カテゴリー
ビジネスと心理学

高IQの人ほどプレッシャーに弱いし心身も病みやすいという話

高IQの人は認知能力の高さ故、多くのことに対処できる、というような印象を持つかもしれません。
しかし、現実には高IQの人ほどプレッシャーに弱いし、心身も病みやすい、という研究があります。
意図的に考えない、リラックスをする、という取り組みを意識的に行うことが重要です。

高IQの人はプレッシャーに弱い

次に紹介されている研究では、ワーキングメモリーの大きさと、プレッシャーによるパフォーマンスの変化について調査がされています。

シカゴ大学では次のような実験が行われました。

まず、被験者をワーキングメモリーテストの成績に応じて、高ワーキングメモリーグループ(HMV)と低ワーキングメモリーグループ(LMV)の2つのグループに分けます。

そして、低プレッシャー、および高プレッシャーの2つの条件で、簡単な数学の問題、そして複雑な数学の問題を解いてもらいます。

低プレッシャーの条件は、与えた問題を「練習」という位置づけで解いてもらい、高プレッシャーの条件は金銭的報酬や、周囲からの圧力、第三者評価などの現実的に起きうるプレッシャーを想定したものが設定されました。

その結果、高プレッシャー条件において、高ワーキングメモリーグループ(HMV)の方が、低ワーキングメモリーグループ(LMV)よりも、パフォーマンスの低下が顕著であることが示されました。

要求が高い時、HMVの方がパフォーマンス低下が起きやすい、つまり高IQの方がプレッシャーに弱い、ということが言えるのです。

高IQの人は心身を病みやすい

他にも次のような研究があります。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0160289616303324

端的に言うと、高IQの人の方がメンタル面や様々な疾病など、心身を病みやすい傾向があるのです。

これらの現象は、高IQの人は使える脳のリソースが大きいが故に過剰に情報を処理してしまうからだ、と推測されています。

つまり、認知能力の高い人は、考えすぎたり、分析しすぎたりする傾向がある、ということです。

なお、人類のIQは伸び続けている、という報告も存在します。

ミシガン大学のNisbett教授によると、IQの平均は1947年から2002年の間に18上昇しているという。30年で約10上昇している。この現象のことをFlynn effect(フリン効果)と呼ぶ。従って20歳の成人と50歳の成人を同じ知能検査で同じ基準で比較するのは難しい。50歳の成人の30年前に受けた知能検査の平均値は、現在の平均値より10近く低い。スウェーデン・ウメ大学のElijah Armstrongとブリュッセル自由大学のMichael Woodleyによると、一定の出題パターンを見抜く事で容易に解けるようになる問題の方が、パターン把握を認識しにくい問題に比べてフリン効果は顕著だという。

Wikipedia「知能指数」より

ただでさえ忙しい現代人ですが、心身を病んでいる人が増えているのは、上述の理由も考えられます。

意図的に考えない、リラックスをする、という取り組みを意識的に行うことが必要かもしれません。


休憩の取り方については、こちらも参照にしてください。

カテゴリー
ビジョン的思考

失敗をした時は素直に落ち込んだ方が反省する、という話

失敗した時の対処方法は、何が正しいでしょうか?冷静に、失敗の原因を振り返り、対策を練ることでしょうか?
もちろん、それは正しいのですが、失敗をしたときは素直に落ち込んだ方が反省する、という研究があります。
人間は失敗をした時に、正当化をしようとするので、感情面に重点を置いた方が良いからです。

失敗を冷静に分析すると正当化が行われる

失敗への対処方法について、非常に興味深い研究があります。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/bdm.2042

この研究では、失敗に対して冷静に、論理的に分析を行うのか、それとも感情的に落ち込むのか、でどちらの方がその後の失敗した事象に対して向き合うのか、が調査されました。

その結果、失敗の原因等を冷静に分析し、対策を練ることよりも、素直に感情的に落ち込んだ方が、反省をし、自己改善を図る傾向があることがわかりました。

人間の認知機能には、失敗をしたことに対して自己正当化をはかり、その後の改善を妨げるバイアスがあるから、とのことです。

失敗への対処は高速PDCA

こちらの記事で、失敗への適切な対処として、うまくいかなかった点を把握し、改善すべき点に焦点をあてること、そして次の挑戦までの期間を極力短くし、PDCAの回数を増やすことが大事であることを書きました。

つまり、冷静に分析をすることがいけない、ということではないのです。

大事なのは、失敗したら素直に落ち込んで、ネガティブな感情を受け止めよう、その上で改めて冷静になり分析をし、再挑戦しよう、ということです。

怒りっぽい人自己愛性向が強い人は、反省をし辛い、という研究もあります。
これは上述の、失敗したことに対する自己正当化と同様の話と考えられます。

感情的に割り切ることが必ずしも正しくはないと認識し、感情的に落ち込むことも重要であると捉えると、失敗への対処スキルが向上すると考えられます。

カテゴリー
生産性・業務効率化

自然に触れ合うと認知機能やクリエイティビティが向上するという話

現代は多くの人が都市部に住むようになり、自然は身近なものではなくなりました。
自然には人の緊張した神経を落ち着かせ、疲労を癒す効果があるとされています。
また、どうやら自然に触れ合うと認知機能やクリエイティビティが向上するという効果もあるようです。

Mom Was Right: Go Outside

自然に身を置くとクリエイティビティが向上する

カンザス大学で行われた研究では、人里離れた場所でのハイキングがクリエイティビティにどのような効果を与えるのか、調査が行われました。

その結果、バックパッカーにトレイルに入る前と入った後で、クリエイティビティに関するテストを行った所、テストの結果が約50%も向上したことが示されました。

自然は、虫や温度・湿度等、不快に感じる環境ではあるのですが、脳にはポジティブな影響を与えるようです。

研究では、自然に身を置いて3日間で、ポジティブな影響がピークになる、としています。

緑の中を散歩するとメンタルが回復し、認知機能も向上する

他の研究でも同様の効果が示されています。

ミシガン大学で行われた研究では、大学生にGPS受信機を装着した状態で散歩をしてもらいました。

樹木園を歩く学生も入れば、繁華街を歩く学生もいました。

その後、複数の心理テストを受けてもらいました。

その結果、自然の中を散歩した人は、メンタルがポジティブに向上し、注意力や短期記憶の点数が有意に向上していることが示されました。

短い時間でも良いので緑を眺めると休憩になる

別の研究では、短い時間でも緑を眺めるだけで生産性が向上する、という結果も示されています。

これらの研究は、都市部に身を置いている人に限定された効果かもしれません。

しかし、現代人の多くは大なり小なり自然と身近でない人の方が多いでしょう。

そんな現代人にとって、定期的な旅行やちょっとした散歩、もしくはほんのちょっとの短い時間の休憩でも良いので、自然に触れ合うことは様々なポジティブな影響があるということです。

「サバンナ理論」によると、人間は太古の昔から基本的な性質は変わっていない、とされています。

サバンナ理論:人間の脳は、はるか昔アフリカのサバンナで暮らしていた頃から基本的に変わっておらず、現在でも、サバンナになかったものはうまく認識できないという。
現代人の、テレビやポルノへの反応にも、この原則が当てはまる。テレビについては、画面に映っている映像がつくりものに過ぎないことが、われわれにはわからない。サバンナにはテレビなどなかったからである。
この原則を知能にあてはめたものが、「サバンナーIQ相互作用説」である。それによれば、大昔の祖先の環境(サバンナ)に存在しなかったものをどれだけ理解できるかで、知能の高低を説明することができる。
音楽を例に挙げれば、楽器の演奏(とくにクラシック)に惹かれる人は、知能が高い傾向にある。サバンナには楽器などなかったからである。音楽の起源は「歌」(声を出すこと)だったと考えられている。
また書かれた文章、活字に惹かれる人も同様である。そのほか、さまざまなことが、この説によって説明されるという。
Wikipedia「サトシ・ナカザワ」より

そして、認知能力が低い人にとって都市環境はストレス負荷が高い、とされている。

そのように考えれば、現代社会がデフォルトで、人にとってストレスフルであろうことは当然と言えます。
意識的に自然の中に身を置くことを意識すると良いでしょう。

カテゴリー
仕事と健康,運動

運動はエネルギー感、クリエイティビティ、生産性を向上させるという話

運動を行うことによる健康へのポジティブな影響は広く知られています。
また、運動は認知症の改善等、それ以外の様々な事柄にポジティブな影響を与えます。
今回は、運動がエネルギー感(活力)、クリエイティビティ(創造性)、生産性を向上させるという研究を紹介します。

運動がエネルギー感を向上させるという研究

まずは運動がエネルギー感を向上させるという研究です。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18277063/

従前から何かしらの疾患を抱えていたり、原因は不明なれど疲労症候群として診断の基準にあてはまっている人たちを対象とした運動実験により、疲労感が改善することは知られていました。

この論文では、診断基準には達していないけれども原因不明な疲労感を訴える人たちを対象とした運動実験です。

実験では座り仕事の多い若年層36名の被験者を対象に、6週間の運動実験を実施し、エネルギー感(活力)と疲労感の気分について自己申告によるスコアが取得されました。
実験では中強度の運動群、低強度の運動群、運動を行わない対象群に分けられました。
6週間の間、週3回、合計18回運動を行うためのトレーニングルームを訪れてもらい、有酸素トレーニングを実施されました。

結果、運動トレーニングの結果は、エネルギー感が中強度でも低強度でも向上していたことがわかりました。
また、エネルギー感と疲労感は、それぞれ独立して変化することもわかりました。

運動がクリエイティビティを向上させるという研究

次はクリエイティビティ(創造性)に運動が与える影響の研究です。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1332529/

こちらの実験では63名の被験者を対象に、運動(エアロビクス)を実施する群と、ビデオ鑑賞(ニュートラル群)を行う群に分けて、クリエイティビティを測るテストが実施されました。
(クリエイティビティを測るテストでは、トーランステスト、というものが実施された。)

結果、運動後にはポジティブな気分が大きく有意に増加し、一方対照群ではポジティブな気分が有意に減少したことが示されました。
クリエイティビティについては、いずれの条件でも向上したとのことで、運動により気分とクリエイティビティがそれぞれお独立して改善されることがわかりました。

いずれにせよ、運動によりクリエイティビティ(創造性)が向上するのです。

運動が生産性を向上させるという研究

最後は生産性の向上の研究です。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21785369/

177人の被験者を対象に、週の労働時間を2.5時間短縮し運動を行う群、同様の短縮条件で運動を行わない群、何も介入しない対照群の3つのグループに分けて、実験が行われました。
生産性については自己申告により測定されました。

その結果、週の労働時間を2.5時間短縮し運動を行った群について、自己評価生産性が向上、つまりは仕事量の増加、仕事のしやすさの向上が行われ、また病気欠勤の減少が確認されました。

つまり、労働時間を短くし運動を行う時間を確保することにより、より高いレベルの生産性を得られる、ということです。


結論として、運動はエネルギー感、クリエイティビティ、生産性を向上させるのです。

仕事をよりエネルギッシュに効率的にこなしたい、仕事関係なく日々を楽しみたい、という人にとって、運動を行わない理由は無いでしょう。

カテゴリー
生産性・業務効率化

頻繁なメールチェックをやめるとストレスが軽減するという研究

メールやSlackのようなチャット・ツールが当たり前になり、頻繁にデジタル・コミュニケーションのためのツールを確認する習慣がついている人は多いでしょう。
しかしながら多くの研究がマルチタスクの弊害を否定しています。
実際に、頻繁なメールチェックをやめるとストレスが研究するようです。

メールチェックの「断食」の実験

ドナルドブレンスクール(カリフォルニア大学アーバイン校)の研究チームは、メールチェックの「断食」を行うと、ストレスが減り、集中力が高まることを示しました。

https://news.uci.edu/2012/05/07/email-vacations-decrease-stress-increase-concentration/

研究チームは、被験者に心拍数モニターを装着してもらい、仕事中のウィンドウを切り替える頻度をソフトウェアセンサーにより検出を行いました。

メールチェックを頻繁に行う人はストレスが多い

その結果、メールチェックを頻繁に行う人は、画面を切り替える頻度が2倍になっており、心拍数も「厳戒態勢」で安定化してしまっていることがわかりました。
(電子メールを使用するグループは平均37回/時間の画面切り替え、一方で使用しないグループは平均18回/時間の画面切り替えだった。)

一方、メールチェックの5日間の「断食」を行った人は、自然な心拍数を維持していたことが示されました。

つまり、電子メールを生活から排除するとマルチタスクが減り、ストレスが減少するのです。
(心拍数が「厳戒態勢」で安定化してしまっている人は、ストレスに関連するホルモンであるコルチゾールの分泌が多いことがわかっている。)

現実社会のデトックスは悪影響が多いですが、デジタル・デトックスに関しては、高い検討の価値があるかもしれません。

この研究は、マルチタスクの主な要因が電子メールにある、という過去の研究をベースにしたものです。

マルチタスクは感情をネガティブにさせる

この種の研究は多く、別の研究ではマルチタスクは感情をネガティブにさせることを示しています。

この研究では、メールチェックへの返信を期限付きで行うタスクを2つのグループにわけた被験者に課しています。

一つ目のグループは、メールの受信は一括でありマルチタスク性が緩い条件で、もう一つのグループは、メールの受信が断続的であり、強制的にマルチタスク性が高まる条件です。

いずれも期限付きの条件ですが、マルチタスク性が高い条件では、人の感情をよりネガティブにさせることが示されました。


現代社会はデジタル・コミュニケーションが容易な環境にあります。
しかし、それは自然と高いストレスを誘発するものです。

意図してデジタル・コミュニケーションの環境から離れる、という取り組みは(それが許されるのであれば)心身の健康に有用と考えられます。

カテゴリー
仕事と健康,運動

冷たいシャワーを浴びるとメンタルヘルスの改善につながる可能性

冷たいシャワーを浴びることによる健康増進の効果や、認知機能向上の効果が知られています。
その他にもメンタルヘルスの改善についても報告をする研究があります。
霊長類が数百万年の進化の過程で経験してきた体温の一時的な変化(寒中水泳など)などの生理的なストレス要因を欠いた生活が脳の機能不全を引き起こしている可能性がある、とのことです。

冷たいシャワーを浴びることにより何故、心身にプラスの影響が出るのか?

冷たいシャワーを浴びると様々なポジティブな効果があります。

例えば、健康増進の効果であったり、認知機能の向上効果であったり、です。

それではなぜ、冷たいシャワーを浴びると心身にプラスの影響が出るのでしょうか?

ホルモンの観点では次のような説明があります。

人は冷たいシャワーを浴びると交感神経系が刺激され活性化します。
それにより、ノルアドレナリンというホルモンが放出され、これにより心拍数や血圧の上昇が起き、血流の改善につながり健康増進効果が出る、ということです。
脳内でもノルアドレナリンのシナプス放出が増加することが知られています。

他にも、新陳代謝の活発化により、健康や認識機能へのポジティブな影響が出る、という説明もあります。

次の研究では進化学的な観点で、この問いへの仮設を検証しています。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17993252/

その仮説とは、霊長類が数百万年の進化の過程で経験してきた体温の一時的な変化(寒中水泳など)などの生理的なストレス要因を欠いた生活をしており、このような「熱運動」の不足が脳の機能不全を引き起こしているのではないか、というものです。

他にも、人によりこの状態がより顕著に出る遺伝的な構造を持っている場合も有り得る、としています。

つまり、現代社会の自然から受けるストレスが減少し、それがかえって脳にとってのストレスになっている可能性がある、ということです。

冷たいシャワーを浴びるとメンタルヘルスが改善する可能性の実験

上述の実験では、1日1~2回、冷水シャワー(20℃、2~3分、その前に5分間の段階的適応を行い、ショックを和らげる)を浴びることを数週間から数か月間実施し、メンタルヘルスに与える影響を見ています。

そして、実験の結果として、冷たいシャワーにより抑うつ症状を緩和することが示されました。

なお研究者は、仮設の検証のためには、より幅広い分野での厳密な研究が必要である、としています。

カテゴリー
ビジネスと心理学

男性は配偶者の稼ぎが多いとストレスを感じる模様

男性は配偶者の稼ぎがないと不安を感じストレスを抱えます。
配偶者の稼ぎが世帯収入の40%程まではストレスが減少していきますが、40%を超えるとストレスレベルが徐々に増加していきます。
男性が稼ぎ女性が支える、という伝統的価値観が男性のメンタルヘルスにも影響している模様です。

英バース大学により米国のデータを用いて、男性の稼ぎに対する社会的規範が男性のメンタルヘルスにどのような影響を及ぼすのかが研究されました。

https://www.bath.ac.uk/announcements/husbands-stress-increases-if-wives-earn-more-than-40-per-cent-of-household-income-new-research/

男性は自分が唯一の稼ぎ頭だと不安を感じる

米国の6,000組以上の夫婦について、15年間に渡って調査が行われました。

その結果、夫は自分が勇逸の稼ぎ頭であると不安を感じることがわかりました。

家計の責任を全て背負っている、という認識がストレスを生むようです。

男性のメンタルヘルスに影響を与える配偶者の稼ぎのラインは40%

研究では、配偶者の賃金が世帯収入の40%にまで近づくと、ストレスレベルが低下していくことも示されました。

一方で、この40%を超え、配偶者の収入が世帯収入の中でウェイトが重くなると徐々にストレスレベルが上昇していくことも示されました。
配偶者に経済的に完全に依存している時、最も高ストレスとなります。

この40%が男性のメンタルヘルスのラインのようです。

研究者は、男性の稼ぎに対する認識、つまりは如何にジェンダー・アイデンティティの規範が根強いのか、と話をしています。

時代の変化と共にジェンダー・アイデンティティの認識も変わる可能性

この研究は米国を対象としたものであり、他の国やグループ、社会では異なる結果が出る可能性があります。

例えば、結婚前に女性の方が高収入であり、既存もしくは潜在的な収入格差が明確であれば、男性は収入について心理的なストレスが少ないことがわかっています。

時代の変化と共に男女の収入格差の縮小も進んでいます。
併せてジェンダー・アイデンティティの認識も変わり、このようなメンタルヘルスの悪影響についても変化していくことは考えられます。

カテゴリー
仕事と健康,運動

睡眠不足は不安を増大させる

睡眠不足がパフォーマンス、つまりは生産性に悪影響を与える、ということは非常に知られています。
また、健康にも様々な悪影響を与えることも同様によく知られています。
加えてメンタルとの関連性もよく語られますが、睡眠不足に陥ると不安が増大する、ということはあまり知られていません。

慢性的な睡眠不足は、不安を増大させる可能性があるのです。

睡眠不足の時に活性化する脳領域と不安を感じた時に活性化する脳領域は同じ

慢性的な睡眠不足に陥ると、生産性が落ちたり、体調が悪くなったりした経験がある人は多いでしょう。
また、もしかしたら、不安な気持ちになった経験がある人もいるかもしれません。

一般的に、不眠症の人は、不安障害を抱えるリスクが多いとされています。
しかし、これは相関性が見られたのみで、臨床的にどのように関係しているのか?は示されてきませんでした。

カリフォルニア大学の研究チームは、睡眠不足の時に活性化する脳領域と不安を感じた時に活性化する脳領域は同じであり、睡眠不足が不安を増大させる可能性について示しました。
たった一晩寝なかっただけで、fMRI検査において、不安を感じた時に示す脳活動パターンが見られたのです。

https://www.researchgate.net/publication/327021316_Sleep_loss_causes_social_withdrawal_and_loneliness

意図的に睡眠不足の状態を作ると不安が増大した

この研究では18人の健康な成人を被験者とし、半分を睡眠不足グループ、半分を対象群となる通常グループにわけて、2晩過ごしてもらいました。
そして、それぞれの夜と朝に被験者の不安レベルが測定されました。

その結果、睡眠不足グループにおいて、翌日の不安レベルが30%上昇することが示されました。
この水準は、臨床的に不安障害と診断される可能性がある水準です。

併せてfMRI検査が行われ、上述の通り、睡眠不足グループにおいて不安を感じた時に示す脳活動パターンが見られました。

睡眠不足により増大した不安は、ぐっすり眠ると解消される

この睡眠不足により誘発された不安は、被験者が一晩しっかりと睡眠をとると、正常なレベルにまで回復したこともわかりました。

研究者は、「十分に休息しているときには、感情をコントロールする脳領域が不安を抑えるが、たった一晩の睡眠不足でも感情を制御するプロセスが発動しなくなる。」としています。

この研究により、不安が睡眠不足を誘発する、という従来の知見に加えて、睡眠不足が不安を誘発する、という双方向の相互作用がある可能性が示されました。


忙しい現代人は、睡眠不足を削って「生産的」なことに時間を費やしたいと考えがちです(その「生産的」が仕事なのか、趣味のことなのかは問わず)。

しかし長期的に見れば、「生産的」なことよりも、睡眠をしっかり取ることの方がはるかに重要であると言えます。

睡眠不足により、不安サイクルという完全な悪循環に陥るリスクがあるのですから。

カテゴリー
生産性・業務効率化

マインドフルネスについて、実は現状でわかっていることはそんなにない

マインドフルネスという言葉は、近年の情報化社会や悩み多き生活を背景に、急速に浸透しています。
数多くの研究が、マインドフルネスが身心の健康や認知能力の向上等にプラスの影響があるとしていますが、実は批判も多くあります。
今回は、このマインドフルネスについて、実は現状でわかっていることはそんなにないよ、という話をします。

マインドフルネスとは

マインドフルネスとは、「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」と定義され、現在において起こっている経験に注意を向ける心理的な過程であり、瞑想およびその他の訓練を通じて発達させることができる、とされています。
(なお、この定義自体が明確に幅広く合意されているわけでもない。

現代は情報化社会であり、また多くの悩みが生活を取り巻く、そのような背景もあり、お手軽な成功のためのツールとして急速に浸透しています。

また実際に、多くの研究が身心の健康や認知力の向上等にプラスの影響がある、という報告をしています。
研究によっては、多幸感を得られたり、加齢に影響を与える染色体の劣化防止にも寄与する、という報告を行っているものもあります。

それでは、何が問題なのでしょうか?

マインドフルネスの問題点

こちらの論文では端的に「科学的な裏付けがほとんどない」と指摘をしています。

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1745691617709589

マインドフルネスや瞑想に関する研究の多くは、研究や実験の設計が不十分であり、またマインドフルネスというもの自体の定義も明確でなく、プラシーボ効果を排除するための対象群もないことが多いとのことです。
ようは、科学的根拠よりも、誇大広告の要素が大きい、もっと言うと金銭のために過剰にマーケティングされている、と言及されています。

  • マインドフルネスに基づく研究のうち、対照群を含む臨床試験で検証されたのはわずか9%程度
  • 複数の大規模なプラセボ対照メタアナリシスでは、マインドフルネスの実践はしばしば印象的な結果をもたらさない
  • 2014年に行われた47件の瞑想試験のレビューでは、3,500人以上の参加者を対象に、注意力の向上、薬物乱用の抑制、睡眠の改善、体重のコントロールなどに関する効果を示す証拠は基本的に見られなかった

全く役に立たない、という意味ではない

補足をすると、研究者たちは「マインドフルネスが役に立たない、ということを意味するものではない。」としています。
つまり、現時点でマインドフルネス研究が示している多くのプラスの効果について、科学的な厳密性が不足している、ということです。
研究者たちは「実験介入による悪影響(プラシーボ効果)のモニタリングを含んだ研究が25%以下であることを懸念しているが、この分野が前進するにつれ、この数字が増加することを期待している。」ともしています。

これらの話をまとめると、マインドフルネスが身心の健康や認知能力の向上に寄与することは確かなのでしょうが、それがどの程度のものなのか、実際には不明と言えます。

現状では、実践をするにしても、過度に依拠しないようにするのが良いと感じます。

カテゴリー
ビジネスと心理学

人間関係の心理/バイアス5選

人間関係は古今東西老若男女問わない共通の悩みです。
良好な人間関係は人の身心、そして人生に大きな影響を与えます。
充足された自尊心や自信、成長、幸福度にもつながりますし、一方でストレスやうつと言ったマイナスにもつながり得ます。
今回は人間関係の心理/バイアスについて5つ程ピックアップします。

第一印象で相手を評価するけれども、それは正確性に欠ける

まず、よく言われる話なのですが、人は第一印象で相手を評価しがちだ、というものです。

多くの研究が、人間の脳は、見知らぬ誰かをみた時に、無意識にその相手の第一印象を決める働きをすることを示しています。
顔のパーツで相手を信頼できるのか否か判断したり、笑顔を見れば親しみやすさを感じたりするのです。

ここでポイントなのが“無意識に”という点です。

じっくりと人の顔を観察した結果として、このような反応が出るのであれば一定の理解ができるのですが、どうやら人が自覚して“顔”という画像を認識するよりも早い時間で脳がオートメーションに第一印象を決めてしまうことが示唆されています。

そして、ここで決まった第一印象が、実際の性格や人の性質と全く相関しないことも示されています。

「第一印象」で相手を評価しがち、ということはよく知られた知見ですが、それがどれだけ自動的に行われるのか、まではあまり知られていないでしょう。
人の脳は、驚くほど無意識無自覚に、オートメーションに第一印象を決め、場合によっては判断を誤らせることを、人は知る必要があります。

相手のことをどう感じるかは、自分の感情に左右されるし、それは相手も一緒

第一印象がオートメーションに決まる、という点は上述の通りですが。
その第一印象が自分自身の感情で歪む可能性については、感覚的に知っている人は知っているでしょうし、知らない人は全くに無自覚でしょう。

人の認識は、インプットを与えられたらアウトプットを出す、というような反応ではなく、脳内で情報を組み立てて生成されていくものです。

これが、いかに相手に対する印象に影響するのかというと、相手のことをどう感じるのかは、自分自身の感情に左右されてしまう、という点が指摘できます。

いくつかの研究では、相手の感情に対する認識が、その時に感じていた自分自身の感情(やその感情に対する認識)の影響を受けていることを示しています。

そしてこの話は相手も一緒なのです。

友達と思った相手は、自分のことを友達と思っていない

次はショッキングな事実です。

ある研究は、友情が相互に両想いである割合は半分以下程度であることを示しました。

約10万人弱を対象にした調査で、相互に相手に対してどのような認識を持っているのかが調べられたのですが、自分自身が相手に対して友情を感じている対象について、相手も同様に自分自身に友情を感じている割合が上述の通りだったのです。

友情とは何なのでしょうね?

(この点について心理学者は補足しており、友情の定義が人によって異なる点がこの結果に影響しているからでは、としています。自分自身の解釈で友人だと思っても、相手の友人の解釈が自分自身のそれとは異なることは容易に想像できます。例:話が盛り上がる相手なのか?それとも、話が盛り上がらなくても退屈しない相手なのか?)

人気がある、と言っても、それが人物に対してなのか、成したことに対してなのかは違う

次は、人からの好意、という多くの人が望むであろうテーマについてです。

大体の人は、人から好かれる、言い換えると人気であることを望むでしょう。
この“人気”ですが、2種類の人気があります。

それは、「人物に対して」なのか「成したことに対して」なのか、というものです。

前者の「人物に対して」は、純粋な性格や行動特性によるものである一方、後者の「成したことに対して」はより俗物的なものです。

この俗物的なものをより具体で述べると、会社の社長で地位がある、であったり、何かしら成功したから金まわりが良い、というようなものです。
何か書籍やYoutubeがヒットし、影響力が大きい、というようなものもそうです。

プラスの影響がある人気は前者の「人物に対して」であり、心身ともに健康的で幸福度も高い傾向があります。
一方、後者の「成したことに対して」の場合、満たされぬ充足感に苦しむことになり、実際にストレスやうつに苦しむ割合が多いことがわかっています。
さらに、その地位から降りた時(例:社長を退任した後の人生)や、お金が無くなった時(例:わかりやすく破産した)、ブームが去った時、これまでちやほやしていた周囲の人物達がすっと離れていくことも指摘できます。

人からの好意については、それがどのような種類によるものなのか、そして自分自身が何を求めるのか。
一考する必要があるでしょう。

思ったほど他人から好かれている

悲しい事実が続いて最後は朗報です。

一般的に人は、自分自身のことを過大評価する生き物です(例:私は平均よりちょっと頭が良い、と大体に人が思っている)。

しかしこれは、人間関係においては適用されない例があります(特に関係性が深くない場合は)。

ある研究では、お互いに初対面の相手について、相手がどのように思っているのか?について調査をしました。
調査は、ペアに簡単な会話をさせた後に、アンケートをとる形式です。
その結果、相手が自分のことをどう評価しているのか?という点数より、相手が実際に評価した点数の方が高い傾向があることが示されたのです。
そして、この傾向は、比較的長期の関係性においても同様に示されました。

つまり人は、人間関係においては、自分自身に対する評価を過小に捉える傾向が存在する可能性があるのです。
(言い換えると、あなたは思っている以上に人から好かれている、ということ。)


人間関係の悩みは人が誕生して以来、ずっと普遍的に持たれているものです。
そして、科学の知見が発達した現在においても、わかっていることはまだ一部です。
それらを踏まえて改めて考えて見ると、言えることが一つだけあります。

あんまし気にすんな。

モバイルバージョンを終了