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株式会社divの決算書を読み解いて見る

今回は、プログラミングスクール「テックキャンプ」で有名な株式会社divの決算書について、読み解いて見ます。
直近、新サービス等々でプチ炎上気味となっているのですが、冷静に数字を見て、正しく理解しましょう、というのが趣旨です。

集められた情報(前提)

決算書

ネット上から収集できた決算書は下記の2つです。
いわゆる「決算公告」ですね。

決算公告は、会社法の定めにより開示しなければならないとされている義務であり、それに則ったものですね。
なお、大体の会社はこの法律を無視しており、減資等のアクションが無ければ、真面目に開示する所は少ないです。
㈱divも同様で、法令違反を行っている状況ではあります(繰り返しますが、世の中の会社のほとんどがそうなんですけれどね)。

2016年12月期の決算公告。

2019年12月期の決算公告。

トップラインイメージ(売上高)

決算公告は、会社のサイズに応じて開示する情報が異なるのですが、現在開示されている情報では最終損益(登記純損益)しかわかりません。
ですので、トップラインについては想像をするしかありません。

参考になるのが次の情報。

㈱div HPより

2019年1月時点の累計受講者数が約10,000人、2020年9月時点の累計受講者数が約16,000人、となっています。
つまり、約20ヶ月で6,000人が受講された、という事がわかります。

店舗の増加により、増加幅は異なるは当然ですが、ざっくり年間3,600人が受講されていると推測されます。

㈱div HPより

つまり、プログラミングスクール事業で約8億5千万円の売上高がある事が推測できます(もちろん、ざっくりですよ!)。

他にも転職支援、人材紹介、研修サービスを行っているので、実際の売上高はもっと高いでしょう(そこまで大きなインパクトがあるとは思いませんが)。

なお、前払方式の料金体系となっているので、資金的には有意なビジネスモデルとなっています。

資金調達の状況等

リリースによると、2019年5月に10.8億円と、2020年5月に18.3億円の資金調達をエクイティ(投資家からの出資)デット(銀行等からの融資)を織り交ぜて実行しているようです。

登記簿謄本を取り寄せて分析するのも有りではあるのですが、流石に面倒だったので、INITIALのサイトを参考にすると、評価額はポストで81億円との事。
評価額としては非常に順調な感があります。
IPOフェーズとしても、レイターステージにあると考えて良いでしょう。

教室の状況

教室は現時点で6拠点ある模様です。

大手町は2020年2月、梅田は2019年4月にオープン。
それ以外は、より以前のオープンとのこと。

㈱div HPより

直近はコロナ影響もあるのでしょうし、もしかしたら元々不採算だったのかもしれません。
下記のような形で、スクールの統廃合や変更があるとリリースされています。

㈱div HPより

さて、基本的な前提の確認はこれくらいにして、決算書の中身を見ていきましょう。

決算書を読み解いてみる

資産部分を見る

まず流動資産の1,432,071千円。

こちらには、現預金、売掛金といった科目があるはずです。
教材等の取扱い次第では商品もあるでしょう。
ただ、全体としては、現預金のウェイトが多いのではないかと考えられます。

実際、2019年には約10億円の資金調達を実行しているので、元々あったであろう現預金と含めると、約14億円の流動資産の内、大部分が現預金と考えられます。
決算公告はあくまでも2019年12月期のものなので、2020年に約18億円の調達を行っていることを考えると、溶かし具合にもよりますが、相当なキャッシュリッチな状況と言えるでしょう。

固定資産の736,091千円は、本社や教室(拠点)の造作物と、入居にあたっての保証金であると考えられます。
2016年時点での固定資産が1億円未満でしたので、ざっくり1拠点1億円位のイメージ感で、固定資産と投資その他の資産が計上されているかと想像されます。

負債部分を見る

流動負債の1,195,630千円は、ちょっと難しいのですが、前受金、未払金、未払費用、1年内返済借入金、といった科目が計上されているはずです。

前受金はちょっとややこしいのですが、上の方で、テックキャンプは前払制のスクールだと軽く言及しました。
何を言いたいのか?と言うと、期を跨いで、まだサービスの提供が完了されていない部分について、お金は受け取ったけれども売上に計上されていない部分がある、ということです。
サービスの提供期間が3ヶ月との事なので、11月入校の方の1月分受講料、12月入校の1月分と2月分の受講料が前受金に計上されるはずです。
合計3ヶ月分。
年間のスクール事業売上高が約8億5千万円なので、この3ヶ月分ということで、約2億1千万円が前受金のはずです。
後ろの方が売上規模は大きいでしょうし、実際の売上高がもっと大きければこの金額も膨れ上がるので、3億円位の前受金があったとしても不思議ではありません。

ようは、キャッシュアウトが起きない流動負債が約3億円位はありそうだぞ、という事です。

それを踏まえると、純粋な流動比率は1.59になるので、財務体質としては非常に健全な状況と言えます。
上述のキャッシュリッチな点も踏まえると、財務面での心配は無さそう、と捉えるのが正しいでしょう。

この点が、いやいや健全だなんなの、と言われていた理由です。

固定負債の598,915千円は、長期借入金、資産除去債務、が計上されているはずです。

その内訳までは計算できないですが、資産除去債務が本社+6拠点なので、ざっくり1億円~1億5千万円位がそうで、残りが長期借入金かな、というイメージ感。
調達額が大所合計で約28億円で、この内2割をデットで賄っているとすると、金額感としてもあいます。
資産除去債務ってなぁに?という話は適当にググってください。

赤字は悪なのか?

さて、次にPL面についてです。

決算公告の内、右下の利益剰余金部分を見て下さい。

ここに書かれている△496,042千円が、ざっくり言うとこれまで積み上げてきた赤字です。
そして、当期純損失と書かれている157,674千円が2019年12月期に出した赤字です。

2016年12月期の決算公告を見ると、2017年12月期に減資を行っており、あわせて剰余金のマイナスも崩されているでしょうから、どんな感じの数時感かは不明ですが。
とりあえず、2017年12月期~2019年12月期の3年間でざっくり5億円の赤字を出している、という事です。

この部分が、やれ危ないなのなんなの言われている要因ですね。

まず、ベンチャービジネスとは?なのですが、赤字を出して当たり前だ、という点は最初に言及します。
まだ事業を育てている途上ですので、赤字が出やすいのもそうですし、また、成長のために一定の投資を先に行い、後々回収していく、というスタイルをとるのは全く珍しいことではありません。
特に近年のベンチャービジネスではそうですね。

ですので、赤字だから危ないのか?いけないのか?悪なのか?という話について答えを言うと、ただちにそう結論づけるのはナンセンスだ、となります。

ビジネス・モデルも踏まえて考えてみる必要があるでしょう。

ビジネス・モデルを踏まえて業績を考えてみる

広告宣伝費を削って黒転できるか?削っても顧客は来るか?

㈱divのビジネスを考えるに、次のようなPL構造になっているのでは無いかと想像されます。
(営業利益まで)

売上高
売上原価(スクール人件費、スクール賃借料、スクール減価償却費、通信料等その他)
 売上総利益
販管費
 - 本部系人件費(業務委託費含む)
 - 広告宣伝費
 - 本社賃借料(地代家賃)
 - 減価償却費
 - その他販管費(通信費、消耗品費等々)
 営業利益

この内、売上原価、本部系人件費、本社賃借料は固定性が高いものです。
その他販管費も、変動費用ではあるのでしょうが、じゃあスパッと切れるか?というとそうでもないでしょうし、金額インパクトも他科目に比べると、そこまで大きく無いはずです。

そうなると、赤字解消のために、何か柔軟に切れる費用は何か?というと広告宣伝費が残されます。

赤字が許容されるのは、ある2つのポイントをクリアする必要があります。

それは、広告宣伝費を削れば黒転できる事業計画になっているのか?、と、広告宣伝費を削っても安定的に顧客(受講希望者)が流入してくる見込みがある事です。

ベンチャービジネスにおける赤字は、先行投資的なものがある、という話をしました。
ようは、ビジネス拡大期には、まだ知名度等々含めて自然流入性が低いので、広告宣伝費を投下して顧客をガンガン集める、と。
だから赤字なんだけれども、一定軌道にのれば、これまでのような広告宣伝費投下をしなくても顧客は集まってくるんだ、これまでスクール経営していて、この点は蓋然性が高いんだ、という話ならば全く問題が無いのです。

それについては、流石に情報が無いので判断はつかないです。
ただ、投資家が投資をしている、という点を考えると、ある程度の蓋然性はあるのでしょう。

ネガティブ要素

とは言え懸念点が無いわけではありません。

㈱div HPより

再掲になりますが、スクールの統廃合・移転のアクションが行われている事です。

コロナ影響もあるのでしょうが、足元の集客は芳しく無いのではないでしょうか?
ここは取っている施策により固定費の削減が行われれば問題は無いのですが、コロナ影響がすぐにはおさまらないであろう事を考えると、既に取られているようにオンラインでのスクール運営も進めていく必要があるでしょう。

また、基本になるのですが、ビジネス・モデルはあくまでも「単発型の店舗ビジネス」という点を忘れてはいけません。

お客様は集め続けなければならないですし、一定、広告を削ったら集客ペースが落ちるのも必然です。
そのため、店舗ビジネスにおいては「立ち上げ初期から黒字」を出さなければいけないのが一応の定石ではあるのです。
経年と共に集客が落ちるのが自然ですし。

これは業績の詳細部分がわかる人にしか実態はわかりません。
スクール事業部分のセグメントは黒字で、他の投資領域で赤字なのかもしれませんので。


以上、㈱divの決算書を見ていきました。

とりあえず言える事は、貸借対照表も見た方が良いですし、ビジネス・モデルにそって損益面もしっかり中身を考えないと判断を誤りますよ、という点が一つ。
もう一つは、想像の領域の方が圧倒的に大きいので、断定的に何か言うと恥をかくリスクが高まりますよ?という点です。

冷静に考えれば、詳細な情報を入手してジャッジしている投資家達が出資しているのだから、IPOにもチャレンジする資格がありそうだ、大枠として考えれば健全だろう、と捉える方が自然だとは思いますね。

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「初の希望退職募集」エイベックスの経営状況を見てみる

音楽・映像事業のエイベックス㈱が初の希望退職募集をするとの事です。
コロナ影響によりライブ、イベントの開催自粛が影響し、業績が悪化していることが背景という事ですが。
今回は、エイベックスの経営状況を見てみます。

初の希望退職募集

とりあえず報道を見てみましょう。

音楽・映像事業を手掛けるエイベックス(株)(TSR企業コード:294000011、港区、東証1部)は11月5日、希望退職を募集すると発表した。募集人数は約100名で、エイベックスで希望退職の募集は初めて。

募集期間は12月10日~21日で、退職日は来年3月31日を予定する。ライブ、舞台などを含む音楽事業の一部と間接部門に在籍する40歳以上で、対象社員443名

同日発表した2021年3月期第2四半期(連結)で、最終利益は32億8900万円の赤字だった。「新型コロナウイルス」感染拡大により、「a nation」などのライブ、イベントの開催自粛が影響し、売上高は前年同期比44.0%減の342億7900万円と苦戦を強いられた。
(略)

東京商工リサーチ「エイベックス、初の希望退職募集」より

コロナ影響によりライブ、イベントの開催自粛により業績が厳しいと。
それにより、100名ほど、希望退職を募る、という事ですね。

決算書を見てみる

まずは直近の決算短信です(2021年3月期第2四半期決算短信)。

単位は百万円です。

この通り、売上高は▲44%と大幅な減少、営業損失も22億円と非常に厳しい数字です。
最終損益は約33億円の赤字と、報道通りの数字になっています。

じゃあ現預金残高はどうか?というと、184億円程の残高があり、まぁまぁな積み上げがあります。

一方、借入金合計(短期借入金26,000M、1年内返済予定の長期借入金3,070M、長期借入金3,101M)は321億円あり、仮に短期借入金の返済を要するとなると、全くお金が足りない事がわかります。

ただ、自己資本比率はまだ38.9%あり、全く心配が無いほど潤沢、というわけでは無いですが、追加の借入余力はあると考えても差し支えない水準です。

上記の短期借入金260億円は、ロール対応(返済と借入を同時に行う:借換)が行われると考えられます(そうじゃなきゃあかん)。

つまり、エイベックスの経営状況を見る限り、ここ1年2年でいきなりどうこう(具体的には倒産)なる、というリスクはあまり無いと言えそうです。

希望退職の効果とか狙いは?

それでは希望退職の効果の程を考えてみましょう。

こちらは2020年3月期有価証券報告書から抜粋した「主要な経営指標等の推移」の「連結経営指標等」です。単位は百万円です。

一番下の従業員数を見るとわかるのですが、連結ベースの社員数は1,415人との事。
今回の希望退職募集の人数は100人ですので、全体の7%程です。

ふたたび2Q短信に戻って、経営実績の推移資料を見ると、人件費は半期で53億円。
通期ベースで約100億円超がかかっている事がわかります。

アルバイト等分もあるので、この100億円超の5%程が今回の削減対象になるわけですが、その数字約5億円です(ざっくり計算)。

通期の営業赤字が40億円超になると推測(単純に直近2Qの数字を倍にした)される事を考えると、コスト削減幅は微々たるもの、とまでは言わないにせよ、大きなウェイトを占めているものではありません。

そこで改めて考えてみたいのですが、エイベックスの業績はここ5年、全く成長していないという事実です(上の連結経営指標等の推移より)。

つまり、このような思惑があるはずです。

コロナ影響は時間と共に落ち着きを見せ始めており、もうしばらく辛抱すれば業績回復も見えてくる。
とは言え、事業成長が停滞して数年が経過しており、先行きが不透明なのには変わりない。
コロナ影響、という理由が前面に出せるこのタイミングで不採算性が高い領域の人員を削減し、将来のためのスリム化を今のうちに図っておこう。
今なら体力もまだあるし、実行は十分に可能だ。

実際の所がどうなのかは、中の人にしかわからない事ですが、このような考えなのでは?と推測します。

以上、エイベックスの経営状況について、概観してみました。

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オンキョーは復活するか?

オーディオ機器の大手、オンキョー㈱が苦境に陥っています。
2020年3月期決算においては98億円の最終赤字を出し、債務超過に転落。
2021年3月期第1四半期(6月末)もコロナ影響もあり赤字の状態です。
組織再編も行われていますが、果たしてオンキョーは復活するのでしょうか?

オンキョー㈱の業績

まずは業績ですね。

直近業績概要

こちらは2021年3月期第1四半期の業績です。

オンキョー㈱四半期報告書より

売上高は昨対比▲73%の激減、赤字幅は一定の構造改革が行われているのか昨年水準の13億円の赤字となっています。

2020年3月期の段階で98億円の最終赤字と、35億円の債務超過、自己資本比率▲35%という状況でしたが、この第1四半期で増資が行われており、自己資本は一定の回復が行われています。

同四半期報告書より

なお、オンキョー㈱の株価は下記の通り推移しており、増強できている資本も全体感からすると微々たるものです。

更なる資本状況が必須と言えるでしょう。

Google オンキョー㈱株価推移

業績推移

業績推移ですが、下記の通り7期連続の経常損失となっていました。

オンキョー㈱有価証券報告書より
オンキョー㈱有価証券報告書より

このような状況ですので、オンキョー㈱は2015年3月期より後、19回もの増資を行っています(新株予約権は除いてで19回です)。

株主もパイオニア㈱の3.95%を筆頭に、後は薄い持株数となっており、特定の大株主がいない状況です。

こういう状況ですので、借入金をはじめ、各種債務に担保がついている状態です。
(財務制限条項は外れている様子です。)

同有価証券報告書より

当然ですが、ゴーイングコンサーン(継続企業の前提)がついています。

(継続企業の前提に関する事項)
当社グループは、2013年度より経常損失が継続しており、当連結会計年度においても5,668百万円の経常損失を計上しております。また、取引先に対する営業債務の支払遅延が当連結会計年度末現在で6,468百万円(前連結会計年度末3,874百万円)存在していることに加え、当連結会計年度に親会社株主に帰属する当期純損失を9,880百万円計上した結果、当連結会計年度末現在において3,355百万円の債務超過となっていることから、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在しております。

ようは、どこかの会社に買われるか、倒産をしたとしてもおかしくない、非常に厳しい状況だ、という事です。

果たして復活できるのか?

それでは、オンキョーは果たして復活ができるのでしょうか?

事業セグメント別の業績

こちらはセグメント利益2期分です。
上述の業績推移で見てわかる通り、売上高が年々減少していっている中で、直近の新型コロナウイルス感染拡大影響による業績ダメージが来ている、結果として全ての事業セグメントにおいて赤字が発生した、という着地になっています。

同有価証券報告書より

資料提示は省略しますが、デジタルライフ事業およびOEM事業は、過去からいままで数字がふるわず、赤字か、黒字が出たとしても微々たる数字で推移していました。
AV事業で何とか数字を作っていた状況だったようです。

なお、売却報道のあったAV事業ですが、諸々条件がすり合わなかったようで、方針転換がおこなれた模様です。
この点、オンキョーは「大幅に固定費の削減が実現したことにより」としています。

(参考)セグメントの説明

AV事業:オーディオ・ビジュアル関連製品

デジタルライフ事業:電話機、ヘッドホン関連製品、音楽配信等のコンテンツ、食事トレーニングアプリ

OEM事業:車載用スピーカー、家電用スピーカー、スピーカー部品、アンプ等オーディオ製品、オーディオ・パソコン製品等のカスタマーサポート及び修理

他社(ケンウッド)の業績は?

オーディオ系メーカーですと、ケンウッドがあげられるので、こちらの業績も見てみましょう。

㈱JVCケンウッド有価証券報告書より

ケンウッドも新型コロナウイルス感染拡大の影響をうけて業績が悪化しているのですが、それでも利益は出ています。

(参考)セグメントの説明

オートモーティブ分野:カーAVシステム、カーナビゲーションシステム、ドライブレコーダー、車載用デバイス

パブリックサービス分野:業務用無線機器、業務用映像監視機器、業務用オーディオ機器、医用画像表示モニター

メディアサービス分野:業務用ビデオカメラ、プロジェクター、ヘッドホン、民生用ビデオカメラ、ホームオーディオ、オーディオ・ビデオソフト等のコンテンツ、CD/DVD(パッケージソフト)等の受託ビジネス

ケンウッドの特徴ですが、オンキョーが事実上オーディオ一本で経営を行っているのに対し、ケンウッドは他分野にも手を出している点にあります。

堅く利益を出せる業務用機器等もそうなのですが、特にカー領域に主力事業を振った点が指摘できます。
(ケンウッドがカー領域に進出をしたのは1980年。2000年代初頭の経営危機を乗り越えて、本業転換に成功している。)

個人用のAV機器は、スマートフォンの普及等を背景に、世界的に消費が減少、ないしは伸びが停滞しています。
この点はオンキョーも言及しており「全世界的なホームオーディオ市場の縮小や、主力事業のAVレシーバーの全世界的な低迷に加え」と業績について解説しています。

AV機器は、安くてもセットで10万円前後するものが珍しくなく、高いものだと数十万円、数百万円するものもあります。
若い方達が買うわけ無いですよね。
更に、世界的に晩婚化や、都市部での集合住宅での生活が主流となり、音を出すという事自体が憚られる生活環境、居住環境になっている事も指摘できます。

ようは、ケンウッドを見てわかるように、オーディオ一本だと、もう厳しいよね、という事です。

オーディオ産業におけるオンキョーの存在感って薄いよね

AV事業はまだまだニーズがあるもののこれからジリ貧、カー領域はケンウッドが強い、OEM事業は利益が弱い、と非常に厳しい状況です。

それではAV事業(個人向けのデジタルライフ事業含め)はどうなのか?という所ですが。
そもそもAV事業は、競合他社も非常に強いです。
もっと言うと、オンキョーの存在感って非常に薄いという印象を持っています。

こちらは価格ドットコムで検索したスピーカーのメーカー一覧(の一部)です。

これだけのメーカーがあって、他社は数十のスピーカーを出しているのに対してONKYOは14本だけです。

スピーカーだけではありません。
アンプも、ヘッドホンも、イヤホンも、似たような状況です。

肝心要のはずのAV事業ですが、製品力が他社に劣っているのです。

復活に必要なこと

オンキョー自体がこれからやろうとしている事は、リンク先資料「グループ再編 短期・中期・長期の視点で復活を」に記載があります。

これ自体はもう、頑張ってください、としか言いようが無いのですが、一つ気になる記事を見つけました。

日本勢は「測定結果にこだわる」とか「重ければいい音」だというオカルトな迷信に束縛されているという面があります。測定結果というのは、スピーカーから出た音をわざわざ再びマイクで拾って、その「周波数特性」をグラフにしたものです。
(中略)
全体的にまっすぐに満遍なく再生できるのが「特上」だとされます。これが日本式の信仰です。
実は、この発想法は全く無意味なのです。
(中略)
日本のオーディオ産業は、基本サラリーマン集団であって、クラフトマンシップの集団ではありませんから、「検査結果が良ければ高級」というオカルト信仰でやってきたのです。ですが、それは世界に通用しないので、日本のオーディオマニアが高齢化すると、もう市場は消滅ということになりました。
(中略)
厳しい要求を満たすように製品のクオリティを正しい方向に向けていれば、こんなことにはならなかったと思います。
(中略)
そのためには、数千ドルから数万ドルは投じてもいいというお客もまだまだ沢山存在しています。こうした市場を、結局のところ日本勢は抑えることができませんでした。

MAG2News「ついにオンキヨーも身売り。なぜ日本のオーディオ産業は傾いたか」より

これは外部記事の、とある記者の見解になるのですが、なるほど、とうなづける部分があります。

当該記事の記者は、「世界の若者のニーズをつかめないということがあります。若い人が入ってこない、海外駐在しても現地のディープな若者カルチャーにリーチできないなどの要因が重なっていると思います。」とも言っています。

本当に一例なのですが、最近のオーディオのトレンドとしてBluetoothイヤホンがあげられます。

世界の完全ワイヤレス・ヒアラブルの販売数量(単位:百万台):「完全ワイヤレス・ヒアラブル販売数量、2020年に世界で1.29億台に」より

Bluetoothイヤホンは、2018年は4千6百万台の販売台数でしたが、これが2020年には1億2千9百万台に販売数量が伸びるとの事。

世界のシェアの1%でも取れば、売上高が倍近くになる物量です(2020年3月期ベース:1台20,000円のハイレンジ想定)。

しかし、世間からのオンキョー製品の評価としては、評価対象にかすりもしない状況です。

同上

私は結論として、オンキョーの復活に必要な事に、シンプルに「世の中のトレンドは何か?」「お客様が何を求めているのか?」の追求があると考えています。

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レオパレス21は大丈夫なのか?倒産間近?

㈱レオパレス21が2020年9月9日、決算発表の再延期をリリースしました。
希望退職募集により、決算要員が想定以上に退職したことが影響しているとの事ですが。
一般的には「経理が逃げ出す会社はヤバイ」と言われます。
果たして、レオパレス21は大丈夫なのでしょうか?

決算発表の再延期リリース

㈱レオパレス21は2020年9月9日、2021年3月期第1四半期決算発表の再延期をリリースしました。

理由としては、下記を提示しています。

当社が先般実施しました希望退職募集により、決算業務に従事する従業員が想定以上に退職したことによって、決算プロセスに更なる時間を要する見込みであり、2020年9月11日に予定しておりました決算発表を再延期せざるを得ない状況となりました。

㈱レオパレス21「2021年3月期第1四半期決算発表の再延期に関するお知らせ」より

この理由を単純にそのまま受け取ると、「あら、大変なのね」で済む話ではあるのですが。

決算業務に従事する従業員、とは一般的に会社の情報、実情を深く知っている、把握できる環境にいる人達がほとんどです。

そのため、ゴシップ的に「経理が逃げ出す会社はヤバイ」と言われたりします。

それでは、レオパレス21の経営は果たして大丈夫なのでしょうか?
倒産の危険が迫っているのでしょうか?

レオパレス21の業績

さて、レオパレス21と言えば、建設した物件の約4分の3で何かしらの施工不備があったとして、その評判を大きく落とした事は記憶に新しいかと思います。

この影響により、決算が公表されている2020年3月期の業績は経常損失363億円、最終損失802億円を出すに至りました。
(そして、決算発表がされていない第1四半期決算に関しては、コロナ影響も大きく受けているはずです。主力の法人向け事業、得にかき入れ時の4月と重なり、リモートワーク影響等により、大ダメージを被っているはずなので。)

㈱レオパレス21 2020年3月期 有価証券報告書より

さて、会社という物はいくら赤字を出していても、お金が尽きなければ倒産はしません。

その最後の綱であるお金ですが、2020年3月末の現預金残高は605億円です。

㈱レオパレス21 2020年3月期 有価証券報告書より

この605億円を何かしらの手段で厚くするか、業績を改善させてキャッシュ・フローがまわるようにすればOKなわけです。

いよいよジ・エンドが迫っているか?

まず借入はできそうか?という話ですが。

㈱レオパレス21 2020年3月期 有価証券報告書より

この右端の0.66が2020年3月期の自己資本比率なのですが、1%を切っています。

結論、銀行からの融資は、ほぼほぼ不可能と言って良い状況でしょう。

(なお、金融機関からの借入と社債に関しては、財務制限条項がついていて、既に抵触している状況のようです。一方、期限の利益の喪失に関しては、権利行使が行われない旨の承諾を得ているとの事です。ようは、「いいから金返せ」とはなっていない、という事ですね。)

そして、施工不備のあった物件に対して改修工事が行われているようですが、完了しているのは10%にも満たず、半分弱が着手中、残りのほとんどは未着手という状況で残っています。

2020年8月31日時点 レオパレス21 「当社施工物件 改修進捗状況」より

補修工事関連損失引当金が479億円、積まれていることを考えると、500憶円程のCashOutは今後発生することが見込まれます。

純粋な営業損失に加えて、上記の補修工事、そして希望退職者へ退職金(30億円程)が発生するので、手持ちのCash約600億円では全く足りません。
さらに、リース債務、社債を含む有利子負債も361憶円存在する事も指摘できます。

IRニュースを見ていると、物件の売却や投資有価証券の売却を行っており、100億円規模のCashを工面しているようですが、やはりこれだけでは全く足りないように思います。

じゃあ、エクイティでの調達(新規の株式の発行等)ではどうでしょう?

現在の時価総額は400憶円弱です。

Google市場概説より

必要なCash額を鑑みるに、生半可な増資では対応できません。
どこかのファンドの支援を得た上でのMBOが必要でしょう。
(資本提携をしてくれるスポンサー探しも難航しているようですし。)

全株式を買い取った上で非上場化、更に追加資金を投入して全部をキレイにして再上場、というような大手術が必要と考えます。

問題は株主です。

㈱レオパレス21 2020年3月期 有価証券報告書より

大株主上位3社が、アクティビスト系(モノ言う株主)であり、投資の理由が明らかに利ザヤ抜き、それも会社の事情に配慮しないものである事が予想されます。
(2位と3位は、いわゆる「旧村上ファンド系」です。)

つまり、単純にMBOするにも、アクティビストの投資分に上乗せするだけの金額が要求されるはずで、それに応えようという姿勢を示すファンドが果たして出てくるでしょうか?
(時価総額400億円+αに加えて、立て直しに必要な1,000億円規模の投入が必要。)

(なお、上記で提示したアクティビスト3社は、口は出しますが、改善のノウハウは一切持っていないので、業績改善支援を期待する事は、全くできません。)

民事再生法適用申請の可能性があるか?

国交省的には、これだけの規模の会社を潰したくは無いでしょうから、生かさず殺さずで置いておきたいはずです。

民事再生法適用申請の可能性が十分にあります。
(債務超過になると、会社更生が一般的。一応、2020年3月期はギリギリ債務超過手前。)

ただ、過去の業績推移を見てみると、今の状況程酷くは無かったにせよ、入居率が低かった時期はありました。

㈱レオパレス21 月次業績推移より作成

そして過去のPLを見るに、必ずしもかつてあった90%超の入居率に満たなくても、100億円規模の利益を出すことは可能なように思います。
(下表は2011年3月期から2015年3月期の業績推移。酷い時を乗り越えた後に、安定的に100億円超の利益を出している。)

㈱レオパレス21 2015年3月期 有価証券報告書より

今進めている早期退職も決着させ、不採算物件の整理(改修工事込みでしょうが)を行い、全体として経営をスリムにしていけば、まだまだ復活できるだけのポテンシャルはあるようにも思います。

明確に先行きが読めない状況ですが、早急に経営改革を進めれば、可能性は存在します。
支援してくれるファンドを見つけられる可能性もあります(例えばLBOスキームならファンドのリターン目線があう可能性もある)。

(一応、2020年3月期時点ではゴーイングコンサーン、つまり「継続企業の前提」はついていません。決算延期は、これについて監査法人ともめているのもあるんでしょうね。)


引き続き、状況をウォッチしていきたいと思います。

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経営企画

居酒屋文化、消滅の危機

東京都をはじめ、各自治体より飲食店等への時短営業要請が出ています。
これは、いよいよパブ/居酒屋等の夜に渡ってサービスを提供する業態へのトドメとなる可能性があります。
冷静に状況を判断し、経済を回すべきでしょう。

なお、筆者は居酒屋文化を愛する人間であり、その意味で(極力、排除するよう努めてはいますが)ポジション・トークも入っている可能性があることは、公平性の観点で付しておきます。

東京都知事による時短営業要請

新型コロナウイルス影響が続いていることをうけ、飲食店等に午後10時までの時短営業要請が出されています。

協力要請に従う事業所には20万円の協力金が支払われます。
(とてもじゃないがこれでなんとかなる金額とは言えない。)

https://this.kiji.is/662983734531048545

この要請は、居酒屋等の業態に対してトドメとなる、飲食文化崩壊の危機につながると考えています。

居酒屋業態の業績状況

こちらの記事でも示していますので、参考にしてください。

パブ/居酒屋業態の売上高前年比は、4月5月からのどん底からは脱しつつはありますが、2020年6月で売上高前年比40%の状況です。

一般社団法人日本フードサービス協会資料より作成

3月から起算して、7月も入れれば5ヶ月。

どんなに健全な経営を続けてきたお店でも、いよいよ体力の限界が来るでしょう。
また、なんとか続けられる事業所でも、気力の限界があります。

飲食店というビジネスは、早い時間から仕込みをし、遅くまで営業をする、という体力的にも厳しい商売であり、なんで続けられるのか?と言うと、お客様の存在です。
お客様が来て、お店をある種一緒に盛り立ててくれるから、好きで、頑張って、続けられる商売なんです。

東京商工リサーチのまとめでは、休廃業・解散企業の数が急激に伸びており、5万件をこえるのでは?と言われています。

東京都の時短営業要請は、業績的な面もそうですし、気力的な面でも、居酒屋業態に対するトドメとなる可能性があるわけです。

冷静に考えるべきでは?

不安に思う人も当然にいらっしゃるでしょう。
それを責めることはできません。

しかし、国や地方自治体の姿勢、そしてマスコミの報道のあり方には疑問を覚えます。

こちらの記事でもまとめましたが、陽性者数が増えているのは、単純に検査数が増えているからです。
重症者数は増えていません。

しかし、こちらの記事でも書きましたが、若者への感染影響は極めて軽微で、一方で経済的ダメージは一方的に負います(年金ももらえないですしね)。

最新の感染統計を見ても、警戒はすべきだとは思う一方、過剰な心配は不要としか思えません。
一貫して、過剰な心配は不要、と当ブログでは書いてきましたが、状況が推移しても、この意見に反する情報が出てきません。

https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/

年齢階級別に必要な対策は異なることは、数字から明らかなはずです。
不安を煽るような対策の打ち方、報道の出し方は、政治に関わる方達・報道に関わる方達共に、いい加減に改めていただきたいものです。

正しく怖がり、そして経済を回しましょう。

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マネジメント・リーダーシップ

経営危機のリーダー~非常時・緊急時のリーダーシップのあり方~

今回の新型ウイルスが引き起こしたパニックは、実際の科学的な脅威度を超えて、世界中で猛威を振るっています。
景気停滞による経済危機です。
すでに倒産の報をいくつもきくこの状況、リーダーはどのように振る舞うべきでしょうか?

リーダーシップとは

書店のビジネス書コーナーをのぞけば、必ず陳列されているテーマがあります。
それは「リーダーシップ」です。

リーダーシップ論は古代ギリシャの時代から語られている歴史の長いテーマです。
ビジネスの現場に限らず、人間が2人以上集まって何かをしようと思ったとき、自覚・無自覚関わらず、リーダーシップは避けて通れない話だからです。
また、時代やその時々の状況によっても捉え方やその姿が変わるものです。
孫子はリーダーシップを「智信仁勇厳をそなえること」、「戦争論」のクラウゼヴィッツは「知性と情熱を兼ねる高度な精神を持つこと」と、ドラッカーは「組織の使命を考え抜き、それを目に見える形で明確に確立すること」と定義づけました。
このように、歴史や人のうつろいと共に、言葉やあり方を変えながら様々に議論されてきました。

現代のリーダーシップ論では、具体的なビジネスの現場や環境変化に対応する「適材適所」という観点でのリーダーシップが研究されています。
ようは「時代や状況の変化への対応力」としてのリーダーシップです。

そしてその「状況の変化」の一つが非常時に会社が経営危機に陥った時のリーダーシップで、今回はこの「経営危機のリーダー」がテーマです。

コロナ関連の倒産が急増している、今は平時ではなく戦時である

TDBが公表している下記の資料の通り、すでに倒産の報を出している企業が多数でています(3月11日現在)。

2020年3月11日13時現在で判明している新型コロナウイルスの影響を受けた倒産(法的整理または事業停止)は、全国に8件あることが判明。法的整理が5件、事業停止が3件
エリア別に見ると「近畿」が3件で最多。「北海道」「東北」「北陸」「中部」「中国」がそれぞれ1件
どのケースももともと経営難、厳しい経営環境に置かれていた共通点があり、新型コロナウイルスが追い打ちをかけ法的整理・事業停止に踏み切っている。今後は、エリア拡大や新型コロナウイルスが主要因となる倒産、連鎖倒産の発生が懸念される

TDBリリースより

これは、一部であると思われ実際はもっと多く、そして参照記事にもある通り、これからも発生していくものと思われます。
すぐには倒産とまではいかなくとも、すでに実態として経営に影響が出ている企業も多いでしょう。
私が関与する企業においても、影響がではじめており、事業計画の修正対応を検討しています。

つまり、今現在は平時ではなく戦時、非常時であり緊急時です。
リーダーシップのあり方も、これに対応して変化をつけなければいけません。

経営危機のリーダー

特に日本においてそうなのですが、組織のトップは、大勢の意思を尊重し、異なる意見を調整するやくわり、いわゆる「調整型」のリーダーが多いという印象をうけます。
もしくは、とくに公的機関で多いお飾りとしてのトップであったり、伸びない中小企業における極端なワンマン。
こういったリーダーでも通常時、平時には問題が起きません(より正確にいうと問題が顕在化しません)。

しかしながら戦時、非常時はそうはいきません。
リアルに経営危機に陥っているか、陥るリスクがある状況では、判断を誤ればすぐに倒産してしまうからです。
経営危機の状況では、多少の摩擦も恐れず、思い切った決断と行動ができるリーダーが必要です。
自分自身の保身や既得権益の保護のためではない、危機を乗り切るための、会社にとっての「安全第一」を真にやり切れるリーダーが必要なのです。

そのようなリーダーがもつべき指針は次の5つであると考えます。

  • ミッション,ビジョンをぶらさない
  • メンバーを安心させ鼓舞する
  • 危機の最前線に立つ
  • 限られたチャンスに喰らいつく
  • 未来に向けてやれることをやる

¶ ミッション,ビジョンをぶらさない

会社は、創業者と創業メンバーが「世の中に変革を起こしたい」からこそ創業したもので、つまりミッション・ビジョンが存在します。
どのような危機にあたってもこのミッション・ビジョンはぶらしてはいけません。

「生存のため」だけに、経営の舵を切った結果として、これまで事業を支えてくれた顧客・取引先が離れてしまっては、後に何が残るでしょうか?
ミッション・ビジョンに共感をしてジョインしてくれたメンバーたちが去ってしまっては、どのようにミッション・ビジョンを達成していくのでしょうか?

ミッション・ビジョンは、会社経営における中心軸であり、同時に絶対軸です。
そもそもとして、ここをぶらしてしまっては、会社自体が存続する意義が無い、つまり危機を乗り越える必要性が無い、と考えましょう。

¶ メンバーを安心させ鼓舞する

ヤバイ、大変だ、危機だ、倒産する、そう喚くのは簡単なことです。
ただ、それではメンバーたちは不安に思わせるだけです。
リーダーはメンバーを安心させ、鼓舞するものです。

この時に必要なことは、

  • 何が起きているのかという客観的な事実の説明
  • これからどうしていくのかという明確な方針の説明
  • そしてみんなの力が必要だという真摯な助力の要請

この3つです。
何が起きているかを知れれば、メンバーは自分達で何ができるかを考えるでしょう。
会社の方針を明確に知れれば、メンバーは自分達でできることやるべきことを実行に移せるでしょう。
リーダーから誠実に助けを求められれば、一人一人が協力しあい、組織のために尽くせるでしょう。

「自分についてこい」というマッチョイムズも時には有効ですが、それ以上に、果敢にかつ誠実に、真摯に物事に向き合う姿勢が重要です。

¶ 危機の最前線に立つ

口だけ達者な、表面的に誠実なだけの人を、誰が信じるでしょうか?
経営の危機にあっては、リーダー自らが最前線に立ち、共に戦う同士であると、そうメンバーに思わせることが必要です。

人がリーダーに従う要件として、2つのことがあります。
それは、正当性と信頼感です。
この内、正当性は多くの場合与えられるものですが、信頼感は自ら勝ち得るものです。
そして危機時においては行動によってしか示せません。

ある食品メーカー、誰しもが知っているインスタント焼きそばの会社において、異物混入騒動がおきました。
初期対応のまずさもあって、商品回収、販売自粛、工場停止が何か月にも渡り続きました。
その際、社長は自らが現場に立ち、商品を回収し、取引先と顧客に謝り、メンバーたちと共に戦い続けました。
この結果として、騒動以前より信頼を得て、業績も大幅に回復する状況になりました。
これはほんの一例ですが、危機時におけるリーダーがとるべき行動の参考になるはずです。

¶ 限られたチャンスに喰らいつく

危機時は、顧客も、取引先も、メンバーたちも離れていってしまうものです。
今までできていたことができなくなり、リソースも減っていく。
絶望的な状況、とそう見えるはずです。

しかし、それだけではなく、光明がどこかにあるはずです。
経済社会において、いままで流れていたお金がとまった場合、必ずどこか別の場所に流れているか、単純に滞留しているだけのはずです。
視点を変えて、柔軟に取り組みを変える必要があります。

例えば、今回の騒動ですと、人々は外出を控え、自宅やオフィスの中での生活の比率が増えました。
そうなると、確かに今までオフラインでお店に来ていてくれた顧客は来てくれなくなります。
しかし、飲食店ならば宅配ができるはずです。
アパレルならばECの強化ができるはずです。
元々Webサービスを提供していた会社ならば急拡大のチャンスです。

社会全体を見れば、へこんだ所もあるならば、必ず伸びている所もあるはずで、そのようなチャンスがある場所を鋭敏に嗅ぎ分けるのもリーダーにとって必要なことでしょう。

¶ 未来に向けてやれることをやる

上述「限られたチャンスに喰らいつく」ともかぶりますが、危機時にはできることが限られるのが通常です。
今まで取り組めていたはずのことが、予算カットによりできなくなってしまうのです。
しかし、本当に何もできないのでしょうか?
そんなことは無いはずで、今までできていたことができなくなった分、逆にできていなかったことができるようになる可能性があります。

マーケティング部門を例に考えてみます。
マーケティング部門は予算があってなんぼの部門です。
現代社会における主流な手法であるWebマーケティング、これにはまあまあ多額な予算が必要です。
これがカットされては、地道なPR的な手法に限定されていて、そしてこれは大体のマーケッターは苦手としているものです。

では、何ができるでしょうか?
それは「過去のノウハウの再整理」です。
PDCAサイクル、というものがビジネスの現場ではよく使われますが、日々の忙しさを背景に、現実的にはPDPDサイクルになっている場合が多いでしょう。
活動が制限されるという状況は、この観点で見るとチャンスです。
今までのマーケティング活動の総整理を行い、これまでできていなかった分析に一気に取り組むのです。
そして、危機を乗り切った後のマーケティング活動に活かすのです。

このように、一度「しゃがむ」ことによって、次の「ジャンプ」への力を溜めるのです。
これは、今までできていたことができなくなったからこそ生まれた、新しい今できることです。
あくまでも未来を見据えて、今できることに取り組んで行きましょう。

まとめ

これまでのことを一言でまとめると「未来に向かって今できることを全力でやる」になります。
これが経営危機におけるリーダーシップです。

なお、本文では主に「経営者」やそれに準ずる幹部に向かって書いてきましたが、リーダーとは必ずしも「社長」や「部課長」しかなれないものではありません。
なぜならば、「役職は人から与えられるもの」ですが、「リーダーは自らなるもの」だからです。
つまり、一人一人が、誰しもがリーダーになれるのです。
(もっと言うと、人生においては「自分自身」こそが「経営者」であり「リーダー」であり、「主人公」のはず。)

状況に悲観せず冷静に捉え、行動は楽観的に果敢に。
一人一人がリーダーである組織が作れれば、必ず経営危機は乗り越えられるはずです。
そして、一人一人がリーダーである組織になるためには、やはり「経営者」自身が真のリーダーになる必要があります。

これまでも、今日も、そして明日からも、ミッション・ビジョンの達成のために、未来に向かってチャレンジしていきましょう。

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