「安全性」の5つで考えています。

前回の「THE MODEL」の所でも書いたのですが、「自分たちなりのTHE MODELを構築するのが良い」という通り、分類についても自社に適した形で自分たちなりに考えるのが良いと思います。

収益性(全社)

MRR(Monthly Recurring Revenue:月次収益,月間定額収益)

月ごとの売上高(収益)です。

MRRの成長率はサブスクリプション/SaaS系ビジネスにおける最重要指標となります。
また、この金額が事業計画における大前提となるため、正確な把握を行ったうえで、売上の計画、投資(費用)の計画を組んでいく必要があります。

なお、複数月に渡る契約の場合、その契約期間で割った金額をMRRとして換算します。
(年額の場合、年額金額を12で割る。)

MRR = 全顧客(全ID)のサブスクリプション月間売上高
= 平均単価(ARPA) × ID総数

※ IDとは顧客の数、もしくは契約単位の数の事です。

ARR(Annual Recurring Revenue:年次収益,年間定額収益)

1年間に入ってくる売上高,収益です。

MRRを12倍(12か月分)し算出します。

ARR = MRR × 12

スポット(単発)の売上高に関しては、ARRには含めません。
(同様に、MRRにも単発売上は含めない。)

急成長中のサブスクリプション/SaaS系ビジネスでは、年単位ではなく、月単位でMRRが激変していきます。
そのため「今この瞬間の事業の規模はどうなのか?」という意味で、ARRも企業価値を考える上で重要な指標となります。

ARPA(Average Revenue Per Account:顧客ごとの平均収益)

1IDあたりの平均収益(月間平均単価)です。

ARPA = MRR ÷ 全ID数

契約プランが1種類しか無いのであれば、基本的にARPAは同じ数字が横ばいになります。

一般的なサブスクリプション/SaaS系ビジネスでは契約プランが複数あるのが通常で、この場合ARPAをあげていく(より上位のプランを顧客に利用してもらう)事が重要な活動となります。

なお、ARPU(Average Revenue per User)という類似の指標も存在します。
ARPUはユーザーあたり、ですのでID数の考え方、単位の持ち方次第ではARPUが重要となる場合もあります(1つのユーザーが複数アカウントを持つ、というような利用形態が想定される場合)。

Quick ratio(MRR成長率)

ある一定期間内におけるMRR成長率の事を指します。

後述するのですが、新規契約があればMRRが増え、解約があればMRRが減少します。
また、複数プランにより上位プランへの以降(アップセル)やオプション等の追加(クロスセル)によりMRRは増加し、同様に下位プランへの以降(ダウンセル)やオプションの解約(ダウン・クロスセル)によりMRRは減少します。

これらを全て考慮したMRRの成長率です。

Quick ratio = (新規MRR + 増加MRR) ÷ (解約MRR + 減少MRR)

サブスクリプション/SaaS系ビジネスは、新規契約を獲得するだけではダメで、解約も抑制しなければいけません。
その意味で、Quick ratioはビジネスが健全に、迅速に成長をしているか否かを判断する指標となります。

明確な目安というものが存在するわけでは無いですが、投資家の経験則的に年間でのQuick ratioは4以上が望ましいとされています。

生産性(マーケティング/セールス)

CPL(Cost Per Lead:リード獲得単価)

1件あたりのリードを獲得するために要した費用単価です。

売上を実際に生む顧客(ID)の獲得だけでなく、見込顧客、つまりリードの獲得のためにもコストをかけなければいけません。
いわゆるマーケティング活動ですね。

CPL = リード獲得のために必要となった全てのコスト ÷ リード獲得数

基本的にはCPLの抑制が重要となるのですが、お金をかけなければ良いか?というと必ずしもそうではありません。

全体平均としてのCPLを認識しつつ、マーケティング・チャネル別(プロセス別)にCPLを個別に認識し、どのマーケティング手法が効率的なのかを探る活動が必要です。

加えて、単純にリードを次工程に渡すのがマーケティングの役割というわけでもありません。

有効商談化率、成約率、ARPA、継続率(から来るLTV)。

これらが高い、良質なリードを生むためのマーケティング手法は何か?を探るのがマーケティング部門における重要な活動となります。

有効商談化率

セールス部門(インサイドセールス、SDR)は、マーケティング部門から渡されたリードに対してナーチャリング活動を行い、実際の案件化(商談化)を図ります。

この際のリードに対する商談化の割合が有効商談化率です。

有効商談化率 = (案件化数)商談化数 ÷ リード数(見込顧客数)

ここにおいて重要な観点が2つあります。

1つが、ナーチャリング担当者の育成観点。

2つが、商談化につながりやすい良質なリードについてです。

ナーチャリング手法は(リード獲得にも使える)メルマガやホワイトペーパーのような手法もありますが、ヒアリングのような人対人のコミュニケーションでも行います。
ようは、ナーチャリング担当者の力量差が出てくるわけです。

優秀なナーチャリング担当者の方法論は、他の担当者とも共有し、チーム全体として有効商談化率を高めていく事が重要です。

また、全体として商談化しやすい属性のリード、しにくい属性のリードがあるはずです。
この種の情報をマーケティング部門にフィードバックすることが重要です。
商談につながらない質の悪いリードに対して、いくら頑張ってナーチャリングを行っても、無駄な労力がかかるだけです。

成約率

基本的な考え方は有効商談化率と同じです。

インサイドセールスやSDRから渡された商談に対して、実際に成約(契約)につなげるクロージング活動を行う際の、成約率です。

成約率 = 成約数 ÷ 商談数

これも有効商談化率と同じで、セールス担当者毎の差とチーム内でのノウハウ共有。
そして、インサイドセールス/SDR、マーケティング部門へのフィードバックが重要となります。

サブスクリプション/SaaS系ビジネスにおけるTHE MODELは縦割り組織ではあるのですが、お互いに情報を交換し合う、フィードバックが重要な活動となります。

CAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得単価)

CPLと基本的な考え方は同じですが、こちらはリードではなく、顧客(ID)を獲得するに要する費用の単価になります。

CAC = 1顧客(1ID)を獲得するためにかかった営業及びマーケティングの全費用 ÷ 成約数

マーケティング部門とセールス部門は一体となって、このCACを可能な限り抑制するための活動が必要となります。

なお、成長に伴い、CACは悪化し続けるのが一般的です(急成長は続かず、広告宣伝費投下額は増大していく、組織も拡大し固定費が増大する)。
つまり、いたずらに低減しようとする事には本質的な意味は無く、適切なCACのラインを成長ステージに併せて探る事が肝要です。

CAC Payback Periods(投資回収期間)

CACを回収できるまでに必要な期間です。

当たり前ですが、コストをかければかけるほど顧客を獲得するのが容易となり、またかけたコスト(投資)の回収は困難になります。

CAC Payback Period = CAC ÷ (ARPA × 利益率)

CAC Payback Periodが短ければ短いほど、投資回収は容易である事、逆に長ければ長いほど困難になります。
この数値が顧客の継続期間より長い場合は、ビジネスそもそもを見直す必要が出てきます。

なお、この利益率はビジネスにより設定するものが大きく変わります。
何か具体の商材(実物の商材)があるのであれば売上総利益が該当するでしょうし、SaaS系ですと事業に直接関わる必須の人件費や各種サーバー費用、ソフトウェア償却額等を差し引いた事業利益率を設定する形になります。

会社毎に設定する利益率をよく吟味する必要があります。

継続性(カスタマーサクセス)

解約率(Churn Rate)

解約(Churn)は、文字通り解約の事です。

どんなに優れたサービスであっても、解約をゼロにすることは不可能です。
しかし、Churn Rateを低減する事は可能です。

Churn Rateには、IDベースなのか、MRRベースなのか、異なった切り口があります。
その他のChurn Rate関連指標と併せて解説します。

Customer Churn Rate(カスタマーチャーンレート:IDベースのチャーンレート)

IDベースのChurn Rate、顧客レベルでの解約率の事です。

Customer Churn Rate = ある月の解約ID数 ÷ 月初ID数

Revenue Churn Rate(レベニューチャーンレート)

MRRベースのChurn Rate、MRRの損失割合の事です。

なお、この場合のChurnには、ダウンセルなどによるMRR損失も含む場合が一般的です。

IDベースで見るか、MRRベースで見るか、それは会社により異なります。

上位プランを契約していただいている顧客のChurn Rateが低く、下位プランでChurnが多いならば、IDベースChurn Rateの方が高く出るはずで、この場合はIDベースを重視してカスタマーサクセス活動を行う必要があるでしょう。

逆にMRRベースのChurn Rateが高いならば、重要顧客への重点的ケアが必要なはずです。

さて、Revenue Churn RateにはGross ChurnとNet Churnがあります。

Gross Churn

ある月の解約やダウンセル等によって発生した、MRR損失の比率です。

Revenue Churn Rate = ある月の解約によるMRR損失 ÷ 月初MRR

Net Churn

上記のGross部分(ある月の解約やダウンセル等によって発生したMRR損失)に、アップセルやクロスセルによって増加したMRRを加味したChurn Rateの比率です。

Net Churn = (ある月の解約によるMRR損失 - ある月のアップセルやクロスセルによる増加MRR) ÷ 月初MRR

なお、Net ChurnがマイナスになることをNegative Churn(ネガティブ・チャーン)と言います。
これはアップセルやクロスセルによって増加したMRRが、解約によって失ったMRRよりも大きい場合に発生します。
通常、中々発生しない事象で、起きている場合には、サービスの値上げ等が行われている事が多いです。

Gross Churnはあまり使われず、Net ChurnをMRRベースのChurn Rateとして採用するのが一般的です。
(ただし、数字を良く見せられる、という観点でGrossの方が開示例は多いです。)

アップセル

顧客の単価を向上させる事、またその手法の事です。

サブスクリプション・モデルのビジネスですと、プランが複数あり、またプラン毎に価格が異なるのが一般的です。

そのため、サブスクリプション/SaaS系ビジネスの場合、アップセルは、高いプランへのアップグレードにより顧客単価があがる事をさします。

逆に、下位のプランへのダウングレード(顧客単価の減少)に対しては、ダウンセル、と表現します。

クロスセル

顧客に別の商品を購入してもらい、トータルとして顧客あたりの単価を向上させる事、またその手法の事です。

サブスクリプション・モデルのビジネスですと、「オプション」による追加課金や、同じサービス提供会社による別サービスの提供などが該当します。

カスタマーサクセスにおいては、アップセルと併せて、このクロスセルを取るための活動が重要で、マーケティングやセールス部門と連携していく形になります。

NRR(Net Retention Rate:売上継続率)

参考程度に触れておきます。

あるタイミングで獲得した契約のMRRが、その翌年にどの程度増減するのかを示す指標です。

NRR = 1年前に獲得した顧客グループのMRR ÷ 同じ顧客グループのMRR

この数字により、あるタイミングで獲得したMRRが、その1年後にどれくらい増減をしたのか、大まかに判断する事ができます。

なお、Quick ratioやChurn Rateでも、ある意味において、同じ内容の事を把握する事ができるので、重要な指標ではあるのですが、別にこの指標をマストで見なければいけないか?というと微妙です。
また、計算方法も、解約分の反映をどこまでやるのか、顧客グループの起点を今に持つのか、過去に持つのか、で変わってきて、目安的な所も取りづらいです。
さらに、一般的に、計算が煩雑であり、他のKPIに比べて容易に算出できない点も指摘できます。
そのため、参考程度、としています。

プロダクト・エンゲージメント

ある意味において、最も本質的に重要な指標です。

カスタマーサクセス活動においては、如何にChurn Rateを下げるか?という目線で活動を行うのですが、ではそのChurn Rateはどのような性質をもつ指標なのかと言うと、結局の所、後追い指標であるにすぎません。

そのため、今、顧客が自社のサービスに対して、どのように感じているのか?という目線でヘルススコア(満足度)やNPS(Net Promoter Score:推奨度)という指標が重要になってきます。

このプロダクト・エンゲージメントは、それだけで本が1冊書ける位のテーマになってしまうので、ここではNPSについて簡単に説明します。
プロダクト・エンゲージメントについては、別の機会で触れようと思います。

NPSは、顧客満足度とロイヤリティを数値に表した指標の事です。
実際に顧客の声を聞いて、取得したデータを数値化することが必要となってきます。

よくあるNPSの数値化方法として、顧客に「このサービスを知り合いにすすめたいと思うか?」という質問をし、それに対して0から10のレンジで点数付けをしてもらう方法です。

NPS = プロモーター比率(高い点数をつけた人の数 ÷ 全回答者数) - 非プロモーター比率(低い点数をつけた人の数 ÷ 全回答者数)

この「高い点数」は9や10など、「低い点数」は6以下などをいれるのが一般的ですが、基本的には会社毎・商品毎に顧客の受け取り方も違いますので参考程度です。

他にも、プロダクト・エンゲージメントを測る方法はあり、自社にとって最適な手法を探る事が重要です。

事業性(全社)

LTV(Life Time Value:顧客生涯収益,顧客生涯価値)

一顧客が、取引期間を通じて企業にもたらす利益の総額です。

高い単価で、長きにわたりサービスを利用してくれる顧客ほど、LTVが高いという事になります。

LTVはサブスクリプション/SaaS系ビジネスにおいて、長期的な利益を見ていくうえで重要な指標となります。

LTV = (ARPA × 利益率) ÷ Churn Rate

また、見方を変えれば、新規顧客の獲得やChurn Rate低減のために、どれだけのコストをかけて良いのか?を測る目安ともなります。

LTV/CAC(ユニットエコノミクス)

ユニットエコノミクスは事業の経済性(収益性)をユニット単位で測定する考え方の元、編み出された計算です。

これは、従来型のPLやCFでは、サブスクリプション/SaaS系ビジネスの経済性を理解するのが困難である事、またサブスクリプション・モデルの活況により、投資判断や経営判断を行う上でのわかりやすい指標として開発されました。

ユニットエコノミクス = LTV ÷ CAC

ID数は順調に増加しているが、中々利益につながらない、というような場合に、ユニットエコノミクスを見て経営判断を行う事ができます。
いつまで、そしてどれだけ赤字を許容していくのか、を判断できるのです。
過去の投資判断の成否を測る事も可能です。

数値の目安としては、経験則でしか無いのですが、ユニットエコノミクス > 3」が望ましいとされています。

安全性(全社)

Burn Rate(資本燃焼率)

1ヶ月で溶かすお金の額です。

明確な計算式は無く、事業計画を元に算出をします(Cashが尽きるまでの平均Cash流出額)。

サブスクリプション/SaaS系ビジネスに限らず、スタートアップやベンチャーは、多額の投資により、お金をどんどん使っていくものです。

そのため会社を経営していくために1ヶ月でいくらの資金が必要になるのか?を正確に把握しておく事が重要になります。
それにより、今ある資金とBurn Rateから算出した、「後、何か月、会社を経営していく事ができるのか?」というスケジュール感を元に資金調達活動(銀行からの借入や、投資家からの出資)の計画を立てていく形となります。

なお、従来より、投資家から受けた出資については、ガンガン投下して(燃やして)、ガンガン成長させていく、という姿勢が望ましいとされてきました。
つまりBurn Rateを高く設定し、そして成長した分、企業価値をあげて次の調達につなげていくのがベンチャーの成長の王道でした。

直近は新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、IT系やヘルスケア系を除き、この投資熱も抑制されています。


次回は、サブスクリプション/SaaS系ビジネスにおけるKPIの重要性について解説し、続いてここで示したKPIについて、具体の開示例を見て行きます。

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サブスクリプションの管理会計②~THE MODEL~

さて、今回は、前回の「サブスクリプションとは?」に続いて「THE MODEL」についての解説です。
「THE MODEL」はサブスクリプションの管理会計を理解する上での基本的な考え方となります。

前回はこちら↓

参考書籍はこちら↓

THE MODELとは

近年、THE MODELという言葉を、サブスクリプション/SaaS界隈でよく聞くようになりました。

このTHE MODELは、営業プロセスモデルの一つで、日本の㈱セールスフォース・ドットコムが取り入れて、業績を拡大させた際の成長モデルの事をさしています。

(海外でTHE MODELの話をしても通じない。)

この成長モデル、特にSMB(スモールビジネス)向けのマーケティングからセールス、そしてカスタマーサクセスまでの一連の流れにおける、分業及び協業について、ビジネス成長の再現性を高めていこうというレベニューモデルが「THE MODEL」になります。
ようは、中小企業向けにインバウンドで効率的にビジネスを成長させていくのに適した成長モデルです。

インバウンドとは、顧客自らが商品を売る企業側に接触すること。お問い合わせフォームから問い合わせた、ホワイトペーパーをダウンロードした、展示会で名刺交換した。そういった顧客からのアクションを元にセールスを進めていく事を言う。アウトバウンドは、超絶簡単に言うと、企業側から顧客に働きかける従来型の営業スタイルの事。

THE MODEL、THE MODELと言われるのですが、万能な手法ではありません。
大企業向け(エンタープライズ向け)セールスや、toC向けのビジネスの場合、そのまま適用できません。
会社毎に行っているビジネス、取り扱っている商品、対象としている顧客が異なるので当然です。

ここで先にTHE MODELにおける重要な点を1つ述べると、自分たちなりの(自社独自の)THE MODELを構築する必要がある、という点です。

取り巻く環境の変化

それでは、じゃあなんでTHE MODELなのか?THE MODELは何故、うまく機能しているでしょうか?

その理由は、ビジネスと顧客を取り巻く環境の変化にあります。

  • 顧客の購買検討プロセスの変化
  • ビジネスの成長がもたらす変化
  • 分業による副作用の変化

説明するまでも無いですが、今現代はインターネット社会であり、欲しい情報は大体、検索すれば出てきます。
つまり、顧客は、企業側が顧客と接点を持つ前に、一定、購買の意思決定を行っているのです。
ようは「既に勝負はついてしまっている。」という事ですね。

勝負がつく前に顧客に対して何かしらのアクションを取りたいのであれば、オフライン(商談の履歴等)の情報では不足があり、オンライン(WEB,メール,モバイル)から顧客の情報を取得し、顧客の理解を行う必要があります。

これが、顧客の購買検討プロセスの変化です。

マーケティング・オートメーション(MA)という言葉が誕生して久しいですが、セールス効率はITの発展と共に著しく上昇しています。
そしてセールス効率を高め続けていけば、いずれは成長が頭打ちになります。
この成長の頭打ちを突破するには、「顧客のリサイクル」が必要となります。

これが、ビジネスの成長がもたらす変化です。

そして、MAの誕生を契機に、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス(外勤営業)の各プロセスが分業をするようになってきました。
分業、縦割りで組織を分けることにより、共通の目標が追いにくくなります。
セールス効率を高めたが故に、分断が発生しやすい状況になり、これを打破する必要性が出てきました。

これが、分業による副作用の変化です。

このような、ビジネスと顧客を取り巻く環境の変化が起きているが故に、マーケティングからセールス、そしてカスタマーサクセスに至るまでの全てのプロセスについて、接続し、一気通貫させるレベニューモデルが機能する土壌が育まれることとなりました。

そして、このレベニューモデルが「THE MODEL」なわけです。

4つのプロセス

THE MODELでは、セールスのプロセスを、4つに分けて考えます。

  • マーケティング
  • インサイドセールス
  • フィールドセールス
  • カスタマーサクセス

そして、この4つのプロセスそれぞれに管理すべきKPIが存在します。

マーケティング

マーケティングは、文字通りマーケティング施策の企画・実行、そして顧客情報(見込顧客)などの収集を行います。

WEB・SNS広告、ホワイトペーパー、展示会などの実施が該当する活動です。

マーケティングの重要な役割は見込顧客(リード)の獲得であり、このリードをインサイドセールスに引き渡します。

マーケ施策(ターゲット母数) × 見込顧客得率 = 見込顧客数

インサイドセールス

インサイドセールスは、マーケティングが獲得した見込顧客に対して、様々な手段による案件化を行います。

メルマガによる情報提供、ヒアリングによる課題抽出とコミュニケーション、具体のソリューションの提案が該当する活動です。
(これらを、ナーチャリング、と呼びます。)

インサイドセールスの重要な役割は案件化、つまり商談数の獲得であり、この商談をフィールドセールスに引き渡します。

見込顧客数 × 有効商談化率 = 商談数

フィールドセールス

フィールドセールス(外勤営業)は、インサイドセールスが案件化した商談に対して、実際に成約につなげる活動を行います。
クロージングのための営業活動ですね。

フィールドセールスの重要な役割は成約、つまり契約の獲得です。

商談数 × 成約率 = 契約数

カスタマーサクセス

そして最後、カスタマーサクセスは、フィールドセールスが獲得した契約に対して、更新率をあげる(もしくは解約率を下げる)活動を行います。

オンボーディング(ようは初期サポート)、コンサルティング、カスタマーサポートなどの活動が該当します。

カスタマーサクセスの重要な役割は、文字通りカスタマーサクセス、顧客の“成功”にあります。
顧客が自社のサービスを利用する事により、抱えていた課題を解決していく。
それにより更新率が上がり、継続して自社サービスを利用してくれるようになります。

契約数 × 更新率(※) = 継続契約数
(※ 解約率:チャーンレートから計算する事も)


これら4つのプロセスを分業により、効率を最大化させていくという考えがTHE MODELの基本的なポイントとなります。

他にも管理会計以外の要素、分業・縦割りにより発生する分断をどうするのか、や各プロセス個別の深掘りについては別の機会に触れようと思います。

THE MODELのKPI

上記4つのプロセスで見た通り、THE MODELでは基本となるKPIが決まっています。
管理会計のやり方がある程度決まっているんですね。

サブスクリプションとは?に続き、今回でTHE MODELについて、基本的な所を抑える事ができました。
これでKPI、管理会計の話に移れます。

次回は、ここで登場したKPIに加えて、サブスクリプション/SaaS系のKPIについて、解説をしていきます。

なお、あらかじめ釘を刺しておくのですが、THE MODELの概念で重要な事は、KPIの達成やセールスの効率化にはありません。
本質的には「カスタマーサクセス(顧客の成功)」にある、という点は管理会計を行う上でも最重要の思想となりますので、この点は重々ご承知おきください。

次回はこちら↓

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サブスクリプションの管理会計①~サブスクリプションとは?~

前回は、㈱オリエンタルランドを例に、財務3表から管理会計上の接続について簡単に見てみました。
今回から個別のテーマに入っていきます。
最初は、ここ近年で話題にあがっているサブスクリプション・モデルの管理会計について考えていきます。

サブスクリプション・モデルの管理会計については、大枠として下記の構成で予定しています。

  1. サブスクリプションとは?
  2. 「ザ・モデル」について
  3. サブスクリプションの管理会計指標解説
  4. 具体例
  5. 他各論

なお、本稿自体は話をわかりやすくするため、主に「toC」をベースに話をしますが、「ザ・モデル」について、以降は「toB」をベースに話をします。
「toB」ベースの話で、管理会計のベーシックな部分は「toC」もカバーできるからです。

前回以前の会計基礎講座については、下記にまとめています。

サブスクリプション・モデルとは

サブスクリプションとは、本来は雑誌や新聞などを予約購読、つまり定期購読するという意味の言葉です。
それが転じて、サービスの利用に当たって毎月一定額を払えば、支払プランの範囲内で使い放題となるサービスのことをサブスクリプション・モデルと呼ぶようになりました。

ここで重要なのが、従来のビジネスにおいては、価値提供の軸が提供する商品やサービスそのものに焦点があてられていましたが(所有)、商品やサービスの量や期間、もっというと”利用”に焦点があてられている、という点です。

所有と利用の違い、そしてレンタルとサブスクリプションの違い

月額料金制度や定額利用サービス、と解説をされたりしますが、サブスクリプションはもっと奥の深い概念で、製品中心から顧客中心へと考え方が変わったビジネス・モデルと言えます。

以下、サブスクリプション・モデルのことを「サブスク」と略します。

なぜ、サブスクが近年話題となっているのか?

サブスクは、継続的に価値を提供し、収益化するビジネス・モデルです。

上述の通り、製品中心から顧客中心へと考え方が変わった、とある通り、重要な事は顧客を正しく理解して、固定的なサービスではなく、価値を継続的に提供し続ける事にあります。
ようは「長期的リレーションシップ」を構築する事が重要と言えます。
(繰り返しますが、サブスクリプションは課金形態の変更、ではなくて、新しいビジネス・モデルです。)
それでは、なぜ、サブスクが近年話題となり、急速に拡大しているのでしょうか?

顧客ニーズの変化

その大きな理由としては、顧客のニーズの変化にあります。

戦前から続いてきたプロタクト販売モデルは限界を迎えている、と言われて久しい通り、現代は「物が売れない時代」です。
必要な物は身の回りにあふれており、「モノ消費ではなく、コト消費」とも言われて久しいです。

つまり、顧客のニーズは、所有から利用へと変化しているのです。

このような背景があり、製品中心から顧客中心へと考え方を変えたサブスクが顧客のニーズとマッチし、近年台頭する形となりました。

企業のメリット

これは、顧客のメリットだけでなく、企業にとってもメリットがあります。

まず、顧客との関係性です。

サブスクは「売ってお終い」というビジネス・モデルでは無いため、顧客とダイレクトにつながり、また「長期的リレーションシップ」の構築を図る事が可能です。

次に、収益性の問題です。
「長期的リレーションシップ」を構築するが故に、長きにわたって収益・売上が約束された状態でビジネスを進められる事ができます。

このメリットを端的に表現すると本節冒頭の「サブスクは、継続的に価値を提供し、収益化するビジネス・モデル」となります。

サブスクの事例と考え方

さて、サブスクですが、ありとあらゆる領域で登場するようになってきました。

BtoCもそうですし、

BtoBもです。

BOXIL社資料より

いくつか具体の事例と共に、サブスクの考え方を深めてみます。

車の例から見る顧客ニーズの変化

従来ですと、車を運転する、という行為を考えた時に「買う」か「借りる(レンタル)」の2つの方法しか存在しませんでした。

サブスクのモデルでは、契約の期間中、契約プランの範囲内で様々な車種に自由に乗り換える事が可能です。
保険の手続もメンテナンスも不要で、利用者は面倒な雑事を気にする必要はありません。

㈱KDDI総合研究所作成資料より

さて、今までのプロダクト中心の時代では、ただ、より良い製品を効率的に生産すれば良く、顧客の事を深く知る必要はありませんでした。
しかし、これからの顧客の時代では、顧客は必要な時に、必要な情報やサービスを、状況に応じて適した形で提供されることを期待しています。

今の若い消費者世代は、「車への消費」に関して、あくまでも乗りたいのであって(移動手段や、場合によっては様々な車に乗ってみたいという体験)、所有をしたい(車の所有がステータス)、とは考えていないのです。

これから技術が更に発展し、自動運転の時代も到来するでしょう。

顧客のニーズは、まだ変化していく事が予想され、その時の勝者は変化し続ける顧客のニーズを捉えた企業になると考えられます。

Amazonの例から見る顧客との関係性、マーケティングの考え方の変化

Amazonは、顧客との継続的な関係性を構築した物販の会社としては代表的と言えるでしょう。

従前のECは、物を販売して終わり、でしたがAmazonは違います。
高度なロジックにより、顧客毎に異なるトップ画面が自動的に構成されます。

Amazonは顧客を、例えば30代独身女性というようなメッシュ感の荒い集団で傾向を分析するのではなく、一人一人、唯一の顧客としてリレーションを構築しようとしています。

例えばAmazonプライムは、単純に便利だから伸びている、という側面も前提としてありますが、それだけではありません。

顧客一人一人のことを詳しく知っている事によって、利用者に対して継続的な価値を提供でき、そしてそれがサブスクの収益の元となっているのです。

adobeから見る管理指標の変化

illustratorやPhotoshopで有名なadobeは、これまでパッケージ販売を行っていたデザイナー向けソフトについて、定額課金方式(サブスク)に移行しました。
2011年のことです。

数十万円をする高額商品を、定額課金方式に切り替える、という事は大きな挑戦です。

切替時の投資や、採算性があうまでの顧客数(ID数)。
初期には莫大な赤字を出します(必要な投資が大きい一方、収益が悪化する状態が続くため「フィッシュ」と呼ばれる成長曲線を描く事になる)。

ビジネスを成功させるには、顧客のニーズを捉えるだけでなく、投資家の理解も必要です。

adobeは年間経常収益(ARR:Annual Recurring Revenue)という考え方を取り入れ、投資家を説得しました。

結果、adobeの挑戦は成功し、株価はサブスク切り替え前の7倍になり、低迷していた売上の伸びも再度の成長曲線を描けるようになりました。

adobeの成功は、ソフトウェア業界における象徴的成功事例となり、近年はソフトウェア業界全体で一気にサブスクリプション化が進んでいます。
また、顧客も、クラウド、サブスクリプションじゃないと選ばない、という位の状況になっています。

サブスクは更に拡大していく

過去にも電車の定期券や新聞・雑誌、賃貸住宅など、サブスクのビジネス自体は存在していました。
ようは、インフラやライフラインの領域です。

しかし、近年はITの発展を背景に、様々な領域でサブスクが拡大しています。
ITは、IoTやAIなどの領域はまだまだ未成熟であり、更なる技術革新が期待されています。

そのため、ありとあらゆるビジネスは、サブスク化が行える、とされています。
中長期的に安定した売上を得られるサブスクに何とか移行し、顧客の支持を得ようと、各社が必死に競争を繰り広げています。
今後も、サブスクは更に拡大していく事でしょう。

(参考書籍)

次はこちら↓

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