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生産性・業務効率化

頭しか使っていなかったとしても身体は疲れているという話

デスクワーク中心の仕事をしていて、頭しか使っていなかったとしても、身体がだるい、疲れた、という感覚を持った経験がある人は珍しくないでしょう。
その感覚、経験は実際に正しく、どうやら、頭の疲労は身体にも疲労を与えるようです。
英国ケント大学で行われた研究は、頭が疲れた被験者は身体的持久力が低下していることを示しました。

頭の疲労と身体の疲労の研究

英国ケント大学において、頭の疲労と身体の疲労の関係を調べる研究が行われました。

https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/japplphysiol.91324.2008

16人の被験者を対象に、90分間の認知タスクを行うグループ、もしくは90分間のドキュメンタリー番組の視聴を行うグループ(対照群)にわけて、その後の持久力を測定する調査が行われました。
持久力の測定には自転車が用いられました。

その結果、認知タスクを行い精神的に疲労したグループ(頭の疲労)において、対照群に比較して持久力が約85%にまで低下していたことが示されました。

この際、心肺機能や筋力などには影響がないことが示されました。
つまり、頭が疲労すると、なぜか身体も疲労していたということです。

アンケートにおいて、認知タスクを行ったグループは、持久力測定において、運動中の“努力感”が有意に高かったことも示されています。

このことは、頭の疲労が「頑張ろう」とする気力に影響を及ぼし、身体的な疲労感を覚える、ということを意味します。

疲れた帰ってきた日に、何もする気力がわかないのは必然、ということです。

早め早めの休憩を

別の研究では、たまりにたまった疲労は簡単に抜けないことが示されています。

研究では、95人の労働者を対象に、5日間の勤務中にとられた休憩について、その特徴が調べられました。

その結果、シフトの早い時間帯に休憩をとった場合、エネルギー回復の効率が高く、その後の仕事のパフォーマンスが高くなることが示されました。

また、効率の良い休憩により得られた仕事に向かうエネルギーは、健康面の改善、精神的疲労の軽減、仕事満足度の向上、シチズンシップの向上(組織のメンバーを支援しようという行動)等のプラスの影響を及ぼすことがわかりました。

なお、休憩の時間と頻度について、頻繁な短い休憩 > 頻繁でない長い休憩 > 頻繁でない短い休憩 の順でエネルギー回復の効率が変わることも示されました。

可能な限り、疲れた、と感じる前に早めに休憩を、そして休憩の頻度をあげることが重要です。

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生産性・業務効率化

人のために時間を使うと心の余裕が生まれるという話

人の時間は1日24時間で共通です。これは何をどうしようが動かない現実です。
しかし、人が時間をどのように受け止めるのか、つまりは主観的な時間の豊かさについては増やすことができるかもしれません。
キーは「人のために時間を使う」点にあります。

人のために時間を使うと心の余裕が生まれる

複数大学により次の論文を発表しています。

内容を端的に言うと、「人のために時間を使うと心の余裕が生まれる」というものです。

時間が足りないと感じる一般的な問題を解決するために、4つの実験が行われ、それにより直観に反するソリューションが提示されました。
それは「自分の時間の一部を人のために使うこと」でした。
1日24時間という客観的な時間を増やすことはできませんが、主観的な時間の豊かさは増やすことができるかもしれない、ということが明らかになったのです。
人のために時間を使うことが、自分の時間の豊かさに与える影響は、自己効力感の向上によってもたらされます。
つまり、人のために時間を使うことによって、人々は忙しいスケジュールの中でも、将来の活動にコミットしたいと思えるようになるのです。

人のための意思決定の方がクリエイティブになれる

他にも人のための意思決定の方が、自分のための意思決定よりクリエイティブになれる、という研究もあります。

難しい、クリエイティビティが必要な課題を解くとき、自分軸で考えるか、他人のために考えるか、このシチュエーションにおいて、他人のために考える方が答えにたどり着ける傾向が強かったのです。


いわゆる「聖書」の一節に「一番先になりたい者は、すべての人の最後となり、すべての人に仕える者になりなさい。」という言葉があります。

他人のために考え行動すること、が幸福感にもパフォーマンスにもポジティブな影響を与えるという、昔からある知恵なのかもしれません。

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ビジネスと心理学

高IQの人ほどプレッシャーに弱いし心身も病みやすいという話

高IQの人は認知能力の高さ故、多くのことに対処できる、というような印象を持つかもしれません。
しかし、現実には高IQの人ほどプレッシャーに弱いし、心身も病みやすい、という研究があります。
意図的に考えない、リラックスをする、という取り組みを意識的に行うことが重要です。

高IQの人はプレッシャーに弱い

次に紹介されている研究では、ワーキングメモリーの大きさと、プレッシャーによるパフォーマンスの変化について調査がされています。

シカゴ大学では次のような実験が行われました。

まず、被験者をワーキングメモリーテストの成績に応じて、高ワーキングメモリーグループ(HMV)と低ワーキングメモリーグループ(LMV)の2つのグループに分けます。

そして、低プレッシャー、および高プレッシャーの2つの条件で、簡単な数学の問題、そして複雑な数学の問題を解いてもらいます。

低プレッシャーの条件は、与えた問題を「練習」という位置づけで解いてもらい、高プレッシャーの条件は金銭的報酬や、周囲からの圧力、第三者評価などの現実的に起きうるプレッシャーを想定したものが設定されました。

その結果、高プレッシャー条件において、高ワーキングメモリーグループ(HMV)の方が、低ワーキングメモリーグループ(LMV)よりも、パフォーマンスの低下が顕著であることが示されました。

要求が高い時、HMVの方がパフォーマンス低下が起きやすい、つまり高IQの方がプレッシャーに弱い、ということが言えるのです。

高IQの人は心身を病みやすい

他にも次のような研究があります。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0160289616303324

端的に言うと、高IQの人の方がメンタル面や様々な疾病など、心身を病みやすい傾向があるのです。

これらの現象は、高IQの人は使える脳のリソースが大きいが故に過剰に情報を処理してしまうからだ、と推測されています。

つまり、認知能力の高い人は、考えすぎたり、分析しすぎたりする傾向がある、ということです。

なお、人類のIQは伸び続けている、という報告も存在します。

ミシガン大学のNisbett教授によると、IQの平均は1947年から2002年の間に18上昇しているという。30年で約10上昇している。この現象のことをFlynn effect(フリン効果)と呼ぶ。従って20歳の成人と50歳の成人を同じ知能検査で同じ基準で比較するのは難しい。50歳の成人の30年前に受けた知能検査の平均値は、現在の平均値より10近く低い。スウェーデン・ウメ大学のElijah Armstrongとブリュッセル自由大学のMichael Woodleyによると、一定の出題パターンを見抜く事で容易に解けるようになる問題の方が、パターン把握を認識しにくい問題に比べてフリン効果は顕著だという。

Wikipedia「知能指数」より

ただでさえ忙しい現代人ですが、心身を病んでいる人が増えているのは、上述の理由も考えられます。

意図的に考えない、リラックスをする、という取り組みを意識的に行うことが必要かもしれません。


休憩の取り方については、こちらも参照にしてください。

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ビジョン的思考

失敗をした時は素直に落ち込んだ方が反省する、という話

失敗した時の対処方法は、何が正しいでしょうか?冷静に、失敗の原因を振り返り、対策を練ることでしょうか?
もちろん、それは正しいのですが、失敗をしたときは素直に落ち込んだ方が反省する、という研究があります。
人間は失敗をした時に、正当化をしようとするので、感情面に重点を置いた方が良いからです。

失敗を冷静に分析すると正当化が行われる

失敗への対処方法について、非常に興味深い研究があります。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/bdm.2042

この研究では、失敗に対して冷静に、論理的に分析を行うのか、それとも感情的に落ち込むのか、でどちらの方がその後の失敗した事象に対して向き合うのか、が調査されました。

その結果、失敗の原因等を冷静に分析し、対策を練ることよりも、素直に感情的に落ち込んだ方が、反省をし、自己改善を図る傾向があることがわかりました。

人間の認知機能には、失敗をしたことに対して自己正当化をはかり、その後の改善を妨げるバイアスがあるから、とのことです。

失敗への対処は高速PDCA

こちらの記事で、失敗への適切な対処として、うまくいかなかった点を把握し、改善すべき点に焦点をあてること、そして次の挑戦までの期間を極力短くし、PDCAの回数を増やすことが大事であることを書きました。

つまり、冷静に分析をすることがいけない、ということではないのです。

大事なのは、失敗したら素直に落ち込んで、ネガティブな感情を受け止めよう、その上で改めて冷静になり分析をし、再挑戦しよう、ということです。

怒りっぽい人自己愛性向が強い人は、反省をし辛い、という研究もあります。
これは上述の、失敗したことに対する自己正当化と同様の話と考えられます。

感情的に割り切ることが必ずしも正しくはないと認識し、感情的に落ち込むことも重要であると捉えると、失敗への対処スキルが向上すると考えられます。

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生産性・業務効率化

ガムを噛むと認知機能や集中力が高まるという話

一流のスポーツ選手がガムを噛んでいる姿はありふれた光景です。
いわく、集中力が高まるから、ということなのですが、どうやらそれは科学的に正しいようです。
複数の研究により、ガムを噛むことにより、認知機能や集中力が高まることが示されています。

https://www.wired.com/2011/11/the-cognitive-benefits-of-chewing-gum/

ガムと認知機能の関係

セントローレンス大学では、159人の学生を対象に、ガムと認知機能の関係を調べた実験が行われました。

内容は、半分の学生はガム(無糖のものと加糖のもの)を噛むグループ、残り半分は何も与えられない対照群として設定し、難しい論理パズルを解くなどの認知機能を測るものです。

実験の結果、テスト前に5分間ガムを噛んだグループは、対照群と比較してほとんどのテストで有意にテストの結果が優れていたことが示されました。

ガムを噛むと認知機能が向上する

実験では6つのテストが行われ、5つのテストで認知機能の向上が見られ、残り1つの例外は「動物」などの与えられたカテゴリーからできるだけ多くの単語を挙げるように指示された「言語能力」を測るもののみでした。

噛むガムは無糖でも良い

なお、ガムが無糖であるか、加糖であるかは関係がなく、ガムに含まれている糖分が認知機能に与える影響ではないことが示されています。

つまり、ガムが認知機能を向上させる理由は、咀嚼により誘発される覚醒作用だ、ということです。

ただし、効果は20分間のみ

実験では、ガムを噛むことにより向上する認知機能について時間経過の影響も調べられています。

その結果、認知機能の向上はガムを噛んだ後の約20分間に限定されることがわかりました。

20分が経過した後は、ガムを噛んでいない対照群と同じ成績に落ち着いたとのことです。

ガムを噛むのは、大事な仕事や難しい仕事がある直前5分間とし、バシッと集中して物事にあたるのが吉と言えるでしょう。

タスク実行中に水を飲むとパフォーマンスが向上する、という研究もあります。
うまく組み合わせると、高いパフォーマンスを維持し続けられるかもしれません。

他にも集中力の向上やメンタルの安定効果がある

他にもガムを噛むことにより、様々なポジティブな影響があることが報告されています。

例えば、コベントリー大学で行われた研究では、ガムを噛んでいる人は眠気が劇的に減少し、集中力が向上する効果があること。

カーディフ大学で行われた研究では、、明らかに不快で集中力が妨げられる環境に置かれていても、ガムを噛むことによりメンタルが安定すること、が示されました。

ガムをくちゃくちゃ噛んでいる光景は、人によっては不快に感じるかもしれませんが、その効果の程を考えると一概に切って捨てるのはナンセンスと言えるかもしれません。

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マネジメント・リーダーシップ

人は褒められるとパフォーマンスが向上し問題解決能力があがるという話

世の中には、褒めると調子にのってつけあがるからパフォーマンスが落ちる。だから褒めない。
という人が意外にいるのですが、これは間違いです。
その理由は、褒められるのが嫌いな人は基本的にはいないこと、人は褒められるとパフォーマンスが向上し問題解決能力があがるからです。

「褒め」とパフォーマンスの関係の研究

ハーバード・ビジネス・スクールは、「褒め」とパフォーマンスの関係の研究を行いました。

https://www.thecut.com/2015/09/please-tell-me-about-a-time-i-was-awesome.html

実験では、75人の被験者を対象に、問題解決能力を測るテストが行われました。

半分の被験者については、友人や家族、同僚に、被験者を褒める内容や場面について書いてもらいました。
そして、テストを行う直前に、そのテキストが提示されました。

残り半分の被験者については、特になにもせずに、そのままテストを行ってもらいました。

なお、行うテストは、「ドゥンカーのロウソク問題」と言われる、古典的な問題解決能力を測るための認知能力テストです。

ドゥンカーのロウソク問題:このテストでは、被験者に1つの問題が与えられる。それは、コルクボードの壁にロウソクを固定し、点火するというものである。ただし、溶けたロウが下のテーブルに滴り落ちないようにする必要がある。この問題を解決するにあたり、被験者はロウソク以外に、1束のマッチ、1箱の画鋲だけを使うことが許される。

ロウソク問題の解答:箱から画鋲を取り出して画鋲で箱をコルクボードに固定し、ロウソクを箱の中に立ててマッチで火をつけるというのが答えである。機能的固着のコンセプトが予測するところによると、被験者は箱について画鋲を入れるための道具としてのみ見て、そこに問題解決に有効活用できる別個の機能要素があるとはすぐには気付くことができない。

Wikipedia「ロウソク問題」より

人は褒められるとパフォーマンスが向上する

テストの時間制限は3分で、実験の結果、時間内に問題を解けたのは「褒められた」グループでは約51%、対照群である「褒められていない」グループでは約19%にとどまる形となりました。

つまり、人は褒められるとパフォーマンスが向上するのです。

この傾向は他の実験でも示されており、「良い状態の自分」を想起できたグループは、忍耐力が向上したり、スピーチを問題なくこなすなど冷静さを保つ能力が向上することがわかっています。

人は褒めた方が良い

これらのことから、基本的には人は褒めた方が良い、ということがわかります。

褒められることが嫌いな人は、多くの場合いないことも容易に想像できるでしょう。
実際、(それがどこまで健全かはともかく)人間関係を長く続けるためには、否定的コミュニケーションより、肯定的なコミュニケーションを重視した方が良い、とされています。

また、人は自分にとって都合の悪い、耳に痛いフィードバックについては正確性に欠ける、信頼できないものと判断する傾向があるという研究もあります。
つまり、成功の要因は個人に起因するものであり、失敗の要因は外的なものであると、以前よりも強固に感じるようになってしまう傾向があるのです。

ビジネスでも育児でも。

もちろん、褒めるだけではダメなシチュエーションもあるでしょうが、褒めることを重視してみると、非常に良い結果が返ってくるでしょう。

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生産性・業務効率化

自然に触れ合うと認知機能やクリエイティビティが向上するという話

現代は多くの人が都市部に住むようになり、自然は身近なものではなくなりました。
自然には人の緊張した神経を落ち着かせ、疲労を癒す効果があるとされています。
また、どうやら自然に触れ合うと認知機能やクリエイティビティが向上するという効果もあるようです。

Mom Was Right: Go Outside

自然に身を置くとクリエイティビティが向上する

カンザス大学で行われた研究では、人里離れた場所でのハイキングがクリエイティビティにどのような効果を与えるのか、調査が行われました。

その結果、バックパッカーにトレイルに入る前と入った後で、クリエイティビティに関するテストを行った所、テストの結果が約50%も向上したことが示されました。

自然は、虫や温度・湿度等、不快に感じる環境ではあるのですが、脳にはポジティブな影響を与えるようです。

研究では、自然に身を置いて3日間で、ポジティブな影響がピークになる、としています。

緑の中を散歩するとメンタルが回復し、認知機能も向上する

他の研究でも同様の効果が示されています。

ミシガン大学で行われた研究では、大学生にGPS受信機を装着した状態で散歩をしてもらいました。

樹木園を歩く学生も入れば、繁華街を歩く学生もいました。

その後、複数の心理テストを受けてもらいました。

その結果、自然の中を散歩した人は、メンタルがポジティブに向上し、注意力や短期記憶の点数が有意に向上していることが示されました。

短い時間でも良いので緑を眺めると休憩になる

別の研究では、短い時間でも緑を眺めるだけで生産性が向上する、という結果も示されています。

これらの研究は、都市部に身を置いている人に限定された効果かもしれません。

しかし、現代人の多くは大なり小なり自然と身近でない人の方が多いでしょう。

そんな現代人にとって、定期的な旅行やちょっとした散歩、もしくはほんのちょっとの短い時間の休憩でも良いので、自然に触れ合うことは様々なポジティブな影響があるということです。

「サバンナ理論」によると、人間は太古の昔から基本的な性質は変わっていない、とされています。

サバンナ理論:人間の脳は、はるか昔アフリカのサバンナで暮らしていた頃から基本的に変わっておらず、現在でも、サバンナになかったものはうまく認識できないという。
現代人の、テレビやポルノへの反応にも、この原則が当てはまる。テレビについては、画面に映っている映像がつくりものに過ぎないことが、われわれにはわからない。サバンナにはテレビなどなかったからである。
この原則を知能にあてはめたものが、「サバンナーIQ相互作用説」である。それによれば、大昔の祖先の環境(サバンナ)に存在しなかったものをどれだけ理解できるかで、知能の高低を説明することができる。
音楽を例に挙げれば、楽器の演奏(とくにクラシック)に惹かれる人は、知能が高い傾向にある。サバンナには楽器などなかったからである。音楽の起源は「歌」(声を出すこと)だったと考えられている。
また書かれた文章、活字に惹かれる人も同様である。そのほか、さまざまなことが、この説によって説明されるという。
Wikipedia「サトシ・ナカザワ」より

そして、認知能力が低い人にとって都市環境はストレス負荷が高い、とされている。

そのように考えれば、現代社会がデフォルトで、人にとってストレスフルであろうことは当然と言えます。
意識的に自然の中に身を置くことを意識すると良いでしょう。

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マネジメント・リーダーシップ

テキスト・コミュニケーションは嘘をつくのに抵抗を感じにくいという話

デジタル・コミュニケーションが当たり前になり、テキスト、音声、動画といった方法による対話が頻繁に行われています。
ITリテラシーが特に高い層を中心に、効率的であるとしてテキストが最も好まれる傾向がありますが、これが必ずしも最適であるとは限りません。
人はテキストだと噓をつくのに抵抗を感じにくいからです。

模擬取引を通じた嘘のコミュニケーションの実験

ブリティッシュ・コロンビア大学が行った研究において、人は対面やWeb会議といったコミュニケーション方法よりも、テキスト・コミュニケーションにおいて嘘をつく傾向が強いことが示されています。

https://mashable.com/archive/people-more-likely-to-lie-through-texts-study

研究は、170人の学生を対象に、株式市場における「買い手」と「売り手」に分かれたロールプレイを通じて行われました。

学生たちは2人1組となり、テキスト、音声、動画、対面の4つのコミュニケーション方法のいずれかを用いて、模擬的な株式売買を行うこととなりました。

ロールプレイへの取り組みの真剣度を高めるため、学生たちには最大50ドルまでの賞金が約束されています。
売り手は、より多くの株式を販売することにより報酬を得て、買い手は株価の変動に合わせて報酬が変化します。

なお、この実験では、株価が半分に下落するように仕組まれており、このことは売り手のみに伝えられるという設計となっていました。

人はテキスト・コミュニケーションだと嘘をつきやすい

この実験の結果、人は、音声、動画、対話といった方法に比較して、テキストでのコミュニケーションにおいて、嘘をつくのに抵抗を感じにくい、ということが示されました。

テキストにより買い手に情報を提供した売り手は、動画(ビデオ会議)でのやりとりに比べて約95%、対面でのやり取りに比べて約31%、嘘をつく確率が高かったのです。

興味深いのは動画(ビデオ会議)でのやり取りでは嘘をつく傾向が、対面より低かった点です。

研究者は、動画においては、買い手が「自分自身が注目し、言動の精査をされている」と感じるため、正直になる傾向があるのでは、としています。

商談においてはWeb会議利用が望ましいか

この研究は、株式投資といった分野に限らず、一般のビジネスにおいても有用です。

効率的だから、という理由で、重要な商談をテキストで行えば、相手が何かしら嘘をつく、もしくは真実を話さない可能性が考えられるからです。

これはよくよく考えれば当然と言えるかもしれません。

リアルタイム・コミュニケーションで、しかも表情が見える状況ですと、冷静に自分にとって有利な情報のみを伝達することは難易度が高くなるのは容易に想像がつきます。

テキスト・コミュニケーションですと、ゆっくりと思案して、相手に表情が見えない状況で、しかるべき情報のみを相手に伝達することが可能です。

上述の結果を踏まえれば、重要なやり取りについてはWeb会議を用いてコミュニケーションを取るのが総合的に見て、最も効率的であると考えられます。

マネジメントにおいても有用

また、実験では、嘘をつかれたことにたいして、どれだけ怒りを感じたのか?についても調査がされています。

その結果、テキスト・コミュニケーションで嘘をつかれた場合、面と向かって嘘をつかれた場合に比べて、怒りを感じた、と答える割合が約20%も高かったことが示されました。

このことは、従業員に何か不都合な事実を伝達する場合、テキストでごまかすのではなく、きちんと対面で伝達した方が、マネジメントにプラスになることを示唆しています。

どれだけ技術が発達しても人の基本的性質に変化はありません。

相手も人である、向こう側に人がいる、ということを認識してコミュニケーションを取るのが吉と言えるでしょう。

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生産性・業務効率化

タスク実行中に水を飲むとパフォーマンスが向上するかもしれない

仕事中に何かしらの飲み物を横においている人は珍しくないでしょう。
このことは単純にのどが渇いた時の飲み物、という意味以上にパフォーマンス向上効果があることが一部の研究で示されています。
どうやら、タスク実行中に水を飲むとパフォーマンスが向上するかもしれないのです。

テストの成績と飲み物の関係を調べた研究

次の研究では、学生を対象に飲み物を飲む学生と飲まない学生で、テストの成績に差が出ることを示しました。

https://www.sciencedaily.com/releases/2012/04/120417221621.htm

研究では、学生447人を対象に行われました。
71人は基礎学年、225人は1年生、151人は2年生です。
学生の内、水のボトルを持ってテストに臨んだ人は約25%でした。

そして、学生のテストの点数と、飲み物の持ち込み状況について関連付けて分析が行われました。

なお、研究では「テストの点数が高い優秀な学生は飲み物を持ち込む傾向がある」という可能性を排除するために、学生の成績に関して均一化して調査が行われています。

テストに飲み物を持ち込むと成績が上がる

調査の結果、飲み物を持ち込んだ学生は、持ち込んでいない学生と比較して平均4.8%、高い得点を得られました。

学年別には高学年ほど飲み物を持ち込む傾向があり、2年生は約31%、基礎学年と1年生は約21%の持ち込み率でした。

成績の向上幅としては、基礎学年が最大約10%、1年生では5%、2年生では2%の改善が見られました。

つまり、若年層ほど改善効果が高い、ということが示されています。

飲み物を飲むと成績が向上するのはなぜか?

飲み物を飲むと成績が向上するのはなぜなのでしょうか?

研究者は、次のような要因を指摘しています。

  • 水分を摂取することで思考機能に生理的な影響を与え、その結果としてテストの成績が向上した
  • 水分を摂取することで、テストの成績に悪影響を与えるネガティブな不安感が和らいだ

社会人にも有用なはず

上述の研究は学生に対して行われたものですが、社会人にも有用な知見と考えられます。

例えば会議中や締め切りが迫っているタスクの遂行中を想定すると、適切な水分摂取を行えれば、渇きによるパフォーマンス低下を防げるでしょうし、不安感が和らげば仕事に集中ができるようになるはずです。

特に、経験の浅い社会人や、入社したばかりの人において、効果があると考えるのは不自然ではありません。

実際、別の研究では甘い飲み物を飲むと攻撃性が和らぐ、ということが示されています。

水分摂取は非常に安価で手軽な方法です。
会議中や仕事中など、飲み物を持ち込むことを従業員の判断に委ねるのではなく、積極的に推奨するのはいかがでしょうか。

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生産性・業務効率化

空腹だと判断力が落ちて安易な意思決定をするようになるという話

疲労やストレス睡眠不足が意思決定やリスク判断を歪めて、ネガティブ面を軽視し、ポジティブな方向に走りがちにしてしまう、ということは知られています。
そして、疲労の一種でもあろう空腹についても同様で、判断力が落ちて安易な意思決定をするようになってしまうことが示されています。
今回は非常に恐ろしい研究を紹介します。

空腹と裁判官の判断の関係

次の論文では、司法判断に与える外部要因について研究がされています。

https://www.pnas.org/content/108/17/6889

まず、このグラフを見てください。

こちらのグラフは、10ヶ月間にイスラエルの刑務所で行われた1,112件の仮釈放審査会の結果をまとめたものです。
縦軸は、裁判官が仮釈放を認めたケースの割合で、横軸は、1日の中で審問が行われた順番を示しています。
点線は、裁判官が食事休憩をとったタイミングを示しています。

囚人が仮釈放される確率は、はじめは65%程度と高いのですが、数時間後には劇的に低下していきます。
そして、食事休憩から戻ってくると、再度確率があがり、また時間を置くと低下していく、ということが明らかです。

囚人の人生は、1日のうちのどの時間帯で心理されたのかに左右されてしまう、ということであり、もっと言うと、裁判官のお腹の空き具合に左右されてしまう、ということです。

空腹以外の要因の影響では無い模様

この結果は、空腹以外の別の要因の可能性もあります。

しかしながら、心理に携わったのは平均22年の裁判官経験を持つベテランであり、また研究は10ヶ月間の期間に渡った調査を集計したものです。
集計対象は、研究対象国の国内で行われた仮釈放申請の40%に相当し、極端な事例を集めたものではないことも指摘できます。
(なお、各裁判官は1日14件から35件の案件を検討し、1つの判断に約6分を費やします。食事休憩は2回であり、審理は1日3回に分けて行われます。)

また、再犯の可能性がある囚人や、特定の更生プログラムに参加していない囚人には仮釈放を認めない傾向があるなど、適切に審理が行われているという印象も持てます。

その他にも、性別や民族、罪の重さ等々の要因の影響も見られませんでした。

つまり、裁判官は全ての囚人を平等に扱っていたのです。
空腹という要因を除いて。

お腹が空くと人は簡単な選択肢を取るようになる

心理学者は、この現象について簡単な原理により説明ができる、としています。

意思決定を繰り返す作業は精神的リソースを消耗させます。
そして、判断回数が多ければ多いほど消耗し、最も簡単な選択肢を選ぶようになります。
つまりは仮釈放申請の却下です。

この消耗は食事休憩により一定回復させることができるため、休憩から戻った後は、仮釈放を認める確率が向上するのです。

優秀な裁判官も所詮は人間であり、人間である以上、心理的バイアスから逃れきることはできません。

人である以上、疲れたら判断ミスをする。

そのことを意識する必要があるでしょう。

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