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通期500億円赤字報道のニコンを例に財務資料の見方を解説

今回は、ニコンの決算資料の解説です。
ニコンは1Q(2020年4月~6月)で135億円の赤字を発表すると共に、通期で500億円の赤字がでるであろうとの見通しを発表しました。

投資とかそのような観点ではなく、ビジネス・パーソンとして様々な業界の財務資料をざっくりと眺めてみよう、という観点です。
決算書を見るのに慣れると、数分で全体感を掴めるようになり、数字に強くなることにつながります。

報道内容

まず、報道の内容を見てみましょう。

精密機器メーカーのニコンは、今年度の最終的な損益が500億円の赤字になるという見通しを明らかにしました。新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛などの影響で、主力のデジタルカメラの販売が落ち込み、赤字幅はこれまでで最大となる見込みです。
ニコンが発表した、ことし4月から6月までの3か月間の決算によりますと、売り上げは去年の同じ時期より54%少ない647億円、最終的な損益は135億円の赤字で、この時期としては過去最大の赤字となりました。
これは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、海外への渡航が制限されテレビ用の液晶パネルの製造装置を海外で販売できなかったほか、(以下略)

日本経済新聞 2020年8月6日 ニコン 今年度の最終損益 500億円最大赤字へ 新型コロナの影響

下記がポイントであることがわかります。

  • 1Q(2020年4月~6月)の利益が135億円の赤字であること
  • 通期が500億円の赤字見込みであること
  • コロナ影響で、デジタルカメラの販売が落ち込んだことが原因
  • 同じくコロナ影響で、海外での液晶パネル製造装置を販売できなかったことが原因

それでは、実際の決算資料を元に、深ぼってみましょう。

ニコンのIRページはこちらです。

ニコンの事業内容のページはこちらです。

決算資料を見る前に事業内容を確認してみる

これまでライザップやラオックス、モスバーガーといった会社で決算資料を解説してきました。

これらは、複数のビジネスをやっているにせよ、シンプルな事業構造であり、またtoCビジネスがメインであったこともあり、事業内容をイメージしやすい会社であったと思います。

一方、ニコンはtoCビジネスも、toBビジネスもやっています。
ですので、まず事業内容をイメージする所から入った方が良いでしょう。

ニコンには4つの事業があります。

事業内容ページでは、下記のビジュアルが掲示されています。

事業内容をまとめると、ざっくり次のようなビジネスをやっていることがわかります。

  • 映像事業:みなさん御馴染みのカメラ等の撮影機材、光学機器類の製造・販売
  • 精機事業:液晶パネルや半導体を製造するための露光装置の製造・販売
  • ヘルスケア事業:顕微鏡をはじめとする医療機器の製造・販売
  • 産業機器・その他事業:検査機器や光加工機、レンズといった各種産業機器等の製造・販売

つまり、「光学」に関係したビジネスを行っている会社だ、ということです。

決算短信を見てみる

それではようやく、決算短信の登場です。
2021年3月期1Q(2020年4月~6月)のものを見てみましょう。

なお、ニコンはIFRS適用会社です。

利益を見てみる

㈱ニコン 2021年3月期 第1四半期決算短信 表紙

この部分が報道にあった数字ですね。
売上高647億円で前年同期比▲54.7%、最終利益▲135億円(前年同期は82億円の黒字)。

売上高が半分以下に落ち込んでおり、深刻な状況にあることが容易に想像できます。

ここで、利益部分の深堀りをする前に、本来の出来上がり感をイメージ掴んでおいた方が良いでしょう。

2020年3月期のセグメント利益を確認します。

㈱ニコン 2020年3月期 決算短信 セグメント利益

こちらにある通り、イメージ感として本業である「カメラ」の映像事業は171億円の大赤字です。

液晶パネルや半導体を製造するための露光装置の事業で、利益のほぼ全てを稼いでいる、ということがこれでわかります。
(金融収益は、ここで取り上げるとややこしくなるので、スルーします。)

これを踏まえて、1Qのセグメント利益を前年同期と並べて見てみましょう。

㈱ニコン 2021年3月期 第1四半期決算短信 19年4月~6月セグメント利益
㈱ニコン 2021年3月期 第1四半期決算短信 20年4月~6月セグメント利益

今期は全ての事業においてマイナスが出ており、非常に厳しい状況です。
新型コロナウイルスの感染状況を見るに、年度の後半で急激に回復を期待することも難しいでしょうから、なんとか頑張って通期で500億円の赤字、という数字も理解ができます。

利益面は厳しい、とわかった所で、お金の方を見ていきます。

お金を見てみる

こちらにある通り、現預金は3,013億円あります。

㈱ニコン 2021年3月期 第1四半期決算短信 要約四半期連結財政状態計算書

そして、1年内に返済しなければいけない社債・借入金は209億円です。

㈱ニコン 2021年3月期 第1四半期決算短信 要約四半期連結財政状態計算書

こちらはキャッシュ・フロー計算書のリースの返済分。
1Qで18億円を返済しているので、ざっくり年間通せば約70億円が発生します。
借入返済209億円に加えて、通期で合計約280億円ほどの返済が発生することが推測できます。

㈱ニコン 2021年3月期 第1四半期決算短信 連結キャッシュ・フロー計算書

手持ちのCashが約3,000億円ありますので、仮に500億円の赤字を計上して、それが全てCashOutにつながるものだったとしても、すぐさまどうこうなる状況では無い、ということがわかります。

焦らず、しかし確実に事業の立て直しに取り組むだけの時間的猶予はとれるように思えます。

また、自己資本比率が53.1%あること。

㈱ニコン 2021年3月期 第1四半期決算短信 表紙

自己株式も176億円分あることも指摘でき、追加の融資や、自己株式の処分による資金確保のオプションも存在することが指摘できます。

㈱ニコン 2021年3月期 第1四半期決算短信 要約四半期連結財政状態計算書

一応、キャッシュ・フロー計算書も追加で見ておきましょう。

㈱ニコン 2021年3月期 第1四半期決算短信 連結キャッシュ・フロー計算書

この通り、減価償却費として74億円計上されています。
これはCashOutを伴わない費用なので、年間でざっくり300億円弱分の資金余力があることがわかります。

他、省略しますが、1Qで有価証券の売却を行っていることと、配当の額の抑制を行っている事があり、資金流出を極力抑えていることがわかります。
(当然の処置ではあります。)

決算説明会資料を見てみる

正直、1Qと前期末の決算短信を見るだけで、状況が大体わかった感があります。

外部の立場からすれば、まあ時間はあるので頑張ってください、という印象です。

ただ、それだと面白く無いので、決算説明会資料も見てみましょう。

映像事業

決算短信からでも読み取れる情報からはじまるのでパラパラめくり、まず、映像事業です。

㈱ニコン 2021年3月期1Q決算説明会資料

この通り、レンズ交換式のデジタルカメラが14万台(前期は45万台)、レンズは22万本(前期は74万本)しか売れていないことがわかります。
コロナ影響による、外出に関連する支出がどれだけ落ち込んだのか、がここに表れています。

また、これからの時代、カメラの消費が落ち込んでいくことが容易に想像できることも指摘できます。
(スマホの存在ですね。)

映像事業は、今後、数字が落ち込んでいく前提で事業構造を再構築していくことが求められるでしょう。

精機事業

次に精機事業のスライドです。

㈱ニコン 2021年3月期1Q決算説明会資料

FPD露光装置が1台も売れていないことがわかります。
半導体露光装置も激減です。

海外渡航ができないので致し方なくはあるのですが、稼ぎ頭である精機事業で事業活動が止まってしまったのは致命的です。

一方で、液晶パネルや半導体は、これからも世界的に需要が伸びていくことは間違いがありません。

なんとかここはこらえて、未来のステップアップのための準備に注力すべきでしょう。

ヘルスケア事業と産業機器・その他事業は、資料も薄いので、スルーします。

通期の見通し

最後に通期の見通しを見てみましょう。

㈱ニコン 2021年3月期1Q決算説明会資料

こちらにある通り、営業利益▲750億円(構造改革関連費用50億円込み)とあります。
これらに特別項目は税金項目での調整が入り、報道での「最終赤字500億円」とつながる感じなのでしょう。

ただ、映像事業と精機事業の通期見通しを見ていると、素朴な不安を受けます。

㈱ニコン 2021年3月期1Q決算説明会資料
㈱ニコン 2021年3月期1Q決算説明会資料

多くの方が感じている通り、新型コロナウイルスの影響は、実体のリスク以上に、印象としての不安感が非常に大きいです。
そして実際に、多くの領域で経済的ダメージを及ぼしており、また年末の感染症リスクの再燃不安もあります。

ここで示されている通期見通しが、本当にその通りに進捗するのか。

別に何か確証的なものがあって書いているのでは無いですが、決して楽観視できるものでは無いでしょう。

他社も見てみる

ここまで見たら、競合他社も軽く眺めてみましょう。

まずキャノンです。

こちらにある通りキャノンも全領域において厳しい状況におかれていることがわかります。

ただ、ニコンに比較してダメージが少ない印象で、一方で全社費用が大きいように見えます。
イメージング・システム事業は、わずかではありますが利益も出ています。

赤字幅もキャノンの方が、ニコンより小さいです。

事業規模も全体で1桁キャノンの方が大きく、会社として大きな差があることが見て取れます。
(ニコンには無いオフィス機器事業の存在と、メディカルシステム事業では利益を出している事も指摘。)

次にソニーです。

ソニーの場合「エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション」事業の中にカメラが含まれています。

そして、(多くの商品が含まれている前提ではありますが)このセグメント別利益にある通り、事業としてしっかりと利益を出しています。


以上、ざっくりとニコンの財務資料・決算資料を眺めてきました。

こうして見ると、売れないから利益が出ない、という状況はエクスキューズであることが雰囲気として感じます。

50億円の構造改革関連費用を見込んでいるようですが、確実に投下し、事業規模が縮小したとしても利益を出せる状況に改革することが必要でしょう。

この見方は本当にざっくりとした見方なので、本業の方々や、この分野で投資分析をしている方にしてみれば違った見方をするでしょう。
とは言え、全体感を掴むには十分であり、一定、課題感も見えてくることがわかったかと思います。

是非、参考にしてみてください。

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居酒屋文化、消滅の危機

東京都をはじめ、各自治体より飲食店等への時短営業要請が出ています。
これは、いよいよパブ/居酒屋等の夜に渡ってサービスを提供する業態へのトドメとなる可能性があります。
冷静に状況を判断し、経済を回すべきでしょう。

なお、筆者は居酒屋文化を愛する人間であり、その意味で(極力、排除するよう努めてはいますが)ポジション・トークも入っている可能性があることは、公平性の観点で付しておきます。

東京都知事による時短営業要請

新型コロナウイルス影響が続いていることをうけ、飲食店等に午後10時までの時短営業要請が出されています。

協力要請に従う事業所には20万円の協力金が支払われます。
(とてもじゃないがこれでなんとかなる金額とは言えない。)

https://this.kiji.is/662983734531048545

この要請は、居酒屋等の業態に対してトドメとなる、飲食文化崩壊の危機につながると考えています。

居酒屋業態の業績状況

こちらの記事でも示していますので、参考にしてください。

パブ/居酒屋業態の売上高前年比は、4月5月からのどん底からは脱しつつはありますが、2020年6月で売上高前年比40%の状況です。

一般社団法人日本フードサービス協会資料より作成

3月から起算して、7月も入れれば5ヶ月。

どんなに健全な経営を続けてきたお店でも、いよいよ体力の限界が来るでしょう。
また、なんとか続けられる事業所でも、気力の限界があります。

飲食店というビジネスは、早い時間から仕込みをし、遅くまで営業をする、という体力的にも厳しい商売であり、なんで続けられるのか?と言うと、お客様の存在です。
お客様が来て、お店をある種一緒に盛り立ててくれるから、好きで、頑張って、続けられる商売なんです。

東京商工リサーチのまとめでは、休廃業・解散企業の数が急激に伸びており、5万件をこえるのでは?と言われています。

東京都の時短営業要請は、業績的な面もそうですし、気力的な面でも、居酒屋業態に対するトドメとなる可能性があるわけです。

冷静に考えるべきでは?

不安に思う人も当然にいらっしゃるでしょう。
それを責めることはできません。

しかし、国や地方自治体の姿勢、そしてマスコミの報道のあり方には疑問を覚えます。

こちらの記事でもまとめましたが、陽性者数が増えているのは、単純に検査数が増えているからです。
重症者数は増えていません。

しかし、こちらの記事でも書きましたが、若者への感染影響は極めて軽微で、一方で経済的ダメージは一方的に負います(年金ももらえないですしね)。

最新の感染統計を見ても、警戒はすべきだとは思う一方、過剰な心配は不要としか思えません。
一貫して、過剰な心配は不要、と当ブログでは書いてきましたが、状況が推移しても、この意見に反する情報が出てきません。

https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/

年齢階級別に必要な対策は異なることは、数字から明らかなはずです。
不安を煽るような対策の打ち方、報道の出し方は、政治に関わる方達・報道に関わる方達共に、いい加減に改めていただきたいものです。

正しく怖がり、そして経済を回しましょう。

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【飲食店】テイクアウトデリバリーの波は続くのか?

新型コロナウイルス影響により、多くの飲食店が大打撃を受けています。
そのような中、テイクアウト/デリバリーの波に乗れた所は、なんとか業容を維持、お店によっては拡大もできています。
しかし、この波が一過性の物で終わり数字が落ち込むリスクもあります。
どういうことでしょうか?

飲食店の状況

コロナ渦での飲食店の状況は、これまで当サイトで取り扱ってきました。

結論、ファストフード系をはじめとして、テイクアウト/デリバリーに対応した、対応しやすい業態は、今回の新型コロナウイルス影響も乗り切り、数字が安定しています。

アフターコロナ/withコロナの世界では、テイクアウト/デリバリーのウェイトが大きくなっていくのは間違いが無いでしょう。
そして、テイクアウト/デリバリーに対応できない、しづらい業態は、独自の付加価値を提供できなければ、先細りになるか、消滅していくでしょう。

しかし、単純にテイクアウト/デリバリーに対応していれば良いというわけでもありません。

フードデリバリーサービスは追い風

この話を続けるにあたり、見ていただきたいアンケート調査があります。

MMD研究所が行った、「2020年インターネットでのフードデリバリーサービスに関する調査」です。

この通り、2019年と2020年では、フードデリバリーサービスの利用率に劇的な変化があります。

この理由は説明するまでも無いでしょう。

そして、単純な利用経験だけでなく、この通り利用頻度も劇的に上昇しています。

これだけ見ると、非常に追い風のように見えます。
実際に追い風であるのは確かでしょう。

利用シチュエーションの変化

それでは、どのようなシチュエーションで利用されているのでしょうか?
その変化を見てみます。

まずは、直近の資料。

次に、2019年データ。

何が大きく変化しているかと言うと、
「家族友人が集まる時」が大きく減少し(これは当然に理解できる)、
「料理をするのが面倒なとき」「その料理が食べたいとき」が大きく伸びています。

(その他全般的に、人が集まる系を除き、様々なシチュエーションで伸びています。)

これらの大きく伸びている数字は、「コロナで外出自粛のため(家にいる時間が増えた)」に集計されていませんが、リモートワークの増加などを踏まえると、トータルとして「コロナ影響」によるものが大きいと考えて、大きな外れは無いでしょう。

つまり、一定程度、コロナ影響が落ち着いたら、数字が以前までとはならないにせよ、落ち込む可能性が大いにあるのです。

消費者が求めるものは?

もうテイクアウト/デリバリーは消費行動として定着化したんだから、そうそう落ち込まないよ。という意見も当然にあるかもしれません。

では何故、筆者がコロナ影響が落ち着いたら数字が落ち込むかもしれない、と考えるのか?というと、理由は3つあります。

「Uber Eats」はブームに終わるリスク有り

こちらの資料を見ていただきたいです。

デリバリーが増えたと。
それはわかりますが、何故、直営店と出前館の数字が落ちて、「Uber Eats」だけが伸びているのでしょうか?
ちょっと、おかしくないでしょうか?

これは、完全に推測が入ってしまうのですが、「この機会に、今まで使ったことがない、話題のUber Eatsを使ってみよう!」と考えた消費者が多かったからでは無いでしょうか?
直営店のデリバリーや出前館では、何か特別な新しい物を利用した感が無いですが、「Uber Eats」なら、まだ新鮮味が大いにあります。

ここで考えていただきたいのですが、「Uber Eats」で届いた料理って、本当に美味しかったですか?
もちろん、店舗が一生懸命作った料理であり、美味しいとは思いますが、店舗で食べるよりかは味が劣ったはずです。
冷めていますし、容器もオシャレじゃ無いからです。
(人により、受け止め方は当然に違うでしょうが。)

「Uber Eats」利用で、こなれたお客様は「まぁ、こんなもんか」となって、コロナ影響が落ち着いたら、一気に離れるリスクがあるのでは?と危惧する理由です。
ようは、ブームで終わるリスクがあるのでは?ということですね。

(出前館の他、競合の台頭の存在もあります。こちらの記事も参考にしてください。)

消費者が求めるものは「価格」と「味」

また、別のアンケート調査です。
結構、昔の資料です。

ネットリサーチティムスドライブ「『フードデリバリー(出前)』に関するアンケート」より

昔の資料をわざわざ持ってきましたが、最近の資料でも基本的には傾向は一緒です。

消費者が求めるものは、今も昔もまず第一に「価格」で、次に「味」です。

「味」については、上記で触れました。

「価格」ですが、店舗側と配送側にそれぞれ手数料が乗ります。
つまり割高です。
(別に、割高なのを悪い、とは言っていません。)

繰り返しますが、端的に言って割高なのです。

消費者の心を掴むほどのバリュー感があるのか?が問題です。

体験を売れるのか?

では、バリュー感とは?の話になって時に、こちらのツイートが納得感があります。

https://twitter.com/daichi/status/1252968255049748487

ようは、店舗で食べるという行為は、単純に料理にお金を払っているのではなく、「体験」を買っているのだ、ということですね。

テイクアウト/デリバリーでは、この「体験」を売るのが難しいのです。
Uber Eatsを利用する、という体験も1,2回で十分でしょう。)


以上、今後、テイクアウト/デリバリーの数字が落ち込むリスクがあるよ、という話をしてきました。

ではどうすればよいのでしょうか?

この点はシンプルです。

テイクアウト/デリバリーに最適化された料理、容器、購買体験のパッケージを開発しましょう。

これに尽きます。

テイクアウトの大御所であるマクドナルドとかは参考になりそうですけれどね。
ハッピーセットなんかは、長く、家族世帯に売れている商品パッケージです。

飲食業界は、人口減少に伴い、間違いなくシュリンクしていくビジネスです。
そして、元々利益率が低いビジネスです。
テイクアウト/デリバリーの波に乗れたとしても、今後どうなるかがわかりません。
生半可な対応では、100%生き残れないでしょう。

何度も書いていますが、テイクアウト/デリバリーのウェイトが大きくなっているのは間違いがありません。
このチャンスを捉えて、時代の変化に対応していって欲しいものです。

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大戸屋VSコロワイドについて思う事と教訓

大戸屋VSコロワイドが話題になっています。
当事者達には大変失礼だとは思いつつ、中々のドタバタ劇であると感じています。
本件については、かなり多くの思う事と教訓があるので、感想を書いていきます。

これまでの経緯概略

入り口のきっかけは、大戸屋創業者である三森久美氏が2015年7月にお亡くなりになられたことに発します。

ここで創業者が持っていた株式約19%は、ご家族(夫人と子息)に相続されます。

これが大きな悲劇のはじまりです。

ご家族、特にご子息にとっては次のような考えがありました(想像)。

  • すぐに自分に社長の席が譲られると思っていた(当時26歳)
  • 莫大な株式を相続するにあたり必要な税金分の現金を大戸屋が「功労金」としてすぐに満額支払ってくれると思っていた
  • 現経営陣が父の理念を引き継ぎ、取り組んでいたことを継続してくれると思っていた

しかし、現経営陣は一定現実的な考えを持っていました(想像)。

  • 若い大事な後継者だから長く大切に育てよう(社長の席も早くて10年後)
  • 「功労金」を払いたいが、外部、特に株主が納得するだけの説明が必要
  • 創業者が牽引してきた赤字事業を切り離さないとメインバンクも納得しない

こういった思惑の不一致があり、創業家と現経営陣で確執が起きます。
結局2016年、ご子息は取締役を辞任し、大戸屋を去ります。

第三者委員会の調査報告書は、大変失礼ながら、かなりの読み物です。面白いですよ。後、経営側がこれだけのことをすることはまずないのだから、かなり配慮されていますよ。)

創業家は、相続した株式分の税金を支払わなければいけないため(充当した借金の返済が必要)、
2019年10月、持っていた株式の約19%をコロワイドに売却します。

その後、コロワイドは大戸屋に対して、創業者ご子息を取締役候補に含めた株主提案を行い、この場は否決(2020年6月)。

2020年7月に、今話題になっているTOBという流れになっています。
TOBが成功すれば、コロワイドは大戸屋を50%超保有することになるので、子会社として親子上場という関係下で支配に置く形になります。

ここら辺の経緯は、色んな方や記事がまとめているので、読んでみて下さい↓


創業家の言い分

https://business.nikkei.com/atcl/interview/15/269473/062300085/?P=1

大戸屋側の言い分(第三者委員会の調査報告書)(必見級)

http://110.232.195.129/news/wp-content/uploads/2016/10/c029f081ce9ac494e99a60355a9fa535.pdf

創業家による大戸屋株式のコロワイドへの売却

https://www.j-cast.com/2019/10/14369883.html?p=all

創業家がコロワイドに株式を渡した理由は「相続税」

https://www.data-max.co.jp/article/31980

株主提案時のコロワイドの行動と蔵人会長の暴言

https://www.data-max.co.jp/article/36617

TOBまでの経緯概略

https://newspicks.com/news/4942706/body/

大戸屋VSコロワイドのテクニカルな解説

https://ib-consulting.jp/newspaper/?search=%E5%A4%A7%E6%88%B8%E5%B1%8B

ようやく本題の思う事と教訓

オーナー創業者

まず、事業承継問題はしっかりしましょう、ということですね。

株式がコロワイドに渡ったのは、結局の所、相続上の問題が原因です(多分)。

きちんと、事業承継のスキームを構築しており、何かあってもスムーズに相続できるようにしていれば、このようなことにはならなかったはずです。

加えて、相続上の問題だけでなく、経営の引継もです。

ご子息は「自分が正当な後継者」だと、まあ当然に考えますよね。株式も持っているわけですし。
(幼い傲慢な発想ですし、ガバナンス上、それが如何にナンセンスか、は置いておいて。)

ご子息には「きちんと諸先輩の下について、修行しろ。最低でも10年、実績と実力を積め。」と言い聞かせておくべきでした。
現経営陣にも「色々大変だろうが、残された者たちの感情のケアには注意しろ。」と冷静に伝えておくべきでした。

これらは、べつに「べき論」を語っているのではなく、あちらこちらで聞く「あるある話」です。
巻き込まれたらたまったもんじゃないはずなので、ここは一番グリップし、推進できる立場の人間が、きちんと対処しておく問題でしょう。

二世御曹司

ご子息に関しては、もうちょっと身のふるまいを意識した方が良かったと感じています。

若くても優秀な方は大勢いらっしゃいますが、じゃあ26歳とかの年齢で、数百億円規模の会社を背負えるのか?と言われたら、周囲の人たちは不安に思って当然でしょう。

ゼロベースから修行し、丁寧にそして確実に成果をだしていく、実力をつけていく。
そして、二世シンパ(支持者という意味)を作っていく。

これができれば、現経営陣も、元々、ご子息に経営を引き継がせる心持ちだったのだから、いずれは願いが叶ったはずです。
株式だって持っているのですから。

ようは、親の威光をかさに着て何かが叶うと思ってはいけない、ということですね。

残された現経営陣(被買収側)

残された経営陣も、もうちょっとプロフェッショナルに経営して欲しいな、と感じます。

まず業績面。

創業者がお亡くなりになってからの内紛の影響もあるのでしょうが、この業績はいかがなものかと(ピーク時の15%の利益)。

最新直近の決算は、コロナ影響もあるとは言え、赤字です。

山本社長(現在は取締役)のガイアの夜明けの件もかなり酷いものでした。

これだけじゃないのですが、もっと、お客様と従業員のことに目を向けた方が良いかと思います。

更に、これだけ外部に株式をグリップされて、株主提案までされたら、普通は次にTOBが来るって思うでしょ?
なんで、早々に買収防衛策を打たないのですか。

もう、この状況だとホワイトナイト以外、手が無いですよ?
(それも、あまり現実的では無いですが。もしかしたら既に準備しているのかもしれませんが。)

資本主義社会で戦っていくには、ちょっと、M&Aの世界において初心すぎるな、と感じます。

買収側

コロワイドもコロワイドです。

株式を誰かから取得するのも、TOBも、別に合法な手段であり、誰かに非難されるいわれはありません。
しかしですよ、ここで礼節を失ってはいけないでしょう。

こちらで記載のある蔵人会長の明らかな従業員軽視の暴言や、こちら(週刊ダイヤモンド2020.7/18)にあるような野尻社長のあからさまな脅迫ともとれるコメントを出されたら、相手のシャッターも当然におります。

別にM&Aを戦略軸に据えるのは問題が無いのですから、もうちょっと相手様に敬意を払えないもんですかね?

さらに業績です。

「お家騒動で混乱している会社を乗っ取って、自分たちの会社の業績をキレイにしよう。」

という発想が見え見えであり、数字が読める人たちにしてみれば、反感を持たれても仕方が無いです。
IFRSであり、のれん代がPLヒットしない、という魂胆も見透けており、微妙感に拍車がかかります。

進め方がよければ「流石、コロワイド!M&A巧者!」となったはずです。

これまでの進め方だと、もうちょっと既にある事業をしっかり立て直しなよ、と感じてしまいます。


以上、大戸屋VSコロワイドについて思う事について、教訓について書いていきました。

私は、基本的には資本主義の信奉者であり、グローバルな世界で一般的に使われている手法については当然に有りだと思っている立場です。

しかし、ビジネスという物は、人々が幸せになるために行われる物だとも考えています。

今回の大戸屋VSコロワイドの件では、TOBに乗っかる大戸屋株主は儲かってハッピーでしょう。
しかし、それ以外の方々にとっては、誰にも幸せにならない一件のように思えます。
あくまでも私の価値観の世界の話なのですが、見ていて首をかしげてしまいます。

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いきなり!ステーキで起きていること解説(2020年7月3日時点)

いきなり!ステーキで有名な、㈱ペッパーフードサービスのIRが盛り上がっています(中の人、ごめんなさい)。
パッと見、?????な状況だと思うので、適当に解説していきます。
わかりやすくは書いていません。

後、話としては標準的な企業再生の話で、シンプルなので全然面白く無いと思います(予防線)。

起きていること時系列

とりあえず、IRページを見れば、大枠では掴めます。

時系列で並べて見ると、次のようになります。

2020年3月25日:ゴーイングコンサーンが付く(継続企業の前提に関する事項)
2020年4月30日:ペッパーランチ事業を分社化(㈱JP)リリース&取締役会決議日
2020年6月1日:㈱JP(ペッパーランチ事業分社化)設立効力発生日
       村上氏より20億円借入実行
2020年6月30日:PLHD㈱設立効力発生日(㈱JPの売却先)
2020年7月3日:米国子会社を破産申請
       ㈱JPの売却リリース&取締役会決議日&株式譲渡契約締結日
       店舗閉鎖(114店)&人員整理リリース
2020年7月6日~同31日:希望退職募集期間
2020年7月31日:村上氏からの借入20億円返済期日(多分、ロールする)
       第1四半期決算発表予定日(延期していた決算発表)
2020年8月31日:希望退職_退職日
       ㈱JPのPLHD㈱への株式譲渡実行日
2020年12月31日:㈱JP決算日
       ㈱JP譲渡におけるアーンアウト条項の基準日(多分)


ゴーイングコンサーン(GC)が付くと、「ヤバい状態ですよ。」と言う事です。
(GCが付いたら倒産する、ということは必ずしも無いのですが、倒産した上場企業はほぼ100%GCが付いています。)

これ、どういう状況か?というと、ようは標準的な企業再生のプロセスです。
リストラも開始されるようですしね。
(下でもうちょっと詳しく書きます。)

アーンアウト条項は、M&A実行後の、特定条件達成により発生する追加条件の条項です。
㈱ペッパーフードサービスは、売却後も継続して㈱JPに関与して、売上目標の達成を目指すのでしょう。
(売上目標達成により、売却額が増加する契約のようです。)

関係相関図

この状況を相関図で示すと次のようになります。

ようは、売上規模が小さく、わかりやすく利益がでている㈱JP(ペッパーランチ事業)を分社化して売却
その売却収入で、最大の事業規模を持ついきなり!ステーキ事業を再生させよう、という計画なわけです。

(なお、売却代金85億円の使途は公開されていません。村上氏への返済に充てるのか、どうかが不明です。)
(㈱JPの分離は、いわゆる「第二会社法式」ですね。
ただ、本体としては「いきなり!ステーキ事業」を再生させる気満々のようです。)

ついでに、上述の通り、ペッパーランチ事業にも継続関与し、アーンアウト条項の達成にも動いていくのでしょう。
(ハードワークですねぇ。)
(ただ、アーンアウト条項が売上高達成目標となっており、一方、店舗クローズも実行するとのことで、どういう契約にになっているのかは不明です。おそらく、シンプルに撤退計画まで含めた事業計画を出し、それベースに進行しているのでしょう。撤退のリリースが同時にされているのもその証左。)

なお、ペッパーランチ事業ではなく、いきなり!ステーキ事業を売却すれば良いのでは?という意見・考えもあると思います。
これは仮に実行しても厳しいと考えられます。
というのも状況が悪化した3月頃で時価総額が100億円程で、今回のペッパーランチ事業の売却額が85億円(Max102億円)ですので、㈱ペッパーフードサービスのバリュエーションは、ペッパーランチ事業でほぼ構成されていた、という状況だからです。
いきなり!ステーキ事業を売却しても、二束三文にしかならないはずで、精々が止血対応程度の効果しかありません。
既存の借入や村上氏からの借入への返済に充当できるだけの資金は確保できないので、詰んでしまいます。

支援をしている村上氏のメリット

村上氏ですが、PE(プライベートエクイティ)としての動き方をしています。

貸付の担保は株式、と噂されていましたが、おそらくそんな話ではなく、営業債権(売掛金や未収入金)が担保になっていると思われます。
(2019年12月31日時点の売掛金と未収入金の残高合計が約38億円で、コロナ影響を含めて絞んでいるであろうことを含めると、おそらく貸付額20億円とちょうどヒットするはずです。)

ここまでの情報が開示されれば明らかで、村上氏、もっと言うとエスフーズ㈱にとっては、メリットが強い状況です。

  • 営業債権(担保)による回収目途がある
  • ㈱JPの売却収入による回収目途がある
  • よしんば「いきなり!ステーキ事業」が再生したのならば、自社製品の販売先の安定化が図れる
  • デッドエクイティスワップによる支配力強化のオプションも残されている

立場の弱い㈱ペッパーフードサービスに対して、どう転がっても損が出にくい支援をしている、と考えれば色々と話がつながります。
(PEですからね。)

ちな、デッドエクイティスワップとは、借入金を資本金に振り替える手法です。
返済義務(村上氏にとっては権利)が無くなる代わりに、株式による支配の強化につながります。
別にエスフーズ㈱にとっては、欲しい事業では無いでしょうから、ここは望まないと思いますけどね。

いきなり!ステーキ事業に再生の可能性はあるのか?

じゃあ、いきなり!ステーキ事業に再生の可能性はあるのでしょうか?
ネットの反応は散々です。

ただ、冷静に見てみると、「いきなり!ステーキ事業」のセグメント利益は、一応19億円出ているんですよ。(利益率は約3%)

㈱ペッパーフードサービス 2019年12月31日決算説明会資料より

諸々の騒動、コロナ影響によるダメージは大きいでしょうが、不採算店の一斉クローズによる収益力強化、本部組織の縮小対応によって、利益を出せる状況に戻せる可能性があります。
(FY20の1Q決算が出ていないので、何ともなのですが。最新の決算資料である有価証券報告書を見たい方はこちらに、決算説明会はこちらに飛んでください。)

飲食店の再生の基本は、不採算店の撤退です。
(この撤退にもお金がかかるのが難しくしているポイント。スケルトン対応や定借の場合の家賃負担とか。)

これらをペッパーランチ事業を売却した資金で実行した上で、QSCや、顧客が望む価格帯(バリュー感)への回帰といったCS面を対応すれば、まあまあ見えてくるものがあるように思えます。
㈱ペッパーフードサービスは、過去のいわゆる「心斎橋事件」から這い上がってきた実績がある点も指摘できます。
「やっぱりステーキ」のような、競合が出ているのは話題になっていますが、「既に出店している」という強みもあります。

スピーディーに縮小化と再生を行えば、骨太な経営体質を一定程度取り戻せるはずで、まだまだ戦えるだけの余地が残っていると考えられます。
(そうじゃなきゃ、PEとしての村上氏もお金を出さないはずなので。)

まあ、何を語ろうが、ルビコン川は既に渡ってしまっているので(賽は投げられた!)、その奮闘ぶりを一ビジネスパーソンとして見守りましょう。

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経営企画

一流の経理の先、経理のキャリア5パターン

経理の仕事がAIに奪われる、と言われて久しいですね。
現実はどうか、と言うと別にそんなことは無いのですが、それはそれとして、将来どうしていけば良いのだろうか?という悩みを持っている経理実務者は多いのではないでしょうか。
ここでは一流の経理の先、経理のキャリアについて考えてみます。

経理以外の人にとっても、経理の人がどういうキャリアに至るのか、参考になるかもしれません。

経理にはどのようなキャリアがあるか?

ここでは、少なくとも経理と言う仕事に関しては一通り理解している前提で話を進めます。

ある経理実務者がキャリアを積んだ先に行きつくのが、次の5つのパターンです。

  • 専門性の追求
  • オールラウンダー化
  • CFOルート
  • SEシフト(業務改善主体)
  • M&Aプロフェッショナル

なお、この5つのパターンに上下はあまり無く、複数の領域に対応可能な方もいらっしゃいますし、会社の状況や個人の指向にあわせて横の移動を行う方も大勢いらっしゃいます。
ですので、どこかのパターンで着地してキャリアとしては終了、ということは無いことは認識ください。

それでは、各パターンについて解説していきます。

なお、本テキストは私個人の実務経験から語るもので、偏見も混じっているであろうことはご了承ください。
その意味で、転職系サイトとかに記載されている仕事の解説とは趣きが異なるものになるかと思います。

専門性の追求

まずはじめは専門性の追求です。

経理のキャリアのそのまま延長線上にある、深堀したルートです。

上場会社における経理部長がこのパターンで、会社規模によっては投資家コミュニケーションの責任者として役員になっている場合もあります。

経理実務を一通りマスターしているだけでなく、連結決算や適時開示等の実務に精通しています。
場合によっては外資系で海外経理にも対応できる方もいらっしゃいます。
定期的にデスマーチが到来し、長時間労働状態になります(決算対応)。

単純に実務を遂行するだけでなく、銀行や税務署、監査法人、東証、そして株主といった社外とのコミュニケーションが多く発生するポジションです。
相手の立場(要望)にあわせて、態度を適切に変えていく必要があり、その意味で高い社外コミュニケーション・スキルが要求されます。
もちろん、部長クラスにまであがるなら、他部署との折衝も必要なので、社内調整能力も必要です。

部下が数十人におよぶ場合も珍しくないので、高いマネジメント・スキルも必要です。
最新の会計制度や税制は、新人の方が詳しい場合も珍しくないので、継続して勉強するか、勢いのある若い方を御せるだけの人間力が求められます。

必要な能力

  • 銀行折衝経験(銀行からの資金調達経験)
  • 税務署との折衝経験(税務調査対応)
  • 会社法、金融商品取引法の知識
  • 連結決算(CF、セグメント、注記等含む)の実務経験
  • 招集通知、決算短信、有価証券報告書等の作成経験
  • 監査法人との折衝経験
  • 東証との折衝経験
  • 株式実務(印刷所対応含む)の経験
  • 金融知識、機関投資家という存在への理解、個人の投資経験
  • 部署としてのマネジメント・スキル
  • 長時間労働耐性

オールラウンダー化

何でも屋ルートです。

経理を一定おさめると、数字の流れがわかってきます。
また、経理は全部署の会計データが集約されるが故に、会社全体のことにも詳しくなります。
加えて、経理は会社法や金融商品取引法といった、法律知識も要求されることから、レベルがあがればあがるほど、オールラウンダー化が自然と進んでいきます。

このオールラウンダー化を極めると、法務、人事、総務、IR、ITといった幅広い領域をカバーする、何でも屋が出来上がります。
表面的には何でもできるスーパーマンで、しかし個々の専門家には及ばない器用貧乏人材です。
大概のことには対応ができるので、出世が早かったりします。

上場企業における管理系役員がこのパターンですね。
変化対応力が高いが故に、ベンチャー企業でコーポレート系の部長クラスについている光景も見受けます。

実務には携わらず、しかし全体をコントロールするだけのマネジメント・スキルが要求されます。
Google検索能力を向上させる必要もあります。
まれにMBAをとっている人も、チラホラ見かけます。

必要な能力

  • 弁護士と議論ができる水準での法律知識
  • 社会保険、労働基準法、労務管理、人事面談コミュニケーションスキル
  • 人事制度(人事制度、評価制度、報酬制度)の構築経験
  • 採用オペレーション、採用面談コミュニケーション
  • 金融知識、機関投資家という存在への理解、個人の投資経験
  • 高いITリテラシー
  • 部署としてのマネジメントスキル
  • 板挟みになっても平気な精神力

CFOルート

次が、いわゆる“CFO”ルートです。
上記、オールラウンダー化から派生して、もっと小さいサイズでガリガリやりたくなった人が辿ります。

事業計画の策定やエクイティでの資金調達、IPOの推進で活躍します。

つまり、ここで言っている“CFO”とはベンチャー企業における管理系役員のことを指しています。
ベンチャー企業やマザーズの管理系役員ですね。
一方、ドベンチャー(スタートアップやシードステージ)には、あまりいない印象です(報酬水準的にも大体雇えない)。

企業価値評価(バリュエーション)や資本政策VCコミュニケーション、証券会社との折衝などのハードな仕事が多いです。

ジョインするのがレイターステージの場合が珍しくなく、もらえるストック・オプションの価値が大したことが無い場合も珍しくありません。
そのため、仮に上場が成功しても、大して資産形成につながらない微妙に不遇なポジションです。
その影響か、世の中のお金には非常に詳しい癖に、自分自身の財産については無頓着な人間が意外に多いです。
加えて、転職が多く、渡り鳥気質がある方が珍しくありません。

IPOが成功して疲れると、オールラウンダー化にシフトすることが良くあります。
IPO成功までは、折れない精神力が求められます。

必要な能力

  • 予算策定の実行経験
  • ベンチャー・エクイティの知識と経験(VCコミュニケーション)
  • IPO進行の知識と経験
  • 社内調整力と計画推進力
  • 折れない精神力

SEシフト(業務改善主体)

元々、事業系の方で、何かのきっかけで経理に携わることになった方で、このパターンを辿る場合があります。

経理という仕事は、多くの部署から情報を収集して業務を行います。
そして、その情報が出るスピードが遅い場合、現場に入って改善に手をつけなければいけない場面が珍しくありません。
つまり、経理を長くやっていると、業務改善が得意になる場合が珍しくないのです。

また、会計システムのメンテナンス対応を行ったり、業務改善にあわせて各種業務システムの導入を手伝う機会が多い関係上、自然とITリテラシーが高くなります。

こういった仕事と相性が良い場合に、SE領域にシフトする方が出てきます。

元々の出身が経理でない場合が多いからか、独立したり転職したりする人が多いです。
中小企業診断士の資格を持っている方もいらっしゃいます(なぜかMBAでは無い)。
転職の場合は、その転職先で経理や経営企画などをやりながら改善実務を主体に取り組んでいる場合が多いです。

必要な能力

  • QC7つ道具(例)のような品質管理、業務改善手法の知識と実行経験
  • 極めて高いITリテラシーを持っている場合がある
  • プロジェクトマネジメント能力
  • 「中」に入っていくコミュニケーションスキル
  • 板挟みになっても平気な精神力

M&Aプロフェッショナル

最後がM&A戦士のルートです。

M&Aという専門性が高く、かつ幅広い領域のプロフェッショナルです。

M&Aは、会計や税務の知識のみならず、人事や法務、IT、そしてビジネスの中身のことなど、本当に全社的に知識を持っていないと対応ができません。
(デューデリジェンスというプロセスがあり、そこで必要なため。)

また、候補先の選定においても、自社とのシナジー検討ができないといけないため、ビジネス・センスも一定程度必要です。
これに関連して、アライアンスを得意としている方もいらっしゃいます。

投資会社やM&A専門のコンサルから引っ張られて転職した上司の元、修行した会計担当者がこのキャリアを歩む場合が多いです。
上場企業における専門部署でスペシャリストとして勤務しているパターンがほとんどです。
コンサルとかへの転職は、絶対的経験値が少くならざるをえない関係で成功確率が低い印象です。
一方、事業会社に転職して、執行役員あたりでべらぼうな報酬をもらっている光景も見受けます。

M&Aでは、PMIというガツガツしたプロセスが存在し、そのため状況によっては非常に戦闘力が高い人材になる場合があります。
かなり過激な改革を断行しないといけない場面もあり、嫌われる勇気(それも、とある書籍的なというより、若干サイコ気味なという意味の)が必要です。
さらに、M&Aのクローズ間近では、超長時間労働が発生するため、超人的な生命力が必要です。

必要な能力

  • M&Aの経験(セルサイド、バイサイド両方)
  • アライアンスの経験
  • 幅広い法律知識
  • 超人的な生命力
  • PMIができるガツガツした能力
  • 嫌われる勇気

以上、一流の経理の先、経理のキャリア5パターンについて解説していきました。

統計的にデータを取得したわけではなく、筆者個人の印象なのですが、概ねこの5パターンに分類されると考えています。
(中には稀にCOO適正が高く、自分で事業推進したり、起業したりする人もいらっしゃるのですが。)

キャリアの転換に年齢の制約は無い、というのがポジティブシンキング的には建前ですが、現実問題として、若ければ若いほど有利なのには変わりません。
自分自身のキャリアをどうしていきたいか、早い内に決めて、研鑽に励み、そして実際の業務で成果を出して行くのが良いでしょう。

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セグウェイ、終焉の理由~生産終了、20年の歴史に幕を閉じる~

セグウェイが生産を終了、20年の歴史に幕を閉じるとの報が出ていました。
今回は、この華々しく語られた反面、多くのネガティブな見方も存在したセンセーショナルなテック製品いついて、なぜ終焉に至ったのか、その理由を考察していきます。

セグウェイの歴史概略

セグウェイは2001年12月に発表がされました。

ただ、発表以前からビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズといったIT業界の著名人たちから絶賛する話がでていたため、世界からの期待を集めていたプロジェクトとなっていました。

しかしながら、実際に製品として発売されたものの、経営側が期待から大きく乖離する数字(売上)しか出せませんでした。
(計画の1%未満だったとのことです。)

その後、各国で販売の努力がなされたものの、数字は振るわず、2009年には個人の投資家に、2013年に投資会社に、2015年には中国の輸送ロボット会社に売却される流れとなりました。

そして、2020年7月をもって生産を終了する形で、その歴史に幕を閉じることとなりました。

なぜセグウェイは売れなかったのでしょうか?

セグウェイが売れなかった理由

セグウェイが売れなかった理由を結論から述べると、次の4つになります。

  • 顧客層の見誤り
  • 法のハードル
  • 危険なイメージ
  • 安価な製品の台頭

顧客層の見誤り

セグウェイの商品思想としては、「車の代替になるクリーンな移動手段」というものがありました。

ではセグウェイの製品はどのような仕様かと言うと、その速度は20Km/hにも満たないもので、価格が数十万円(60万円~100万円)もしました。

この価格帯でこの性能ならば、別に自転車でも問題がありません(自転車もクリーンですからね)。
またこの価格帯の製品を購買できる層は普段から運動を行うなど健康に気を遣う層であり、セグウェイに対するニーズが存在しません。

つまり、ターゲットとしている顧客層を完全に見誤ったのです。

結果として、購入をしたのは、警察や宅配関連での運用や、工場等での移動に対してニーズがある所に限定されてしまいました。
(toC販売を想定していたけれども、toB販売にしかつながらなかったのですね。)

法のハードル

次に法のハードルです。

販売が最初にされたアメリカでは、多くの州で公道での利用が可能である一方、他の国では公道での利用が一切できないことが珍しくありませんでした。
日本もそうで、セグウェイを日本の行動で走らせることはできません。

また、公道でなくても、その利用に関して、敷地の所有者から、セグウェイの利用者に対して利用を禁ずるなどの処置も行われ、利用できる場面が非常に限定されてしまうことが珍しくありませんでした。
関連して訴訟も行われていますが、それでも状況を打破することには繋がりませんでした。

危険なイメージ

ネガティブなイメージがついてしまったのも大きいでしょう。

2003年、アメリカの元大統領がセグウェイを利用しようとして、転倒しそうになった映像は世界中に流布し、有名になりました。

ソフトウェアの不具合も発生し、(これだけが原因でないにせよ)転倒事故や衝突事故が多発していました。
このソフトウェア不具合問題に関しては、2006年にリコール処置が行われています。

更には、2010年、セグウェイを買収した投資家の事故死もセンセーショナルに報道されました。
プライベートでの利用中、転落事故が発生してしまったのです。

移動手段を提供する商品なので、事故はつきものです。
統計的感覚で言うと、決して多いとは思わないのですが、期待値の高い商品であった反動もあり、「危ない」というイメージが定着したのです。

安価な製品の台頭

そして、最後のトドメとなったのが安価な製品の登場です。

モーター類、センサー類などの価格は年々低下しており、誰しもが類似の製品を作れる環境が整ってきました。

それにより出たのが下記のような製品です。

Amazonサイトにて「セグウェイ」で検索して出てきた類似商品

これは、Amazonで現に購入することができる製品の例です。

電動キックボードですと10万円せず、ローラースケートにモーターがついたようなものも数万円で購入ができます。

公道では走れず、走れるにしても危なかったり重かったりで制限がある。
利用できる場面は、広い公園などの限定された場所のみ。
そのような所で100万円近いお金を出して、移動の代替手段を手に入れるか?
10万円もせずに、買える別の製品があるのに。

こうして、セグウェイは市場から退場する形となったのでしょう。

セグウェイの歴史はあるある話

この話は何も不思議な話ではありません。

技術や製品にはライフライクル、というものが存在します。
どんなエポックな技術や製品でも、導入期 – 成長期 – 成熟期 – 飽和期 – 衰退期 という流れを辿るものです。

その意味で、セグウェイの辿った歴史は決した珍しい話では無く、あるある話なのです。

逆に考えると、20年もの歴史を積み上げられ、現在での様々な商品にその思想が生き残っていることを考えると、もの凄いアイデア・製品であったことを感じ取れます。
素直に敬意を払うのが適切でしょう。

一つの歴史が終わるのを見るのは悲しいですが、学べることも多々あります。
セグウェイの歴史から、マーケティングや商品企画の妙や悲哀を感じ取るのは、ビジネスを志向する方にとって、大きなプラスになるものと考えます。

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経営企画

ベンチャー企業が資金調達前に用意しておきたい資料30選

資金調達には多くの書類が必要です。
いざ銀行から借入、VCから投資をしてもらおうと考えても、必要な書類の用意に時間がかかり、クイックに対応できない場合や、多大な時間を経営者自身が費やさなければいけないこともあります。
ここでは、ベンチャー企業が資金調達のために事前に用意しておきたい資料を30列挙しています。

用意しておきたい資料30選

用意しておきたい資料30は下記の通りです。
結構なボリュームですが、これらは要求される可能性が高い資料になりますし、いざ用意をしようとすると時間を要するものもあるので、事前に準備をしておいた方が良いでしょう。

  1. 会社案内(会社案内パンフレット、サービス説明資料、会社ホームページなど)
  2. 定款
  3. 商業登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
  4. 役員経歴書
  5. 事業計画説明資料(スライド形式のもの、成長可能性に関する説明資料を参考にするとよい)
  6. 事業計画表(PL予算、KPI予算、資金繰計画があるもの、銀行借入の場合は資金使途と返済計画を示せると良い)
  7. 月次試算表推移(BSとPLが月次単位で推移になっているもの)
  8. 総勘定元帳
  9. 主要な販売先、仕入先の一覧(相手先名称、概要、取引額、上位5社~10社程度)
  10. その他、会社毎に重要な勘定科目に関する分析・説明資料
  11. 銀行通帳全ての写し(銀行・支店名称、口座番号、最終月末の残高がわかるもの)
  12. 借入台帳
  13. 決算書類(税務申告書類一式:附属明細含む)
  14. 組織図
  15. 従業員一覧・給与台帳(過去3年分の入退職と所属部署が反映されたもの)
  16. 制定している規程類一式(特に就業規則類)
  17. 株主名簿
  18. 資本政策表(エクイティでの調達の場合は想定バリュエーションをプレとポストで示す)
  19. (発行している場合)新株予約権原簿
  20. (あるなら)株式引受契約書、株主間契約のドラフト
  21. 重要な契約書類
  22. 取締役会議事録
  23. 株主総会議事録
  24. (監査法人の選定が済んでいる場合)ショートレビュー報告書
  25. (監査法人の選定が済んでいる場合)監査契約書
  26. (監査法人の選定が済んでいる場合)マネジメントレター
  27. (監査法人の選定が済んでいる場合)監査法人指摘事項への対応状況
  28. (証券会社の選定が済んでいる場合)ビューコン資料
  29. (監査法人,証券会社どちらかの選定が済んでいる場合)IPO進捗状況
  30. IT統制資料(社内のネットワーク図や重要な基幹システムの状況、それらの統制について説明する資料)

具体的な中身

基本的な注意点

資料は全てPDFや、Word、Excelといったデータで用意しておきます。

Wordの場合、「校正」データが残っている場合がありますので、修正履歴やコメントは削除して、最終版にしておきましょう。

Excelの場合は、余計な作業データが残らないように、不要なシートやセルは削除しておきます。
レイアウト・フォントも整えておくと、プロフェッショナルっぽく見えるので良いです。

会社案内

ホームページが無い会社は、最近は少ないでしょう。

何か会社案内やサービス説明資料のパンフレットがあるなら、それを流用します。

無い場合は、下記の「事業計画説明資料」に、会社概要を説明する項目を設けましょう。

定款,商業登記簿謄本(履歴事項全部証明書)

定款はそのまま、PDFデータとして収集しておきます。
改定を行っている場合、最新のものが何かわからなくなる場合がありますので、必ず編集履歴をとり、最新のものを間違いなく用意できるようにしましょう。
司法書士に依頼、管理しておいてもらうと楽です。

登記簿謄本は、一般的には「過去三ヶ月以内の最新の物」が求められます。
四半期毎に最低1部取得し、データ化しておくと良いでしょう。
何かしら求められる機会も多いので、無駄になり辛いです。

役員経歴書

これは単純に「履歴書」的なものだけでなく、役員個人がどこかの会社を所有していないか(株式を大量に保有していないか)、どこかの会社の重要役職(役員等)についていないか、の情報が必要です。
また、親族等で会社と取引がある場合にも補足情報として触れておく必要があります。

関連当事者取引という、IPO進行上、重要論点に引っかかるか否かの判定にも使いますし、証券東証の審査にも使いますので、早々に用意しておいた方が良いです。

以外に、親族に融通するような、ルーズなことをやる経営者の方は多いですが、要注意事項です。

事業計画説明資料

何かスライド形式のものを用意しておくと良いでしょう。

基本的には「成長可能性に関する説明資料」と呼ばれるものを参考にすると良いです(Google検索してください)。

他には、そもそもとして会社・事業を立ち上げた経緯・理念、
事業計画を実現するための各種戦略や具体的なオペレーション計画、
人事・採用計画、資金調達計画、出口戦略(IPOなのかM&A等なのか)、
他には想定されるリスク、特に法的なリスクがあるのか否か、あるのならばそれらをどうクリアしているのか、
などを丁寧に説明していく必要があります。

また、会社の経営が軌道に乗る前で、また経営者(創業者)自身にも実績が乏しい場合、どのようなメンバーが事業運営に携わっていくのか、を経歴付きで説明する必要があります。

事業計画説明資料は一番時間がかかるものですので、一度作成しつつ、定期的にアップデートを重ねていくようなイメージが良いでしょう。
しかも、一度作ると、色んな所で流用ができるので吉です。

事業計画表

Excelで作成した事業計画です。
時間がかかります。

PL予算、KPI予算、資金繰計画を示したものになります。
月次単位の推移資料で、過去分は3年分記載されていると良いです。

このデータは、事業運営上の予算管理シートにも流用できるものになります。
同じような資料を何度も別々に作り直すような手間が発生しないよう、考えておくと良いです。

なお、銀行借入の場合は、資金使途(どこに投資していくのか等)と返済計画を反映させたものにすると良いです。
別に、資金使途説明資料や返済計画資料を作成するのは面倒ですし、そこピンポイントでしか使えないので、それならばこの事業計画表に落とし込んで置く方が楽です。
銀行側でも、情報として盛り込まれているのならば、別だしを求めることは、あまり無いです。

月次試算表推移,総勘定元帳

これは会計のデータになります。
CSVデータになるでしょうね。
BSとPLを月次推移で過去3年分要求されるのが一般的です。
総勘定元帳を求められることもあります。

経理がいるのなら経理担当者に、どこかに委託しているのならば会計士or税理士の先生に依頼すれば、取得できるでしょう。

総勘定元帳は、会計の生データになりますので、仕訳を切る際に、見られて困るような情報が無いようには気をつけておいてください。

主要な販売先、仕入先の一覧

主要な販売先(売上)、仕入先(原価、販管費)の一覧をExcelで用意します。

相手先名称、住所や業種等の概要と取引金額が盛り込まれたもので、上位10社ほど提示できれば良いでしょう。
用意するのは過去3年分です。

その他、会社毎に重要な勘定科目に関する分析・説明資料

その他、会社毎に重要な勘定科目について、分析・説明した資料を用意しておくと良いです。
質問が来た時に、すぐに打ち返せます。

これは会社毎に全く異なるので、各々で考えて下さい。

銀行通帳全ての写し

シンプルに銀行通帳のコピーです。
銀行・支店名称、口座番号、最終月末の残高がわかるものをPDFデータとして用意しておくと良いでしょう。

通帳の無い契約の場合は、EBデータのハードコピー(画面コピーの画像データ)や、出力したCSV生データを用意すれば良いです。

会計データ上に記載されている預金残高と一致するかの照合に使われます。

借入台帳

銀行から借入を実行している場合に、Excelで作成しておきます。

借入を実行した際に、銀行から、償還明細表(返済予定表)が送付されるはずなので、これをExcelに起こしておくイメージです。
地味な作業が発生しますし、経理作業にも有用なので、借入を実行した都度、アップデートしておくと良いです。

決算書類(税務申告書類一式:附属明細含む)

これは、税理士に依頼するともらえるはずです。
PDFデータで、「一式」を過去3年分用意しておけば良いです。

たまにわかっていない税理士の方ですと、申告書部分だけを送付してくる場合があるので注意が必要です。

組織図,従業員一覧・給与台帳

会社組織がどのような構造になっているのかを示した、ツリータイプの組織図を何かしら用意しておきます。

また、従業員の過去3年分の入退職と所属部署が反映されたもの、そして給与台帳も求められることがあります。
これは、過去の採用計画の達成状況を確認するのに必要だからです。

制定している規程類一式(特に就業規則類)

会社経営をする以上、就業規則(給与規程等々)が必ずあるはずです。
労基署に届け出る必要があるからです。

これのPDFデータを、労基署の届出印が押されたもので用意しておきます。

その他、制定(取締役会等で承認されたもの)された規程類があれば、それも用意しておきます。

株主名簿,資本政策表,新株予約権原簿

株主名簿は、仮に創業者1名しか株主にいない場合でも必要なので、Excelで用意しておきます。

また、エクイティでの調達の場合は資本政策の用意も必須で、想定バリュエーションをプレとポストで示す必要があります。

バリュエーションのプレ・ポストについては、下記を参照ください。

SOを発行している場合は、新株予約権原簿も求められることが多いので、資本政策表に盛り込んでおくと楽です。

株式引受契約書,株主間契約のドラフト

過去にエクイティでの調達を実行している場合には、そのラウンドでの投資契約が締結されているはずです。

新規の調達時には、この契約書類と類似の投資契約が交わされるはずなので、ドラフトとしてPDFデータを用意しておくと良いでしょう。

重要な契約書類

その他、事業運営上、極めて重要な契約書類はPDFですぐに出せるようにしておくと良いです。

この点は会社毎に全く異なるので、各々で考えて下さい。

取締役会議事録,株主総会議事録

これを用意していない会社が、結構多く存在します。
過去分を作成するのは大変なので、真面目にコツコツ作成しておきましょう。

Wordデータで作成し、PDFデータに起こす、電子署名をしない場合は押印されたものをスキャンしPDFにしておく、という処置が必要です。

どの道必要なので、ただの手続き、と思わずコツコツやった方が絶対に良いです。
無いと、苦しむだけですので。

ショートレビュー報告書,監査契約書,マネジメントレター,監査法人指摘事項対応状況

これは、監査法人の選定が済んでいる場合になります。

ここで上げた資料がある場合には、用意をしておきましょう。
監査法人の指摘事項がある場合には、それへの対応状況を説明できる資料も用意しておきます。

なお、守秘義務の観点で、監査法人からの資料を、そのまま外部に提出することはできません。
監査法人毎に、必要な手続きがあるので、外部に提出する前に、事前に手続き内容を確認し、然るべき手順を踏むようにしましょう。

ビューコン資料

これは、証券会社の選定が済んでいる場合になります。

ビューコン資料があるはずなので、それをPDFデータで用意しておきます。

これも監査法人資料と同様、事前に証券会社に外部に提出する際の手続きを確認しておきましょう。
監査法人ほどは厳しくないです。

IPO進捗状況

ある程度ステージが進んだ会社になりますが、IPOの進捗状況について、説明できる資料を用意しておくと良いです。

監査法人や証券会社と、協議を重ね、課題と計画、そして進捗確認のワークシートを作成しているはずなので、それを流用するのが簡単でしょう。

IT統制資料

社内のネットワーク図や重要な基幹システムの状況、それらの統制について説明する資料を用意しておくと良いです。

無ければ無いで、口頭対応もできるものなので重要性は低いですが、IPO進行上、IT統制は必要なので、会社ステージにあわせて用意対応しておいた方が吉です。

補足というかアドバイス

上記は、格納場所、保存場所がバラバラになっており、収集が手間であるのが一般的です。

調達の都度、収集するのがよくある光景だと思いますし、またCFOの方がジョインされた場合に、最初に整理する資料として良くあげられるものにもなります。
この点を別の観点で考えると、CFOという報酬単価の高い人材を、資料収集に使う形になり、非常にもったいないです。

会社のサイズが小さい内に管理体制を整えるのは限界はあるのですが、管理担当者を兼任でも設置できた段階で、順次揃えておくと、いざ資金調達を行う、という段階に限らず、CFOを迎えられた後の稼働立ち上がりを早くすることにつながります。

書類整理を雑用と捉えず、体制整備の一環だと捉えると良いでしょう。

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アフターコロナの映画館経営をどう考えるか?

「リアル店舗」系を中心に、多くの企業が新型コロナウイルス感染症拡大の経済的影響を受けています。
映画館経営も同様です。
今回は、アフターコロナの映画業界を如何に捉えるか、考えていきます。

感染症拡大により大打撃

前置きはともかくとして、コロナ影響により、映画館の業績が急激に悪化しています。
休業の影響は大きく、2020年4月は前年比として1桁%の着地となっています。

東洋経済オンライン「東宝、映画館再開でも全く安心できない事情」2020年6月10日より(元出典は東宝)

仮に各種ワクチンや治療薬などが開発され、感染拡大が落ち着いたとしても、多くの企業でリモートワークを導入。
消費の形態変化が維持し続けることは間違いが無いでしょう。

また、言うまでもなく、巣ごもり消費により急速に普及しているNetflixなどのネット動画配信サービスの存在も忘れてはいけません。

つまり、将来的に映画業界、特にリアル店舗としての「映画館」の経営が悪化し続けることは間違いが無いのです。

それでは、アフターコロナの映画館経営を、どのように考えていけば良いでしょうか?

映画館という業態の経済統計

まず、映画館というものの統計データを見ていきます。

映画興行収入の推移ですが、マクロ感としては増加を続けており、2019年は約2,612億円となっています。

一般社団法人日本映画製作者連盟「日本映画産業統計」より作成

一方、映画館数は近年は横ばいとなっています。

2点、注釈があります。

1960年代に映画館数が激減した理由は、テレビの普及です。
映画館に行く理由が無くなったのですね。

もう一つが、統計の取り方が2000年を境に変わっている点です。
1999年以前は、映画館数ですが、2000年以降は「スクリーン数」という指標に変わっています。
2000年のタイミングでポコッと増加しているのは、それが理由ですね。

それでは、2000年以降にフォーカスして数字を見てみます。

マクロ感では横ばいでしたが、年々増加を続けており、2019年は近年最大となる3,583のスクリーン数となっています。

入場者数も見ていきます。

マクロ感では、以下の通り、横ばいです。

2000年以降は、全体としては増加を続けており、2019年は194,910人の着地となっています。

2011年は東日本大震災があったこともより、急激に落ち込みが見られます。
これが震災前の水準に戻るのが2016年なので、回復に5年もの時間を要したことになります。

今回の新型コロナウイルス影響も、楽観的に見て、5年は回復に時間がかかると考えた方が良いでしょう(回復するならば、ですが)。

ここからは、もう少し要素別に見ていくのですが、それにあたり、映画館について分類の話を先にします。

映画館は、「一般館」と「シネコン」という2つの大きなものに大別されます。

詳細は下記表をご確認ください。

上記前提で見てみた時に、「一般館」「シネコン」別にスクリーン数を見ると、次のようになります。

シネコンのスクリーン数は増加を続けていますが、一般館は減少の一途をたどっています。
一般館、特に「ミニシアター」と呼ばれる業態は、顧客層が少ないうえに、ファンも減少を続けているため、非常に厳しい経営環境が続いています。

邦画、洋画別の効果本数は次の通りになりますが、ここ10年で急増しています。
上で収益数は増加しているもののの、この公開本数ほどの増加では無い印象なので、感覚的に「作品数多くないか?」という疑問が出てきます。

ここからは収益効率について見ていきます。

まずは1スクリーン当たりの収益効率です。

この通り、直近2019年は好調な数字を出している物の、2000年代初頭の数字にようやく追いついた、という印象です。
1スクリーンあたりで見ると、効率の悪化感はそこまでありません。

次は公開本数当たりの収益効率です。

この通り、明らかに、公開本数当たり入場者数、公開本数当たり興行収入共に悪化を続けています。

上記の公開本数の推移でも何となくわかるのですが、2000年を「1」とした場合の、邦画別、洋画別の公開本数指数は次の通りになります。

やはり、作品数多すぎやしないか???

供給過剰感が満載です。
近年の映画業界の好調は、公開本数、という「数」で強引に出した数字と言えるかもしれません。

日本だけ特段、映画が見られる、というわけでも無いでしょうし、グローバル展開する前提ならば、本数で稼がなくても良いはずなので、制作している映画の数は、非効率な量になっているのでは?と推測が立ちます。

実際、興行収入は、公開している映画の上位20本で、市場シェアの50%を占有している状況です。
完全なロングテール商法になっています。

映画業界の構造

ここで映画業界の構造の話です。

映画業界には大きく3つのプレイヤーがいます。

制作会社、配給会社、興行会社です。

下記が参考になりますね。

配給会社が中央集権的に、映画作品のコントロールをしている構図になっています。

中央集権的と書くと、一見悪い感じに聞こえます。
実際、収益を半ば独占しているのは確かです。

一方、新作映画のネット配信を遅らせ、映画館供給を優先させる図式は、各シネコンや小規模シアターを守っている構図にもなっており、一概に何が良い悪いは言えません。

この図式は配給会社にとって崩したくない構図のはずで、実際に次のようにコメントを出しています。

配給会社としては多くの利益を生むネット同時配信だが、映画館の運営会社にしてみれば優良コンテンツを独占できないことになる。映画館の需要を食いつぶしかねないため、多くの映画館を持つ東宝のような会社はネット同時配信に消極的にならざるをえないのだ。「配信でFukushima 50が大ヒットして、映画館がいらないということになるのは困る」(前出の関係者)。

東宝は「東宝が配給する作品は、最も投資回収率の高い『映画館』という窓口で興行を行うことを前提に製作している。配信を前提とした作品が増える可能性はあるが、(映画館と同時に)同時配信を行う予定はない。」(同社広報)としている。

東洋経済オンライン「東宝、映画館再開でも全く安心できない事情」2020年6月10日より引用

誰にとっても微妙に幸せでない状態

ここまで調査し考えたのが、今の状態は誰にとっても微妙に幸せな状態ではないのでは?という仮説です。

一般顧客を交えて各登場人物の状況を書くと次のようになります。


大手配給会社:自前で映画館を持っているし、配給先との関係もありネットに振り切れない、後ガンガン作ってガンガン配給しないと市場が成長しない

シネコン,各地域の興行館(一般館含む):配給元から映画を供給されないと困るからネットに振り切って欲しくない、しかし最近は配給数が多すぎてコスト嵩むなぁ

ミニシアター:顧客のミニシアター離れ、とはいえ大手配給会社の支配下には入りたくない、がしかし映画館文化は大手も小規模も全体感を持って醸成しないといけない

制作会社:制作しないといけない本数多すぎ、負担多すぎ、実入りも少ない

制作スタッフ:長時間労働、給料安い、でも自分たちが活躍する場は減って欲しくない

一般顧客:見たい新作映画をわざわざ映画館にいかないといけない、ネットでいいのに、じゃあいいやコロナ怖いし作品もたくさんあるし準新作・旧作をNetflixで楽しもう


こういう膠着状態に陥っている業界には、必ずあるものが登場します。

日本の映画業界はゆでガエル状態に、そしてカテゴリーキラーに・・・

このような膠着状態で起きること

それは、カテゴリーキラーの誕生です。

想定できるのが、次の事象です。

「海外の大資本、ないしは大資本から資金供給を受けているベンチャーで、ネット配信専業の配給会社となり、日本の制作会社を事実上の支配下置いていく。」

もしこのような事象が発生すると、制作会社はネット配信専業の配給会社にリソースを割き、従前の配給会社に作品を流さなくなる可能性があります。
グローバル展開をうまくやってくれるのならば、そっちの方が儲かるからです。

そうなると、配給会社は配給する作品が少なくなり、興行会社が上映する作品が絞られてきます。

過去の作品があるとは言え、大手配給会社はゆでガエル状態になっていくでしょう。
シネコンや各地域の興行館は、配給待ちをする立場なので、ゆでガエルどころか、急激に経営が悪化していきます。
ミニシアターは、ある意味変わらずで、これまで通り尻すぼみに業界が縮小していくでしょう。

一方、制作会社は、経営の方針転換は大きく必要なものの、大きな影響は受けない可能性が高いです
むしろ、制作本数あたりの負担が減り、製作スタッフ共々、ハッピーになるかもしれません。

一般顧客にとっては、見たい新作映画がネット配信で即座に見れ、作品も充実し続けるので、こちらもむしろ嬉しいはずです。
たまに、大きな映画館で、臨場感たっぷりに何か見れれば十分に満足できます。
ただし、身近な映画館、は減少するでしょう。

どのような映画館が生き残っていくか?

それでは、どのように対処すれば良いでしょうか?

まず興行会社、つまり映画館が生き残っていく道です。

もう、これはシンプルで、自宅では実現できない価値の提供です。
それも大画面、大音量、という価値提供だけでは不十分で、最新の設備が整った、整えられる所のみが生き残っていくはずです。

例えば、MX4DやTCXなどです。

MX4D(MediaMation MX4D)は、3D映画以上の体験型シアターシステムで、映画のシーンに合わせ、シートが動いたり、数が吹いたりするなど、様々な特殊効果を、映画鑑賞とあわせて体験できます。
TCXは左右の壁から壁まで一面に広がる大型のスクリーンのことで、従来の大画面以上の迫力があり、映画への没入体験を味わえます。

このような、最新のアトラクションを価値提供できる一部の映画館のみが生存を許されるはずです。

(後は精々、個人単位で作品の選別眼に優れた運営者がいる、一部の興行館が「味のある映画館」として細々と生き残っていく程度になるはずです。)

仮に小規模興行会社が生存の道を模索するなら?

少なくとも言える所は、現状で大多数のリアル映画館(興行会社)は消えていくであろうということです。
これは動かしがたいでしょう。

もし、仮に取り組むとしたら、小規模興行会社で連合し大資本を組むことです。
そして、自分たちでネット配信を立ち上げることが考えられます。

高い商品選別眼があって、今まで経営を続けて来れたのだから、その強みを最大限に活かすやり方です。

ただ、誰が鈴をつけて、音頭をとるのか?というと、日本人の気質的に非常に怪しいので、現実的ではないでしょう。
どこまでの事業規模を狙えるのかも不明です。

上述したカテゴリーキラーとなる海外大資本に、商品選別眼を売り込む形で、個人レベルで細々と生き残っていくのが精々となってしまうのでは、とも考えます。

大手配給会社や大手シネコンがとるべき方策

最後に、大手配給会社や大手シネコンがとるべき方策は何でしょうか?

これはもう、タブー(ネット配信)に振り切ることでは無いでしょうか。

全員にとって幸せな解決策があるとは思えません。

もう、リアル映画館は最新の設備が整っている所、整えられる所を残して、もう駄目だと割り切るのです。
そして、素直にネット配信に振り切ります。

リアル映画館は、単純に映画を視聴する、という空間ではなく、上述最新設備で体験できる、アトラクション性をもった空間と位置づけるのです。

多くの出版社、書店が、Amazonの台頭を指を加えて見ていた過去を、よく考えた方が良いでしょう。
ドラスティックな改革は、体力がある内しかできません。


以上、映画業界の今後の姿について、「映画館」を軸に考察してきました。

私は、映画業界は専門ではないので、詳しい方にしてみれば噴飯ものの内容かもしれません。

ただ、多くの業種業界の栄枯盛衰と趨勢を見てきた立場として、マクロ感としてどうなっていくか?は推測ができうると考えています。

繰り返しますが、映画業界は、新型コロナウイルスの感染症拡大による経済影響と、ネット配信サービスの台頭、という2つの大きな波をまともにうけている状態です。
ドラスティックに変化していかなければ、業界全体が外資に飲み込まれていくでしょう。
(私は、グローバル化そのものは否定していないので、このこと自体をネガティブには捉えていません。しかし、当の業界に所属する方々はそうではないでしょう。)

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コロナに強い外食業態とは(5月外食産業前年同月比)

GW以降、新型コロナウイルスの新規感染も落ち着きを見せ始め、5月後半には各地で緊急事態宣言が解除されるなど、正常化方向に舵が切られました。
5月の外食産業も、少しずつですが回復、人が戻りつつあります。
今回は5月外食産業の既存店前年同月比を元に、状況を見ていきます。
感染症拡大に強い業態も明確になってきました。


4月の状況については下記記事をご参照ください。

5月外食産業既存店前年同月比

全体概観

5月既存店前年同月比の数字は下記の通りです。
主要な外食企業大手のデータをピックアップしています。

全体的に回復しており、4月⇒5月での回復ポイントとしては平均10%超となっています。

一部、ポイントがマイナスになっている会社もありますが、
元々コロナ影響が軽微だった吉野家、
誤差の範疇と捉えても差し支えない日高屋、ワタミ系列、という状況です。

5月で大きく回復している業態が2つあります。

寿司業態(約27%の回復)と多業態系(約24%の回復)です。

寿司業態(約27%の回復)

寿司業態が回復した理由は、おそらく「コロナ明け」を祝うようなムードがあったからと考えられます。
寿司というものは、日本人にとって、どちらかというと「ハレ」の食事であり、また家族で行くようなイメージが強いものです。
テイクアウトや宅配にも対応しているものの、ハンバーガーや牛丼業態のような気軽さはありません。

4月、我慢していたその反動からの回復、と捉えられるでしょう。
まだ前年同月比80%前後の着地ですが、反動消費は6月も続くでしょうから、今後の回復が期待できます。

多業態系(約24%の回復)

多業態系は、ランチレストランもあればディナーレストラン/居酒屋もある、多業態展開を行っている企業を分類しています。

こちらも寿司業態同様、「ハレ」要素が強めの業態であり、「コロナ明け」消費が行われたと考えられます。
ただ、4月の前年同月比が40%を切る状態での回復なので、まだ前年同月比約60%という非常に厳しい状態が続いています。

夜の消費次第なので、回復に向けた正念場と言える状況です。

業績回復が遅い業態

コロナ影響を受けていて、回復が遅い業態として、
麺類、コーヒー、ファミリーレストラン、居酒屋が上げられます。

麺類の回復が遅い理由は、お店を見れば何となくわかります。
ソーシャルディスタンスを保つため、席数を半分にしている所が多いからでしょう。
牛丼業態と同様、さくっと食べる業態にしても、提供までの多少時間を要することから、回転率が相対的に低いことも影響していると思われます。

コーヒー業態の回復が遅い理由は、席数制限の影響や、リモートワークの増加が影響していると考えられます。
加えて、今わざわざコーヒーを買いに行かなくても、という心理が働いているのでは、と推測されます。
ドトールとコメダ珈琲で差がありますが、これは、コメダ珈琲の方が、「久しぶりに行きたい」という心理が働きやすそうだ、というのは想像ができます。

ファミリーレストランは、おそらくですが、寿司業態や多業態(ランチレストラン,ディナーレストラン)に先に顧客が流れたのでは、と考えています。
隣の客との距離が離れているお店が多いので、行きやすさはあるはずですが、「晴れ」という観点でいうと弱いのです。
そのため、6月、ファミリーレストラン消費が一定大きな回復を見せるのでは、と推測しています。

居酒屋系は、未だに休業対応を行っているお店が多いですし、そもそもとして長時間居座る業態なので「行きづらいよね」という心理が働くであろうことが想像できます。
6月以降、気温の上昇と共に、ビール消費も増えるので、ここで回復の手を大きく打っていただきたいものです。

感染症耐性が高い業態は?

ここまで見てきて、感染症耐性に強い業態に関する仮説が見えてきました。

キーワードは「お一人様消費」「テイクアウト」「宅配」「短時間」そして「ハレ要素」です。

「お一人様消費」「テイクアウト」「宅配」「短時間」

「お一人様消費」「テイクアウト」「宅配」「短時間」はわかりやすいと思います。

感染リスクを考えた時に、これらのキーワードに対応した業態は、利用のしやすさが容易に想像できます。
合致しているハンバーガー、牛丼、中華の各業態は、今回の新型コロナウイルス影響を最小限に抑えたか、もしくは逆に数字を伸ばしています。

麺類業態は「お一人様消費」「短時間」に合致するのですが、席が元々密集している店づくりが多い事や、時間が立つと”のびる”ためテイクアウトや宅配を頼みづらい、という点が指摘できます。

コーヒー業態も、満たす要素はありますが、上述の通り、こういう状況でわざわざ行かないであろう事、リモートワーク移行の増加が影響していると考えられます。

「ハレ要素」

この「ハレ要素」は、影響からの回復の強さです。

停滞した雰囲気の中、ようやく外で食事ができる、という中、どういうお店に行くのかを想像すると、やはり少々良いもの、普段の生活では食べないもの、が選択肢にあがると考えられます。

その意味で、寿司屋、ランチレストラン、ディナーレストランは正に「ハレ要素」があります。

もしかしたら、ハンバーガー業態や牛丼業態なども、期間限定のプレミアム商品を投下したら数字が伸びるかもしれませんね。


以上、5月外食産業既存店前年同月比の数字を見てきました。

外食産業で前年比が10%を割る、という状況は店舗存続に関わる異常事態であり、回復傾向が見られるものの、まだまだ予断を許しません。

とはいえ、少しずつ数字が戻っている、人が街に戻っている、という状況は喜ばしく思います。
感染症のリスクは当然にあるにせよ、それは普通の風邪も、インフルエンザも同様です。
withコロナと呼ばれているように、共存していく前提で経済の立て直しに取り組んで行きたいものです。

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