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マネジメント・リーダーシップ

何故、上司は無茶ぶりをするのか?~“権力”がもたらすバイアス~

上司という生き物は、何かしら無茶ぶりをする生き物です。
部下を適切にストレッチすることは必要なことではあるので、無茶ぶり自体が悪いことではありませんが、過度になると多くの悪影響を及ぼします。
何故、上司は無茶ぶりをするのでしょうか?

どうやら“権力”が2つのバイアスを与えているようです。

“権力”を持つと必要な時間を過小評価しがち

ダラム大学とUCLの研究者は、“権力”がもたらす時間に対する認識について研究を行いました。

https://www.researchgate.net/publication/228905402_How_long_will_it_take_Power_biases_time_predictions

ある目標の達成に注意が集中し過ぎると、タスクを遂行するのに必要な情報を無視する傾向があります。
(これを注意の焦点化、と言います。)

この研究では、権力(より正確には責任と権限、という方が良いか)を持つと、注意の焦点化が起きやすくなり、タスクを遂行するために必要な時間を過小評価するであろう、という仮説を確かめるために複数の研究を行いました。

その結果、権力は一貫して、より楽観的で、より正確でない時間予測をもたらすことが示されました。

またこの結果は、楽観性や自己効力感、気分の違い等は影響せず、あくませも注意の焦点化が基礎的なメカニズムとして存在していることが支持されました。

“権力”を持つとそもそも時間に対する認識が歪みがち

もう一つの研究はカリフォルニア大学で行われたものです。

この研究では、権力がある立場にいることで、時間に対する認識がどのように歪められるのかが調べられました。

被験者は上司役、部下役に割り当てられます。
上司役の被験者は、部下役に対して脳トレ問題を選択して与え、また報酬として与えるお菓子の分配方法についても決定を行いました。
また、アンケートにて、時間的余裕についての認識の測定がされました。

この結果、権力を持つことにより、使える時間を多く認識する傾向が強くなることが示されました。

このメカニズムは、人生のさまざまな側面をコントロールしている、という気持ちが時間感覚にも及ぶからだ、と推測されています。
(ある別の研究によると、運勢がダイスの出目に左右される、というゲームにおいても権力を持っている人は他の人にダイスをふらせず、自分自身でダイスをふることを好む傾向が示されています。)


上述の研究をまとめると、「必要な時間を過小評価しがち」そして「使える時間を過大に認識しがち」という2つのバイアスが、上司による無茶ぶり、を発生させていると言えます。

この結論は、単純に業務領域に精通している上司であれば無茶ぶりを防げるということにはつながらない可能性を示唆しています。
何故ならば、仮に必要な時間を正確に見積もれたとしても、使える時間がバイアスにより過大に歪められているのならば、無茶ぶりは起きてしまうからです。

良き上司であろうとするならば、これら2つのバイアスについて自覚し、タスクに対する時間感覚、リソースに対する時間感覚について正常化させようとする努力が必要と言えるでしょう。

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上司は部下と仲良くなった方が良い

何というか当たり前の話なのですが、今回は「上司は部下と仲良くなった方が良い」という話です。
多くの部下を持っている上司にとって、部下との関係構築は重要な課題でしょう。
「部下と友達になるな」と言う方もおり、一理あるのですが、とりあえず統計的な事実を提示します。

上司と部下との交流とパフォーマンスの関係

複数大学の研究チームは、上司と部下との交流(関係性)とパフォーマンスの関連性について、メタ分析を実施しました。
上司と部下との交流(関係性)についてはLMXという略語で表現されています。
下記リンクのPDFダウンロードから論文がダウンロードできる。)

https://www.researchgate.net/publication/267764955_Leader-member_Exchange_LMX_and_Performance_A_Meta-Analytic_Review

メタ分析なので、複数の論文を横断的に分析を行っているものなのですが、結論を端的に言うと、LMXとタスク・パフォーマンスには正の相関性がある、ということが示されました。
また、LMXが良好な場合、部下は仲間を助けたりする傾向が強いことも示されました(シチズンシップ・パフォーマンス)。

LMXとパフォーマンスとの関連性については、信頼度、モチベーション、エンパワーメント、従業員満足度が媒介するのですが、リーダーへの信頼が最も大きく影響していることが示されたのです。

(なお、タスク・パフォーマンスが高いからと言ってLMXが良好とは限らない、ということで逆方向の関係は無かった、とのことです。)

「上司は部下と仲良くなった方が良い」は正しい

つまり、「上司は部下と仲良くなった方が良い」は統計的に正しい、ということです。

上司に求められるコンピテンシーは様々にありますが、一つ、部下と良好な関係を構築する、ということを目標とするのは効率が良いと言えるでしょう。
(もちろん、部下の顔色を窺うような関係性は望ましくないですが。)

参考記事

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うつ病の原因は仕事量ではなく上司にある!

長時間労働や捌ききれない仕事量がうつ病の原因である、とよく言われていますが、果たしてこれは本当でしょうか?
心理学的な研究では、どうやらうつ病の原因は仕事量ではなく、上司の存在次第だ、ということが示されています。
経験的にわかっている人もいるかもしれません。
「仕事が嫌なんじゃない。人が嫌だから辞めるんだ。」

上司の存在とうつ病の関係

長時間労働や捌ききれない仕事量がうつ病の原因である、とよく言われていますが、こちらで示されている研究によると、どうやらうつ病の原因は仕事量ではなく、上司の存在次第だ、ということのようです。

デンマークの公務員4千人以上を対象とした2年間に渡る追跡調査の結果、驚くべきことがわかりました。
(複数の研究が行われ、うつ病と職場環境の調査では4,237名が、コルチゾールとの関係を調べた調査では4,467名が最初に参加した)
(調査では、従業員が職場で感じる不公平感についてアンケート調査が行われると共に、ストレスホルモンであるコルチゾールの濃度が調べられた。)

研究では、仕事量の多さは従業員がうつ病になるかどうかには影響しない、と結論付けられています。

山積みになっている仕事の原因ではなく、従業員のメンタルに最も悪影響を与えているのは、職場環境や管理監督者から不当な扱いを受けていると感じること、にあるとしています。
つまり、不公平な上司の存在が原因だ、ということです。

仕事量を減らすだけではメンタル改善は難しい

この事実はあることを示唆しています。

それは、仕事量を減らすだけではメンタル改善は難しい、ということです。

ここ近年は働き方改革の名の下に労働時間の削減が進んでいますが、うつ病、メンタル改善、という観点では効果が無いことがわかります。

うつ病の予防に重要なのは、従業員自身による職場環境に対する評価/フィードバックや、職場環境を変更できるか、という点にあると考えられます。

組織は、従業員に対して「適切かつ公平に扱う」というメッセージ発信が必要でしょうし、実態を伴った「透明性のある組織構造とマネジメントスタイル」を構築していくことも必要でしょう。

その意味で、変われる所は既に変わっているでしょうし、現状、そうでない企業に変化を求めることは難しいと言えるかもしれません。

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組織の性格はトップの性格によって決まる

組織というものはトップ次第で大きく変わる、ということは感覚的によく知られています。
トップの影響力について、重々承知している人は承知しているでしょうし、いやまさかそんな、と思う人もいるかもしれません。
トップの性格(CEOのパーソナリティ特性)が如何に組織の性格(文化的価値観)に影響しているか?
今回は、この点を示していきます。

CEOのパーソナリティ特性と文化的価値観との関連

https://link.springer.com/article/10.1007/s10869-009-9109-1
https://www.researchgate.net/publication/225810720_Leadership_and_Organizational_Culture_Linking_CEO_Characteristics_to_Cultural_Values/link/0deec5224efa832956000000/download

複数大学の研究チームは、リーダーシップと、そのリーダーが率いる組織で生まれる文化的価値観との関連性について、実証的な調査を行いました。

つまり、CEOのパーソナリティ特性と、その組織のメンバーの間で共有される文化的価値観との関係についての調査となります。

調査の方法としては、32人のCEOを対象に、Big-five方式によるパーソナリティ特性および個人的な価値観測定を行った後、その32の組織の従業員467名に対しても組織文化に関連する価値観についての測定が行われました。

その結果、CEOのパーソナリティ特性と組織の中に共有されている文化的価値観が関連していることが統計的に示されました。

トップは自分の影響力を自覚した方が良いし、株主もトップの影響力を知った方が良い

この結果は、望ましい組織文化を作っていくためには、CEOのパーソナリティ特性が重要であり、如何に適合するか?という観点について真剣に検討が必要であろうことを示しています。

組織というものはトップ次第で大きく変わる、ということは感覚的によく知られていますが、この点を具体の分析でもって示された例はあまり知られていません。

企業としての純粋な成長しかり、変革しかり、何かしらの変化を達成するためには、組織のトップ自身の大幅な変化、もしくは人事的な変化が必要と考えられます。

トップは自分自身が組織に与える影響についてもっと自覚した方が良いですし、株主もトップの影響力についてもっと知り、経営に対してもっと発言をしていくことが望ましいと言えるでしょう。

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部下の仕事もできる上司がいると従業員の満足度はあがるというシンプルな話

従業員の満足度は、退職率や仕事のパフォーマンスに大きく影響を与える要素です。
それでは、どうすれば従業員の満足度を高めることができるでしょうか?
マネジメント力や共感力といった要素ではなく、シンプルにその領域の専門性が高いことが重要なようです。

もう少し噛み砕いて言うと「部下の仕事もできる上司」が望ましいようです。

上司の能力と労働者の幸福度の関係

従業員満足度を高める試みや調査は様々にされていますが、よく言われることとして「従業員は仕事が嫌だから辞めるのではなく、上司が嫌だから辞めるのだ。」という話があります。
この話を裏付ける調査があります。

https://www.researchgate.net/publication/268491675_Boss_Competence_and_Worker_Well-Being

調査では、35,000人の従業員と職場に対して分析が行われました。

分析は従業員満足度と上司に関する様々な変数に対して行われ、端的に多くの従業員が仕事に満足していることがわかったのですが、その分析の中で、従業員満足度に特徴的に影響を与える要素が「上司の能力」ということも示されました。

つまり、上司が有能であることは、一般的に労働者の仕事の満足度に大きな影響を与えるのです。

この要素は、例え高い給与であることよりも大きく、また、職種や教育レベル、勤続年数、産業等、仕事の満足度に影響しうるその他の要因よりも大きな影響力を持っていました。
この点は、上司が変わった際にも影響し、有能な新しい上司が来れば、その後の従業員の仕事の満足度が向上することも示されました。

つまり、優れた上司であるためには、マネジメント力や共感力といった能力も必要ですが、その領域での専門的な知識や技術・経験も必要、ということです。

人は、上司が自分の言っていることを適切に理解している場合に満足し、幸福度が高まり、パフォーマンスも向上させる、と考えれば、この話は不自然なことではないことがわかります。

組織運営に活かすには

日本の伝統的な企業では、職種を跨ぐ配置転換が一般的でした。

多くの職種を渡り歩き、幅広く専門性を身に着けつつ人脈も構築することが出世に必要だったということなのでしょうが、上述の知見を踏まえると、あまり望ましいことではないことが推測されます。
(現に、その方法で成長してきた過去の日本企業の多くは、この2~30年で衰退していっている。)

日本の労働者の満足度は、諸外国に比較して低いことが指摘されていましたが、もしかしたら「話が通じない」という点は大きく影響しているのかもしれません。

この「部下の仕事もできる上司」というあり方は、今後の組織運営において非常に重要な視点になる可能性があります。

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ハイパフォーマーは足を引っ張られやすい~成果を共有する仕組みを~

ハイパフォーマーは組織に対して多大な貢献をします。
そのため、会社は何とかハイパフォーマーを雇いたいと思うものですが、ハイパフォーマーは同僚に足を引っ張られやすいことも一部の研究で示されています。

ハイパフォーマーが被る社会的コスト

ミネソタ大学の研究チームは、サロンで働くスタイリストおよび学生に対する心理的実験にて、ハイパフォーマーが被る社会的コストについて調査を行いました。

https://psycnet.apa.org/record/2017-06323-001

台湾の105のサロンで働きく350人のスタイリストを対象とした調査では、同僚はパフォーマンスの低い人よりも高い人を軽蔑したり、侮辱したり、評判を落としたりする傾向があることがわかりました。
また、協調性の高いチームほど、ハイパフォーマーを酷評する傾向が見られました。
(サロンは、オープンな環境であり、事業をうまく運営するためには個人的にも相互依存的にも働かなければならず、他の組織よりもワークグループと同様の特徴を持っている。)

学生284人を対象とした実験においても、この傾向は再現されました。
学生はチームにわけられ、論理的思考について各種のスキルをテストする課題をこなしました。
チーム内には、コンピューター上のスクリプトで動く仮想のメンバーが一人おり、学生よりもはるかに高いパフォーマンスを出すよう設定がされていました。
その結果、チームのリソースが限られている場合、学生はハイパフォーマー(コンピューターのスクリプト)を脅威に感じ、足を引っ張る行動を示しました。

つまり、人は他人と自分自身を比較して劣等感を抱くと、他人を貶める行動に出やすい、ということが示唆されたのです。

組織はどうするべきか?

それでは、ハイパフォーマーをうまく活用するために、組織はどうするべきでしょうか?

学生を対象とした実験では、リソースがチームで共有、つまりハイパフォーマーの支援を受けられる状態の場合、チームのメンバーはハイパフォーマーを支持することも同時に示されました。

この結果から得られる示唆としては、ハイパフォーマーを出汁にして競争を促すよりも、ハイパフォーマーによる協力を職場が得られるような文化や体制の方が望ましい、ということがわかります。

ようは、ハイパフォーマーに対して、同僚が脅威ではなく、メリットを感じれば良い、ということです。


優秀な人材を確保することは、多くの企業が苦心をしています。

また、優秀な人材を活用することも、同時に苦心をしている企業が多いです。

運よく優秀な人材がジョインをしてくれたのであれば、競争ではなく協力、脅威ではなくメリットを強調し、促すような組織体制を構築していくことが望ましいと言えるでしょう。

個人としても、自分自身の成果追求のみではなく、チームに対する支援も重視するように行動すると良いと考えられます。

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現代のロビン・フッド?~富に基づく逆差別と不正~

なんとなく、お金持ちの方がお金を落とすから、サービスを受ける上で優遇され、逆に庶民は冷遇されがち、というような印象を持っている方もいるかもしれません。
しかし、どうやら、富に基づく逆差別がおきる事例もあるようです。

お金持ちはサービスで優遇されるか?否か?

複数のビジネス・スクールによる研究チームは、次のような調査を行いました。

https://pubsonline.informs.org/doi/abs/10.1287/orsc.1090.0498

対象は、自動車の排気ガス試験における、検査官の不正(適合しない自動車を合格にする行為)についてです。

排気ガス試験では、(庶民が乗っていると推測される)一般車や(お金持ちが乗っていると推測される)高級車など、様々なグレードの自動車に対して試験が行われます。

研究チームは、(中程度の裕福さの)検査官は、高級車に対しては嫉妬や羨望等の感情を抱き、厳正に試験を行うのに対し、一般車に対しては共感を持ち試験のハードルを下げる不正を行う確率が高くなる、と推測しました。

排気ガス試験市場のデータを分析した結果、この仮説は正しく、検査官は一般車に対して不正を行う確率が高くなることが示されました。
つまり、一般車に対しては、本来ならば不合格になるはずの自動車を、検査官が合格させてしまう確率が統計的に高かったのです。

(所得水準の高い検査官の場合、逆に高級車に対して優遇する確率が高くなったとのこと。ようは、自分自身の所得水準に近しいであろう人に対して共感し、違法な援助をしたがる傾向があるようです。)

これらの示唆について、続く心理学的な実験においても同様の結果が示されました。
検査官に見立てた被験者は、高級車ではなく、一般車に乗っている“仲間”を不正に援助する傾向が同様に示されたのです。

この事例により、「富に基づく逆差別」が起き得る場合もある、ということがわかります。
(研究者達は、これらの現象に対して、「ロビン・フッド」と表現しています。)

自分たちの職場でも不正は起きていないか?

この知見は、単純に逆差別が起きる場合もあるんだね、という話ではありません。

もしかしたら、あちらこちらの業界・職場においても、同様の不正が起きている可能性があります。

BtoCサービスにおいて、顧客との直接の接点を持つ担当者の所得水準は、大体において決して高いものではありません。
そのため、従業員の顧客に対する共感等により、不当に会社が決めている基準を侵している可能性はゼロではありません。

これを防ぐ施策は、果たして検討され、対処されているでしょうか?


近年のビジネス環境は、ガバナンス体制をより高い水準で構築しよう、という動きが盛んです。

その中で、このような観点でも不正は起き得る、ということを理解しておくと、内部統制の水準向上に寄与するかもしれません。

顧客を決められたルールの範囲内で支援し、ロイヤル・カスタマーになっていただけるよう行動していくことは素晴らしいことです。
しかし、それが不正なものであれば、最終的に損害を被るのは企業、そして従業員自身です。

あるべきはあるべきに。

そのように捉え、適正なガバナンス構築を図りたいものです。

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「たまたま」により起きる弊害~人事評価を如何に考えるか?~

運も実力の内、という言葉があるにはありますが、世の中において成功するか否かの要素に「運」のウェイトが大きいと、一部で言われています。
この点に関しては、一定の研究もされており、「運」もしくは「たまたま」により起きる弊害が指摘されています。

評価にバイアスがかかりパフォーマンスの認識が誤った例

UTSビジネススクールの研究チームは、サッカーにおけるパフォーマンスと評価について調査を行いました。

https://direct.mit.edu/rest/article/101/4/658/58562/Fooled-by-Performance-Randomness-Overrewarding

ヨーロッパのサッカーリーグの試合における1万本以上のゴールポストに当たった、シュートを含むデータの分析が行われました。

分析の結果、ポストに当たった後、得点をした選手、しなかった選手のその後のパフォーマンスを調査した所、選手のパフォーマンスには大きな違いが無かったことが示されました。

しかし、偶然にゴールを決めた選手は、運悪くゴールを決められなかった選手に比較して、その後の試合で活躍をする機会が増えていることも示されました。
また、偶然のゴールであったとしても、試合の結果を左右するものである場合や、新進気鋭の選手である場合に、より高く評価されることがわかりました(評価はジャーナリストやファンからの評価も含みます)。

つまり、「たまたま」成果を出せば、パフォーマンスは同じであっても、高く評価され、また成果を出す機会が与えられる、ということです。

研究チームは、統計的に判断できるスポーツの領域でも、このような評価バイアスが起きているのだから、客観的な評価が難しいビジネスの領域でも評価バイアスが起きているであろう、と指摘しています。

現実における人事評価にて留意すべき点

上述の通り、「たまたま」成果を出して評価されるとなれば、組織における歪みが生じる恐れがあります。

もちろん結果/成果は重要なものですが、評価に偏りがあると、報酬や昇進の機会に非効率性や不公平性が生じ得ます。
それは組織にとって、潜在的なコストとなっていくでしょう。

スキルが無くても、たまたま周囲のサポートが手厚かったり、本当に運が良かっただけの人物が昇進し、スキルも才能もある人物が認められない、というような事態も起き得ます。

組織やマネージャーは、人のパフォーマンスを評価する際に、結果/成果のみならず、プロセスや努力についても考慮する必要があるでしょう。


嘘か誠かは不明ですが。

野村證券が「入社後に成長するのは、どういう人材か」を知るため、「支店長に就任した人の共通点」について、数億円の費用をかけてコンサルタント会社に調査を依頼したそうです。
その結果、入社後に伸びる人に共通しているのは、卒業した大学の偏差値や、両親の学歴・職種、家庭の裕福さとは関係なく、『入社して最初に出会った先輩や上司が優秀だったこと』と分かったとのこと。
つまり、企業としては、応募者の中から優秀な人材を選び出すためにお金をかけるより、受け入れる側の教育のほうが重要という示唆が得られます。
(一部のTwitterの投稿より。)

「運」「たまたま」で判断が歪み、組織に悪影響を残さないようにしたいものです(言うは易しですが)。

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シリコンバレーではOKRを撤廃する企業が増えている模様

日本ではベンチャー企業を中心にOKRという目標管理手法が流行しています。
元々はシリコンバレーを源流として広がった手法のようですが、当のシリコンバレーでは、OKRを取り止める企業が増えているとのこと。
その原因はなんでしょうか?

OKRのメリットを実際に得るための3つの重要な前提条件

米にてOKRを広めているコンサルタントであるMarty Cagan氏は、OKRのメリットを実際に得るための3つの重要な前提条件として次の3つがあるとしています。

  • フィーチャーチームモデルからエンパワーメントプロダクトチームモデルへの移行
  • マネージャーの目標や個人の目標を取り止め、チームの目標にフォーカスする
  • プロダクト戦略を実行に移すために、リーダーがあるべき役割を果たす必要

そして、それぞれの前提条件を元に、OKRを撤廃している企業の失敗について解説しています。

フィーチャーチーム・エンパワーメントプロダクトチームについて

フィーチャーチームとは、一般的なチームが「個々の役割を完遂すること」を目的としているのに対し、「特定の成果物を生み出すこと」を目的としたチームのこと。
特定の専門領域を分化して、それぞれの役割を果たすことにフォーカスするのではなく、複数のコンポーネントを横断し、あくまでも全体のチームとして成果物を出すことにフォーカスしている。

エンパワーメントプロダクトチームは、プロダクトチームに権限を与えることを前提とし、あくまでもプロダクト目線で問題解決を図る、そしてそのためのリソースを供給するチームのこと。

フィーチャーチームとプロダクトチームの違い

フィーチャーチームを採用している企業にとって、OKRというテクニックは文化的にマッチせず、時間と労力の無駄になる、と指摘されています。

OKRは、プロダクトチームに権限を与える、というDNAを持つ企業から生み出されました。
つまり、OKRは何よりもまず、エンパワーメントの手法と言えます。

プロダクトチームに解決すべき「真の問題」を与え、それを解決するためのリソースを与えると言うのが主軸の考えです。

しかし、企業がチームに目標を与えるとしながら、チームが提供すべきソリューションについて伝え続けていることが、文化的にミスマッチする原因となります。

マネージャーの目標とプロダクトチームの目標

多くの企業では、エンジニア、デザイナー、プロダクト等、それぞれの役割毎にマネージャーがおり、独自の組織目標を設定し、チーム内に共有を行っています。

これそのものに不合理は無いのですが、エンパワーメントプロダクトチームにおいては問題が起きます。
何故ならば、あくまでもプロダクト目線でのクロスファンクショナルな目標達成に取り組まねばならないのに、それぞれ各人の目標に取り組むことになるからです。

さらに、多くの企業では個人の目標も設定されており、プロダクト目線での目標達成意識は希薄なものになります。
(プロダクト、チーム、個人、それぞれの目標を同時に追求できるか?)

リーダーシップの役割

根本的にリーダーシップが機能していないことが指摘されています。

一般的に、チームの目標は四半期毎にその達成度が測定されます。
そして、OKRの導入により、マネージャーは管理負担が軽減されると考えますが、実際には逆で、よりクオリティの高いマネジメントが必要なのがOKRです(正確には、従来のマネジメントの概念とは異なるマネジメントが必要)。

OKRを導入し成功する企業を見て、真似をしようとするのは良いですが、相関関係と因果関係を混同してはいけません。
OKRにより成功している企業は、OKRを導入したから成功したのではなく、自分たちのエンパワーメントプロダクトチームモデルを活用しきるためにOKRを使っているからです。

フィーチャーチーム、ロードマップ、受動的なマネジメント等を基盤とした従来型組織に、全く異なる分化から生まれた手法をそのまま適用しても、効果や変化を期待することはできません。


以前にも、OKRはあくまでもツールにすぎないので、ツールの使い方が重要だよね、という内容の記事を書きました。

今回の先人の知見は、この考えを補強したものと言えます。

安易な事例模倣はリスクが高いということを認識し、それでもOKRを導入する必要がある、と感じたなら文化レベルで組織を改革するつもりで導入するのが吉と考えられます。

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マネジメント・リーダーシップ

コントロールできる環境はストレス耐性を高めるかもしれない

ストレスと言うとネガティブな印象が強く受けられますが、「良いストレス」がある、ということも認知されるようになってきました。
一方、同じストレスであっても、周囲の環境次第では、その影響を強く受けることがあります。
ここでは、環境をコントロールできるか否か?とストレス耐性の関係について見ていきます。

環境をコントロールできるか否か?

生きていれば挫折の一つや二つ(いや、もっと多くの)、何かしら経験するものです。
その大小に関わらず、です。

では、挫折した何かに対して、再度チャレンジをする意欲は何が要因で維持できるのでしょうか?

それは環境をコントロールできるか否かにあると、一部の研究は示しています。

https://psycnet.apa.org/record/2015-58950-001

この論文では、被験者にストレスを与えた上で、失敗体験を与え、再度チャレンジするか否かについて調査を行いました。

実験では、まず被験者にストレスを与えます。
(冷たい水が入ったバケツに2分間手を入れ、更にその様子を撮影する、という作業を行います。過去の知見では、この作業によりストレスホルモンであるコルチゾールが分泌されることがわかっています。対象群であるストレスを与えないグループでは、ぬるま湯に2分間手を入れ撮影も行いません。)

次に仮想の学位を得るための試験を受けてもらいます。
この試験は何度もチャレンジすることができ、仮に誤った答えを回答したとしても、同じ問題が出るが故に、被験者はいずれは正解に辿り着けるようになっています。
ここでのグループ設定は、一方は試験を単純に繰り返すグループ、もう一方は被験者の意志に関係無く学位の対象となる講義がランダム「休講」、つまり強制的に学位がキャンセルされてしまう可能性がある設定となっています。

つまり「ストレスの有無」と「挫折に対する環境のコントロール性の有無」の2軸でわけた4事象で、学位を得るためのチャレンジを継続するか否かが調査されました。

その結果、最もチャレンジ意欲が減衰し継続できなかったのが、「ストレスが有り」「挫折に対する環境のコントロール性が無い」グループでした。

「ストレスが有り」でも「挫折に対する環境のコントロール性が有る」グループは、「ストレスが無い」グループと同程度の継続性を示していたのと、また、「挫折に対する環境のコントロール性が無い」グループでも「ストレスが無い」場合も高い継続力を維持していたことも示されました。

つまり、ストレスとコントロール不能性の組み合わせは、人の意欲を大きく奪う、ということが示唆されているのです。

マネジメントにおける知見

この実験は仕事におけるマネジメントに非常に有用な知見を与えてくれます。

つまり、会社や上司は、従業員に対して不要なストレスを与えない方が良い、ということがわかりますし、そうは言ってもストレスをゼロにすることは不可能なので、可能な限り従業員に環境をコントロールできる仕組みを構築した方が良い、ということがわかります。

「ボス」という人種は、「部下」をなにかとコントロールしたく思うものですが、このマインドは下策だ、ということです。
(仮にあなたが、会社としての成果よりも、部下を支配する、そのような欲求を満たすことの方が大事だ、というならば致し方ないですが。)

なお、従業員に環境をコントロールできる仕組み、とは、仕事量の調節ができたり、決裁権限を柔軟に得られる、などが考えられます。

与えることができるのは持っている者のみです。
マネジメントに悩んでいる方は、これらの知見を活用してみてはいかがでしょうか。


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