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人は「安全」な状況では却って高リスクな行動を取る傾向がある

企業は、組織運営の中で様々なセキュリティ運用やリスクヘッジ処置を行っています。
何かしらのインシデントが発生した場合、状況によっては会社の屋台骨に影響を与えてしまうからです。
しかし、どれだけセキュリティを高めたりリスクヘッジを行ったとしても、最後のリスクである「人」という存在がいます。

今回は、人は「安全」な状況では却って高リスクな行動を取る傾向がある、という話をします。

シートベルトの着用と運転行動の実験

TNOというオランダ、スーステルベルグにある研究機関の研究者は、シートベルトの着用と運転行動との関係について実験を行いました。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/0001457594900957#!

内容としては、車のドライバーを対象をシートベルトの着用の観点でグループ分けし、運転行動にどのような変化が起きるのか?を調べるものです。

  1. 1年間、自動車事故を起こさないことに対してインセンティブを与えたグループ
  2. 習慣的にシートベルトを着用しているグループ(対象群①)
  3. 被験者がシートベルト着用について約束をしたグループ
  4. 習慣的にシートベルトを着用しないグループ(対象群②)

その結果、1つ目のグループ(インセンティブグループ)では、より慎重で安全な運転を行うような変化が期待されていましたが、特段の変化は見られませんでした。
つまり、インセンティブがあったとしても、安全な運転行動を行うような変化は起きなかった、ということです。

また、3つ目のグループ(シートベルト着用強制/約束グループ)では、逆に速度の増加や車間距離を詰めるといった、危険な運転行動の増加が見られました。

これらをまとめると、リスクを減らしたいからといって、インシデント発生の防止に対してインセンティブを与えても期待する効果は得られず、また、セキュリティを高めた場合、却って高リスクな行動を取る傾向があると言える、ということです。

現実のセキュリティ施策/リスク管理においてどうするべきか?

上述の実験結果は、セキュリティ管理部門、リスク管理部門においては望ましくない知見です。

インセンティブを与えてもリスクは減らず、セキュリティを高めれば従業員が高リスク行動を平気で取るようになる可能性があるからです。
(セキュリティ管理部門やリスク管理部門は、「人は必ずミスをする生き物だ」という前提で、「頑張って気をつける」というありがちな対応に頼らないセキュリティ施策/リスクヘッジ施策をとっているはずです。もしかしたら、これが却って高リスク行動を誘発する要因になっている可能性がある、ということです。)

それでは、人は「安全」な状況では却って高リスクな行動を取る傾向がある、という前提を踏まえた上で、如何に対処すべきでしょうか?

一つ言えることは、やはり教育しか無いのだろうな、という点です。

どのように対処したとしても、最後のリスクは「人」であると。
また、「人」の性質として、上述のような行動傾向があるのだ、という点もきちんと認識してもらうのが効果的であると考えられます。

知るという行為は非常に強力な武器となります。
「安全」であると妄信してしまった時、知識は改めて原点に振り返り自身の行動を見直すきっかけに(わずかでも)なるはずです。

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(ビジネスアイデア)新しいダイエット(減量)食品の形

ダイエット(減量)は多くの現代人が抱えるテーマの一つとなっています。
楽して痩せたい、そのようなニーズがあるにも関わらず、基本的にダイエットを成功させるためには、正しい知識と食事の節制、適度な筋トレが揃っている必要があります。
この内の一つ、食事の節制について「楽して痩せたい」を叶える方法のヒントがあるかもしれません。

概要

今回紹介する研究はマサチューセッツ工科大学と大阪大学が共同で行ったものです。

https://hcie.csail.mit.edu/research/foodfab/foodfab.html

どのような研究か?を端的に言うと、「3Dプリンターで印刷した、密度の低い食品は咀嚼時間が長くなり、それにより食べた後の満足度が高い。そして、この効果はインフィルのパターンと密度により異なり、モデル化することが可能かもしれない。今回はこのモデル化のトライアルについて研究した。」というものです。

この内、筆者が注目したのは、「密度の低い食品は所酌時間が長くなり、それにより食べた後の満足感(満腹感)が高い。」の部分です。

3Dプリントで食品を“印刷”するということ

3Dプリンターの価格が下がり、使った事があるひとも増えています。

その用途は多岐に渡り、中には食品を印刷することができる3Dプリンターも登場しています。

3Dプリンターを使用する上においては、印刷のタイプ(インフィルのパターン)と密度を決める必要があります。

インフィルのパターンと密度については具体の写真を見る方が良いでしょう。

研究では様々な食品(クッキー、アボガドピューレ、ポークピューレ、ガナッシュ)が試されたのですが、見た目の劣化や型崩れが起きやすいなどの問題があり、最終的にクッキーが最も適していると判断されました。

この写真はクッキーのインフィルパターンについて示しており、a)ハニカム構造、b)ヒンベルト曲線、c)直線グリッド、と呼ばれるパターンでそれぞれ印刷されています。

また密度に関しても、クッキーの断面図を見ると一目瞭然で、“スカスカ”な構造をしています。

こちらの写真は、いずれも生地の量は同じなのですが密度が異なり、a)70%、b)55%、c)39%、となっています。
ようは、密度を小さくすれば、見た目が大きくなるのです。

咀嚼時間と満足感の実験と結果

研究では、このクッキーを用いて2つの実験が行われています。
1つが、インフィルパターンによる咀嚼時間と満足感の違い。
2つが、密度による咀嚼時間と満足感の違い、についてです。

(3Dプリンターではインフィルパターンにより、全方向からの圧力に強くなったり、特定の方向からの圧力に強くなったり、と強度が変わる。そのため、使用者は自分たちが何をやりたいのか?に応じてインフィルパターンを変える。同様に、密度が大きいと強度は高くなるのだが、印刷に使用するフィラメントの量も増え、また印刷時間も大きくなる。この点についても、目的に応じて密度設定を行う。)

実験1の結果を端的に言うと、ハニカム構造 > ヒンベルト曲線 > 直線グリッド の順で咀嚼時間が長くなり、満足感についても(統計的に有意差は出なかったものの)平均のレンジがインフィルパターン毎に異なることがわかりました。

実験2では、ハニカム構造をベースに密度を変えて同様の実験を行った結果、密度が小さくサイズが大きいと咀嚼時間が長くなる上に、満足感も高くなることが示されました(図表的には満足感はいずれの密度でも変わらない様に見えるが、統計処理の結果、有意差があることが示された)。

つまり、3Dプリンターにより、密度を小さく設定したハニカム構造の食品を製造できれば、ダイエット食品として有用である可能性があると言えるのです。


この論文は、モデル構築に意義があるものですが、わかりやすい部分を抽出したとしても、これだけの知見が得られます。

同じカロリー、もしくは少ないカロリーなのに、見た目が大きくて満足感(満腹感)も高いとあれば、ダイエットを成功させる確率は高まるかもしれません。

歩留まり的に現時点で、どこまで現実適用できるかというと疑問が多く残りますが、可能性は感じます。
ハニカム構造に打ち抜いて層的に生地を重ねてダイエットクッキーを焼成する、という形ならば3Dプリンターである必要もありません。

これからの未来、この知見を活かした商品がでるかもしれませんね。

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消費者は社会的責任(CSR)投資を行っている企業の商品を安全で高品質と思う傾向がある

ロジカルに考えたら、社会的責任(CSR)に対する投資を行ったとしても、企業の商品の安全性や品質を高めることにはつながらないとわかります。
しかし、消費者は、CSR投資を行っている企業の商品を、安全で高品質と思う傾向があるようです。

社会的責任(CSR)投資がもたらすリスク軽減効果の研究

ミシガン州立大学の研究チームは、表題についての研究を行いました。

https://link.springer.com/article/10.1007/s10551-020-04445-0

研究の参加者に対して、企業についての資料を読んでもらいます。
資料は2種類あり、CSR投資について触れたものと、触れていないものです。
この前提を踏まえ、参加者に対して、企業の商品を購入する際に考慮するリスクについて調査した所、CSR投資を行っている企業の商品に対して、安全で高品質であると考える傾向が強いことが示されました。

つまり、社会的責任(CSR)投資を行うことは、消費者に対する認知をポジティブに向上させる可能性があると言えます。

なお、この傾向は、経済的に芳しくなかったり、長期的に企業と消費者とが関係性を持つような商品の際に見られたとのことです。

何故、このようなことが起きるのか?

従前、消費者は、いわゆる“善行”を積んでいる企業から、より多くの商品を購入したがる傾向が示されていました。

今回の研究は、単純に応援をしたい、というようなマインドだけでなく、認知をポジティブに向上させる可能性についても示しました。

どうやら消費者は、企業が社会的責任活動に企業のリソースを投入している様子を見て、自分たち顧客に対しても長期的リレーションシップを構築するための投資を行うのであろう、と推測するようです。

経営者は、このような消費者の認知傾向があることを踏まえ、CSR投資を行うことについての意思決定を行うのが良いと言えるでしょう。


なお、この認知をポジティブに向上させる効果ですが、どのような事業について影響するかはわかっていません。
例えば、タバコ産業やギャンブル産業等、あまり消費者に好ましく思われていない企業についても効果があるのか?という点については課題があると、研究者も言及しています。

また、CSR投資を一種の事業投資と見做した場合の回収期間についても、わかっていることはありません。

これらの点も踏まえて、この知見を捉え、CSR投資に活用するのが良いと考えられます。

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遺伝子検査によるダイエット方法の判別に科学的合理性はあるのか?

ダイエットは比較的多くの方の関心を集めるテーマです。
そのような中、近年、遺伝子検査による適切なダイエット方法の判別について診断するサービスが登場しています。
果たして、遺伝子検査によるダイエット方法の判別には、科学的合理性はあるのでしょうか?
科学とビジネス・エシックスに絡む話で、企業はこの種のビジネスに手を出す際には、よく考慮した方が良いでしょう。

どのような研究を行ったのか?

この話については、スタンフォード大学にて行われたある研究の存在を取り上げると良いでしょう。

https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2673150

次のような研究が行われました。

  • 肥満度28~40の18~50歳の糖尿病を持たない成人609名が参加
  • 試験の登録期間は2013年1月29日から2015年4月14日までで、最終フォローアップの日は2016年5月16日
  • 参加者は、12カ月間のHLFダイエットまたはHLCダイエットに無作為に割り付けられた
  • 3つの一塩基多型マルチローカス遺伝子型の反応性パターンまたはインスリン分泌(INS-30;グルコースチャレンジ後30分後のインスリンの血中濃度)が体重減少と関連するかどうかも検証した
  • 担当者は、HLF(n = 305)およびHLC(n = 304)の参加者に対して、12カ月間にわたって22回の食事療法に特化した小グループセッションで行動修正介入を実施した

ようは、遺伝子とダイエット方法の関連性について調べた研究です。

DNA(遺伝子)とダイエット法の間に関連性は無かった

論文は、端的に次のように指摘しています。

「この12ヵ月間の減量ダイエット試験では、遺伝子型パターンもベースラインのインスリン分泌も、減量に対する食事の効果とは関連しなかった。」

つまり、DNA(遺伝子)とダイエット方法の間に関連性は無かった、ということですね。

ついでにダイエット方法と体重の増減自体にも関連性は無かった

さらに、そもそもとして、健康的な低脂肪食と健康的な低炭水化物食との間で体重変化に有意な差は無かったことも示されています。

結果サマリー

無作為に割り付けられた609名(平均年齢40[SD、7]歳、女性57%、平均肥満度33[SD、3]、低脂肪遺伝子型244[40%]、低炭水化物遺伝子型180[30%]、ベースラインINS-30の平均値93μIU/mL)のうち、481名(79%)が試験を完了した。
HLF食とHLC食では、12カ月間の平均的な多量栄養素の分布は、炭水化物が48%対30%、脂肪が29%対45%、タンパク質が21%対23%であった。
12ヵ月後の体重変化は、HLFダイエットでは-5.3kg、HLCダイエットでは-6.0kgであった(グループ間の平均差、0.7kg[95%CI、-0.2〜1.6kg])。
12ヵ月間の体重減少には,食事と遺伝子型パターンの相互作用(P = 0.20)および食事とインスリン分泌(INS-30)の相互作用(P = 0.47)は有意に認められなかった。
18件の有害事象または重篤な有害事象が発生したが、これらは2つの食事群で均等に発生した。


この結果を正と捉えると、近年、ちらほら見かける遺伝子検査-ダイエット法判別サービスには科学的合理性が無い、ということがわかります。
(もちろん、科学的研究は日々アップデートされていくので、実は効果があった、というひっくり返った結果が出る可能性もゼロではありません。)

企業は、この種の科学的に微妙な代物について、ビジネス商材として取り扱うことのリスクについて考慮した方が良いのではないでしょうか?
一定以上の科学リテラシーがある人にとってみて、そのような企業に対して、どのような目を向けるのか、想像に難くないはずです。

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エンジニアが非エンジニアに薦める参考になるURL集

こちらはエンジニアの方が非エンジニアである筆者に紹介してくれた、プロダクト開発をしていく上での参考URL集となります。
かなり勉強になるのも多く、繰り返し読みたいと感じるものもあります。

全般系

スタートアップの初期のメンバー構成

日ハムが大谷翔平をリクルートした時の資料

https://frenchkiss-emuzu2.ssl-lolipop.jp/03/zip/121213-nihonham-ohtani.pdf

スタートアップの差別化

スタートアップとテストコード

ターゲットユーザーとプロダクト制作、PMFでの基本的問いかけ

どこから作るか

https://coosy.co.jp/blog/branding-ux/

新規事業の作り方、撤退ラインの定め方

同じ専門家でも見解が分かれる事例

https://jinjibu.jp/qa/detl/76575/1/

間違いを犯すということ

https://www.soccerdigestweb.com/news/detail2/id=91267

デザイン系

デザイナーという職業に対する問いかけ

https://yasuhisa.com/could/article/how-to-live-as-desinger/

モノづくりの基本的考え方(生きる上での普遍的考え方)

https://note.com/fladdict/n/ne33a0b184cb2#vxD1z

ロゴデザインの国際比較

figmaデザインテンプレート

システム系

「理解」について

https://zenn.dev/e99h2121/articles/c11daf42169beb

「技術的に可能です」について

https://wa3.i-3-i.info/word18400.html#:~:text=%E3%80%8C%E6%8A%80%E8%A1%93%E7%9A%84%E3%81%AB%E3%81%AF%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E8%A1%A8%E7%8F%BE%E3%81%AF%E3%80%8C,%E3%81%84%E3%82%8B%E3%81%A8%E6%80%9D%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%8F%E3%81%A0%E3%81%95%E3%81%84%E3%80%82&text=1%E5%84%84%E3%81%8F%E3%82%8C%E3%81%9F%E3%82%89%E3%82%84%E3%82%8B,%E6%8A%80%E8%A1%93%E3%81%A8%E7%B5%8C%E9%A8%93%E3%81%A7%E3%81%AF%E7%84%A1%E7%90%86%EF%BC%81
https://dic.nicovideo.jp/a/%E6%8A%80%E8%A1%93%E7%9A%84%E3%81%AB%E3%81%AF%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%81%A7%E3%81%99

プロダクトマネージャーの仕事

https://tumada.medium.com/product-management-triangle-job-description-d18d1855ef65

システム設計は性悪説に基づくユーザーインプットの信頼性

https://note.com/k_kana/n/nc44e649aa3d0

上流工程で潰せば潰すほど、工数が少なくなる

https://www.atmarkit.co.jp/ait/articles/0812/15/news140.html

品質とスピード

https://note.com/cyberz_cto/n/n26f535d6c575

見積り

https://qiita.com/kamesennin/items/89d479112554a6f9d038

人を増やせば、早くPJが進むという誤解

https://cybozushiki.cybozu.co.jp/?p=16062#:~:text=%E4%BA%BA%E6%9C%88%E3%81%AE%E7%A5%9E%E8%A9%B1,%E6%B3%95%E5%89%87%E3%81%8C%E5%87%BA%E3%81%A6%E3%81%8D%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82&text=%E3%81%93%E3%81%AE%E3%80%8C%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87%E3%80%8D%E3%81%AF,%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E5%A0%B4%E5%90%88%E3%82%82%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

システム開発を依頼する時のアンチパターン集

メテオフォール

仕様とバグ

https://jp.quora.com/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%81%AF-%E3%81%AA%E3%81%9C%E6%98%8E%E3%82%89%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%83%90%E3%82%B0%E3%81%A7%E3%82%82%E8%AA%8D%E3%82%81%E3%81%9A%E3%81%AB%E4%BB%95%E6%A7%98

仕様書に書いてないから…問題

バグについて

https://dev.classmethod.jp/articles/system-bug-defect-philosophy/

バグを0にできるか

https://el.jibun.atmarkit.co.jp/hidemi/2010/04/post-220a.html

コード量とバグ

エンジニアが必要なくなると思い込む →半永久的に保守作業が発生する

https://mid-works.com/columns/freelance-career/engineers/1074220

「保守」の必要性

https://note.com/gonjyu/n/nd7bf3efa0728
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大戸屋の債務超過が拡大、コロワイドも自己資本比率が低下中

コロワイドの傘下となった大戸屋が、コロナ影響も大きく、その債務超過が拡大しています。
親会社のコロワイド全体の業績も決して芳しくない状況。
今回は、両社の業績を概観していきます。

大戸屋の債務超過が拡大

大戸屋の債務超過が拡大しています。
FY21_1Qが16億円のプラスの純資産で、同2Qが▲14億円の債務超過、そして同3Qで▲18億円という状況です。

㈱大戸屋ホールディングス 2021年3月期第三四半期報告書より

コロワイドの傘下に入った後、食材の調達等でコスト削減に取り組んでいるようですが、コロナ影響は甚大です。

月次の業績推移は下記の通り。

上半期合計で▲31%の前年比、下期も▲11%~▲31%で推移している模様です。

㈱大戸屋ホールディングス IRページより

ただ、減少幅を見ていると、世の中全体よりかは影響が大きい模様です。

下記の表は外食産業全体の売上高前年比の推移です。
大戸屋はレストラン業態ですが、純粋ファミレスでは無いですし、ディナーレストランでもありませんので、全体との比較なのですが、数ポイントから十数ポイント、世の中全体平均よりマイナス幅が大きいです。

一般社団法人日本フードサービス協会 データから見る外食産業より

やはり、TOB合戦の印象がよろしく無いのでしょうか?

とりあえず、親会社のコロワイドに優先株を発行して資金を調達し、債務超過を解消していく方針のようです。

(参考)大戸屋とコロワイドのTOB合戦

大戸屋とコロワイドとのTOB合戦については、以下の記事で解説していますので、参考に。

コロワイドの業績は?

それでは、コロワイドの方は大丈夫なのでしょうか?
当然、外食事業の会社ですので、コロナ影響は大きいはずです。

(そもそも、コロワイドは実態として債務超過状態なのでは?という懸念もあるようですが。)

コロワイドのFY21_3Q決算を見ていると、事業利益は▲83億円と赤字、純利益も▲63億円の赤字です(親会社帰属部分)。
親会社帰属部分の純資産は230億円ですが(資本金は292億円)、自己資本比率は8.7%と非常に低い水準です。

一方、Cash残高は366億円あるので、目の前の弾丸は何とかなる模様です。

㈱コロワイド 2021年3月期第3四半期決算短信より

FY22はFY21程のダメージにはならないでしょうから、赤字幅的に一応、いきなり数字上、債務超過にはならない感じです(FY21_3Qの営業損失が83億円で、資本金292億円)。

ただ懸念が無いわけではありません。

㈱コロワイド 2021年3月期第3四半期決算短信より

コロワイドは、約828億円ののれんを抱えています。

このまま各事業で赤字が続けば、のれんの評価も入るので、急転債務超過のリスクもゼロではありません。

いずれにせよ、コロナ影響がどれだけ早期に収まるのか、というアンコントローラブルな要素もありますので、何とか凌いでもらいたいものです。

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オンキョーが上場廃止直前!?日本メーカーがまた一つ終わるのか?

オンキョー(旧オンキョー:オンキョーホームエンターテイメント株式会社)の2021年3月期第3Q決算が、純損益33億円の赤字であった事が、2021年2月12日に発表された決算により開示されました。
前期末も債務超過であり、2021年3月末までに債務超過を解消できなければ上場廃止の恐れもあります。
果たして、どうなるのでしょうか?

オンキョーが33億円の赤字、上場廃止直前か?

まずは報道を見てみましょう。

経営再建中のオンキヨーホームエンターテイメント(旧オンキヨー)が12日発表した2020年4~12月期決算は、純損益が33億円の赤字だった。債務超過も解消できておらず、このまま年度末を迎えると、ジャスダック市場の上場廃止のおそれが出てくる。

朝日新聞「オンキョーがジャスダック上場廃止の恐れ 重い債務超過」より 2021年2月12日

証券取引所の基準により、連続の債務超過だと上場廃止の可能性があるわけですね。
資金調達にも動いていたようですが、株価の低迷もあり、奏功しなかったようです。
(この点は、入れたファンドの問題もあったようですが。詳細は末尾参照。)

(2020年9月付けの株式会社東京証券取引所の発表により、上場廃止に係る猶予期間入り銘柄となった模様です。)

業績の概要は下記の通りです。

オンキョーホームエンターテイメント㈱2021年3月期第三四半期報告書より

以前にも記事を書いたのですが、やはり簡単にどうこうなるような状況では無かったという事です。

オンキョーの対応

このままだとオンキョーは上場廃止の可能性があるわけですが、結論として外資系ファンドの支援を受ける道を選んだようです。

そこでオンキヨーは昨年12月、議決権はないが普通株よりも配当などの条件がいい優先株や、大量の新株を格安で買える権利を海外ファンドに割り当てる計画を決めた。ファンドが予定通りに権利を行使すれば、最大62億円相当が手に入り、債務超過を解消できる見通しだ。そのかわり、ファンドが議決権の約7割を握ることになる。オンキヨーは「自助努力のみでの改善は困難であり、最良の選択肢だ」とする。

朝日新聞「オンキョーがジャスダック上場廃止の恐れ 重い債務超過」より 2021年2月12日

「自助努力のみでの改善は困難」との言があったようですが、これは事実なのでしょう。
EVO FUNDという所に、普通株式に加え、議決権の無いA種・B種について新株予約権を発行するようです。
加えて、追加の弾として、C種のスキームも用意していますね。

詳細は、リンク先の招集通知を見ると良いです。
色々と書いています。

これらが実行されると、62億円の資金調達と増資が行われ、議決権がある部分で7割程を当該ファンドがグリップする形になる模様です。

これで何とかなるのか?

さて、それでは、今回の増資対応がうまく進んだとして、これで何とかなるのでしょうか?

率直な感想を述べると、まだまだ厳しいだろう、というのが意見です。

B/Sを見てみましょう。

オンキョーホームエンターテイメント㈱2021年3月期第三四半期報告書より
オンキョーホームエンターテイメント㈱2021年3月期第三四半期報告書より

現金及び預金が約6億円で受取手形及び売掛金は貸倒引当金分を相殺した額が約28億円です。
未収入金の約5億円を加えて、約40億円が手持ちのCash余力です。

一方、支払手形及び買掛金が約63億円、短期借入金が約8億円、未払金が約23億円です。
その他の流動負債も加えて、約105億円がこの先1年で発生するCashOutです(ざっくり)。

62億円を調達したとしても微妙に不足があります。

流動負債であげた約105億円全てがCashOutを要しないものだったとしても、事業運営上、不安が残る金額しか手元に残らないと考えられます。
つまり、追加の資金調達が更に必要、という事です。

この点は、オンキョー側も「本件取組みでの調達資金だけでは、営業債務の支払い遅延が即座に解消することは難しい」と明言しています(2021年1月8日付臨時株主総会招集ご通知より)。

オンキョーホームエンターテイメント㈱2021年3月期第三四半期報告書より

P/Lを見ても、これだけのマイナスがそうそう簡単に回復するとは思えません。

「2021年3月31日までに債務超過が解消され、財務状況が改善すれば、各取引先から正常に材料・製品の供給を受けつつ、現在の支払い期間の短縮及び出荷時支払いなどの取引条件についても当社の通常の取引条件に戻すことの交渉が可能となり、販売機会回復、当社の資金の回転良化から、より事業運営も正常化し、営業債務の支払い遅延に回せる経常収支の増加も見込んでおります。」との説明もありますが、どこまで目論見通りに進むでしょうか(同招集通知より)。

しばらくは厳しい事業環境の中、ファンドとの追加交渉で、どれだけ凌いでいけるか、という所でしょう。
(とりあえず、上場廃止の回避、という資金調達の直接の目的は果たせるとは思います。

そして最終的には、ファンドが送り込んだ経営陣の指揮下、(ONKYOというブランド名自体は残るでしょうが)良い所を切り売りされて解体、という着地になるのでは?と考えます。

新たな資本増強策が見つからない場合、エボファンドを引受先とした6~8回目の第三者割当増資を実施する可能性もあるとしているが、オンキヨーによるとエボファンドは純投資目的のため、取得した株式は市場で売却している。証券マンは「ファンドによる売買が一層の株価低迷を招くというジレンマに陥っている」と指摘する。

SankeiBiz「上場廃止回避へ代替案捻出焦点 増資中止オンキヨー正念場」より 2020年11月26日

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株式会社divの決算書を読み解いて見る

今回は、プログラミングスクール「テックキャンプ」で有名な株式会社divの決算書について、読み解いて見ます。
直近、新サービス等々でプチ炎上気味となっているのですが、冷静に数字を見て、正しく理解しましょう、というのが趣旨です。

集められた情報(前提)

決算書

ネット上から収集できた決算書は下記の2つです。
いわゆる「決算公告」ですね。

決算公告は、会社法の定めにより開示しなければならないとされている義務であり、それに則ったものですね。
なお、大体の会社はこの法律を無視しており、減資等のアクションが無ければ、真面目に開示する所は少ないです。
㈱divも同様で、法令違反を行っている状況ではあります(繰り返しますが、世の中の会社のほとんどがそうなんですけれどね)。

2016年12月期の決算公告。

2019年12月期の決算公告。

トップラインイメージ(売上高)

決算公告は、会社のサイズに応じて開示する情報が異なるのですが、現在開示されている情報では最終損益(登記純損益)しかわかりません。
ですので、トップラインについては想像をするしかありません。

参考になるのが次の情報。

㈱div HPより

2019年1月時点の累計受講者数が約10,000人、2020年9月時点の累計受講者数が約16,000人、となっています。
つまり、約20ヶ月で6,000人が受講された、という事がわかります。

店舗の増加により、増加幅は異なるは当然ですが、ざっくり年間3,600人が受講されていると推測されます。

㈱div HPより

つまり、プログラミングスクール事業で約8億5千万円の売上高がある事が推測できます(もちろん、ざっくりですよ!)。

他にも転職支援、人材紹介、研修サービスを行っているので、実際の売上高はもっと高いでしょう(そこまで大きなインパクトがあるとは思いませんが)。

なお、前払方式の料金体系となっているので、資金的には有意なビジネスモデルとなっています。

資金調達の状況等

リリースによると、2019年5月に10.8億円と、2020年5月に18.3億円の資金調達をエクイティ(投資家からの出資)デット(銀行等からの融資)を織り交ぜて実行しているようです。

登記簿謄本を取り寄せて分析するのも有りではあるのですが、流石に面倒だったので、INITIALのサイトを参考にすると、評価額はポストで81億円との事。
評価額としては非常に順調な感があります。
IPOフェーズとしても、レイターステージにあると考えて良いでしょう。

教室の状況

教室は現時点で6拠点ある模様です。

大手町は2020年2月、梅田は2019年4月にオープン。
それ以外は、より以前のオープンとのこと。

㈱div HPより

直近はコロナ影響もあるのでしょうし、もしかしたら元々不採算だったのかもしれません。
下記のような形で、スクールの統廃合や変更があるとリリースされています。

㈱div HPより

さて、基本的な前提の確認はこれくらいにして、決算書の中身を見ていきましょう。

決算書を読み解いてみる

資産部分を見る

まず流動資産の1,432,071千円。

こちらには、現預金、売掛金といった科目があるはずです。
教材等の取扱い次第では商品もあるでしょう。
ただ、全体としては、現預金のウェイトが多いのではないかと考えられます。

実際、2019年には約10億円の資金調達を実行しているので、元々あったであろう現預金と含めると、約14億円の流動資産の内、大部分が現預金と考えられます。
決算公告はあくまでも2019年12月期のものなので、2020年に約18億円の調達を行っていることを考えると、溶かし具合にもよりますが、相当なキャッシュリッチな状況と言えるでしょう。

固定資産の736,091千円は、本社や教室(拠点)の造作物と、入居にあたっての保証金であると考えられます。
2016年時点での固定資産が1億円未満でしたので、ざっくり1拠点1億円位のイメージ感で、固定資産と投資その他の資産が計上されているかと想像されます。

負債部分を見る

流動負債の1,195,630千円は、ちょっと難しいのですが、前受金、未払金、未払費用、1年内返済借入金、といった科目が計上されているはずです。

前受金はちょっとややこしいのですが、上の方で、テックキャンプは前払制のスクールだと軽く言及しました。
何を言いたいのか?と言うと、期を跨いで、まだサービスの提供が完了されていない部分について、お金は受け取ったけれども売上に計上されていない部分がある、ということです。
サービスの提供期間が3ヶ月との事なので、11月入校の方の1月分受講料、12月入校の1月分と2月分の受講料が前受金に計上されるはずです。
合計3ヶ月分。
年間のスクール事業売上高が約8億5千万円なので、この3ヶ月分ということで、約2億1千万円が前受金のはずです。
後ろの方が売上規模は大きいでしょうし、実際の売上高がもっと大きければこの金額も膨れ上がるので、3億円位の前受金があったとしても不思議ではありません。

ようは、キャッシュアウトが起きない流動負債が約3億円位はありそうだぞ、という事です。

それを踏まえると、純粋な流動比率は1.59になるので、財務体質としては非常に健全な状況と言えます。
上述のキャッシュリッチな点も踏まえると、財務面での心配は無さそう、と捉えるのが正しいでしょう。

この点が、いやいや健全だなんなの、と言われていた理由です。

固定負債の598,915千円は、長期借入金、資産除去債務、が計上されているはずです。

その内訳までは計算できないですが、資産除去債務が本社+6拠点なので、ざっくり1億円~1億5千万円位がそうで、残りが長期借入金かな、というイメージ感。
調達額が大所合計で約28億円で、この内2割をデットで賄っているとすると、金額感としてもあいます。
資産除去債務ってなぁに?という話は適当にググってください。

赤字は悪なのか?

さて、次にPL面についてです。

決算公告の内、右下の利益剰余金部分を見て下さい。

ここに書かれている△496,042千円が、ざっくり言うとこれまで積み上げてきた赤字です。
そして、当期純損失と書かれている157,674千円が2019年12月期に出した赤字です。

2016年12月期の決算公告を見ると、2017年12月期に減資を行っており、あわせて剰余金のマイナスも崩されているでしょうから、どんな感じの数時感かは不明ですが。
とりあえず、2017年12月期~2019年12月期の3年間でざっくり5億円の赤字を出している、という事です。

この部分が、やれ危ないなのなんなの言われている要因ですね。

まず、ベンチャービジネスとは?なのですが、赤字を出して当たり前だ、という点は最初に言及します。
まだ事業を育てている途上ですので、赤字が出やすいのもそうですし、また、成長のために一定の投資を先に行い、後々回収していく、というスタイルをとるのは全く珍しいことではありません。
特に近年のベンチャービジネスではそうですね。

ですので、赤字だから危ないのか?いけないのか?悪なのか?という話について答えを言うと、ただちにそう結論づけるのはナンセンスだ、となります。

ビジネス・モデルも踏まえて考えてみる必要があるでしょう。

ビジネス・モデルを踏まえて業績を考えてみる

広告宣伝費を削って黒転できるか?削っても顧客は来るか?

㈱divのビジネスを考えるに、次のようなPL構造になっているのでは無いかと想像されます。
(営業利益まで)

売上高
売上原価(スクール人件費、スクール賃借料、スクール減価償却費、通信料等その他)
 売上総利益
販管費
 - 本部系人件費(業務委託費含む)
 - 広告宣伝費
 - 本社賃借料(地代家賃)
 - 減価償却費
 - その他販管費(通信費、消耗品費等々)
 営業利益

この内、売上原価、本部系人件費、本社賃借料は固定性が高いものです。
その他販管費も、変動費用ではあるのでしょうが、じゃあスパッと切れるか?というとそうでもないでしょうし、金額インパクトも他科目に比べると、そこまで大きく無いはずです。

そうなると、赤字解消のために、何か柔軟に切れる費用は何か?というと広告宣伝費が残されます。

赤字が許容されるのは、ある2つのポイントをクリアする必要があります。

それは、広告宣伝費を削れば黒転できる事業計画になっているのか?、と、広告宣伝費を削っても安定的に顧客(受講希望者)が流入してくる見込みがある事です。

ベンチャービジネスにおける赤字は、先行投資的なものがある、という話をしました。
ようは、ビジネス拡大期には、まだ知名度等々含めて自然流入性が低いので、広告宣伝費を投下して顧客をガンガン集める、と。
だから赤字なんだけれども、一定軌道にのれば、これまでのような広告宣伝費投下をしなくても顧客は集まってくるんだ、これまでスクール経営していて、この点は蓋然性が高いんだ、という話ならば全く問題が無いのです。

それについては、流石に情報が無いので判断はつかないです。
ただ、投資家が投資をしている、という点を考えると、ある程度の蓋然性はあるのでしょう。

ネガティブ要素

とは言え懸念点が無いわけではありません。

㈱div HPより

再掲になりますが、スクールの統廃合・移転のアクションが行われている事です。

コロナ影響もあるのでしょうが、足元の集客は芳しく無いのではないでしょうか?
ここは取っている施策により固定費の削減が行われれば問題は無いのですが、コロナ影響がすぐにはおさまらないであろう事を考えると、既に取られているようにオンラインでのスクール運営も進めていく必要があるでしょう。

また、基本になるのですが、ビジネス・モデルはあくまでも「単発型の店舗ビジネス」という点を忘れてはいけません。

お客様は集め続けなければならないですし、一定、広告を削ったら集客ペースが落ちるのも必然です。
そのため、店舗ビジネスにおいては「立ち上げ初期から黒字」を出さなければいけないのが一応の定石ではあるのです。
経年と共に集客が落ちるのが自然ですし。

これは業績の詳細部分がわかる人にしか実態はわかりません。
スクール事業部分のセグメントは黒字で、他の投資領域で赤字なのかもしれませんので。


以上、㈱divの決算書を見ていきました。

とりあえず言える事は、貸借対照表も見た方が良いですし、ビジネス・モデルにそって損益面もしっかり中身を考えないと判断を誤りますよ、という点が一つ。
もう一つは、想像の領域の方が圧倒的に大きいので、断定的に何か言うと恥をかくリスクが高まりますよ?という点です。

冷静に考えれば、詳細な情報を入手してジャッジしている投資家達が出資しているのだから、IPOにもチャレンジする資格がありそうだ、大枠として考えれば健全だろう、と捉える方が自然だとは思いますね。

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収入印紙/印紙税を廃止すべき理由

河野大臣が収入印紙/印紙税にもメスを入れるようです。
今回は、この制度に関して、廃止すべき理由を解説していきます。

なお、印紙税云々に関しては、各所でいくらでも触れられているので、ここでは解説しません。
興味がある方は国税庁のHPでも見て下さい。

収入印紙/印紙税に遂にメスが

まず報道を見てみましょう。

河野規制改革担当相の直轄チームが、国に納付する各種の税や保険料などの手続きについて、その利便性の向上を図るため、各省庁への実態調査を始めたことがわかった。
この中で、収入印紙に関しては、「印紙を使っている理由」や「印紙による納付を廃止した場合の支障」などの回答を求める書面が配布され、その使われ方の見直しが検討されることになる。

FNNプライムオンライン「【独自】次は「収入印紙」 河野大臣が見直しへ」より

(主に政府への)反対派の方からは「改革ごっこ」と揶揄する声が出ていますが、ビジネス・サイドの方々からは歓迎の声が圧倒的多数のようです。

なお、印紙税には、偽装領収書や虚偽契約書の抑制効果も一応あるにはあります。
(高額取引の契約書を作成すると、数万円の印紙税が必要となる場合があり、これがあると偽装契約書を作ろう、というインセンティブが抑制されるであろう、という発想。)
ただ、悪さをする人間は、何をどうしても悪さをするものですので、あまり意味が無いと言っても過言では無いでしょう(実際、印紙税が無い国も多い)。

さて、印紙税を廃止すべき理由は次の通りです。

  • 課税根拠が無い
  • 公平な租税と言えない
  • リモートワーク阻害の要因
  • 社会的な無駄なコストの存在(振込手数料とか)

課税根拠が無い

まず、課税根拠からです、

政府の税制調査会からは次のような答弁が出ています。

契約書や領収書などの文書が作成される場合、その背後には、取引に伴って生じる何らかの経済的利益があるものと考えられます。
また、経済取引について文書を作成するということは、取引の当事者間において取引事実が明確となり法律関係が安定化されるという面もあります。

印紙税は、このような点に着目し、文書の作成行為の背後に担税力を見出して課税している税と言うことができます。

ようは、わざわざ契約書を取り交わして取引をするという事は、それだけ税負担をするだけの能力があるよね、という事です。
(もうちょっと固く書くと、契約書や領収書の裏には必ず取引があって、そこから生じる経済的利益にフォーカスし、税負担を求める、という事です。)

この税負担の能力、支払能力の事を「担税力」と言います。

印紙税は、この担税力を課税根拠としているのです。

ここにツッコミどころがあります。

わざわざ契約書を取り交わして取引したのであれば、その取引により売上ないしは費用が計上されます。
つまり、契約者たちの所得や課税取引に反映され、消費税や法人税などの形で課税されるはずです。

契約行為の背景にある経済的利益、つまり担税力に課税され、さらに契約行為によって発生した諸々にも課税される。

全くもって意味不明です(二重課税)。

さらに契約書や領収書には印紙を貼り付けて消印を付し、はじめて納付した事になります。
買っただけではダメで、貼り忘れると過怠税(3倍)が科されます。
印紙と契約書が法的に紐づくわけでは無いのに、非常に意味不明です。

なお、金融取引などに対しては課税のポイントが無いため、融資の契約書に印紙税が科されるのは、まぁ合理的と言えば合理的と言えます。
ただ、それなら別の形で補完する方法があるはずなので、印紙税である必然性がありません。

公平な租税と言えない

この印紙税ですが、電子データには課されません。

つまり、電子契約書、電子領収書なら、収入印紙を貼る必要が無いのです。

上述の通り、公式には印紙税の課税根拠は担税力にあるとされているのですが、紙だろうが電子だろうが、担税力に変わりはありません。
しかし、紙には課され、電子には課されない。

不公平だと思いませんか?

印紙税の担税力という観点では双方同一なのに、適切に機能していないため、公平な租税とはとてもではありませんが、言えません。

リモートワーク阻害の要因

toC向けのビジネスの場合、領収書に貼り付ける印紙は後納(申告の上、納付)が可能ですし一般的ですが、通常の契約書とかでは別です。

実際に現物の印紙を購入し、現物の紙の契約書に貼り付けて消印を押す(ボールペンで斜線を引くとかでも良いんですけれどね)必要があります。

つまり、リアルな現物を介在するが故に、リモートワーク阻害の要因になっているのです。

世相にあっていませんね。

社会的な無駄なコストの存在(振込手数料とか)

さて皆さん、銀行の振込手数料。
金額によってお値段が高くなるの、なぜだか考えた事、ありますでしょうか?

こんなやつです。

これ、印紙税分の費用が消費者に転嫁されているんです。

ATMから、「ご利用明細」がペロっと出てくると思いますが、右下の方にこういうのが印刷されています。
これが印紙部分なんですね。
(そのため、WEBオンリーの新興銀行では振込手数料が安い。紙が出ないからです。)

つまり、このような地味な部分にも印紙税が登場し、消費者負担が発生しているのです。
(さらに百貨店等々で高額買い物した時にも印紙税が発生しており、結果として消費者負担が乗っている。)

もう、別の形で税負担すれば良いのだから、こんなめんどくさい事やめればいいじゃん、って素直に思いませんか?

手間暇もそうですし、無駄な費用もかかるしで、社会にとって良い事のようには思えません。

ちなみに、「アレ?支払手数料は(消費税が)課税されるけれど、印紙税って課税対象じゃないよね?」と思った方は、税金に詳しい方ですね。
これは、別に消費者に直接印紙税を負担してもらっているのではなく、支払手数料という形で間接的に負担してもらっているのです(納付主体は銀行になり、そもそもとして消費者に直接請求する事はできない)。
つまり、印紙税に相当する部分を支払手数料に上乗せして帳尻あわせをしているんですね。


以上、印紙税を廃止すべき理由を解説しました。

なお、印紙税の大元、原点は「戦費調達」です(元々はオランダ。日本でも戦前、堂々と軍事増強のための税徴収、と言われていた)。
主に、印紙税にメスを入れる事に揶揄をしている方々は、諸々思想的に、その種のワードとか分野がお嫌いのはずなので、どちらかというと諸手をあげて賛成するはずなのですが。さて。

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経営企画

「初の希望退職募集」エイベックスの経営状況を見てみる

音楽・映像事業のエイベックス㈱が初の希望退職募集をするとの事です。
コロナ影響によりライブ、イベントの開催自粛が影響し、業績が悪化していることが背景という事ですが。
今回は、エイベックスの経営状況を見てみます。

初の希望退職募集

とりあえず報道を見てみましょう。

音楽・映像事業を手掛けるエイベックス(株)(TSR企業コード:294000011、港区、東証1部)は11月5日、希望退職を募集すると発表した。募集人数は約100名で、エイベックスで希望退職の募集は初めて。

募集期間は12月10日~21日で、退職日は来年3月31日を予定する。ライブ、舞台などを含む音楽事業の一部と間接部門に在籍する40歳以上で、対象社員443名

同日発表した2021年3月期第2四半期(連結)で、最終利益は32億8900万円の赤字だった。「新型コロナウイルス」感染拡大により、「a nation」などのライブ、イベントの開催自粛が影響し、売上高は前年同期比44.0%減の342億7900万円と苦戦を強いられた。
(略)

東京商工リサーチ「エイベックス、初の希望退職募集」より

コロナ影響によりライブ、イベントの開催自粛により業績が厳しいと。
それにより、100名ほど、希望退職を募る、という事ですね。

決算書を見てみる

まずは直近の決算短信です(2021年3月期第2四半期決算短信)。

単位は百万円です。

この通り、売上高は▲44%と大幅な減少、営業損失も22億円と非常に厳しい数字です。
最終損益は約33億円の赤字と、報道通りの数字になっています。

じゃあ現預金残高はどうか?というと、184億円程の残高があり、まぁまぁな積み上げがあります。

一方、借入金合計(短期借入金26,000M、1年内返済予定の長期借入金3,070M、長期借入金3,101M)は321億円あり、仮に短期借入金の返済を要するとなると、全くお金が足りない事がわかります。

ただ、自己資本比率はまだ38.9%あり、全く心配が無いほど潤沢、というわけでは無いですが、追加の借入余力はあると考えても差し支えない水準です。

上記の短期借入金260億円は、ロール対応(返済と借入を同時に行う:借換)が行われると考えられます(そうじゃなきゃあかん)。

つまり、エイベックスの経営状況を見る限り、ここ1年2年でいきなりどうこう(具体的には倒産)なる、というリスクはあまり無いと言えそうです。

希望退職の効果とか狙いは?

それでは希望退職の効果の程を考えてみましょう。

こちらは2020年3月期有価証券報告書から抜粋した「主要な経営指標等の推移」の「連結経営指標等」です。単位は百万円です。

一番下の従業員数を見るとわかるのですが、連結ベースの社員数は1,415人との事。
今回の希望退職募集の人数は100人ですので、全体の7%程です。

ふたたび2Q短信に戻って、経営実績の推移資料を見ると、人件費は半期で53億円。
通期ベースで約100億円超がかかっている事がわかります。

アルバイト等分もあるので、この100億円超の5%程が今回の削減対象になるわけですが、その数字約5億円です(ざっくり計算)。

通期の営業赤字が40億円超になると推測(単純に直近2Qの数字を倍にした)される事を考えると、コスト削減幅は微々たるもの、とまでは言わないにせよ、大きなウェイトを占めているものではありません。

そこで改めて考えてみたいのですが、エイベックスの業績はここ5年、全く成長していないという事実です(上の連結経営指標等の推移より)。

つまり、このような思惑があるはずです。

コロナ影響は時間と共に落ち着きを見せ始めており、もうしばらく辛抱すれば業績回復も見えてくる。
とは言え、事業成長が停滞して数年が経過しており、先行きが不透明なのには変わりない。
コロナ影響、という理由が前面に出せるこのタイミングで不採算性が高い領域の人員を削減し、将来のためのスリム化を今のうちに図っておこう。
今なら体力もまだあるし、実行は十分に可能だ。

実際の所がどうなのかは、中の人にしかわからない事ですが、このような考えなのでは?と推測します。

以上、エイベックスの経営状況について、概観してみました。

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