カテゴリー
IPO・バリュエーション

反社会的勢力調査マニュアル~テンプレートと作成のポイント~

ここでは反社会的勢力調査のマニュアルのテンプレートを提示します。
大枠の手続は、どこの会社においても、カスタマイズするようなことはあまり無いでしょう。
ポイントは適切な運用(明確な記録と保存含む)にあります。

第1章 総則

(目的)
第1条
本マニュアルは、取引先の反社会的勢力との関係の有無を含む属性チェックの手続きについて定める。新規取引開始及び既存取引先の取引継続については、本マニュアルに定める手続を必ず経るものとする。

(反社会的勢力の定義)
第2条
反社会的勢力とは「暴力団」、「総会屋」、「えせ右翼行為」、「えせ同和行為」、「ブラックジャーナリズム」、「金融商品取引法等に違反する反市場勢力」などの違法、不当な行為を行う団体、個人等をいう。

(適用範囲)
第3条
反社会的勢力の排除にかかる信用調査を実施する範囲は以下の通りとする。

  • 「販売」「外注・仕入」「経費」等の全ての取引先
  • 株主
  • 役員及び役員に準ずる者
  • 従業員

2.次の各号に定める取引先については、その社会的な立場等を勘案し、取引調査を省略することが出来る。

  • 官公庁などの公的機関
  • 大手金融機関

3.前項各号に該当する取引先においても、下記の場合は、調査を行わなければならない。

  • 新聞等の報道により、反社会的勢力または反社会的勢力との取引があると報じられた取引先
  • 最近3年間の間に大株主が著しく変更している取引先(四季報等により確認する)
  • その他留意すべき事項がある取引先

第2章 反社会的勢力調査手順

(取引先にかかる実施方法)
第4条
新規取引先については開始前、既存取引先については原則として年に1度一定の時期を定め、継続取引先で前回調査実施から1年以上経過している取引先について調査を行うほか、経営者及び出資者の変更が明らかになった場合、各取引先を管轄する各部署の担当者が風評調査を実施するとともに、その結果を記載した「反社会的勢力調査依頼申請」をもって、リスク管理部門へ依頼するものとする。

~作成のポイント~
申請は電磁的手段、例えばジョブカン・ワークフローのようなものを用いて行い、当該申請内に調査結果を記録する(コメントとして付す)形にすると、管理が容易になります。

調査結果の項目としては次のようなものが考えられます。

・会社名
・代表者変更の有無
・会社名変更の有無
・所在地変更の有無
・役員の変更有無
・会社案内・パンフレット等の入手有無
・事業内容の大幅な変更の有無
・決算書の入手有無
・HPアドレス
・同業他社情報
・現地確認(有無、日時)、会社の雰囲気(違和感、急変)
・外部調査機関への調査有無(調査機関名称と調査結果資料)
・記事検索(日経テレコンやリスクモンスター等)
・関連法規
・インターネット検索
・反社DBの確認や照会
・外部への照会情報(日時、先方担当者、当社担当者、照会内容、回答)

2.リスク管理担当部門の担当者は、インターネットでの新聞記事検索サービスを利用した調査を、以下の手順で行う。

① 「反社会的勢力調査依頼申請」を元に、取引先と代表取締役を調査する。個人が取引先となる場合には、その個人名を持って調査する。当該取引先の業種等によっては、リスク管理担当部門責任者の判断により、取引先役員全員、取引先の主要取引先、取引先の主要株主、取引先の関係会社及び当該関係会社代表取締役等も調査対象に含めるものとする。

② インターネットでの新聞記事検索サービス「日経テレコン」や「リスクモンスター」にて、取引先と代表取締役名にて検索を行う。当該検索において多数の検索結果が検索された場合、下記のキーワードにて絞込みを行う。検索結果は電磁的手段をもって記録を行う。

キーワード

固有名詞 AND ((((不祥事 OR リコール隠し OR 偽装 OR 漏洩 OR 横領 OR 不正 OR 違法 OR 違反 OR 入札停止 OR 排除命令 OR 営業停止 OR 詐称 OR 虚偽 OR 隠蔽 OR 隠ぺい OR 事故 OR 捏造 OR ねつ造 OR 民事再生 OR 暴力団 OR 総会屋 OR インサイダ OR 詐欺 OR 迷惑防止条例 OR 悪徳商法 OR 過激派 OR 共謀罪 OR 不正会計 OR 粉飾決算 OR 悪質リフォーム OR 株価操作 OR 右翼 OR フロント企業 OR 収賄 OR 汚職 OR マネーロンダリング OR 架空取引 OR 脅迫 OR 指名手配 OR 課徴金 OR 追徴金 OR 脱税 OR 監禁 OR 偽造 OR 殺人 OR 死体遺棄 OR 銃犯罪 OR 人身取引 OR 性犯罪 OR 放火 OR 密入国 OR 密輸 OR 誘拐 OR 拉致 OR 麻薬 OR テロリスト OR 強盗 OR 不法滞在 OR 部落 OR 談合 OR 反社会 OR 傷害 OR 窃盗 OR 住居侵入 OR 業務妨害 OR 暴行 OR 賭博 OR 器物損壊 OR わいせつ OR 恐喝) AND (発覚 OR 逮捕 OR 起訴 OR 告発 OR 検挙 OR 送検 OR 捜査 OR 摘発 OR 訴訟 OR 被告 OR 公判 OR 容疑 OR 立件 OR 行政処分 OR 釈放 OR 実刑 OR 行政指導 OR 勧告 OR 強制調査 OR 命令 OR 指導)) OR (流出 AND (個人情報 OR カード番号 OR カード情報 OR 秘密情報)) OR (破産申請 OR 破産手続き OR 破産開始 OR 自己破産申請)) NOT (大統領 OR 首相 OR 総理 OR ランキング OR 産経抄 OR トピックス OR 連載 OR 人事 OR 予算 OR 社説 OR 論説 OR 政治家 OR 参議院 OR 衆議院 OR 相撲 OR 政権 OR 大ニュース OR ヘッドライン OR トップニュース OR 回顧 OR 閣僚 OR 異動 OR 表彰 OR 褒章))

③ 調査結果において何らかの該当があった場合には、詳細調査の手続を行う。

④ 詳細調査においては、リスク管理部門責任者は暴力団追放運動推進センター等への照会や、帝国データバンク等の企業データ等と記事検索調査結果で、住所、年齢、職業等を照合する。

⑤ 照合の結果、住所、年齢、職業等が一致しない場合は、反社会的勢力との関連が無いものとする。

⑥ 照合の結果、住所、年齢、職業等が一致している、若しくは一致しているとみなされる場合には、原則的には取引を行わないものとする。ただし、取引を行うことの検討を継続する場合には、その他調査会社に追加調査を依頼するものとする。

~作成のポイント~
リスク・コンプライアンス委員会のような機関を設置している場合には、調査対象会社が取引先として不適格であることが判明した場合、直ちに取引担当部署に報告するとともに、臨時に委員会を開催し、取引解消に向けての対応策を決定することとする、というような手続きも考えられます。

⑦ リスク管理部門責任者は、前号の追加調査を依頼した場合には、その結果を代表取締役に報告する。

⑧ リスク管理部門責任者は、追加調査の結果、反社会的勢力との関連がある場合、又は反社会的勢力との関連が無いと結論するだけの確証が得られない場合には、原則として取引を行わない。当該会社との取引を行う場合は、さらに詳細な調査を実施し、反社会的勢力との関連が無いと結論付けるだけの確証を得なければならない。

⑨ 子会社についても、前項に準じてリスク管理部門で調査を実施し、各子会社に調査結果を報告するものとする。

~作成のポイント~
海外の取引先属性チェックについては、別の観点を参考として提示します。

1)属性チェックの観点
AML(アンチ・マネー・ロンダリング)    
CTF(テロ資金供与対策)
2)具体的なチェックの方法
新規取引開始時は、インターネット検索サイト(Yahoo、Google等)を用いて検索する。
3)各国政府機関等が公表している「取引禁止リスト」「資産凍結リスト」「重要犯罪者・テロリスト等に関する情報」などと照合を行う。
4)既存取引先については、上位のものについてはFACTIVA等の検索サービスを用いて属性チェックをかけ、最低限のリスクヘッジを行う。上位何社までチェックするかは、取引金額やカバー率等に応じて、個社別に検討する必要がある。
特に、以下のチェック項目に該当する取引先については、慎重に調査を行う。

・連絡が取りにくい(電話に出ない、メールの返信がない)(訪問して)
・電話番号・メールアドレスが頻繁に変わる
・オフィス内に不自然な団体等が同居・存在していないか
・常識を大きく逸脱した取引条件を求めてくる
・対応した者の身なりに不審な点はないか
・担当者が頻繁に変わる
・オフィス内が過度に華美又は簡素ではないか

(株主にかかる調査実施方法)
第5条
中間及び年度末において確定する株主名簿を元に、主な株主(概ね上位30名程度)について、第4条2項の手順に準じた調査を実施する。調査の結果、反社会的勢力との関連があるとされる場合には、当該株主の持分の増減に留意し、当該株主からの要求等について顧問弁護士と相談し慎重に対応するものとする。

(役員にかかる調査実施方法)
第6条
取締役会において、当会社及び関係会社の新規役員を株主総会の取締役選任議案として承認する場合、新規役員の以下の事項を対象に第4条2項に準ずる調査を実施するものとする。

  • 当会社の新規役員、当該新規役員の配偶者及びその2親等内の血族(以下、役員等と言う)
  • 役員等によって発行済み株式総数の過半数が所有されている会社及びその会社の代表取締役
  • 財務諸表等規則上の関係会社及びその役員

2.調査の結果、反社会的勢力との関連が無いと結論するだけの確証が得られない場合には、当該新規役員を株主総会の取締役選任議案として承認しないものとする。

(従業員にかかる調査実施方法)
第7条
従業員を新規採用する場合、当該従業員の履歴書を元に、第4条2項に準ずる調査を実施するものとする。

第3章 その他

(マニュアルの解釈)
第8条
このマニュアルに定めがない事項、あるいはマニュアルの解釈及び運用に疑義が生じた場合は、リスク管理部門責任者の裁定によるものとする。

(改廃)
第9条
このマニュアルの改廃は、リスク管理部門責任者が決定する。

附則

本マニュアルはYYYY年MM月DD日より施行する。

以上

カテゴリー
IPO・バリュエーション

ジャスダック上場の「Nuts」が倒産、状況を解説

ジャスダックに上場しているNutsが破産手続きに入ったという方が出ました。
私もはじめて聞いた会社で、コロナ倒産?とも思いましたが、全然違く、不正会計案件のようです。
状況を見ていきます。

今年2社目の上場企業倒産、ジャスダック上場の「Nuts」

とりあえず報道を見てみましょう。

ジャスダック上場のアミューズメント事業「Nuts(ナッツ)」(東京)は17日までに、東京地裁から破産手続きの開始決定を受けたと発表した。負債総額は約5億1000万円。上場企業の倒産は、5月のレナウンに次ぎ今年2社目。

時事ドットコム「ジャスダック上場のNuts破産 偽計で強制調査、負債5億円」より

なんでも、赤字が続いている中、不正会計を行い、諸々指摘を受けている中の倒産、という事です。

(存じていなかったのですが、トップボーイという名前でゲーム販売店をチェーン展開していた時期があったようです。その後、パチンコ機、パチスロ機の販売に転換。)

帝国データバンクまとめがまとまってます。
濃厚です。

こうしたなか、2016年3月期以降、単体では4期連続で当期純損失を計上、2019年3月期の年売上高は約1億2100万円に減少していた。
2020年2月には証券取引等監視委員会が金融商品取引法違反(偽計)の嫌疑で強制調査に入り、さらに同年4月には監査法人による財務諸表監査の過程で、当社の現金が帳簿上は約8億900万円計上されていたのに対し実際は約50万円しかない事実が発覚、監査法人との監査契約が解除される事態となった。
8月13日に別の監査法人を選任、9月末までに2020年3月期の有価証券報告書を提出し定時株主総会を開催する予定だったが、現預金が枯渇、監査報酬の一部を支払うことが出来ず、9月7日に監査契約の解除通知を受け、有価証券報告書を提出出来ない状況となっていた。
上場維持、事業継続の見通しが立たないことから、当社取締役からの破産手続き開始の申し立てを受け、今回の措置となった。

帝国データバンクより

ざっくりまとめると。

偽計の疑いで強制捜査(調査委員会も設立)

内部統制上の致命的なエラー、からの監査法人との監査契約解除(有報提出できず)

監査法人を変更も資金が枯渇し監査報酬を払えず契約解除(結局、開示書類提出できず)

破産申請(今ココ)

ですね。
概要は、帝国データバンク報道の通りなのですが、Nuts社の開示資料を見ながら、状況を見ていきます。

Nuts社の業績(どこまで真かは不明)

まずは連結推移です。
有価証券報告書は2019年3月期までしか開示されていないので、それをベースに見てみます。

Nuts社のIRページはこちらです(いつまで掲載されているかは不明です)。

第41期から連結会社になったようなので、その前までの数字は単体に掲載されています。
単体はこちらです。
連結と単体でほぼほぼ業績イコールなので、こちらをみれば良いでしょう。

この通り、4期連続で、しかも会社規模を考えたら尋常じゃない赤字が続いています。

従業員数が1桁台なのは、気になりますが、ここで突っ込んでも仕方が無いのでスルーします。

こういう状況でも増資対応してくれる株主が誰かしらいるのが不思議ですね(本当に不思議ですね!)。
自己資本比率が2019年3月期段階で60%を超えています。

なお、2019年3月までは、一定数字は正しいはずです。
というのも監査法人による監査の手続で、残高確認というものがあり、銀行残高は間違いなく確認がされます。
株主名簿も管理代行の信託会社資料で確認しており、業績数字は何かエラーがあるかもしれませんが、現預金残高や株式まわりは、まぁ正確性が高いと考えられます。

この後の数字は真実性が全く保証できません。
四半期決算は監査法人によるレビュー手続き、ようは簡易的な監査にとどまるため、数字の正確性が一気に保証できなくなります(それでも通常はレビュー手続きで当たり前に問題が無い)。

最後に開示されている決算が2020年3月期第3四半期、つまり2019年12月末の数字です。
(真ん中の数字が2020年3月期の数字です。)

現預金もこちらの通り、8億円が計上されています。
この数字が大きく誤っていた、という事ですね。

なお、2020年3月期は、数字上、売上高が急回復していっている期だったので、株主の期待は大きかったのでは無いでしょうか?

株価も下落が続いていた中、100円台まで回復をしていました(2019年12月末では93円でしたが)。

Google市場概説より

う~ん。。。

と、これまでは数字の概観です。
次にこれを見てみて下さい。

同社のPLですが、1億円台の売上高で、8億円とか9億円とかの赤字を出していて、10人にも満たない従業員、と何人かの役員。

これで、1億円台の交際費を使用しており、加えて役員報酬が1億7千万円(2018年3月期)、2億3千万円(2019年3月期)と尋常じゃない数字が計上されています。
支払手数料の金額もヤバイですね(なんの手数料なんでしょうね?)。

(もうこれだけ見て、十分に真っ黒だと感じます。いやまぁ、数字は真っ赤なんですけれどね。表面的な数字しかみない投資家ならともかく、深く資料を読み込む方にとっては、明らかにヤバいね、というのが伝わります。完全にマネーゲームですね。)

取締役と大株主の推移を見てみる

ここで取締役について見てみましょう。
2019年3月期(6月株主総会後)のものですね。

太字の森田氏が2016年6月の総会で就任された代取で、佐々木氏以外は、この時期に就任された役員です。

代表取締役社長 森田 浩章
取締役 佐々木 浩司
取締役 中村 健司
取締役 毛利 努
取締役 阿久津 明
取締役(監査等委員) 粂川 勲
取締役(監査等委員) 西片 大
取締役(監査等委員) 松尾 慎祐

次に大株主です。

代表取締役社長である森田氏が大株主にあがっています。
こちら履歴を見ると、途中から入ってきた大株主のようで、2016年6月の就任以降、事実上、この森田氏がNuts社の実験を握って、経営の舵取りを行ってきた形になります。

これ(2019年3月末)が、こうなって(2020年9月末:この数字は正しいはず)。

こなります(破産手続開始に関する資料内にある最終情報)。

当時、代表取締役社長であった、森田 浩章氏の株式、5,475千株の記載が無くなっています。

ちなみに、この株式5,475千株を2019年7月~2020年2月頃の間に売却していたとしたら、5億円位のCashになるはずですね。

森田氏の所有割合は10%を切っていたため、主要株主の異動にもあたらず、情報が開示されていません。
いつ、何が起きたのでしょう。
5,475千株はどこに行ってしまったのでしょうね?

Nuts社では何が起きた?

ここから先は確かな情報が無く、推測が大いに混じってしまうのですが。

下記外部サイトにて、諸々、断片情報を元にした推測ベースの解説があります。
(どこまで正かは知らないですよ。ただ、過去の経緯含めて推理がされているので、参考になります。)

そこの最後の一文。

貸付金が増資資金への還流し、さらに調達した資金が引受先に流れている――世間ではそれを架空増資という――可能性が濃厚である。当サイトは10月7日、Nutsに取材を申し込んだが、同社から期日までに回答がなかった。

財務諸表の数字の作りが、どう考えたっておかしいので、どこまで真実かは果たして不明ですが、一定の事実があるように思えます。

また、こちら。
(もう、丸々掲載します。)

これ、どういう事かと言うと、2019年3月期に業績回復につながる大施策として打ち出していた、医療施設の開設予定があったと。
それが、施設への不法侵入が発覚し、それで医療施設の開設を延期。
2019年3月期の数字達成が「未定」と修正されました。

結局、(情報開示上は)当該施設が2019年5月にオープン(どこにオープンしたのかは、情報の記載がありません)。
継続して会員が増えていますよ、売上が立っていますよ、としていましたが(月次の開示があった)、2019年3月期の数字の作り方、計画の公表の仕方含めて、この部分が偽計とされたのでしょう。

極めて少人数の会社で、社員たちはおそらく事情を大体把握していたはずです。
調べていると、元々各所から「大丈夫か?」と言われていた会社のようで、いよいよ取引所サイドも重い腰をあげたのでしょう。

なお、全てのキーは2016年1月に入社し、同6月に代取に就任した、大株主だった(過去形)、こちらの方が握っているはずです。
(冒頭の業績推移と中段の経費の使い方も改めて見てみて下さい。)


開示情報と散らばっている断片情報しか入手し、検証できない立場ですが。
本件は、単純に上場会社が一つ倒産した、という事実にとどまらず、刑事事件に発展する可能性があります。
今後、各登場人物が、どういう人達だったのか、どのような話が飛び出てくるのか、そして、どう発展したとしても、もう驚かないだけの表面情報が満載です。

事実は一切不明ですが、本件推移次第で、また無駄に監査手続、IPO審査の負担が増える可能性があります。

なんともまぁ、残念な案件です。

本件は、これ以上追っても、ゴシップ風にしかならないと思うので、もう追いかけません。
ぐちゃぐちゃしすぎていて、正直、キレイに整理するのも大変ですし。
報道だけ追いかける事にします。

カテゴリー
IPO・バリュエーション

利益相反が何でダメなのか納得~ハンコ文化とリモートワークから見る利益相反取引~

日本全体でリモートワークが進められています。
しかしながら、とある物の存在により、リモートワーク推進が妨げられています。
ハンコ文化です。
そして、日本はこのハンコ文化について国家レベルの利益相反の状態にあり、改善が進まない状態にあります。
ここでは、利益相反とは何か?なんでダメなのか?を解説していきます。

忙しい人向けまとめ

  • 取締役が自分の利益のために、会社の利益を損なう取引を行わせることを利益相反取引と言う
  • IPO推進上、証券会社や東京証券取引所の審査上、絶対に見られる領域
  • 利益相反取引を行う場合、株主総会、取締役会設置会社の場合は取締役会にて承認をとらないといけない
  • 日本のハンコ文化がリモートワークの推進を妨げている
  • IT大臣ははんこ議連の会長も兼任しており、完全な利益相反の状態にある
  • 会社のミッション・ビジョンといった本質的な所から離れてしまうため、利益相反の状態は排除しなければならない

利益相反取引とは

利益相反取引とは~IPO推進上マスト対応~

組織の構成員が、組織と組織の構成員の利益が相反する取引を、組織に行わせることを利益相反取引と言います。
特に、株式会社においては会社法という法律で明確に規定しており、取締役が会社の利益と相反する取引を行わないよう、ガバナンスを構築することを求めています。

なお、利益相反取引はIPO推進を行う会社において、証券会社や東京証券取引所の審査上、絶対に見られる領域です。
そのため、IPOを目指すならば、対応しなければいけない必須の事項となります。

会社法の規定

会社法の規定では、次の通りとなっています。

(競業及び利益相反取引の制限)
第三百五十六条

取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。

一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。

二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。

三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。

2 略

(競業及び取締役会設置会社との取引等の制限)
第三百六十五条

取締役会設置会社における第三百五十六条の規定の適用については、同条第一項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。

2 取締役会設置会社においては、第三百五十六条第一項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。

つまり、利益相反に該当しうる取引を行う場合には、株主総会、取締役会設置会社においては取締役会での承認が必要としています。
これにより、会社の業務を執行する取締役が、会社の利益に反して、その取締役自身や、取締役が関与する第三者の利益を図ることを防ぎます。

利益相反取引の事例

よくある典型例としては、会社が取締役に、もしくは取締役が会社に、何かしらの商品や資産を売却する場合です。
この場合、通常よりも商品や資産の売却代金を安く売却(もしくは高く買い取り)することにより、取締役の取り分(利益)が増える可能性があります。

この例では、会社-取締役の1対1の取引の図式ですが、会社-会社の場合もありえます。
例えば、会社Aのある取締役が、別の会社Bでも取締役を務めていたとしましょう。
この際に、会社Aと会社Bが取引を行う場合、この取締役にとって有利なように、会社間取引を操作する可能性が考えられます。

他には、取締役が個人的な借金をする際に、会社が保証をする場合も想定できます(間接取引)。

まず、これらが大前提です。

リモートワーク化を妨げているもの

それでは、リモートワークの話に移ります。

現在、リモートワークの推進が国や都によって強く推奨されています。
首相により、「オフィス出勤者の最低7割削減」が求められている状況です。

しかし、このリモートワークがある存在により妨げられているのが実態です。
それは、ハンコです。

高性能低価格のノートパソコンの普及や、クラウドサービスの浸透により、リモート環境でも多くの仕事ができるようになりました。
PDFで書類をやり取りし、印刷をせずに済む状況や、紙を不要とする文化も一般的になってきました。

それでも、どうしてもハンコという物理的な存在を無くし切ることは現実的に不可能です。
電子稟議は一般化しましたが、電子契約書はあまり使われず、契約書などは未だにハンコを必要とする商習慣になっています。
(自社が電子契約を導入しても、先方が同意しなければ成立しない。)
役所においても「印鑑証明書」というものが存在すると共に、役所への提出書類は非常に物理的なハンコを必要とするものが多いです。
(役所には、基本的に交渉事が通用しない。)
下記動画も参照ください。

FNNプライムオンライン「首相は“出勤7割減”を要請 “緊急事態宣言”各地で相次ぐ」

そのため、今現代の状況を踏まえて、改めてハンコを不要とする商文化に、国策として変えて欲しいという要望が各所であがっています。
ハンコを押すためだけに出社しなければならない、という状況が現実として存在しているのです。

やっぱり利益相反はダメだ

ところが、我が国のIT大臣は、14日の記者会見にて、リモートワークの妨げになっているハンコ文化について、下記のように発言しました。

「民・民の取引で支障になっているケースが多い」
「民間で話し合ってもらうしかない」
「役所との関係ではそういう問題は起きない」

朝日新聞デジタル IT相「しょせんは民間の話」 はんこのデジタル化 2020年4月14日

これに対して、ネット上では、怒りを通り越して完全に呆れた様子の反応が出ています。
上述の通り、実際、役所に提出する書類には多くの印鑑が必要ですし、各種の手続きで「印鑑証明書」を求められることも多々あります。
民・民で起きているからこそ、法令を含む社会制度全体で改善して欲しい、という要望も存在します。

さて、このIT大臣について、「日本の印章制度・文化を守る議員連盟」(はんこ議連)の会長を努めていることを、すでに多くの方がご存知でしょう。
このIT大臣は、2019年9月の就任会見にて、この兼任について問われた際、「(はんことデジタルが)共に栄えるためにはどうすればいいかということに知恵を絞っていきたい」と回答しています。

つまり、完全な、しかも国家レベルの利益相反の関係にあるのです。
IT大臣として、法令を含む社会制度全体でハンコ文化の改善が必要ですが、今このリモートワークが国や都から求められている状況でなお、利益相反の状態がある故に実行することができないのでしょう。
やはり、利益相反はダメです。
必要なはずのことが進まなくなります。

免責

なお、断片情報の所感故、上記14日記者会見について、全文情報が出たら、受け取り方が変わる可能性があることは留意ください。
加えて、私は別に政府批判をしたいわけでも無いことも留意ください。
同様に、関係各所の名誉棄損や営業妨害の意図も一切ございません。

IPOを目指すベンチャー企業は利益相反状態を排除しよう

上記の通り、利益相反は百害あって一利なしです。

会社の成長を妨げたり、業績面での実害をもたらしうる可能性があります。
IPO推進における、証券会社や東京証券取引所の審査で障害になります。
ガバナンスでヘッジをすることは可能ですが、そもそもとして、利益相反の状態を取り除けばヘッジが不要になります。

会社という物は、人間関係や感情などがどうしても渦巻くものです。
ですが、ミッション・ビジョンを見据えて考えた時に、本質でないものは徹底的に排除すべきでしょう。
繰り返しますが、やはり利益相反はダメです。

カテゴリー
IPO・バリュエーション

DCFは使えない~バリュエーションにおけるDCF法の限界、デメリット~

バリュエーションにおいてよく使われる手法として「マルチプル」が存在します。
もう一つ、よく語られるものとして「DCF法」が存在しますが、IPOバリュエーションにおいて利用される比率は少ないです。
なぜ、DCF法は使われないのでしょうか?
DCF法の限界、デメリットについて解説していきます。
最後にDCFが有用となる場面についてもあわせて解説しています。

忙しい人向けまとめ

  • DCFは、将来キャッシュフローを元に企業の現在価値を算定する方法で、理論的には合理的
  • DCFは、非常に手間暇がかかるのと、前提が複雑かつ多すぎるので数字がぶれるため、あまり使われない
  • DCFは、「事後的な検証」や「バリュードライバーの検証と企業価値を高めるための目標設定」には有用

DCFとは

「DCF(Discounted Cash Flow)法」とは、企業が生み出す将来のキャッシュフローを予測し、それをベースに企業・事業のリスクに応じて設定する割引率で現在価値を計算する(ディスカウントする)形で企業価値を求める方法です。
(以下、DCF法のことを単純に「DCF」と記載します。)
一方、よく使われる別の手法に「マルチプル」とは、企業の規模や株価などから、既に企業価値が分かっている他企業との比較により、企業価値を求める方法です。類似企業比較法とも言います。

学術的、つまり理論的には、DCFは非常によくできている方法で、MBAなどビジネス・スクールにおいても、ファイナンスの講義において必ずDCFは登場していきます。
中には、DCFこそが企業価値評価における唯一性の高い万能な手法であると考える人もいるくらいの方法です(実際にいる)。
実際に算定していて、複雑なシミュレーションを要することもあり、この手法を使うことそのものに喜びを感じてしまう人もいます(実際にいる、なんかかっこいいしね)。

しかしながら、設備投資におけるプロジェクト・ファイナンスのような、比較的キャッシュフローを読みやすい状況や、同業同種におけるM&Aの際のバリュエーションに算定などを除いて、現実的には使用が難しいと言えます。

(参考)企業価値評価の方法

  • ネットアセット・アプローチ : B/S純資産をもとに算出。簿価純資産法、時価純資産法がある。
  • マーケット・アプローチ : 類似企業の株価や過去の評価事例を参考に算出。市場株価法、類似企業比較法(マルチプル)がある。
  • インカム・アプローチ : 将来のCFやPLの現在価値などに基づいて算出。DCF法、収益還元法がある。

なぜ、DCFは使えないのか?その限界、デメリット

では、学術的にDCFが支持されているし、実際に適用されている場面があるのに、なぜDCFは使えないのか?
その限界、デメリットについて解説していきます。

なお、先に補足を入れておくと、企業価値の算定自体が「未来予測である」点を指摘できるため、DCFに限らず、マルチプルも含め、絶対的な方法は存在しません。
人間の活動を将来にわたって予測しきることなど不可能な話ですので、当然に、この世に存在するありとあらゆる企業価値の算定の方法には、そもそもとして無理があります。
ですので、「DCFは現実的にバリュエーションに使えないよね」というスタンスに立ちながらも、その価値が一切ない、有用性0である、とは考えていません。

ただ、現実に、IPOにおけるバリュエーションではマイナーですし、各種ファンドでも「使ったことがない」という人が珍しくないのが現実です。

純粋に複雑なので手間暇がかかる

DCFは、将来キャッシュフローの算出と、現在価値を計算する上で必要となる割引率の算出が前提となります。
この将来キャッシュフローの算出にあたっては、事業計画をベースとするため、当然に事業計画を蓋然性の高い根拠でもって策定しなければなりません。
また、割引率の算出にあたっては、WACC(加重平均資本コスト)というものをベースとするため、もろもろのパラメータとなる各種資本コストなどを計算しなければなりません。
ここで登場するパラメータとして、時価ベース自己資本の価値、有利子負債の価値、税引前有利子負債資本コスト、実効税率、無リスク利子率、株式β値、株式市場全体資本コスト、といった変数が絡んできます。
更に、非上場企業の場合、投資リスクが上場企業よりも大きいであろうという理由で、「サイズプレミアム(小規模企業リスクプレミアム)」というものが加算されます。
非常に複雑で、もうわけがわかりません。

これだけの手間暇がかかるので、忙しい中、実務でどこまで使用できるでしょうか?
現実的に難しいと言えるでしょう。

変数が多いので数字がぶれる

次に、数字が大きくぶれる点があげられます。

上述の通り、事業計画をベースとする将来キャッシュフローと、多くの変数により成り立つ割引率によって計算されるため、各パラメータのおき方が及ぼす影響が非常に大きくなります。
また、DCFにおいて決定的に無理があるのが「ターミナルバリュー」です。

ターミナルバリューとは、事業が生み出す将来キャッシュフローの試算において、試算が現実的にできない期間以降について算出された永続価値のことです。
将来キャッシュフローが現実的に試算できない期間とは、例えば5年目以降とか、10年目以降です。

この計算においては「企業は永続して存続し、キャッシュフローを生み出し続ける」という前提があり、その前提でもって「永久成長率」を設定し、ターミナルバリューを計算することになります。
DCFでは、この永久成長率の数字によって、企業価値が非常に大きくぶれます。
そして、ターミナルバリューが企業価値の大半を占めるケースも散見されます。
つまり、多くのケースで、DCFで行ったバリュエーションは、マルチプルなどを利用したバリュエーションに比較して、高く企業価値が算定されてしまうのです。

確かに、企業が安定して成長し続けるのであれば、5年目以降とか、10年目以降の企業価値の方が、今目の前からその時点までの企業価値より高い場合も、それは当然にあるでしょう。
しかし、企業価値の大半が現時点では予測できない遠い未来の将来キャッシュフローで決まってしまう点に、純粋に疑問や違和感を持ってしまいます。

事業価値をベースとする将来キャッシュフロー、様々かつ複雑な変数により構成される割引率、企業が一定の割合で永久に成長し続けるという前提。
これによって起きる「企業価値の大半が現時点では予測できない遠い未来の将来キャッシュフローで決まってしまう」という現実。

これがDCFが決定的に使えない、限界がある、デメリットです。

確かにDCFは、理論的には正当であり、その「概念そのもの」は他の企業価値算定の手法に比較して合理性が高いと言えるでしょう。
しかし、現実問題として、上記であげた各種パラメータを正確に予測するのか?
これが誰にもわからないのです(どれだけDCF研究が進んだとしても、無理でしょう)。

DCFが有用な場面

これまで、DCFが使えない理由、その限界、デメリットについて解説していきました。
ここからは、ではDCFが有用となる場面について考えていきます。

まず、冒頭でも書いた、設備投資におけるプロジェクト・ファイナンスのような比較的キャッシュフローを読みやすい状況や、同業同種におけるM&Aの際のバリュエーションに算定などについては、比較的、精度高く未来予測ができるため、適用が十分にできます。

次に、考えられるのが「事後的な検証」です。
実際に事業を運営してみて時間が経過した時、すでに実績として出た各種パラメータを用いて、DCFで企業価値を算定してみるのです。
これにより、他の手法、例えばマルチプルで計算した結果の正当性や、逆に無理があった点を事後的に検証できます。
あくまでも事後の話にはなってしまうのですが、バリュエーションの精度をあげていく、という観点で考えれば、事後的な検証は有用と言えるでしょう。
(その意味で、DCFも計算しておいて、後々、その計算結果を検証することも有用かもしれません。リソースは奪われますが。)

また、企業価値をあげるための戦略立案に関しても有用と言えます。
長期間に渡り議論を重ねながら、企業における「バリュードライバー」は何か?「目標」をどのように設定していくか?を考えていくのです。
投資家は、ある単年度の利益に投資するのではなく、あくまでも将来に渡って得られる未来のキャッシュフロー、つまり「将来キャッシュフロー」に投資します。
このため、「将来キャッシュフロー」の設定や「永久成長率」の設定などの話は、企業価値を算定するためのものではなく、企業価値を実現していくための指標として捉えることができるのです。
資本主義の原理原則の観点で考えれば、DCFの「概念そのもの」は非常に合理性が高いのです。

カテゴリー
IPO・バリュエーション

サーキットブレーカーとは~新型ウイルス騒動はIPOにも影響~

サーキットブレーカー、ここ最近、よく聞くけど、、、

新型ウイルスの影響は世界経済に猛威を振るっており、世界的にリセッションが懸念されています。

3月9日に米ニューヨーク市場において15分間、3月12日に再発動、そして3月18日に主要株価指数「S&P500」が7%下落したため、取引を15分間停止する3度目のサーキットブレーカーが発動されました。
2週間以内で3度も発動する、異常事態に陥っています。
3月19日にはアジア株式市場が下落、フィリピン、インドネシア、韓国の各マーケットでサーキットブレーカーが発動しました。
アジアでも次々と取引の一次停止が起きています。
フィリピンではフィリピン証券取引所で15分間取引が中断、総合株価指数(.PSI)が24%下落、
インドネシアではジャカルタ総合指数が5%下げた後、6営業日で4回目のサーキットブレーカーが発動、
韓国では韓国総合株価指数(KOSPI)が8%以上の大暴落が起き、KOSPIとKOSDAQの両マーケットで20分間のサーキットブレーカーが発動されました。

(参考)リセッションとは

景気の後退局面のことを言います。

景気は拡張と後退を交互に繰り返しますが、拡張から後退に入るタイミング(景気の山と言う)と、そして後退期の底(景気の谷)の間、つまり景気が低迷し後退していく期間のことです。

多くの金融関係者が、新型ウイルスがリセッションの引き金を引いた、と発言しています。

それでは、サーキットブレーカーとは

「サーキットブレーカー」とは、先物市場やオプション市場などで相場が想定外の急激な変動を見せた場合、取引所によって行われる、取引の一時中断措置のことです。
相場の保険的な性格をもつ制度で、取引に参加するプレイヤーを安心させる効果があると共に、冷静な判断を促しマーケットの過熱感を鎮めるために行われます。

取引を一時中断(5分から15分位の冷却時間)した後、制限値幅を一定程度拡大し、中断は解除され取引が再開されます。
それでも価格の変動が激しい場合は、段階的に制限値幅が拡大されていきます。

取引が完全に中断するのではなく、一部の取引が中断される場合のサーキットブレーカーのことは「サイドカー」と言います。

付け加えると、価格の異常な変動を防ぐために、1日に変動する価格の範囲に制限を与える「値幅制限」もサーキットブレーカーの一つなのですが、各メディアにおけるサーキットブレーカーの用語の使われ方としては「取引の一時中断」のことになります。
値幅制限における、上限まで価格が上昇し取引が動かなくなることを「ストップ高」、逆に下限まで落ちた場合のことを「ストップ安」と言います。
先物市場がサーキットブレーカーによって一時中断しても、個別株は動き続けます。

サーキットブレーカーの制度は、米国の1987年におきたブラックマンデーをきっかけにニューヨーク証券取引所で取り入れられました。
東京証券取引所と大阪証券取引所では1994年から、東京工業品取引所では2009年から導入されました。

発動事例としては、2001年におきたアメリカ同時多発テロ、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災、そして最近では2016年のイギリスのEU離脱における混乱で、日経平均株価が急落した際に日経平均先物(大阪取引所)でサーキットブレーカーが発動しました。

IPOにも影響

マーケットの乱高下(今回の場合は暴落の方向性)は投資家に不安を招きます。
それはIPOにも大きく影響を与えます。

直近のIPOにおいて初値が公開価格を下回るケースが相次ぎ、IPOを中止する企業も出始めている状況です。
3月18日にIPOをよていしていたファストフィットネスジャパンをはじめ、既に3月に入ってから6社が新規上場を見送っています。
予定通りIPOを行った企業においても、公開価格を上回る水準で取引がなされているのはわずか1社のみです(執筆時点)。
これは当然、日本に限らずのことで、アメリカや中国をはじめ、世界中でIPOを中止する企業が相次いでいます。

東京証券取引所は、新型ウイルスの影響で一時的に業績が悪化している場合には、審査場でもそれを勘案するという、収益性の判断を柔軟にする方針を発表しています。
あわせて、上場承認とならなかった場合において、再審査料を免除することも決定しています。
この東京証券取引所の特別措置は非常に良いものだとは思うのですが、企業の事業計画に与える影響をフォローしきることはできません。

景気自体も後退し、消費が落ち込む中、企業経営上、厳しい状況の会社も多いでしょう。
その中でのIPO中止は、企業の資金計画に大きなインパクトをもたらします。
新型ウイルスによる影響は、ここから半年は最低でも続くと予想でき、IPOの数が回復するのも半年はかかるでしょう。

この期間、如何に業績を維持し、資金を確保していくか、ジャンプアップのための力を溜めるか、正念場です。

カテゴリー
IPO・バリュエーション

バリュエーションにおけるプレとポストとは?

バリュエーションにおける用語で「プレ」と「ポスト」という言葉が出てきます。
わかっている人同士では何気なく使いますが、わかっていない人にしてみれば、不可解な用語でしょう。
ここでは、バリュエーションにおけるプレとポストについて解説していきます。

バリュエーションとは?

まず、バリュエーションとは、ある企業にどれくらいの価値があるのかを示した数値のことで、つまりは時価総額のことを意味します。
時価総額が高ければ高いほど価値のある企業、という理解になります。

企業のバリュエーションは次の式で計算できます。

バリュエーション(時価総額) = 発行済株式総数 × 一株あたり株価(発行価格)

これは、非公開会社(未上場企業)であろうと、上場企業であろうと、基本的には変わりません。
上場企業の場合は、株価が明確にあるため、発行済株式数に株価をかければバリュエーションが求められます。
上場企業においては、取引所が開いている時間において、株価は常に変動しますが、非公開会社(未上場企業)においてはそうはなりません。
ある調達ラウンドを終えた場合、次の調達ラウンドが行われるまで、バリュエーションは動きません。

プレとポスト

ベンチャーファイナンスの調達ラウンド(バリュエーションタームと言う)において使う用語に「プレ」と「ポスト」という言葉があります。

プレはプレマネーバリュエーション(Pre Money Valuation)の略、
ポストはポストマネーバリュエーション(Post Money Valuation)の略となります。

それぞれ、プレバリューやポストバリュー、ないしは何度も使っているように、単純にプレとかポストのように呼ばれます。

ここでは長いので、プレ、ポストと呼びます。

プレとは

プレとは資金調達前の企業価値、つまり新規投資がなされる前の時価総額のことを指します。
(企業価値と時価総額の違いについては、ここでは端折ります。)

上記で、バリュエーションの計算式を次のように示しました。

バリュエーション(時価総額) = 発行済株式総数 × 一株あたり株価(発行価格)

この計算方法はプレの計算方法となります。

そして、一般的にバリュエーションのという言葉を使う際は、プレのことを指します。
用語の使い方が曖昧なシチュエーションにおいては、「今の数字はプレ?それともポスト?」なんて会話が出てきます。

じゃあ、なんで一般的にバリュエーションはプレのことをさすのかというと、それは企業の現在価値をもって、投資家といくら調達するのかを交渉するからです。
企業の現在価値は、DCFやマルチプルを用いて算定しますが、この算定基礎となるのが事業計画です。
事業計画は資金調達前のものになるので、それを元に算定した企業の現在価値は、プレのことをさす形になります。

ポストとは

プレが資金調達前の企業価値のことをさすのに対し、ポストは資金調達後、つまりは新規増資により、新しいお金が入った後の企業価値のことを指します。

ここでプレとポストの関係を整理すると、下記のようになります。

プレ + 新規調達額 = ポスト

プレ = 発行済株式総数 × 一株あたり株価(発行価格)

繰り返しますが、調達ラウンドにおいて、企業が投資家と交渉をするベースはプレになります。
上述の通り、DCFやマルチプルで算定した企業価値を、投資前の発行済株式総数で割ることにより、一株当たり株価、つまり「発行価格(引受価格)」が決まります。

なお、ここでの発行済株式総数ですが、潜在株式(ストックオプションですね)全ての希釈化と、種類株式すべてが普通株式に転換した前提で計算します。

整理すると、次の計算式になります。

プレ = 希釈化後発行済株式総数 × 一株あたり株価(発行価格/投資時の引受価格)

計算例

例として、下記の条件でプレとポストを計算してみます。

プレ:50億円
発行済株式総数:10,000株
経営メンバーの持株比率:50%(5,000株)

引受価格 = 50億円 ÷ 10,000株 = 500,000円/株

調達額:10億円

新規の発行株式数 = 10億円 ÷ 500,000円/株 = 2,000株

ポスト:60億円
発行済株式総数:12,000株
経営メンバーの持株比率:41.7%(5,000株)

こうして考えると、結構簡単と感じるでしょう。

カテゴリー
IPO・バリュエーション

適正なバリュエーションを考える上で重要なこと

スタートアップ/ベンチャー企業が資金調達を行う上で避けて通れないのが「バリュエーション」です。
「高いバリュエーション」には分かりやすいメリットがある一方、デメリットもあり、このデメリットは顕在化した時に、想像以上に企業と経営者を苦しめます。
ここでは、適正なバリュエーションを考える上で重要なことを、多くの経営者が狙う「高いバリュエーション」の功罪の観点で解説していきます。

バリュエーションを高くすることのメリット

わかりやすいメリットの1つが「ダイリューション」を抑えられること、併せて相対的に多くの資金を調達できることにあります。

ダイリューションとは、「希薄化」という意味で、新株を発行するなどして、発行済み株式総数が増加すると、相対的に一株当たりの価値が低下します。
スタートアップ/ベンチャーにおいて気にしなくてはいけないのが、外部からの出資が大きいと、創業者の持株比率が少なくなってしまう点です。
持株比率が減ってしまうと、株主総会における議決権の割合が低下するため、経営をコントロールできなくなる可能性があります。

(ただし、こちらの記事でも触れましたが、経営のコントロール権は、あくまでも実績で得るのが本質なはず、という点は留意していただきたいです。本稿では、あくまでも純粋なメリット・デメリットとしてダイリューションに関して話をしています。)

また、ダイリューションが過度におきると他にもいくつか障害が起きえます。
創業経営者の心理的なもの(モチベーション)に影響が出る場合もありますし、その点を懸念して新規の資金調達のハードルが上がる場合もあります。
(スタートアップ/ベンチャーが成功する要因の一つに、創業経営者の「やる気」もあるため、そこが削がれることを投資家は気にする。)
また、スタートアップ/ベンチャーの大きな登竜門である「IPO」への障害になる場合もあります。
資本政策の段階ですでにIPOが失敗していた、という話は決して珍しくはありません。

つまり、このダイリューションを抑えられることは、バリュエーションを高くすることのわかりやすいメリットと言えるのです。

他には、バリュエーションがあがっていくことは、その時のモメンタム(速度感、勢い感などをボヤっと表現した用語)があるため、周囲から「イケてる感」を受けやすくなり、それによって資金や人が集まりやすくなる傾向もあります。
つまり、モメンタムがあることで、事業が成功しやすくなる場合もあります。

バリュエーションを高くすることのデメリット

デメリットとしては資本政策の硬直性が増すことにより、次の選択肢を狭めてしまう、もしくはハードルをあげてしまうことがあげられます。

まず、純粋に次の資金調達、「ラウンド」が難しくなります。
会社が常に右肩あがりに伸び続けているのならば良いのですが、そうそう都合よくは推移しないものです。
仮に事業そのものは順調に推移し、投資家の期待値を上回る、つまりバリュエーションを行う際においたマイルスストンをクリアし続けていったとしても、市況の変化、何かしらの不況によって自分たちのコントロール外の所でハードルがあがってしまうことも十分に考えられます。
そしてこれは、今現在のウイルス騒動により、多くのスタートアップ/ベンチャーが直面していることと思います。

資金が厳しい状況下においては、場合によってはフラットラウンドやダウンラウンドでもありがたい場合はありますが、既存の投資家がOKとしない場合や、新規の投資家が躊躇(遠慮とか諸々)して、そもそもラウンドに乗ってこない場合などは、決して珍しい話ではありません。
(議決権を3分の2以上グリップしていても、これまでリードインベスターを張ってくれた投資家が「ここで強硬するなら、二度と自分達はリードはやらない」なんて言われたら、現実的に強硬することを躊躇するのは創業経営者の立場として、おかしくない話です。「それなら新しいリードを探すだけ」というマッチョイムズも悪くはないですが。)

次にモメンタムの維持、より適切に表現すると期待値コントロールが難しくなります。
仮にバリュエーションがフラットラウンドやダウンラウンドとなった場合、これはわかりやすく周囲に対して「失速した」と受け止められます。
上述の通り、わかりやすく資金調達の難易度が高まるため、資金の面だけでも経営の局面は厳しくなります。
期待値を過度に高めることによって、様々な意思決定に現実的な制約や、心理的な制約がかかり、身動きがしづらくなってしまうこともあります。
また、これが資金調達などの話だけならば、まだ良いのですが(良くはない)、「失速」つまりモメンタムの毀損は、あらゆる所で負のスパイラルを生みます。

スタートアップ/ベンチャーは勢いがあるからこそ、ヒトモノカネが集まりやすいことは忘れてはいけないでしょう。
負のスパイラルに巻き込まれたスタートアップ/ベンチャーの惨状は、想像以上に厳しいものです。
落ち目の状況で待ち受けるのは、倒産か、最悪「リビングデッド」化することです。
なぜ、「リビングデッド」を最悪と表現したのか?

こちらの記事でも書きましたが、会社は、創業者と創業メンバーが「世の中に変革を起こしたい」からこそ創業したもので、つまりミッション・ビジョンが存在します。
「生存のため」だけに、経営の舵を切った結果として、これまで積み上げてきたものを失っては何が残るのでしょうか?
リビングデッド」と化した企業は、もはやスタートアップ/ベンチャーではなく、ただの中小企業です。
そのスタートアップ/ベンチャーとしての存在意義は失われたと考えた方が良いでしょう。
つまり、様々なネガティブサイクルに巻き込まれた場合、想像以上の悪影響をまき散らすのです。

最後に、イグジットへの悪影響にも触れておきます。
この場合のイグジットは株式を手放すこと(売却)による、会社の売却のことです。
高いバリュエーションは、上述の通り、投資家たちの期待値を高めてしまうため、創業経営者が、もういい加減会社を手放したい、と思っても都合よくことが運ばない状況が考えられるのです。

バリュエーションに関してのバランス感覚

ここで改めてそもそもの話をしてしまうと、バリュエーションが高かった、低かった、という話は将来、蓋をあけてみてようやくわかるものです。
しかし、実際のバリュエーションの場面では、高いよね、低いよね、という感覚値的な話で語られます。
ですので絶対的な話では無いのは確かなのですが、このバリュエーションの話をする場面においては、最終的な決断をどうするかはともかく、「バランス感覚」は持った方が良いと考えます。

上述の通り、バリュエーションを高める事は、資本政策の硬直性を生み、次の選択肢を狭めるか、ハードルをあげてしまいます。
言い換えると、将来の自由と引き換えに、資金を得る、という意思決定で良いのか?(別に間違ってはいない)という話です。

フラットラウンドやダウンラウンドにより起きる負のスパイラルの影響は想像以上に厳しく、それが起きた場合に、これを乗り切る経営の胆力は相当なものになってしまいます(別の側面で言うと、これは一つのプラス効果とも言えるが)。
長期的な視点で考える上で、モメンタムの維持の重要性は考慮すべきでしょう。

スタートアップ/ベンチャー業界は、一見既成概念に囚われない世界と思いがちですが、保守的でセオリーに厳しいです。
バリュエーションを適正に保つことは、資本効率を高め、トラフィックを良くします。
無茶な調達にもならないので、ラウンドもスケジュール通りに運びやすく、社内がバタつくことも抑えられます。
マネジメントコストも低く保てます。
トータルとしてのバランス感覚を持ち合わせておくことは、長期的な成功確率を高めていくと考えます。

とは言え

ただ、これまでの話は、ラチェットなどの既存投資家を保護する条項をいれた優先株の契約でカバーができます。
一方、ダイリューションしてしまった場合、現実的にカバーすることは不可能です。
経営の意思決定は、ようはどんなリスクをとって、逆にどんなリスクをとらないのか?という話に落ち着きます。

ダウンラウンドによって発生する負のスパイラルは、極論、経営の胆力でなんとでもなります。
バリュエーションが高い低いの話は、つまるところ事業計画のおき方と、計画の達成度合いの話です。
これまでにない新しい何かを生み出そうとしているスタートアップ/ベンチャーが、常識的で蓋然性の高い考え方だけで、そのミッション・ビジョンを達成できるのでしょうか?

上述した通り、スタートアップ/ベンチャーが最も恐れるべきことは「リビングデッド」化(のはず)です。
(そしてこれは、「高いバリュエーション」によって起きやすくなるが、繰り返すが、極論、経営の胆力でなんとでもなる。)
バランス感覚は持ちつつも、やはり「高いバリュエーションを狙っていくこと」それ自体は一つの正義と言えるでしょう。

カテゴリー
IPO・バリュエーション

ベンチャー企業が求める資質「カオス耐性」とは?

ベンチャー界隈に生息していると「カオス耐性」とう言葉をちらほら聞きます。
語呂感から何となく言わんとしていることはわかるレベルの意味合いの「カオス耐性」ですが、ベンチャー企業が求める資質として頻繁に取り上げられています。
ここではこの「カオス耐性」について整理してみることにします。

「カオス耐性」はベンチャー企業から求められている

ベンチャー企業は、顧客基盤も組織体制も整っていない、人もお金も無い無いだらけの組織である場合がほとんどです。
つまり「カオスな状態」にあります。
そのため、世の中のチャレンジをしている企業や経営者は、自分たちの会社が成長していくために必要な人材として「カオス耐性」の高い人を求めています。
これは私が勝手に言っているのではなく、たとえばここや、ここここなど、複数の事例で語られています。

また、中には下記のような求人要件を見ることもあります。

必要スキル
【必須】
・コンサルティングファーム(戦略、会計、リスク、業務コンサル等)にてマネジメントのご経験がある方
・事業会社等にて新規事業立ち上げのご経験かつマネジメントのご経験がある方
【歓迎】
・海外交渉レベルの英語力
カオス耐性のある方

つまり「カオス耐性」を持っている方は、ベンチャー適正が高い(はずだ)ということです。
では、この「カオス耐性」とは何でしょうか?
もう少し具体的に言語化を行っていきます。

カオス耐性とは具体的になにか?

各所で語られている「カオス耐性」や私自身の経験・考え方をまとめると、下記のように言語化できると考えました。

成果(もしくは成長)に対して貪欲であること
①圧倒的な成果を出す
②過去の事例に囚われない
③成果に天井を設けない
自発的にかつ主体的に動けること
④仕事を積極的に奪う
⑤良い質問をする
⑥不満は具体的に解決・改善する
会社のことを自分事化できること
⑦仕事に対して責任を持つ(仕事が終わるまで仕事を終えない)
⑧自分で稼ぐマインドを持つ
⑨社長(創業者)はスーパーマンでは無いと知る

一つ一つ具体的に見ていきます。

①圧倒的な成果を出す

ベンチャーという言葉ですが冒険(アドベンチャー)という意味を持っています。未知なる世界への冒険ですね。
顧客基盤は大体において脆弱ですし、社内の体制も大体において整っていません。
非常に多くの領域において「0(ゼロ)」から始め無ければいけません。

ようは、非常に倒産するリスクが高いです。

そのため、何にも優先して、顧客を獲得すること、事業運営に必要な資金をかき集めることが必要になってきます。
知名度0の会社が、この必要なことをやるにあたって、圧倒的な成果を出すことが必要です。
大企業に勤めている社員が出すよりも多くの成果です。

また、この成果を出すにあたって、世の中の動き、特に競合の動きには目を光らせなければいけません。
成果というものは絶対性もありつつ、相対性もあるからです。

もうこの世の中、100%完全に「今までに無い新しいビジネス」なんてものは存在しません(解釈にもよりますが)。
つまり、必ず競合がいる、ということです。
自分たちにとって120%の成果を出せたとしても、競合が140%の成果をだしたら、相対的に85%の成果になってしまいます。
競合が140%を成果を出したのならば、自分たちはそれ以上の成果を出していくことが必要です。

②過去の事例に囚われない

これは主に2つの観点があります。
1つは世の中の変化は速すぎるし、今やっていることが正しいとは限らない、という点です。
もう1つは前の所属組織のやり方や世の中の常識が、今の組織で正しいとは限らない、という点です。

ベンチャー企業は新しいことにチャレンジをしているので、当然にそのやり方も日々模索しながらになります。
一度こうだ!と決めたことをやり切るのは大事なのですが、朝令暮改も同時に大事になってきます。
それは冒頭にも書いた通り、世の中の変化が速すぎること、一度こうだと決めたことが正しいとは限らないからです。

そして、別の組織のベストプラクティスですが、それが今の組織にも適合するかどうか。
これはやってみなければわからない点があるので、とりあえずトライしてみるのは良いのですが、固執するのは非常に危険です。
ベストプラクティス、というのは人数規模や業種などに限らず、内部要因・外部要因含め、様々な環境要因によって成り立っている場合がほぼ全てです。
そのため、以前の組織のやり方が、今いる組織にとって良いとは限りません。

常識ですが、これは言うまでも無いかもしれません。
新しいことをやる、というのはつまりは非常識なことをやる、ということです。
常識に染まっていては、新しいものは生み出せません。
良い意味での非常識は推奨していきましょう。
ただし勘違いしてはいけないのは、この社会に生きる人間や働く上での常識、というものは当然に持っておくべきです。
ここで言っている良い非常識の意味をなんとなくでもわからない人は、ベンチャー適正が無いので、素直に会社を去りましょう。

③成果に天井を設けない

ベンチャー企業はありとあらゆるリソースが限られています。
そのため、あなたの成果や成長の限界が、会社組織の限界値となります。
つまり、自分自身のだした成果や成長に対して、決して満足をしてはいけない、ということです。
常に高い理想をもって、昨日より今日、今日より明日、というマインドでより高い成果を、より高い水準への成長を目指しましょう。

大企業はリソースもあり仕組みも整っており、商品力・知名度・ブランド力も非常に高いものを持っています。
そしてベンチャー企業は、大企業が持っているものを持っていません。
当たり前に想定できる水準の成果、成長では到底大企業には太刀打ちできません。
大企業が今まで提供してきた既存のサービスに対する期待値を上回る、圧倒的な成果を出し、成長し続ければ、いつかは自分たちが大企業に成長できるはずです。

大企業も最初は0からスタートしたベンチャー企業だったはずです。
そのベンチャー企業には、常に高い水準で成果を出し成長し続けた、「誰か」がいたからこそ、今の大企業が存在するはずです。
この「誰か」にあなたがなるのです。

これは一見難しいように見えますが、言うほど難しくは無いと考えています。
性格の悪い書き方に読めてしまうかもしれませんが、ちょっと考えてみて下さい。
大企業に勤めている人たちがどんな人たちか?



そう、普通の人たちです。

あなたも普通の人ですが、大企業に勤めている人も普通の人たちです。
では、勝負をわけるのは何でしょうか?
それは掲げるミッション・ビジョンに対する強い想いであり、圧倒的な成果を望む気持ちであり、常に成長したいという貪欲な姿勢だと考えます。
あなたの想いと行動が本物であるのならば、たとえ無い無いづくしのベンチャー企業であったとしても、大企業と対等に渡り合えるはずです。

④仕事を積極的に奪う

ベンチャー組織はリソースが限られているのにも関わらず、やらなければいけないことが膨大にあります。
経営者や先輩社員たちは当然にそのやるべきことに忙殺されています。
大体の場合において、新しいメンバーに手とり足とり、仕事を教えている余裕は無いでしょう。
もし、言われたこと、与えられたことしかやれない指示待ちの姿勢であるならば、すぐに改善するか、会社を去りましょう。

ベンチャー企業においては、自分がやるべきことは自分自身で決める姿勢が大事です。
そしてリソースは限られているので、適切に優先順位をつけて、抜け漏れないようにToDoを自分で管理し、効率的なやり方を自分自身で模索できる能力も必要です。
つまり、「自発的」にかつ「主体的」に動く、ということです。
これらは、あなたの価値を示すものになるでしょう。

難しく聞こえるかもしれませんが、これも思うほど難しくないはずです。
経営者や先輩社員は多種多様な仕事に忙殺されていて、誰かが自分の仕事を奪ってくれるのを、心待ちにしているはずです。
そして、経営者や先輩社員が抱えている仕事は、必ずしも彼ら彼女らが得意ではない仕事が含まれているはずです。
その組織に採用された、ということは何かしらの強みや得意な領域があるからこそだと思います。
その自分自身の強みや得意な領域で、経営者や先輩社員が抱えている仕事を奪ってしまえばいいのです。
非常に喜ばれるでしょう。

⑤良い質問をする

自発的にかつ主体的に動き、経営者や先輩社員の仕事を奪うのは大事ですが、奪い方には注意が必要です。
引継の話です。
忙殺されている人から仕事をとるにせよ、何かしらの引継は必要です。
この際、具体のHowを相手に求めてはいけません。
相手にしてみれば、その具体のHowを説明して引き継いでいる時間があるのならば、自分でやった方が速いからです。

中には懇切丁寧に具体のHow説明してくれて、寄り添ってくれる方もいるかもしれませんが、それに期待してはいけません。
ベンチャー企業に勤めている方々は若い方が多く、大体の場合においてマネジメント経験や人を教育してきた経験が乏しいことが多いです。
ですので、愚かな質問(具体のHow)を投げかけると、冷たく扱われてしまうでしょう。

経営者や先輩社員から聞くのは、大枠の考え方や方針にとどめ、その後は過去の資料や成果物を自分自身でしっかり読み込み、「どうあるべきか?どうしたいか?そしてそれらのためにどうすればよいか?」を自分の頭で考えましょう。

その上で、この自分の頭で考えた「どうあるべきか?どうしたいか?そしてそれらのためにどうすればよいか?」を経営者や先輩社員にぶつければよいのです。
これは良い質問ですので、きっと良い壁打ち相手になってくれるはずです。
高い評価ももらえるでしょう。

⑥不満は具体的に解決・改善する

基本的に不満を持っていない人はいないと思います。
そして、ベンチャー組織のような所ですと、人より不満を多く持ってしまう場面も多いでしょう。
それは決して悪いことではありません。
不満は発明や改善の母だからです。

ようは、その不満を不満のまま終わらせるのでは無く、具体的なものとして言語化して、解決するなり、改善するなり、逆に無視をするなりをするべきだ、ということです。
文句を言うのは別に悪いことでは無いですが、生産性は無いです。
もう一度書きますが、不満があるのならば積極的に、解決するなり、改善するなり、スルーするなり、をしましょう。

ベンチャー組織は至らないことが大勢あるはずで、それは仕方が無いことです。
この点を「宝の山」と見えなければ、良い悪いでは無くアンフィットですので、会社を去るべきでしょう。

もう一点付け加えると、ベンチャー企業の経営者(創業者)は大なり小なり変な人です。
変な人でなければ、わざわざ新しいことをやろうとなんてしないでしょう。
また、経営者というものは非常に忙しいです。
つまり、大体において経営者の考えていることなんて簡単には理解できないですし、経営者も社員に理解してもらえるようコミュニケーションを取ることが難しいです。
ですので、もし、経営者の考えていることがわからなくなったり、方針が納得できないものだったら、積極的に聞くべきでしょう。
経営者という生き物は、大なり小なり自分のやっていることや考えていることを他者に知ってもらいたいので、聞けば忙しい中でも時間を作ってくれるはずです。
もし、そういうことに真剣で無い経営者でしたら、素直に会社を去るのも選択肢でしょう。

⑦仕事に対して責任を持つ(仕事が終わるまで仕事を終えない)

ベンチャー企業の従業員数は、大体において少数です。
そのため、一人が担当する範囲や業務量は、大企業に比較して、相対的にインパクトが大きいです。

何を言いたいのかというと、何かしらの都合で仕事を休んだり、定時に帰りたい・オンオフを切り替えて土日は仕事のことを考えたくないというマインドを持ったりすると、会社に与える影響が大きくなります。

これは何も滅私奉公をせよとか、昨今の働き方改革に逆行する動きをせよとか、そのようなことを言っているわけではありません。
ベンチャーというものは不安定なものなので、大口の受注が突然はいったり、逆に重要顧客の解約などがはいったりします。
土日や深夜にトラブルが発生して、緊急対応をしなければならない状況も、限られたリソースの中で発生したりするでしょう。
当たり前ですが、ベンチャー企業で突然に発生した何かをスルーし続けると、倒産します。
ですので、ベンチャー企業でがっつり働いている人たちは、土日も関係なく夜遅くまで働いているのです。

休むなら休む、早く帰るなら早く帰るで、何かが発生したとしても大丈夫な体制や仕組みを構築する必要があります。
しかし、大体においてそれは難しいです。

最近は、大企業と変わらない、場合によっては大企業より労働環境が良好なベンチャー企業も増えては来ていますが、そこに期待をしない方が良いでしょう。
休みたい、早く帰りたい、という考えを持っている人は、能力不足だとか悪だとか言っているわけではなく、単純にアンフィットなだけですので、それが可能な大企業(希望とフィットする企業)に行くべきです。

⑧自分で稼ぐマインドを持つ

何度も書きますが、ベンチャー企業はリソースが限られています。
顧客基盤も不安定なので、売上も大企業に比較すれば、吹けば飛ぶものでしょう。
「誰かがやってくれる」的なマインドは極めて危険であり、組織にとって有害です。
自分で自分の食い扶持を稼ぐ位の気持ちが欲しいです。

これは何も、セールス担当で無い人間も案件をとってこい、という話ではありません。
各人に任せられた、もしくは自分自身の信念に基づいてやるべきだ!と思ったことを、やり切りましょう、高い水準で完遂しましょう、ということです。

アニメの話なのですが、好きな言葉があります。

「我々の間には、チームプレーなどという都合のよい言い訳は存在せん。有るとすればスタンドプレーから生じる、チームワークだけだ。」

攻殻機動隊 S.A.C. 公安9課 荒巻大輔のセリフ

これこそがベンチャー企業が求めるハイパフォーマンス集団のマインドであると考えます。

そしてもう1点。
会社は出資者(株主)によって、その存在が成り立っています。
つまり、誰かがお金を払っているのです。
この誰かは、創業者であったり、シードステージの時に支援するエンジェル投資家、ある程度母体ができてきた時に出資してくれるベンチャーキャピタル(VC)、シナジー効果を求める事業会社などです。
会社はストレートに言えば、出資者(株主)のものです。
社員や顧客のものではありません。
(勘違いが無いように補足すると、会社は社員・顧客・社会などの取り巻く全ての人たちのものである、というマインドを持つのは大事です。)
出資者(株主)の期待に応える責務が企業にはあります。
もしあなたが、より高い次元での仕事を望むのであるならば、この点も意識する必要があるでしょう。

⑨社長(創業者)はスーパーマンでは無いと知る

日本のベンチャーエコノミクスの成長は著しく、非常に若い方たちが果敢にチャレンジをするようになりました。
ベンチャー企業の経営者には、20代30代の方も大勢いらっしゃいます。
中には、どこかの企業に就職することなく、大学などなどを卒業後、起業している方もいらっしゃいます。
そのチャレンジ精神は非常に尊敬に値します。

ここで大事なのは、彼らも普通の人たちである、という点です。
これは彼らを卑下するような話ではありません。
普通の人が、「こういう世の中を実現したい!」という熱い想いをもって、リスクを承知の上でチャレンジをする。
この想いに共感した、同じく普通の人たちが集ってベンチャー企業ができあがります。
ここに(組織運営上の関係は別として)上下関係は無いはずです。
同じ想いを持つ同士として、共に戦っていきたい、という考えを持つのが良いでしょう。

そして、経営者は決して万能な存在ではありません。
わからないことだらけでしょうし、日々悩み、会社の行く末がどうなるか不安で一杯なはずです。
当たり前なのですが、20代30代の若者がどんなに努力していたって、その知識や経験がどこの誰よりも優れているということがあるはずがありません。
だからこそあなたがいるのです。
あなたの強みや得意なことの何か一部は、経営者より優れている所があるはずです。
その強みや得意なことでもって会社に貢献し、自分の想いを叶え、ミッション・ビジョンを実現していく、これこそがアドベンチャー(冒険)だと、私は考えます。

最後に

さて、これまで「カオス耐性」を良しとする前提で書いてきましたが、これは一つの価値観です。
一人ひとり異なる価値観を持っているはずで、喜びのありかた、幸せのありかたは異なるはずです。
もし、「カオス耐性」をもっているのならばチャレンジをすることは、あなたに幸せをもたらすでしょう。
逆に、憧れだけでベンチャー企業に飛び込むのならば、それはきっと双方にとって不幸な結果につながるはずです。
このテキストが誰かにとっての指針になれば幸いです。

カテゴリー
IPO・バリュエーション

国内1億円以上資金調達情報まとめ(2月21日~)

2月21日以降のベンチャー企業の資金調達情報をまとめています。
公表情報を元にしたまとめですので、情報の網羅性および粒度は異なります。

株式会社セオリア

セオリアは、人々の人生をより良くすることを目指し、お金に関する無料の専門家Q&Aサービス『おかねアンサー』を開発・運営しています。大手インターネット企業にて一般消費者向けサービス開発の経験を豊富に積んだ現経営陣によって設立されました。これまでに蓄積した経験を元に、『おかねアンサー』を通じて国内No.1のお金の悩み解決プラットフォーム開発に取り組んでいます。

【セオリア】お金に関する無料の専門家Q&Aサービス「おかねアンサー」、W venturesおよびKVPらから約1.6億円の資金調達により累計資金調達額2億円に
  • 公表日 2020年2月日
  • 調達金額 総額1.6億円(シリーズA)
  • 引受先 W ventures、KVP、SMBCベンチャーキャピタル、三菱UFJキャピタル
  • 企業名 株式会社セオリア
  • 設立 2018年1月10日
  • 代表者 代表取締役 堤 健正
  • 所在地 東京都新宿区新宿5-4-1 新宿Qフラットビル507
  • 事業内容 インターネットメディア事業
  • URL https://theoria-inc.jp/

Activaid株式会社

Activaidは2019年2月より、「炎症性腸疾患」に特化した形で、患者向けソーシャルデータプラットフォームのActivaidを運営。Activaidでは、「慢性疾患を抱える患者同士がお互いに支え合い、病気を管理することを通じて、慢性疾患に対する新しい治療法の発見に貢献していく」。
患者向けプロダクトでは、同じ疾患を持つ患者コミュニティでサポートを得ながら情報交換、医師が診療で重視するポイントに沿った疾患管理やメンバー同士による情報の参照ができる。

疾患特化型ソーシャルデータプラットフォーム「Activaid」が1億円の資金調達、“患者向け”に続き“医療機関向け”プロダクトのリリース目指す
  • 公表日 2020年月日
  • 調達金額 1億円
  • 引受先 アーキタイプベンチャーズ、ジェネシア・ベンチャーズ
  • 企業名 Activaid株式会社
  • 設立 2018年4月
  • 代表者 代表取締役 長谷部 靖明
  • 所在地 東京都新宿区西新宿1-26-2 新宿野村ビル32階
  • 事業内容 患者向けソーシャルデータプラットフォームのActivaidの運営
  • URL https://activaid.me/ibd/about

ストックマーク株式会社

【 ストックマーク株式会社 会社概要 】
ストックマークは、東京大学大学院情報理工学研究科におけるテキストマイニング・ディープラーニングの研究をベースに、2015年4月にスタートした東大発ベンチャーです。 最先端の自然言語処理技術を用いた、組織の情報感度向上と組織変革に貢献するニュース及びナレッジ共有プラットフォーム「Anews」、世界中のニュースを解析し世の中のトレンドを捉えて可視化することで経営の戦略的意思決定を強力にサポートする「Astrategy」、営業の生産性向上による売り上げ拡大をコンセプトにした営業業務プロセス支援プラットフォーム「Asales」を提供しています。

【プレスリリース】文章解析AIトップベンチャーのストックマーク、WiLから資金調達
  • 公表日 2020年2月25日
  • 調達金額 非公表
  • 引受先 WiL Fund Ⅱ, L.P.
  • 企業名 ストックマーク株式会社
  • 設立 2016年11月15日
  • 代表者 代表取締役CEO 林 達
  • 所在地 東京都港区南青山一丁目12番3号 LIFORK MINAMI AOYAMA S209
  • 事業内容 テキストマイニング×AI技術を活用したビジネス意思決定サポートサービスの開発・運営
  • URL https://stockmark.co.jp/

クリスプ

CRISP HOLDINGS について
私たちは「熱狂的なファンをつくる」をミッションとし、カスタムサラダ専門店「CRISP SALAD WORKS」を通じて日本のマーケットに健康的で美味しい主食としてのサラダやカスタマイズする楽しさを紹介してきた外食事業者であると共に、飲食店の顧客体験を進化させるためにデジタルトランスフォーメーションによる外食業界のイノベーションを目指した、今までにない全く新しい形のテクノロジー企業です

カスタムサラダチェーン運営のクリスプがモバイルオーダー開発のカチリをグループ化し、三菱商事から約5億円の資金調達を実施
  • 公表日 2020年2月25日
  • 調達金額 約5億円(出資比率18.4%)
  • 引受先 菱商事株式会社
  • 企業名 株式会社クリスプホールディングス
  • 設立 2020年1月20日(創業2014年)
  • 代表者 代表取締役社長 宮野 浩史
  • 所在地 東京都港区三田1-10-10(オフィス:東京都渋谷区神宮前2-19-16 小松ビル3F)
  • 事業内容 カスタムサラダ専門レストラン「クリスプ・サラダワークス」、カスタムピザ専門店「アール・ピザ」、セルフレジやモバイルオーダーアプリの開発
  • URL https://www.crisp.co.jp/

レンティオ株式会社

【Rentioとは】
カメラや家電、ベビー用品を買わずに使えるレンタルサービス。
商材はカメラや家電を中心に1,500種類以上、1万点以上の在庫を取り扱い。
一度は使ってみたいと思うような一眼レフ、キッチン家電、掃除家電なども幅広くレンタルが可能。

【プレスリリース】レンティオ株式会社が総額10億円の資金調達を完了いたしました -これまでなかった新しい消費行動を作り上げるために-
  • 公表日 2020年2月25日
  • 調達金額 総額10憶円(りそな銀行などからのデットファイナンス含む)
  • 引受先 株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ、W ventures株式会社、SMBCベンチャーキャピタル株式会社、コンビ株式会社
  • 企業名 レンティオ株式会社
  • 設立 2015年4月6日
  • 代表者 代表取締役 三輪 謙二朗
  • 所在地 東京都品川区大井4-6-1 サクラビル3F(受付4F)
  • 事業内容 カメラ、家電製品を中心にレンタル及び販売するイーコマース事業、情報サイトの運営など
  • URL https://www.rentio.jp/

株式会社リクシス

【株式会社リクシスについて】
 「大介護時代に、『すべての人の物語』が輝く世界を。」をビジョンに掲げ、仕事と介護の両立支援クラウド「LCAT」、高齢者・介護市場向けリサーチ&コンサルティング事業、高齢者・介護市場向けプロモーション&マーケティング事業を提供しています。

【プレスリリース】仕事と介護の両立支援クラウド「LCAT」のリクシス、 シリーズA投資ラウンドで総額約2.6億円を調達~主力商品「LCAT」の導入実績は20社を突破~
  • 公表日 2020年2月25日
  • 調達金額 総額2.6億円(シリーズA)
  • 引受先 エンジェル投資家
  • 企業名 株式会社リクシス
  • 設立 2016年9月1日
  • 代表者 代表取締役社長 CEO 佐々木 裕子
  • 所在地 東京都港区西新橋3-8-1 第2鈴丸ビル2F
  • 事業内容 仕事と介護の両立支援サービス「LCAT」、介護市場向けコンサルティング事業、介護市場向けプロモーションマーケティング事業
  • URL https://www.lyxis.com/

株式会社LegalForce

■ LegalForceとは
2017年4月に創業され、「プロフェッショナルに、驚きと感動を。」をコンセプトに、日本初となる自然言語処理を用いたクラウド型契約書レビュー支援ソフトウェア「LegalForce」を提供しています。 契約書に潜むリスクを一瞬で洗い出し、修正条文例のリサーチ、契約書管理まで、契約書業務にかかる一連の業務をサポートすることで法務業務の質の向上と効率化を実現します。2019年4月に正式版をリリースして以来、250社を超える企業の法務部や法律事務所にサービスを提供してまいりました。

株式会社LegalForceはシリーズBラウンドにおいて総額10億円の資金調達を実施いたしました
  • 公表日 2020年2月21日
  • 調達金額 総額10億円(シリーズB)(累計調達額約16億円)
  • 引受先 WiL, LLC、株式会社ジャフコ、三菱UFJキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル株式会社、みずほキャピタル株式会社、株式会社ドリームインキュベータ、京都大学イノベーションキャピタル株式会社など
  • 企業名 株式会社LegalForce
  • 設立 2017年4月
  • 代表者 代表取締役兼CEO 角田 望
  • 所在地 東京都千代田区内幸町一丁目1番地6号8階
  • 事業内容 法律業務に関するソフトウェアの研究・開発・運営・保守
  • URL https://www.legalforce.co.jp
カテゴリー
IPO・バリュエーション

レンティオ株式会社が総額10億円の資金調達、バリュエーションを推測してみました。

家電のレンタルサービスを手掛けるレンティオ株式会社が、本日2月25日に総額10億円の資金調達を行ったというプレスリリースを出しました。
事業内容等々はこちらに詳しいので、大きく割愛し、概要部分だけプレスリリースより引用します。
ここでは、バリュエーションを予測し、その上でレンティオ社のIPOのできあがりを考えてみます。

【Rentioとは】
カメラや家電、ベビー用品を買わずに使えるレンタルサービス。
商材はカメラや家電を中心に1,500種類以上、1万点以上の在庫を取り扱い。
一度は使ってみたいと思うような一眼レフ、キッチン家電、掃除家電なども幅広くレンタルが可能。
【レンティオ株式会社について】
本社  : 〒140-0014 東京都品川区大井4-6-1 サクラビル3F(受付4F)
代表者 : 代表取締役 三輪 謙二朗
設立  : 2015年4月6日
事業内容: カメラ、家電製品を中心にレンタル及び販売する
      イーコマース事業、情報サイトの運営など
URL   : https://www.rentio.co.jp/
■取扱商品の一例
カメラ :一眼レフ、アクションカメラ、防水カメラ、インスタントカメラ、他
一般家電:掃除ロボット、高圧洗浄機、キッチン家電、他
事務家電:プロジェクター、ドキュメントスキャナー、他
その他 :ロボット、ドローン、他

レンティオ株式会社プレスリリースより

予測バリュエーション

登記簿謄本を取得し、これをベースにバリュエーションを予測しました。
あくまでも登記簿謄本から得られる公開情報のみをベースとしているため、正確性については担保できないことはご了承ください。

前提条件として、いくつか仮定を置いています。
過去にC種を二回出していること、前回のD種から間が空いていないこと、から今回の調達は前回D種とほぼほぼ同条件と推測しています。
リリースでは、デットとあわせて総額10億円とのこと。
決算公告では2019年8月期で赤字であり、おそらく事業計画上もしばらくは赤字が続くであろうことから、デットの比率が5割を超える事は無いと推測できます。
5割~1割がデットとし、間をとって3割でざっくり仮定、エクイティでの調達を7億円とおきます。
決算公告の数字から、調達額の半分を資本準備金に振っているため、資本金の増加額の2倍を調達額と設定します。

レンティオ株式会社2019年8月期決算公告

これらの仮定をもとに作成したのが下記の表です。
発行している種類株にあわせて各ステージ(シリーズ)としています。

調達時期ステージ発行株式種類株数発行済株式総数資本金の額(千円)調達額(千円)株価 (円)バリュエーション(千円)
創業普通株式30,00030,000
AA種優先株式5,30035,30015,500
2016/10/31BB種優先株式6,81242,11273,402115,80417,000715,904
2018/7/17CC種優先株式2,15944,271123,38099,95546,2972,049,615
2019/1/25CC種優先株式4,75149,022233,358219,95746,2972,269,572
2019/11/10DD種優先株式5,01654,038433,346399,97679,7404,308,990
2020/2/25DD種優先株式8,80062,838584,214701,71279,7405,010,702

ポストマネー50億円が今回のバリュエーションと推測されます。
前回のD種での調達とあわせて、実質的にはシリーズDで11億円の調達、と言えるかと思います。
余談ですが、レンティオ社の経営者は、どんどんCashを溶かしていく積極性と、刻んで調達を進める慎重性の両面を持っている性格のようです。

IPO時のできあがり予想

現在のステージがシリーズDで11億円の調達が走ったわけですので、そろそろIPOのレンジに入った印象です。
公告の数字と今回の調達額から考えると、後1回くらい調達をはさみ、最短で1年、現実的には3年を目標、という感じでしょうか。
レイターステージですので割引率を20%、IPO時のディスカウントを20%として計算すると、下記のようなイメージになるかと思います。
PERは仮置きで30としました。

  • 上場までの年数 3年
  • 割引率 20%
  • 上場時予想当期純利益 333百万円(欠損考慮せず)
  • 上場時予想PER 30
  • 上場時予想株主価値 10,000百万円
  • IPOディスカウント後株主価値 8,000百万円
  • PostMoney 5,000百万円

PERをどう置くかにもよるのですが、レンタルということで金融業的に捉えられると非常に厳しいです。
サービス業の中で類似会社を抽出し、上場時予想PER30あたりでできあがりのバリュエーションを考えられると良い印象です。
申請期の経常500百万円を狙えば良いので、もっと伸びてもおかしくは無いと考えます。
割引率を30%にすると株主価値が約150億円となるので、そこは目線として置いても良いでしょう。

(参考)投資家一覧

(今回引受)
グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)(前回からの追加投資)
W ventures(前回からの追加投資)
SMBCベンチャーキャピタル
コンビ

(既存投資家)
ANRI
有安伸宏(個人)
坂本達夫(個人)
East Ventures
メルカリ
アドウェイズ

モバイルバージョンを終了