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生産性・業務効率化

空腹だと判断力が落ちて安易な意思決定をするようになるという話

疲労やストレス睡眠不足が意思決定やリスク判断を歪めて、ネガティブ面を軽視し、ポジティブな方向に走りがちにしてしまう、ということは知られています。
そして、疲労の一種でもあろう空腹についても同様で、判断力が落ちて安易な意思決定をするようになってしまうことが示されています。
今回は非常に恐ろしい研究を紹介します。

空腹と裁判官の判断の関係

次の論文では、司法判断に与える外部要因について研究がされています。

https://www.pnas.org/content/108/17/6889

まず、このグラフを見てください。

こちらのグラフは、10ヶ月間にイスラエルの刑務所で行われた1,112件の仮釈放審査会の結果をまとめたものです。
縦軸は、裁判官が仮釈放を認めたケースの割合で、横軸は、1日の中で審問が行われた順番を示しています。
点線は、裁判官が食事休憩をとったタイミングを示しています。

囚人が仮釈放される確率は、はじめは65%程度と高いのですが、数時間後には劇的に低下していきます。
そして、食事休憩から戻ってくると、再度確率があがり、また時間を置くと低下していく、ということが明らかです。

囚人の人生は、1日のうちのどの時間帯で心理されたのかに左右されてしまう、ということであり、もっと言うと、裁判官のお腹の空き具合に左右されてしまう、ということです。

空腹以外の要因の影響では無い模様

この結果は、空腹以外の別の要因の可能性もあります。

しかしながら、心理に携わったのは平均22年の裁判官経験を持つベテランであり、また研究は10ヶ月間の期間に渡った調査を集計したものです。
集計対象は、研究対象国の国内で行われた仮釈放申請の40%に相当し、極端な事例を集めたものではないことも指摘できます。
(なお、各裁判官は1日14件から35件の案件を検討し、1つの判断に約6分を費やします。食事休憩は2回であり、審理は1日3回に分けて行われます。)

また、再犯の可能性がある囚人や、特定の更生プログラムに参加していない囚人には仮釈放を認めない傾向があるなど、適切に審理が行われているという印象も持てます。

その他にも、性別や民族、罪の重さ等々の要因の影響も見られませんでした。

つまり、裁判官は全ての囚人を平等に扱っていたのです。
空腹という要因を除いて。

お腹が空くと人は簡単な選択肢を取るようになる

心理学者は、この現象について簡単な原理により説明ができる、としています。

意思決定を繰り返す作業は精神的リソースを消耗させます。
そして、判断回数が多ければ多いほど消耗し、最も簡単な選択肢を選ぶようになります。
つまりは仮釈放申請の却下です。

この消耗は食事休憩により一定回復させることができるため、休憩から戻った後は、仮釈放を認める確率が向上するのです。

優秀な裁判官も所詮は人間であり、人間である以上、心理的バイアスから逃れきることはできません。

人である以上、疲れたら判断ミスをする。

そのことを意識する必要があるでしょう。

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生産性・業務効率化

人はストレスにさらされるとポジティブな面を見ようとし意思決定を間違える

人間という生き物は、普段は太古の時代からの生存本能としてネガティブな面を見ようとする傾向があります。
しかし、いざ現実にストレスにさらされるとポジティブな面を見ようとする傾向があります。
そしてその結果として、意思決定を間違える、ということが指摘されています。

睡眠不足について同様の指摘がされていましたが、ストレス環境でも意思決定を間違える、という事象が発生するようです。

人はストレスにさらされるとポジティブな面を見ようとする

次の記事で紹介されている研究では、ストレスと意思決定の関係について実験が行われています。

https://www.sciencedaily.com/releases/2012/02/120228114308.htm

なんでも、氷水に手を数分間つけた被験者は、ポジティブな情報に注意を払い、ネガティブな情報を無視しようとする傾向があることが発見されたとのこと。
これは他にも、いきなりスピーチをするように指示した場合等においても再現がされています。

つまり、人はストレスにさらされるとポジティブな面を見ようとする傾向があるのです。

この結果は意外性があります。

というのも、人間という生き物は、普段は太古の時代からの生存本能としてネガティブな面を見ようとする傾向があるからです。
そこから考えると、ストレスにさらされたら「うまくいかないのでは」とネガティブ面により注目してもおかしくなさそうです。
しかし、実際には逆なのです。

ポジティブな面を見ようとした結果として意思決定を間違える

上述の事実はあることを示唆しています。

ストレスを感じている時、難しい決断を迫られている時、検討中の選択肢のポジティブ面にフォーカスし、ネガティブ面を軽視する可能性がある。
つまりは、意思決定を間違える可能性がある、ということです。

この傾向は女性より男性の方が強い

そして、これらの傾向は女性より男性の方が強い、ということが示されています。

男性がストレスにさらされると、リスクを取ることに積極的になり、一方女性がストレスにさらされた場合、リスクに対して保守的になります。

一般的に言われている、困難な状況下において、男性は闘争心や逃避行動をとる傾向があるのに対して、女性の場合は人間関係を改善しようとする行動をとる傾向がある、という他の研究とも整合が取れる話です。

確かに、太古の時代、狩りをしている男性がいざ猛獣と遭遇したとして、「やばい、食べられる。」とネガティブに考えて及び腰になるより、「よっしゃ、食っちゃる!」とポジティブに考えて積極的に戦闘に出たり、安全に狩りをするために適切な逃避行動をとる方が、狩りの成功確率や生存確率が高くなることが想像できます。

結論として言えることは、現代社会においてはネガティブ面もポジティブ面も適切に同程度のバランスを取ってフォーカスした方が良いだろう、ということです。
安全な世においては、冷静に情報を精査する方が、物事の成功確率は高まるはずです。

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フェルミ推定・ロジカルシンキング

人の意思決定は直近の体験や情報に引きずられる

論理的思考に長けている人は、持っている情報を総合的に判断し、最も合理的な意思決定を行っている、と考えているはずです。
しかしながら、いくつかの研究では、人の意思決定は直近の体験に引きずられる傾向がある、ということがわかっています。
つまり、無知が故に最適ではない判断を行う、とは限らないのです。

最良の判断より直近の体験

複数大学の研究チームにより次のような実験が行われました。

https://www.nature.com/articles/s41467-020-15696-w

今回の研究では、57人の参加者は、パターンを洞察し、そのパターンを利用することで報酬を増やすことができるというシンプルなコンピュータゲームをプレイしました。
研究チームは、参加者のマウスカーソルの動きを追跡して、パターンに気付いたかどうかを検出しました。

例えば、参加者は、画面の上半分に表示されている2つのシンボルのうち、左上か右上にあるシンボルを1つクリックし、カーソルを移動させます。
その後、画面の下半分にカーソルを移動させると、右下または左下にシンボルが表示され、そのシンボルをクリックすると、報酬が得られます。

参加者は、このゲームを何十回も繰り返し、高報酬が得られるパターンを学習していきます。
(研究者は、参加者のマウスカーソルの動きにより、パターンを学習したか否かを判断できる。)
そして、参加者のほぼ全員がパターンを学習することができました。

ここで重要な実験の鍵が、通常のパターンとは異なる挙動が10%~40%の間で発生するよう仕組まれていた点にあります(イレギュラー)。

参加者は、イレギュラーが発生した後は、通常のパターンにおける最も効率が良い挙動を行わずに、どちらのパターンが起きても対応できるようなマウスカーソルの動きを示しました。

つまり、人の意思決定は直近の体験や情報に引きずられる、ということが示されたのです。

総合的に考えたら、イレギュラーが起きる確率は高くなく、戦略的に通常パターンに最適化させた方が効率が良いにも関わらず、です。
(最も効率が良い通常パターンに最適化させた方法をとった参加者は全体の20%程度だった。)

直近のフィードバックに引きずられる

これだけだと、イレギュラーも含めた総合的なパターンまで学習しきれなかった可能性があります。

そこでカリフォルニア大学の研究チームが行った、別の実験も紹介します。

https://direct.mit.edu/opmi/article/2/2/47/2950/Certainty-Is-Primarily-Determined-by-Past

500人以上を対象とした実験で、参加者は架空の図形「Daxxy」について、モニター上に表示される様々な色の図形の組み合わせを見て「Daxxy」であるか否かを特定するタスクを行いました。
「Daxxy」を特定する手掛かりは、「Daxxy」であるか否かを選択した後に得られる、正解か間違いかのフィードバックのみです。
また、「Daxxy」であるか否かを選択するたびに、回答の自信度についても答えました。

その結果、参加者はフィードバックを総合的に判断し推測の精度を高めているのではなく、最後の4,5回の試行を、正しく認識できた否かを判断する材料としていることがわかりました。
これは、試行を重ねることにより推測の精度を高めていった、というものではなく、「Daxxy」がなんであるか正解できたか否かに関わらず、最後の4,5回の試行で自信度を高めていた、という点から示されたことです。

参加者は、過去の試行を推測の精度を上げることに役立てられなかったのです。


これらの実験は非常に示唆に富みますし、人々が恐ろしいバイアスに囚われていることを示しています。

優れた意思決定者になろうとするならば、人の意思決定は直近の体験や情報に引きずられる、という点を理解し、あくまでも総合的に判断するよう努める必要があります。

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生産性・業務効率化

睡眠不足はパフォーマンスを下げるだけでなく、リスク判断を歪める

睡眠不足は酩酊と同じくらいに、人のパフォーマンスを下げる悪影響がある、と言われるようになりました。
この話は、多くの方が実体験としても同意するものでしょう。
そして、睡眠不足はパフォーマンスへの悪影響だけでなく、リスク判断を歪める可能性もあります。

睡眠不足は酩酊と同じ

時間外労働に対する規制が強化され、働き方改革の名のもとに、生活習慣や職場環境を見直す企業や人が増えています。
コロナ禍も、それに拍車をかけていると言えます。

そして、見直す対象の一つに「睡眠」もあげることができます。

睡眠不足はパフォーマンスに対して多大な悪影響を与えることが、昔から体験的に、そして近年は科学的に理解されるようになってきました。

下記の記事では、次のように海外の研究についてまとめています。

ペンシルベニア大学とワシントン州立大学が行った実験では、1日平均7~8時間睡眠をとっている健康な男女を48名集め、3つのグループに分けました。
14日後、8時間睡眠のグループに比べると、4・6時間睡眠のグループの注意力が確実に欠如していることがわかりました。
まず、6時間睡眠のグループは、酒に酔っている時と同じような状態になっていたことがわかり、4時間睡眠のグループはテストの途中で寝てしまう人も現れる始末。

https://tabi-labo.com/146649/few-hours-sleep

そして、睡眠不足によるパフォーマンスの影響はリアルに経済への影響も与えており、米シンクタンク「ランド研究所」の試算(2016年)では日本国内で1380億ドル(約15兆円)の経済的損失、国内総生産(GDP)の3%に当たる額の規模にのぼるとしています。

また、経済的な影響のみならず、労災事故や健康被害にもつながる、悪影響が目立つのが睡眠不足です。

この睡眠不足ですが、実はまだあまり知られていない悪影響があります。
それは、リスク判断を歪める可能性についての指摘です。

睡眠不足はリスク判断を歪める

デューク大学の研究チームは、平均年齢22歳の健康な成人ボランティア29人を対象に、睡眠不足が意思決定に与える影響を、注意力への影響とは別に検証しました。

被験者は、一連の経済的意思決定課題を、通常の睡眠をとった後の午前8時と、睡眠不足の後の午前6時の2回行いました。

実験では、MRIにより、ギャンブルの結果を肯定的に捉えたか、否定的に捉えたかを見ると共に、朝のセッションでは課題を与え、リスクに対する評価について計測を行いました。

https://corporate.dukehealth.org/news/sleep-deprived-people-make-risky-decisions-based-too-much-optimism

その結果として、睡眠不足がポジティブな結果を評価する脳領域の活動が活性化すると共に、逆にネガティブな結果を評価する脳領域の活動が低下することが示されました。
(それにより、ポジティブな報酬に対しては感度が高くなる一方、ネガティブな報酬に対しては感度が低下していた。)

また、金銭的な利益を重視する傾向があり、損失を軽減するような選択は減少することも示されました。


これらのとおり、睡眠不足は人へのパフォーマンス影響を与えるのみならず、リスク判断を歪める可能性が大いにあるのです。

対処法としては睡眠はしっかりとりましょう、という当たり前の話もそうなのですが、重要な意思決定は睡眠不足の時には行わないことが考えられます。

まぁ、踏ん切りがつかなくて、何かしらの後押しが必要ならば話は別なのでしょうが。

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マネジメント・リーダーシップ

「エア権限」のすすめ~2つ上の役職の立場で考えてみる~

色々と意識高い感じの本や記事で「2つ上の役職の立場で考えてみる」というアドバイスが書かれていたりします。
これは、まあその通りだと思うのですが、じゃあ具体的にどうすれば良いの?というのは疑問に思うはず。
ここでは「エア権限」という考えで、このアドバイスを実行する方法を書いていきます。

2つ上の役職の立場で考えてみる

言うは易し系の話で、「2つ上の役職の立場で考えてみる」というアドバイスは、まあされるものです。

平社員なら係長の立場になって、係長なら部長の立場になって、物事を考えてみる、ということですね。

2つ上の立場になって考えるには、知識が多くあり、視野も広く無ければいけません。
自分自身がカバーしている領域だけの思考ではなく、自分以外の誰かや、他の部署との関係性、顧客が求める事、社会の中での会社の立ち位置等々に思考を巡らせる必要があります。

全体を見渡して物事を考える、ということですね。

この話、全くもって有用な話であり、これを実践すると良いよ、とは思うのですが、いざ取り組もうとしても難しいものです。
曖昧性が高い話だからです。

そこで出てくるのが「エア権限」という方法です。

エア権限、とは

エア権限とは、仮にあなたが役職者になったと仮定して、つまり権限があるものと仮定して意思決定をしてみる、というものです。

例えば何か意思決定が下される会議があったとします。

これまでは、自分の担当外のことに関して、ボーっと話を聞いて時間が過ぎるのを待っていたかもしれません。
しかし、これではもったいないです。

ここで、起案者の話をじっくり聞き、自分なりに決断、意思決定を下してみるのです。

これは、意思決定をする、という思考習慣を身に着けるトレーニングにもなりますし、実際に2つ上の役職の立場の方が下した結論と比較することにより、一定、その思考回路をトレースすることにもつながります。
さらには、会社全体のことに詳しくなるので、仮に本当に昇進できた際、持っている情報が多い状態でスタートできます。

これは、別に会議に限らずで、例えばSlack等のチャットツールで流れている各種相談ごとや質問事項に対しても使えます。

自分の担当範囲外の話でも、内容を呼んで、自分なりに調べてみて、間違っても良いから何かしらの結論を出してみるのです。

そして実際に担当者や権限者が出した回答を見て、比較して見ると、結論の精度があがっていきます。
わからないことがあれば、質問をしてみるのも、当然に良いでしょう。


この方法はシンプルですが仕事を楽しくする効能もあります。

単純にこの方法を日々繰り返していれば、仕事の能力も上がっていきますし、役職者になりきって仮でも決断を下してみるのは存外に楽しいものです(責任も無いですし、間違っていたとして誰かに問い詰められることも無いですよ)。
脳のリソースという対価は支払う必要があるものの、それ以外のデメリットは何もありません。

面白いと思ったら、是非試してみて下さい。
大体、全ての役職において有用で、おすすめですよ。

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生産性・業務効率化

【番外編】るろ剣「鵜堂刃衛」の最後から考える意思決定【学べるマンガ】

Twitter上で、るろ剣の「鵜堂刃衛」の画像を出しつつ、朝の鼓舞をしている方がいらっしゃいました。
「我・・・最強なり!」のアレです。
懐かし―、と思いつつ、今思うと「鵜堂刃衛」の対剣心戦最後の意思決定って極めて合理的だな、と感じました。
(「るろうに剣心」知らない人ごめんなさい。)

今回は趣向を変えて、マンガネタで書いていきます。

登場人物

「るろうに剣心」を知らない方のために。

剣心(けんしん):物語の主人公、ヒーロー役

薫(かおる):人質、5分後に窒息〇するヒロイン役

鵜堂刃衛(うどう じんえ):強烈なデメリット付きの強烈なバフを使う、悪役

剣心対刃衛の流れ

ヒーロー剣心との決戦前、悪役刃衛は人質にとったヒロイン薫に「心の一方(しんのいっぽう)」という催眠術をかけます。
これで薫の肺が麻痺し、5分後に窒息〇するヒロイン状態になります。

その後、悪役刃衛は自分にも催眠術「憑鬼の術(ひょうきのじゅつ)」を使い、パンプアップスーパーパワーアップします。
この技は、使用後は解除不可デバフがかかる、強烈なデメリットを抱えています。

悪役刃衛は何故、この技を使用したのでしょうか?

当然、ヒーロー剣心と「ギリギリの〇し合い」を楽しみたかった、というのが主でしょうが、意思決定の観点で見ると極めて合理的であることを感じます。

ヒロイン薫を助けるためには、窒息〇する前に悪役刃衛を撃破する必要があります。
会話を続けていたので、残された時間はおそらく1,2分。
それまで劣勢に立っていたヒーロー剣心は全力の抜刀術をもって、短期決戦で悪役刃衛を撃破しようと考えるはずです。
(というか、おそらくそれ以外に無い。)

それへの対抗手段は何でしょうか?

刃衛の意思決定

そう、強烈なデメリットを抱えている短期パワーアップ技「憑鬼の術」です。

私も格闘技含めてスポーツをまあまあガチ目にやっているのでわかるのですが、全力の全力で身体を動かすと、もつのは精々1分。
「憑鬼の術」もおそらく同様で、使用時の全力動作は、筋肉グリコーゲンを急激に消費するため、すぐに身体が動かなくなるはずです。
つまり、長期戦では使えず、本当にここぞという危機を乗り越えるための最終手段なのです。

ヒーロー剣心はヒロイン薫を助けるため、残された1,2分に全力を注いでくるはず。
これに打ち勝つためには、自分も全力の全力を注がないといけない。

悪役刃衛の最後の意思決定は、彼個人の趣味嗜好もありつつも、勝利を得るための最善の意思決定であると言えるわけです。

ビジネスでも同じ

ビジネスにおいても、ここで全力の全力を注がなければ、という場面がちらほらあります。

ビジネスはマラソンみたいなものなので、適度に休みつつ、緩急つけて取り組まないと心も身体ももちません。
会社のリソースも有限で、部署や走っているプロジェクトは複数あり、どこかにリソースを集中することは早々できません。

しかし、とんでもないチャンスが訪れた時、逆に会社が消し飛びかねない位の危機的状況の時、そんな状況もあり得ます。
こういう状況ではワークライフバランスとか言っている余裕は無く、短期間で全力の全力を注がないといけません。
会社もヒト・モノ・カネの全リソースを一点集中させる意思決定を行うはずです。

「勝負時」というやつです。

剣心対刃衛の最終決戦から、この「勝負時」を嗅ぎ分ける、学ぶ要素があったので、番外編としてしたためました。

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経営企画

ビジネスで大切なこと~膨大な量の選択肢の中での正しい意思決定プロセスの心理学~

常に何かしらの意思決定を行わなければいけない。
これがビジネスの現場です。
膨大な量の選択肢がある中で、どのようにすれば正しい意思決定ができるでしょうか?

ここでは、意思決定の正しいプロセスについて、科学的な側面から解説していきます。

膨大な量の選択肢は意思決定の質を落とす

意思決定を行う上で、選択肢が多いことは良いことではあるのですが、多すぎる選択肢は悪影響をおよぼすことがあります。
多すぎる選択肢は迷いを生み、ストレスの原因となり、場合によっては合意の妨げになるのです。

スーパーマーケットでの場面を例にあげてみましょう。
北カリフォルニアのスーパーマーケット、ドレーガーズで行われた有名な実験です。
このマーケットでは、膨大な種類のオリーブ油や香辛料など、非常に豊富な食材を取り揃えています。
ここで心理学者たちが実験をしました。
具体的には、ある週では24種類のジャムを、別の週では6種類のジャムを並べて買い物客の反応を調べ、購買行動にどのような差がでるのかを実験したのです。

結果、24種類のジャムが並べられていたときは、60%の客が試食をしたけれども、6種類のときには40%しか試食しなかったそうです。
しかしながら、実際の購買行動においては逆の反応をしめしており、24種類のジャムのパターンでは3%の客が、6種類のパターンでは30%の客が購買した、という結果になりました。
つまり、あまりにも多い選択肢は、そもそも意思決定ができない、ということになりかねないのです。

この結果は他の場面にもみられており、証券会社や保険・年金での商品選択において、選択肢を多く提案することは、かえって購買意欲を減らしてしまうことにつながる例など、選択肢の多さは意思決定の質を落としてしまうことは、ほぼ間違いないであろうと言われています。

なぜ選択肢が多いと意思決定の質が下がるのか?

答えはシンプルで、単純に人の知的能力の限界を超えてしまうと、判断ができなくなるからです。
ようは、頭がオーバーロードし、働かなくなってしまうのですね。

アメリカの心理学者、ジョージ・ミラー博士の実験では、人は新しく与えられた情報については1度に7個(7個プラスマイナス2個)の情報しか覚えておけない、という結果示されています。
この7個というのは、意味をもった情報のかたまり(チャンクと言う)のことで、例えば、単純な数字情報から、何かの出来事のような情報量が多いものも、この7個の範囲でしか脳に一時ストックできないそうです。
これをもって、現代では「マジカルナンバー7」という言葉が使われています。
(なお、当然にこの話には諸説があるのですが、概ね人がぱっと覚えられる限界量としては、感覚値的にもそう外れてはいないかと思います。)

この話から、あまりにも選択肢が多いと、検討するにしても脳のワーキングメモリーが働くなってしまうことが推測されます。

別の心理学的な意見としては、選択肢が多い中で1つを選択した結果として、それ以外の方が正しかった場合のことを考えて、委縮して決断できなくなってしまう、ということも指摘されています。
後になって後悔してしまうのではないか?
周囲から、間違った決断をした結果として責められるのではないか?
そういった思考が、心理的に負担になってしまうのです。

また、こちらの記事でも解説していますが、雑事に対しても一つ一つ意思決定を行っていると、IQが低下し、生産性も大幅に低下することが示されています。
そのため、一部の一流経営者は毎日同じ服をきるなど、極力意思決定を行う数を減らしているのです。
(一説では、人が一日に行える意思決定の数には限りがあるようです。)

では、正しい意思決定プロセスは何か?

それでは、ここからは正しい意思決定のプロセスについて、科学的知見も交えて解説していきます。

① 幅広く選択肢を用意する

これまでの話とは逆行するようですが、まずは幅広く選択肢を用意しましょう。
人は与えられた数少ない情報から、偏見でもって意思決定をしたり、逆に情報を収集しようとしても「自分が欲しい情報を積極的に集める」習性があります。
偏りなく、幅広く情報を収集し、多くの選択肢をまずは取り揃えることが必要です。

② 選択肢の評価を行う~メリット・デメリット~

次に、出そろった選択肢のメリット・デメリットの評価を行います。
この際も、偏りなく評価を行うことが重要です。
できれば多くの人の意見を聞きながら、公平に実施するのが良いです。

あわせて、選択肢の前提となる情報の質に関しても評価を行うのが良いでしょう。
こちらの記事でも解説しましが、情報にはレベルがあり、純粋に「事実」なのか、推測や意見・感想が混じった「主観」なのか、それとも誰かが言っていることの「伝聞」なのかがあります。
情報の質の評価が漏れてしまうと、当然に選択肢の質も落ち、意思決定の質も落ちてしまいます。

なお、この評価の段階で重要なのが、「検討しすぎない」ことです。
ようは、ざっくりと手っ取り早く、大雑把に検討していきましょう、ということです。
といのも膨大な量の選択肢を検討していくことは、同様に膨大な時間と費用がかかってしまいます。
メリット・デメリットの評価を行いたいのではなく、意思決定を行いたいのですから、ここにリソースを割きすぎるのは、あまり健全とは言えません。

③ 選択肢の絞り込み

ざっくりとしたメリット・デメリットの評価を終えたら、その次が選択肢の絞り込みです。
この段階でいきなり「これだ!」と意思決定をするのではなく、「これは無いよね」というものをどんどん削っていくのです。
ようやく、選択肢の数が多いと意思決定の質が下がるの話とリンクしてきました。

この段階で重要なのが「自分自身にとって譲れないこと」「優先しなければいけない事項」「そもそもの目標」などを明確化することです。
何かの意思決定を行う、ということは、なにかしらのゴールがあるはずです。
そのゴールに沿った、重要な軸に沿って、「これは無いよね」というものを削っていくのです。

この絞り込みの段階では、3個程度に選択肢を絞るのがよいでしょう。
いくつかの研究では、二者択一や、選択肢が4つ以上よりも、選択肢3個程度の時が、その後の成果調査ともあわせ、もっとも質の高い意思決定ができるという結果がでています。

④ そして意思決定

3個程度に選択肢が絞られれば、メリット・デメリットの解像度の高い再評価が行えるでしょう。
すでに、今回の意思決定にあたっての重要な軸も明確になっています。
十分な調査の時間と費用も投入し、頭の中にはたくさんの情報も入っています。
あとは、これまでのビジネス経験と目指すべきゴールに沿って、勇気をもって決断するだけです。

(参考)評価にあたって点数をつけることの是非

よく、メリット・デメリットの評価にあたって、比較検討表に点数をつけることが多くあります。
これは、趣味やポリシーの世界にも突入してしまうので何とも言えないのですが、あまりおすすめできないです。
というのも、非常に恣意性が高いからです。

点数をつけるにあたっての項目の数や、抽出の方法によって、いくらでも操作ができてしまうため、結局のところ、評価者の偏りに沿った結果になってしまいがちです。

決して、絶対ダメだとは思いませんが、必ずしも良いものでは無い、という点は抑えておくべきでしょう。

(参考)メリット・デメリットについて~プロコン~

これまで、メリット・デメリットという言葉を使ってきましたが、コンサルや経営企画の世界ではあまり使いません。
では、どういう言葉を使うかというと「プロコン」という言葉を使います。
Pros & Consの略で、良い点(Pros)と悪い点(Cons)という意味です。

ようはメリット・デメリットと同じことではあるのですが、相手によっては「わかっていないな」「プロフェッショナル感に欠けるな」という風に捉えられてしまうので、一定の使い分けを行うか、そういうったことがあると素直に割り切ってどちらかを使うのかを決めてしまうのかをするのが良いでしょう。

(参考)交渉におけるテクニック

上記で自分にとって譲れない重要な軸を明確にすることの大切さを説きましたが、これは交渉にも使えます。
どういうことかと言うと、交渉における交換条件において、優先度・重要度の低いことに関して、交渉の対価として譲れることができるからです。
ここは譲れない、ここは譲って良い、を明確にしておくと、交渉はスムーズになります。

また、提案においては、言葉の使い方にも注意は必要です。
具体的にはポジティブに言うか、ネガティブに言うか、です。

①「どちらを選択すべきか?」
②「どちらを選択すべきでないか?」

この2つの問いかけ方をした場合、①の言い方ではポジティブ要素を大きく評価する傾向があり、②の言い方ではネガティブ要素を大きく評価する傾向があるのです。
ようは、「どちらを選択すべきか?」と問いかけると、ある選択肢のメリット、そのことの強み、得られる利益などを高く評価するのですが、
「どちらを選択すべきではないか?」と問いかけると、デメリット、それにより負担しなければいけないマイナスのリスク、失敗した場合の損失などを高く評価してしまいがちなのです。
それが人間心理なのです。

これは交渉時においても重要で、ポジティブ要素、ネガティブ要素のどちらを高く評価して欲しいのか?でもって、問いかけ方を変えるのは、一定考慮に値します。

ただ、最終的にこういうテクニックを使うのが良いのか、というと、個人的な意見としては微妙だと思っています。
というのも、私自身の立場からすると、相手が小賢しいテクニックを弄してきたら不快だと感じるからです。
相手が自分のことを操作しようとしている、というのは、上記のことがわかっている人にとってみれば、まあまあ不快なものです。
最終的には人と人とのぶつかりあいなのですから、正直まっすぐ正々堂々が一番なのでは?と考えています。

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