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仕事と健康,運動

【若い内からの認知症予防】血圧と認知症リスクの関係

運動と認知症リスクの関係は比較的よく知られています。
一方で、血圧と認知症リスクの関係は、あまり知られていないのではないでしょうか。
ここでは、血圧と認知症リスクの関係について科学的知見を見ていきます。

高血圧と認知症リスクの関係

まずはこちらの研究です。

https://jnnp.bmj.com/content/91/9/953

こちらの研究では、脳小血管病(cerebral small vessel disease:SVD)という「脳微細血管劣化に伴う効率的な脳内微小循環・代謝・ネットワーク維持の困難な状態,及びそれらによる認知・身体機能低下状態」と精神疾患・無気力症候群との関係について調べています。

研究では、合計約450人が被験者となった別の研究を分析した形となりますが、その結果としてSVDが無気力症候群に、そして認知症リスクと関連がある、ということが示されました(うつ病等の精神疾患とは関連がないとのこと)。

研究者は、高血圧や糖尿病によりSVDが引き起こされ、それにより神経ネットワークの損傷が起き、そして認知機能の低下が誘発され、その初期症状として無気力症候群が見られるのではないか、としています。

つまり、高血圧と認知症リスクの関連性が示唆されている、ということです。

低血圧と認知症リスクの関係

一方、こちらで紹介されている研究では低血圧と認知症リスクの関係が触れられています。

https://theconversation.com/low-blood-pressure-could-be-a-culprit-in-dementia-studies-suggest-122032

記事内では、約2万7千人を対象とした最大約27年間に渡る追跡調査について言及されており、低血圧が認知症の発症を高める可能性が示唆されています。

低血圧が脳に送られる血流の減少につながり、それにより認知機能の低下が誘発されるのだろう、としています。

この話は、高齢者に限らず若年層にもあてはまり、低血圧と認知機能の低下には関連性があることが示されています。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14673692/

研究者達は予防策として、適切な運動(特に足、ふくらはぎ)により筋肉を鍛えると、血流量を増加させるポンプ機能が強化され、正常な血圧を保てる、としています。


以上のことから、高血圧でも低血圧でも脳の認知機能の観点でネガティブであり、正常な血圧を維持することの重要性がわかります。

そのために、過剰な塩分の摂取、栄養不足、喫煙、過度の飲酒、運動不足、ストレスは避けるよう、日常の中で気を使っていく必要があります。

忙しくストレス過多な現代人にとってみれば、このシンプルなことでさえ行うのは難しい場合も多いでしょうが、やらないで抱えるのは認知症リスクの増大であり、またそれのみならず代償として健康を支払うこととなります。

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【若い内からの認知症予防】歯の健康と認知症リスクの関係

運動と認知症リスクの関係は比較的よく知られています。
一方で、歯の健康と認知症リスクの関係は、あまり知られていないのではないでしょうか。
ここでは、歯の健康と認知症リスクの関係について科学的知見を見ていきます。

歯の本数が少ないと認知症リスクが高まる

まず、歯の本数と認知症リスクの関連性の研究の紹介です。

https://www.jamda.com/article/S1525-8610(21)00473-4/fulltext

こちらの研究では、約3万9千人の被験者を対象に分析が行われました。

その結果、歯の本数が少ない人は、認知機能の低下リスクが約50%、認知症リスクが約30%高いことが示されました。
また、メタ分析の結果、歯が1本無くなるごとに認知機能の低下リスクが約1.4%、認知症リスクが約1.1%高まることも示されました。

一方で、入れ歯の類を使用して歯の機能を補完している場合には上述の影響は見られなかったとのことです。

つまり、歯の本数が少なくなることにより、適切に栄養を摂取することに障害が起き、脳機能の低下につながる可能性が考えられます。

歯周病がアルツハイマーの原因の可能性も

他にも、歯周病がアルツハイマー型認知症の原因となる可能性を示唆する研究があります。

https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aau3333

研究では、症例の数は多くないものの、死亡したアルツハイマー型認知症患者の脳内から、歯周病菌が出す有毒物質が発見されたことが示されています。

そして、マウスレベルの実験で、歯周病菌を付与(マウスの歯に塗布)すると、マウスの脳で有毒物質が検出されることを示しました。
加えて、抗生物質を投与すると、この影響から逃れられることも併せて示されました。

つまり、歯周病という観点で歯の健康を維持するだけでも、認知症リスクの低減が図れる可能性が示唆されています。

他の疾病にも関係する可能性が

歯の健康は他の疾病との関連性も示されています。

例えば糖尿病リスクとの関連でいです。

こちらの研究では約18万8千人を対象に分析され、歯のメンテナンス(日頃の歯磨きや歯科医にかかる頻度当)について追跡調査が行われました。

その結果、歯磨きの頻度が低い場合、糖尿病の発症リスクが高いことが示されました。
(男性より女性の方が影響が大きく、また高齢者より若年の方が影響が大きいことも併せて示されました。)

こちらは因果関係と相関関係が不明ですが、口腔衛生と健康との関連性が推察されます。


現代人は忙しく、中々、歯科医にかかる余裕がない人も多いでしょうが、可能な限り自分自身による歯磨きだけでなく、歯科医にかかることが望まれます。

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【若い内からの認知症予防】騒音と認知症リスクの関係

運動と認知症リスクの関係は比較的よく知られています。
一方で、騒音と認知症リスクの関係は、あまり知られていないのではないでしょうか。
ここでは、騒音と認知症リスクの関係について科学的知見を見ていきます。

慢性的に騒音にさらされると認知症リスクが高まる

こちらの研究では、交通騒音と認知症の関係について、大規模な調査が行われました。

https://www.bmj.com/content/374/bmj.n1954

研究では、60歳以上の被験者約938,994人を対象に行われ、幹線道路や鉄道等の交通騒音にさらされやすいエリアか、そうでないエリアか、という形で居住環境を観点に分析が行われました。

その結果、慢性的に騒音にさらされやすいエリアに住んでいる人は、そうでない人に比べて認知症になるリスクが高い傾向があることが示されました。

数値できには、騒音環境が40db未満の人と比較し、50dbの人は認知症リスク(アルツハイマー型認知症)にかかるリスクが約24%、55dbの人は約27%高いことがわかりました。

(騒音レベルとしては、40dbは閑静な住宅地や小鳥の鳴き声レベルであり、50dbは家庭用のクーラーの室外機、静かな書店や事務所、55dbは役所の窓口が目安です。)

研究者達は、この研究を通じて、公衆衛生的に認定されている認知症の内、10%超が交通騒音起因であると推定しており、その影響の大きさについて主張しています。

日常生活の騒音は睡眠不足にも影響しますし、その他の疾患、例えば神経症の発症リスクが高まることも知られており、人々が意識・認識している以上に騒音のネガティブな影響は甚大である可能性があります。

https://ehjournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12940-020-0565-4

一方で適度な騒音は生産性をあげるという話も

一方で、適度な騒音、例えばホワイトノイズは(限定的ではあるが)生産性をあげる、という知見もあります。
(もちろん、長時間はよくない。

また、日常生活の中で、常に騒音を回避することは不可能です。

仕事もそうですし、音に関しても、オン・オフをつけて、耳を休ませる時間を設けるのが良いのでしょう。

こちらで紹介されている研究では、静かな時間を2時間程とると脳が成長しやすくなる、としています。

https://nautil.us/issue/16/nothingness/this-is-your-brain-on-silence

昔からある耳栓や、近年、商品数が増えているノイズキャンセリング型のヘッドホン・イヤホンは、本テーマにおいても意義があるかもしれません。

科学的には不明な点が多いのは確かですが、耳栓・ノイズキャンセリング製品等を活用し、意図的に静寂な時間の確保に努めることはプラスである可能性が高いです。
少なくとも、生産性向上の観点でプラスであり、損はしないでしょう。

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仕事と健康,運動

【若い内からの認知症予防】睡眠と認知症リスクの関係

運動と認知症リスクの関係は比較的よく知られています。
一方で、睡眠と認知症リスクの関係は、あまり知られていないのではないでしょうか。
ここでは、睡眠と認知症リスクの関係について科学的知見を見ていきます。

慢性的に短い睡眠が続くと認知症リスクが高まる

短い睡眠と認知症のリスクについて長期的に調査された研究を紹介します。

https://www.nature.com/articles/s41467-021-22354-2

こちらの研究では7,959名の被験者を対象に約25年間に渡る追跡調査が行われました。

研究では、被験者の自己申告や、腕に装着するタイプの計測機器(加速度計)によるデータも活用され、分析が行われました。

その結果、睡眠時間が6時間より少ない人は、睡眠時間が7時間前後の人よりも認知症リスクが高いことが示されました。
このリスクは50歳~60歳の時に、慢性的に短い睡眠をとっている場合に出てくるようです(約30%、認知症リスクが高まるとのこと)。

慢性的に短い睡眠は、人の認知能力を著しく低下させることがわかっています。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2785092/

また、睡眠不足はリスク判断を歪める、という示唆もあります。
ですので、長期的な認知症リスクだけでなく、目の前の生活の充実度の観点からも、可能な限り睡眠をとった方が良いと言えます。

質の高い睡眠は認知症の原因物質を除去する

上述の研究は、相関関係を示したのみで因果関係について示したものではありません。

実際、この研究では質の高い睡眠(ノンレム睡眠)がアルツハイマー型認知症の原因物質を減少させることを示しています。

https://www.science.org/doi/abs/10.1126/science.aax5440

もしかしたら単純な睡眠時間の問題ではなく、質の高い睡眠の時間が問題である可能性があります。

睡眠の質は先延ばし行動とも関係している、という知見もあります。

睡眠の質を高めるテクニックは各所で紹介されていますので、参考にしてみると良いでしょう。

睡眠の質を高めるためにも、適度な運動を心がけることも重要でしょう。

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【若い内からの認知症予防】コーヒーと認知症リスクの関係

運動と認知症リスクの関係は比較的よく知られています。
一方で、コーヒーと認知症リスクの関係は、あまり知られていないのではないでしょうか。
コーヒーは身体に良い、飲み過ぎは身体に悪い等、様々な話がありますが科学的にはどのような知見が示唆されているのでしょうか?

カフェイン摂取は認知症リスクを下げる

まず、こちらの研究です。

https://www.sciencedaily.com/releases/2017/03/170307130903.htm

マウスベースの実験室内の研究ですが、カフェインが認知症を予防する効果のある酵素の生産量を上昇させる効果があることを示しています。
研究では、認知症を予防する効果のある酵素が既に特定されている前提で、その酵素の生産量を上昇させる化合物は何なのかの調査が行われた結果として示されたものです。
また、特定の実験条件下に置かれたマウスにカフェインを投与すると、記憶力の改善という結果も出ました。

他にも、数千人~数十万人を対象にした大規模な調査で、コーヒーの摂取量が多い人は健康的に長生きできる傾向があること(長寿効果)、心疾患神経疾患、糖尿病などの疾病にかかりにくいことや、自殺率の低減(死亡リスクの低減)といった効果があることが、いくつかの研究で示されています。

https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/article-abstract/2686145
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIRCHEARTFAILURE.119.006799
https://www.ahajournals.org/doi/full/10.1161/CIRCULATIONAHA.115.017341

つまり、これらのことから、コーヒー(カフェイン)は身体に良い、と明確に言えます。

飲み過ぎはよろしくないようだ

もちろんネガティブな面もあります。

リンク先の研究(外部PDF)では20歳から90歳までの約4万4千人を対象に、コーヒーの消費量やその他諸々の生活習慣(食事、運動、飲酒、喫煙等々)と死亡原因について調査が行われました。
追跡調査は、約32年に渡って行われています。

その結果、1日4杯以上のコーヒーを飲んでいた人は、それより少ない量のコーヒーを飲んでいた群より圧倒的に死亡率が高いことが示されました(平均1.5倍から2倍程度の死亡リスク)。

別の研究では(37歳~73歳の1万7千人を対象に行われた)、1日6杯以上のコーヒーを飲む人は、それ以外の群に比べて認知症リスクが約53%高まることが示されました。

https://www.unisa.edu.au/media-centre/Releases/2021/excess-coffee-a-bitter-brew-for-brain-health/

つまり、過度なコーヒー(カフェイン)の摂取は身体に悪い、ということです。

適切な量は?

それでは、適切なコーヒーの摂取量はどの程度でしょうか?

平均的なコーヒーのカフェイン含有量は約50mg~100mgです。

上述の研究を踏まえると、これが1日1・2本程度がベストであり、多くても3本以内が望ましいと考えられます。
(いくつかの医療団体が示すカフェイン摂取量の上限も大体400mg/1日としている。)

最近多いエナジードリンクの類ですが、次のようなカフェイン含有量となっています。

  • モンスターエナジー:142mg
  • レッドブル(250ml):80mg
  • リポビタンD:50mg

例えば、朝に1杯、昼に1杯、午後に眠気覚ましにモンスターエナジーを1本飲んだ場合、これで上限近くに達します。


コーヒーの覚醒効果による生産性向上効果はよく知られていますが、単純作業に限定される、という知見もあります。
(つまり、コーヒーを飲んて脳が覚醒したかのように感じても、実際の認知機能は低下したままで、高度な作業の生産性は向上しない。

加えて、プラシーボ効果でも覚醒効果はある、という知見もあります。
コーヒーの香りをかぐだけでも覚醒効果があるようだ!

これらを踏まえると、コーヒーは1日1・2杯程度に抑える、エナジードリンクを飲みたいのであればその日はコーヒーは飲まない、というのが現時点の総合的な知見では良いように思います。

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【若い内からの認知症予防】お酒と認知症リスクの関係

運動と認知症リスクの関係は比較的よく知られています。
一方で、お酒と認知症リスクの関係は、あまり知られていないのではないでしょうか。
適度な飲酒は健康に良い、という話もありますが、果たして科学的にはどのような知見が示唆されているのか、見ていきます。

お酒を飲まないと認知症リスクが高まる?

まず、お酒が認知症リスクを低減させる、という研究の紹介です。

https://www.bmj.com/content/362/bmj.k3164

この研究では、研究開始当初35歳~55歳だった約9,000人を対象にしたもので、その後約23年に渡り追跡調査が行われました。
そして、約9,000人の内、397人が認知症と診断された形となりました。

その結果、全くお酒を飲まなかった人は、適度な飲酒習慣がある人よりも、認知症リスクが約45%程高い、という結果が示されました。

ここで言う適度な飲酒量とは、週に500mlのビール6本分以内を示しております。

もちろん逆の結果を示す研究も

一方で、ネガティブな研究もいくつかあります。

(上述の研究も、週500mlのビール6本分を超えると認知症リスクが高まる、としています。具体的には、500ml3本分を超えるごとに約17%、認知症リスクが高まるとのことです。)

こちらの研究では、そもそもとして飲酒自体が認知機能を低下させる、としています。

https://www.bmj.com/content/357/bmj.j2353

約550人を対象にした研究で、研究当初平均約43歳の被験者を対象に、約30年に渡り追跡調査が行われました。

その結果、1週間に1回多く飲酒すると、脳の海馬の委縮率が約50%高まる、という知見が得られました。

ただ、この研究の「適度な飲酒量」の範囲が、上述の研究の2倍以上であり、「適度な」の定義にズレがあること、また脳の萎縮についても右脳と左脳で異なる結果が出て理由が全くの不明であることなど、疑問点は多く残ります。

とは言え、飲酒が身体に与える悪影響については各所で報告されています。

こちらの研究(外部PDF資料)では、脳の萎縮とあわせて、脳卒中リスクについて言及しています。

また、こちらの研究では、飲酒が人間のDNAにダメージを与える、としています。

https://www.nature.com/articles/nature25154

この研究は、アルコールが分解される途中に出る毒物(アセトアルデヒド)に着目して、DNAへのダメージについて研究がされました(アセトアルデヒドはDNAやタンパク質に損傷を与えることが、実験室レベルで示されています)。
この研究はマウスベースでの研究であり、人への適用は難しいものの、人体への悪影響について一定の示唆が得られます。

研究では、アセトアルデヒドの毒性を防ぐ仕組み(アセトアルデヒドの分解、DNAの損傷の修復の2つ)を阻害した所、マウスの細胞が機能不全に陥ることが示されました。


これらの通り、お酒と認知症リスクの関係は、まだわかっていないことが多くあります。

飲酒習慣のある高齢者は健康である傾向があり、運動習慣以上に相関性が高い、という研究もあったりする程です。

いずれの研究も因果関係と相関関係の問題がありますし、「適度」の認識が定まり切っていない点など不明点だらけです。

現状では、常識の範囲内で「適度に」お酒を楽しむのが吉であろうというのが言える所だと考えられます。

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【若い内からの認知症予防】運動と認知症リスクの関係

一般的に運動は脳の老化防止、認知症リスクの低減につながるといわれています。
一方で、負荷の高い肉体労働は却って認知症リスクを高めてしまう可能性があることについては、あまり知られていません。
今回は、運動と認知症リスクの関係について見ていきます。

適度な運動は認知症リスクを低減させる

運動は認知症予防につながる可能性が

アルツハイマーは認知症の代名詞とも受け止められる脳の疾患です。

これまで、アルツハイマー型認知症は不可逆的な進行性のものと考えられていましたが、一部では運動が治療的効果をもたらす、という説もありました。

https://content.iospress.com/articles/journal-of-alzheimers-disease/jad091531

こちらの研究では、マウスベースの実験ですが、運動をさせたアルツハイマーマウスにおいて記憶の改善が見られたことが示されています。
また、神経細胞の成長の機能があるタンパク質の増加も見られました。

https://www.science.org/doi/10.1126/science.aan8821

この知見はそのまま人間に適用できるものではありませんが、人を対象にした研究も当然にあります。

1週間に12Km以上の散歩を

こちらで紹介されている研究では、どの程度の運動が認知症予防の効能を示すのかが調査されています。

https://www.webmd.com/healthy-aging/news/20101013/walking-may-ward-off-memory-loss

299人の被験者を対象に、13年に渡る追跡が行われ、運動と認知症の関係が調査されました。
調査の方法としては、被験者が1週間に歩く距離と脳の灰白質の量の関係を見るものです。

被験者が1週間に歩く距離は0Kmから約50Kmという分布になっており、1週間に約12Km以上歩くグループと、それよりも短い距離のグループで、明らかに9年後灰白質の量が異なっていたとのことです。
当然、1週間に12Km以上歩くグループの方が多い結果でした(なお、12Km以上~50Kmの範囲で差は見られなかった)。

灰白質の量は記憶力に関係があることは知られており、研究者達は「全ての年代の人たちに、運動を推奨することは、公衆衛生上の重要な課題となるはずだ。」としています。

1週間に12Km以上、というと会社に出勤をしている人であれば、比較的容易に達成できそうな距離感です。
一方で、リモートワークで自宅にこもりがちな方は意識して外出しなければ達成が難しいでしょう。

日常的な肉体労働は却って認知症リスクを高める可能性

上述の通り運動が認知症予防に効果があることはわかりました。

また、運動強度が高いと、その効果も高いことも一定程度示されています。

https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/ninchisho-yobo-care/h30-4-4.html

それでは、運動負荷は高ければ高いほど良いのでしょうか?

どうやらそうではなさそうです。

こちらの研究では、肉体労働を行っている人と認知症の関係について調査を行っています。
つまり、慢性的に高負荷の運動を行っている状態だと、どのような結果になるのか?ということです。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/sms.13846

調査では数千名の労働者を対象に、仕事中の肉体労働の状況の他、様々な健康(喫煙や飲酒の状況等々)・社会的状況(社会的な地位や結婚の有無)・経済的状況等々の各種の情報について調べられました。
そして、約45年間に渡る追跡調査が行われ、認知症との関係に大きな示唆を与えました(約4,700人が対象で認知症にかかったのが約700人)。

調査の結果、高負荷の肉体労働に従事していた人は、オフィスワーカーに比較して認知症のリスクが約55%高いことが示されました。
一方で、一般的にイメージされる運動をしている人(可処分時間の中で適度な運動をしている人)は、運動をあまりしないオフィスワーカーに比較して、認知症のリスクが低いことも示されました。

この結果が何を示すのかは不明な点がまだ多くあります。

高負荷の肉体労働は、脳に何かしらの負担をかけてしまう可能性は当然に考えられますが、オフィスワーカーの方が高度に脳を使う業務が多く、一方で高負荷の肉体労働を行う労働者は、仕事中に脳をあまり使わないが故の結果かもしれません。
可処分時間(余暇)に運動を行おう、という意識がある人は、統計的に裕福である傾向があり、また裕福である人は脳を使う仕事が多い傾向もあり、そういった別の要素が認知症リスクに影響を与えている可能性もあります。

少なくとも言えることは、単純に身体に負荷をかければ良いというわけではない、ということです。


現代社会は、オフィスワーカーの割合が増えていますし、ここ最近はリモートワークも増加しています。
そういった方々は、意識的に適度な運動を行うよう、心がけることが重要と考えられます。

一方で、日常的に負荷の高い肉体労働を行っている方は、別のアプローチ(余暇の時間は難しい本を読むなどの脳を使う別の何か)が必要かもしれません。

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生産性・業務効率化

“今”と“昔”はどちらの方が仕事が大変なのか?

定期的に話題にあがる、とあるテーマがあります。
“今”と“昔”はどちらの方が仕事が大変なのか?というものです。
特に昨今は、世代間の格差も広がっており、ネット上で度々議論がされています。

最近ですと、「オレたちの若い頃はもっと働いてた」と言っても資料のホチキス留め対応とキンコーズに駆け込む的なことに時間を使っていて、それは実のある働き方だったのか?という指摘を目にしました。

今回は、この種のテーマについて思うことを書いていきます。

“労働時間”自体は大きな変化がない

まず、大枠のデータですが、トータルとしての“労働時間”は今も昔もそれほど大きな差はありません。
(ここで言う“労働”とは、家事・育児・介護にかかる時間も含めた、大きな意味で可処分時間を取られるもの、としています。少なくとも、現代の認識で家事・育児・介護を仕事では無い、とは捉えないでしょう。)

家庭や職業、住む地域等々で当然に状況は異なるにせよ、マクロ感では、数十年前も今も、同じようなイメージです。

では、何故、“今”と“昔”はどちらの方が仕事が大変なのか?という話題が出るのでしょう?
(「今の若者は云々」という話は、古今東西共通の話題なので、それはそれとして捉えるとして。)

情報過多社会

まず、“今”と“昔”で大きく異なるのが情報の量です。

「現代人が1日に受け取る情報量は江戸時代の1年分だった!?」という記事が出る位、現代社会は情報に溢れています(言うまでもないですね)。

https://dime.jp/genre/603611/

学術的には「情報爆発」として、現代社会が数十年前に比べてどれだけ情報が飛び交っているのかが議論されています。

その結果として、人々は「情報疲労」を起こし、非常に疲れやすくなっている、という指摘が出ています。

仕事の密度が増している

また、仕事の密度が“今”と“昔”で全く異なる、という指摘もあります。

冒頭の資料のホチキス留めとキンコーズへの駆け込みもそうなのですが、現代では資料をGoogleドライブにアップしてURL共有をすれば、関係者への資料送付が完了してしまいます。
郵送等をするまでもなく、また、わざわざ重い資料をメールで送る必要もありません。

資料の捜索も検索をかければ出てくるため、資料室等々に行って資料を漁る時間も大きく不要になりました。

その資料作りもGoogleスライドを作れば関係者で同時編集ができますし、様々なクラウドサービスと連携すれば、必要なデータも簡易に作成できるようになりました。

パソコンのスペック(仕様ではなく性能の意)もかなり上がっているので、これまで丸1日とかかかっていたデータ処理がものの数分で終わるようなことも珍しくありません。

Web会議を用いれば、1日10件近い“濃厚な”営業も可能ですし、可能な故に訪問の合間のブレイクタイムも取れない場合もあります。

列挙すれば切りがないのですが、この通り、仕事の密度が“今”と“昔”で全く異なるのです。
脳のリソースには限界があるので、こなす仕事の質的量が膨大ならば、当然に疲労感は昔よりも増すはずです。

ITの発展により業務時間外も“拘束”される

(一部、上述の内容と被りますが)近年はITの発展により、即時に濃度の濃い情報をやり取りすることができます。
こちらの記事で触れたのですが、勤務時間外のメールは従業員の身心に悪影響を及ぼす、ということがわかっています。

目に見えない“拘束”は、そのまま見えない労働時間となり、労働者を疲弊させます。

一昔前もポケベルのようなものはありましたが、即時性と拘束性は近年のチャットツールと比較するまでもないでしょう。

ほんの一例ですが、これらのことを踏まえると、現代社会の大変さがわかります。
他にも、人口動態(若者一人あたりの負担の話とか)や経済成長の停滞という面でも考えると、閉塞感について触れることもできます。

未来はもっと大変になるかもしれない、と考えると無意味な議論では?

こでまで見てきたことを考えると、“今”と“昔”はどちらの方が仕事が大変なのか?の答えは“今”であると言えるでしょう。
ただ、ここで端的に言い切ることが適切か?というと違うのではないかとも思います。

大変さと一口に言っても、その時代時代の相対的なものであり、昔は昔の大変さがあったし、今は今の大変さがあると考えるのが適切であると考えられるからです。
また、“今”は“昔”より大変なんだ、という話を上述の事例とロジックを踏まえて言うならば、未来の方が大変である可能性が考えられます。
(AIも発展して、わざわざ人間がやらなくても良い仕事が激減した結果として、また業務効率化も極限まで進んだ結果として、その社会で働く労働者たちの疲弊度合はどれくらいのものになってしまうのか?)

つまり、“今”の大変さを訴えること自体は悪くないのですが、その訴え方次第では未来時点で自分の首をしめることにつながり得ます。
(もしくは“今”の若い世代が嫌悪する、“老害”という存在に自分自身がなってしまうことにもつながり得ます。)

結論として思うのは、この種の議論には関わり合いにならず、自分自身が出す成果にフォーカスしたいものだ、という点です。
精々言うのであれば、現代人が精神的に疲れやすい状況に置かれているのは確かなので、時代時代にあった身心のケアは図りたいものだ、という点位でしょうか。

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ビジネスと心理学

怒りっぽい人は過去の失敗から学ばない可能性がある

世の中には怒りっぽい人が、それなりの割合で存在します。
そして、怒りっぽい人は過去の失敗から学ばず、次につなげられない可能性があります。
他人を変えるのは難しいですが、自分を変えるのであれば自己努力で可能です。
自覚がある人に向けて改善のためのヒントを提示します。

怒りっぽい人は自分で思っているよりもIQが低いかもしれない

ポーランドのワルシャワ大学で、怒りっぽいこととIQ(認知能力)の関連性について研究が行われました。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0160289618300102

実験では合計528人を対象に、アンケート調査が行われた後、IQテストが実施されました。
アンケートの内容は、短期であるかどうか、どれくらい怒るのかといった性向(性格)を調べるものです。
加えて、自分自身の知能についても自己評価する内容が含まれていました。

その結果、怒りっぽい人は、自分自身が実際よりも賢いと認識している傾向があることが示されました。

また、このIQの過大な自己認識はナルシシズムが関連していることも示されました。

つまり、怒りっぽい人は、自己愛傾向があるが故に、自分自身の能力を過大評価している傾向がある、ということです。

(なお、ナルシシズムと言っても、尊大気質と神経症気質のものがあり、尊大気質の場合に上述傾向が見られる一方、神経症気質の場合、逆に過小評価する傾向があることも示されています。)

ナルシストと後知恵バイアスの話

怒りっぽいこと自体が決して望ましいことではないのは確かであり、改善が望まれます。

加えて上述の、自己評価が過大になる、という点も見過ごせません。

こちらの記事で記述したのですが、「自己愛性向が強い、つまりナルシストは自分の予測の精度が悪かったとしても、異なる選択をすべきだったと認める傾向が弱い」ことが示されています。
また、「上手く行った場合に“勝者の気分”になる傾向が強い」ことも示されました。

つまりは、「ナルシストの傾向がある人は、上手く行ったら自分の手柄であり、上手く行かなかったら自分のミスではない、という反応を示す傾向が強い」ということであり、「研究者はナルシストは失敗を反省し、学ぶ能力が低下している」としています。

これは非常によろしくないことです。

言いたいこと~自覚ができるなら改善ができる~

ここで言いたいのは、怒りっぽい他人がどうのこうの、という話ではなく、もし仮に自分自身が怒りっぽい人間であるならば(自覚が少しでもあるならば)、自己改善に取り組みませんか?という点です。

他人を変えるのは難しいですが、自分を変えるのであれば自己努力で可能です。
(他人のことは、「あぁ、この人は自尊心が高いだけの〇〇なんだな。」と思っておけばよろしい。)

必要なことは、改めて明確に自覚・意識をすることと、正確に知識を得ることです。

上述の記事では「後知恵バイアスというものの存在を知識としてしっかりインストールしましょう」と提案しています。
知っていれば、「あ、まずい。」と気が付く確率が高まるからです。

ここでの自覚・意識は「自分が怒りっぽい人間だ。」にあり、また知識は「怒りっぽい人間は自分を過大評価する傾向がある(その可能性がある)。」「ナルシストは反省し、学ぶ能力が低下している。」にあります。

字面だけ見るとかなりダサいので、明確に自覚・意識ができたのであれば、改善は近いのではないでしょうか。

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生産性・業務効率化

散歩/ウォーキングはクリエイティブな発想を生み出す

散歩中、唐突にアイデアが閃いた経験を持っている方は多いでしょう。
多くのクリエイティブな偉人も、散歩を好んでいた人は実際に大勢いらっしゃいます。
そして、散歩/ウォーキングがクリエイティブな発想を生み出す、ということは科学的にも正しいようです。

運動とクリエイティブな発想の関係

スタンフォード大学の研究者が運動とクリエイティブな発想の関係について調査しました。

https://news.stanford.edu/news/2014/april/walking-vs-sitting-042414.html

実験では176名の大学生や社会人を対象に、創造的思考を測定するためのタスクを実施しました。

実験では、トレッドミル(ランニングマシン)を使用した屋内での歩行、(車いすを利用した)屋内で着座したままの歩行、屋外での歩行、屋外での車いすを利用した歩行、という条件が設定されました。
また、着座したままや、歩いた後に車いす利用など、様々な組み合わせが設定され、創造性を測定するタスクが行われました。

創造性を測定するタスクは、(4つの実験が行われ、その内)3つの実験で発散的思考が行われました。
発散的思考とは、多くの可能性のある解決策を探ることで創造的なアイデアを生み出すための思考プロセスや手法のことです。
この実験では、与えられた物に関して、別の用途を考え、また他の被験者が発想していないものを新規性のある回答とするとともに、回答が適切であるかも評価されました。
4つ目の実験では、質問されたフレーズから複雑な類推を行うタスクが課されました。

その結果、3つの実験で、歩いている時の方が(例えトレッドミルであろうと)、創造的な成果が平均60%も増加することが示されました。
また、4つ目の実験でも、歩いている人の100%が1つでも斬新な例えを出せたのに対し、着座したままの場合、50%ほどの被験者が質の高い例えをだすことができませんでした。

つまり、どうやら散歩/ウォーキングはクリエイティブな発想を生み出すのは、科学的に正しいようだ、と言えそうです。

ただし「発散」に限る

ただし、上述の知見は留意点があります。

ブレインストーミングのような「発散」には効果があっても、「収束」や「集中」には効果がないようなのです。

研究では、被験者に単語連想課題(3つの単語を組み合わせて複合語を作る課題で、洞察力や集中力を測定するために使われる)を課した所、歩くグループは着座グループと同程度、もしくは軽度に悪い結果が示されました。

また、因果関係が不明である点や創造性の上昇効果が他の運動ではどうなのか?等、わかっていない点が多くあることにも留意が必要です。

ただ、別の研究でも、適度に疲労していたり気が散った環境の方が、「発散」の面でプラスであることが示されています。

https://www.scientificamerican.com/article/your-best-creative-time-not-when-you-think/

こちらの研究では、「少なくとも革新的なアイデアや創造的な解決策を求める人にとって、最高の状態でパフォーマンスを発揮することは過大評価されているかもしれません。」としています。


これらの知見を現実の仕事において適用するとしたら、「収束」や「集中」を要するタスクは、パフォーマンスが可能な限り良い状態に行い、「発散」に関連するタスクについては多少の疲労がある状態や気が散るような状態に行うことが良い可能性がある、と言えます。

1日のスケジュールの組み方に、一考を入れる価値があるかもしれません。

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