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自主的に学習することの重要性~確証バイアスの意外な機能~

いわゆる“確証バイアス”と呼ばれるものがあります。
自分が欲しい情報等を選択的に取り入れ、意思決定を誤らせてしまう、一般的にはネガティブに語られるものですが、実は意外にも学習において重要な役割を果たしています。
ここでは自主的に学習する事の重要性と確証バイアスの関係性について見ていきます。

選択の自由は学習効率をあげる

バイアスと学習の効率について調べた、興味深い研究があります。

https://www.nature.com/articles/s41562-020-0919-5.epdf

研究の内容は次のようなものです。

  • 参加者に対して2つのシンボル画像を見せ、どちらの画像がより多くのポイントを獲得できるのかを、試行錯誤しながら学習した
  • ポイントはお金に換金できる
  • ポイントが増える「報酬」のシンボルの方が、ポイントが減る「罰」のシンボルよりも早く学習することができた
  • シンボル画像の選択後に結果がわかる実験においては、選択したシンボルの「報酬」が多い場合と、選択しなかったシンボルがポイントが減点される「罰」の場合に、学習効果が高かった

ここまでの内容で言えることとして、「罰」よりも「報酬」の方が、学習効果が高いという点が一つ。
加えて、「報酬」の存在のみならず「罰」の存在からも高い学習ができる、という点です。

重要なのはここからです。

  • 参加者に対して選択肢を指示する「強制」の実験も行われた
  • 参加者は「強制」された選択肢を選んだ場合、「報酬」による学習も「罰」による学習も、同程度の学習効果、つまり学習効果が悪化した
  • 研究者は、自由な選択を行った場合、「確証バイアス」が働き一定の学習効果の向上が見られたが、選択肢を奪った強制環境においてはこの「確証バイアス」が消失した、としている

つまり、自主的に学習するのか、学習を強制されるのかで学習効果が異なる、ということです。

この知見を活かすには?

研修において、自主性の尊重を設計に組み込む

この知見を現実のビジネスや生活に活かすにはどうすれば良いでしょうか?

1つは、会社組織における研修への活用が考えられます。

一般的にビジネスの研修は、カリキュラムもコンテンツも決まっており、従業員に対して「強制」を行うものです。
「強制」の学習効率が悪いのは上述のとおりです。

会社としては、これこれを勉強して欲しい、という内容は当然にあるでしょう。

しかし、自由度を高めることはできるはずです。

例えば、オンライン教育に切り替え、学ぶ場所や時間を自由にさせる。
一定の学習範囲の中で“必要単位”を設定し、“単位履修”をすれば研修OKとする。
というようなものです。

つまり、自主性の尊重を研修の設計に組み込む、ということですね。

思考の偏りについて、それを正す“自由”が自分自身にあると思う

次に、自分自身の思考の偏りについて正すこともできると考えられます。

人間は一般的に、他人に間違いを指摘されると不愉快な気持ちになり、意固地になり、仮に本当に間違えていたとしてもそれを受け入れ改善につなげるのは容易ではありません。

しかし、自分自身で自分自身を正すのであれば、その不愉快さは軽減されるはずです。

ようは、自分自身を正す“自由”が存在する、ということです。

自分自身が考えていることについて、あえての反論(デビルズアドボケイト)を行ってみると良いかもしれません。
(この点については、上述の実験において研究者も一部指摘をしています。より正確には、陰謀論等にハマる人も、確証バイアスにより学習が強化されている、という指摘ですが。)

コントロール感の存在も重要か?

懸念としては、単純に自由度がある、自主的に取り組めば学習効果が高くなるかどうかは不明だ、という点です。

別の研究では、仮に自由度が高い、自主的に取り組める環境であったとしても、組織の上の立場なのか、それとも下の立場で学習効果が異なることが指摘されています。
(上の立場の方が、自主的に取り組んだ際の学習効果が高い。)

もしかしたら、“コントロール感”の重要性が大きいのかもしれません。

となると、単純な“自由度”という観点ではなく、“コントロール感”という観点で物事を設計していく方が正しいかもしれません。

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仕事中の“横やり”は本当に効率を下げるのか?

仕事中に、いわゆる“横やり”が入ると、集中力が途切れてしまい、効率を下げると言われています。
特にエンジニアやクリエイティブ業の方を中心に嫌われる、この“横やり”ですが、本当に効率を下げるのでしょうか?
明確な答えが無い問いですが、一つ示唆となる研究がありました。
どうやらケースバイケースのようです。

“横やり”による仕事の中断がストレスに与える影響

興味深い研究があります。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0306453020302596?via%3Dihub

研究の内容は次のようなものです。

  • 90人の参加者を対象とした
  • 保険会社勤務を想定し、実際のオフィス環境に似せた実験場を作った
  • 参加者には、紙の書類のデジタル化、販売数計算、アポイントメント等、様々な事務作業に従事
  • 実験では、標準となる業務に加え、追加のタスクを行う実験グループを用意
  • コントロールグループには、簡単な追加タスクを課し
  • 実験群には、面接の準備を行った上で、昇進に関わる面接を受けることが課された
  • この内、実験群は2つに分けられた
  • 実験群①は、定期的なアンケートと唾液の採取による“横やり”(業務の中断)が入った
  • 実験群②は、チャットメッセージにより、仕事の状況について即座に要約し共有するような“横やり”(業務の中断)が入った

この実験を通じて、ストレスレベルの測定が行われました。
結果は次のとおりです。
(ストレスレベルが大きい順に並べている。)

実験群① > 実験群② > コントロール

意外にも、“横やり”の度合いが大きい実験群②のストレスレベルが、相対的に“横やり”の度合いが小さい実験群①より低かったという結果が出たのです。

(より正確に言うと、ストレスホルモンと言われる「コルチゾール」の分泌量は、実験群②の方が実験群①より約2倍大きく出た一方、アンケート結果では逆転しており、ストレスを感じていないと評価されていた。)

“横やり”がストレスを増やすことには変わりないが。。。

上述の実験結果に対し研究者の考察は次のようなものです。

1つが、コミュニケーションを人と取る事により、仕事に対する確信やコントロール感が高まったのではないか、というもの。

もう1つが、“横やり”が却ってその後に来るストレス(面接)に対して集中をそらす効果があったのではないか、というものです。

つまり、“横やり”がストレスを増やすことには変わりは無いけれど、認知の仕方によっては、相対的にストレスを感じない、もしくは軽減させることはできるかもしれない、ということです。


これらの結果や考察から現実のビジネスに使える知見は何でしょうか?

繰り返しになりますが、“横やり”がストレスを増やすことには変わりはないのですが、コントロールすることはできそうです。

何かしらプレッシャーが大きいタスクが控えている状況で、何かしらの“横やり”が避けられないのでされば、自分自身に対する肯定感を高めるような、もしくはその後に控えているタスクを忘れさせるような“横やり”を意図的に組み込むのは有りかもしれません。

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リスクを取れる能力を身に着けるためには?

いわゆる“成功”のためには、適切にリスクを取ることが必要とされています。
しかし、多くの方がマイナスのリスクを過大に評価し、現実実際の行動に移せていません。
ここでは、リスクを取れる能力を身に着けるためのヒントについて考えていきます。

チェスを学ぶとリスクを取る能力が高くなる?

好意を持っている人へのアプローチや、難しい仕事・新しいことへのチェレンジは、多くの人がやりたいと思うものです。
しかし現実には、マイナスのリスクを過大に評価し、“成功”を逃してしまう人が少なくありません。

この、いわゆる“成功”のためには、適切にリスクを取ることが必要とされていますが、では、リスクを取れるようになるためには、どのようなことが必要なのでしょうか?

非常に興味深い研究があります。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0304387820301905

研究の内容は次のようなものです。

  • 15歳・16歳のチェスをしたことが無い400人の学生を対象に研究
  • 学生にチェスを教え、1年間にわたり認知能力を評価した
  • チェスを学んだ学生はリスク回避の傾向が低減し、リスクを取れるようになった
  • また、数学のスコアが向上し、論理的・合理的思考能力も向上した
  • リスク回避低下の傾向は1年後でも維持されており、効果が長期的に持続することがわかった

ようは、チェスのような勝利のためには一定のリスクを取らなければいけないゲームを学ぶことにより、適切にリスクを取れるようになる可能性がある、ということです。

リスクは取るのが馬鹿馬鹿しいものもありますが、この研究では、取る価値の無いリスクについては適切に回避する、つまりはリスク評価のスキルも身についていたことが指摘されています。

一方、その他の学業成績や創造性、集中力等には有意な効果が無いとされています。

この知見を活かすには?

それでは、この知見を活かし、リスクを取れる能力を身に着けるためにはどうしたらよいでしょうか?

考えられることとしては、訓練、それも容易にリスクを取る訓練ができるゲームの類を練習することは良いかもしれません。
(なお、上の研究では、対象が若い学生でしたが、成人においても効果がある可能性は十分にあります。)

チェスに限らず、勝敗を決める類のゲームは、一定のリスクを取る必要があるものが多いです(運に頼るものは除く)。
また、ゲームの対象も、スポーツに広げることは考えられます。
例えばテニスのようなスポーツですと、技術もそうですが、一定のリスクテイクは勝利を掴むためには必要です。

仮に失敗したとしてもダメージが少ないものを教材に、リスクテイク、リスク評価の訓練を行ってみるのは如何でしょうか?

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勉強メモをとるにはキーボードより紙とペンで手書きが良い

勉強にパソコンやタブレットPCを使うことが珍しくなくなり、勉強メモをキーボードで取る方も多いでしょう。
ここで疑念がよく指摘されるのが、勉強メモを取る上において、キーボードと手書き、果たしてどちらが良いのか?という疑問です。
結論から言うと、紙とペンを用いた手書きが勉強には有利です。

2つの研究を通して、その内容を見ていきます。

手書きの方が脳が活性化

数十人の若者に対して脳活動を調査した研究があります。

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2020.01810/full

いわゆる“フード型電極”を装着して、キーボードによるメモ、手書きによるメモを両方行い、どちらが勉強に有利か?を調べたものです。

この研究では、手書きの方が脳の幅広い領域を活性化した(併せて学習効果も高かった)、というデータが取得できました。

キーボードメモは短期記憶に有利だが手書きは長期記憶に有利

もう一つの研究は、キーボードによるメモ、手書きによるメモの被験者を比較して、記憶の定着度を調査したものです。

https://www.wsj.com/articles/can-handwriting-make-you-smarter-1459784659

この研究では、キーボードによるメモの方が、メモを取れる量が多く、また短期的には(具体的には学習直後)記憶の定着度が高い、という結果がでました。

しかしながら、24時間後には、手書きによるメモの方が記憶の定着度が高い、という逆転現象が起きることも併せて判明しました。

2つの研究から、勉強には紙とペンを用いて手書きによりメモを取る方が良い、ということがわかります。

デメリットも

もちろん手書きによるメモにも弱点はあります。

2つめの研究でも指摘されていましたが、メモを取れる量については手書きの方が少ない、また話すスピードに併せて脳内で整理する弊害か、重要なワードや文脈を整理しきれず、ポイントを落としていた例もみられるそうです。

つまり、手書きによるメモには高い集中力が求められるのですね。


勉強以外に仕事でもこの知見を適用しようと思うとどうでしょう。

通常の会議においては、網羅性が一定求められることを考えると、キーボードによるメモの方が良いと言えるかもしれません。

一方、記憶の定着度が求められるような状況、例えば研修等においては手書きの方が良いでしょう。
また、通常の会議においても、最後に内容のまとめや確認を取るプロセスを挟めば、手書きによる網羅性の弊害もクリアできるはずです。

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「自分にはやらない治療」が何故発生するのか?~医者のバイアス~

新型コロナウイルス感染症の拡大は、良くも悪くも人々の健康意識を高める結果につながりました。
そのような中、医者が「自分にはやらない治療」と題して、様々な主張をするケースも見かけるようになりました。
何故、このような現象が発生するのでしょうか?
医者のバイアスが関係していそうです。

自分にはやらない治療

米国でのとある研究で興味深い結果があります。

https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/227069

概要は次のようなものです。

  • 臨床医に対して仮想のシナリオを提示し、その意思決定について調査した。
  • 仮想のシナリオは2つで、1つが大腸がんの治療法、もう1つが鳥インフルエンザの治療法。
  • いずれのシナリオについても、2つの治療法を提示。
  • 1つが副作用の発生率が高いが死亡率は低い、もう1つが副作用の発生率は低いが死亡率は高い、というリスクの性質が異なる治療法を提示した。
  • 結果は、患者には副作用の発生率が高いが死亡率は低い治療法を勧めた。
  • 一方、医者である自分自身に対しては副作用の発生率は低いが死亡率は高い治療法を選択した。

具体の数字をもう少し見ていきましょう。

大腸がんの選択肢を検討してもらった242名の医師のうち、37.8%が自分の死亡リスクが高い選択肢を選んだ一方、仮想患者に対しては、この選択肢を勧めるのは24.5%にとどまったそうです。
また、鳥インフルエンザの選択肢を検討してもらった698人の医師のうち、62.9%が自分の死亡リスクが高い選択肢を選んだ一方、48.5%のみが自分の患者にこの選択肢を勧めたとのこと。

ようは、全体の傾向として、患者に対しては、例え副作用が強くても最終リスクが低いものを選ぶ一方、自分自身に対しては最終リスクが高くても副作用、つまりは治療の過程が辛くない治療法を選択する傾向がある、ということです。

何故、このような現象が発生するのか?

論文では、医者としての「正しさ」と、個人としての「志向」が異なる点を指摘しています。

患者に対しては、医者として、副作用リスクを取り、死亡リスクを減らすことが「正しさ」であると判断します。

自分自身に対しては、副作用の辛さ、治療の過程の辛さを考えた時に、その「正しさ」が揺らいでしまう、とのことです。

(他にも、自分自身の経歴、つまり成果を重視したり、周囲の関係性を含めた利益相反も指摘されてはいます。)

つまり、治療過程を見ているが故のバイアスが発生し、判断軸が揺らいでしまう、と言えます。


ネット上には様々な情報が溢れており、表題のような医者による「自分にはやらない治療」の情報も簡単に入手できます。

上記のような知見を持っていると、このような情報に対して冷静に考えることができるはずです。

論文では次のような助言がありました。

「医者があなたのすべきことを考えているのか。それとも、あなたの状況であったとしてどうするか。これのどちらを考えているかによって、あなたが得るべきアドバイスは変わってくるでしょう。」

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ブルーライトカット眼鏡はやはり意味が無い?~日本眼科学会他意見~

ブルーライトカット眼鏡は、2012年頃に急激にその人気を博し、今もなお根強いニーズがあります。
しかし、科学的にはどうなのか?という意見も(少ないながらに)存在していました。
そのような中、日本眼科学会の他、複数団体より、その効用についてネガティブな意見が出ました。

意見書概要

意見の背景は、ブルーライトカット眼鏡を販売している「JINS」が、子ども達にブルーライトカット眼鏡を無償配布する、と発表したことをうけてのものです。

(参考)「小児のブルーライトカット眼鏡装用に対する慎重意見

https://www.gankaikai.or.jp/info/20210414_bluelight.pdf

まず、大前提として、ブルーライトは可視光線の一部であり、デジタル端末の液晶画面から発せられるもののみならず、太陽光や電球の光にも含まれています。
つまり、日常的に浴びているものなのですね。

その中で、「夕方以降にブルーライトをカットすることには、一定の効果が見込まれる可能性はあります。」としつつも、その語調は“可能性”でしかないよ、としています。

意見書の概要は次のとおりです。
販売業者にとっては非常に手厳しい意見ですね。

  • デジタル端末の液晶画面から発せられるブルーライトは微々たるレベルで人体に影響が無い
  • 小児にとって太陽光は身心の発育に良いものであり、いたずらにブルーライトをカットすることは近視のリスクを高める可能性がある
  • 海外の研究では、ブルーライトカット眼鏡に眼精疲労の軽減効果は無いと報告している
  • 就寝前ならともかく、日中にブルーライトカット眼鏡を使用する有用性は根拠に欠ける

今後どうなっていく?

世の中のブルーライトカット眼鏡に対する関心度は次のような推移となっており、今もなお根強いニーズがあります。
(コロナ禍で、無駄に関心が高まった様子が見て取れます。)

Googleトレンドより「ブルーライト」で検索

しばらくは、ブルーライトのリスクを高く評価する層(もしくは、そもそも何も考えていずにブルーライトという用語だけに反応して購買している層)により、消費が支えられていくものと考えられます。

なお、既に似非科学としての地位を確立した“マイナスイオン”ですが、次のような関心度の推移となっています。
“ブーム”が完全に収束するのに、10年弱を要しています。

Googleトレンドより「マイナスイオン」で検索

筆者個人としては、科学的に効果の無いにも関わらず科学的に効果があると謡っている雰囲気商品は、この世から無くなった方が良いと考えているので、ブルーライトに対する認識も早く広まって欲しいものです(筆者個人に実害がある話では無いのですが、生理的にダメなので。)(最初から効用もくそも無いよ、ファッションだよ、と謳っている商品については別に良いと思います)。


結論として、以前に記載した記事のとおりの内容と言えます。

「気にするな、ただし就寝前には電子機器を使わないようにしよう」

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アイスランドが「給与そのままで週休3日試験導入」を成功させたようです

アイスランドにて、週休3日制の試験導入が行われて、一定の成功を収めたようです。
トライアルには全労働人口の1%にあたる2,500人が参加し、普遍的に対応できると結論付けられたとのこと。
労働者のメンタル面や幸福度等にもプラスの影響を与えているとのことです。
内容を見てみましょう。

大元のPDFデータはこちらで見れます。

https://en.alda.is/wp-content/uploads/2021/07/ICELAND_4DW.pdf

概要

週休3日制のトライアルが給与の削減を伴わない形で、アイスランドで行われました。
期間はトータル、7年間行われたそうです。
(週休3日制、というよりかは労働時間の削減、の方が正確か。)

目的は、ワークライフバランスの改善のみならず、生産性の維持・向上も図るものです。
対象は、オフィスや学校、病院等々、幅広い業種において行われました。

結論として、多くの職場において、労働時間を削減したとしても生産性とサービス提供の質は変わらないか、むしろ向上した、とされています。
加えて、ストレス、燃え尽き症候群、健康、ワークライフバランス等々の様々な指標の改善につながりました。

アイスランドでは、このトライアルの結果を受けて、国全体として労働時間の短縮が進んでおり、この流れは止まらないだろう、とされています。

どのような結果がもたらされたか?

労働時間の短縮により、労働者のウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態)とワークライフバランス大幅に向上し、その一方で、既存のサービス提供レベルと生産性は少なくとも維持され、場合によっては向上したことがわかりました。

例えば、次のような有益な効果が出たそうです。

  • パートナーと過ごす時間や家事に費やす時間が増えることで、家庭でのストレスが軽減される
  • より広い範囲の家族や友人と過ごす時間が増える
  • 趣味や情熱、その他の関心事、あるいは単に休息のための自分のための時間が増える
  • 平日に家事や家事に費やす時間が増えることで、週末に使える時間が増え、その質が向上する
  • 男性が家事の責任を負うことで、より公平な役割分担が可能になる

また、この効果は短期的なものではなく、継続的に見られたとのこと。

全労働力の1%が参加し様々な職種で明確な成果が出たことを受け、労働時間の短縮が実行可能性のある非常に有益な政策であること、このトライアルが旗振り役となるであろうことがレポートには記載されています。

どんなことに取り組んだ?マイナスはないのか?

労働時間の短縮に表面上取り組むと、同じ生産量を維持するために、労働者は公式または非公式の残業によって「失われた時間」を補うことになり、意図せずに過労死につながるという懸念がよく聞かれます。

このトライアルは、この一般論に反する結果となりました。

では、どのようなことに取り組み、このような結果につながったのかというと、会議の短縮、不要な作業の削減、シフトの調整、仕事の進め方の見直し、というようなある種、取り組みやすい改善策があげられます。

また、会社の社長やマネージャーといった役職者も率先して、これらの“働き方改革”に取り組んだことが見て取れます。
上の立場の人間が、率先して会社の慣行を変えようとしなければ、組織全体の慣行を変えることはできないので、この点は非常に大きなウェイトをしめているのでは、と推測されます。

一方、多くの職場において業務プロセスは複雑で無く、より最適化された働き方について見出だしやすかった、というような指摘もあります。
欧米ではジョブディスクリプションが日本より明確になっている場合が多いため、この点も労働時間の短縮による生産性の維持・向上が成功しやすかった要因では無いかと推測されます。

また、難点もあります。
主にヘルスケア分野において、不足するリソースを補うために、追加の人員を採用した例もある、というような記述も見かけます。
レポート内では「大した負担ではない」と書かれていますが、利益率の低い産業や国においては、単純に模倣することができないのでは、というような疑念を抱きます。


以上、簡単ですが、アイスランドでの労働時間の短縮により、生産性の維持・向上の取り組みについて、レポートの内容を抜粋してきました。

所感としては、「日本では無理だな」という点です。

根本的な効率化について、それを阻む風潮が国全体としてありますし、また元々利益率が低い国柄でもあります。
会社慣行をトップが率先して変えよう、というような動きも起き辛いでしょう。

一方、先進的な考え方を持っている企業では導入が可能な取組みとも言えます。
国単位での導入は夢物語でしょうが、競争力の維持・向上を図りたい企業は、アイスランドの事例を参考にしてみるのは価値がある可能性があります。

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「抱負」は立てても達成できない~シンプルな目標の考え方~

年末が近づき、決意新たに新年の抱負を立てる方も多いでしょう。
水を差すようですが、結論を言うと、大多数の方にとって、抱負は立てても達成できません。
ここでは目標達成のためのシンプルな考え方について紹介します。

何故、抱負は立てても達成できないのか?

抱負云々については各所で色々と語られています。

抱負と目標は別物ですよ、とか。
(抱負は決意、ゴールイメージ、そしてそこに至るプロセスを包括するのに対し、目標はゴールイメージのみ、とか。)

ただ、そのような話はわりかしどうでもよいです。

ポイントは、何故達成できないのか?です。

その結論は身も蓋も無いのですが、これまで抱負を達成できなかった人が、決意新たに、改めて抱負を立てても達成できるわけないじゃないですか、という話です。

これまでの人生の中で、年初に立てた抱負を年末までに覚えている方はどれだけいますか?

きちんと達成して、次年度の抱負では、これまでの抱負をベースにアップデートしたものを設定できている方はどれだけいますか?

まずいません。

体感ベース、96%くらいの方は、抱負を立てている風でも達成できていないでしょう。

それではどうすべきなのでしょうか?

戦略を変えてみる

結論から言うと、戦略を変えてみよう、という話です。

これまでうまくできた試しが無いことを改めて取り組んだとして、失敗する可能性は非常に高いです。

一方、別の方法ならうまくいく可能性は十分にあり得ます。

目標設定(とその目標を達成するための考え方)の方法は多数存在します。

下記は一例です。

  • ベーシック法
  • 三点セット法
  • SMARTの法則
  • HARDゴール
  • ランクアップ法
  • ベンチマーク法
  • 期中設定法
  • NLP式目標設定法
  • みんなで目標設定
  • KGI×KPI×KDI法
  • マンダラチャート(マンダラート)

細かい解説は別に譲りますが、これまでの目標設定と達成までのプロセス設計は、どのような方法に基づいて行われたものでしょうか?
調べてみて、別の方法を採用すると、突破口が見えてくるかもしれません。

ようは、きちんと失敗要因を振り返り、分析し、対策を練りましょう、という話です。

他にも、もの凄くシンプルに、時間軸を短くしたり、思いっきりハードルを下げてみるのも手です。

上述の目標設定方法の話は、つまる所、方法論に過ぎないので、そもそもこれまでの設定軸やハードルで目標達成ができない人が別の方法に切り替えた所で、達成できないよね、とも言えます。
その意味で、こちらの考え方の切り替えの方が現実味はあるでしょう。

例えば、年間計画では無く、デイリーレベルにまで縮小して見るのです。

「今日一日、絶対に達成する事」のようなイメージです。

これは何でも良く、例えば、1日見開き3ページ合計6ページ本を読む、とかです。
毎日続ければ、概ね1,2ヶ月で本が1冊読めます。

ハードルを下げる例も考えられます。

例えば、だらだらする生活習慣を解消したいのならば、ソファーやクッションを捨てる、とかでも良いのです。


達成できない抱負を無理に立てても、無意味極まりないです。
達成できる工夫を考えてみては如何でしょうか?

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新しい事をはじめる、新しい習慣を身に着ける方法

何かこれまで出来ていなかったことを「習慣化」したいと考える人は多いはずです。
しかし「三日坊主」と呼ばれるように、いざ新しい事をはじめても、なかなか身につかないのが実際です。
今回は、新しい習慣を身に着けるヒントについて考えてみます。

高速習慣化

以前、別の場所で、何か新しい事をはじめた際に習慣化するのに、非常に時間がかかり大変ですよね、この習慣化を高速でやるヒントがありますよ、という話をしました。

その習慣の高速化は次のように行います。

米空軍での習慣化トレーニング法「10回以上の即時反復」

空軍の基本トレーニングでは、習慣化のために、次のことを短い時間の内に反復する。

1)指導教官が部屋の照明をオンにする ⇒ 訓練兵は即時に起床し、数秒でベッドメイクをする
2)指導教官が部屋の照明をオフにする ⇒ ベッドに戻り睡眠に入る
3)適度な時間を起き1)と2)を行う、以下繰り返し

これを続けて10回~20回繰り返すと、新しい習慣が身体に刻まれる。

日常のことに置きかえて考えてみる。

例えば「帰宅した時にコートを放り投げて散らかす癖を直したい」という場合。

1)帰宅したらすぐにクローゼットにハンガーにかけて吊るす
2)コートを着用し外出する
3)しばらくしたら帰宅し1)と2)を実行、以下繰り返し

これを10回ほど繰り返すと、帰宅するとコートを放り投げずにクローゼットに吊るす、という習慣が身に付く。

ようは、短い期間、それも1日の間や数時間の間などの、非常に短い時間内で、習慣化したい事を何回も繰り返す、という手順です。

これは、教育学における過剰学習という考え方にも通ずる所があり、一定の理論的な支持もできる経験則的手法です。

これとは別の方法もあります。

やりたい事を全部やってみる

以前、次のようなツイートをしました。

これは一言で言うと、「いいからやりたい事を全部やってみる」という方法です。

何か、新しくはじめたい事、習慣化したい事があったとします。

この新しくはじめたい事や習慣化したい事を、とりあえず全部リストアップするんですね。

その中には、「すぐにはじめよう!」というのが成功者の行動原理における一つの真理でありつつ、現実的に難しいものもあるとは思います。
そのような現実的にすぐにはじめるのが難しい事を除き、すぐに手を出せる事、実行できる事をいいから全部やってみるんです。

(参考)この「やりたい事リスト」は「バケット・リスト」と呼ばれたりしますね。
こんな感じ(下記表)のようなシンプルなものが良いです。

WordやExcel、メモ帳等で簡単に作れますね。

蓋をあけてみたら性にあっていて何か続けられた、逆にやってみたら何か違った、というものはチェックをつけて、バケット・リストとしては完了ステータスにします。

うまく習慣化できなかった事で、やっぱり継続してチャレンジしたい事はバケット・リストに残し、次の総あたりチャレンジで、新しくバケット・リストに追加したものと併せて、もう一度習慣化にトライする。

という事をひたすら繰り返せば、結構な量の新しい事、新しい習慣が身についていきます。
(10個くらい挑戦したら、1個くらいは自然と継続できるもんです。)


見方によっては非常に脳筋な方法ですが、やってみないと実際の所がわからない部分が多いのも現実世界です。

とりあえずやってみて、良かったら良し、駄目だったら駄目だった事がわかって良し、という感じで、収穫はあります(知見も広がりますよ)。
ぐだぐだ考えて、何も行動を起こさないよりかは、失敗した、という方がマシですので、「いいから、とりあえずやってみよう」というマインドで、色んな事にチャレンジすると良いと思います。

また、単純に自分自身の人生や成長ステージ的に、「今は」駄目だったけれども、時間がたったら問題無くできるようになっていた、という事も沢山あるものです。

このバケット・リスト法(今、命名しました)による習慣化、是非、試してみて下さい。

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とりあえず初めてみるのが良い、という話

何か新しい事をはじめよう。
そのように思いはするものの、実際に行動に移す人は少ないです。
今回は、「とりあえず初めて見るのが良いよ」というテーマで考えていきます。

考えるより、とりあえず初めてみる

先日、なんてことの無い日常についてなのですが、このようなツイートをしました。

まぁ、背景はいくつかありつつ、自宅でしいたけ栽培をはじめたのですね。

これ、私や家族が、何かしらの栽培を趣味にしているとかそういう話では無く、ほとんど、ただ何となくて行動したものです。
本当に、そこまで特段深い事を考えずにはじめており、「なんとなく」でした。

では、これでどのような気づきを得たのか?という話なのですが。

私は、知識として、しいたけは芽(?)が出てから、1週間程度で収穫できるようになる、という事自体は知っていたのですが、では目の前で実際に急激に大きくなっていく姿を見て、頭の中にあった印象としてのしいたけの成長イメージと、知識上の成長イメージが一致していない事に気が付いたんですよ。

これ、何が大事かというと、座学的に学んだことって、往々にして使い物になりません。
実際に行動に移して、座学的な知識では習得できない、血肉の通った経験を積み重ねないと、使い物になる何かを得る事って、中々難しいんですね。

https://note.com/ymzo76/n/n462331bbd97b

知の階層構造という概念があるのですが、これで言うと、データや情報、そして知識だけだと不十分で(使い物にならない)、行動に移して理解し、経験を積み重ねていく事により、使い物になる「知恵」に昇華される、という事ですね。

ようは、いいからとりあえずはじめてみよう、という事です。

ビジネスが形になるまでの時間

これを現実のビジネスにあてはめて考えてみましょう。

起業をしビジネスを軌道に乗せる。
そして、どんどんビジネスを成長させIPOを達成し、更なる飛躍へのステップを踏む。

例えばIPOは起業家にとっての夢、マイルストンの一つです。

それでは、IPOにかかるまでの時間はどれ位でしょうか?

一般的に、設立からIPOまでは、約32年10ヶ月かかると言われている。短期間でIPOを目指しやすいイメージのあるIT系の企業でさえ、約11年6ヶ月が平均値である。

STARTUP DB編集部 設立10年以内でIPOした企業はどこ?事業規模、初値調査【2017年度版】より

IPOを達成したとして約32年10ヶ月、成長の早いIT企業でも約11年6ヶ月との事。

これの裏側には、IPOを断念した企業、そもそも倒産してしまった企業の存在も多くあります。

このように、何か志を掲げて、それを達成するだけの時間は、膨大なものを要します。

詳細な市場分析をして、緻密な事業戦略を練る頭の良い人は大勢いますが、それを実際の行動に移す人は少数です。
机の上で、あれやこれや練っていては、何も物事は動きませんし、実際に行動に移してもそれが身になるまでは長い時間が必要だ、という事をわかっているのかわかっていないのか、行動をしない人が多いのです。

とりあえず、何かやりたい、と思っている事があるのであれば、「エイヤッ!」の精神ではじめてみませんか?
入り口は、隗より始めよ(大事業などの遠大な計画は手近なところから行うとよい、という意味)で十分ですので。


(余談)なお、ここ数ヶ月、世界を震わせたウイルスもそうなのですが。
突然変異が常に発生しており、どの遺伝子(DNAとかRNAとか)がヒットするのか、という膨大なトライアンドエラーを繰り返していますね。


まぁ、まとめるとこんな感じですね。

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