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モスバーガーの苦境?~モスを題材に財務資料の見方を解説~

今回は、モスバーガーの決算資料の解説です。
プレジデント社の記事曰く、閉店ラッシュが止まらず、苦境とのことです。
それでは、モスバーガーの経営状況を見てみましょう。

報道内容

まず、報道の内容を見てみましょう。

ハンバーガーチェーン「モスバーガー」の閉店ラッシュが止まらない。この1年だけで34店減り、6年前と比べると134店が消えている。業績も計画にとどかず、上向かない。なぜ苦境から抜け出せないのか。店舗経営コンサルタントの佐藤昌司氏は「モスの商品やキャンペーンには話題性が足りない。マクドナルドと比べるとその差は歴然としている」と分析する――。
(以下、略)

プレジデントオンライン 2020年6月12日 「閉店ラッシュが止まらない」1年で34店減ったモスバーガーの苦境

雑誌(WEBだけど)記事らしく、キャッチーな冒頭の記述です。
とりあえず、記事の主旨はわかりました。
記事を読み進めると、定量情報が散りばめられており、定性情報と併せて、なんだかそれっぽい感じに書かれています。

ただ、雑誌の企業解説記事は、プレジデント社のような権威のある媒体でも事実と異なる場合や誇張されている場合があるので油断は禁物です。

それでは、実際に決算資料を眺めていきましょう。

Googleで「モス IR」と検索をすれば、IRページに飛ぶことができます。

いきなり有価証券報告書や決算短信などを見に行ってもよいのですが、モスバーガーは飲食店です。
外食業界の上場企業は「前年同月比推移」を開示している場合が多いので、こちらを先に眺めた方が良いと考えています。
IRページの「IRライブラリー」をクリックすると、お目当ての情報にたどり着きます。

他に見たい資料は、店舗数の推移

最新の決算短信

前年度末の有価証券報告書(最新の有価証券報告書はまだ公開されていないため)。

こんな感じでしょうか。

決算説明会資料も公開されているのですが、正直、モスバーガーの決算説明会資料はあまり有益な情報が掲載されていないので、今回はパスします。
良い情報があるかな~???位で、ざっと眺める程度で十分でしょう。

前年同月比を見る

それでは、前年同月比から見ていきましょう

直近4月5月は、全店売上高で102%、110.5%と、上々な数字です。

既存店客数が減っているのはコロナ影響で、一方、既存店客単価は上昇しています。
これは、下記記事でも解説したのですが、「このお店で完結させてしまおう。」という考えが数字に表れているのでは、と考えられます。
現在の経済環境で、感染症影響に強い、というのは特筆すべき点だと感じます。

画像は掲載しませんが、2020年3月期も通期で全店売上高前年比103.1%で着地しているので、これだけ見ると悪い数字には思えません。

2010年3月期を100%とした場合も、累積で2020年3月期時点で103.7%と全店売上高は伸びているので、これを見ても決して悪い数字には見えません。

店舗数推移を見る

プレジデント社の記事は、閉店ラッシュ、という見出しでしたので、店舗数も見てみましょう。

確かに、国内店舗は年々減少が続いています。
全体の店舗数もそうですね。

一方、海外店舗は増加が続いているので、海外シフトを行っているだけでは?という見方もできます。

ちょっと、記事の内容について、疑いの目が出てきました。

決算短信と有価証券報告書を見る

それでは、実際に業績数値を見ていきましょう。

業績数値を見てみる

まずは最新の短信です。

2019年3月期は確かに最終赤字ですが、それ以外の数字は黒字の状況です。

有報での過去5年の推移はどうでしょうか?

経常利益ベースでは、過去5年通じて、全て黒字です。

確かに計画比ベースで見たらビハインドしているのかもしれませんが、「苦境」とかいう言葉を使うのは、過剰な表現ではないでしょうか?
自己資本比率も70%台で、極めて高い数字です。

いったん、落ち着いて見てみましょう。
数字ベースで黒字ならば、次に考えるのは「率」です。

利益率で見てみる

過去6年の経常利益率を見てみましょう。

2020年3月期:1.8%
2019年3月期:1.1%
2018年3月期:5.5%
2017年3月期:6.9%
2016年3月期:5.6%
2015年3月期:2.3%

こうして見ると、確かに「苦境」という言葉が正しいことがわかります。

飲食店というのは、押しなべて利益率が低いものです。
しかし、流石に1%台は不味いですね。

2016年3月期~2018年3月期に出ていた、5%以上の経常利益率は、なんとか出したいものです。

この数字の良し悪しは競合他社と比較した方がわかりやすいでしょう。
というわけで、日本マクドナルドホールディングス㈱にご登壇いただきます。

この通り、経常利益率が過去3年平均で9%もあります。
飲食店で経常9%は結構高い方です。

1%台のモスと9%のマックを比較すると、確かに「歴然とした差」が生まれてしまっている状況です。
自己資本比率も大差がありません。むしろ、マックにすぐに追いつかれそうです。

セグメント情報を見てみる

飲食店主体ですが、業態をわけてセグメント情報を開示しているので、見ておきます。

この通り「その他の飲食事業」が足を引っ張っている状況です。

もしかしたら、実は社内シナジーが生まれているのかもしれませんが、そういう事が無いのならば、整理をした方が社内リソースの分散にもつながらないので、良いとは思います。
もちろん、全体の赤字幅が小さいと言えば小さいので、モス業態で何かあった時のリスクヘッジとして、他業態を持っておく、というのは悪いことではありません。
将来の別業態の展開のための投資、種まき、という観点で考えることもできます。

ポリシーの問題ではあるのですが、赤字が続いていて、店舗数も少ない、という状況を続けるのならば、少し考え直した方が良いとは思います。

後、PL、BS、CFはもちろんチラ見はするのですが、見ていただければシンプルなスタンダードな構造になっていることがわかりますので、今回は省略しました。
自己資本比率も70%台で高い数字を維持しているので、モス業態の利益率向上を中心に取り組んで行けば良いでしょう。


以上、モスが「苦境」「マックと歴然とした差」という表現は、決して誇張表現では無いことがわかりました。
話題性に欠けるのは、確かにそうだと思うので、店舗立地や価格帯、ブランディングをそういじれないことを考えると、マーケティング分野で工夫してみるのは、ありかもしれません。

この通り、決算資料を見ると、ある会社の状況を読み解くことができるので、非常に面白いですし、ためになります。
ここで解説しているようなポイントを掴みさえすれば、決して難しいことでも無いので、是非、取り組んでみて下さい。

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1Q赤字報道のラオックスを例に財務資料の見方を解説

今回は、ラオックスの決算資料の解説です。
ラオックスは2020年1月~3月の第1Q決算において19億円の最終赤字との報道が出ていました。
決算資料の類は、数を見れば見るほど、読む力がつくので、色んな業界業種の資料を見てみると良いでしょう。

案外、就職活動をしている、非財務系の方たちにも有用かもしれません。

報道内容

まず、報道の内容を見てみましょう。

免税店大手のラオックスが12日発表した2020年1~3月期の連結決算は、最終損益が19億円の赤字(前年同期は14億円の赤字)だった。同期間として5期連続の最終赤字となった。
(略)
3月末時点の現預金は125億円と、月商の6.9倍。自己資本比率は58.4%と1年前から6ポイント改善し、足元の資金繰りに問題はないとしている。

日本経済新聞 2020年6月12日 ラオックス、最終赤字19億円 1~3月、訪日客減響く

さすが日経新聞と言うべきか、前年以上の赤字が出ていること、1Q期間の赤字が5期連続で慢性的になっていること、少なくとも現金残高はあって足元は問題ないこと、がコンパクトにわかります。

ふーん、で終わらせても良いのですが、解説ということなので深堀りして見ていきます。

Googleで「ラオックス IR」と検索をすれば、IRページに飛ぶことができます。

目につくのは、第1四半期の四半期報告書ですね。

第1四半期は、文字通り、期の一番最初の決算期です。
ここから見ても良いのですが、もう少し全体像を把握した方が良いと思うので、前年度末の有価証券報告書から見ていきます。

有価証券報告書を見る

主要な経営指標等の推移を見る

まず業績概観です。

2015年12月期は結構な利益が出ていますが、それ以外は赤字(か赤字スレスレ)という状況です。

この状況を見ると、ちょっと大丈夫かな?と気になってしまいます。
先を読み進める前に、もっと昔の業績も確認してみた方が良いでしょう。

2014年12月期の有価証券報告書と、IRページ上、一番古い2010年12月期の有価証券報告書で概観を見てみます。

これらを見ると、2013年12月期まで、ずっと継続して慢性的に赤字が出ている、ということがわかります。
しかも、すごい金額です。

2014年12月期は、インバウンド(観光客)消費もあり、ようやく黒字化、続く2015年12月期も黒字が続いていることがわかります。
しかし、一番上の業績推移の通り、2016年12月期から再び厳しい状況に戻ってしまっています。

2016年12月期以降は、いわゆる‟爆買い関税”がかかり、業績が転落してしまった形です。

ここまでで既に、結構あかん会社だということがわかります。

資本はどこ?

さて、上記、主要な経営指標等の推移で見ると、赤字が続いているにも関わらず、自己資本比率が激増しているタイミングがいくつかあります。
どこかが増資していることがわかるのですが、どこなのでしょうか?

これは大株主の状況、というページでわかります。
PDF上を遷移する際は、「Ctrl + F」で検索ウィンドウを呼び出して、「大株主の状況」で検索すると、目的の所に飛びやすくなります。

有価証券報告書はページ量も多いので、中の情報を見ていく際は、検索ウィンドウから飛んでいくか、目次から飛ぶのが効率的です。
(どちらが良いかは、好み次第です。)

さて、大株主の状況です。

こちらにある通り、「GRANDA」社2社が(違う法人)合計64.9%を保有しています。

ここはGoogle検索すればわかるのですが、中国系の会社のようで、ラオックス㈱は中国資本の会社だ、ということがわかります。

中国資本だから中国からのインバウンド消費で稼ぐ形でビジネススキームを構築していたのだろう、という推測が立ちます。
ただ、当の本国中国より‟爆買い関税”をかけられてしまった形ですので、色々と残念な感じです。

新型コロナウイルスの影響もあり、どこまで回復するか不透明ですので、もしかしたら資本を引き揚げる可能性もあり得ます。
この場合、別の支援が無いと経営が立ち行かなくなるリスクが高まります。

さて、この流れで読み進めるならば、次は役員の状況を見てみましょうか。
中国資本だとして、経営陣はどういう状況なのかを確認するわけです。

役員の状況を見る

(役員の状況を一部のみ抜粋)

見てみると、中国に関りの深い方々が取締役の多くを占めていることがわかります。
Googleで調べるに、「GRANDA」社関係の方も複数名入っているようです。

これは、ニュートラルな話としては、仮に大株主の変更(資本の引き揚げ)があった場合に、経営陣も総入れ替わりする可能性はあるね、ということを想定できる情報となります。
うがった見方としては、ガバナンスが全く効いていなさそうだね、ということが言えます。

とりあえず、ここまでで、大枠としてラオックス社がどういう数字を辿ってきたのか、その数字をどういう方々が作ってきたのか(資本と経営者)が頭に入りました。
この前提をもって、財務指標を見ていきます。

貸借対照表を見る

貸借対照表は、有価証券報告書から最新の四半期報告書(2020年3月31日時点)を見てみましょう。

全体的にシンプルなBSです。

現預金約125億円があり、確かに足元は問題無さそう、ということはわかります。

ただ、負債側を見ると借入金合計が約99億円あり、手元資金のほとんどが借入金によって賄われていることもわかります。

本当に、ラオックス社の足元は問題ないのでしょうか?
これは短期借入金の所についている「※2」を見ると、解像度があがります。

※2の参照先は【注記事項】の「当座借越契約及びコミットメントライン契約」です。

こちらにある通り、ラオックス社は約104億円のコミットメントライン契約を銀行と締結しており、そこから約70億円を調達している、ということがわかります。
また、当座借越の枠残高も約34億円、残っています。

これらを見る限りは、大丈夫、と言いたいのですが、コベナンツ(財務制限条項)がついています。

既にコベナンツの条項に抵触しているので、今後どうなるかが完全に不透明です。
足元は問題ない、という言葉を額面通り受け入れることは、到底できません。
(2020年3月31日時点の純資産額が42,204百万円になっている。一応、年度末時点で抵触していなければ問題ない契約であろうから、2020年12月期中に追加の増資なりなんなりをすると思われます。)

中国資本側のモチベーションが無くなった瞬間に、色々と状況が動く、ということが想定されます。

損益計算書とセグメント情報を見る

次にPLです。
とりあえず、業績指標サマリーで十数年単位で業績全体像を見たので、直近第1四半期のPLだけ眺めて、PL全体構造を把握するだけに留めます。

BSと同じく、非常にシンプルなPLです。

営業外収益や費用には特段、大きな要素は含まれておらず、特別項目も同様です。
利益が出ていない会社ですので、法人税等もほとんど全体インパクトはありません。

つまり、事業本体を何とかして、業績を立て直す必要がある、ということです。

そこで次はセグメント情報に移ります。

まず、セグメントの中身を確認します。
セグメントの説明は有価証券報告書の方に記載があります(四半期報告書は簡略化されているので、記載が省略されています)。

この通り4つのセグメントが存在することがわかります。

次に数字です。
直近最新の四半期とその前年同期、直近通期とその前年を眺めます。

直近インバウンド事業は赤字、これは新型コロナウイルスの影響がどこまで継続するかにもよりますが、観光客減が続くなら、厳しい状況が続くでしょう。

グローバル事業は赤字かほとんど利益がでていない状況。

生活ファッション事業は、結構な金額の赤字。

エンターテインメント事業も、直近1Qこそ黒字化しているものの、前年と前々年通期は赤字です。

正直、希望が持てる要素があまりありません。

生活ファッション事業やエンターテインメント事業のような、どこまで本体免税店やEC事業とシナジーがあるのか、よくわからない事業もあります。
利益も出ていないですし、経営リソースも分散されるから、売却した方が良いのではないでしょうか?

また、観光客減が続くのであれば、屋台骨であるインバウンド事業の優位性も崩れます。
この場合、資本の入れ替え、経営陣の入れ替えも行った方が良いでしょう。

数字を見ている限り、経営構造を根本ベースから大改革しないと、どうにもならないように思えます。

各種報道にもある通り、国内の総合免税店に関しては不採算店のクローズを行い、経営資源を利益が出ているお店に集中させた方が良いでしょう。
(全体の3割を報道する計画でいるようです。併せて、希望退職も募ったようですね。)
ECも独自性の欠片もない楽天市場店では、流石にいけないです。
独自ECを展開し、より消費者にとってわかりやすいバーチャル・ショッピングができるインターフェースを提供できるようにした方が良いでしょう。

今のビジネス構造は、感染症や国家間不安に弱いですし、サービスの提供水準がどうにもアンダーなように感じます。

キャッシュ・フロー計算書を見ていませんが、ここまで見ればもう、何となく想像はできます。
とりあえず全体像を眺めてみていただければと思います。

その他気になること

決算短信の表紙、この部分を見てみて下さい。

ラオックス社は決算説明会を開催していません。
通常は、中間と期末で決算説明会を開催するものなのですが、実施していないようです。

併せて、決算説明資料も公開されていません。
株主総会資料も、招集通知が公開されているのみで、株主総会説明資料は公開されていません。

申し訳程度に「株主通信」が公開されていますが、非常に文字文字していて、何を伝えたいのかがパッと見わかりません。

上場会社の情報開示という観点で考えるに、非常に株主を軽視していることが伺えます。

筆頭株主が60%超を保有しており、経営陣も筆頭株主から送られている状況です。
ガバナンスが効いている状況ではなく、今後を不安視してしまいます。

従業員にとっても、当の資本家たちにとっても、一度、経営構造全体をリセットした方が良いように思えます。

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60億円赤字のライザップを例に財務資料の見方を解説

新型コロナウイルスの影響で、多くの会社の業績がダメージを受けています。
決算資料を見る機会も多くなったのではないでしょうか?
ここでは、ライザップ社を例に財務資料の見方を解説していきます。
スタンスとしては、競合他社の経営企画担当者などが、競合企業の財務状況をざっとレビューするようなイメージ感です。

もちろん、それ以外の職種の方が、パッと決算資料を見たい場合でも参考になるでしょう。

報道から得られる情報は薄い

企業の業績を報じる報道媒体は多いですが、下記のように内容が薄いのが一般的です。

スポーツジムを展開するRIZAP(ライザップ)グループは9日、2020年3月期連結決算(国際会計基準)の業績予想を下方修正し、最終利益が60億円の赤字になる見通しだと発表した。予想通りとなれば、前期(194億円の赤字)から2期連続になる。
(以下略)

読売新聞 2020/06/10 ジム来客減のライザップ、赤字60億円見通し…社長「業績回復へまい進」

ここからとれる情報だと、「ライザップが2期連続で大赤字」ということがわかるだけで、じゃあそれがどれくらいヤバいのか、実際どうなのか、まではわかりません。
何となく印象が悪いだけです。

そんな状況である会社の情報をもっと詳細に知りたい、となった場合どうするかと言うと、企業のIRページを直接見に行く、という方法があります。
「○○○○(企業名) IR」とGoogleで検索すれば、大体トップに出てきます。

ライザップの場合は、リンク先がIRページになります。

それでは、具体的にIRページ内の資料を用いて、どういうポイントで見ていくかを解説していきます。

なお繰り返しになりますが、スタンスとしては、競合他社の経営企画担当者などが、競合企業の財務状況を知っておきたい、という視点になります。
株式投資とかの視点は、基本盛り込みませんので、ご留意ください。

まずは決算短信や有価証券報告書を見る

多くの企業が決算説明のスライド資料を作成し、公開しています。
いきなりこれを見ても良いのですが、決算説明スライドは、企業側が「ここを見てほしい」という前提で作成するものなので、必ずしも分析側が見たい情報が掲載されているとは限りません。

好みにもよるのですが、まずは直近の決算短信や有価証券報告書を見るのが良いです。
(小難しい資料なのですが、慣れると数字を見る力が飛躍的に向上するのでおすすめです。)

ライザップの場合、2020年6月12日時点(執筆時点)では、2020年3月期の決算短信が最新の資料となります。

有価証券報告書の方が情報量が多いので、できればこちらを参照したいのですが、まだ公開されていないので。2019年3月期の有価証券報告書も参照すると良いでしょう。

決算短信の表紙を見る

まず最初に見るのが、表題部分です。

この通り、「IFRS」と書かれています。
つまり、国内基準の会計基準ではなく、国際会計基準(IFRS)で作られた決算資料だ、ということがわかります。

見方が、一般的な資料とは異なるので、注意していく必要があります。

では、どんどん見ていきましょう。

表の上の部分、「連結経営成績」を見ると、直近期とその前の期の業績を確認できます。

この通り、「親会社の所有者に帰属する当期利益」の欄を見ると△6,046百万円という数字が確認できます。
ここが報道で言っている、「60億円の赤字」部分に該当します。

ただ、営業利益を見ると△752百万円となっているので、単純に60億円の赤字だ、と判断してはいけないことがわかります。
加えて、会計基準がIFRSなので、減損損失が営業利益に反映されてしまうことも留意しなければいけません。

決算短信の表紙をこのまま舐めるなら、次は自己資本比率とキャッシュ・フローの状況も確認します。

この通り自己資本比率、表上は「親会社所有者帰属持分比率」ですが14.1%ということがわかります。
赤字が続いて、資本がどんどん削られていっている状況です。

営業利益が8億円の赤字で、言うほど悪くなさそう、という感覚を持ちつつも、状態としてはとてもじゃないが良い状態とは言えない、と判断できます。

キャッシュ・フローはどうでしょう。

この通り、営業キャッシュ・フローは13,920百万円となっており、結構潤沢な状況です。
一方、投資キャッシュ・フローは△3,390百万円、財務キャッシュ・フローは△27,549円と、ここで大きくキャッシュを食っていて、着地27,047百万円の残高、ということがわかります。

ここからだけだと、どの程度のヤバ味感なのかがわからないので、具体の財務諸表の方を見ていきます。

財務諸表を見る

まずBS(連結財政状態計算書)です。

上から舐めていくと、使用権資産が37,409百万円計上されていることがわかります。

これは、いわゆる「リース資産」ですね。

これの影響もあり、有利子負債が合計384億円増加しています。

短期の有利子負債は44,239百万円ですので、2021年3月期の財務キャッシュ・フローは、新規の借入を行わなければ△442億円は発生してしまうことがわかります。
これは、営業キャッシュ・フローがFY20と同程度の139億円が出ると仮定した場合、FY21で資金が底をつくということです。

ここまで見て、早急に事業の回復と、新規の資金調達が必要だ、と大枠で判断がつきます。
(後は、資本の部を見て、自己株式の有無とかがあれば見ますが、ライザップはなさそうです。)

次にPL(連結損益計算書)を見ていきます。

販売費及び一般管理費にある「その他の費用」には減損損失が含まれます(IFRSですので)。

つまり、減損損失が無い、国内会計基準で考えるならば、おそらくFY20は黒字だったのでしょう。

そして赤字60億円の中身として、営業黒字を食いつぶした減損損失もそうなのですが、金融費用(支払利息)の2,653百万円、法人税の2,570百万円があることがわかります。

赤字なのに、なんで法人税が発生しているの?と疑問をもった方もおられるかもしれません。

これは、連結ベースであり、黒字の会社が存在するならば、その会社単位では法人税が発生することと、
そして、減損損失は税務上の費用にはあたらないため、会計上は赤字でも、税務上は黒字であるため、
の2点が影響します。
ややこしいですね。

とりあえず、PLを見て思うのは、少なくともFY21で減損損失が出ないように事業業績を回復させるならば、最終黒字は達成できてもおかしくはなさそうだ、ということが判断できます。

キャッシュ・フロー計算書では、今回においては、あまり見るべきところはなさそうです。

営業キャッシュ・フローのほとんどが減価償却費と減損損失から構成されているね、というと所と、
財務キャッシュ・フローの、借入とリースの返済がBSからもわかる通り、すごい金額だね、という点を舐めながら確認できれば良いでしょう。

セグメント情報を見る

最後にセグメント情報です。

この通り、「美容・ヘルスケア」事業の赤字が大きなインパクトを占めている、ということがわかります。
創業事業なのですから、ここは何とかして欲しいですね。

ただ、他の事業が黒字(前期から比較して劇的に改善していてすごいです)なので、後は美容・ヘルスケア事業を立て直せば、一定先が見えてくると言えます。

とりあえず、決算短信を確認するのはここまでです。

有価証券報告書を見る

決算短信で結構な情報を得られたので、ざくっと把握したいレベルならば有価証券報告書まで見る必要はなさそうです。

ただ、会社理解のためには有益な情報が盛りだくさんなので、もう少し深い分析をするのならば確認をした方が良いでしょう。

例えば、経営指標等の推移を見れば、過去5年分の業績推移の概要を確認する事ができ、全体のトレンド感を把握できます。

事業系統図を見れば、複雑な連結会社における全体構造を把握する事ができます。
セグメント別に状況を見る場合、必須の前提知識になるので、留意が必要です。

設備の状況を見れば、どのような領域にどれくらいの投資を行っているのかが把握できます。
他の決算説明資料で、投資計画を見る際に、ここを抑えておくとよりイメージが湧きやすくなるでしょう。
計画では過去の分だけでなく、未来の分まで表記されており、決算説明資料の投資計画と整合させながら確認することができるはずです。

大株牛の状況を見れば、株主の構成を把握することができます。
筆頭株主であるCBM株式会社は、創業社長である瀬戸氏の資産管理会社であることがGoogle検索をすればわかります。
つまり、瀬戸家で60%以上の株式を保有している状況です。
他の株主からの余計な横やりを防ぐことができますが、マジョリティを保有している、という状況がガバナンスの緩みを招き、経営の混乱につながっている要素は間違いなくあると思いますので、ここは猛省いただきたい所です。

他にも、有益な情報が有価証券報告書には盛り込まれているので、一通り内容を確認してどのような内容が記載されているのかを知っておくと良いでしょう。
目的に応じて、効率よく確認ができるようになります。

今回は省略しますが、のれんの情報や減損損失の情報も確認できるので、詳細に財務分析をする際には確認が必須になります。

決算説明資料を見る

決算短信や有価証券報告書は、記載内容がルールで決まっており、あまり会社ごとに色を出すことができません。
(出しても良いのですが、通常、やりません。)

ルール外の、会社が任意で出す資料があり、その中に有益な情報が詰まっている場合があります。
この任意で出す資料が決算説明資料です。

それでは、決算説明資料を舐めていきますが、一番知りたいのはなんでしょう。
人や目的によりなのですが、やはりセグメント別で唯一の赤字である「美容・ヘルスケア」事業、この中でも屋台骨となるRIZAP事業の状況を知りたいはずです。

それが資料後半の方に掲載されていました。

こちらにある通り、5月25日の緊急事態宣言解除後、予約件数が大きく回復している、ということがわかります。
この通りに確かに進んでいるのならば、確かに1Qは結構なダメージをうけつつも、その後は回復していくであろうことが推測できます。

新型コロナウイルスの影響から脱して、回復基調に向かえば、何とかセグメント別利益で黒転させることができるかもしれません。

後は、ガンガン進めてきたM&Aの成果、ということで、次の資料も注目です。
比較的良い部分だけをピックアップしているのが気にならないわけでは無いですが、不採算案件は売却をしているのでスルーです。
とりあえず、事業再生を行うノウハウが蓄積されているであろうことが読み取れ、「美容・ヘルスケア」事業においても回復が期待できます。

さらに、この資料にもある通り、59億円程は一過性のダメージ、ということらしいので、加えて回復が期待できます。

営業キャッシュ・フローの回復と、資金調達による財務キャッシュ・フローのコントロールが成功するならば、長期的に再成長の曲線を描いていくことが一定期待できそうです。

ただ、下記資料の見せ方が、個人的には気になります。

例えば、こちらです。
IFRSであり、日本基準とは見方が異なるよ、ということを言いたいのはわかるのですが、何となく「減損がなければ黒字だったんだ。」という言い訳がましい資料に見えなくもありません。
IFRSを選択した以上、減損が営業損益にヒットすることはわかっていたはずなので、資料の並び順含めて、微妙に感じます。

また、こちらの資料では財務の健全性、と称して有利子負債の推移を示していますが、資料内にも記載のある通りリース負債除くの数字となっています。
BSを見ればわかる通り、リース債務のウェイトは大きなものになっているので、これを除いて財務の健全性を語るのは如何なものでしょうか。

上記の通り、決算説明資料は「会社が見せたい内容」になっているので、注意して読み込む必要があります。
とはいえ、決算短信や有価証券報告書には無い情報が盛り込まれているのも確かなので、読解の能力を磨くと非常に有益です。

最後に

以上、簡単ではありますが、決算資料の見方について、ライザップを例に解説していきました。
これは本当に、経営企画担当者などが、ざっと他社決算資料をレビューする感覚の見方です。
ですので、見落としもあるでしょうし、本格的に分析したら違った解釈や感想を持つかもしれません。

一番大事なのは、資料を見る目的です。

株式投資などが目的で分析をする場合、上記のメッシュ感では流石に荒すぎます。
ただ、レビュー目的でざっと見るレベルならば、要点を抑えて時間もかけずに見る事が求められるはずなので、このメッシュ感が妥当ではないかと考えられます。

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ワタミは強い~キャッシュ・イズ・キング~

新型コロナウイルス感染拡大による経済不況により、居酒屋業界は多大なダメージを受けています。
今回は、居酒屋業界の例として直近5月の全店前年同月比が9%(▲91%)のワタミを取り上げます。
ワタミの経営は大丈夫なのでしょうか?

直近の月次業績

早速ですが、ワタミ㈱の月次業績推移は次の通りとなります。

ワタミ㈱月次業績推移(前年同月比)_ワタミ㈱IRページより

この通り(赤色網掛部分)、全店の前年同月比が3月は60.5%、4月は8.1%、5月は9.2%という前代未聞の数字となっています。
これは、外出自粛、営業自粛要請に伴う、店舗休業の影響です。

このような状況のため、60店~80店の規模で店舗クローズを行う旨の報道が出ています。

ワタミ㈱の業績状況

それでは次に、業績、PL推移(四半期毎)です。

ワタミ㈱PL推移(四半期毎)_ワタミ㈱決算資料より作成

居酒屋業態が主要事業ですので、第3Q(10月~12月)に儲けて、他の四半期は赤字、もしくはそれに近い状態ということがわかります。

ここから上の前年同月比のデータを用いて業績シミュレーションを行いたいと思うのですが、ワタミ㈱の場合は単純には行きません。

ワタミ㈱は、居酒屋、つまり外食事業の他に、お弁当宅配の宅食事業、農業、環境事業などがあるからです。
セグメントベースで業績を考えていく必要があります。

ワタミ㈱のセグメント利益を四半期毎に輪切りしたものが次の資料です。

ワタミ㈱セグメント利益推移(四半期毎)_ワタミ㈱決算資料より作成

この資料を元に、2021年3月期の業績をシミュレーションしてみましょう。

なお、ワタミ㈱は2021年3月期の業績予想を、「合理的に算定することが困難」として公開をしていません(当然ではありますが)。

2021年3月期の業績シミュレーション

シミュレーションの前提条件は次の通りです。

外食事業のシミュレーション前提

  • 1Qは、6月に営業を再開し、多少の回復をすることを前提に四半期全体で25%の前年同月比を置く
  • 2Qは影響を引きずり60%、3Q4Qも同様ももう少し回復する前提で80%の前年同月比を置く
  • 原価率30%、人件費率30%、家賃・減価償却費等比率30%、その他費用率10%とする
    (セグメントベースで見ると、外食事業は利益がほとんど出ていないので、売上100%に対して費用も100%で設定)
  • 原価率は物流固定費の存在はとりあえず無視して完全変動費とする
  • 人件費は、休業中も正社員の給料保証を行っているので100%、パート・アルバイトは完全変動費とする
  • 正社員とパート・アルバイトの比率は50%:50%でざっくり設定
  • 家賃・減価償却費等は完全固定費とする
  • その他費用は完全変動費とする

その他、宅食事業と環境、農業、全社調整額は前年の横置き、海外事業は中国エリアの撤退やコロナ影響を考えて、前年4Qをそのまま通期に渡り横置き、としました。
(上の方で示した前年同月比で、宅食事業が増加傾向にあったので、多少プラスで置いても良いかもしれませんが、とりあえず横置きです。)

これらを反映させた、2021年3月期の業績シミュレーションは次の通りとなります。

ワタミ㈱2021年3月期業績シミュレーション

一番右下の営業損益▲8,600、単位が百万円なので営業赤字86億円という数字になりました。

すごい数字です。
本当に、ワタミ㈱の経営は大丈夫なのでしょうか?

キャッシュ・イズ・キング

結論、すくなくともこの先1年でどうこうなることは無いと言えます。

理由は、営業赤字の額面ほどのCash流出が無いことと、ワタミ㈱が多額のCashを保有していることです。

実際のCash流出額

ワタミ㈱のFY19、FY20の減価償却費は約29億円計上されています。
減損損失を計上しつつも、有形固定資産と無形固定資産の簿価残は、FY19、FY20で同程度の数字がBS上計上されており、FY21も同程度の減価償却費約29億円が計上されるものと考えられます。

つまり、実際のCash流出額(営業キャッシュ・フロー)は86億円ではなく、約57億円と考えられます。

加えて、報道の通り店舗クローズが行われるであろうことと、コスト削減を行わないということは無いでしょうから、営業キャッシュ・フローは上記ほど悪化しないことは間違いなく指摘できます。

投資キャッシュ・フローや財務キャッシュ・フローについても、追加融資を行いFY21の追加投資と借入返済分は調達するであろうことから、実際のCashOutはもっと小さくなるはずです。
(短期借入金約69億円もロールするものと思われます。)

自己資本比率が34%と、外食産業としては比較的普通な数字であることも追加融資を有利に働かせるでしょう。
売上全体では50%減にはなっていないので、融資保証は交渉が難しいかもしれませんが。

多額のCashを保有している

そしてこれが一つ大きいのですが、ワタミ㈱は2020年3月期時点で約109億円のCashを保有しています。
(過去に行われた、ワタミの介護㈱の売却がここで効いてきているわけですね。)

つまり、この先1年でワタミ㈱がどうこうなる、ということは無いと考えられます。

正に、「キャッシュ・イズ・キング」です。

ただ、キャッシュ・フロー自体は大打撃を受けている状態ですので、既に計画しているであろう不採算店のクローズ、安全資金確保のための追加融資は早々に行う必要があります。
創業オーナーは「居酒屋3割閉店を覚悟」とのことですが、これは必須と考えた方が良いでしょう。

ワタミ㈱からの学び

ワタミ㈱の財務分析を行っていて感じるのが2点あります。

1つが、上述の通り「キャッシュ・イズ・キング」です。

Cashが潤沢にあれば、とりあえず何とかなります。

2つが、異なるタイプの主力事業が他にあることの強みです。

ワタミ㈱は外食事業の他に、高齢者向けのお弁当宅配事業である宅食事業があります。
この宅食事業が十分な利益を出しており、外食事業が傾いていても、経営に致命的なダメージを及ぼさずに済んでいます。
同じ食に関連するビジネスでも、外の食と中の食で分散されており、これが今回のコロナ危機では幸運な方向に働いたと言えます。


同じ外食産業でもレストラン事業一本で経営をしている㈱ジョイフルに関しても、同様の分析を行っておりますので、参考にしてみてください。

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ジョイフルは結構大変な状況にある

㈱ジョイフルが200店舗クローズするリリースを出しました。
レストラン業態一本で経営している㈱ジョイフルは、新型コロナウイルス影響を当然に受けています。
ここでは、㈱ジョイフルの経営状況について考察していきます。

直近の業績と200店舗クローズ報道

新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言、外出自粛の影響で多くの業種業界が経済的ダメージを受けています。

レストラン業態一本で飲食店経営を行っている㈱ジョイフルも例外ではなく、直近の月次業績は次の通りとなっています。

ジョイフル前年同月比業績推移 ㈱ジョイフル_IRページより

2020年3月は82.5%、続く3月4月は43.8%、46.4%と非常に厳しい結果となっています。

これの影響もあり、6月8日には、「今後の退店計画に関するお知らせ」として、ジョイフル業態を中心に200店舗をクローズするリリースが出されていました。

(略)
今後の退店計画に関するお知らせ

当社は、2020年6月7日開催の取締役会にて、以下のとおり今後の方針を決定いたしましたので
お知らせいたします。

1.退店規模

ジョイフル業態を中心とした200店舗程度を予定

2.退店理由

今回のコロナ禍や今後も定期的に同様の感染症が発生することが見込まれる中、消費者の行動や外食に対する価値観など、外食産業を取り巻く環境が大きく変化することが見込まれます。
このような非常事態に対処すべく、今後の経営方針として、財務基盤の強化を図る観点から収益力を改善し手元流動性を高めていくため、収益改善が見込めない店舗の退店を柱とする経営合理策を実施することにいたしました。

3.退店時期

2020年7月以降順次

(略)

㈱ジョイフル「今後の退店計画に関するお知らせ」より

㈱ジョイフルの経営は大丈夫なのでしょうか?

㈱ジョイフル業績状況

それでは、具体的に業績を見てみましょう。

各決算期の数値は短信なり有報なり見ていただければ良いでしょうから、ここでは前期(2019年6月期)と当期(2020年6月期)の開示されている部分までの、四半期毎の輪切りのPLサマリーを示します。
(なお20年3Qは決算延期で、まだ開示がされていません。)

㈱ジョイフル四半期毎PLサマリー 決算資料より作成

この通り、7月~9月で利益を出し、後は赤字が続く構造、ということがわかります。
つまり、‟例年通り”進捗したとしても、まだ開示されていない1月~6月は数億円単位の営業赤字が見込まれる形となります。

次に、業績指標の推移です。
こちらは有報、四半報から抜粋します。

㈱ジョイフル業績指標推移 有価証券報告書,四半期報告書より作成

ここで一番、頭に入れておくべき数字は赤色網掛で示した部分、現預金残高です。

㈱ジョイフルは2019年12月末時点で、約49億円のCash残高がありました。

会社という物は、どんなに赤字を出したとしても、お金が尽きない限りは倒産しません。
逆に言うと、どんなに黒字が出ていたとしても、お金が無くなれば倒産です。

つまり、今回の感染症に起因する不況を乗り越えるまでに、この現預金残高約49億円がもてば、まずはOKと言えます。

業績から考えられる直近のバーン

となると次に考えるべきは、まだ開示されていない2020年1月から6月までの業績の予測です。

上述、四半期毎PLサマリーから推測されるに、㈱ジョイフルの四半期毎のPLは次の数字をモデルとして置けそうだと考えられます。

予測モデルPL 決算資料より作成

これを3で割って、1月毎の100%イメージとして横置し、同じく上述した前年同月比の影響を反映させれば、ざっくりとではありますが、2020年1月から6月までの業績を予測することができます。
まだ数字が出ていない6月は、ある程度回復しつつも3月には届かない70%と置きました。

後のパラメータは次の通りで仮置きしました。

売上原価は、完全に変動費と仮定します。
(物流固定費があるため、実際はそのようなことはあり得ませんが)
販管費は、55%を家賃や本社費用の固定費、45%を人件費(完全変動費とする)と仮定します。
減価償却費をキャッシュ・フロー計算書から持ってきて、割り振ります。
EBITDAは、営業利益に減価償却費を足した簡易的なものとし、ざっくりとしたCash回収能力の指標とします。

これらを全て反映させると、次の通りとなります。

2020年3Q,4Q予測PL

こちらにある通り、この3Q,4Qで約26億円のCashがバーンする計算になります。

結構大変な状況にある

Cashは足りない

2019年12月末のCash残高が約49億円で、3Q,4Qのバーンが約26億円なら、問題がないか?というとそうでは無さそうです。

㈱ジョイフルの第46期 第2四半期四半期報告書を見ると、「1年以内返済予定の長期借入金」が約26億円あることがわかります。

つまり、3Q,4Qのバーン金額約26億円と、借入返済約26億円とで、合計約52億円のお金が必要なことになります。
約49億円のCash残高では足りません。

例年通り7月~9月の業績で営業キャッシュの獲得が出来れば良いですが、社会トレンドを考える限り、ここに頼るのは明らかに危険でしょう。
また、業績予測の前提も、より悲観的状況になったとしたら、もっと悪い数字になります(もちろん、反対に、出血を抑えて、赤字を最小限に留められている可能性もありますが)。

必要な対策

リリース通り、業績回復が見込めない200店舗のクローズを、早々に進める必要があるでしょう。

また、(既に進めているでしょうが)運転資金として追加の融資も行う必要があります。
自己資本比率的には30%を切っており、決してゆとりのある数字ではありませんが、前年同月比で半分以下に落ちているため、新型コロナウイルス対策融資・保証を受けられるはずです。

また、約37億円ある自己株式の放出も、検討を行った方が良いでしょう。
自己株式は2,489,500株あるとのことで、直近の株価830円から換算するに、最大約20億円ほどのCash確保が可能です(希薄化もありますし、株価は水物なので、実際は、そんなにうまくいきませんが)。

最悪、オーナー一族の株をファンドに売却し、支援を得るという方策も考えられます。
(オーナー一族の株式は合計で約56.9%になる。)

ファンド支援までは何とか避けることができるでしょうが、
出血を最小限に抑えること、少しでも多くのCash確保に努めることの2点が早急に必要です。

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UUUMは大丈夫なのか?~人材教育が課題か?~

ここ1月ほど、UUUMより所属大物YouTuberが次々と脱退する、という情報が流れています。
そして、UUUMは大丈夫なのか?という声もちらほら上がっています。
ここでは、UUUMの決算資料を元に、業績面や課題に関して考察していきます。

UUUMより脱退する理由

各YouTuberのコメントや各種情報を拝見する限り、YouTuberの方々がUUUMより脱退する理由は結論1つに集約されるという印象を受けました。

それは、マネジメント料です。

UUUMでは、YouTuberが獲得した収益の20%をマネジメント料として受け取っており、これを売上として立てているようです。

つまり、YouTubeチャンネルが成長し、広告収入が増えれば増えるほど、YouTuberがお支払いしなければならないマネジメント料は増えていく計算になります。
そのため、広告収入が高い人ほど、UUUMから受けるマネジメントサービス(各種企業案件の紹介等含む)と、支払うマネジメント料とのバランスを考えます。

YouTubeは、極論一人でも運営ができる仕事のため(企画から撮影、編集、マーケティングetc)、必ずしもどこかの事務所に所属をしなければならないわけではありません。
支払うマネジメント料の分、自分で人を雇って運営する方が良い、と考える方も当然いらっしゃるでしょう。

また、今のタイミングは、新型コロナウイルスの影響もあり、広告を出稿する企業も減っています。
つまり、企業案件などが激減しているタイミングであり、今後の運営のことを考えて脱退する、と判断される方も当然いらっしゃると考えられます。

大物YouTuberが次々と脱退表明をしているので、小規模のYouTuberの方々も、辞めていいんだ、という心理が働いた点も指摘できるかもしれません。

ようは、単純にメリット・デメリットの問題というわけです。

経営状況

それでは、具体的に業績をみていきましょう。
なお、UUUM㈱は5月が決算月なので、来月7月頭~中旬位に期末決算数字が公表されます。

業績概要

UUUM㈱IR資料より作成

売上高は2020年5月計画で220億円(11.5%成長)となっています。
第3Qまでの売上高が167億円ですので、このままいけば達成できる数字ですが、コロナ影響でどれだけアドセンス収入などが落ちたのかが不明なため、未達の可能性も十分にあります。

利益ベース(経常利益、純利益共に)では、計画9.4億円、3Qは10億円だったので、達成できそうな気はしますが、上述コロナ影響がどこまで響くか次第でしょう。

表面的な業績数値だけを見る限り、UUUM㈱がすぐにどうこうなる、ということは無いと言えるでしょう。

計画修正を期中でかけているので、大物Youtuberの脱退などの影響は既に織り込んだ修正計画となっております。
とはいえ、修正計画ベースで11%成長なので、失速をしていることは否めないので、戦略ないしは戦術の修正は間違いなく必要でしょう。

この点はUUUM㈱もおそらく認識はしているでしょう。
四半期毎の輪切りで業績を見ると、数字が若干の減少で横ばい状態になっています。

資金面

UUUM㈱IR資料より作成

資金面では、FY20の3Qで25億円のCash残高となっており、前期比+4億円と増加しています。

ただ、ネットCash(有利子負債、つまり借入と相殺した金額)は、8億円と▲5億円に減少しています。
3Qで本社移転をしており、有形固定資産2億円と敷金3億円の本社投資をしています。
Cash減の金額ときれいにぶつかります。

営業CFベースでは、2Qで3億円となっているので、単純に考えるとFY19の10億円には届かない可能性があります。
十分なCash残を保持していますが、借入が大きく増加している点も踏まえて、注視が必要でしょう。

その他の指標

UUUM㈱IR資料より作成

本社投資により固定比率(固定資産に占める株主資本の割合)が増加しています。
成長には本社投資が一定必要なのはそうなのですが、コロナ影響も含めて、結果論としてタイミングが悪いと言えます(UUUM㈱に非は無いのですが)。

自己資本比率、ROA、ROEの数字も3Qは悪化した状況なので、経営効率は悪くなっているように見える状況です。

売上関連指標

それでは、次に売上の内訳を深堀しつつ、UUUMの課題を見ていきます。

UUUMは4つの収益源があり、それぞれ次のような推移となっています。

UUUM㈱IR資料より作成

IR資料(決算説明資料)では、有価証券報告書には掲載が無い、動画再生回数やチャンネル数の情報がありました。
これらを踏まえて、再生回数や、チャンネル数あたりの収益力を見てみます。

UUUM㈱IR資料より作成

この通り、再生回数、チャンネル数は増加を続けています。
そして、再生回数当たりのYouTube収益、チャンネル数当たりのYouTube収益も、ここ数年で大きく上昇した形になっています。

再生回数当たりのYouTube収益はFY19とFY20で同程度で0.28円という数字です。
ただ、チャンネル数当たりのYouTube収益は、FY19で1,670千円なのに対し、FY20_3Qで1,412千円と悪化しています。
この点が、大物YouTuberが脱退した影響でしょうか?

再生回数当たりの企業タイアップ収益もFY19の0.11円からFY20_3Qの0.13円と改善していますが、
チャンネル数当たりの企業タイアップ収益は、FY19の696千円からFY20_3Qの673千円と悪化しています。

チャンネル数が増加している中での指標悪化なので、所属YouTuberのチャンネル・パワーの強化が必要となってくるでしょう。

最後に販管費ベースも見ていきます。

UUUM㈱IR資料より作成

UUUMは、広告宣伝費はあまりかけておらず、人件費が販管費全体の約半分を占めています。

人件費はFY17からFY18で大きく増加、これは上場にあたり、従業員のベースアップを行ったことが推測されます。

その後も平均給与は増加を続けますが、FY20で平均給与が減少に転じます。
おそらく、人員の大幅拡大にあわせて、スタッフ層の比率が増えたことが推測されます。

問題なのは、人件費効率(人件費当たり売上高)です。

FY17:8.4百万円 ⇒ 上場 ⇒ FY18:7.4百万円 と悪化しましたが、FY19:7.7百万円と改善します。
ハイレイヤー層中心の雇用が行われたのか、経営としての効率が上昇していました。

しかしFY20では、1Q,2Q:7.0百万円、3Q:7.2百万円と悪化します。

人員数も500人に迫る勢いで増加しており、そしてスタッフ層を中心に雇用しているであろうこともあり、採用に対して教育が追い付いていないのでは?と考えられます。

もしかしたら、UUUMのYouTuber脱退は、相対的なサービス水準の低下も影響しているかもしれません。
(大物Youtuberが脱退したから、人件費効率が悪化したのか、それとも、急な採用で教育が追い付かず人件費効率が悪化したのか。この順番はわかりませんが。)

今後どうしていくか?

業績推移を見ていく限り、経常利益率は5%前後であり、決して高い数字ではありません。

そのような中、単純にトップラインを下げるような選択は、経営としては難しいでしょう(マネジメント料20%の問題)。
マネジメント料のキャップを設けて、アドオンのマネジメントサービスでお金をとる、という選択肢もあるでしょうけれども、決断は難しいものがあります。
新型コロナウイルスの影響により、広告出稿の減少もあるでしょう。

となると、経営の効率をあげていく方向で考えていくことが、直近では大きな課題と言えるかもしれません。

上述の通り、所属YouTuberのチャンネル・パワーの強化
そして従業員への人材教育に力を入れて、人件費効率を高めていくのです。

これは、アドセンスや企業タイアップ収益を増やすことに直結しますし、
また、クリエイターサポートその他の売上をあげて、アドセンスや企業タイアップ収益への依存を少しでも下げることに寄与します。
また、YouTuberの脱退防止にもつながります。

会社が急成長すれば、人の部分にひずみが生じるのは当然のことです。
元々、本社移転を行い、更なる人の拡充を計画していたはずです。
(新型コロナウイルスの影響もありますが)

社内外含めた人材教育にUUUM㈱の課題あり、と以上の通り考えました。

UUUM㈱の業績については、こちらの元資料(UUUM㈱IR資料)もご参照ください。

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誹謗中傷裁判費用集めにクラウドファンディングを使うのはやめたほうがよい

誹謗中傷がにわかに社会の注目を集めています。
そして、その解決手段としての裁判費用集めに、クラウドファンディングを利用するのはどうか、という声が出ています(リーガルファンディング)。
これは、やめた方が良いです。

リーガルファンディングとは

何かしら裁判(訴訟)を起こそうとすると多額の費用がかかります。

  • 裁判所に訴訟を提起するときに必要な印紙代
  • 弁護士費用
  • 移動費など各種実費、その他もろもろ

裁判に必要な費用は、数十万円から数百万円に昇る金額まで、内容や状況により様々なのですが、少なくとも一般人が気軽に負担できる金額ではありません。

そのような中、少しでも負担を軽くしようと、インターネットを通じて不特定多数の方々から支援を募り、プロジェクトに必要な資金を集めるクラウドファンディングの仕組みを活用したリーガルファンディングが登場しました。

このリーガルファンディングを、最近日本社会で注目が集まっている誹謗中傷の解決に活用できないか?という声が出ています。

誹謗中傷の解決手段の一つである裁判は、上述のとおり多額の費用がかかるため(そして時間もかかる)、ためらい、泣き寝入りする事例が多いのが実態です。
この費用負担をリーガルファンディングにより軽くできるなら、社会課題の解決につながるかもしれない、という理由からでた動きです。

しかしながら、誹謗中傷解決のための裁判費用集めに、リーガルファンディングを利用するのは、いくつかのリスクがあるためおすすめができません。

誹謗中傷解決手段としてのリーガルファンディング利用のリスク

具体的なリスク

誹謗中傷解決手段としてのリーガルファンディング利用のリスクとしては、次のようなものがあげられます。

  • 相手への名誉棄損になりやすい
  • 気軽に訴訟を起こせる環境は、訴訟相手にも負担をかける
  • ファンディングに対するリターンがしづらい

相手への名誉毀損になりやすい

一番目のこれが最大のリスクかもしれません。

クラウドファンディングで注目を集め、具体的に支援をえるためには、かなり広い対象にPRする必要があります。
つまり、誰だれから誹謗中傷の被害を受けているため、解決したい、ということを具体的にアピールする形になります。

ここまで書くと、もうわかると思いますが、上記行為自体が相手への誹謗中傷、名誉毀損になりうる、ということです。

名誉毀損は、「事実の提示によって」「公然と」「人の社会的評価を低下させるおそれのある行為をした」ことが該当します。
訴訟(予定)相手が、確かに不当に誹謗中傷を行い、被害を受けていたとしても、名誉毀損の訴訟をやり返されるリスクが存在するわけです。

また、もし訴訟(予定)相手に瑕疵がなく、仮に裁判所が誹謗中傷にあたらないと判断してしまったら、一方的に相手をおとしめたことになります。
つまり、被害者であったと思っていたら、加害者側にまわっていた、ということになりかねないのです。

気軽に訴訟を起こせる環境は、訴訟相手にも負担をかける

アメリカくらいに訴訟が当たり前の社会になったのなら、受け止め方も変わるのかもしれませんが、気軽に訴訟を起こせる環境ということは、自分だけでなく訴訟相手にも負担をかける行為になります。
(訴訟を起こすにもお金がかかるように、訴訟された側も弁護士費用などが当然にかかる。)

訴訟(予定)相手に問題があり、その訴訟が本当に必要なことならば、それは問題にならないのですが、仮に上述の通り、相手に問題がなかった場合にはどうでしょうか。
相手にしてみれば、たまったもんではありません。

ファンディングに対するリターンがしづらい

誹謗中傷案件でのリーガルファンディングで、支援者が期待するものはなんでしょうか?

おそらく、誹謗中傷を行った加害者が、社会的に制裁を受けることに関わる、その様子をつぶさに見れる、こと。
つまり、正義の側に立ち、一方的に鉄槌を下したい、ということと考えられます。

このことに対しての是非は問題ではなく、ようは、リーガルファンディングで支援者が期待することと、そもそもの裁判という手続きの相性が悪い、ということです。

裁判の手続き中(準備期間から実際の裁判中、そしてその後含め)は、情報の開示に制限が出ます。
情報開示自体が裁判上不利になることもあり、気軽にできないのです。

また、裁判の結果として、和解に至る場合や、秘密保持の義務などがあるため、つぶさに情報を開示できるわけでもありません。

つまり、せっかく支援したのに、状況がどうなっているのかがわかり辛いのです。
支援者側にしてみれば、フラストレーションがたまることでしょう。

では、勝訴や和解の結果として、賠償金,和解金をえられたとして、それをリターンしようというのも難しい点が発生します。
クラウドファンディングでは、その仕組み上、現金の還元が難しいという点が指摘できます。
訴訟相手が必ずしもお金を持っておらず、そもそもとして賠償金をえられない、という状況もありえます。

以上のことから、誹謗中傷の解決方法としての裁判費用集めに、クラウドファンディングを利用するのはやめた方が良い、と言えます。
そのため、現状では民間の自助努力が最も望ましいと言えます。


誹謗中傷に関する法的規制の問題点に関しては、こちらの記事も参照ください。

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休業要請緩和が見えてきた今考えるアフターコロナのスポーツジム

東京都の休業緩和のロードマップで、スポーツジムがステップ2にカテゴライズされました。
休業要請緩和の具体性が見えてきて、苦しい営業状況にあった環境になんとか光明が見えてきました。
しかし、これで本当にスポーツジムの経営は救われるのでしょうか?

スポーツジムはステップ2に入った

東京都が26日、新型コロナウイルス対応に伴う、休業要請、短縮営業要請に関して、緩和の工程をしめすロードマップを提示しました。
そのロードマップの中で取扱いが混乱したのがスポーツジムとカラオケ施設です。

当初、スポーツジムやカラオケの取扱いはステップ3の先におかれ、全面解除後に営業を再開できる、としていました。
理由としては、クラスター発生の前例があるから、リスクが高いであろうというもので、あまりロジカルな根拠ではありませんでした(余談:これも誹謗中傷にあたるのであろうか)。

これが今回、スポーツジムはステップ2に、カラオケ施設はステップ3に区分されるということになりました。
25日に国が基本的対処方針を示したことで、東京都がそれにあわせた形になります。

そもそもスポーツジムは3密なのか?

ただ、そもそもとしてスポーツジムは3密なのでしょうか?

3密とは、密閉、密集、密接のことです。

密閉は、窓がなかったり換気ができなかったり施設です。
密集は、人が大勢集まったり、少人数でも近接した距離で人が集まることです。
密接は、互いに手が届くような距離感で会話などを行うことです。

つまり、入場制限を行ったり、換気を徹底したり、人気のあるトレッドミル(ランニングマシン)などを一部使用禁止にして人と人との距離感が保てるようにしたりと、対策をきちんととれば3密の環境ではなくなります。
また、多くのスポーツジムでは、消毒液と使い捨ての布巾などが設置されている場合が多く、(少なくともマナーが良い利用者は)大体使用後に使用した器具類を清掃するものです。
当然、利用前に自分で清掃することも可能です。

私が知っているあるスポーツジムでは、時間帯を区切った予約制と人数制限を採用し、また利用するスペースについても制約を設けて営業を続ける工夫を行っています。
加えて、マスクの着用と、入館前の手洗いと消毒、体温測定を行い、さらに換気も徹底した環境を構築していました。
人数を制限することにより、お互いがルールを守って運動することを監視できるという点もあり、これらの対応に全く問題を感じません。

もちろん、地下の立地であったり、格闘技など密着することが前提のスポーツ、水泳など水を媒介するようなスポーツなどでは、できない対応もあるでしょう。

しかし、上述のように、かなり柔軟に判断できるビジネスであるはずなわけなので、そもそもとしての対応に疑問が残ります。

これでスポーツジムは救われるか?

ともかくとして、なんとか営業再開の目途がたったわけですが、これでスポーツジムは救われるのでしょうか?

結論としては、しばらくは非常に厳しい状況が続くと言えます。

3月はもともと、人生の転換が多い季節でもあり、スポーツジムの解約が多い月と言えます。
地域にもよるのですが、1割から3割程度のレンジで解約が発生するのが例年の数字です。

しかし続く4月は新しい年度がはじまる月です。
心機一転なのか、上記1割から3割の解約分に相当するだけの新規入会者が来るのも例年の数字です。
これで、会員数はイーブンに保たれるわけですね。

これが今回の新型コロナウイルスの影響により、状況が大きく変わっているという声を多く聞きます。

いくつかヒアリングするに、解約が3割から多い施設では5割を超える規模感で発生し、更に休会も多く発生しているというのです。
そして、本来新規入会があるはずの4月で、全く会員が増えず(営業をしていない、もしくは大幅に規模を縮小しているので当然なのだが)、売上規模としては▲80%~▲100%程度の減少、という状況に陥っているのが、この4月5月の動きということです。

休業自粛解除後も、いきなりすぐに顧客が戻るとは思えず、仮に順調に戻ったとしても前年比8割程度で推移するのではと考えられます。
そして、多くの識者が予想しているように、第二波が来たら、この危機をなんとか乗り越えられた事業者も、ついにいよいよという状況に陥る所が増えるでしょう。

オンライン指導にどれだけ移行できるか、しかし過度な期待はできない

上記のことは、多くのフィットネス関係者が理解しており、今注目を浴びているのがオンライン指導への移行や導入です。

飲食店においても、元々宅配やECなどに注力していた事業者は、この危機をうまく乗り越えています。
これと同じような形で、ジムという箱の中でのサービス提供ではなく、デジタルを介したサービス提供に移行できれば、営業を継続することができます。

これまで対面で指導を行ってきたトレーナーにとって、この転換をどこまで行うか、行えるかは苦悩が多いでしょう。
ウェイトなど、機器を使うこと前提の指導は、概ね制限されてしまうことも指摘できます。
しかしそれでも、自重運動やストレッチなどの指導はできるので、なんとか経営の柔軟性を高めて、アフターコロナも強く生存できる状況を作った方が良いでしょう。

ただ、過度な期待はできません。

いくつかのサービスを見ていると、1回60分程度で1,000円から2,000円、月4回で月額5,000円前後という価格設定が多いように見受けられます。

この場合、一人のトレーナーがあげられる月売上は、3人程度に同時指導を行ったとして、そしてとんとん拍子に行ったとしても精々が600,000円程です。
(一人が絶え間なく一日8時間指導を実施、これを5日間続けると、5日×8人×5,000円×3組=600,000円、という計算)

実際はここまでの数字を出すのは難しいでしょうから、小規模ジムを構えていた場合、家賃分の補填をなんとかできるレベルの数字しか出せません。
また、大勢のトレーナーがオンライン指導に切り替えたなら競争が激しくなり、単価はもっと下がる可能性も考えられます。

オンライン指導は模索しつつも、なんとか他の所でも売上をあげる方法を模索し、経営の柔軟性を高める努力をしたいものです。
(Youtuberのカネキン氏などは、アパレルでも売上をあげていますね。自社ブランドプロテインは、ほぼ利益がでないので手を出すのはNGですが。)

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誹謗中傷に対する法的規制が危ない理由

ここ数日、SNS上での誹謗中傷に関して、様々な報道や議論がされています。
誹謗中傷はよろしいものではない、という点については反論の少ない話だと思いますが、そこから誹謗中傷を規制する必要があるのでは?という意見も出ています。
しかし、誹謗中傷を法的に規制するのは様々な問題があります。
それについて解説していきます。

あまり政治的な話とかは書きたくはないのですが、誹謗中傷を受けて困っている企業、実際にビジネスに影響が出ている企業が存在するのも事実なので、考えをここで書いていきます。

何が誹謗中傷なのかがわかりづらい

誹謗中傷の規制は難しい

いわゆる誹謗中傷、特に匿名による誹謗中傷はアンフェアな卑怯なふるまい、人としてそれはどうなのか?という点に関しては多くの方にとって異論の無い意見だと言えるでしょう。
(嫌ならやめればいいじゃん的なものを含め、様々な意見が存在することもそうだとして。)

一方、誹謗中傷を法的に規制するのは、様々な問題があります。

まず端的に言うと、何が誹謗中傷なのか?という線引きが難しいためです。

どういう表現がOKで、どういう表現はNGなのか?というものを明確にルール化する正解がわからず、規制するのが難しいのです。

加えて、表現の自由にも関わる話です。

この2点。

  1. 線引きが難しい
  2. 表現の自由に関わる

これが、誹謗中傷の規制が難しい理由です。

名誉棄損、侮辱、脅迫

なお、名誉棄損、侮辱、脅迫については一応の基準があります。
そして、日本の法律上も規定されています。

名誉棄損は、人の社会的評価を下げることです。
法的には、公然と、事実を提示し、人の名誉を棄損した場合、となっています。

侮辱も、人の社会的評価を下げることでは一緒ですが、名誉棄損と異なるのが、侮辱の場合は「事実の提示」が無い点です。
つまり、根拠無く言っている場合、ということです。

強迫は、相手に害悪を与えることの告知を行うことです。
その意味で、名誉棄損や侮辱とは異なるものです。

上記の通り、名誉棄損、侮辱、脅迫については、一定のルールが敷かれています。
実際に、民事訴訟や刑事裁判の対象となりうる
のです。

誹謗中傷の規制は民主主義を弱めるリスクがある

では、誹謗中傷はどうか?と言うと、ようは悪口です。

この、名誉棄損、侮辱、脅迫には該当しない悪口をどう評価して、規制のルールを作っていくのか?
どういう悪口が悪くて、どういう悪口が悪くないのか。

ここが非常に難しい部分です。

例えば、純粋に正当な批判であっても、人を悪し様に言っていることには変わりが無いため、誹謗中傷と言えます(もちろん、誹謗中傷と正当な批判は、本来は異なるものなのですが、、、)。
そして、これを言えばわかる通り、誹謗中傷が無くなってしまったら、そもそもとして社会が成立しなくなります。
(極論として、正当な批判・反論でさえNGになりうる。)
この点が、いわゆるヘイトスピーチのような、多くの人が好ましい感情を抱くことのない事象に対しても、規制が難しい理由になります。

そして、もう1点、誹謗中傷に括られる批判を規制していくと、得をする人たちが出てきます。
政治家のような、いわゆる権力者などです。
批判全般は、端的に言って選挙の結果を左右しうるので、政治の世界で生きる方々にとって、この観点でも好ましいものではないでしょう。

このような方々にとって、好ましい形で表現の自由を規制することは、民主主義国家にとっては非常に危険です。
権力のチェック機能が弱まるリスクがあるためです。

それではどうする?

法的な部分の整備

それでは、何も手が出せないか?というとそうではないはずです。

まず、誹謗中傷を受けた際、それに対する対応が非常に煩雑である点が指摘できます。

最初に「加害者」を特定するにあたり、相手の氏名・住所を特定するための開示請求に、時間もお金もかかります。
そして、確実に相手を特定できるとも限りません。
次に、相手が特定できたとしても、追加で裁判が必要で、これにも時間とお金がかかり、確実に勝てるとも限りません。

ここの最初のハードルを調整することはできるはずです。

今の手続きでは、開示手続に裁判所を経由する必要がありますが、これを簡略化するのです。
(もちろん、過度に相手を特定できるような状態が好ましいとも思いませんが。バランスは難しい。)

次にできる点としては、損害賠償の相場を引き上げる、刑事罰を重くするなどでしょうか。
加害者に対する処罰等が重くなり、費用対効果として見合うならば、訴訟と言うアクションをとりやすく、誹謗中傷に対する抑止力となりうる可能性があります。

民間の自助努力

次に、基本的には表現の自由の問題である以上、民間の自助努力として対応する方法です。

AIが発展している背景もあるので、誹謗中傷と判断されうる内容に対して、投稿前に何かしらの警告がでるような仕組みを実装する、という方法は考えられます。
投稿のログを記録すること、内容によっては捜査機関や照会者に情報を開示すること、などの確認が投稿前に出れば、躊躇する人も大勢いるのではないでしょうか。

そしてこれは、SNSプラットフォーム側でできる対応なので、会社としてのポリシーの問題として整理できます。
(Yahoo掲示板のコメントには、適用されることが無いでしょうが、、、、、)

最後に

ちょうど社会的にトレンドになっており、また時代の変化にあわせて関係省庁が動き始めていたタイミングでもありました。

すぐに法的にどうとか、SNSプラットフォーム企業として対応が即座に行われる、という状況になるとは思わず時間がかかるでしょうが、少なくとも時間はかかりつつも状況は良くなっていくのではないでしょうか。

また、声をあげるのも重要です。
微力でも、一人一人がこうして欲しい、こうあるべきだ、という声をあげることで、少しずつ社会が変化していきます。
今の世の中は、誰しもが発信を行える時代です。
この環境を、世の中を良くしていくためのことに使っていきたいと考える次第です。

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経営企画

アフターコロナの世界の持ち家ニーズ

日本経済が伸び悩む中、持ち家に対する意識も大きく変化し、「持ち家信仰」は過去のものとなりつつあります。
そんな中、いくつか持ち家に対するニーズの変化の兆しがありました。
アフターコロナの世界における持ち家ニーズは、どのような変化が見られるのでしょうか?

持ち家信仰が再び復活するという言説

先日、「新型コロナウイルスの常識破壊【持ち家信仰の復活】」と題する記事を見かけました。

内容としては、蓄えが無いが故に家賃を払い続けなければいけない状況はリスクであり、家賃を払わなくてもよい持ち家を良いと思う人が増えるかもしれないね、というものです。
詳細はリンク先記事を読んでください。

この意見自体は、結局ローンを払わなければいけないのならば、ローンが残っている間は結局高リスクだよね、という意味で微妙なのですが(この点は記事執筆者も指摘している)、一部そうなのかもしれないな、と思う点がありました。

それはリモートワークにおいて、一日中、過ごしづらい家にいることのストレスです。

日中のほとんどを外で過ごしているからこその日本住宅

日本の住宅は狭い

まず言えることですが、日本の住宅は狭いです。
次の2つの図を見て下さい。

2015/2016年版 建材・住宅設備統計要覧 戸当たり住宅床面積の国際比較(壁芯換算値)
2015/2016年版 建材・住宅設備統計要覧 一人当たり住宅床面積の国際比較(壁芯換算値)

日本の住宅、特に借家は国際比較で見た時に明らかに狭く、欧米の2分の1~3分の1ほどです。
一人当たり換算でも狭く、関東大都市圏の借家の狭さが際立ちます。

国土交通省が示している、健康で文化的な住生活を送るために必要不可欠な面積が、単身者で25㎡、ゆたかなせいかつを送るための目安では40㎡となっており、これを正とするならば、かなり狭いと言わざるを得ません。

この狭さは、日中のほとんどを外で過ごしており、自宅はほぼ寝るだけの用途となっているからこそ成り立つものの可能性があります。

リモートワークがこれからも継続するならば、日本の住宅事情は、主に借家住まいの方を中心にストレスの原因になっていきます。
特に単身者にとってはキツイでしょう。

単身者向け住宅は伸びるかもしれない

そこから考えられるのが、単身者向けの「持ち家」です。

郊外の小規模戸建てや、都心立地でも1LDKあたりのマンションなどのニーズが高まる可能性があります。
金額も2,000万円~位の値段ならば、比較的ハードルも低くローンも組めるはずで、一定程度稼いでいる単身者向けに、中古のリノベーション・マンションなどが伸びてもおかしくはありません。

空き家問題が深刻になりつつある地方でも、リモートワーカー向けにリノベーションして販売する、ということをトライしてみる価値はあるでしょう。

住宅設計におけるポイントは下記です。

  • (感染症対策に)空気清浄機能や湿度調整機能などを標準で装備
  • (巣ごもり向けに)一日過ごしていてストレスが少ない設計
  • (WEB会議向けに)Zoom映え

変化に応じてチャンスも生まれる

日本という国の全体感から考えると、これからも持ち家信仰そのものは崩れていくのは続くでしょう。

今回の新型コロナウイルスの影響は、不動産業界にとっても喜ばしいことで決してないはずです。
ただ、長期的目線にたった時に、新しいニーズが生まれるであろうことも確かであるはずです。

この変化に応じたチャンスを如何につかむか。
リモートワークの浸透をはじめとした変化は、空き家問題が深刻化していくことが間違いない日本の不動産業界の一つの活路になるのでは、と考えました。

(補足)空き家率の推移と予測について

空き家問題に関しては、リンク先の野村総合研究所の資料が参考になりました。
なお、直近実績は当初予測を下回っているようです。
住宅供給のコントロールや空き家活用がうまくまわれば、空き家問題は言うほどの影響を及ぼさない可能性があります。

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