カテゴリー
マネジメント・リーダーシップ

人は褒められるとパフォーマンスが向上し問題解決能力があがるという話

世の中には、褒めると調子にのってつけあがるからパフォーマンスが落ちる。だから褒めない。
という人が意外にいるのですが、これは間違いです。
その理由は、褒められるのが嫌いな人は基本的にはいないこと、人は褒められるとパフォーマンスが向上し問題解決能力があがるからです。

「褒め」とパフォーマンスの関係の研究

ハーバード・ビジネス・スクールは、「褒め」とパフォーマンスの関係の研究を行いました。

https://www.thecut.com/2015/09/please-tell-me-about-a-time-i-was-awesome.html

実験では、75人の被験者を対象に、問題解決能力を測るテストが行われました。

半分の被験者については、友人や家族、同僚に、被験者を褒める内容や場面について書いてもらいました。
そして、テストを行う直前に、そのテキストが提示されました。

残り半分の被験者については、特になにもせずに、そのままテストを行ってもらいました。

なお、行うテストは、「ドゥンカーのロウソク問題」と言われる、古典的な問題解決能力を測るための認知能力テストです。

ドゥンカーのロウソク問題:このテストでは、被験者に1つの問題が与えられる。それは、コルクボードの壁にロウソクを固定し、点火するというものである。ただし、溶けたロウが下のテーブルに滴り落ちないようにする必要がある。この問題を解決するにあたり、被験者はロウソク以外に、1束のマッチ、1箱の画鋲だけを使うことが許される。

ロウソク問題の解答:箱から画鋲を取り出して画鋲で箱をコルクボードに固定し、ロウソクを箱の中に立ててマッチで火をつけるというのが答えである。機能的固着のコンセプトが予測するところによると、被験者は箱について画鋲を入れるための道具としてのみ見て、そこに問題解決に有効活用できる別個の機能要素があるとはすぐには気付くことができない。

Wikipedia「ロウソク問題」より

人は褒められるとパフォーマンスが向上する

テストの時間制限は3分で、実験の結果、時間内に問題を解けたのは「褒められた」グループでは約51%、対照群である「褒められていない」グループでは約19%にとどまる形となりました。

つまり、人は褒められるとパフォーマンスが向上するのです。

この傾向は他の実験でも示されており、「良い状態の自分」を想起できたグループは、忍耐力が向上したり、スピーチを問題なくこなすなど冷静さを保つ能力が向上することがわかっています。

人は褒めた方が良い

これらのことから、基本的には人は褒めた方が良い、ということがわかります。

褒められることが嫌いな人は、多くの場合いないことも容易に想像できるでしょう。
実際、(それがどこまで健全かはともかく)人間関係を長く続けるためには、否定的コミュニケーションより、肯定的なコミュニケーションを重視した方が良い、とされています。

また、人は自分にとって都合の悪い、耳に痛いフィードバックについては正確性に欠ける、信頼できないものと判断する傾向があるという研究もあります。
つまり、成功の要因は個人に起因するものであり、失敗の要因は外的なものであると、以前よりも強固に感じるようになってしまう傾向があるのです。

ビジネスでも育児でも。

もちろん、褒めるだけではダメなシチュエーションもあるでしょうが、褒めることを重視してみると、非常に良い結果が返ってくるでしょう。

カテゴリー
マネジメント・リーダーシップ

テキスト・コミュニケーションは嘘をつくのに抵抗を感じにくいという話

デジタル・コミュニケーションが当たり前になり、テキスト、音声、動画といった方法による対話が頻繁に行われています。
ITリテラシーが特に高い層を中心に、効率的であるとしてテキストが最も好まれる傾向がありますが、これが必ずしも最適であるとは限りません。
人はテキストだと噓をつくのに抵抗を感じにくいからです。

模擬取引を通じた嘘のコミュニケーションの実験

ブリティッシュ・コロンビア大学が行った研究において、人は対面やWeb会議といったコミュニケーション方法よりも、テキスト・コミュニケーションにおいて嘘をつく傾向が強いことが示されています。

https://mashable.com/archive/people-more-likely-to-lie-through-texts-study

研究は、170人の学生を対象に、株式市場における「買い手」と「売り手」に分かれたロールプレイを通じて行われました。

学生たちは2人1組となり、テキスト、音声、動画、対面の4つのコミュニケーション方法のいずれかを用いて、模擬的な株式売買を行うこととなりました。

ロールプレイへの取り組みの真剣度を高めるため、学生たちには最大50ドルまでの賞金が約束されています。
売り手は、より多くの株式を販売することにより報酬を得て、買い手は株価の変動に合わせて報酬が変化します。

なお、この実験では、株価が半分に下落するように仕組まれており、このことは売り手のみに伝えられるという設計となっていました。

人はテキスト・コミュニケーションだと嘘をつきやすい

この実験の結果、人は、音声、動画、対話といった方法に比較して、テキストでのコミュニケーションにおいて、嘘をつくのに抵抗を感じにくい、ということが示されました。

テキストにより買い手に情報を提供した売り手は、動画(ビデオ会議)でのやりとりに比べて約95%、対面でのやり取りに比べて約31%、嘘をつく確率が高かったのです。

興味深いのは動画(ビデオ会議)でのやり取りでは嘘をつく傾向が、対面より低かった点です。

研究者は、動画においては、買い手が「自分自身が注目し、言動の精査をされている」と感じるため、正直になる傾向があるのでは、としています。

商談においてはWeb会議利用が望ましいか

この研究は、株式投資といった分野に限らず、一般のビジネスにおいても有用です。

効率的だから、という理由で、重要な商談をテキストで行えば、相手が何かしら嘘をつく、もしくは真実を話さない可能性が考えられるからです。

これはよくよく考えれば当然と言えるかもしれません。

リアルタイム・コミュニケーションで、しかも表情が見える状況ですと、冷静に自分にとって有利な情報のみを伝達することは難易度が高くなるのは容易に想像がつきます。

テキスト・コミュニケーションですと、ゆっくりと思案して、相手に表情が見えない状況で、しかるべき情報のみを相手に伝達することが可能です。

上述の結果を踏まえれば、重要なやり取りについてはWeb会議を用いてコミュニケーションを取るのが総合的に見て、最も効率的であると考えられます。

マネジメントにおいても有用

また、実験では、嘘をつかれたことにたいして、どれだけ怒りを感じたのか?についても調査がされています。

その結果、テキスト・コミュニケーションで嘘をつかれた場合、面と向かって嘘をつかれた場合に比べて、怒りを感じた、と答える割合が約20%も高かったことが示されました。

このことは、従業員に何か不都合な事実を伝達する場合、テキストでごまかすのではなく、きちんと対面で伝達した方が、マネジメントにプラスになることを示唆しています。

どれだけ技術が発達しても人の基本的性質に変化はありません。

相手も人である、向こう側に人がいる、ということを認識してコミュニケーションを取るのが吉と言えるでしょう。

カテゴリー
仕事と健康,運動

職場の人たちと良好な人間関係を築けていると健康になる、という話

人は承認を求める生き物で、他者との良好な関係性がないと、心身を適切な状態に保てないものです。
今回紹介する研究によると、職場の人たちと良好な人間関係を築けていると健康になる、ということが示されています。
どれだけ社会に溶け込んでいるか?が健康リスクに影響を与えるというのです。

職場の状況と健康がどのように関係をするのかが調査された研究

次の記事では、職場の状況と健康がどのように関係をしているのか、を調査した研究が紹介されています。

https://www.apa.org/news/press/releases/2011/05/co-workers

研究では、成人820人を対象都市、1988年から20年間に渡る追跡調査が行われました。

被験者は、金融、保険、公共事業、製造業など、幅広い業界に従事している人たちが対象であり、平均労働時間は8.8時間/日、3分の1が女性で、80%が既婚者で子供がおり、45%が12年以上の正規教育を受けていた人たちでした。

研究では、生活習慣のアンケート、身体測定や血液検査等による健康診断、そして職場の状況についてのアンケートが実施されました。
職場の状況についてのアンケートは、仕事で要求されていること、職場でのコントロールの状況、上司や同僚によるサポートの状況についてが聞かれています。

ここ言う“コントロール”とは、主体性を発揮でき自分のスキルをどのように使うのが最善かを決める機会があった、与えられた仕事をどのように達成するか、仕事の中で何をすべきかを自由に決定できた、という状態について、コントロールがある、としています。

20年間の追跡調査中、53名の被験者が死亡しました。

職場の人たちと良好な人間関係を築けていると健康になる

上述の調査の結果、職場の人たちと良好な人間関係を築けていると健康になる、ということが示されました。

職場で、同僚から適切なサポートを受けられる状態にある人は、そうでない人と比較して健康リスクが有意に低かったのです。
この結果は、38歳か43歳までの年齢層で顕著に見られたということです。

ここで言う“適切なサポート”とは、同僚が問題解決に役立ち友好的である状態、のことを示しています。

一方、上司からのサポートについては、健康リスクに影響を与えませんでした。
上から、ではなくて、横のつながりが大切だ、ということなのでしょう。

なお、別の研究によると、男性においては地位や権力が高いと感じていると同様の健康リスクの低減効果があることがわかっています。
逆に女性の場合は、地位や権力、といったパラメータは健康リスクにマイナスの影響があることも示されています。

成功するチームは、メンバー同士が協調しており、またEQが高い

別の研究では、ある種の課題をうまく遂行できるチームは、別の課題についても同じようにうまく遂行できる傾向があること、そのチームの特性として集団的知性(EQ)が高いという特徴があることが示されています。

ここで面白いのが、メンバーにIQが高い人が入っているチームが必ずしも適切に機能するとは限らない、という点です。

高いEQがメンバーの状況を適切に把握し、サポートをする協調関係のベースになることは容易に想像がつきます。
上述の研究とも関連付けられ、適切なサポートがある状況では仕事のストレスが減り、間接的に健康にプラスの影響を与えるのでしょう。

そして、このようなチームを意図的に組成する上において重要な要素として、「行動規範」が存在します。

この成功する「行動規範」としては2つのものがあげられています。

1つ目が「会話のターンテイキング分布の均等性」、つまり、良いチームは、メンバーがほぼ同じ割合で発言していること。
2つ目が「チームの平均的な社会的感受性が高い」こと。

会社や上司は、これらのことを意識すると、チームのパフォーマンスをあげて、またメンバーのウェルネスを向上させることができるはずです。

カテゴリー
マネジメント・リーダーシップ

部下に自分事で考えて動いてもらうためにはどうしたら良いのか?

統制の所在(locus of control:ローカス・オブ・コントロール)の考え方を元にした研究では、部下の職務上の自律性を高めれば、時間の経過とともに統制の所在が内的になる、つまりは自分事で考えて動いていく形にパーソナリティが変化していく、としています。

ここでは、部下に自分事で考えて動いてもらいたい、と考えるマネージャーや経営者へのヒントを提示します。

統制の所在の考え方

まずはじめに統制の所在についてです。

統制の所在(とうせいのしょざい、英: locus of control)またはローカス・オブ・コントロール(LOC)は、行動や評価の原因を自己や他人のどこに求めるかという教育心理学の概念。
統制の所在が内側 – 良くも悪くも自分のせいと考える。テストで良い/悪い点を取ると、自身の努力や能力を褒める/責める。
統制の所在が外側 – 良くも悪くも環境のせいと考える。テストで良い/悪い点を取ると、テスト内容や教師の質を褒める/責める。

Wikipedia「統制の所在」より

統制の所在が内的の人は、何かしらの課題を達成した後、目標のハードルを上げやすく、逆に失敗した場合には目標を下げる、という傾向があります。
他にも、次のような傾向があるとのことです。

  • ~したい、~することを選ぶ、是非とも~したい、という用語を使う
  • 他の人に影響を与えようとする
  • 誰が言ったか?ではなく、何を言ったか?に着目する
  • 失敗や失望に対して、自分自身を抑圧する
  • 自分がコントロールできることに時間とエネルギーを集中し、また出来事を定義し物事を実現していく

統制の所在が外的な人は、逆に、何かしらの課題を達成した後、目標のハードルを下げやすく、失敗した場合には目標をあげる、という傾向があります。
他の傾向は次のようなものです。

  • できない、~しなければならない、~するべきだ、という用語を使う
  • 周囲の人々に影響を受けやすい
  • 何を言ったか?ではなく、誰が言ったか?(ステータス、地位、肩書等)に着目する
  • 失敗に対して、不安や罪悪感を感じにくい
  • 日々の出来事に反応する、人に頼りがち

統制の所在が内的だと「自分事で考えて動ける」

この統制の所在自体には良し悪しは無いはずではあるのですが、一般的には統制の所在が内的の方がメリットが多いと言われています。

例えば、母親の統制の所在が内的の子どもは、学力が高くなる傾向があるとされています。

子どものためにより良い食事を与えたり、物語を聞かせたりするため、子どもも勉強に関心を持ちやすい、ということです。
逆に統制の所在が外的な人の子どもは、自分の子どもの成績が悪いのは遺伝の影響や、学校の問題だ、と言う風に考える傾向があります。

そして、統制の所在が内的だと「自分事で考えて動ける」ため、成功者に多い気質だとされています。

部下に権限を与えて自由に仕事をしてもらえば、自分事で考えて動けるようになっていく

部下に仕事上の自律性を与えると統制の所在が内的になる

それでは本題ですが、次に紹介する論文は、部下に仕事上の自律性を与えると統制の所在が内的になる、つまりは自分事で考えて動けるようになることを示唆しています。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0001879115000585

研究では、約3千人の被験者を対象に、4年間に渡る追跡調査が行われました。
調査では、仕事上の自律性やスキル活用が、従業員満足度や統制の所在にどのように影響を与えるのかが分析されました。

分析の結果、仕事上の自律性が、統制の所在を内的にすることに影響していることが示されました。
スキルの活用度合については、従業員満足度を高めることには繋がれど、統制の所在に影響を与えることはありませんでした。
また、従業員満足度が統制の所在に影響を与えることも確認できていません。

部下に権限を与えるのが重要、ということ

つまり、部下に権限を与えて自由に仕事をしてもらえば、自分事で考えて動けるようになっていく、ということです。

ジョブとスキルがマッチした環境とか、従業員満足度が高い環境とか、そういうものは部下が自分事で考えて動くかどうかには、関係がない、ということでもあります。
(日本だと、ここにフォーカスした施策の方が多い感じですね。)

非常に当たり前で、一般的にそうだよね、と思われるであろうことです。

しかし、多くの職場で、「自分事で考えろ!」「もっと自律的に動け!」と言うものの、適切な権限を与えない、自分で考えて行動したら「勝手なことをするな!」と叱られる、というようなことが行われているのではないでしょうか?

部下が自分事で考えない、尻が重くて中々動かない、とするのであれば、その責任は部下ではなく上司や経営者にあります。
そして、そのように捉えることこそ、統制の所在が内的であると言えます。

部下に「統制の所在が内的であって欲しい」と思うのであれば、それを実行するのは上司・経営者からです。

カテゴリー
人事・総務

離職率を下げるにはどうしたらよいか?

離職率を下げるにはどうしたらよいのか?という悩みは多くの企業が抱えています。
そして、離職兆候が出た従業員に対して、色々とアプローチをする企業が多いのですが、効果が出ないのが実際でしょう。
それでは、離職率低下のためには何をしたら良いのでしょうか?

離職兆候の例

離職兆候の例として、次のようなものがあげられます。

  • 挨拶をしていた人が、挨拶をしないようになった
  • 逆に、挨拶をしない人が、清々しい挨拶をするようになった
  • 愚痴や不満が少なかった人が、愚痴や不満ばかりを言うようになった
  • 逆に、愚痴や不満ばかりを言っていた人が、途端に愚痴や不満を言わなくなった
  • これまで複数人でランチに行っていた人が、一人でランチに行くようになった
  • 休憩中に業務とは関係のない勉強をするようになった
  • 業務や自社の業界とは違う話をするようになった
  • 服装が変わった(スーツ等がしっかりするようになった)
  • 遅刻や早退が増えるなど、時間の使い方が変化した
  • スマートフォンを持って離籍する頻度が増えた
  • 会議での発言が明らかに減った
  • 以前より、机や身の回りの物を整理整頓されている
  • 引き継ぎマニュアルを唐突に作り始める

ようは、既に会社を見限り、転職のための行動をはじめているか、転職先が決まったが故にその準備をしている、ということです。

この時点で、何かしらのアプローチをすれば間に合うのでしょうか?
それとも時すでに遅しなのでしょうか?

離職理由

ここでよく言及されるのが、厚労省が出している雇用動向調査のような資料です。

離職理由ランキングを明らかな会社要因(定年等を含む)を除いて考えると男女別に次のようになります。

男性の離職理由

  1. 給料等収入が少なかった:9.4
  2. 職場の人間関係が好ましくなかった:8.8
  3. 労働時間、休日等の労働条件が悪かった:8.3
  4. 会社の将来が不安だった:7.1
  5. 能力・個性・資格を活かせなかった:4.9
  6. 仕事の内容に興味を持てなかった:4.7

女性の離職理由

  1. 職場の人間関係が好ましくなかった:13.3
  2. 労働時間、休日等の労働条件が悪かった:11.6
  3. 給料等収入が少なかった:8.8
  4. 仕事の内容に興味を持てなかった:5.2
  5. 能力・個性・資格を活かせなかった:5.0
  6. 会社の将来が不安だった:3.4

ランキングの並び順はともかくとして、概ねこの6要素が離職理由を占めていることがわかります。

では、この6要素を改善するアクションをとれば離職率を下げられるのでしょうか?

従業員が離職行動に出るメカニズム

少し古い(1994年)研究ですが、従業員が離職行動に出るメカニズムが研究されています。

https://www.researchgate.net/publication/200130237_An_Alternative_Approach_The_Unfolding_Model_of_Voluntary_Employee_Turnover

この研究では次のようなフローチャーを提示した上で、従業員の離職行動について解説しています。

まず論文では、「個人が認識しているシステムに対するショックによって、自己認識=現状ギャップが生まれ、離職行動ないしは定着行動が模索される。」ことを前提に、心理的要素に着目してフローチャートが描かれています。

ここで言う自己認識とは、従業員に何かしらの影響を与え、自分自身の仕事について熟考し、その結果として離職行動にでるような出来事のことです。
上述のような6つの離職理由が例としてあげられます。
会社都合や自分自身の変化は、この自己認識には該当しないとしています。

離職モデル

フローチャートでは、4つの離職モデルが提示されています。

①良い所が見つかったパターン

このパターンでは、個人が認識しているシステムに対してショックがあった際に、今の会社とは別の自分自身の認識しているシステムに合致する会社が見つかったら離職行動に出る、というものです。

ようは、離職理由を起因に転職行動に出て、良い所が見つかったら転職する、というパターンです。

②良い所が見つからなかったパターン

このパターンは、個人が認識しているシステムに対してショックがあった際に、今の会社とは別の自分自身の認識しているシステムに合致する会社が見つからなかった、というものになります。

ようは、離職理由を起因に転職行動に出たけれども、良い所が見つからなかったパターンです。

この場合、今の会社に居続けることを選択しますが、その後、改めて良い所が見つかり、その際に今の会社が自分自身の希望と合致していない場合に離職行動に出ます。

③会社側が改善のための代替案を持っているパターン

このパターンは、会社側に代替案があるものです(会社側が意識的もしくは自発的に代替案を提示していない状況で、従業員側が既にある代替策を選択できる状態も含む)。

つまり、何かしら改善のための代替案がある状況で、従業員が今の会社ではなく、別の会社の方が良いと判断し離職行動に出たパターンです。

このパターンでは、とりあえず会社を飛び出た者、業務を忌避し者、という形で玉石混交の性格が強くなります。

④会社都合や個人の環境変化等によるパターン

このパターンは、個人が認識しているシステムに対するショックが無いパターンです。

会社都合のものや、個人の環境変化(結婚・出産・介護等)のものであり、会社と従業員の間で致し方がなく乖離が生まれている状況です。

このパターンでは、会社側が代替案を提案し、従業員がそれを検討することにより一定分岐するものになりますが、これも一つの離職行動の一つとなります。

このフローやそれぞれのパターンを見ていくと、パターン②~④においては、きちんと何かしらの代替案を提示し、それについてきちんと検討をすることを促せば離職の決断に対して一定の制御が可能であることが示唆されます。
(パターン①については、離職行動の制御は無理と考えられます。)

つまり、そもそもとしての離職理由が発生しないことは重要ですが、何かしらの兆候が出た場合に、アクションを取っていくことも重要なのも確か、ということです。

離職したいと思う人と在職し続けたいと思う人の離職理由は異なるので、離職防止施策は別に考える必要がある

ここでの注意点が一つあります。

こちらの研究(研究途中の経過報告)では、次のように概要を説明しています。

https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-18K12845/

より重要な点として、「在職者」と「離職者」を比較した場合、「組織に残り続ける理由」と「組織を辞める要因」は表裏一体ではないことが確認された。例えば、在職者が組織に残り続ける理由として「勤務地」や「仕事内容」を挙げる一方、離職者では「給与・待遇」、「パワハラの有無」、「会社の将来性」等が在職者よりも高い割合で挙げられていた。この結果は、在職者をより長く組織に留めるための施策と、離職者の退職防止施策は別々に考えなければならないことを示唆している。

つまり、離職したいと思う人と在職し続けたいと思う人の離職理由は異なるから、離職防止のためのアクションを一律に考えて実施してはいけない、ということです。
(一律のリテンション・マネジメント施策が効果的でない要因がここにあると考えられます。)

人事担当者にとっては、検討しなければならない事項が増えてしまうでしょうが、自社の離職率を下げたいと思うのであれば、離職理由が発生することの防止と、離職理由が発生した場合のアクション、それも従業員の離職行動のパターンに応じて施策をわけることが必要です。

カテゴリー
人事・総務

リモートワーク/テレワークのTipsまとめ

リモートワーク/テレワークのTipsに関する記事のまとめになります。

リモートワークのマネジメント

リモートワークの実務

補足

カテゴリー
マネジメント・リーダーシップ

マネジメントについてまとめ

マネジメント関連の記事についてのまとめになります。

組織の人数

マネジメントの心構え

従業員満足度を高めるためには?

目標管理等々

カテゴリー
マネジメント・リーダーシップ

成功するチームに必要なことは?~優秀さではなく規範が重要~

経営者やチームのマネージャーにとって、優れた成功できるチームを作ることは非常に関心が高いことのはずです。
それでは、成功するチームに必要なこととして、どのような要因があげられるでしょうか?
Googleが180ものチームを分析して出した結論は「行動規範」でした。

Googleが成功するチームには「行動規範」であることを発見

Googleは社内の180のチームを分析し、「チームを成功させる(あるいは成功させない)ものは何か?」について調査を行いました。

「社内の180のチームを調査しました。たくさんのデータがありましたが、特定の性格タイプやスキル、経歴の組み合わせによって違いがでることを示すものはありませんでした。“誰が”という部分が重要ではないように思えたのです。」

調査では、一般的に考えられるであろう成功要因の仮説、例えばエンジニアと非エンジニアの比率や、シニアとジュニアの比率など、そのような変数が成功要因と関連していないことを見出しました。

そして、最終的にチームの構成より、チームの「行動規範」の方が重要な決定要因であることを示しました。
行動規範とは、チームがどのように行動し、機能するかについての合意のことです(明文化されている必要はない)。

さらに、ある課題でうまく機能したチームは、別の他の課題でも機能することが多いことが示されました。
(また、その逆もしかり。)

正しい行動規範はチームの集合知を高め、間違った行動規範は例えチームが優秀なメンバーで構成されていたとしても、お互いに足を引っ張り合う可能性がある、ということのようです。

成功する「行動規範」は?

成功する「行動規範」として2つのものがあげられています。

1つ目が「会話のターンテイキング分布の均等性」です。
つまり、良いチームは、メンバーがほぼ同じ割合で発言している、とのこと。

2つ目が「チームの平均的な社会的感受性が高いこと」です。

2つ目の点については、別の記事で高いパフォーマンスを発揮する要素として、どのようなものがあるか?を書きましたが、そこでも指摘がされています。

Googleの調査は学術的なものではありませんが、別の学術的な研究で、「優れたチームは集団的知性が高いという特徴」があること、そして「IQが高い人が入っているチームが、必ずしも集団的知性も高いというわけではない」ということが示されています。

そして、その集団的知性が高いチームの重要な要素として「感情知能が高い人がいること」があるとされています。
あわせて、そのようなチームは「ある種の課題をうまく遂行できるチームは、別の課題についても同じようにうまく遂行できる傾向」があることも示されており、Googleが行った調査の確からしさがわかります。

(感情知能とは、自分の感情を適切に把握しコントロールできたり、人の気持ちについても精度高く察することができる能力のこと。)


つまり結論として、チームの(マネージャーを含む)メンバー同士がお互いにどう接しているか?にかかっている、と言えます。
賢く優れた人物であろう、とする姿勢は非常に重要ですが、それ以上に共に働く仲間たちを尊重し敬意をもって思いやれるか。
ある種、人間同士の関係性として当たり前の結論ではあるのですが、この点については改めて全ての働く人たちが認識すると良いでしょう。

カテゴリー
生産性・業務効率化

勤務時間外のメールは送ってはいけない~身心への悪影響が甚大~

土日祝日や就業時間後にメールを送り、また返信を期待する人は多いでしょう。
もしくは、返信を期待されているような状況に立っている人も多いのではないでしょうか。
オンラインでの待機は、仕事に対するプロフェッショナル意識の高さの現れという考えもありますが、多くの弊害があります。

(メールに限らず、チャットツールでの連絡等、オンラインでのコミュニケーション手段全般を含みます。)

勤務時間外のメールは従業員の身心に悪影響を及ぼす

仕事熱心な方で、土日祝日や就業時間後に仕事のメールを送る人は珍しくないでしょう。
また同時に、送ったメールに関して、なるべく早い返信を期待する人も珍しくないでしょう。

そして、そのような方がいるということは、土日祝日や就業時間後に仕事のメールを受け取り、なるべく早い返信を期待されている人もいる、ということです。

迅速なレスポンスは、仕事に対するプロフェッショナル意識の高さの現れだとして、一般的には好意的に評価されます。
軽快なコミュニケーションが成立することは、一見、高い生産性があるかのようにも見えます。

しかし、果たして、本当に高い生産性があるのでしょうか?
何か弊害はないのでしょうか?

オーストラリアでの大規模な研究

オーストラリアで大規模な研究が行われました。

https://www.unisa.edu.au/research/cwex/projects/digital-communication-and-work-stress-in-australian-university-staff-a-multilevel-study/

内容としては、デジタル・コミュニケーションの状況について調べると共に、従業員(研究では大学職員が対象)の身心の健康について調べられました(他にも関連する研究がプロジェクトとして行われている)。

その結果、勤務時間外のメールは従業員の身心に悪影響を及ぼすということが明らかになりました。

研究では、従業員がグループ分けされています。

  1. 回答者の21%が、仕事に関連したメール、電話、電子メールに仕事後に対応することを期待する上司がいた
  2. 55%が夕方に仕事に関するデジタルコミュニケーションを同僚に送っていた
  3. 30%が週末に、同日中の返信を期待しながら、仕事に関するデジタルコミュニケーションを同僚に送った

これらのグループの内、上司から仕事のメッセージへの返信を期待されている従業員は、されていないグループと比較して、心理的苦痛(45.2%に対して70.4%)と精神的疲労(35.2%に対して63.5%)のレベルが高いこと、また、頭痛や腰痛などの身体的な症状も報告されました(11.5%に対し22.1%)。

さらに上司だけでなく、同僚とのコミュニケーションでも同様の傾向が見られました。

就業時間外に同僚からの業務連絡に対応しなければならないと感じている従業員は、そうでない従業員に比べて、心理的苦痛の度合いが高いこと(39.3%に対して75.9%)、また、精神的疲労(35.7%に対して65.9%)や身体的な健康症状(12.5%に対して22.1%)も高いことが示されました。

この結果は、一般的に想像されるであろう影響よりも甚大な悪影響があると考えられます。

従業員が休職すると人件費の3倍のコストがかかる

上述の結果は、生産性の高さ 対 従業員の負担、という構図に見えるかもしれません。

ハイパフォーマー達にとって、迅速で軽快なコミュニケーションは望ましいものであり、生産性を高くするために必要なことと捉えられています。

「そんな大げさな。」であったり、場合によっては「必要な犠牲だ。」と考えられていることもあるでしょう。

しかし、従業員の負担という事実は、あまり軽視して良いようには思いません。

一部の試算(厚労省試算)によると、従業員1人が仮に休職した場合、人件費の3倍のコストがかかるとしています。

この試算も大げさなポジション・トークのように感じるかもしれませんが、休職に至るまでのパフォーマンスが落ちている期間の人件費、休職中の休業手当、休職明け後のリハビリ出勤期間、上司のフォローコスト、代替要員の手配コスト、代替要員の教育コスト、代替要員をフォローする同僚の人件費、といった費用が発生することを考えると、試算の正しさはともかくとして、イメージする以上のコストがかかることは容易に想像できます。

つまり、ハイパフォーマー個人の生産性の高さではなく、組織全体の生産性の高さの追求のためにも、勤務時間外のメール(デジタル・コミュニケーション)は取らない方が吉の可能性が高いのです。

つながらない権利

このような知見が少しずつ広まり、つながらない権利、という言葉も誕生しています。

つながらない権利とは、労働者が勤務時間外には仕事のメールや電話などへの対応を拒否できる権利のことです。

日本では一般的ではないですが、欧州諸国等では従業員の権利として法律で定めている所が増えています。

この“つながらない権利”は、単純な(企業と対立する)従業員の権利として考えて良いようには思いません。
何故ならば、上述の通り、従業員に負担がかかり休職等が発生した場合に、そのコスト負担を被るのは企業だからです(従業員の人生にも当然に影響を与えますが。)。

技術が進歩し、デジタル上のコミュニケーションが容易になった現代だからこそ、高い生産性を出したいと望むならば、企業は率先して、この“つながらない権利”を推し進めた方が良いと言えるでしょう。
これは、企業が永続的に発展・成長するために必要な価値観の切り替えです。

カテゴリー
マネジメント・リーダーシップ

何故、上司は部下の心がわからないのか?~権力と共感性の関係~

上司に対して「何故、自分たちの気持ちをわかってくれないのだろう?」と思うことがあるかもしれません。
逆に、部下に対して「何を考えているのかわからない。」と思う上司もいることでしょう。
何故、上司という生き物は部下の心がわからなくなりがちなのでしょうか?

こちらの記事では、高い地位につくと「注意の焦点化」という現象が起き、本来正しく認識し判断するための情報をインプットできなくなる状況について解説しました。
(注意の焦点化とは、ある目標に意識がフォーカスされるあまり、他の情報に意識がいかなくなってしまう現象のこと。)
加えて、権力を持つことが支配感を抱かせてしまい、認知が歪んでしまうことについても併せて解説しました。

ここでは、権力を持つことが共感性にどのような影響を与えるかについて見ていきます。

権力を持つと共感性が低下する

こちらの心理学の論文では、権力を持つと共感性が低下する、ということが示されています。

部下の数や権力の強さについてパラメータを設定し実験を行った所、部下の数が多ければ多いほど、道徳観が低下することが示されました。
また、保持する権力が強ければ強いほど、利己的行動に出やすくなることも示されました。

つまり、権力が人の認知を歪ませ、心と行動に影響を与える、ということです。

また、こちらの論文では、脳生理学的に共感性の低下が起きていることを示しています。

https://psycnet.apa.org/record/2013-23517-001

人の脳は、他人が何かしらの行動を行っているのを見ている時、自分自身がその行動を取っているのと同じ部位が活性化する現象が起きます。
これは、共感性と関連する脳作用とされています。

この現象を利用して、権力の有無と上述の“脳の鏡”との関係を調べた所、権力が強ければ強いほど、脳が活性化しない、つまり共感性が低下しているのではないか、ということが示されました。

つまり、強い権力を持つと共感性が低下し、それにより道徳観の低下も引き起こし、利己的行動に出やすくなる可能性がある、ということです。

これらの現象が「上司は部下の心がわからない」という状況を引き起こしている一因ではないか?と推測されます。

上司の基本的な道徳観にもよる

どのような上司だと部下の従業員満足度があがるのか?という点について解説した記事では、「部下の仕事もできる上司」が良い、としました。

この理由は、部下の仕事がわかるということは、部下の話を上司が理解できるが故に、部下にしてみれば「この上司は話がわかる」「自分のことを理解してくれる」と感じることが要因としてあります。
つまり、共感性がポイントということです。

この点を踏まえると、上述の権力により引き起こされる共感性の低下は問題です。

それでは、どのように対処すれば良いのでしょうか?

こちらの論文では、基本的な道徳観が左右する、ということが示されています。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22250668/

どのような内容か?というと、弱いモラル・アイデンティティを持っている人が権力を握ると、利己的行動が大きくなる一方、強いモラル・アイデンティティを持っている人が権力を握った場合には逆に、自己利益行動の低下が起きる、というものです。

つまり、繰り返しになりますが、権力が及ぼす心理的影響は、本人の基本的な道徳観による、ということです。

この知見を踏まえると、「権力を持つと共感性の低下、道徳観の低下、利己的行動の増幅という心理的影響が起きる」という基本的なことを認識した上で、自分自身を強く律しようという意識を持つことが重要と考えられます。
権力に溺れず良き上司であろうとするならば、それは強いモラル・アイデンティティとなり、権力が与える心理的影響から脱することができるはずです。

改めて自分の心と向き合うことに取り組んでみるのは良いかもしれません。

モバイルバージョンを終了