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DCFは使えない~バリュエーションにおけるDCF法の限界、デメリット~

バリュエーションにおいてよく使われる手法として「マルチプル」が存在します。
もう一つ、よく語られるものとして「DCF法」が存在しますが、IPOバリュエーションにおいて利用される比率は少ないです。
なぜ、DCF法は使われないのでしょうか?
DCF法の限界、デメリットについて解説していきます。
最後にDCFが有用となる場面についてもあわせて解説しています。

忙しい人向けまとめ

  • DCFは、将来キャッシュフローを元に企業の現在価値を算定する方法で、理論的には合理的
  • DCFは、非常に手間暇がかかるのと、前提が複雑かつ多すぎるので数字がぶれるため、あまり使われない
  • DCFは、「事後的な検証」や「バリュードライバーの検証と企業価値を高めるための目標設定」には有用

DCFとは

「DCF(Discounted Cash Flow)法」とは、企業が生み出す将来のキャッシュフローを予測し、それをベースに企業・事業のリスクに応じて設定する割引率で現在価値を計算する(ディスカウントする)形で企業価値を求める方法です。
(以下、DCF法のことを単純に「DCF」と記載します。)
一方、よく使われる別の手法に「マルチプル」とは、企業の規模や株価などから、既に企業価値が分かっている他企業との比較により、企業価値を求める方法です。類似企業比較法とも言います。

学術的、つまり理論的には、DCFは非常によくできている方法で、MBAなどビジネス・スクールにおいても、ファイナンスの講義において必ずDCFは登場していきます。
中には、DCFこそが企業価値評価における唯一性の高い万能な手法であると考える人もいるくらいの方法です(実際にいる)。
実際に算定していて、複雑なシミュレーションを要することもあり、この手法を使うことそのものに喜びを感じてしまう人もいます(実際にいる、なんかかっこいいしね)。

しかしながら、設備投資におけるプロジェクト・ファイナンスのような、比較的キャッシュフローを読みやすい状況や、同業同種におけるM&Aの際のバリュエーションに算定などを除いて、現実的には使用が難しいと言えます。

(参考)企業価値評価の方法

  • ネットアセット・アプローチ : B/S純資産をもとに算出。簿価純資産法、時価純資産法がある。
  • マーケット・アプローチ : 類似企業の株価や過去の評価事例を参考に算出。市場株価法、類似企業比較法(マルチプル)がある。
  • インカム・アプローチ : 将来のCFやPLの現在価値などに基づいて算出。DCF法、収益還元法がある。

なぜ、DCFは使えないのか?その限界、デメリット

では、学術的にDCFが支持されているし、実際に適用されている場面があるのに、なぜDCFは使えないのか?
その限界、デメリットについて解説していきます。

なお、先に補足を入れておくと、企業価値の算定自体が「未来予測である」点を指摘できるため、DCFに限らず、マルチプルも含め、絶対的な方法は存在しません。
人間の活動を将来にわたって予測しきることなど不可能な話ですので、当然に、この世に存在するありとあらゆる企業価値の算定の方法には、そもそもとして無理があります。
ですので、「DCFは現実的にバリュエーションに使えないよね」というスタンスに立ちながらも、その価値が一切ない、有用性0である、とは考えていません。

ただ、現実に、IPOにおけるバリュエーションではマイナーですし、各種ファンドでも「使ったことがない」という人が珍しくないのが現実です。

純粋に複雑なので手間暇がかかる

DCFは、将来キャッシュフローの算出と、現在価値を計算する上で必要となる割引率の算出が前提となります。
この将来キャッシュフローの算出にあたっては、事業計画をベースとするため、当然に事業計画を蓋然性の高い根拠でもって策定しなければなりません。
また、割引率の算出にあたっては、WACC(加重平均資本コスト)というものをベースとするため、もろもろのパラメータとなる各種資本コストなどを計算しなければなりません。
ここで登場するパラメータとして、時価ベース自己資本の価値、有利子負債の価値、税引前有利子負債資本コスト、実効税率、無リスク利子率、株式β値、株式市場全体資本コスト、といった変数が絡んできます。
更に、非上場企業の場合、投資リスクが上場企業よりも大きいであろうという理由で、「サイズプレミアム(小規模企業リスクプレミアム)」というものが加算されます。
非常に複雑で、もうわけがわかりません。

これだけの手間暇がかかるので、忙しい中、実務でどこまで使用できるでしょうか?
現実的に難しいと言えるでしょう。

変数が多いので数字がぶれる

次に、数字が大きくぶれる点があげられます。

上述の通り、事業計画をベースとする将来キャッシュフローと、多くの変数により成り立つ割引率によって計算されるため、各パラメータのおき方が及ぼす影響が非常に大きくなります。
また、DCFにおいて決定的に無理があるのが「ターミナルバリュー」です。

ターミナルバリューとは、事業が生み出す将来キャッシュフローの試算において、試算が現実的にできない期間以降について算出された永続価値のことです。
将来キャッシュフローが現実的に試算できない期間とは、例えば5年目以降とか、10年目以降です。

この計算においては「企業は永続して存続し、キャッシュフローを生み出し続ける」という前提があり、その前提でもって「永久成長率」を設定し、ターミナルバリューを計算することになります。
DCFでは、この永久成長率の数字によって、企業価値が非常に大きくぶれます。
そして、ターミナルバリューが企業価値の大半を占めるケースも散見されます。
つまり、多くのケースで、DCFで行ったバリュエーションは、マルチプルなどを利用したバリュエーションに比較して、高く企業価値が算定されてしまうのです。

確かに、企業が安定して成長し続けるのであれば、5年目以降とか、10年目以降の企業価値の方が、今目の前からその時点までの企業価値より高い場合も、それは当然にあるでしょう。
しかし、企業価値の大半が現時点では予測できない遠い未来の将来キャッシュフローで決まってしまう点に、純粋に疑問や違和感を持ってしまいます。

事業価値をベースとする将来キャッシュフロー、様々かつ複雑な変数により構成される割引率、企業が一定の割合で永久に成長し続けるという前提。
これによって起きる「企業価値の大半が現時点では予測できない遠い未来の将来キャッシュフローで決まってしまう」という現実。

これがDCFが決定的に使えない、限界がある、デメリットです。

確かにDCFは、理論的には正当であり、その「概念そのもの」は他の企業価値算定の手法に比較して合理性が高いと言えるでしょう。
しかし、現実問題として、上記であげた各種パラメータを正確に予測するのか?
これが誰にもわからないのです(どれだけDCF研究が進んだとしても、無理でしょう)。

DCFが有用な場面

これまで、DCFが使えない理由、その限界、デメリットについて解説していきました。
ここからは、ではDCFが有用となる場面について考えていきます。

まず、冒頭でも書いた、設備投資におけるプロジェクト・ファイナンスのような比較的キャッシュフローを読みやすい状況や、同業同種におけるM&Aの際のバリュエーションに算定などについては、比較的、精度高く未来予測ができるため、適用が十分にできます。

次に、考えられるのが「事後的な検証」です。
実際に事業を運営してみて時間が経過した時、すでに実績として出た各種パラメータを用いて、DCFで企業価値を算定してみるのです。
これにより、他の手法、例えばマルチプルで計算した結果の正当性や、逆に無理があった点を事後的に検証できます。
あくまでも事後の話にはなってしまうのですが、バリュエーションの精度をあげていく、という観点で考えれば、事後的な検証は有用と言えるでしょう。
(その意味で、DCFも計算しておいて、後々、その計算結果を検証することも有用かもしれません。リソースは奪われますが。)

また、企業価値をあげるための戦略立案に関しても有用と言えます。
長期間に渡り議論を重ねながら、企業における「バリュードライバー」は何か?「目標」をどのように設定していくか?を考えていくのです。
投資家は、ある単年度の利益に投資するのではなく、あくまでも将来に渡って得られる未来のキャッシュフロー、つまり「将来キャッシュフロー」に投資します。
このため、「将来キャッシュフロー」の設定や「永久成長率」の設定などの話は、企業価値を算定するためのものではなく、企業価値を実現していくための指標として捉えることができるのです。
資本主義の原理原則の観点で考えれば、DCFの「概念そのもの」は非常に合理性が高いのです。

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バリュエーションにおけるプレとポストとは?

バリュエーションにおける用語で「プレ」と「ポスト」という言葉が出てきます。
わかっている人同士では何気なく使いますが、わかっていない人にしてみれば、不可解な用語でしょう。
ここでは、バリュエーションにおけるプレとポストについて解説していきます。

バリュエーションとは?

まず、バリュエーションとは、ある企業にどれくらいの価値があるのかを示した数値のことで、つまりは時価総額のことを意味します。
時価総額が高ければ高いほど価値のある企業、という理解になります。

企業のバリュエーションは次の式で計算できます。

バリュエーション(時価総額) = 発行済株式総数 × 一株あたり株価(発行価格)

これは、非公開会社(未上場企業)であろうと、上場企業であろうと、基本的には変わりません。
上場企業の場合は、株価が明確にあるため、発行済株式数に株価をかければバリュエーションが求められます。
上場企業においては、取引所が開いている時間において、株価は常に変動しますが、非公開会社(未上場企業)においてはそうはなりません。
ある調達ラウンドを終えた場合、次の調達ラウンドが行われるまで、バリュエーションは動きません。

プレとポスト

ベンチャーファイナンスの調達ラウンド(バリュエーションタームと言う)において使う用語に「プレ」と「ポスト」という言葉があります。

プレはプレマネーバリュエーション(Pre Money Valuation)の略、
ポストはポストマネーバリュエーション(Post Money Valuation)の略となります。

それぞれ、プレバリューやポストバリュー、ないしは何度も使っているように、単純にプレとかポストのように呼ばれます。

ここでは長いので、プレ、ポストと呼びます。

プレとは

プレとは資金調達前の企業価値、つまり新規投資がなされる前の時価総額のことを指します。
(企業価値と時価総額の違いについては、ここでは端折ります。)

上記で、バリュエーションの計算式を次のように示しました。

バリュエーション(時価総額) = 発行済株式総数 × 一株あたり株価(発行価格)

この計算方法はプレの計算方法となります。

そして、一般的にバリュエーションのという言葉を使う際は、プレのことを指します。
用語の使い方が曖昧なシチュエーションにおいては、「今の数字はプレ?それともポスト?」なんて会話が出てきます。

じゃあ、なんで一般的にバリュエーションはプレのことをさすのかというと、それは企業の現在価値をもって、投資家といくら調達するのかを交渉するからです。
企業の現在価値は、DCFやマルチプルを用いて算定しますが、この算定基礎となるのが事業計画です。
事業計画は資金調達前のものになるので、それを元に算定した企業の現在価値は、プレのことをさす形になります。

ポストとは

プレが資金調達前の企業価値のことをさすのに対し、ポストは資金調達後、つまりは新規増資により、新しいお金が入った後の企業価値のことを指します。

ここでプレとポストの関係を整理すると、下記のようになります。

プレ + 新規調達額 = ポスト

プレ = 発行済株式総数 × 一株あたり株価(発行価格)

繰り返しますが、調達ラウンドにおいて、企業が投資家と交渉をするベースはプレになります。
上述の通り、DCFやマルチプルで算定した企業価値を、投資前の発行済株式総数で割ることにより、一株当たり株価、つまり「発行価格(引受価格)」が決まります。

なお、ここでの発行済株式総数ですが、潜在株式(ストックオプションですね)全ての希釈化と、種類株式すべてが普通株式に転換した前提で計算します。

整理すると、次の計算式になります。

プレ = 希釈化後発行済株式総数 × 一株あたり株価(発行価格/投資時の引受価格)

計算例

例として、下記の条件でプレとポストを計算してみます。

プレ:50億円
発行済株式総数:10,000株
経営メンバーの持株比率:50%(5,000株)

引受価格 = 50億円 ÷ 10,000株 = 500,000円/株

調達額:10億円

新規の発行株式数 = 10億円 ÷ 500,000円/株 = 2,000株

ポスト:60億円
発行済株式総数:12,000株
経営メンバーの持株比率:41.7%(5,000株)

こうして考えると、結構簡単と感じるでしょう。

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適正なバリュエーションを考える上で重要なこと

スタートアップ/ベンチャー企業が資金調達を行う上で避けて通れないのが「バリュエーション」です。
「高いバリュエーション」には分かりやすいメリットがある一方、デメリットもあり、このデメリットは顕在化した時に、想像以上に企業と経営者を苦しめます。
ここでは、適正なバリュエーションを考える上で重要なことを、多くの経営者が狙う「高いバリュエーション」の功罪の観点で解説していきます。

バリュエーションを高くすることのメリット

わかりやすいメリットの1つが「ダイリューション」を抑えられること、併せて相対的に多くの資金を調達できることにあります。

ダイリューションとは、「希薄化」という意味で、新株を発行するなどして、発行済み株式総数が増加すると、相対的に一株当たりの価値が低下します。
スタートアップ/ベンチャーにおいて気にしなくてはいけないのが、外部からの出資が大きいと、創業者の持株比率が少なくなってしまう点です。
持株比率が減ってしまうと、株主総会における議決権の割合が低下するため、経営をコントロールできなくなる可能性があります。

(ただし、こちらの記事でも触れましたが、経営のコントロール権は、あくまでも実績で得るのが本質なはず、という点は留意していただきたいです。本稿では、あくまでも純粋なメリット・デメリットとしてダイリューションに関して話をしています。)

また、ダイリューションが過度におきると他にもいくつか障害が起きえます。
創業経営者の心理的なもの(モチベーション)に影響が出る場合もありますし、その点を懸念して新規の資金調達のハードルが上がる場合もあります。
(スタートアップ/ベンチャーが成功する要因の一つに、創業経営者の「やる気」もあるため、そこが削がれることを投資家は気にする。)
また、スタートアップ/ベンチャーの大きな登竜門である「IPO」への障害になる場合もあります。
資本政策の段階ですでにIPOが失敗していた、という話は決して珍しくはありません。

つまり、このダイリューションを抑えられることは、バリュエーションを高くすることのわかりやすいメリットと言えるのです。

他には、バリュエーションがあがっていくことは、その時のモメンタム(速度感、勢い感などをボヤっと表現した用語)があるため、周囲から「イケてる感」を受けやすくなり、それによって資金や人が集まりやすくなる傾向もあります。
つまり、モメンタムがあることで、事業が成功しやすくなる場合もあります。

バリュエーションを高くすることのデメリット

デメリットとしては資本政策の硬直性が増すことにより、次の選択肢を狭めてしまう、もしくはハードルをあげてしまうことがあげられます。

まず、純粋に次の資金調達、「ラウンド」が難しくなります。
会社が常に右肩あがりに伸び続けているのならば良いのですが、そうそう都合よくは推移しないものです。
仮に事業そのものは順調に推移し、投資家の期待値を上回る、つまりバリュエーションを行う際においたマイルスストンをクリアし続けていったとしても、市況の変化、何かしらの不況によって自分たちのコントロール外の所でハードルがあがってしまうことも十分に考えられます。
そしてこれは、今現在のウイルス騒動により、多くのスタートアップ/ベンチャーが直面していることと思います。

資金が厳しい状況下においては、場合によってはフラットラウンドやダウンラウンドでもありがたい場合はありますが、既存の投資家がOKとしない場合や、新規の投資家が躊躇(遠慮とか諸々)して、そもそもラウンドに乗ってこない場合などは、決して珍しい話ではありません。
(議決権を3分の2以上グリップしていても、これまでリードインベスターを張ってくれた投資家が「ここで強硬するなら、二度と自分達はリードはやらない」なんて言われたら、現実的に強硬することを躊躇するのは創業経営者の立場として、おかしくない話です。「それなら新しいリードを探すだけ」というマッチョイムズも悪くはないですが。)

次にモメンタムの維持、より適切に表現すると期待値コントロールが難しくなります。
仮にバリュエーションがフラットラウンドやダウンラウンドとなった場合、これはわかりやすく周囲に対して「失速した」と受け止められます。
上述の通り、わかりやすく資金調達の難易度が高まるため、資金の面だけでも経営の局面は厳しくなります。
期待値を過度に高めることによって、様々な意思決定に現実的な制約や、心理的な制約がかかり、身動きがしづらくなってしまうこともあります。
また、これが資金調達などの話だけならば、まだ良いのですが(良くはない)、「失速」つまりモメンタムの毀損は、あらゆる所で負のスパイラルを生みます。

スタートアップ/ベンチャーは勢いがあるからこそ、ヒトモノカネが集まりやすいことは忘れてはいけないでしょう。
負のスパイラルに巻き込まれたスタートアップ/ベンチャーの惨状は、想像以上に厳しいものです。
落ち目の状況で待ち受けるのは、倒産か、最悪「リビングデッド」化することです。
なぜ、「リビングデッド」を最悪と表現したのか?

こちらの記事でも書きましたが、会社は、創業者と創業メンバーが「世の中に変革を起こしたい」からこそ創業したもので、つまりミッション・ビジョンが存在します。
「生存のため」だけに、経営の舵を切った結果として、これまで積み上げてきたものを失っては何が残るのでしょうか?
リビングデッド」と化した企業は、もはやスタートアップ/ベンチャーではなく、ただの中小企業です。
そのスタートアップ/ベンチャーとしての存在意義は失われたと考えた方が良いでしょう。
つまり、様々なネガティブサイクルに巻き込まれた場合、想像以上の悪影響をまき散らすのです。

最後に、イグジットへの悪影響にも触れておきます。
この場合のイグジットは株式を手放すこと(売却)による、会社の売却のことです。
高いバリュエーションは、上述の通り、投資家たちの期待値を高めてしまうため、創業経営者が、もういい加減会社を手放したい、と思っても都合よくことが運ばない状況が考えられるのです。

バリュエーションに関してのバランス感覚

ここで改めてそもそもの話をしてしまうと、バリュエーションが高かった、低かった、という話は将来、蓋をあけてみてようやくわかるものです。
しかし、実際のバリュエーションの場面では、高いよね、低いよね、という感覚値的な話で語られます。
ですので絶対的な話では無いのは確かなのですが、このバリュエーションの話をする場面においては、最終的な決断をどうするかはともかく、「バランス感覚」は持った方が良いと考えます。

上述の通り、バリュエーションを高める事は、資本政策の硬直性を生み、次の選択肢を狭めるか、ハードルをあげてしまいます。
言い換えると、将来の自由と引き換えに、資金を得る、という意思決定で良いのか?(別に間違ってはいない)という話です。

フラットラウンドやダウンラウンドにより起きる負のスパイラルの影響は想像以上に厳しく、それが起きた場合に、これを乗り切る経営の胆力は相当なものになってしまいます(別の側面で言うと、これは一つのプラス効果とも言えるが)。
長期的な視点で考える上で、モメンタムの維持の重要性は考慮すべきでしょう。

スタートアップ/ベンチャー業界は、一見既成概念に囚われない世界と思いがちですが、保守的でセオリーに厳しいです。
バリュエーションを適正に保つことは、資本効率を高め、トラフィックを良くします。
無茶な調達にもならないので、ラウンドもスケジュール通りに運びやすく、社内がバタつくことも抑えられます。
マネジメントコストも低く保てます。
トータルとしてのバランス感覚を持ち合わせておくことは、長期的な成功確率を高めていくと考えます。

とは言え

ただ、これまでの話は、ラチェットなどの既存投資家を保護する条項をいれた優先株の契約でカバーができます。
一方、ダイリューションしてしまった場合、現実的にカバーすることは不可能です。
経営の意思決定は、ようはどんなリスクをとって、逆にどんなリスクをとらないのか?という話に落ち着きます。

ダウンラウンドによって発生する負のスパイラルは、極論、経営の胆力でなんとでもなります。
バリュエーションが高い低いの話は、つまるところ事業計画のおき方と、計画の達成度合いの話です。
これまでにない新しい何かを生み出そうとしているスタートアップ/ベンチャーが、常識的で蓋然性の高い考え方だけで、そのミッション・ビジョンを達成できるのでしょうか?

上述した通り、スタートアップ/ベンチャーが最も恐れるべきことは「リビングデッド」化(のはず)です。
(そしてこれは、「高いバリュエーション」によって起きやすくなるが、繰り返すが、極論、経営の胆力でなんとでもなる。)
バランス感覚は持ちつつも、やはり「高いバリュエーションを狙っていくこと」それ自体は一つの正義と言えるでしょう。

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レンティオ株式会社が総額10億円の資金調達、バリュエーションを推測してみました。

家電のレンタルサービスを手掛けるレンティオ株式会社が、本日2月25日に総額10億円の資金調達を行ったというプレスリリースを出しました。
事業内容等々はこちらに詳しいので、大きく割愛し、概要部分だけプレスリリースより引用します。
ここでは、バリュエーションを予測し、その上でレンティオ社のIPOのできあがりを考えてみます。

【Rentioとは】
カメラや家電、ベビー用品を買わずに使えるレンタルサービス。
商材はカメラや家電を中心に1,500種類以上、1万点以上の在庫を取り扱い。
一度は使ってみたいと思うような一眼レフ、キッチン家電、掃除家電なども幅広くレンタルが可能。
【レンティオ株式会社について】
本社  : 〒140-0014 東京都品川区大井4-6-1 サクラビル3F(受付4F)
代表者 : 代表取締役 三輪 謙二朗
設立  : 2015年4月6日
事業内容: カメラ、家電製品を中心にレンタル及び販売する
      イーコマース事業、情報サイトの運営など
URL   : https://www.rentio.co.jp/
■取扱商品の一例
カメラ :一眼レフ、アクションカメラ、防水カメラ、インスタントカメラ、他
一般家電:掃除ロボット、高圧洗浄機、キッチン家電、他
事務家電:プロジェクター、ドキュメントスキャナー、他
その他 :ロボット、ドローン、他

レンティオ株式会社プレスリリースより

予測バリュエーション

登記簿謄本を取得し、これをベースにバリュエーションを予測しました。
あくまでも登記簿謄本から得られる公開情報のみをベースとしているため、正確性については担保できないことはご了承ください。

前提条件として、いくつか仮定を置いています。
過去にC種を二回出していること、前回のD種から間が空いていないこと、から今回の調達は前回D種とほぼほぼ同条件と推測しています。
リリースでは、デットとあわせて総額10億円とのこと。
決算公告では2019年8月期で赤字であり、おそらく事業計画上もしばらくは赤字が続くであろうことから、デットの比率が5割を超える事は無いと推測できます。
5割~1割がデットとし、間をとって3割でざっくり仮定、エクイティでの調達を7億円とおきます。
決算公告の数字から、調達額の半分を資本準備金に振っているため、資本金の増加額の2倍を調達額と設定します。

レンティオ株式会社2019年8月期決算公告

これらの仮定をもとに作成したのが下記の表です。
発行している種類株にあわせて各ステージ(シリーズ)としています。

調達時期ステージ発行株式種類株数発行済株式総数資本金の額(千円)調達額(千円)株価 (円)バリュエーション(千円)
創業普通株式30,00030,000
AA種優先株式5,30035,30015,500
2016/10/31BB種優先株式6,81242,11273,402115,80417,000715,904
2018/7/17CC種優先株式2,15944,271123,38099,95546,2972,049,615
2019/1/25CC種優先株式4,75149,022233,358219,95746,2972,269,572
2019/11/10DD種優先株式5,01654,038433,346399,97679,7404,308,990
2020/2/25DD種優先株式8,80062,838584,214701,71279,7405,010,702

ポストマネー50億円が今回のバリュエーションと推測されます。
前回のD種での調達とあわせて、実質的にはシリーズDで11億円の調達、と言えるかと思います。
余談ですが、レンティオ社の経営者は、どんどんCashを溶かしていく積極性と、刻んで調達を進める慎重性の両面を持っている性格のようです。

IPO時のできあがり予想

現在のステージがシリーズDで11億円の調達が走ったわけですので、そろそろIPOのレンジに入った印象です。
公告の数字と今回の調達額から考えると、後1回くらい調達をはさみ、最短で1年、現実的には3年を目標、という感じでしょうか。
レイターステージですので割引率を20%、IPO時のディスカウントを20%として計算すると、下記のようなイメージになるかと思います。
PERは仮置きで30としました。

  • 上場までの年数 3年
  • 割引率 20%
  • 上場時予想当期純利益 333百万円(欠損考慮せず)
  • 上場時予想PER 30
  • 上場時予想株主価値 10,000百万円
  • IPOディスカウント後株主価値 8,000百万円
  • PostMoney 5,000百万円

PERをどう置くかにもよるのですが、レンタルということで金融業的に捉えられると非常に厳しいです。
サービス業の中で類似会社を抽出し、上場時予想PER30あたりでできあがりのバリュエーションを考えられると良い印象です。
申請期の経常500百万円を狙えば良いので、もっと伸びてもおかしくは無いと考えます。
割引率を30%にすると株主価値が約150億円となるので、そこは目線として置いても良いでしょう。

(参考)投資家一覧

(今回引受)
グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)(前回からの追加投資)
W ventures(前回からの追加投資)
SMBCベンチャーキャピタル
コンビ

(既存投資家)
ANRI
有安伸宏(個人)
坂本達夫(個人)
East Ventures
メルカリ
アドウェイズ

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