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マネジメント・リーダーシップ

「自分たちの職場は男女平等で差別などない」という認識は危険かもしれない

仕事はあくまでも能力や成果で評価すべきで性別で差別するのは良くない。
この認識は、多くの方が同意することでしょう。
そして、「自分たちの職場は男女平等で差別などない」と思っている方も多いかもしれません。
しかし、その認識は危険かもしれない、という研究があります。

性差別は、「無い」と思っている人によって引き起こされている可能性

英エクセター大学の研究チームは、性差別(ジェンダー・バイアス)について、その意識との関連を2つの調査を通して調べました。

https://advances.sciencemag.org/content/6/26/eaba7814

対象は、獣医師の専門家です(英国獣医師会での調査となった研究)。
イギリスの獣医学の分野では、論文公表の10年以上前から女性の数が男性を上回っており、女性の能力が不足している、という偏った認識は消えている、と考えられています。

1つ目の調査では、参加者に対して職場での性差別の経験についてヒアリングが行われました。

その結果、女性は男性よりも差別を受けたと答える人が多く、また、同僚から自分の価値を認められた経験が少ないことがわかりました。

2つ目の調査では、管理職を対象に、架空の業績評価を与えた上で、とある獣医師について評価をする実験が行われました。
業績評価は全員に同じものが渡されましたが、獣医の名前はマーク(男性名)とエリザベス(女性名)のどちらかになっています。
管理職の方は、獣医のパフォーマンス/能力を評価し、この従業員が自分の診療所にいた場合に提案する給料を示します。

この結果、性差別(ジェンダー・バイアス)は、「自分たちの職場は男女平等で差別などない」と考えている人たちによって起きている可能性が示唆されたのです。

その影響は年収相当で8%

まず、自分たちの職場について、性差別があるか否かについて、次のような認識を持っていました。

40.6%の方が「まだ性差別がある」、44.5%の方が「性差別はない」、15.0%の方が「わからない」。

全体の評価としては次のような結果で、マーク(男性)を高く評価する形となりました。

この報酬(給料)への影響額は約8%の差で、時給換算約2ドル、これが2,000時間に渡って影響する形になります。

この結果の恐ろしい点が、上述の通り、「自分たちの職場は男女平等で差別などない」と考えている人たちによって起きている可能性が示唆された点です。

8%のギャップの主な要因は、「自分たちの職場は男女平等で差別などない」と考えている管理職となっており、差別はまだ存在している、と考えている管理職はほぼ同等の報酬(給料)を提示していました。
そして、ギャップの要因となっていた管理職は、女性に管理職としての責任を与えることを奨めず、傷心の機会を与えることもしませんでした。

これらの結果は、管理職自身の性別、管理職としての経験年数、職業経験年数、そして性差別的信念を支持しているか否か、という要因について調整しても同様の結果となりました。


この研究はイギリスの獣医学/獣医師の領域で行われたものですが、他の国、他の多くの職場でも起きている可能性があります。

特に、女性の活躍について推進し、努力している企業ほど、性差別(ジェンダー・バイアス)が解決されているはずだ、と認識されている可能性があり、リスクは高いと認識した方が良いでしょう。

差別というものは、根強く残る可能性がある、ということを認識し続けることが重要と考えられます。

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生産性・業務効率化

休み明けは仕事のパフォーマンスが下がる~月曜効果~

休み明けは憂鬱になる方は多いでしょうし、溜まったタスクをこなすためにバタバタし、やりたいことができなかったと感じている人も多いでしょう。
どうやら、統計的にも休み明けはパフォーマンスが下がる傾向があるそうです。
今回は、この“月曜効果”について解説します。

“月曜効果”とは

まず、そもそもとして“月曜効果”についてです。

相場におけるアノマリー(経験則)の一種で、特定の曜日の収益率が他の曜日よりも低く、または高くなりやすい現象のこと。月曜日の収益率がマイナスになりやすく、金曜日(週末)がプラスになりやすいといわれている。
野村證券~証券用語解説集~「曜日効果(ようびこうか)」より

“月曜効果”、より正確にいうと曜日効果は、元々証券用語でした。

曜日により投資パフォーマンスに偏りあるよね、と長らく言われており、投資判断の材料にする人もいました。

近年では、この傾向が無い、もしくは逆の傾向も示されるシチュエーションもある、というようなこともあり、人によって受け止め方は様々です。

仕事における“月曜効果”

次に、リーハイ大学をはじめとした複数大学が行った研究を紹介します。

https://pubsonline.informs.org/doi/abs/10.1287/isre.2019.0870

研究では、米国共通役務庁(連邦財産の管理維持、公文書の管理、資材の調達・供給などを行う)が12ヶ月間に収集した80万件以上の取引記録のデータを用いて、曜日ごとのオペレーション・パフォーマンスの変化を調べました。
また、中国最大級のスーパーマーケット・チェーンの注文・履行データも分析しました。

その結果、“月曜効果”が顕著に現れていることがわかりました。
(例:注文を受けてから出荷するまでの時間が、月曜日の方が他の平日よりも平均して9.68%長い。)

このような影響が現れる要因としては、週末の間に溜まったタスクを処理しなければならない、というプロセスの問題や、純粋に月曜日は憂鬱だ、という人的な問題があるとのことです。

休み明けは仕事のパフォーマンスが下がるのです。

“月曜効果”への対策は?

それでは、休み明けにパフォーマンスを維持する方法について、どのように考えれば良いでしょうか?

研究者は次のような施策を推奨しています。

  • 月曜日(休み明け)の人員を増やす
  • 月曜日(休み明け)は会議等の非業務遂行活動を抑制する
  • 従業員教育を強化する
  • 月曜日(休み明け)の憂鬱さを低減するモチベーションアップ施策をうつ(無料のコーヒー等)
  • 月曜日(休み明け)はダブルチェックを強化する
  • 業務の自動化(IT化を含む)を推進する

特に、「業務の自動化(IT化を含む)を推進する」はクリティカルな効果があると、実験の中でも示されています。

個人レベルでは次のような対策が考えられます。

  • 休み前に、重要な課題について終わらせたり、スムーズに進むよう事前に手配する
  • 月曜日(休み明け)は会議等を避けるなど、仕事モードに戻るための時間を確保する
  • ToDoリストやチェックリストを作成し、処理しなければならないことについて考えるのを省力化する
  • 休みを有意義なものになるよう、行動習慣を適正化する

“月曜効果”、休み明けは仕事のパフォーマンスが下がる、という話はよくよく考えればそうだよね、というようなものですが、意識されずに放置されているのが実態でしょう。

しかし、意識し明確に対策を打てば、その悪影響を緩和することも、比較的容易なはずです。

「月曜日(休み明け)は会議等の非業務遂行活動を抑制する」からでも良いので、実践してみるのは良いでしょう。

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マネジメント・リーダーシップ

メンバーによりチームのパフォーマンスはどれくらい変わるのか?

一般的には、パフォーマンスの高い個人を集めた方がチーム全体のパフォーマンスも上がると考えられています。
一方で、ごくごく普通の会社にもかかわらず、とんでもない成果を出すような光景を目にすることもあります。
果たして、メンバーによりチームのパフォーマンスはどれくらい変わるのでしょうか?

いわゆる集団的知性

いわゆる集団的知性、という言葉があり、本稿はこの集団的知性とメンバー構成について考えたいと思います

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%86%E5%9B%A3%E7%9A%84%E7%9F%A5%E6%80%A7

簡単に集団的知性とは?について、Wikipediaから引用します。

集団的知性(Collective Intelligence、CI)は、多くの個人の協力と競争の中から、その集団自体に知能、精神が存在するかのように見える知性である。
(中略)
Atlee は集団的知性を「集団思考(集団浅慮)や個人の認知バイアスに打ち勝って集団が協調し、より高い知的能力を発揮するため」のものと主張している。
(中略)
集団的知性研究のパイオニアである George Por は、集団的知性現象を「協調と革新を通してより高次の複雑な思考、問題解決、統合を勝ち取りえる、人類コミュニティの能力」と定義している。
Tom Atlee と George Por は「集団的知性は、関心をひとつに集中し、適切な行動を選択するための基準を形成する能力がある」と述べている。
(略)

なんだか小難しい感じですが、ようは「チームが協調して、ある目標の達成に向かって適切に邁進し、課題を解決していく、集団としての能力」のことと言えるでしょう。

メンバー構成と集団的知性の研究

こちらの記事である研究が紹介されています。

https://www.linkedin.com/pulse/why-some-teams-smarter-than-others-nicholas-mohnacky

複数大学の研究チームが、約200を超えるグループ(チーム)に、様々な種類の課題を与えて、そのパフォーマンスを測定したとのこと。

その結果、ある種の課題をうまく遂行できるチームは、別の課題についても同じようにうまく遂行できる傾向が示されたそうです。

そして、そういうチームの特性として集団的知性が高いという特徴(因子)があることが示されました。

研究では、IQが高い人が入っているチームが、必ずしも集団的知性も高いというわけではないことも示しました。

会社組織においてどのようなメンバーを集めるか?

ビジネスをやっている方にとって、この知見をどう活用しようか、悩む所でしょう。

一般的には「頭が良い人」の方が、パフォーマンスを発揮できると思われていますし、現実問題として、そのように見えるはずです。

一方で、研究では、必ずしもそうでは無いことを示しています。

研究は次の要素が集団的知性を高める因子だ、としています。

  • コミュニケーションが多いこと
  • 女性がいる多様なチームであること
  • 感情知能が高い人がいること(特にここが重要だとしている)

感情知能は、「心の知能とは、自己や他者の感情を知覚し、また自分の感情をコントロールする知能を指す。 」と定義されています。
ようは、自分の感情を適切に把握しコントロールできたり、人の気持ちについても精度高く察することができること、というものです。
EQ、と言われるものと近しいと考えても良いでしょう。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%83%E3%81%AE%E7%9F%A5%E8%83%BD%E6%8C%87%E6%95%B0

IQが高すぎるとマネジメント上の失敗が起きるリスクが高まる、という研究もあります。

ビジネスにおいては、職場は特定のスタープレイヤーに依存しがちですし、トップダウン型のマネジメントも広く見られます。
集団の知性や個人の感情より、個々人のパフォーマンスの方が優先されるのが会社組織のあるあるなのですが、改めて感情知能、もしくはEQについて見なおしてみるのも良いかもしれません。

(もちろん、IQも高い方が良い、両方兼ね備えているのがベストです。)

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マネジメント・リーダーシップ

IQが高すぎるとマネジメント上の問題が起きるかもしれない

一般的にIQは不完全なれど、期待できる仕事のパフォーマンスを予測する指標として、ビジネス研究の領域では使われています。
しかし、現実問題として頭が良すぎる人とは付き合い辛いと感じる人も多いのではないでしょうか。
ここでは、IQが高すぎるとマネジメント上の問題が起きるかもしれない、とする研究を紹介します。

IQとリーダーシップ評価の関係

カリフォルニア大学の研究チームは次のような調査を行いました。

https://psycnet.apa.org/doiLanding?doi=10.1037%2Fapl0000221
  • 各分野、30ヵ国の男女379人のビジネスリーダーを対象とした
  • ビジネスリーダー達はIQテストを受けた
  • ビジネスリーダーの同僚平均8人に、ビジネスリーダーに対するリーダーシップについて、そのスタイルと効果を評価してもらった

ようは、IQと周囲が感じるリーダーシップ評価の関係が調査されました。

その結果、IQの高さとリーダーシップ評価はある程度の相関性がありましたが、一定ラインを超えると評価が下がるU字関数を描くということが示されました。

つまり、高すぎるIQはリーダーシップを発揮する場面で有害になり得る、ということです。

そして、その高いIQのラインは120を超える所にあるとしています。

この研究の取り扱いについて

過去の研究で、IQの高いリーダーがいる組織は、全体のパフォーマンスも高い傾向が示されていました。
また併せて、IQの高いリーダーによるリーダーシップ上の弊害についても示唆するものが存在しました。

上述の研究は、これらの傾向や示唆を確認するものです。

では組織は、IQの高すぎる人をリーダーとして雇ってはいけないのでしょうか?

それは完全なミスリードです。

重要なポイントは、IQの高いリーダーのどのような行動が、周囲の人たちからの評価を下げているのか?を理解する点にあると考えられます。

IQの高いリーダーの言葉は、ゴールにダイレクトすぎて言葉足らずになっているのかもしれませんし、頭が良すぎるが故に実効策が複雑すぎるのかもしれません。
シンプルに、違う人間だ、と思われて共感されていない可能性もあります。

このような、何かしらの分断を起こしている要因(そしてそれは一人一人異なるはず)を探り、改善のためのPDCAを回していくのが良いのでしょう。

なお、研究者は、「リーダーは自身の知性を使い、人を説得したり、インスピレーションを与えたりする言葉を紡いだ方が良い。」「自身の知性を適切にアピールしつつ、人々とつながりを持てる唯一の方法として、カリスマをまとうことが考えられる。」としています。

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マネジメント・リーダーシップ

経験値が豊富である程、他人の痛みに鈍感になるかもしれない

誰か他人が痛いと感じている時、例えば注射をされているような場面の時、あたかも自分自身が注射をされているかのように痛みを「共感」することはありませんか?
人には、他人の痛みを「共感」する機能が備わっています。
しかし、経験値が豊富である程、他人の痛みに鈍感になっていく可能性があります。

痛みを感じていないと“思っている”時、「共感」が下がる

カリフォルニア大学の研究チームは、被験者に鎮痛剤の偽薬(プラセボ鎮痛剤)を与えた状態で、自分自身が痛みを感じた前提で、他人の痛みを評価する実験を行いました。

https://www.pnas.org/content/112/41/E5638

被験者は、プラセボ鎮痛剤を投与された後、電気ショックによる刺激が与えられ、痛みの度合いがMRIにより評価されました。
その後、他人が痛みを感じる場面を見せられ、痛みへの「共感」度合を同じくMRIにより評価されました。

その結果、プラセボ鎮痛剤でも、自分自身が感じる痛みの度合いは減少すると共に、他人の痛みへの「共感」も減少することが示されました。
(プラセボ鎮痛剤により、自分自身が感じる痛みが減ることは、従来からわかっており、この研究では「共感」にもプラセボ鎮痛剤が影響を与えるか否かが調査された。)

続いて、“鎮痛剤の効果を打ち消すとされる本物の薬”が投与され、同様の実験が行われました。

その結果、プラセボ鎮痛剤の効果が逆転し、他人の痛みへの「共感」が元に戻ることが示されました。

つまり、自分自身が感じていると“思っている”痛みの度合いと、他人の痛みへの「共感」は関連性が高いと考えられるのです。

(人は、他人の感情を、自分自身の脳の中でシミュレートすることによって「共感」することができる。実際、痛みを感じる脳領域が病気や怪我等で損傷をしている方は、他人の痛みへの「共感」度合が低いことがわかっている。つまり、社会において、何かしらの断絶が起こっている場合、相手方、もしくは自分達側が痛みに対して鈍感になっている可能性が考えられる。)

公平か否かも「共感」に影響する

もう一つ、ロンドン大学の研究チームが行った別の実験も紹介します。

https://www.nature.com/articles/nature04271

この実験は、いわゆる「順序型囚人のジレンマ」です。

2人一組でペアとなり、お金を渡すか渡さないかを相互に決める実験が行われました。

1人目が本物の被験者で、まず相手方にお金を渡すか渡さないかを決めます。
2人目が“サクラ”で、本物の被験者が渡したより少ないお金を返す役割が与えられています。

この“サクラ”は2パターン、設定がされました。
具体的には、①お金を返す役割、②全くお金を返さない役割、です。

①は公平グループ、②は不公平グループ、という設定ということですね。

その後、場面を移して、2人目の“サクラ”に電気刺激を与え、その痛みを感じている様子を1人目の本物の被験者が見て、痛みへ「共感」度合がMRIにより評価されました。

その結果、①の公平グループでは、“サクラ”に対して「共感」していたのに対して、②の不公平グループでは「共感」度合が大きく減少していたのです。
(なお、女性の方が、相手が不公平であっても、多少は痛みに対して「共感」していた。)
また、他人への懲罰感情と関連する脳領域が活性化していたことも示されました。

不公平な相手に対しては、別の感情も入り、痛みへの「共感」が減少する、ということですね。

経験値が豊富である程、他人の痛みに鈍感になるかもしれない

これらの研究を通して考えたのが、タイトルのとおりのことです。

ビジネス経験が豊富で、実績を出しているほど、これまで受けて、そして乗り越えてきた痛みの数と量、質は非常に多いはずです。
また、乗り越えてきた分、これまで受けてきた痛みレベルだと「へっちゃら」になっていくものです。

そして、人は「自分ができたんだから、これくらいできるでしょ?」と他人に要求しがちです。
(酷い場合には、無意識的に「自分が味わってきた苦労を、お前も味わえ。」と復讐感情を何故か部下に向ける人もいる。)

つまり、「経験値が豊富である程、他人の痛みに鈍感になる」可能性がある、ということです。
(もしかしたら“サイコパス”は後天的でも生まれるかもしれない。)

これは、リーダーシップ上の問題があります。

基本的に人は、自分に「共感」してくれる人のことを好む傾向があります。
仮に上司が自分に「共感」せず、「この程度のこと、大したことないよ、何言ってんの」と対応してきたら、どう感じるでしょう?
長期的目線で考えた時、マネジメントが崩壊していく姿が容易に想像できるはずです。

上に立つ人は、この「痛み」と「共感」の話について理解しておく方が安全だ、ということを認識しておくと良いでしょう。

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マネジメント・リーダーシップ

部下に対する最適なフィードバックの方法は何か?

“フィードバック”の重要性は、特に近年強調して語られています。
その中で、多くの管理職経験者が、様々に“成功体験”を語り、フィードバック方法についてその知見が発信されていますが、科学的な調査は少数でした。
そのような中、最適なフィードバック方法について探る、興味深い研究があります。

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0234444

効果的なフィードバック方法を探る3つの研究

研究では3つの調査が行われました。

①実際の経験をベースにしたフィードバックに対する印象の調査

1つ目の研究は、数百人の管理職を対象としたグローバルな調査です。

フィードバックを与えた場合と受けた場合に、そして肯定的なフィードバックを受けた場合と否定的なものを受けた場合の4事象で、それらの印象が調査されました。

結果、フィードバックを与えた場合は、良いパフォーマンスであれ、悪いパフォーマンスであれ、相手の能力や努力に起因する、と捉える傾向がありました。
一方、否定的なフィードバックを受けた場合は、ミッションの困難性の問題であったり、自分ではコントロールできない運の要素をあげたり、と自分以外の要素にその原因があるとする傾向がありました。

つまり、都合の悪い、耳に痛いフィードバックについては正確性に欠ける、信頼できないものと判断する傾向があるのです。

②ロールプレイによる効果的なフィードバック方法を探る調査

2つめの研究は、ロールプレイによる調査です。

ここでの調査の目的は「双方向のコミュニケーションは、過去の状況について当事者同士で共有する事により、適切な行動変容につながる。」という仮説を調べるものです。

参加者は、上司と部下にわかれ、部下に関する人事情報が共有された前提で、フィードバック会議を行いました。

結果、フィードバック会議は、良いパフォーマンスについても悪いパフォーマンスについても、どちらについても合意形成が図れず、些細な意見の相違が大きなものになってしまうことになりました。
部下は、成功の要因は個人に起因するものであり、失敗の要因は外的なものであると、以前よりも強固に感じるようになりました。
(肯定的なフィードバックは受け入れやすい傾向であること、ネガティブな過去について双方がしっかりと合意している前提ではフィードバックを受け入れやすい傾向であることは、研究の中で示されています。)

一方、この研究の中で、一つの知見も得られています。

それは、フィードバックを正当でかつ有用であると受け入れるかどうかキーは未来志向にある、という点です。
将来の成功のために、どれだけ新しいアイデアを生み出せるか、というような未来に焦点をあてた会話が起きた場合に、向上心を高める効果が見られました。

③「未来志向」を前提としたロールプレイでの再現調査

3つめの研究では、②の研究の知見を踏まえ、未来志向にフォーカスして強調したものが設計されました。
具体的にはフィードバックのガイドラインとして、評価ではなく、育成であることを強調したものが用意され、その前提で②と同様の調査が行われました。

結果として、ネガティブな評価については、やはりフィードバックを受け入れづらいという傾向に変わりはないものの、未来志向に対する評価が高い場合においては、フィードバックを受け入れやすくなる傾向が示されました。

つまり、②の知見は、程度の問題はあれど、一定の正しさがあることが示されたのです。

フィードバックにおける具体的な指針

こうなると、これまで言われていたような「肯定的なフィードバックを混ぜて、否定的なフィードバックにより受けるダメージを緩和する」というような話や、「具体例を示して、改善のための有益な情報を提供する。」というような方法は、効果が疑わしいということがわかります。

そのため、受け入れられるフィードバックをするために重要な点が次のとおり指摘されています。

  • 未来に向けて物事を改善する、という目標を示す
  • 何を期待しているのかの理想を明示する
  • 過去の肯定的な事象は素直に褒め、否定的な事象については端的に事実のみを示し、原因の議論や詳細な説明は行わない
  • 相手(部下)には、改善を行うためのモチベーションも能力もあると仮定する
  • 次に何をすべきか?について議論をする
  • 一緒に解決策を考えましょう、と寄り添う姿勢を見せる

徹底した未来志向のガイドラインですが、非常に参考になるのではないでしょうか。

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マネジメント・リーダーシップ

はじめてマネジメント職につく新任マネージャーにつける部下の最適人数は?

文字通りはじめてマネジメント職につく新任マネージャーを任命する場合、どれだけの部下をつけるのが最適でしょうか?
はじめてのマネジメント職だから、1人でしょうか?
実は、これは失敗のリスクを高めます。
最適な人数は3,4人です。

はじめてだからと言い、部下1人で起きること

新任マネージャーにつける部下の人数が1人の場合、失敗のリスクが高まるのですが、その理由は端的に言うと「部下ガチャ」の影響を大きくうけるからです。

はじめてだからと言い、部下1人とすると次のようなことが起きます。

  • 上司の諸々の情報源や判断、そしてそれらからアウトプットされる成果が部下1人の影響を大きく受ける(部下のあげる現場情報が1人、つまりn=1であり、偏ったものになる。部下の報告が正しいかどうかの検証が困難になるし、悪い情報等もキャッチできる可能性が大きく下がる。)
  • 部下1人に依存している状況だと、その部下に対して適切なフィードバック、特にネガティブなフィードバックができなくなる可能性が高まる
  • 部下の人数が少ないが故にマイクロマネジメントに陥る可能性が高まる
  • 部下は「同僚」がいないが故に孤立しがちになる
  • 仮に部下が退職した場合にチームを失うことになる

つまり、経験の浅い新任マネージャーに対して、マネジメントの練習だと言って1人だけ部下をつけるのは却ってリスクを高めるのです。

新任マネージャーに部下をつける際の注意事項

それでは、組織や人事部門はどのようにすれば良いでしょうか?
2つのポイントがあります。

部下1人は避ける

まず、新任のマネージャーに対して、部下は複数人つけるようにしましょう。
具体的には3,4人です。

いわゆる“スパン・オブ・コントロール”、マネジメントの質を保てる限界ラインが約7人前後と言われていますが、その意味で中間の3,4人は丁度よい塩梅です。

どうしてもつけられる部下の人数が限られている場合には、極力早期に改善できるよう、人の手配を行いましょう。

新任マネージャーの専門性の確認

次に、新任マネージャーがそのドメイン領域において、一定の専門性を有しているかどうかは判断した上での任命としましょう。

その領域の専門家であれば、部下の人数が仮に少なかったとしても、その報告の検証は可能になってくるはずです。

マネージャーも部下も、そのドメイン領域において専門性が無い、というシチュエーションは極めて失敗のリスクが高まります。


理想としては、新任マネージャーに対しては3,4人の部下をつけた上で、いずれも一定の専門性を有する状態、と言えます。

現場現実のビジネスで、この理想状態を最初から実現するのは困難かもしれません。

しかし、経営や人事部門は、このような理想状態に近づけるための組織作りを行うべきですし、それが重要なミッションの一つと言えるでしょう。

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経営企画

エンジニアが非エンジニアに薦める参考になるURL集

こちらはエンジニアの方が非エンジニアである筆者に紹介してくれた、プロダクト開発をしていく上での参考URL集となります。
かなり勉強になるのも多く、繰り返し読みたいと感じるものもあります。

全般系

スタートアップの初期のメンバー構成

日ハムが大谷翔平をリクルートした時の資料

https://frenchkiss-emuzu2.ssl-lolipop.jp/03/zip/121213-nihonham-ohtani.pdf

スタートアップの差別化

スタートアップとテストコード

ターゲットユーザーとプロダクト制作、PMFでの基本的問いかけ

どこから作るか

https://coosy.co.jp/blog/branding-ux/

新規事業の作り方、撤退ラインの定め方

同じ専門家でも見解が分かれる事例

https://jinjibu.jp/qa/detl/76575/1/

間違いを犯すということ

https://www.soccerdigestweb.com/news/detail2/id=91267

デザイン系

デザイナーという職業に対する問いかけ

https://yasuhisa.com/could/article/how-to-live-as-desinger/

モノづくりの基本的考え方(生きる上での普遍的考え方)

https://note.com/fladdict/n/ne33a0b184cb2#vxD1z

ロゴデザインの国際比較

figmaデザインテンプレート

システム系

「理解」について

https://zenn.dev/e99h2121/articles/c11daf42169beb

「技術的に可能です」について

https://wa3.i-3-i.info/word18400.html#:~:text=%E3%80%8C%E6%8A%80%E8%A1%93%E7%9A%84%E3%81%AB%E3%81%AF%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E8%A1%A8%E7%8F%BE%E3%81%AF%E3%80%8C,%E3%81%84%E3%82%8B%E3%81%A8%E6%80%9D%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%8F%E3%81%A0%E3%81%95%E3%81%84%E3%80%82&text=1%E5%84%84%E3%81%8F%E3%82%8C%E3%81%9F%E3%82%89%E3%82%84%E3%82%8B,%E6%8A%80%E8%A1%93%E3%81%A8%E7%B5%8C%E9%A8%93%E3%81%A7%E3%81%AF%E7%84%A1%E7%90%86%EF%BC%81
https://dic.nicovideo.jp/a/%E6%8A%80%E8%A1%93%E7%9A%84%E3%81%AB%E3%81%AF%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%81%A7%E3%81%99

プロダクトマネージャーの仕事

https://tumada.medium.com/product-management-triangle-job-description-d18d1855ef65

システム設計は性悪説に基づくユーザーインプットの信頼性

https://note.com/k_kana/n/nc44e649aa3d0

上流工程で潰せば潰すほど、工数が少なくなる

https://www.atmarkit.co.jp/ait/articles/0812/15/news140.html

品質とスピード

https://note.com/cyberz_cto/n/n26f535d6c575

見積り

https://qiita.com/kamesennin/items/89d479112554a6f9d038

人を増やせば、早くPJが進むという誤解

https://cybozushiki.cybozu.co.jp/?p=16062#:~:text=%E4%BA%BA%E6%9C%88%E3%81%AE%E7%A5%9E%E8%A9%B1,%E6%B3%95%E5%89%87%E3%81%8C%E5%87%BA%E3%81%A6%E3%81%8D%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82&text=%E3%81%93%E3%81%AE%E3%80%8C%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87%E3%80%8D%E3%81%AF,%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E5%A0%B4%E5%90%88%E3%82%82%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

システム開発を依頼する時のアンチパターン集

メテオフォール

仕様とバグ

https://jp.quora.com/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%81%AF-%E3%81%AA%E3%81%9C%E6%98%8E%E3%82%89%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%83%90%E3%82%B0%E3%81%A7%E3%82%82%E8%AA%8D%E3%82%81%E3%81%9A%E3%81%AB%E4%BB%95%E6%A7%98

仕様書に書いてないから…問題

バグについて

https://dev.classmethod.jp/articles/system-bug-defect-philosophy/

バグを0にできるか

https://el.jibun.atmarkit.co.jp/hidemi/2010/04/post-220a.html

コード量とバグ

エンジニアが必要なくなると思い込む →半永久的に保守作業が発生する

https://mid-works.com/columns/freelance-career/engineers/1074220

「保守」の必要性

https://note.com/gonjyu/n/nd7bf3efa0728
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生産性・業務効率化

良い質問の話~目的の明確化編~

質問力という言葉があります。
ようは、良い質問ができれば、諸々良い結果が待ってますよ、という事で、字面から重要なのは伝わりつつも、正直よくわからない、という人も多いのではないでしょうか。
今回は、この「質問力」「良い質問」について考えてみます。
一番重要なことは目的の明確化です。

目的の明確化

結論として一番重要な事があり、それは「目的の明確化」です。

なぜならば、質問において様々なテクニックがあるものの、目的の明確化がされていないと、その各種テクニックの適用が難しいからです。

質問の目的には次のパターン、基本的な5種類が存在します。

  • 情報や知見の入手
    →迅速な必要情報の入手
    →調べても出てこない,理解しきれない知見の入手
  • 相手へのさりげない命令、依頼
  • 相手との関係性構築
  • 相手に気づきを与える
  • 相手をネガティブなメッセージを与える

内容説明に入る前に、1つ、大前提について触れておきたいと思います。

ググろう

質問の前に、自分で調べよう

その大前提とは、質問する前に「ググろう」という話です。

(ググろう、は何もGoogle検索だけの事を指すのでは無く、各種書籍類の閲覧や、社内のナレッジ共有の調査,検索等々の、ありとあらゆる「調べる」媒体を含みます。)

これ、本当に不思議な事に、Google検索すらしない人が珍しく無いのです。

手元にあるスマートフォンで、ちょっと調べればよい事なのにです。

まずは何はともあれ、自分自身で調べてみましょう。

調べたら、質問の前に、自分の頭で考えてみよう

そしてもう一つ不思議な事に、「調べてもわかりませんでした。」という方も、決して珍しくないのです。

そしてこの「調べてもわかりませんでした。」は、よくよく聞いてみると、何も考えていない、というパターンが大多数です。
(わからないことを調べて答えにたどり着く、は調査力の話であり、今回のテーマとは異なるので省きます)。

調べたのなら、きちんと自分の頭で考えてみましょう。

この2点、まずは調べる、調べたら自分の頭で考える、です。
これは大前提中の大前提です。

質問の目的について

ここからは、質問の目的について、です。

再掲ですが、質問の目的は次のように分類されます。

  • 情報や知見の入手
    →迅速な必要情報の入手
    →調べても出てこない,理解しきれない知見の入手
  • 相手へのさりげない命令、依頼
  • 相手との関係性構築
  • 相手に気づきを与える
  • 相手をネガティブなメッセージを与える

迅速な必要情報の入手

例えば、何か会社内に保管されている書類を探したいとします。
書類の管理簿のようなものはぱっと見存在せず、どこに何が保管されているかは、実際に探してみないとわかりません。

このような場合、闇雲に探すのは効率的でしょうか?
明らかに非効率だ、とわかりますよね。

「こういう書類を探しているのですが、知っていますか?」
「何か書類を探す方法、管理簿とか、書類の保管の棚割り表とかってありますか?」

上記のような質問を、担当っぽい部署や人に質問していくのが効率的でしょう。

調べても出てこない,理解しきれない知見の入手

これは、何かを知りたくて頑張って調べて考えたけれども、やっぱり出てこなかった、わからなかった、という類への対処です。
ようは、上記「ググろう」を通過した後の質問ですね。

この種の質問に関しては、具体的に何を知りたくて、これまでどのように調べて考えたのか。
その上でなお、これこれこういう不明点があって、この不明点を潰したい、はっきりさせたい、という形で質問すると良いです。

多くの方の場合、質問の種類として最も使用するのが、このパターンかと思います。

もう一度書きますと、下記4点を明確化しましょう、という事です。

  • 知りたい事は具体的に何か
  • これまでどのような仮説を持って調べたのか
  • 検索した内容について、どのように吟味を重ねたのか
  • 上記を踏まえてなお、残っている疑問点、不明点は何か

相手へのさりげない命令、依頼

これは例を出すのがわかりやすいでしょう。

「この書類のスキャンをとる時間ある?」

このように投げかけられたら、通常は「書類のスキャンをして欲しいのだな。」と受け止めるはずです。
タイトルの通り、相手へのさりげない命令ないしは依頼が目的の、質問形式のコミュニケーションという事です

コミュニケーションの一手法ではあるので、乱用は避けつつ、うまく活用しましょう、という所ですね。

相手との関係性構築

質問は、何も「知りたい事がある」から発するのではありません。

相手とのポジティブな関係構築のための質問もあり得ます。

様々な場面での、ちょっとした雑談や面談等で、「週末は何していたの?」「あれ、バッグ新しくした?」「将来は何かやりたい事あるの?」といった投げかけをする事があるかと思います。

これは、(ぶっちゃけ相手の事を知りたいとかそういう事を目的としているのではなく、あなたに興味がありますよ、というスタンスをとって)質問相手と何気ない会話を通して、親密になる事を目的とした質問です。
仕事においては、親密な関係性の方が、大体においてスムーズに物事が進みますので、特にマネージャー層において使用される質問パターンですね。

相手に気づきを与える

質問の中でも、特に高価値なのが、お互いの知見が高まる事です。

「このアイデアの実現は難しいのは確かだと思うけれど、どうしたらうまくいくと思う?」

何か実現が明らかに困難なアイデアがあったとして、これに対して「難しい、あきらめよう。」というのは簡単です。

しかし、もう少し粘って、「どうしたらうまくいくだろうか?」と投げかけ、質問相手と一緒に考えてみたらどうでしょうか?

もちろん、良い答えが出てくるとは限りませんが、出てくれば儲けものです。
お互いに、新しい気づきを得られ、知見が高まるからです。

他にも単純に、目的を見失っている人や、不安を感じている人に、気づきを与えるという目的でも使えるパターンの質問です。

「このお金は、どこから得られているものだろうか?自分たちの給料はどこから誰が出しているのだろうか?」
「不安に思うのはそうだと思うけれど、私は、君の実力なら達成可能だと思うよ。そう思わない?」

相手をネガティブなメッセージを与える

最後のパターンがネガティブ・メッセージの伝達です。

例えば、「目標の数字が大きく未達だけれども、どう挽回するつもりなのかな?」という質問です。

これは、もちろん目的を達成するための方法を問いてはいるのですが、質問相手に対する叱責の意味合いも大きく含んでいるのがわかるでしょう。

このように相手に対して“威圧”を与える事にも質問は使えます。
(まぁ、そう使いたいとは思いませんけどね。)

他にも、やんわりと断ったり、拒否する事にも使えます。

「この企画、色々検討したけれど、実現性がかなり低いと思うけれど、どうかな?」


以上が「質問力」「良い質問」の前提となる、質問の目的5パターンとなります。

質問におけるテクニック論は様々にあるのですが、まずは上述の通り「目的の明確化」をしっかりと意識しましょう。
繰り返しになりますが、質問の目的を明確化しないと、諸々のテクニック論を適切に機能させることが出来ないからです。

別の場所で、質問のテクニック論について触れたいと思います。

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人事・総務

キャリアの掛け算の正しい考え方(100万人に1人の人材になるために)

リクルート・フェローの藤原和博氏が提唱しているキャリアの掛け算は、キンコン西野氏も広く紹介したこともあり、非常に有名になりました。
しかし、微妙に意味を履き違えて受け取っている方も多いようにも感じます。
ここでは、キャリアの掛け算の正しい考え方について、解説していきます。

キャリアの掛け算とは

キャリアの掛け算については、こちらの記事を見てみて下さい。

簡単に書くと、
単一のキャリアで100万人に1人の人材になるのは困難です。
しかし、100人に1人の人材ならば正しい努力をすれば達成確度は高いというのは納得できる話でしょう。
この100人に1人のキャリアを3つ積めば、100×100×100で、100万人に1人の人材になれる、という考え方です。

図だけ拝借します。
考え方として、非常に参考になるので、大元の記事も是非読んでみて下さい。

かけ離れすぎたキャリアはただの器用貧乏に

では、どのような点で微妙に意味を履き違えている方が出てくるのでしょうか。

まず、100万人に1人といわずとも、100人に1人以上の1,000人の1人の人材ならば十分なその道のスペシャリストなので、非常に高い価値を持っています。
人材市場で見て引く手あまたでしょう(もちろん分野にもよるでしょうが)。

つまり、変に掛け算するよりも、1つのキャリアを極めるという道も考え方としては決して間違っていないのです。

もう一つ、この3つのキャリアですが、あまりかけ離れすぎたキャリアになると微妙です。

例えば、営業からスタートした人が、次に経理をやって、3つ目にデザイン(例えばクリエイティブ部署の管理職とか)をやったとしましょう。
 
キャリア間のつながりが細く、掛け算という観点で見ると、とてもじゃないですが、価値の高い人材になれるイメージが掴めません。

キャリアのシナジーを考える

それでは、キャリアの掛け算を有効に正しく活用するには、という本題です。
これはシンプルにキャリア間のつながり、シナジーを考える必要があります。

具体例を3つ程、示します。

管理系全般をカバーする人材に

経理スタートの人が管理系全般をカバーする人材を目指す場合のキャリアルートです。

  1. 経理
  2. 経営企画(財務、開示、IR、ガバナンスetc…)
  3. コーポレート部門全般(人事、総務、法務etc…)

入り口は経理からです。
経理は会社の決算をまとめる仕事であり、業務の必要性から会社の実情に詳しくなります。
そのため、経営企画領域へのステップは比較的近い距離にあります。

財務、開示、IRや取締役会や稟議フローの適正運営などは、キャリアチェンジ後もスムーズに業務を開始できるはずです。
また、この領域の仕事をしていると、法律面をはじめ、会社の様々な管理領域に接触する機会が増えます。

3つ目の軸として、人事、総務、法務といった方向性でキャリアを構築すると、管理系全般をカバーする人材になります。
ポジションとしては、管理部門の部長や、それまでに出してきた成果によっては役員に就く方も出てくるでしょう。
ベンチャー企業に転職してCFOを志向することも考えられます。

ザ・モデル型セールスのスペシャリストに

営業からスタートし、ザ・モデル型セールスのスペシャリストを目指す場合のキャリアルートです。

  1. 営業(例えばフィールドセールス)
  2. インサイドセールスやリードジェネレーション領域
  3. マーケティングやカスタマーサクセス領域

入り口は、よくあるフィールドセールス(外回り営業)としましょう。
ここで業界のことや顧客のこと、そして自社商品の強み弱み等々を理解していきます。

ここからのスイッチとして、インサイドセールスに行くか、カスタマーサクセスに行くか、どちらでも可能性はあり得ます。
仮にインサイドセールスの方向に進んだとして、これまで培ってきた知識やノウハウが結構そのまま流用できます。
優秀な方ならば、受注率に繋げるためにリードソースの質を高める活動に入っていくはずです。
つまり、リードジェネレーションにまで手を広げる形です。

3つ目のキャリアとしては、もっと広くマーケティング領域に活動の軸を移す手もありますし、改めてカスタマーサクセスで顧客との関係性を深堀していく方向に進むこともできます。

ポジションとしては、セールス部門の部長や、場合によってはCOOとして役員についている状況も考えられます。
セールスフォースのようなシステムに熟達しているのであるならば、ザ・モデル型セールスのコンサルとして独立して活動することもできるでしょう。

管理系業務改善のプロフェッショナルに

3つ目の事例が、システムエンジニアからスタートし、業務改善のプロフェッショナルのルートを歩む例です。

  1. システムエンジニア
  2. 経理
  3. 業務改善コンサル

入り口はシステムエンジニアです。
ガチガチにコードを書く、というよりかは仕様をまとめたり、外注先(業務委託含む)との橋渡し的なポジションです(大企業でよくあるシステム部門のイメージ)。

ここで意外思うかもしれませんが、2つ目のキャリアとして経理の道が挙げられまっす。
というのも、経理の仕訳データは完全なデータベースになっているのと、会計システムはマスタ管理が重要でありシステム部門が行う業務と親和性が高いのです。
ですので、管理系からシステム系へのコンバートは簡単では無いのですが、システム系から経理系へのコンバートは比較的ハードルが低いと私は考えています。

そして、経理の業務は単純に仕訳を切ったり決算を締めたり、というようなことばかりでなく、全社的な業務改善にも手を広げていく形になります。
経理の業務は、全社から資料をかき集める必要があるからです。

つまり、SE×経理でキャリアを成功させると、必然的に管理系全般の業務効率化の能力があがっていくのです。
(効率化のためにシステム導入したり、業務フローを整理するなど。)

ハイレイヤーのポジションは難しいかもしれませんが、独立したり、どこかコンサルに転職して活動していく道が考えられます。

まとめ

以上3つ事例で、キャリアの掛け算の考え方を見ていきました。

いずれも1つ目から2つ目は距離の近い、親和性の高いステップです。
(意外なものも含まれているかもしれませんが。)
まずここで、シナジーがわかりやすい、距離の近いキャリアで構成するのが良いでしょう。

そして、3つ目は大元の考え方にも解説があるように、少し遠くにジャンプするのが良いです。
(三角形の面積が大きくなるため。)

1つ目2つ目の100×100で、結構なレイヤーの人材になっているはずですし、知識・経験とも十分なので、多少のチャレンジでも成功確率は高いはずです。
シナジーを生ませるコツもわかってきているはずです。


なお、これらの考えは個人のキャリアの話だけではありません。
社内での人材教育や人事異動についても応用ができます。

古典的な大企業ですと、関連性の薄い部署をローテーションさせたりしちゃいますが、これは個人のキャリアにとっても、従業員の専門性強化の阻害という観点でも、あまりイケていません。

人事異動は、規模に関わらず一定発生しがちですが、上述のキャリアの掛け算の観点で考えると、労使双方にとってプラスになるキャリア施策が構築できるはずです。

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