カテゴリー
生産性・業務効率化

睡眠の質を改善する入浴の温度とタイミング

忙しい働く人にとって、睡眠は貴重な時間です。
しかしながら、日中の慌ただしさや日々のストレスで中々寝付けない、という人も珍しくはありません。
ここでは、睡眠の質を改善する方法について、「入浴」の観点で解説します。

先に結論

就寝前に次の条件で入浴をすると、睡眠の質が改善するそうです。

  • 就寝時刻の1~2時間前
  • 約40~42.5度

具体的な効果としては、実際に眠りに入るまでの時間(入眠までの時間)が約36%(約10分間)早くなる、つまり寝付きの改善効果があるとのことです。
これは、お風呂につかるのでもシャワーでもよく、身体を十分に温めることが重要とのこと。

具体的な研究内容

今回の研究はかなり精度が高いものです。
米テキサス大学が行ったメタアナリシスで、先行研究5,000件超の研究を再検討、分析が行われました。

メタアナリシスとは、複数の研究結果を統合的に検討、分析を行う研究方法で、その証拠(科学的根拠、エビデンス)としての強さは、非常に高い方法に分類されます。
当サイトの記事についても、このメタアナリシスの手法を参考に、複数の研究や報告を横断的にレビューした上で執筆し、極力質の高い情報となるように努めています。
なお、メタアナリシスはあくまでも過去の複数の研究を統合的に分析する手法なので、新たな技術や観点でもって行われた最新の研究を組み込めば、異なる結論となることは多々ありえます。
つまり、メタアナリシスだからと言って、必ずしも科学的に「完全に」証明されたとは言い切れないことは留意ください。

さて、今回の研究は、5,322件の研究(入眠、目覚め、睡眠時間、睡眠の質など)について検討が行われました。
その結果、就寝1~2時間前、約40~42.5度の入浴(PBH)により、入眠までの時間が10分間改善される、という報告が示されました。
これはあくまでも統計的な分析によるものであり、より最適なタイミングや時間、効果のメカニズムなどは、追加の調査が必要とのことです。

これまでの知見からは、身体をあたため、血行を良くすることにより血液が循環し、皮膚から熱が放出される、つまり結論として体温が低下することにより、身体が「眠るモード」に移行しやすくなるのでは、と推測されます。

寝る前の具体的な行動

こちらの記事では、ブルーライト、より正確に言うと就寝前の強い光そのものが睡眠の質を下げる点について記載しています。

こちらの記事では、「皿洗い」にリラックス効果がある点について記載しています。

こういった知見を踏まえると、夕食後、「皿洗い」などの家事を終え、睡眠前の1~2時間前に「入浴」し、その後寝るまでは輝度(光の強さ)を落とした照明環境でリラックス(読書など)をするのが、睡眠の質を改善する方法と言えるでしょう。

カテゴリー
生産性・業務効率化

ビル・ゲイツ氏と皿洗い

マイクロソフトの創業者であり、世界に革新をもたらした「Windows」を世に送り出したビル・ゲイツ氏が、3月13日にマイクロソフトの取締役を退任する、という報が流れました。
時代の流れを感じつつ、ここではビル・ゲイツ氏のある習慣について紹介します。
それは、「皿洗い」です。

ビル・ゲイツ氏の習慣

ビル・ゲイツ氏は、自身の習慣として、皿洗いを毎日夕食後に行っているそうです。
ハウスキーパーなどを雇うことに、一切不自由がないであろう彼が、何故自分自身でそのような家事を行うのか?
「自分の皿洗いのやり方が好きだ」と彼自身は回答していますが、皿洗いにはストレスレベルを下げて、インスピレーションをえる力も向上することが、いくつかの研究で示されています。

なお、アマゾンCEOのジェフ・ベゾフ氏も同じく、皿洗いをする習慣があるそうです。
彼曰く、「私がすることの中で最もセクシーなことだと、確信している」とのことです。

皿洗いの効能

米フロリダ大学の研究により、上述の通り、皿洗いにはストレスレベルを下げるという効果が示されています。
具体的には、「皿洗いに集中し、一枚一枚丁寧に、注意深く洗う」ことにより、ストレスレベルが約30%低下するという効果が見られたそうです。
研究チームは、皿洗いに「マインドフルネス」の効果あると話をしています。

何も考えずに皿洗いをした場合には効果が見られませんでした。
また、皿洗いには、水の感触や温度、お皿の感触、洗剤の感触や匂い、タスクを処理するということそのものなど、心理に与えるいくつかの要因があるため、具体的にどのような要素がストレスレベルを低下させるに至ったのかは、不明とのことです。

米カリフォルニア大学の研究によると、高い認知能力を要しない作業、つまり単純作業を行うと、脳がなんてことのないよしなしごとを考えはじめるため、クリエイティブな発想につながりやすい、という結果を出しています。

英ランカシャー中央大学の研究では、アドレス帳からの電話帳のコピーという単純作業を行った後、クリエイティブに発想する力が高まったという結果を出しています。
研究者は、職場での退屈な仕事は否定的にとらえられていましたが、実はクリエイティブな側面をもつ、肯定的なものなのでは、としています。

これは私自身の実体験としても、難しい頭を使うタスクの合間に、比較的簡単なタスクを挟み込むと、長い時間集中力を維持して働けることを実感しています。
ずっと同じ難しい頭を使うタスクを行っていると、数時間で頭がボヤっとしてきますが、きちんと「息抜き」を挟んでいくと、一日中働いていられます。

他の多くの人からも、お手洗いやシャワーを浴びている時など、インスピレーションをえやすい、という話を聞きます。
ボーっとするなり、ただ手を動かして無心になっている時、その感覚がディスプレイの中の文字やグラフを見ているときと比較して、「脳にスペースが生まれる感覚がある」というのです。

ここで当たり前に注意しなければいけないのは、「皿洗いをすれば成功するわけではない」という点ですね。
「成功者は、いわゆる雑務も大切にする」が「雑務をしている人が成功するわけではない」ということです。

皿洗いはカップルの関係も良好にする

米ユタ大学の研究によると、家事は様々にあるけれども、その中でも皿洗いの分担はカップルの関係への影響が大きいとしています。
それは、皿洗いは料理やガーデニングなどとは違い、賞賛されることのない類の家事だからとのことです。

日本においても、「夫婦で押し付け合いになる家事」の1位に「食器洗い」がきています。
同様に「夫婦喧嘩のもとになる家事」の2位にランクインしています。

食器洗い乾燥機の導入が、時短効果として、よく取り上げられますが、あえて「クリエイティブな能力の向上」の観点で、皿洗いに取り組んでみるのは、一つの案として良いかもしれません。
何事も「意思をもって取り組む」ことは、プラスの結果を生みやすいものです。

最後に、ビル・ゲイツ氏に敬意と謝辞を

最後に、マイクロソフトを退任し、慈善事業にフォーカスするというビル・ゲイツ氏に、改めて敬意を表すると共に謝辞を述べたいと思います。

1995年にWindows95が発売された時、私はまだ、これから中学生になろうというタイミングでした。
その時は自宅には書院のワープロがある位で、自宅のパソコンというものはありませんでした。
近くの電気店であこがれをもって眺めていたものです。

その後入学した中学では、大量のFM TOWNSが導入されていました。
また、PC-9800も1台だけでしたが、設置されていました。
私はここで、ベーシックをはじめ、いくつかのプログラミング言語を独学で学ぶ機会を、幸運にも得ることができました。

Windowsに本格的に触れるようになったのが、家族の就職活動で必要だから、ということで購入したコンパックのデスクトップです。
高校2年生あたりだったかと思います。
インターネットにはダイヤルアップでの接続という、不便なものでしたが、私はむさぼるようにパソコンをいじり倒しました。
今は懐かしいFlashを使ったサイトや、某有名掲示板、様々なゲーム、そういったものを楽しみつつ、自分自身の勉強にWordやExcelを使っていました。
私の今の(自分で言うのは若干憚られる)高い事務処理能力の基礎は、この時代に築かれたのでしょう。

その後、大学に入学し、アルバイトでお金を稼げるようになってからはまったのが「自作PC」です。
今は休刊になってしまった「日経WinPC」や、なんとか続いていたけれども昨年に休刊してしまった「DOS/V POWER REPORT」を読み漁りつつ、たまたま実入りのよい仕事(理系だったので、研究系の仕事を先輩から紹介された)をしていたので、かなりの金額を自作PCにつぎこみました。

就職してからは、ずっと管理系の仕事をしていたので、MicrosoftOffice製品とは仕事上でも長い付き合いとなります。
高校・大学と、がっつりOffice製品を利用していたので、最初に就職した会社では非常に重宝されました。
マクロも組めたので、諸先輩方の何倍もの効率で仕事ができ、誇らしかったことを覚えています。

ノートパソコンの性能が一定水準以上になってからは自作PCをやめてしまったので、自分でWindowsをインストールする、ということは無くなってしまいましたが、最先端のものを使う、というマインドは色々な所に影響したと感じています。
例えば、2008年にiPhone3Gが日本で発売されてからは、多分、大多数の日本人の中では、かなり早くスマートフォンを使うようになりました。
まだ、折り畳み式の携帯電話、いわゆる「ガラケー」が主流の時代です。

だらだらと書いてきましたが、ようは、20年以上の時間(私の人生の半分以上)を、Microsoft製品と過ごしてきた、ということです。

ビル・ゲイツ氏の今回の退任は決してネガティブな内容ではないとのことです。
元々、第一線からは離れていたので、一定予期はしていましたし、すでに慈善活動家としてポリオ撲滅など、あらたな領域で戦っていたので、今回の報は決して驚くものではありませんでした。
しかしながら、私の人生を振り返りつつ今回の報を聞いた時、非常に思い出深く、そして感慨深く感じたのです。

彼は2007年のハーバード大学の卒業式でも「多くを与えられた人が、人助けをしないで、いったい誰がやるのか?」という趣旨のスピーチをしています。
今回の慈善活動へのフォーカスについても、どれだけの想いをもっての選択なのか、僭越ながら感じ入るものです。

そして、今回の報をもって、自分自身がどれだけ社会に対してコミットできるか、覚悟をもって臨めるか。
自分自身が「多くを与えらえた人」だと信じ、そして仕事で成果をだすだけのみならず、世界の不平等や横たわる諸問題に対して貢献していくか、改めて決意を表明するものです。

カテゴリー
生産性・業務効率化

オープンオフィスの議論~本当に生産性をあげるのか?~

日本では従来よりオープン形式のオフィスが主流で、近年では特にITベンチャー企業を中心に、デザイン性の高い、クリエイティブな空間を意識したオープンオフィスが流行しています。
しかしながら、オープンオフィスは、その生産性について多くのネガティブな研究が発表されているのが事実です。

ここでは、オープンオフィスの生産性について、実際の研究を元に解説していきます。

生産性については多数のネガティブな研究が報告されている

オープンオフィスは、その文字通りオープンに広がった環境によって、アイデアが生まれやすくなったり、仕事の効率、つまりは生産性が高まるというメリットが語られてきいました。
ここで、オープンオフィスの大本を辿ってみると、1950年代のドイツにさかのぼります。
元々の思想としては、集団のコミュニケーションを活発にし、チームワークを高める、つまりはチームビルディング効果を高める目的をかかげ、導入されました。
つまり、元々は生産性については語られておらず、その先進性だけが世界各国の企業に広まっていった、という点が、まずはの大前提です。

次にいくつかの研究を紹介します。

米ハーバード大学で行われた研究では、オープンオフィスでは、かえってコミュニケーションが減り、集合知も生まれにくくなることが示されました。
オープンオフィスとクローズオフィスで比較した結果、オープンオフィスではクローズオフィスに比べて、コミュニケーションの時間が約70%減少し、デジタル上でのやり取りが平均約40%増加しました。
併せて、生産性も低下した、とされています。

研究では、同じチームに所属していたメンバー同士では、直接のやりとりが増える傾向があったものの、大きな影響は無かったとのことです。
なお、性別とコミュニケーション量には相関関係がなかったとのことです。

別の研究では、オープンオフィスを採用した結果、従業員の集中力が低下し、生産性が15%低下したという結果がでています。
従業員が何かしらの病気にかかる頻度も2倍に増えたとのことです。

実際、対象となった職場では、時間内で業務を終えられず、自宅に持ち帰って仕事をする頻度が増えたとのことです。

こちらの研究でも、オープンオフィスで働く人と、クローズオフィスで働く人では、オープンオフィスで働く人の方が明確に生産性が低いことが示されています。

こういった結果は限られた研究が出したネガティブキャンペーンではなく、非常に多くの研究がオープンオフィスの生産性について、ネガティブな報告を出しています   )。

一応、オープンオフィスのメリットはある

それでは、本当にネガティブな効果だけなのでしょうか?

調査してみた結果、ポジティブな研究はありました。
しかしながら内容としては、運動量が増加する、というものでした。

オープンオフィスにした結果、運動量が増加するので、運動不足になりがちなオフィスワーカーにとって健康効果が増進し、運動不足に起因するストレスが低下するという報告が出ています。

確かにメリットといえばメリットなのですが、クリエイティブ、アイデア云々という点で期待していた点とは方向性が全く異なります。

オープンオフィスの何が良くないのか?

それでは、オープンオフィスの何が良くないのでしょうか?

それは、次の通りです。 一つ一つ見ていきます。

  • 集中力の低下
  • プライバシーの喪失
  • 健康への悪影響
  • 騒音による悪影響
  • コミュニケーションの質の低下

集中力の低下

オープンオフィスがうまく行かない最も大きな原因と推測されるのが、集中力の低下です。

こちらの記事でも解説していますが、人間は「マルチタスク」を行うのには向いていません。

いったん集中が途切れた人は、元の集中した状態に戻るのに、約27分がかかるという報告があります

また、こちらの記事でも簡単に触れていますが、人は記憶力を高めるのに、「関連付け」を行うと記憶効率があがることが伝統的に言われています。

オフィスにおいては、同じ場所にとどまり仕事をすることにより、多くの記憶を保ち、他の記憶との関連付けができるようになります。
人は自然と、記憶を周囲に存在する様々なものや場所と関連付けて、詳細にその記憶を保つ行為を行っています(これを「記憶の城」といいます)。

つまり、オープンオフィスでは、関連付けを行うにあたって、そもそもとして場所の範囲が広すぎて脳の処理能力を超えてしまうこと、また場所が頻繁に変わる場合には、場所との関連付けができないため、何かを思い出す際の障害になってしまうのです。
記憶の観点でも生産性低下につながってしまうのです。

筆者自身、自分のオフィスでは思い出せることが、外部のオフィス、特にオープンオフィスで働いているときは、失語症なんじゃないか?と自分自身で疑うくらいに、言いたいことが思い出せない現象を実感しています。

プライバシーの喪失

心理学の観点では、人は適度なプライバシーが確保されているときに生産性が高まるとされています。
また、人は自分自身で物事をコントロールできない状態のときに、無力感が高まり、生産性が低下するとされています。

オープンオフィスでは、プライバシーの確保が困難であることに加え、オフィスのドアの開け閉めなど、そのプライバシーの選択権に関して存在しない状態に置かれます。
また、人によって適切と感じる照度(明るさ)や室温・湿度が異なります。
これをオフィス全体で一律に決められてしまうと、快適と思う人がいる一方、そうではないと感じる人も出てしまいます。

監視下に置かれないと、怠けてしまい、仕事に対する集中力が出ない人も、いるにはいると思うのですが、これはマネジメントの世界で解決すべき問題です。
心理学的に、プライバシーの喪失による悪影響は、決して無視すべきではないでしょう。
基本的には「監視されている」ような感覚は、人にストレスを与えるのです。

健康への悪影響

上述した通り、オープンオフィスは病気にかかる頻度が増えるという研究結果が出ています。
これも一つの研究ではなく、複数の研究が、病気による欠勤が増えたことを支持しています。

これは、一つ上で触れた、プライバシーの喪失のからくるストレスも原因であると共に、オープンな空間であること特有の問題もあります。
それは、オープンな空間はウイルスなどが拡散しやすいのです。

物理的に仕切りが無いため空気の流れを遮るものが無い点と、その空気を空調によって循環させてしまう、この2点により、オフィス内に人の健康に悪影響をおよぼすウイルスが存在した場合、このウイルスを広く拡散させてしまうのです。
日本人は、例え具合が悪くても、無理をして出勤することを良しとしてしまう文化がありますが、これは健康への悪影響を、拡大してしまうことを助長しています。

騒音による悪影響

まず、騒音と認知能力(脳の処理能力)との間には、負の相関関係があります。
つまり、オフィス内の騒音が、生産性をダイレクトに悪化させてしまうのです。

単純に生産性が低下するだけならまだ良いのですが(良くはない)、片頭痛や潰瘍のようなストレス性疾患を悪化させてしまうという報告もあります

実際、いくつかの研究では、オープンオフィスで数時間騒音にさらされた結果、従業員のアドレナリンの水準が非常に高まった、という報告が出ています。
アドレナリンは「闘争」か「逃走」に関連するホルモンです。
つまり、オフィスの騒音は、従業員に、非常に高い、場合によっては恐怖にも近しいストレスを与えてしまう可能性が示唆されているのです。

また、騒音は、外交的な人より、内向的な人に、より強く影響を与えるという研究があります。
若者がどうこう、を語るつもりは一切ないのですが、ひと昔前に比べて現代の若者の内向性は高い傾向があります(これを悪いとは言っていないので留意)。
つまり、現代社会の若者と、騒音の影響を受けやすいオープンオフィスは、本質的には相性が悪いはずなのです。
せっかくのオープンオフィスで、ヘッドホンやイヤホンをつけて、自分の殻にこもる方を見かけるのも、この点が一因である可能性があります。

コミュニケーションの質の低下

現代において、オープンオフィスが推奨される理由の一つとして、コミュニケーションにおよる、新しいアイデアの創発、クリエイティブな側面があげられています。

しかしながら、この点においてもネガティブな研究や意見が多くでています。
実際には、オープンオフィスで働いている人がアイデアを持ち寄ったり、ブレインストーミングによってクリエイティブな価値を発揮する、ということは、期待されていたほど多くないことがわかっています。
こちらの研究では、ブレインストーミングのような、アイデアを多数で持ち寄って何かを生み出すようなことが、クリエイティブな課題を解決するのに、役立っていないことが示されています。
ここでは、オープンオフィスの大本の考え方である、チームビルディング効果の方が支持されています。

また、オープンな環境であることが故に、周囲の耳を気にして、内容の薄い会話しかできない、という点も指摘されています。
例えば、家族の話題や、芸能人の話題など、仕事に関連しない内容であったり、仕事に関連する内容であっても当たり障りのない会話になってしまうのです。

ここまで見た通り、たとえオフィスの壁を取り払っても、従業員同士の距離は縮まらず、広いスペースに散らばってしまうだけなのです。
また、距離が近い場合でもヘッドフォン・イヤフォンをして自分の殻に閉じこもってしまうのです。
そして、可能な限り忙しいフリをして、仕事をしているアピールをするなり、邪魔をされないようにするなりしてしまうだけなのです。

では、どうすれば?

日本のオフィス面積はアメリカなどと比較して狭いので、現実的にはオープンな環境にならざるを得ないのが実態でしょう。
また、オフィス投資は多額のコストがかかるので、そうそう簡単には改修できない現実もあります。
日本の生産性は諸外国に比べて低いとされていますが、そもそもとして置かれている環境が生産性という観点で不利である、ことは指摘できるでしょう。

そのような中、目新しい取り組みをしている企業が存在します。
こちらの企業では、ベースはオープンオフィスなのですが、半個室のブースを用意し、集中して作業ができるエリアで働くこともできる、選択が可能な様式を採用しています。
上述の通り、選択は心理的安全性を高めるので、生産性向上に寄与することが想定できます。

パソコンのディスプレイにはる「プライバシーフィルム」などの採用や、「耳栓」の配布などもリーズナブルにできる対応でしょう。
ベンチャー企業においては、素直に個室があるコワーキングスペースを利用する、という選択肢も考えられます。
オープンオフィスの大本の考え方である、チームビルディング効果に振り切ってしまう、というのもポリシーとしては採用の価値があります。

オフィスは物理的かつ多額のお金がからむものであるため、簡単には対処できないことが多いですが、知恵を絞ればまだまだできることがあるはずです。

カテゴリー
生産性・業務効率化

仕事での「燃え尽き症候群」対策~回復方法はシンプル~

仕事で頑張りすぎて「燃え尽き症候群」になってしまう方が大勢います。 趣味で気晴らしをしたりと、独自の方法で対策をしている方が多いかと思いますが、ここでは科学的な対策、回復方法を解説します。

忙しい人向けまとめ

  • 燃え尽き症候群はWHOからも認定されいる健康状態に影響する要因
  • 問題が起きている状態ではあるが、「疾病」とはされていない
  • 自分自身が受ける「周囲からの様々な期待や要求、労働時間、その他諸々のストレス(ストレッサー)」などに対して、「報酬、評価、公平性、人間関係、安心感」などに対する自分自身の欲求のバランスが欠いたときに発生する
  • バカンスに行くなどの、根本的解決から目をそらしたものは効果が薄い
  • 対策は、「運動をする」「睡眠をしっかりとる」「人間関係を良好にする」「環境を変える」「圧倒的な実力をつける」

燃え尽き症候群とは

燃え尽き症候群は、アメリカの心理学者ハーバート・フロイデンバーガー博士が提唱した考えです。

2022年に発効する世界保健機関(WHO)の新しい国際疾病分類(ICD-11)の中で、健康状態に影響する要因の中の、不適切な慢性的な職場ストレスによるものとして記載がされています。
この中では、問題が起きている状態ではあるものの、「疾病」とはされていません。

一つ古いICD-10では、生活管理困難に関連する問題の中の、重要な枯渇の状態とされ、こちらも同様、「疾病」とはされていません。
その状態として次の3つがあげられています。

  • 極度の疲労感:エネルギーが枯渇、または消耗したという感覚
  • 皮肉っぽさ(離人症):仕事への忌避感の増加、または否定的ないしは冷笑的態度の発露
  • 無力感:能率の低下

具体的には、酷い疲労感により朝起きるのが辛くなったり、会社に行きたくない、仕事をしたくない、というような状態であったり、
常にイライラしていて、突発的な行動(退職、過度な浪費、極端な飲酒など、最悪の場合の結果も含む)に出たり、
家庭環境やほかの人間関係への悪影響などが出たりします。

燃え尽き症候群は決して珍しいものでは無く、ドイツの調査では労働人口の6%程が症状を示しているそうです。
イギリスの調査では、3社に1社に、自社内に燃え尽きている人がいる、と回答しています。

なお、日本では、例えばスポーツ選手などが、華々しい結果を出したあとに、打ち込むものが無くなってしまった喪失感、というようなニュアンスでも使われます。
これは、若干正確性に欠ける理解です。

燃え尽きの原因と効果のない対処方法

燃え尽き症候群の原因に対するよくある誤解として、「長い期間に渡って、過度に働きすぎた結果」というものがありますが、これは一つの可能性にすぎません。
実際には、自分自身が受ける「周囲からの様々な期待や要求、労働時間、その他諸々のストレス(ストレッサー)」などに対して、「報酬、評価、公平性、人間関係、安心感」などに対する自分自身の欲求のバランスが欠いたときに発生するされています。

そのため、仕事に限らず、例えば「親が過保護な場合」「親から過度な期待をされている子供」も燃え尽きやすいと指摘されています。
親からの高い期待をされて支援、管理もされているが、それに応えることによって自分の人生がどれだけ良いものになるのか?自分にとって幸せなのか?というマインドになり、燃え尽きてしまう、ということです。

燃え尽き症候群への対処方法として、よく気晴らしとして「バカンスに行く」という方法があげられますが、これは効果がありません。
いくつか研究によって、バカンスで元気にはなったが、その持続時間は短く、数日から3週間ほどで、元の燃え尽きた状態に戻ってしまったという結果が示されています。

燃え尽き症候群の原因を端的に表現すると「周囲からうけるストレスに対する、自分自身の報われ感のバランスが欠けた時」である以上、大本の自身を取り巻く環境が変わっていない以上、一時的に回復したとしても、元の燃え尽きた状態に戻ってしまうのは当然と言えます。
根本的な問題を解決していないのですから。

ではどうすれば燃え尽きないのか?

ここまでは燃え尽き症候群になってしまう原因と、よくある勘違いに関して解説してきました。
ここからは、具体的に燃え尽き症候群にならないための、もしくはなったとして回復するための対策を、科学的な知見と、科学的ではないが多くの成功者が語る経験談を元に解説します。

運動をする

まず1つ目が「運動」です。
「運動かぁ、、、」とがっくり来るのは早いです。
豪ニューイングランド大学の研究によると、持久力系の運動、筋力トレーニングのどちらでも、継続的に運動を継続している方は「幸福度」が向上し、「達成感」も得られたという結果が出ています。
また、「メンタルヘルス」の改善や「ストレス指数」の減少も併せて見られました。
加えて、運動を継続している従業員は、病気欠勤の割合が9分の1になり、生産性が大幅に向上するとのことです。

睡眠をしっかりととる

睡眠とメンタルヘルスは密接な関係があります。
睡眠時間が短い、あるいは長すぎる方は、心身ともに不調に陥る傾向があることが示されています。
適切な長さは人によって違うのですが6時間から8時間、比較的最近の研究では7時間~8時間が適切であるという主張が多いです。
なかなか寝付けない、という方も多いと思いますが、上述した運動をすると、良質な睡眠をとりやすくなります。

こちらの記事では、燃え尽き症候群に関して心理学者の方が解説しており、自分自身に対してしっかりとケアをすること(食事、運動、睡眠)の大切さを説いています。

また、こちらの記事で解説していますが、寝る前の電子機器の使用は、良質な睡眠を妨げるので注意が必要です。
寝る1時間~2時間前は、光を発する電子機器の使用は控えましょう。

人間関係を良好にする

周囲の人にサポートの手を差し伸べたり、ポジティブなフィードバックをすることが、自分自身へのストレスを軽減させ、健康水準の向上に寄与する、という研究結果があります。
不足した場合に燃え尽き症候群の原因にもなる「評価」や「人間関係」、「安心感」という欲求を満たすためにも、職場の中で相互にサポートしあい、フィードバックをしていくことは、重要でありかつ効果があります。
組織全体で燃え尽き症候群を防ぐことにつながるので、助け合う、賞賛しあう文化を社内で作ってみてはいかがでしょうか。

また、親しい友人を大切にするのもストレスに強くなる効果があります。
子どもに対する調査ではありますが、親しい友人が一人でも存在する子は、存在しない子よりも、「レジリエンス」という対ストレス能力が高いことが示されています。
長く連絡をとっていない親しい友人がいるのなら、是非、食事に誘ってみるとよいでしょう。

環境を変える(例えば転職をする)

ストレスフルであり、それに対応するだけの自分が望むものを得られない職場であるならば、素直に転職するのも一つの手です。
「嫌なら辞めればいいじゃん」という身も蓋もない話ではあるのですが、自分の希望がかなえられる職場を探すのは、合理的であると考えます。

その際には、ただ単純に「嫌だから」「自分にあわないから」というような理由だけで転職するのではなく、「自分がやりたいことは何だろうか?」「自分が譲れない要素はなんだろうか?」という点を考えて転職活動に臨まなければ、同じような結果が訪れてしまうでしょう。

転職が不安ならば、「自分がやりたいこと」がやれるポジションへの異動を会社に直訴するのも考えられます。
会社は、シンプルに従業員がやりたいことを把握していないがために、適切なポジショニングができていない場合が多くあります。
ですので、必ずしも有用とは限りませんが、効果がある場合があります。

圧倒的な実力をつける

もう一つおすすめなのが、「圧倒的な実力をつける」ことです。
これも身も蓋もない話ではあるのですが、圧倒的な実力をつけると、高い成果を出せるので、周囲からの賞賛や高い評価を得やすくなります。
また、どういう状況であれ、自分自身が成果を出せることを重々承知しているので、周囲からの評価を一々求めなくなります。

成果をだせるので、そもそもとして周囲からの成果に対するプレッシャーが問題になりません。
望まない環境であった場合の、転職度の自由度も、はるかに高くなります。
どういう環境下でも、一定程度やっていける自信もあるので、安心感も満たされます。
(もちろん、これらは人によります。承認欲求の塊のようなハイパフォーマーも大勢います。優秀なのに自身が無い方もいます。不思議ではあります。)

そうはいっても、どうやれば、その実力をつけられるのか?という問題があります。
一つシンプルな方法は、やはり勉強です。
勉強という新しいチャレンジ自体が「環境を変える」ことにもつながるため、ストレスへの対処方法にもなります。
こちらでは、忙しい現代人にとって有用な、本当に効率的な勉強法について解説しています。

まとめ

見てきた通り、燃え尽き症候群は「周囲からうけるストレスに対する、自分自身の報われ感のバランスが欠けた時」に発症します。

対策は、「運動をする」「睡眠をしっかりとる」「人間関係を良好にする」「環境を変える」「圧倒的な実力をつける」の5つです。

色々書きましたが、この内、もっとも効果が高いと感じるのが最後の「圧倒的な実力をつける」です。
本当に身も蓋も無いのですが、やはり圧倒的な実力を身に着けると、会社に対する発言力やコントロール権が増します。
こういう状態は、求められる成果の絶対量と質は高くなりますが、自尊心が満たされるだけでなく、純粋に楽しいものですし、給料も高くなりやすいです。

結局のところ、燃え尽きかねない状況を何とか乗り越えて、自分自身のステージを一段階あげるのが一番効果的なのです。

カテゴリー
生産性・業務効率化

タイピング練習のすすめ~一生で1年分の時間節約!~

今回は、タイピングの速度を速めることが、如何に有用なのかを説明します。
タイピング速度を速められれば、人によっては一生で1年分以上の時間を節約することができます。

なお、この話はタイピング速度に限らずの話で、日々の様々な本質的ではないことに費やす時間を削減できれば、一年や一生のスパンで考えた時に、膨大な時間を節約することにつながります。
タイピング速度、と軽視せずに、「人生の時間は限られている」という前提で物事を考えると、日々の生活と人生はより有意義なになるでしょう。

なんでタイピング速度の話をいまさら持ち出すの?

こちらを見ると、パソコンの利用実態に関する調査内容を確認することができます。

リンク先の中段以降の所で「タッチタイピングをできると答えた割合:最も高い世代は男女ともに30代」という項目があります。
このデータの詳細を見ると、各年代で次の割合でタッチタイピングができないと回答しています(男女平均)。

  • 20代では32.5%
  • 30代では30.4%
  • 40代では37.3%
  • 50代以上では52%

タッチタイピング、つまりはブラインドタッチですが、これはタイピング速度において重要な要素です。
現場実務での主力、20代~40代の方々の内、3人に1人がブラインドタッチができない、というのは非常に大きな損失です。
そして、これはあくまでも自己申告ですので、実際はもっと悪い可能性もあります。
これは2018年の調査ですので、今現在においても大きな変化は無いでしょう。
つまり、タイピング速度の話に改めて触れることは、大きな意義があると考えました。

タイピング速度の目安

タイピング速度の話をする際に出てくる用語として「WPM」(words per minute)という言葉があります。
文字通りなのですが、一分あたりに入力できる英数字キーの数を指します。

目安としては、ここを参考にまとめると、次のようになります。

  • 300~ かなり早いと言われるレベル(上には上がいる)
  • 200~300 仕事で問題なく通用するレベル
  • 100~200 プライベートで不自由がないレベル、仕事では遅い
  • 0~100 遅い方、仕事では明確に支障がでる

上記サイトでのWPMは、スコアで表記しており、「スコア=WPM×(正確率^3)」で計算しています。
誤入力があると、タイピング速度が遅くなるので、スコア=WPMと考えて差し支えないでしょう。

(なお、筆者は350~400くらいなので、一般的にはかなり早い方ではあるのですが、もっと早い人だと500とか、タイピングのチャンピオンクラスだと1,000とか行くので、上には上がいる、ということをここでも実感します。)

シミュレーション

さて、ここで人がタイピングにどれだけの時間を費やしているのか、シミュレーションをしていきます。
まず、タイピング数(文字数)ですが、こちらのサイトだと一日平均で4,849の打鍵をしているそうです。
この時の調査は2014年で、現在はSNSや社内チャットツールの普及により、打鍵数は増えているであろうと仮定し、一日平均の打鍵数を5,000と設定します。

この一日平均打鍵数5,000を基準に、タイピング速度(WPM)別に、どれだけの時間を費やしているのかを示したのが下記の表です。

WPM1日/分1年/時間
(1年260日換算)
40年/日
(8時間換算)
4001354271
3501462310
3001772361
2502087433
20025108542
15033144722

それぞれの項目の意味は次の通りです。

  • WPM : WPM(words per minute)
  • 1日/分 : 1日にタイピングに費やしている時間を分単位で表記(ここだけ見ると、結構少ないですね)
  • 1年/時間 : 1年でタイピングに費やしている時間を年単位で表記、1年は365日ではなく260日で計算
  • 40年/日(8時間換算) : 働く期間を40年と仮定した場合にトータルでタイピングに費やしている時間を日数単位で表記、日数は24時間ではなく、稼働時間である8時間で計算

1日あたりでみると大したことがないように見えますが、これを1年というスパンで考えてみてみると、もの凄い時間を費やしていることがわかります。
WPMが150の人と300の人で比較したときに、1年で72時間、稼働時間8時間で考えた時に9日分の差が出ます。

単純に同じくらい優秀な方で、WPM300の人の方が稼働時間が9日分多いと考えたら、どちらが発揮するパフォーマンスが高いと言えるか、明瞭でしょう。
また、タイピング速度が速い人は、あくまでも感覚値ですが、優秀な方が多い印象です。
タイピング速度以外でも優秀なら、この9日分の価値は、より高まっていくことは間違いありません。

上記では1年のスパンで計算しましたが、一生(40年)のスパンですと、1年間分以上の差がでてきます。
1年間の分の時間確保ができる、と考えると、タイピング速度一つがどれだけ人生に影響を与えるのか、もう無下にはできないでしょう。

(なお、40年としたのは、社会にでるのが20歳前後として、平均寿命が80歳前後。さすがにタイピング速度がずっと向上しないことはないだろう、加えてがっつりタイピングする期間は社会に出てからずっとではないだろう、ということで40年という期間を「一生」としました。つまり、あくまでも仮定の話です。)

会社経営者の方も、この話は真面目に考えた方がよいでしょう。
従業員が500人いる会社を想定したとき、全員がタイピングが苦手で無いとしても、丸々1人分の損失になっています。
そして、こういう点を疎かにしているとなると、他の面でも言及できる要素があるでしょうから、潜在的な損失はもっと大きくなるはずです。

まとめ

繰り返しになりますが、WPMが150の人と300の人で比較したときの、費やす時間の差です。
それは、1年で9日分、一生で1年分の時間の差が生まれます。

タイピング速度、とあなどらず、若いうちにタイピング速度向上のための練習をすると良いでしょう。
(パソコンが苦手な中高年の方もあきらめないでください!)
インターネット上で検索すると、無料のタイピング練習のサイトはたくさんあります。
上述WPMの解説部分で示したサイトですと、例えば「ビジネス」というカテゴリーで速度をはかりつつ練習することができます。

そして冒頭でも触れましたが、こういった話はタイピング速度に限りません。
自分自身の人生にとって本質ではない、様々な雑事にかける時間、これを削減することができるだけで、どれだけの時間を一生で確保できるでしょうか?
非常に膨大な時間になるはずです。
「人生の時間は限られている」という前提で、ありとあらゆる物事を見ていきたいです。

カテゴリー
生産性・業務効率化

マルチタスクは本当に生産性を下げるのか?~一流の経営者が同じ服を着る理由~

マルチタスクは人間の生産性を下げてしまう、というのが現在の知見です。
しかしながら、マルチタスクからは中々逃げられないのが現代社会の宿命です。
ここではマルチタスクは本当に生産性を下げるのか?をテーマに複数の論文・記事を横断レビューしていきます。

これを読めば、一部の一流経営者が同じデザインの服を着ている理由がわかります。

マルチタスクは生産性を下げる

マルチタスクについては、研究の歴史がそれなりにあり、1960年代から心理学領域を中心に様々な実験がされてきました。
マルチタスクを継続して行うことにより、人間の能力が向上するのではないか?という仮説があったからです。

結論を先に言ってしまうと、マルチタスクは人間の生産性を大きく下げます。
こちらの記事(マサチューセッツ工科大学)では、マルチタスクを行っている時の人間の脳は、複数のことを同時並行して処理しているのではなく、1つのタスクを短い間集中して処理することをひたすら繰り返しているだけにすぎない、としています。
しかも、脳のリソースそのものはフル稼働している状態で、別のことを繰り返して処理しているため、1つのタスクにふりわける脳のリソースは大幅に低下してしまいます。

これがマルチタスクをすると生産性が大きく下がってしまう原因です。

生産性低下のみならず、疲労と認知機能低下を招く

更に悪いことに、マルチタスクを行っている間は高い集中力を要するため、脳内の神経科学物質をガンガン消費します。

結果、短い時間で「頭が動かない」「疲れた」と感じてしまうのです。
これは多くの働く人が経験したことがあるでしょう。

こちらの研究(英サセックス大学)では、PCやスマートフォンなど、複数のデジタル端末を同時によく利用する人と、そうでない人で比較し、複数端末の同時利用者の脳の一部(前帯状皮質灰白質)の密度が小さくなっていることが示されています。
研究では、この脳密度の低下が脳の認知機能の低下や、社会的感情の悪化を招いているのでは?としています。

こちらの記事(マギル大学)では、上述のマサチューセッツ工科大学や英ロンドン大学、カリフォルニア大学などの研究を横断的にレビューし、現代社会がいかにマルチタスク環境下におかれ、人間にストレスを与えているかを解説しています。
例えば、スマートフォンの不在着信一つをとっても、かけた側が「返信が来るに違いない」、うけた側も「折り返しかけないと」と、意識を不在着信にとられてしまうため、一見大したことが無いように思えても、脳のリソースが奪われるとしています。
メールの返信一つ(返信をする、しないの意思決定)にしても、重大な意思決定に使う脳のリソースと大きく差が無いため、雑事に気を回すと、どんどん生産性を低下させていきます。
そのため、このようなマルチタスク環境下にあると、IQ10ほど低下させてしまう、としています。

重要ではない意思決定に脳のリソースを奪われたくない。本当に大切なことに限られた脳のリソースをまわしたい。これ (服を選ぶという意思決定を削減する) が、一部の一流経営者が、毎日同じデザインの服を着る理由でもあります。

悪いとわかっているのに何でやめられないの?

上述したマサチューセッツ工科大学の解説によると、私たち人間が文明を持つ以前の生活に起源があるとしています。

現代社会は極めて安全ですが、猿の時代や、原始時代はそうではありません。
周囲は危険にあふれており、常に気を配っていないと、そもそもの生存がおぼつかない状況です。
そのため、マルチタスクに向いていない生理的性質があるにも関わらず、生存本能の観点でマルチタスクを行ってしまうのでは?としています。

また、マルチタスクを行い、複数のタスクを消化していくことが、麻薬的な報酬を脳を与えてしまうのでは?という意見もあります。

ただ、どうやらトータルのパフォーマンスはあがる可能性がある

これまで、マルチタスクが如何に人間に悪影響をおよぼすかを書いてきましたが、本当に弊害しか無いのでしょうか?
どうやら、弊害だけではなく、マルチタスクは人間のトータルのパフォーマンスを引き上げる可能性が示唆されています。

こちらの研究(ミシガン大学)では、マルチタスクを行っているという認識そのものが、人間のパフォーマンスをあげる可能性を示しています。
過去の研究の蓄積として、人間は処理するタスクの難易度があがると、努力しようとするモチベーションや、認知制御機能が向上することが示されていました。
そのため、この部分が上述のマルチタスクを行っているという認識そのものが、人間のパフォーマンスをあげる可能性につながってきます。
実験ではシングルタスクとマルチタスクのグループにわけてタスクを処理した結果、マルチタスクを行っているグループの中でさらにマルチタスクを行っていることを認識していた被験者の集中力が高かったことが示されました。

この研究は、まだ蓄積がすくなく確かなことは言えませんが、一定経験則とも合致する部分があります。

一日のはじめの、「今日やることリスト」をズラッと並べてから仕事にとりかかると、高い生産性を出せた経験は多くの人にあるでしょう。
「今日やることリスト」は一種の「マルチタスクを行っていることの認識」につながるため、これが集中力の向上につながる可能性があります。

(おまけ)女性も男性も等しくマルチタスクには向いていない

なお、以前から、女性はマルチタスクが得意(だから家事育児に向いている)という考えがありましたが、これは誤りです。
こちらの研究(ロンドン大学)で、マルチタスクの性差影響が調査されていますが、差が無いという結論が出ています。

人種だとか、性別だとか、年齢だとか。
そのようなものに縛られず、偏見なく、一人ひとりが自分自身が本当に実現したいことに素直にまい進できる世界が早く来ると良いですね。

カテゴリー
生産性・業務効率化

本当に効率的な勉強の方法

現代社会の忙しさ。
せっかく勉強をするのならばコストパフォーマンス高く学びたいと思うのが自然です。
ここでは、複数の研究を横断的にレビューし、本当に効率的に勉強できる方法を検討します。

忙しい人向けまとめ

  • 反復学習が効果的
  • 反復学習の際は文字情報、映像情報、音声情報など多様な手段で
  • 学習量が多いことは純粋に良好なパフォーマンスを示す可能性がある
  • テストを活用し覚えたことを「思い出す」のは良い
  • 平易に理解できるものからはじめ難易度をあげていくのが良い
  • 寝よう
  • 周囲の励ましをうけよう

インプットの知見

反復学習の有効性

記憶と学習に関する研究は歴史が長く、有名な所としてはドイツの心理学者のヘルマン・エビングハウス博士の研究があげられます。
エビングハウス博士は、一度記憶したことは、短時間で忘れていき、その忘れるペースは時間と共に緩やかになっていくことを発見しました。
また、間隔をあけて再学習することにより、その忘れるペースが更に緩やかになっていくこと。
つまり、記憶の定着率が向上することを発見しました。
この知見は多くの学習者の経験則とも合致しており、「反復学習」の有効性を示しています。

なお、この反復学習は、異なる方法で学習をすると効果的であるとする提唱もあります(多様な手段での反復学習)。
こちらの記事(オーストラリアカトリック大学)では、教科書による文字情報のインプット、ポッドキャストなどの音声情報、図解などの映像情報などを交えて学習すると、記憶の定着が強化するとされています。

もう一点、反復学習に関して付け加えると「オーバーラーニング」という学習に関しても触れるべきでしょう。
オーバーラーニングとは、学習をし、その効果が一定見えてきた段階で、さらにもう一押しする形で反復学習を行うことを言います。
こちらの実験(米ブラウン大学)では、オーバーラーニングを行うと、行わないグループに比較し、良好な記憶定着の結果が行われたという結果がでています。
オーバーラーニングに関する研究の蓄積は少なく、この結果をもって言えることは少ないにせよ、学習量が多いことは純粋に学習パフォーマンスを向上させる可能性があることは言えます。

関連付けによる記憶

反復学習とは異なる関連であるインプット、関連付け、言い換えると「記憶術」の効用についても言及できるでしょう。
記憶術の歴史は長く、2,000年以上の蓄積があります。
皆さんも活用をしているはずで、歴史における語呂あわせや、元素記号の「水兵リーベ」などは懐かしさを覚えるでしょう。
これは記憶術における場所法、もしくは置換法とよばれるもので、人間の脳細胞の特性を利用したものです。
新しく覚える物事を整理し、すでに記憶している事象と関連付けていくと学習効果が高いという経験則とも合致するはずです。

他にも、名前の通り場所を思い浮かべ、そこに記憶したい対象を並べていく方法や、ストーリー上に記憶したい対象を関連付けていく方法があります。
後者に関しては、マンガの活用が有効です。
「もしドラ」が有名ですが、難しい内容がイラスト主体の平易な内容で説明されると、初期学習として有用だというのは説得力がある話でしょう。
なお、これは推測で言っているのではなく、実際に研究がなされており、例えば歴史学習におけるマンガの有効性が指摘されています(東洋英和女子院大学)。

アウトプットの知見

ラーニングピラミッドについて

前段でインプットの話をし、ここでアウトプットの話をするのならば、ラーニングピラミッドについては触れておくべきでしょう。
ラーニングピラミッドはNational Training Labolatory(アメリカ国立訓練研究所)のエドガー・デール博士が基礎的な提唱をした考え方で、経験の三角錐ともいわれます。
簡単に言うと、本を読んだり講義をうけたりするインプットよりも、人とディスカッションしたり、人に教えたりするアウトプットの方が学習効率が高い、とするものです。
これ自体は、大本の考え方からはだいぶ乖離した伝達がされており、根拠が無いものです。
ただ、インプット中心よりも、アウトプット中心の方が、学習効果が高いという点は多くの経験則が支えています。
これは、上述インプット部分で言及した、多様な手段での反復学習や関連付けによる記憶の強化で説明ができるはずです。
授業、読書、視覚情報、デモ、ディスカッション、体験、人に教える。
こういった多様な手段で反復学習をすること、そして実際に人に教えるとなると対象となる事象を整理し、自分の言葉で説明(すでに記憶している事象との関連付け)をしないと人に説明できないこと、を考えると、ラーニングピラミッド自体の数字根拠はともかくとして、考え方そのものは大枠として支持できるものと言えます。

テストの効能

もう一つ、アウトプットに関して言及をしなければならないものとして「テスト」があります。
多くの人にとっては、複雑な想いをもってしまうものかと思います。
ただ、間違いなく言えることはテスト、より正確に言い換えると「情報を思い出すこと」は高い学習パフォーマンスにつながるという点です(米ワシントン大学)。
実験では、インプット学習に加えテストによるアウトプット学習を行うと、中期的には記憶定着に効率が高いことが示されています。
別の観点でいうと、覚えていることと覚えていないこと、理解していること理解していないことを識別することが出来る点もあるため、純粋に高い学習パフォーマンスがあることは間違いがないでしょう。
なお、プログラミング学習などで言及される、「習うより慣れろ」「手を動かせ」も一種のテストであると言えるため、経験則で言われていることも一定の裏付けがあると考えられます。

なお、学習における難易度設定ですが、現状の理解度・学習レベルより、少々程度難易度を高く設定するのが良いという示唆があります(米アリゾナ大学)。
上述のマンガによる平易な水準からの学習効果が高い点も、この仮説を支持するものになると考えます。
同様に、テスト効果における「情報を思い出すこと」も、あくまでも記憶の定着を前提としている点を踏まえると、この仮説を支持するものと言えます。

(おまけ1)寝よう

一夜漬けの効果が薄いことは、多くの方にとって実際に体験したことかと思います。
これは経験則だけの話ではなく、実際に事件をした結果(ヨーク大学、ハーバード・メディカルスクール)、一夜漬けより、学習後に睡眠をとる方が、学習のパフォーマンスが高いことが明確に示されています。
というわけで、言われなくても寝るとは思いますが、勉強後はしっかりと寝ましょう。

(おまけ2)励ましあう仲間をつろう

大人になると物覚えが悪くなると、一般的に言われています。
これは一定確かではあるのですが、諦めるのは早いです。
こちらの研究(カリフォルニア大学)では、学習に適切な環境に身を置くと、年齢に関係なく高い学習パフォーマンスが出ることが示されています。
適切な環境をより具体的に言うと、それは「周囲からの励ましを得られる」環境です。
家族や学習友達など、励ましあう仲間を作るのは間違いなくプラスです。
恥ずかしがることなく、周囲に「私は勉強をしているので応援して!」と言いましょう。

(おまけ3)学習中の音楽は益か害か

勉強中に音楽を聴くと集中力があがって効率が良い、という人と、逆に集中できない、という人がいます。
さて、学習中の音楽は益なのでしょうか?害なのでしょうか?
答えを言うと、人によるし、聴く音楽による、です(ウロンゴン大学)。
前者の「人による」、に関して身も蓋もないことを言うと、脳の処理能力の高い人に限っては、音楽を聴きながらの作業は、その効率をあげることが示されています。
後者の「聴く音楽による」、に関しては、ボーカルが入る、テンポが早い、音量が多い、などの要素がある音楽を聴きながらの作業は、その効率を下げることが示されています。

カテゴリー
生産性・業務効率化

ブルーライトは結局、悪いのか?影響ないのか?

目をはじめ身体に悪影響を与えると言われているブルーライト。
日本では2012年頃から話題に多くあがるようになり、この2020年に入ってもトレンドが収まる兆しを見せません。
今回は、このブルーライトの実際に切り込んでみます。

Googleトレンド(日本、2004-現在、全てのカテゴリ、ウェブ検索)より

なお、「ブルーライトとは?」の基本的な部分は一番下に(参考)として掲載しているので、ご存じ無い方はそちらからご確認ください。

サマリー~少なくとも目への悪影響は気にしなくてよい、就寝前には電子機器を使わないのは睡眠の質のため吉~

結論を一言で表現すると、「気にするな、ただし就寝前には電子機器を使わないようにしよう」です。
下記記事をまとめると、影響度合に関しては次のようになります。

  • ブルーライトの悪影響は多数言われているが、少なくとも目に与える影響は限定的(失明するとは言えない)
  • 日中、ブルーライトカット機能を持つ液晶フィルターやスマートフォンを使うことの意味は無い
  • ブルーライトそのものより、光の輝度の強さや黄色光の方が睡眠に与える悪影響が強い可能性がある
  • 就寝前には電子機器を使わないのが現時点では吉と言える

ブルーライトに関しては、まだまだ研究の歴史が浅く、ここ20年ほどです(特に、スマートフォンが普及しはじめたここ10年ほどの蓄積しかない)。
各種論文を横断してレビューする限り、あるとされている悪影響については、それぞれ下記が現時点で言えることではないでしょうか。

  • 網膜へのダメージは限定的(無いと言ってもよい)
  • 目の疲れ,痛みはある(が紙の書類仕事を長時間しても同様のことは起きる)
  • 睡眠障害は現時点では否定する要素が少ない
  • 肥満は研究が少なく意見表明ができない(そもそも夜中に人工光を浴びるような不摂生な生活が問題なのでは)
  • 癌(がん)は研究が少なく意見表明ができない(体積の小さい昆虫や微生物の遺伝子変異が言及されているだけで、体積の大きい人への悪影響が大きいとは思えない)
  • 精神状態は睡眠障害や目の疲労と連動して起きる可能性はある(つまり直接的な影響は少ないのでは)

悪い(悪影響がある)とする主張

日本では冒頭にも書きましたが2012年頃から、身体に悪影響を与えるという文脈で、話題に多くあがるようになりました。
そして、この頃に、日本で初めてのブルーライトカット機能を持つiPhone用液晶保護フィルムがSoftBankから発売されています。

では、具体的にどんな悪影響があると主張されているのでしょうか?

こちらの記事(実験当時、心理学を専攻していた学生による予備研究:2013年5月に発表)では、就寝2時間前に電子機器を操作している人は、操作していない人に比べてストレスレベルが高くなる、とされています。
実験は、SNS広告経由のオンライン調査で行われ、18歳から73歳までの500人が参加、参加者には若い女性やヒスパニックの方が多かったとの事で、母集団としては偏りがあるかもしれないと注釈があります。

こちらの記事(ハーバード大学医学大学院)では、就寝前、紙の書籍と電子書籍を読んだ場合の睡眠の質を比較しています。
実験では、電子書籍を読むと、血中のメラトニン量が減少し、眠るのに時間がかかったのみならず、翌日への疲労が残った、とのことです。
実験は、12人が参加、2週間にわたり、同じ被験者で紙の書籍を読む週と、電子書籍を読む週にわけて実施しています。
なお、バックライトのないタイプのKindleなどは、悪影響が無いようです。

こちらのリリース(東北大学大学院農学研究科)では、昆虫にブルーライトを照射した結果、対象の昆虫が死亡した、という実験が公表されています。
その殺虫効果はヒトの目に対する傷害メカニズムに似ていると推測されており、光が内部組織に吸収され、活性酸素が生じ、細胞や組織が傷害を受け死亡すると推測されています。

こちらの論文(米トレド大学)では、網膜における信号伝達物質である「レチナール」がブルーライトによって、光受容体細胞にとって有害な化学物質に変容するとしています。
この有害な化学物質が、失明の原因である黄斑変性症を引き起こすメカニズムでは無いか?と主張されています。
なお、研究では併せて、ビタミンE由来のα-トコフェロールという物質が、網膜の細胞死を防ぐ可能性についても示唆しています。

こちらの記事(複数研究者)では、夜間の就寝中に人工光を浴びることにより、女性の体重増加や肥満リスクの拡大につながる可能性があると示唆されています。
実験は、アメリカ全土の35歳から74までの約4万4,000人の女性で、アンケート形式での調査で行われています。
なお、相関性が見つかっただけで、因果関係が判明したわけでは無いことは、あわせて注釈があります。

こちらの論文(オレゴン州立大学)では、ブルーライトを長く照射されたショウジョウバエ(科学実験によく使われる昆虫)は、照射されていないショウジョウバエに比較して、運動障害、網膜細胞の損傷、脳神経の変性など、加齢の症状が早くあらわれ、寿命も短くなった、としています。
また、盲目のショウジョウバエに対しても同様の結果が見られ、必ずしもブルーライトを目で見なくとも悪影響はある、としています。

これらの記事や論文や、世界中の記事、論文の一部ですが、非常に多くの研究で「悪影響がある」ことが指摘されています。

影響ないとする主張

一方、アメリカ眼科学会(AAO)は、これまでの研究などを総括したうえで、「ブルーライトは視力に影響するとは言えない」と声明を出しています。

  • 実験上の結果と、実際に人の目で起きることが一緒であるとは限らない
  • 各種研究で使用されている細胞は、網膜細胞由来ではない
  • 各種研究で使用している光は、実際の人の目が受容する光の条件とは異なっている
  • 実験において変性レチナールの悪影響を受けた細胞膜細胞は人の目には存在しない
  • そもそもとして、レチナールそのものが、変性しようがしまいかに関わらず、いくつかの細胞にとって毒性がある
  • 実験においてブルーライトを照射された細胞は、人体内であればブルーライトに暴露されない

つまり、目そのものへの悪影響は考えづらい、という主張です。

一方、睡眠に対する悪影響に関しては、エビデンスが多くあり、こちらに関しては否定するものでは無いともしています。
また、電子機器を長時間見ることにより、まばたきの回数の減少や、異なる距離への焦点があわせづらくなることもある、ともしています。

ただ、後者の話に関しては当たり前の話なのですが、紙の書類仕事や読書などに熱中すれば、同様の現象がおきるので、電子機器が一方的に悪いとするのは乱暴でしょう。
何にしても、過度は良くない、ということでしょう。

また、最近の研究(マンチェスター大学,2019年10月)では、ブルーライトは言われているほど睡眠を妨げる効果はない、むしろ黄色光の方が睡眠に与える悪影響が多い、ことを示唆しています。
マウスに照明の輝度や色を自由に変更できる照明を用いて光を照射した結果、光の色合いよりも輝度の強さの方が影響度合いが大きいこと、また、ブルーライトを含む青色光よりも、黄色系統の光の方が影響度合いが大きいことがわかったとのことです。
つまり、現状普及しているブルーライトカットのフィルターや、パソコンやスマートフォンに搭載されているカット機能には、意味が無い可能性が高い、ということです。
研究者は「就寝前にスマートフォンなどを使わない、という対策の方が良い」としています。

(参考)ブルーライトとは?

そもそものブルーライトとは?については「ブルーライト研究会」の解説を拝借します。

ブルーライトは、ヒトの目で見ることのできる光の中でも強いエネルギーをもっており、身体に悪影響を与えるとされています。
このブルーライトは、近年、急速に普及したパソコンやスマートフォンのディスプレイの光にも、多く含まれています。
ブルーライトが身体に与える具体的な悪影響としては、「網膜へのダメージ」「目の疲れ」「目の痛み」「睡眠障害」「肥満」「癌(がん)」「精神状態」があるとされています。

波長が380~500nm(ナノメートル)の青色光のこと。ヒトの目で見ることのできる光=可視光線の中でも、もっとも波長が短く、強いエネルギーを持っており、角膜や水晶体で吸収されずに網膜まで到達します。パソコンやスマートフォンなどのLEDディスプレイやLED照明には、このブルーライトが多く含まれています。
(中略)
デジタルディスプレイから発せられるブルーライトは、眼や身体に大きな負担をかけると言われており、厚生労働省のガイドラインでも「1時間のVDT(デジタルディスプレイ機器)作業を行った際には、15分程度の休憩を取る」ことが推奨されています。

ブルーライト研究会「ブルーライトとは」より
カテゴリー
生産性・業務効率化

リモートワークの生産性に関する各種記事の横断レビュー(プロコン、メリットデメリット)

デジタル文化の浸透に伴いリモートワークが進む兆しが見える中、最近のコロナウイルスの影響により、リモートワークの話題が急激に増えました。

GoogleTrends「リモートワーク」「日本」「過去90日間」「すべてのカテゴリ」「ウェブ検索」

リモートワークに関しては各所で議論がされていますが、ここでは改めて主に生産性のプロコン(メリットデメリット)を整理をしてみます。
導入時の注意点等々他の論点は、ここではおおむね言及しません。

サマリー:「とりあえずやってみては?」

  • リモートワークが企業の生産性向上につながるか否かは、結論「わからない」。
  • 企業にとってはブランド価値の向上やコスト削減をはじめメリットがある反面、マネジメントコストの増大やリモートワークのための仕組みの構築など、一定飲み込まなければいけない負担がある。
  • 個人にとっては自由度の観点をはじめ、明確にわかりやすいメリットがある反面、確かな成果を示さなければいけないという負担感がある(パフォーマンスが高い人にとってはメリット)

企業にとってのメリット

リモートワークが先行して浸透したアメリカを中心に、生産性が実際に向上し、離職率も低下した、という報告がでています。アンケートベースでの自己申告ではあるのですが、生産性向上が報告された研究が多数でている状況です。
働く人のニーズとしても、自由度高く働きたい、という声があり、人材難の昨今においては、採用施策として取り入れる事も考えられます。加えて、コロナウイルス問題への対応について、(実際の所は不明ですが)リモートワークを迅速に取り入れている企業に対して「ホワイト企業」であるという評価も出始めています。採用面だけでなく、ブランド面においても企業経営者・管理部門は検討を行った方が良いでしょう。
そして、当たり前ではあるのですが、働く場所が分散すれば、オフィス投資やオフィスにおける福利厚生、移動交通費の抑制、つまりコスト削減につなげられます。トップライン(売上高)が下がっている、伸び悩んでいる、利益率を向上させたい、という企業にとっては、この面においても要検討事項です。

個人にとってのメリット

出社すれば、良くも悪くも、多くの人と接することになります。対人コミュニケーションが苦にならない人にとっては大きなメリットにはならないでしょうが、苦手としている人や、自分自身の仕事に集中したい人にとって、自分自身の好きな場所で一人で働けるのは大きなメリットになるでしょう。
子育てや介護などの事情がある人にとっても、制約を大きく取り払えます。
この制約は時間面においても言え、朝早くから働いて、夜はビジネススクールで勉強する、というような時間の自由度の向上を得られるメリットがあります。
おまけではあるのですが、服装・身だしなみに気をつかわなくても良くなる、というメリットもあります。特に女性にとっては、お化粧という社会的な文化や圧力の観点から、そのメリットをより大きく感じる人も多いでしょう。

企業にとってのデメリット

生産性について、上述の通り「あがった」という報告もある反面、効果が無かった、下がった、もしくはあがったけれども一過性であり元に戻った、という報告もあります。
また、イノベーティブな局面、例えばソフトウェア開発や、アイデア発想においては、普段のちょっとしたコミュニケーションから産まれるブレークスルー効果が指摘されており、リモートワークの効率の悪さを言及する声もあります。
実際、米ヤフーや米IBMはリモートワークを廃止しています。
ただ、これらがリモートワークのデメリット部分(生産的で無いという意見)かは不明で、リモートワークを導入するにあたり、コミュニケーションの方法や、今までの紙のフロー、対面でおこなっていた業務等々をどう解決するのか?という仕組み面の構築がどこまで進んでいたのか、どこまで進めればよいのか、を検証する必要はあるでしょう。
また、リモートワーク自体の歴史が短いこともあり、人の面においても十分なノウハウが蓄積されていません。経験値がマネジメントする側、される側双方で少ないため、具体部分でのHowがわからず、マネジメントコストが高くつくであろうことも指摘できます。

個人にとってのデメリット

個人にとってのデメリットは、上述のマネジメントコストの部分にも関連する要素があるのですが、成果のアピールのしづらさ(評価のしづらさ)があげられます。
もっとストレートに言うと、明確に成果を示すことができないパフォーマンスが高くない人にとっては、非常にやりづらい部分が発生するでしょう。
今までは会社にいて、長く働く「頑張っている」アピールをすることによって、一定求められる成果はだしつつも、意欲面でもアピールをしやすかった、という現実があったと考えられます。
現実に、リモートワークを導入した場合、明確に成果をアピールするために働きすぎる傾向があることが指摘されています。

筆者の所感

これらを整理すると、リモートワークの良し悪しは、結論「わからない」となると言えます。
また、こちらでも指摘されていますが、現状の報告や研究における不備がある点も見逃せません。

  • 生産性が定義されていない(アンケートによる自己申告が多い)
  • 研究の蓄積が十分でない
  • リモートワークに対してバイアスがかかっている

3つめの「バイアス」に関しては、非常に示唆に富む意見だと感じます。

そのバイアスというのは、「リモートワーカーは自らリモートで働くことを選択しているため、その結果を証明しようと無意識的に熱心に働いてしまう」というものです。結果的に生産性が高まれば良いのではないかと思う方もいるかもしれません。しかし、確かに現在においては生産性が高まっていますが、それは今現在リモートワークをしている人が少数派であるため、リモートワーカーは自らがある種の特権的な立場にいると感じ、それがモチベーションとなって熱心に働いているからかもしれません。
そのため、今後、リモートで働く人が増えていくなかで人々の生産性がどのように変化するのかということを検討するには、やはりこれまでの研究では頼りないと言わざるを得ないでしょう。

チームハッカーズ:オフィスワークとリモートワーク、どちらのほうが生産的なのか?

筆者は、リモートワークに対しては賛成であり、生産性が向上する、という立場ではあるのですが、一個人の話では無く、マクロ的な是非については、上記引用にもある通り、まだまだ研究と検証が必要であると考えています。現状では、企業にとっても、個人にとっても、わかりやすいメリットがあるのと同時に、わかりやすいデメリットが存在するという点しか言えません。
組織の仕組みや文化、そこで働く人の属性にも左右される要素が大きいのも確かでしょう。

これらを踏まえて意見をまとめると、「とりあえずやってみては?」と考えます。
生産性が実際にあがるかもしれませんし、仮に下がったとしてもそれは実際に下がったのでは無く、元々低かった生産性が見える化しただけかもしれません。
トライアンドエラーは組織も人も成長させるでしょうから、失敗しても良いから、まずはやってみるという姿勢の方が、物事を吉に進めるのでは、というのが最終的な結論です。

モバイルバージョンを終了