急成長ベンチャーが使う市場規模指標、TAM/SAM/SOMの意味とは

経営企画

ベンチャー界隈ではよく使われるTAMという用語。
ざっくり「市場規模」という意味で、何となく捉えられているこの言葉を、関連用語であるSAM、SOMとあわせて、その意味を解説していきます。

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TAM/SAM/SOMの重要性

新プロダクト、新サービスを開発する前に、大切なことがあります。
対象となる市場、つまり市場規模を調査することです。
現実のビジネスでは、プロトタイプでも良いのでプロダクト、サービスを投入してみないと実際にはわからないことも多いですが、一定レベルでの市場規模の調査は可能であり、そして非常に重要なことです。

ベンチャー経営者は、自分たちのプロダクト/サービスの市場規模について、当然に検討しているでしょうし、またベンチャーキャピタルをはじめとする投資家からもよく聞かれる話かと思います。
それは、まだどれくらい成長するのかが実際には読みきれないベンチャー企業に投資するにあたって、判断材料が必要だからです。
そもそもとして投資する価値があるのか、また投資する価値があるにせよ、自分たちのファンドサイズから言って適切な投資案件なのか。
そのようなことを検討するのにあたり、市場規模は事業やプロダクト/サービス、チーム構成、将来ビジョンといったもの以外の一つの目安になるのです。

市場規模が小さければ、会社の成長において、アップサイドに限界があると見られてしまいますし、現実にビジネス展開をしていく上での障害になるでしょう。
また、仮に市場規模が十分に大きかったとしても、その前提、ロジックが微妙でツッコミどころが満載でしたら、その数字は疑わしく、ネガティブに見られてしまうでしょう。

TAMそして、関連用語であるSAM、SOMはその市場を評価するための指標です。
今回は、このTAM/SAM/SOMについてとその算出方法について解説していきます。

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なんで普通に「市場規模」って言わないの?

日本の外食産業の市場規模はどれくらいでしょうか?
25兆円です。
ググればわかります。

このような、世の中に既にあるプロダクトやサービス、市場については、検索して調べられるか、簡単な調査やロジック構築により算出が容易です。
しかしながら、これまでにない新しいプロダクト、サービス、革新的なテクノロジーを使用して既存市場に革新を起こす、リプレイスを起こす、このような事業においては、その市場規模を定義し、算出することは簡単でしょうか?

既存の市場の考え方で新しい プロダクト/サービスを評価したがために、本来もっと高い価値がある、ポテンシャルのある企業を過少に評価し、その芽を摘んでしまう。
そういったことも考えられます。

少し想像してみてください。
12年前、スマートフォンを持っていた人はどれだけいたでしょうか?
ほぼ、誰も持っていなかったはずで、そのような状況で、スマートフォンがもつポテンシャルをどれだけ正確に評価できたでしょうか?
これはほんの一例ですが、まったくの新しいプロダクト/サービスについては、単純に既存の市場規模をみていては、その価値を正確には捉えられないのです。
(他にも、中古市場もネット販売、特にCtoCが発達してから、その市場規模が膨れ上がることは、どれだけの人が想像できたでしょうか?)

このように、まったくの新しいプロダクト/サービスの市場規模を評価するにあたっては、既存の市場規模の考え方とは異なる分析が必要なのです。
既存のどのようなプロダクト/サービスをリプレイスしていくものなのか、代替していくのか、その対象ユーザーは誰でどれくらいいるのか、その根拠や動機は。
こういった点にこたえる指標として、TAM/SAM/SOMが存在します。

なお、なんとなく流行り言葉っぽいTAMですが、実は1980年代から使用されている用語です。
後述はしますが、元々はSAMの意味合いでTAMが長く使われていて、それが不味いね、となったのが近年のベンチャー企業の勢い、具体例えばUBERで、UBERのTAM(SAM)が蓋をあけてみたら物凄く大きいと。
それで、TAM(SAM)では、価値のあるベンチャー企業の本当の価値が測れないのでは、ということで今現在のTAM的使い方が一般的になっています。

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それぞれの用語の意味

¶ TAM(Total Addressable Market)

TAMとは、あるプロダクト/サービスにより「実現可能な最大市場規模」という意味を持つ用語です。
市場におけるプロダクト/サービスの総需要を示しており、対象市場の最大想定規模と言い換えることもできます。
これは、いわゆる「市場規模」が指す直接の競合に限らず、同じ市場や異なる市場が競合するサービスも含んで考えます。

TAMの明確化により、経営者は参入すべき(もしくはできる)市場の選別や、ターゲットとすべき顧客について解像度をあげることが可能になるでしょう。
また、投資家たちに対しては、事業の長期的なポテンシャルを示すこともできます。

なお、既存の市場規模ではその価値を測り切れない新しいプロダクト/サービスに対して使うのが適切であるが故に、明らかに規模が大きい市場に対しては、事細かくTAMの話をすることの意味は、あまりありません。
誰しも人材不足なのは知っていますし、医療費が高騰していくのも知っています。
人口減や関連して空き家が増えていくのも、誰しもが知っているので、この種の話を細かくつつく必要が無いのです。

また、市場規模は大きければ当然良くはあるのですが、当たり前の話、ブルーオーシャンは早々に赤く染まります。
単純に市場規模が大きいから良し、ではなく、自分たちの新しいプロダクト/サービスがどのように、その市場を切り取って、その価値を示していくのか、の方が非常に重要です。

後述はするのですが、TAMはトップダウン方式で算出します。
またTAMは「実現可能な最大市場規模」ですので、100%の市場シェアが達成できた場合を仮定して算出されます。
数字は通常、年額です(以下、SAM、SOMも同様)。

¶ SAM(Serviceable Available Market)

TAMの中で具体的にターゲットとしている部分の需要を意味します。

自分たちのプロダクト/サービスがいかに斬新で革新的なものとはいえ、何かしら競合はいるはずですし、既存のプロダクト/サービスも存在するはずです。
自分たちのプロダクト/サービスが市場からどれだけ評価されても、従来のプロダクト/サービスからスイッチしない層も必ず一定の割合で存在します。
それら対象とする顧客セグメントの需要、つまり「あるプロダクト/サービスが獲得しうる市場規模」を指します。
表現を変えるならば「そのプロダクト/サービスによりアプローチ可能な市場規模」とも言えます。

つまり、企業が当面の目標とする市場シェア全体を示すことになります。
TAMとセットで考えることで、経営者はより、経営者は参入すべき(もしくはできる)市場の選別や、アプローチすべきターゲット顧客は誰なのかについて解像度をあげることが可能になるでしょう。

SAMはトップダウンで算出する場合もありますが、一般的にはボトムアップで考えます。
TAMがこれくらいで、その〇〇%を獲得していくのでSAMはいくらいくら、という算出のやり方では根拠が薄弱、というか根拠がありません。
積み上げで考えていった結果、これくらいは獲得できるはずなので、結果SAMはTAMの〇〇%になる、という文脈の方が説得力があります。

TAMに関しては大きすぎるのは必ずしも良くない、という話をしましたが、SAMに関しては小さすぎる市場を選ぶことは(当然ですが)あまり良くは無いです。
どのようにスケールさせていくのか、スケールさせていった結果として、どのような市場にスライドしてアプローチしていくのか。
こういった点が見える、今々想定のSAMが小さかったとしても、Expantion(拡張)可能な市場を選択することが必要です。

ボトムアップの考え方に関しては、トップダウンの考え方とあわせて後述します。

¶ SOM(Serviceable Obtainable Market)

SOMは、「自分たちのプロダクト/サービスが実際に現実的に獲得できる市場規模」のことです。

TAMは「想定しうる100%のシェアをとった場合の市場規模」のことで、
SAMは「あるプロダクト/サービスが獲得しうる市場規模」のこと、
そしてSOMはそこからさらに具体的に「自社」にとなります。
つまり、SOMは「実際にアプローチする顧客の市場規模」とも言い換えられ、自社が短中期で獲得せねばならない売上の重要目標となりえます。

このSOMの達成具体によって、算出したTAMやSAMに対する評価を考え直します。
アップサイドが大きければ、期待は当然大きくなりますし、ダウンサイドが大きければ反対にその企業の価値を小さく再評価するでしょう。

SOMの検討にあたっては、現実的で蓋然性のある事業計画、つまり自社のマーケティング/セールス努力によってアプローチできるSAM、を算出する形になります。

このようにTAM/SAM/SOMはセットで考え、自分たちのポテンシャルを考えると同時に、具体的な事業計画に落とし込んでいくものになります。

下記がTAM/SAM/SOMの参考イメージです。

AirBnB Pitch Deck より

なお、ビジネスの解像度があがったり、純粋に業容が拡大すれば当然TAM/SAM/SOMについても修正が必要です。
実際にプロダクト/サービスをリリースしてみたら顧客の反応は違った、ということは珍しくありません。
思いもよらない市場に刺さる場合もあります。
海外に進出すれば、TAMは大幅に拡大します。
TAM/SAM/SOMは不変ではなく、常に変わりうる、という前提で捉えておくとよいでしょう。

算出・分析方法

ここからはTAM/SAM/SOMの算出方法の解説になります。
算出には2つのアプローチがあります。

  • トップダウン方式
  • ボトムアップ方式

¶ トップダウン方式

トップダウン方式は、市場規模全体から大きく見ていく方式です。
上述した通り、主にTAMの算出に使用します。

例えば、政府公表の統計資料であったり、矢野経済研究所の調査資料であったりと、世の中に出ている信頼度が高い資料から、その市場規模を見ていきます。

ポイントとして重要なのが、その統計資料がどのような中身、構成要素なのか、です。
同じ〇〇市場規模であっても、調査主体が異なれば結果が異なる場合がほとんどで、その理由としては、調査が定義している市場が異なったり、調査条件や対象カテゴリーが異なったりするためです。
世の中に複数ある統計資料の中から、自分たちが欲する定義、カテゴリーであることを確認していきましょう。

また、大掛かりな調査は時間も費用も要するものです。
つまり、「最新」の統計資料であるにも関わらず、何年も前のものであったり、毎年更新されていた調査が更新されておらず存在しない場合は珍しくないのです。

適切な統計資料が見つからない場合、そのTAMの算定が重要ならば、調査会社に依頼するのも一つの手です。
ただ、別に企業価値の算定のために第三者を入れるよう、大げさな話でもありません(大概は)。
極力、世の中にある統計資料でもって、工夫して算出を行うのがよいでしょう。

¶ ボトムアップ方式

ボトムアップ方式は、積み上げによって市場規模を推測・算出していく方式です。
SAM/SOMに算出に使用します。

大枠の計算式はSOMの場合は「顧客全体の数 × 顧客が支払う年間総額」、もしくは「(顧客全体の数 - 競合を利用している顧客全体の数) × 顧客が支払う年間総額」となります。
対象となる顧客のニーズや実際の支払意思、購買行動、そして既存の各種統計資料を織り交ぜながら必要となる計算式(ロジック)を構築していく形になります。

SAMの場合は、そこから更に、自分たちのリソースまでも含めて、どこまで顧客のニーズに対して市場を切り出して、作っていけるのか、を分析します。
自社には、どれだけのマーケティング予算があって、セールスの人員はどれだけいて、それでこういう事業計画なんだ、という点を現実的でかつ蓋然性を高くもって見ていきます。

精度高くSAM/SOMを算出するにあたって、実際のプロダクト/サービスをもってヒアリング調査を行ったり、支払意思や購買行動の確認のためアンケート調査を行ったりします。
その際のポイントとしては、いきなり大規模な調査を行うのではなく、複数の小規模なパイロット的調査を、やり方を変え、PDCAをまわしながら行う方が良い、という点です。
サンプル数が少数でも、まあまあな精度で情報をとれますし、ある一つの調査だけですと、その調査の設計によっては曖昧性が高かったり、誘導的な内容になったりと、本当に欲しい情報がとれるとは限りません。
実際にプロダクト/サービスがあるならばそれを、まだ無いのならばプロトタイプで良いので、パイロット調査を積み重ねていきましょう。

アンケートのサンプル数の算定にあたっては、こちらの記事も参考にしてください。

数字も大事だけれども、過程も大事

まだ、どこの馬の骨とも言えないベンチャー企業にとって、自社の価値をわかってもらうことは非常に大変です(自分だってわかっていない)。
その中で、このTAM/SAM/SOMを用いれば、一定レベルはコミュニケーションをとることが可能になります。

ここで重要なのは数字そのものもそうですが、その数字を算出するにあたっての過程です。
市場規模や競合環境、それに対する自社のアプローチを蓋然性高く説明できれば非常に説得力が高まります。
適切な泥くさい調査を積み重ねていれば、投資家たちからの、分析能力に対する評価もあがるでしょう。

夢を大きくもつことは当然良いことではありますが、同時に、現実的な視点をもち、蓋然性の説明を精度の高いロジックでできることも重要であると心がけていきましょう。

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