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社員数〇〇人の壁を乗り越えるには~25%へのアプローチ~

一般的に社員の人数が30人、50人、100人と増えていくに従い、乗り越えなければいけない「壁」があると言われています。
多くの経営者や人事など組織構築に携わる方が、この悩みを迎えてきました。
ここでは、「25%へのアプローチ」という考え方に則って、社員数〇〇人の壁の乗り越え方について考えていきます。

社員数〇〇人の壁とは

ベンチャー企業が成長するに従い、必然的に社員数も増えていきます。

少人数の時は、経営者や一部の中核メンバーの目が会社全体に届くために、組織的な課題は起きづらいのですが、いくつかのポイントごとに、新たな課題が発生し、そしてその課題を乗り越えていく必要に迫られます。

この、いくつかのポイントのことを「壁」と表現します。

一般的には、社員の人数が30人、50人、100人・・・と増えていくに従い、乗り越えなければいけない「壁」が訪れます。
(この〇〇人は、事業内容や、構成人員などによっても変動するが、概ね10人、30人、50人、100人、300人、500人、1000人、、、と、1-3-5の数で「壁」が出現すると言われている。)

25%へアプローチすれば良い

それでは、次に「25%へのアプローチ」についてです。
これは日本では全く馴染みが無く、言葉としても成立していないので、「25%へのアプローチ」と表現することとします。

さて、ペンシルベニア大学の研究にて、組織的規範を改革するためには、どれくらいの人間に働きかける必要があるのか?という論文がだされていました。

この研究によると、組織全体の中で、マイノリティの規模が一定数以上に達すると、その組織コミュニティに影響を及ぼすことができるとされています。
これは、過去の多くの研究でも示されており、マイノリティの規模が10%から40%に達すると、変化が起きると言われていました。
この変化が起きるポイントを「臨界点」と呼びます。
この実験では、より大規模な実験を元に、この「臨界点」がどれくらいなのか?の精度が高められた形になります。

この臨界点は25%です。

臨界点が25%を超えると、組織内で急激な変化が発生し、改革を受け入れる形になるとのことです。
(改革を受け入れることのインセンティブを与えると、この効果がより高まるそうです。)

つまり、社員に対して、全体の25%が改革を受け入れるように働きかけると、社員数〇〇人の壁を乗り越えられる変化を起こせると考えられるのです。

これが「25%へのアプローチ」の考え方です。

スパン・オブ・コントロールで考えてみる

それでは、スパン・オブ・コントロールを元に、具体的な数字を用いて考えてみます。

スパン・オブ・コントロールについては、次の記事も参考にしてみてください。

スパン・オブ・コントロールを2~7までで変動させると共に、その変動にあわせて合計人数(社員数)が1-3-5の数になるように階層を設定したのが次の表です。
各階層は、必ずしも会社組織における階層(等級)とは一致しないでしょうが、概ねとしての組織階層として認識ください。

この通り、1-3-5の数毎に出現する壁にあわせて、臨界点25%に達する階層が変わってきます(青色の網掛け)。
この臨界点に達した階層と、その一つ下の階層が、社員数〇〇人の壁を乗り越えるための、重要なアプローチ対象となります。

各フェーズに沿って、必要な対応を見ていきましょう。

社員数~10人

まず社員数が10人までは、創業社長と役員クラスの中核メンバーが、大きな影響力を発揮する形になります。
このステージは、ただ事業の立ち上げだけを考えれば良いフェーズです。

社員数10人の壁(10人~30人)

社員数10人の壁を乗り越え、30人に達するまでには部課長クラスの存在感が大きくなります。
社員数10人~30人の範囲内の内に、各セクションにおける「マネージャー」的役割の人員を配置し、各メンバーに対して指導や管理監督が行われるよう、組織を構築していく必要が発生します。

社員数30人の壁(30人~50人)

社員数30人の壁を乗り越え、50人に達するまでには現場リーダーが主役となってきます。
ここから先は、しばらくは現場リーダーの存在感が大きいフェーズが続きます。
フラット組織であったとしても、明確に各階層の役割を設定し、マネジメントが行われる体制を構築していくフェーズに突入するわけです。

同時に、部課長クラスへのマネジメント教育の重要性が増してきます(黄色の網掛け:15%)。
ベンチャー企業は若い方が多く、必ずしも部下を持ったり、持っていたとしても大勢の人数をマネジメントしたことがある人は少数です。
この段階で、部課長クラスへの、「マネージャーとはなんたるや」をインプットし、成果に繋げていく仕組みが必要となってきます。

社員数50人の壁(50人~100人)

このフェーズに入ると、スパン・オブ・コントロールを拡大していかなければならなくなります。
というのも、人材市場から優秀な人材を採用するのが困難になり始めてくるからです。
一人の人間が管理監督できる範囲を増やしていかなければ、組織拡大ができないのです。

コミュニケーションやプロジェクト管理を簡便にする各種ツールが必須となってきます。

なんだかんだ言って、一人一人がコミュニケーションをしっかりとれるサイズ感なので、ミッション・ビジョンなどの希薄化以上に、業務の効率化の観点でハードルが出てくる印象です。

社員数100人の壁(100人~300人)

スパン・オブ・コントロールが更に拡大します。

そして、人員数が増えたことにあわせて、部課長クラスのみならず、現場リーダークラスへのマネジメント教育の重要性が増してきます(赤色の網掛け:23%)
優秀な現場リーダーを牽引していく必要があるため、当然に部課長クラスのレベルアップも要求されます。

一気にやらなければいけない組織課題が増えるため、多くの組織がこのレンジ内で成長を止めていきます。

経営者も、この辺りから明確に「もう自分の組織では無い」と自覚し、権限移譲を進めないと組織が停滞していきます。
更に、一人一人がコミュニケーションをとれるサイズ感では無くなってくるため、会社がなんのために創業し、どこを目指しているのか、をきちんと共有していく必要があります。

この段階が一つの大きな壁と言えるでしょう。

社員数300人の壁(300人~1,000人)

この辺りに来ると、会社組織としても、組織体制を成長・拡充していくためのノウハウが蓄積されていきます。
急激な人材採用を進めるなどの無理をしなければ、一定安定して、組織の拡大を図れるフェーズです。

実際、500人の壁、という言葉をあまり聞かないという点も、この考えを補強していると思われます。

焦らず、しかし確実に組織を育てていけば良い段階です。

社員数1,000人の壁(1,000人~)

社員数1,000人を超えると、組織階層を更に拡充しなければいけなくなります。

つまり、メンバークラスに対しても、マネジメント教育を実施する必要性が出てくるのです。
(マネジメント教育は、必ずしも課長とかが受けるような教育ではなく、シンプルに人と人との関係性の話であったりです。)
わざわざ大規模な全社集会を意識的に行っている会社が多いのも、メンバー一人一人に、組織の重要な人物であることの意識を持ってもらうためです。

ただ、このフェーズに達すると、スパン・オブ・コントロールが限界に到達するため、一人一人のキャパシティという観点では安定化をはじめます。

1,000人の壁を越えた組織は、かなり安定して人員拡大を図れる状態になります。


これまで、多くの経営者や人事など、組織構築に携わる方々により、社員数〇〇人の壁を乗り越えるためのノウハウが公開されてきました。

今回は、「25%へのアプローチ」の考え方に基づいて、各フェーズを切ってみたわけですが、驚く位に周知されているフェーズ感と、各フェーズへの対応ノウハウが一致することがわかりました。

日本人はどうしても真面目な気質なので、メンバー全員に丁寧に向き合わなければならない、と考えてしまいがちです。
そして、その真面目さゆえに、一人でもマネジメントできないメンバーが存在すると、自分はマネージャーに向いていない、できない、とも考えがちです。

「25%へのアプローチ」の考え方に基づくと、必ずしも無理してメンバー全員に丁寧に向き合わなければいけない、というわけではないことがわかります。
多くの業務において効率化が求められるように、マネジメントにも効率化が必要なはずです。

この「25%へのアプローチ」の考え方は、マネジメントの効率化を図る、重要な考え方であると言えます。

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リモートワーク時代の福利厚生制度リモートワーク時代の福利厚生制度

ビフォーコロナ・アフターコロナにおいて、決してマジョリティでは無いにせよ、働き方が劇的に変わった会社も多いのでは無いでしょうか。
ここでは、リモートワーク時代において、適用できる福利厚生制度は何か、について考えていきます。
並べて見ると、結構な種類が存在します。

リモートワークに対応する福利厚生制度

福利厚生制度の分類

リモートワークに対応する福利厚生制度を考える上で、まず、大枠の分類を考えました。
下記の8つです。

住宅・通勤 : 家賃やローンなどの住宅にかかる費用の補助
健康・医療 : 健康診断などの健康や医療に関連する費用の補助
家族・育児・介護 : ベビーシッターを雇う費用の補助など家族に関連する支援
レクリエーション : 会社主催,社員主催の各種懇親会の費用の補助
慶弔・災害 : 慶弔関連の見舞金や休暇など
報酬・財産形成 : 勤続手当や会社の株式に関連する福利厚生
業務環境整備 : PC機器の購入など、業務環境を整備するのににかかる費用の補助
キャリア補助・成長 : 業務に関連する書籍の購入やWEBセミナーへの参加費用補助

これらは更に、金銭補助・非金銭、挑戦意欲の醸成、安心感の醸成で区分できます。

上記に従い、リモートワークに対応する福利厚生制度を列挙したのが次の表になります。

リモートワークに対応する福利厚生制度

項目 内容 金銭 挑戦 安心
住宅・通勤 住宅手当  
  引越手当  
         
健康・医療 食費補助  
  予防接種  
  衛生用品購入費補助(マスク等)  
  健康診断アドオン補助  
  フィットネス補助  
  生命保険費用補助  
  産業医面談    
         
家族・育児・介護 介護・育児費用補助(シッター利用費など)  
  リフレッシュ休暇    
  ファミリーデイ(任意休暇)    
  男性向け産休制度    
         
レクリエーション 歓送迎会補助(WEB)  
  懇親会補助(WEB)  
         
慶弔・災害 慶事祝金  
  弔慰金  
  慶弔休暇      
         
報酬・財産形成 持株会制度  
  勤続手当  
  退職金  
  401K等補助  
  ストック・オプション  
  定期インセンティブ  
         
業務環境整備 PC機器購入補助  
  通信機器費用補助(月々の通信費など)  
  オフィス家具購入補助  
  オフィス用品購入補助  
         
キャリア補助・成長 資格取得費・維持費補助  
  書籍購入費補助  
  セミナー参加費補助  
  新規事業チャレンジ費用補助  

この通り、結構な数の制度をあげることができ、しかも従来から存在した福利厚生制度がそのまま適用できるものがほとんどです。

リモートワークに対応する福利厚生制度として特有のものと言えば、業務環境整備にかかるものでしょうか。
PC機器や通信環境、オフィス家具、オフィス用品は、これまでは当然に会社側が用意し、従業員に貸与していました。

セキュリティの問題など、クリアしなければいけないものが一部あるにせよ、中小企業において出来る対応に限界がある中、業務環境整備にかかる費用を補助するのは検討する価値があると言えるでしょう。

財源(予算)はどうするか?

財源(予算)はどうするか?

それでは、財源(予算)の手当については、どのように考えれば良いでしょうか?

これはシンプルに、これまで適用していた福利厚生制度の予算をあてる方法もあります。
また、通勤手当を削減できること、オフィス縮小やリモート増加に伴う家賃の節約、オフィス用品の節約で対応するコストを充当することができます。

コスト削減分を福利厚生制度にあてるメリット

この点は、良くも悪くも、の話なので、重要ポイントではありつつも、最後の項としました。

リモートワークに対応することにより、通勤手当、家賃、水道光熱費、オフィス用品費などが削減できます。

これら、削減したコストを従業員に還元する形になるわけですが、給与に充当せず、福利厚生制度に充当するメリットは何でしょうか?

これは、給与は一度上げてしまうと、簡単には減らせないからです。
現在の労働基準法は従業員にとって有利な法律となっており、就業規則・給与規程の従業員にとって不利益になる改定は難しいのです。

一方、福利厚生制度は会社側が任意に設定する制度ですので、柔軟に改廃が可能です。
(仮に、就業規則などで明文化してしまった場合はこの限りでは無いので、あくまでも会社の運用ルールとする位置づけが良い。)
そのため、仮に業績が悪化した場合などに、柔軟に一時中断の措置が取れるのです。

これらは、会社側に一方的に有利な対応に見えるかもしれませんが、会社が傾いては、従業員の生活を守るという意味で、元も子も無いので、労使双方にとってニュートラルな対応と言えます。
見方次第で、評価も変わる話ですので、冒頭の通り「良くも悪くも」と書きました。

また、あまり効果の出なかった福利厚生制度を柔軟に改廃できるのもポイントです。
会社毎に、最適な福利厚生は異なるので、どこかの会社で良かったからと言って、自分たちの会社で効果が出るとは限りません。
そのため、柔軟に改廃できる、福利厚生制度にコスト削減分を充当するのは意味が高いのです。


以上、リモートワーク時代の福利厚生制度について考えてきました。

最後に書きました、会社毎に最適な福利厚生制度は異なる、というのがある意味最大のポイントかな、と考えています。

一発で自社に最適な福利厚生制度を導入することは不可能です。
会社のステージや状況によりも異なります。
導入しては効果を見て改廃し、を繰り返し、柔軟に最適解を模索するのが良いでしょう。

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ベンチャー企業に転職したい人へ(メリット・デメリット)

近年は投資環境が充実してきており、ベンチャー企業が増加しています。
あわせてベンチャー企業に就職する、したいと希望する方も増えています。
ここでは、ベンチャー企業に転職することのメリット・デメリットを解説していきます。

ここで言っているベンチャー企業の定義

まず、ここでのベンチャー企業の定義です。

というのも、人によりベンチャー企業の定義が異なるため、明確にしておかないと誤解を招くからです。

ここでは次の4点をベンチャー企業と定義します。

  • 小規模,少人数
  • 自社独自の製品や強みがある
  • 成長意欲が高く拡大を志向している
  • (上場ゴールでない)

小規模、少人数ですが、大企業でも「自社はいつまでもベンチャー精神を有する、ベンチャー企業である!」と語っている光景を見かけます。
このことは決して間違いでは無いのですが、違和感を抱きやすい内容です。

自社独自の製品や強みですが、ベンチャー企業をうたっている企業でも、事実上、他社の下請けや代理店、フランチャイズである場合があります。
これも決して悪いことでは無いのですが、他社の意向の影響を受けやすい点や、どうしても利益構造が良好でなく、成長の難易度が高い場合が多いので、あげています。

成長意欲が高く大企業を目指している、はある意味当然の話です。
上場(IPO)を通過点として置き、さらに成長しミッション・ビジョンを実現して行こう、というマインドを志向していること。
これはベンチャー企業の定義として重要でしょう。
この点は括弧書きした4つ目、(上場ゴールでない)とも通じます。

口では、ミッションやビジョンをうたっていても、実際は上場時の利益、つまりお金持ちになることが一番の目的の創業経営者もいます。
これも、決して悪いことではないのですが、投資家やミッション・ビジョンに共感して入社した社員にはたまったものではありません。
ただ、この点はわかり辛いので、括弧書きにしました。


なお、ベンチャー企業により、忙しいか忙しくないか、給料が高いのか低いのか等々は全く異なります。
全体として、忙しい傾向が強い、給料が低い傾向が強い、という点は指摘できますが、業種やステージなどにより異なるので、一概に言えません。
この点は認識しておいてください。

(メリット)倒産リスクが高いのでは???→心配不要ですよ

それではメリットです。

倒産リスクが高いのでは??? ⇒ 心配不要ですよ

メリットを考える前に、よくある心配事に触れるのが良いでしょう。
よくある心配事は?と言うと、「倒産リスクが高いのでは?」という点でしょう。
実際、ベンチャー企業の経営は波が大きく、体力も弱いので、倒産リスクは高いです。
ただ、この倒産リスクは事実上デメリットにはならず、むしろ心配する必要が無いと言えます。

それでは、心配する必要が無いのはどんな理由からでしょうか?
それが、メリット部分の話になります。

ベンチャー企業のメリット ⇒ 圧倒的に成長しやすい

ベンチャー企業ですが、小規模・少人数であることから、一人がやらなければいけないことが多数存在します。
予算や権限も、早く、若くして握れるチャンスも多数存在します。
制度や仕組みが整っていないので、自分たちで考えて構築していく必要があります。
つまり、個人の成長がどんどんできるのです。
成長できれば、仮に倒産をしたとしても、容易に転職ができるので、事実上倒産リスクを心配する必要が存在しません。

この「成長」がベンチャー企業の最大のメリットです。

若い内に圧倒的な成長ができれば、その後の人生の難易度が激減するので、これは多大なメリットと言えるでしょう。

注意事項 ⇒ 役職勘違いや器用貧乏に気をつけて

ただし、諸々注意や認識は必要です。

まず、ベンチャー企業は少人数であるが故に、早く、しかも若くして役員(執行役員含む)や重要役職につくことが珍しくありません。
しかし、そのタイトルに見合うだけの能力が簡単に見につくか、というと当然そこまで都合が良いわけがなく、転職した際に、望むポジションにつけない、つけたけれど必要な能力が不足している、ということが発生し得ます。

転職時は、ポジションダウンなどが起き得る、むしろその方が良い場合がある、ということは認識しておく方が良いでしょう。

また、一人がやらなければいけないことが多く存在する分、逆に専門性を磨けず、器用貧乏な人材になってしまう場合もあります。
(もちろん、あくまでも会社次第なので、高い専門性を身につけられる、身につけやすいシチュエーションも当然に存在します。)

そのため、自分の得意分野、専門分野は何なのか?は意識していく必要があるでしょう。

補足2点

大企業では成長できないの?

大企業は、ただのタスクを消化するだけのポジションに配属される場合もありますが、一方でベンチャー企業では到底扱えない規模の金額を動かすポジションにつくこともあるため、成長のベクトルが異なるだけ、という意見は併せて認識しておくと良いかもですね。
更に、大企業では制度や仕組みが整っている場合が多いので、会社のあるべき姿を学ぶことができる、という利点もあります。
その意味で、大企業もベンチャー企業も、別に関係無いよ、という意見も当然正解だと思います。
最終的には本人の意欲次第ですね。

ストックオプションはメリットじゃないの?

ストックオプションによる財産形成の可能性をメリットとしてあげる人もいますが、これはむしろデメリットだと思うので、下記で言及します。

(デメリット)ベンチャー企業に転職してはダメな人

それでは、デメリットに移ります。

デメリットの話をするのには、よりイメージが掴みやすいと考えます。
そのため、「ベンチャー企業に転職してはダメな人」という観点で語ります。

  • メンタル弱い人
  • 承認欲求が強い人
  • 純粋に能力が低い人
  • 福利厚生を重視する人
  • 大企業に最適化された人
  • フラット組織にこだわる人
  • 社会貢献の意識が強すぎる人
  • ストックオプションが目的の人

メンタル弱い人

ベンチャー企業はアップサイドもダウンサイドも、波が大きいです。
そのため、どうしても外部内部両面で振り回されることが珍しくありません。
雰囲気が良い時もあれば、悪い時もあり、またその差が大きいです。
雰囲気が悪い状況、先行きが読めない状況で心を壊す人が決して珍しくありません。

承認欲求が強い人

上述の通り、ベンチャー企業は早く、若くして重要役職につきやすいです。
一方、企業が成長していくと、後からどんどん優秀な人がジョインしてきます。
そうすると、自分より役職が低い人の方が優秀、という状況が発生しやすく、自尊心が傷つく場面も増えてきます。
承認欲求が強い人にとっては、辛い場面が増えるので、要注意です。

純粋に能力が低い人

ベンチャー企業は制度や仕組みが整っておらず、自分たちで考えながら仕事のやり方を構築していかなければなりません。
さらに、やらないことの範囲が広く、単純に「これだけやっていればOK」ということがありません。
自立的に動けない人、単純に能力が低い人にとっては、辛い状況が多数あります。

福利厚生を重視する人

そもそもとして業績が安定していないのですから、福利厚生で弱い場合が多いです。
また、福利厚生の充実をうたっているベンチャー企業でも、実態は消化率が悪く、機能していない場合が多いです(こういう企業でも、福利厚生の一覧として掲げていることがあるので注意です)。
期待と相違してしまう場面が想像できるので、認識しましょう。

給料があがっていくことを期待するのも同様ですね。

大企業に最適化された人

大企業では、ヒトモノカネが潤沢ですし、知名度も高いから仕事をしていて「看板」効果が機能します。
そのため、高額サービスを利用したり、外注企業を使うことができる場合が多いです。
そして、外注企業が、過去の関係性含めて、大企業の言うことを良く聞いてくれます。
このような状況で長く働き、大企業の働き方に最適化されてしまうと、ベンチャー企業で機能しないパターンが発生します。

なお、この点は逆のことも言えて、ベンチャーで活躍できる人が、大企業で活躍できないパターンも珍しくありません。

フラット組織にこだわる人

ベンチャー企業というと、フラット組織をイメージする方が多いかもしれません。
そのため、フラット組織が良いから、という理由でベンチャー企業を志望する方がいます。
ベンチャー企業は確かにフラット組織の場合が多いのですが、あくまでも「多い」というだけであって、あくまでも会社次第です。
実態はワンマン社長が支配をしていて、フラットはフラットでも期待しているものと違う、という場合や、
小さいのに早くも大企業化(官僚的)してしまう場合も決して珍しくないので、認識を改めた方が良いでしょう。

社会貢献の意識が強すぎる人

ベンチャー企業は、経営の波が大きく、危機に陥る場合もあれば、とんでもないチャンスを目の前にする場合もあります。
そのため、企業がベースにしているミッション・ビジョンよりも、まずは生存、まずは業績拡大、ということを指向した方がよい場合が発生し得ます。
ここで、「口ではこう言っているけれど実態はこんななんだよね」と嫌な思いをしてしまう人はベンチャー企業に向いていません。

「会社が大きくないと、社会貢献も何も無いよね」と割り切れる人は問題ないです。

ストックオプションが目的の人

ベンチャー企業はまだ大きくなっていない企業であるが故に、その会社の価値、株式の価値は低いです。
そのため、ストックオプションをもらえると、会社が将来成長し、上場(IPO)を果たせた場合のリターンが莫大なものになる可能性があります。
これは一つメリットなのですが、現実問題として上場(IPO)を成功させられる企業なんて、ほんの一握りです。
大多数は失敗し、リビングデッドとして冴えない状態に陥ったり、どこかに買収されてしまう会社がほとんどです。

仮に上場(IPO)が見えているステージのベンチャー企業では、株式の価値が高まっているので、ストックオプションの価値は低いです。
上場(IPO)が成功しても、うま味はほとんどありません。

更に、上場(IPO)が成功しても、ロックアップ期間という、ストックオプションを行使できない期間の存在により、一番高く売れる時期を逃してしまうリスクも高いです。
(上場時が一番高い株価、というベンチャー企業も珍しくありません。)

ストックオプションに期待するのは無意味というか実現性が低いということは、絶対に認識しておいた方が良いでしょう。


以上、ベンチャー企業に転職したい人向けに、メリット・デメリットを解説していきました。

これまでいろいろ書いてきたことを全部ひっくり返してしまうのですが、最終的には会社次第です。

実際に合うか合わないか、うまくいくかいかないかは、本人の努力もそうなのですが、会社側の問題も存在します。
もし、ベンチャー企業に何かしらの憧れがあるのであれば、とりあえず転職してみるのが一番かもしれません。

こちらの記事も参考にしてみると良いでしょう。

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契約書の認印は必要無し(内閣府、法務省、経済産業省が連名)

「押印についてのQ&A」として、内閣府、法務省、経済産業省が連名で書類を出しています(2020年6月19日)。
書類の内容は、契約書への押印行為についてのQ&Aで、内容を一言でまとめると「認印ってあまり意味無いよね」と言っています。
これは、元々そうなのですが、府省が連名で出している点にポイントがあると考えています。

契約書への認印押印は意味が無い

法務省「押印についてのQ&A」

まず、法務省が出しているQ&Aの内容です。

問1.契約書に押印をしなくても、法律違反にならないか。
・私法上、契約は当事者の意思の合致により、成立するものであり、書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない。
・特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない。

押印についてのQ&A 令和2年6月19日 内閣府 法務省 経済産業省

契約書には、契約当事者双方が押印行為をするのが一般常識ですが、実は法的には必須条件では無いのです。
今回の、Q&Aは、上述の通りの内容で3つの府省が連名で出している点にポイントがあります。

契約書への認印押印は意味が無い

これまで法的な意味合いがあまり無いにも関わらず、ただの商習慣で「紙」+「認印による押印」が一般的になっていました。
そして、この商習慣がリモートワーク(テレワーク)の普及を妨げてきました。

3つの府省が連名で、やめなされ、と言っているので、ビジネスの現場、官公庁において、今後の印鑑廃止が進むものと期待できます。

なお、ここでは契約書に限定して言及していますが、ビジネスに関連する書類全般がそうです。
例えば、よく請求書に角印が押印されている場合が多いですが、これも必須ではありません。

では契約が成立していることを証明するには?

ここで出てくる問題は、じゃあ、締結した契約書が本物(真正)であることを、どうすれば証明できるのか?という点です。
これまでは、意味は無いと言っても、認印を双方押印していることにより、その契約書が本物であると”推測”され、確かに契約が成立しているよね、ということが一定言えていました。
(ここが争われることは、通常は無いのですが。)

そこで対応した方が良いのが、Q&Aの問6で言及されています。

問6.文書の成立の真正を証明する手段を確保するために、どのようなものが考えられるか。

・次のような様々な立証手段を確保しておき、それを利用することが考えられる。

① 継続的な取引関係がある場合

取引先とのメールのメールアドレス・本文及び日時等、送受信記録の保存(請求書、納品書、検収書、領収書、確認書等は、このような方法の保存のみでも、文書の成立の真正が認められる重要な一事情になり得ると考えられる。)

② 新規に取引関係に入る場合

・契約締結前段階での本人確認情報(氏名・住所等及びその根拠資料としての運転免許証など)の記録・保存
・本人確認情報の入手過程(郵送受付やメールでの PDF 送付)の記録・保存
・文書や契約の成立過程(メールや SNS 上のやり取り)の保存

③ 電子署名や電子認証サービスの活用(利用時のログイン ID・日時や認証結果などを記録・保存できるサービスを含む。)

・上記①、②については、文書の成立の真正が争われた場合であっても、例えば下記の方法により、その立証が更に容易になり得ると考えられる。また、こういった方法は技術進歩により更に多様化していくことが想定される。
(a) メールにより契約を締結することを事前に合意した場合の当該合意の保存
(b) PDF にパスワードを設定
(c) (b)の PDF をメールで送付する際、パスワードを携帯電話等の別経路で伝達
(d) 複数者宛のメール送信(担当者に加え、法務担当部長や取締役等の決裁権者を宛先に含める等)
(e) PDF を含む送信メール及びその送受信記録の長期保存

押印についてのQ&A 令和2年6月19日 内閣府 法務省 経済産業省

内容としては上記の通りなのですが、言っている事は「先方とのやり取りを、きちんとデータ(書面含む)で残しておこう」ということです。

上記にある通り、やりとりのメールや、交換した連絡先情報もそうですし、重要な契約の場合はクロージング会議の録画データ、録音データを保管しておく、ということも考えられます。
最近はZoomなどのWEB会議も一般になり、録画や録音も容易になっています。

また、上記③で言及されている通り、クラウドサインなどのクラウド型契約締結サービスを利用すれば問題が無い話なので、契約書の電子化・ペーパーレス化は日本全体で推進していきたいものです。


印鑑に関する基礎知識に関しては、こちらの記事もご参照ください。

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【朗報】クラウドサインが登記対応!議事録・契約書の電子化が大きく前進

弁護士ドットコム社「クラウドサイン」が商業登記に対応、という報が出ていました。
慎重に検討と協議を重ねた結果、取締役会議事録、株主総会議事録、その他契約書等添付書類といった、商業登記に必要な書類の電子化が大きく前進するという結論に至りました。
今回は、上記件を解説していきます。

クラウドサインが商業登記に対応

リンク先にて、「法務省が商業登記に利用可能な電子署名サービスにクラウドサインを指定」と題して、弁護士ドットコム社が提供する「クラウドサイン」が商業登記に対応する旨の報が出ていました。

本件について、司法書士の先生、弁護士ドットコム社と協議を重ねた結果、「クラウドサイン」にて、登記に必要な様々な書類を電子化することができる、という結論に至りました。
必要な書類とは、取締役会議事録、株主総会議事録、その他契約書等添付書類を指しています。
(クラウドサインを指定しているのは当方が利用しているからで、GMOアグリーも可とのことです。)

そして朗報なのが、エクイティによる資金調達時に必要な株式総引受契約といった、登場人物が多すぎる書類についても対応が可能、という点です。
一度経験したことがある人はわかるのですが、スーパーウルトラミラクルハッピーですよ、これは。


なお、社内保管用の取締役会議事録などについては、元々クラウドサイン対応で問題ありませんでした。
この点(社内保管用)については、下記記事を参照ください。

要対応事項1点

それでは何か対応しなければいけない重要なことがあるか?というと1点だけあります。

それは、「法人実印」に代わる「電子証明書」の取得です。

逆に言うと、これだけです。

電子証明書取得については、法務省HPをご参照ください。
リンク先が直接、電子証明書取得に関するページになります。

具体的なフロー

具体的にフローを説明していきます。
登記実務を自分たちでやっている会社は(おそらく)ほとんど存在しないと思われるので、司法書士の先生に依頼する前提です。

登記に必要な書類PDFを用意する

クラウドサインにて、各登場人物(役員や株主など)が署名対応をする

クラウドサインから電子署名が付されたPDFを出力

法務省指定の「申請用総合ソフト」にて、「法人実印」に代わる「電子証明書」による電子署名を付す

司法書士の先生にデータを提出し、司法書士の先生からオンライン登記を行う

以上です。

びっくりするぐらい簡単です。

為念、書きますが、個別に電子証明書を取得しなければいけないのは「法人実印」に代わる「電子証明書」だけです。
各取締役、監査役、各株主が個別に電子証明書を取得する必要はありません。

法務省指定の「申請用総合ソフト」について

この点は、元の弁護士ドットコム社記事で十分な解説がなされています。

(2)法務省指定の申請用総合ソフトを使用すること

(1)の 商業登記署名の付与を行う際は、法務省が指定する「申請用総合ソフト」(無料)を利用して行なっていただくよう、お願いします。
(略)
Adobe Acrobat有償版と法務省が提供する「PDF署名プラグイン」を使用して電子署名を行う手法もあるのですが(クラウドサインでは検証済み)、この方法ですと登記所による電子ファイルの検証がスムーズに行えないため、とのことです。

サインのリ・デザイン「法務省が商業登記に利用可能な電子署名サービスにクラウドサインを指定」

「申請用総合ソフト」は、リンク先よりダウンロードが可能です

手順書も用意されているので、簡単に対応ができそうです。

注意事項

ここからは注意事項です。
残念事案になりかねないので、よくご確認ください。

代表取締役の変更事案について

これは元記事にも記載がある点です。

代表取締役の就任承諾書や改選などの一部の事象が発生した場合は、
「代表者個人の実印」もしくは「代表者個人が取得した個人の電子証明書による電子署名」が必要
です。

ここで、代表者個人が電子証明書を取得していなかった場合、一律紙の書類での登記対応になります。
紙と電子署名書類の混在ができないからです。

あまりある事象では無いので気にしなくても良いとは思いますが、当該事象が発生する場合は事前に対象の代表取締役候補者の方に電子証明書を取得していただくよう、手配をしておきましょう。

その他、会社の状況に応じて、代表者個人の実印や電子証明書が必要になる場合があるので、司法書士の先生に照会をとっておくと良いでしょう。

一部の登場人物がクラウドサイン対応が不可となった場合

これは結構、笑えないかもしれません。

結論、登場人物がの内、一部(一人)でもクラウドサインサイン対応が不可となった場合、一律紙での申請になります。

ベンチャー企業ですと、VCや投資元事業会社から役員を受け入れている場合があるかと思います。
この場合に、当該VCや投資元事業会社内の規程・ルールにより、クラウドサイン対応が不可となってしまう可能性が存在します。

株式総引受契約なども同様です。
銀行系VCですと、クラウドサイン対応が不可の所が多いので、ある意味、一番省略したいポイントで使えない、ということが想定されます。

この点は、時代がもっと進み、各社が対応を行うことを期待する以外にありません。
そのためにも、世の中全体で要望(プレッシャー)をあげていくことが良いでしょう。

移転等の事象により管轄の登記所(出張所含めて)が変更になった場合

もう一つ、気持ちめんどくさいポイントです。

結論、移転等の記載事項の変更が生じた場合です。

この場合、「法人実印」に代わる「電子証明書」の再取得が必要です。

東京内の移転でも、管轄する登記所(出張所含めて)が変更になった場合、改めて電子証明書を再取得する必要があります。

急成長企業では、会社移転は当たり前だったりするので、きちんと認識しておいた方が良いです。

なお、電子証明書の発行手数料に関しては、節約のテクニックがありますので、併せて認識しておくと良いかもしれません。

クラウドサインの署名回覧について

これは実務進行上のポイントなのですが、クラウドサインは仕様上、登場人物全員が一斉に署名対応をすることができません。

一人一人、順番ずつ署名対応をする形になります。
そのため、一人でも対応が遅い方が出てくると、署名対応全てが停滞することになります。

期日が差し迫っている書類の場合は、回覧の順番や事前の調整・念押し等が必要になってくると思われますので、留意ください。

この点は、弁護士ドットコム社にも改善要望を出しておきましたので、期待して待ちましょう。
皆さまにおかれましても、弁護士ドットコム社に要望をあげるとアップデートが早くなるかもしれません。

定款の記載が電子署名に対応しているか?

定款の記載内容が電子署名に対応しているか?の確認も必要です。

下記の取締役会議事録に関する定めの事例の通り、定款で定められているのならば問題はありません。
しかし、対応しておらず、その上で電子化対応を視野に入れているのならば、どこかの総会のタイミングで定款変更をかけておいた方が良いです。

パターンAが電子署名に対応していない記載例、
パターンBが電子署名に対応している記載例です。

A:取締役会における議事の経過の要領及びその結果並びにその他法令に定める事項は、議事録に記載または記録し、出席した取締役及び監査役がこれに記名押印する。

B:取締役会における議事の経過の要領及びその結果並びにその他法令に定める事項は、議事録に記載または記録し、出席した取締役及び監査役がこれに記名押印または電子署名する。


弁護士ドットコム社より、クラウドサイン電子署名の使い方ポイントに関する記事もでておりますので、あわせてご確認ください。

以上、商業登記書類の電子化対応について解説していきました。

この種の実務は難解で、法務局担当者によっても微妙に対応が異なる場合もあります。
ここが違うよ!とかございましたら、ご指摘いただければ幸いです。

以前、下記記事などで電子化対応について残念結論を考察・解説をしてまいりましたが、本当に変化のスピードがはやい世の中です。
良い事ですね!

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人事・総務

怖れる必要は無い、ジョブ型雇用を歓迎しよう

経団連の方針やリモートワークの拡大に伴い、ジョブ型雇用、というワードが話題になっています。
どちらかと言うと微妙にネガティブな印象で語られるジョブ型雇用ですが、実際の所どうなのでしょうか?
ここでは対比して語られるメンバーシップ型雇用と併せて考察していきます。

ジョブ型雇用って?

まずはじめにジョブ型雇用とは?からはじめます。

ジョブ型雇用とは、欧米に多い雇用形態で、業務内容を明確に記述する「職務記述書(ジョブディスクリプション)」をベースに雇用する形態です。

①職務、②勤務地、③労働時間のいずれかが「限定」されている正社員であり、限定正社員、一部専門職、旧くは一般職と呼ばれている雇用の形態です。

一方、対比されるメンバーシップ型雇用とは、日本で一般的な雇用形態で、業務内容が不明確で、①職務、②勤務地、③労働時間のいずれも「無制限」です。
つまり、配置転換や異動などが企業側の都合で行われます。

表現のされ方としては、
ジョブ型雇用が「仕事に対して人を割り当てる(採用する)」とされるのに対し、
メンバーシップ型雇用は「人を採用してから仕事を割り当てる」と捉えることができます。

なお、これらの話は「雇用方法」の話です。

「評価方法」の話である、成果主義や年功主義、
「就業規則」や「労務管理」の話である、裁量労働、時間労働、
の話と混同
している方や、報道が多くて、微妙にカオスな状況になっています。

(リモートワークのジョブ型雇用で、年功主義での評価、監視システムを入れて時間労働、としても全く問題無い。機能するかどうかは別。)

とりあえず、本稿では「ジョブ型雇用」≒「成果主義」≒「裁量労働」的な前提で書きます。

(この構造が、どうしてそうなるのかは謎ですが、世の中一般がそういう構造で議論しているので則ります。)

何が問題視(不安視)されているの?

語られている問題点

それでは、何を問題視(不安視)され、語られているのでしょうか?

いくつかの主張を整理するに、下記が問題のようです。

  • (無制限に職務を押し付ける形で)長時間労働になる
  • (職務未遂や職務基準未達を理由に)報酬/給料を下げられる
  • (職務が不要になった等を理由に)リストラされるリスクが増える
  • 昇進昇格のためには自主的に上の職務に見合うスキルアップが必要

労働者サイドにしてみれば、変化に対する、これらの不安が起きるのは当然と言えるでしょう。

(なお、長時間労働に関しては、減る、減らしやすい、という報道や議論の方が多いです。)

それでは、上記の問題(不安)について、如何に考えたらよいでしょうか?

多分だけれども、あまり問題無い

まず、日本には労働基準法というものが存在しており、現状、企業側にとって不利な法律が施行されています。

そのため、いきなり報酬/給料が下げられる、ということは基本出来ません。
いきなりやられたとしたら、何かしら法に抵触している可能性が高いので、ボイスレコーダーの準備など、労基署に提出できる情報集めをした方が良いでしょう。

リストラも同様です。
解雇規制があるので、いきなりの解雇は(まともな会社なら)あり得ません。

その他、長時間労働は、どちらかと言うと「減るよね」という意見の方が出ています。
(リモートワークで、仕事のやめ時がわからない、という声もあるにはありますが。)
スキルアップに関しても、多分、やりやすくなるはずです(後述します)。

もっと言うと、そもそもとして不安視する必要が無いのでは?と考えられます。

というのも、これまでの古き良き雇用は、終身雇用、年功序列、企業別組合、新卒一括採用で、学業を終えたら定年まで一貫して安定して生活できる状況が前提にありました。
が、今、上記で残っているのは新卒一括採用位です。
大企業が安心、というのも過去の話で(過去も安心だったのか謎ですが)、誰しもが知っている大企業でもあっさりと潰れたり、どこか別の会社に買収されたりする時代です。

つまり、心配せずとも、世の中は既に、心配するに値するだけ状況が悪くなっています。

そうならば、良い面にフォーカスをあてて考えた方が、人生はプラスに動くはずです。

実は良いことばかりなのでは?

問題視(不安視)されている点を裏返すと?

私は、仮に日本がジョブ型雇用に移行したのならば、むしろ働く人たちにとって良いことばかりなのでは?と考えています。

まず、長時間労働が心配されている反対に、労働時間は減るであろう、という意見の方が多いです。
これは、無駄な残業同調圧力が無くなれば、すぐにでも労働時間が減るであろうことを実感している人が多いからでしょう。
やるべき事を終えたら、仕事を終えれば良いのですから、実力のある人にとっては間違いなくプラスですね。

報酬/給料面も、むしろ若い方にとってチャンスが増えると考えられます。
今の時代、知識やノウハウがお手軽に手に入る時代です。
本気で勉強すれば、これまではベテランしかできなかったような仕事を、多くの場面で誰しもができるようになっています(もちろん、習熟度の問題や、高専門性の仕事は別だが)。

リストラ懸念も実は心配がいらなくて、会社に必要とされる人材なら、リストラどころか、いてくれ、と懇願されます。
職務基準を満たしてさえいれば年齢関係無く働けるので、終身雇用が崩壊した時代にも対応ができます。

スキルアップも、より簡単になるはずです。
メンバーシップ型雇用で、経験するポジションが多様な職種だった場合、習熟度が中途半端になります。
これが、一つのジョブに固定されるのであれば、そのジョブに対する習熟度を集中・特化してあげられます。
ある程度お歳を召された状態で、全く新しい分野を勉強し直さないといけない、というのは大変なものですが、これから解放されます。
主な不安の対象である大企業の古株社員たちにとっても、良い話のはずです。

つまり、問題視(不安視)されている点を裏返して考えると、全てメリットになるのです。

と言うか案件

そもそも論なのですが、メンバーシップ型雇用であろうが、本質的には「達成すべき基準」が設定されていないといけないはずです。

最初の方で書きましたが、ジョブ型雇用もメンバーシップ型雇用も、「雇用方法」の話であり、「評価基準」の話では無いからです。

この点が曖昧になっているのが入り口として問題であり、役割に応じた評価基準が明確ならば、メンバーシップ型雇用だろうが、ジョブ型雇用であろうが関係がありません。
むしろ、達成すべき基準が明確ならば、多くの場合、やりやすいはずです。

(働く側にとって、基準に則って成果を出しているならば、会社側に「それは違う」というのを言いやすい。)

(これらのことから、本質的には、リモートワークの話と、ジョブ型雇用の話はリンクしないはず。)

ベンチャー企業(将来の大企業)を中心に、メンバーシップ型雇用であったとしても、事実上のジョブ型雇用は進んでいます。

(ジョブディスクリプションが無いだけで、実質的なジョブ型雇用、というパターンは多い。)

遅かれ早かれの問題なので、それならば、さっさとやった方が良いと考えます。

最後に付け加えると、世の中のパイはある程度決まっています。
配分方法が変わるだけの話なので、人材の需給バランスは必ずどこかで釣り合います。
有能な人が正当に評価される、必要な人が必要とされる、という方向に行くのであれば、それは歓迎すべきことと私は考えます。


上で「最後に」と言っている中での蛇足ですが、成果主義の導入があっさり失敗した過去etcを踏まえると、騒がれているほど導入は進まないと思います。

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人事・総務

自社株買いはやめた方が良い理由(社員側視点)

新型コロナウイルスの影響で、多くの企業の株価が下落しています。
自社の株式を持株会制度を活用したり、個人的に買っている人は多いでしょう。
そして、自社株買いのリスクが実現し、損をしている人も多いでしょう。
ここでは、自社株買いはやめた方が良い理由を、従業員視点で解説していきます。

従業員による自社株買いについて

従業員持株制度」というものがあります。
これは、従業員が自分の給料の一部を拠出し、参加している従業員で共同して自社株を購入(買い付け)する制度です。
給与天引きで払う場合が一般的ですね。
一般的には、5%~15%程度の補助があり、福利厚生として位置付けている上場会社が多く存在します。
(この補助のことを「奨励金」と一般的に呼びますね。)

また、一般論として、自分が勤めている会社の株式を(上場会社であれば)購入して資産形成につなげる、ということも当然可能です。

これらを総称して自社株買いと言います。

果たして、これらは得なのでしょうか?それともやらない方が良いのでしょうか?
結論を言うと、自社株買いはやらない方が良いです。

持株会制度は企業側にとってメリットが大きい

先に、持株会制度について解説です。
自社株買いは、企業が設定する制度では無く、従業員個人で行うものなので、省きます。

企業側のメリット

企業がよく従業員持株会の制度を導入する理由ですが、結論、企業側にとってメリットが大きいからです。

  • 安定株主が増加する(ので、株主総会の運営が楽になる、買収抑止につながる)
  • 従業員のモチベーション向上につながる(効果はよく疑問視されているが)
  • 退職金やボーナスを出せない(出さない)ことへの説明になる

この通り、安定株主の確保、従業員へのインセンティブ、もろもろ報酬設定に対する弁明ができるため、非常に都合が良いのです。
奨励金部分の費用負担と、精々が持株会制度の運用コストがかかる位ですからね。
実際、奨励金付きの持株会制度を導入している上場会社は、約97%ほどになります(東京証券取引所より)。

では、従業員にとってはどうでしょうか?

従業員側のメリット

これも簡単に説明ができます。

  • 少額から始められる
  • 天引きされ自動で積みあがっていくので簡単
  • 奨励金が付きお得感がある

日本人は一般的に株式投資が苦手な方が多いのですが、従業員持株会制度はこの通り、非常に簡単に負担が少なく始められ、続けられるのです。

これだけ聞くと、やった方が良いように思えますね。

従業員にとって、自社株買いをやらない方が良い理由

自社株買いはリスクが集中する

自社株買いをやらない方が良い理由は、端的に言うと、リスクが集中するからです。

お勤めの会社の業績が悪くなる場合を考えてみましょう。

この場合、本来もらえるはずのボーナスが減り、自社株の価値も減ります(資産が減る)。
つまり、ダブルパンチのダメージを受けることになります。

最悪倒産するとどうなるでしょうか?

仕事もなくなり、給料も途絶え、当然ボーナスも無くなり、もしかしたら将来もらえたかもしれない退職金も無くなります。
そして、今まで積み上げてきた自社株の価値も無くなります。

会社に勤める、ということ自体が、自分の人生を会社にベット(チップを用いて賭けをすること)することです。
その会社に勤める、ということに加えて、自身の財産を自社株につぎ込むことは、ベットの上乗せです。
もちろん、会社の業績が向上するのならば、ダブルで良い結果になるのですが、マイナスの振れ幅が非常に大きい。

これが自社株買いをすることにより起きるリスクの集中です。

それでも株式投資をしたいのなら

もし、株式投資をするならば、競合他社の株を買う方が良いでしょう。
さらにいうと、海外の競合株を買う方が、リスクヘッジという観点では良いです。
よく理解している業界のはずなので、他業界の株を買うよりかは、選別も容易なはずです。

持株会の場合の補足

なお、従業員持株会制度で自社株買いを行っている場合は、コントロール可能領域が少ない、というリスクも加わります。
持株会は、財産の処分(現金化)に制限があると共に、仮に脱退した場合、再入会が面倒であったりできないこともあります。
リスクが集中するのみならず、コントロールが難しいことも加わるので、リスク管理の観点では最悪です。

最後に

以上、自社株買いをやらない方が良い理由を解説してきました。

自社株買いは、見方を変えれば良い場合も当然あります。
しかし、上記のリスクやデメリットはしっかりと理解した上で実行すべきでしょう。

企業側も、メリットはそうだとして、従業員持株会制度が本当に従業員のためになっているのか?はよく再検討を行った方が良いでしょう。
取り組みを継続するならば、福利厚生という装いではなく、純粋に従業員の財産形成のオプションの提供、というスタンスの方が好感が持てます。

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企業の花粉症対策~福利厚生としての手当のすすめ~

パナソニックが花粉症に関する調査し、花粉症に起因する労働力低下の経済損失額は、1日あたり「約2,215億円」と具体的な経済損失額を公表しました。
ここから換算すると、花粉症に苦しんでいる方の生産性低下は1人あたり36万円と計算できます。

ここでは、企業の花粉症対策を推奨する前提で、上記調査内容を検証すると共に、具体的な対策を解説します。

数字ロジックの検証

日本人の平均給与は、5,315千円です。

1年間の総労働時間は、1,998時間です。

時給換算では、3,907円/時間となります。
〔5,315千円÷1,998時間×1.13(法定福利費分13%)×1.3(その他雇用コスト30%)=3,907円/時間〕

花粉症の患者割合は、29.8%です。

就業者数は、6,687万人です。

「花粉症により仕事のパフォーマンスが低下していると感じる時間は平均で約2.8時間とされています。

これらの数字を元に、「2,215億円」のロジックを分解すると、下記のようになりました。

3,907円/時間 × 29.8% × 6,687万人 × 2.8時間/日 = 2,179億円/日

どういう前提を置くか、によりますが上記の計算ロジックの模様です。
ほぼほぼニアリーイコールですので、ポジショントーク的印象をうけないわけでも無いですが、MAX額としてこれくらいの損失があることはわかりました。

企業の対策を推奨~1人あたり約36万円の損失~

花粉症は酷い方は年中苦しんでいるとされていますが、スギ・ヒノキが広がる2月~6月の集中期間、生産性低下が大きいと仮定します。
5か月間の内、風が弱い日や雨が降っている日もあるので、花粉症の飛散が多い日を3日に1日とします。
そうすると、下記の通り、約36万円が一人当たりの花粉症による経済損失です。

3,907円/時間 × 5か月間(100日) × 3分の1 × 2.8時間 = 364,653円/1人

これは仮定をどのように置くかで当然に変わってくる数字ですが、もっと低く見積もったとしても、結構な金額、損失があることがわかるでしょう。
企業として花粉症対策を行うことは、かなりの生産性向上につながる可能性があります。

ここからは、具体的にできる、企業としての花粉症対策を解説していきます。

本稿では触れませんが、リモートワークを導入するのも一つの施策として考えられます。

花粉吸引ブラシの用意

花粉吸引ブラシの設置は、外からの室内への花粉持ち込みを防止します。
例えば、リンクのような商品を、職場の入り口に設置します。
1つ6,000円から7,000円とリーズナブルですので、導入のハードルも低いでしょう。
通常の衣服用ブラシ + 掃除機 でも代用が可能です。

高性能な空気清浄機の設置

室内に入ってしまった花粉を除去する効果があるのが空気清浄機です。
高性能なものですと、高額ですが当然、効果は高くなります。
リンクのものですと最大75畳の広さに対応し、値段は110,000円~120,000円となります。
他のハウスダストやシックハウスへの効果もあり、副次的なプラスも得られます。

職場の人数や広さにもよるのですが、花粉吸引ブラシとあわせて導入すると、非常に効果が高くなるでしょう。

マスク補助

外出時の花粉症対策用品に補助を出すことも考えられます。
今現在(2020年3月)は、感染症の影響もありマスクが高騰していますが、例年ですとマスクは1個、精々20円~30円です。
1月分で大箱400円ですので、これに対して会社から補助を出すのは妥当と考えられます。

場合によっては、対花粉用のメガネやゴーグルに対して補助を出すのも考えられます。
例えばリンクのような商品ですと、1個2,000円しないので、非常にリーズナブルです。
1人1個、1年に1回、と決めて福利厚生施策を設計することは十分に考えられます。

通院手当の導入

そしてこちらが、比較的、根本性が高い対策です。
花粉症は、残念ながら一度発症してしまうと、根治治療は困難なものですが、その症状が出にくいようにする治療(対処療法)は可能です。
しかし、通院は時間もお金もかかり、頭では病院にいった方が良いとはわかっていても、中々足が遠い方もいるでしょう。
そこで、実際に通院してかかった費用に関して手当(補助)を出す福利厚生施策が考えられます。

治療費用は1か月あたり3,000円から4,000円で、費用対効果も高いものです。
根治治療に近しい「舌下免疫療法」では毎月2,000円が数年にわたり続きますが、これを補助することも考えられます。

企業による花粉症対策はEmployee Successにつながる

花粉症対策を行っている企業はまだまだ少数です。

別の調査では、企業に花粉症対策を望む方が6割もいるのも事実です。

企業として花粉症対策に乗り出すことは、Employee Successにつながり、採用力の強化にも、リテンション(離職防止)にもつながる可能性があります。

そして、現実として生産性の低下を招いている以上、花粉症対策に投資をすることは非常に合理性が高いと言えます。

企業経営者、総務担当者は、改めて企業としての花粉症対策を導入してはいかがでしょうか。

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印鑑の基礎知識~おまけの雑学が長い件~

ビジネスをしていると何気なく登場してくるのが印鑑です。
ここでは、印鑑に関する基礎知識に関して解説していきます。
今回も、雑学が豊富です。

別の場所で現代社会における印鑑不要論と、電子契約の活用に関して触れます。

法人における印鑑の種類

法人において使用する印鑑としては、次の4つを使用するのが一般的です。

  • 実印
  • 銀行印
  • 角印
  • 認印

それぞれ見ていきましょう。

¶ 実印

実印は印鑑登録をする印鑑となります。
(そのため、直径30ミリ未満のサイズにしなければいけません。)
市区町村役所へ登録することにより、法的に実印としての効力を持ちます。
商業登記法により、会社の設立にあたって使用することが定められていますので、法人はかならず実印を持っています。

用途としては、役所への届け出書類や重要な契約書に使用します。
つまり、非常に重要性が高い印鑑になります。

偽造をされたり盗難された場合、契約における連帯保証人にされたり、役所への届け出を勝手にされたりと、リスク上の問題点が大きいことがあげられます。
紛失・盗難ががあった場合、複製は不可能ですので、新しい印鑑を作成し、再登録を行う必要があります。

¶ 銀行印

預金口座の開設や諸手続きに使う印鑑です。
金融機関に届け出ることにより、対金融機関において効力を持ちます。

預金取引が可能になる印鑑ですので、紛失・盗難があった場合、預貯金を勝手に引き出されるリスクや、被害を届け出た場合に改印するまで取引に制限が出たりします。
紛失・盗難ががあった場合、複製は不可能ですので、新しい印鑑を作成し、再登録を行う必要があります。

通常は、実印とは別の印鑑を設定します。
最近は銀行印が不要なネットバンクも、ようやく増えてきました。

¶ 角印

通称の通り、形が四角の印鑑です。
よく、請求書の右上に押印されている、四角いあれです。

見積書や請求書に押印する印鑑として、一般的に使用するものです。
法的な効力としては、あまり意味がありません。
商習慣として、「請求書には角印」となっているだけです。

法的には規定されている印鑑では無いため、改廃は自由です。

¶ 認印

日常的に使用する印鑑です。
諸々の申込書や一般的な契約書に使用するものですが、実はこれも、法的な効力としては、あまり意味がありません。
商習慣として、「契約書には認印を押印する」となっているだけです。
商習慣として極めて一般的になってしまっているため、契約書の締結において、印鑑が押印されていなければ、その契約書の効力が発生しない、という勘違いも多くされています。
(正確に言うと、商法において、署名が必要な場合、署名か印刷+印鑑、のどちらかで良いという定めがあります。つまり、署名があれば押印されてなくても良い、ということです。)

実印や銀行印とは、通常は別の物を使用します。
逆に言うと、実印や銀行印を認印として使用している場合は、リスクが高いので、早々に別の物を用意しましょう。

法的には規定されている印鑑では無いため、改廃は自由です。

朱肉とスタンプ台の違い

印鑑を押印する時は朱肉を使い、ゴム印を押印する時はスタンプ台を使うのが一般的ですが、これらの違いは何でしょうか?

簡単に表現すると、保存性に大きな差があり、原料として顔料(朱肉)か染料(スタンプ台)の違いがあります。
とりあえず、通常の印鑑(上であげた4つの印鑑)は朱肉を、ゴム印はスタンプ台を使用する、と覚えておけばOKです。

朱肉は、赤色の顔料に松脂などをまぜて作ります。
顔料ですので、印影の保存性にすぐれます。
保存性が高いので、契約書への印鑑の押印には朱肉を使用します。
(ひと昔前は、練朱肉や印泥というものを使用していました。まだ一部の役所担当者は愛用していますね。今は利便性の高いスポンジ朱肉が一般的です。)

スタンプ台は、赤色の染料、特に水性の染料を使用します。
なぜならば、ゴム印は油に弱く劣化しやすいからです。
ですので、ゴム印を朱肉で押印していると、比較的早い時間でゴム印がダメになります。
溶けて文字が鮮明でないゴム印を見たことがあるかもしれませんが、それは押印時に朱肉を使用していたからです。
染料の弱点は保存性で、紫外線を長く浴びると、退色という色が変化し薄くなる現象が発生します。
街頭で、色が劣化したポスター等々を見たことがあることかと思いますが、あれです。
ただ、最近のスタンプ台に使用される染料は優秀ですので、わざわざ日光を直接長時間浴びさせるようなことをしない限り、心配は不要です。

(おまけ)事務上あると便利なハンコ類

会社情報が刻印された横判(組み合わせて使用できるもの)は1つ用意しておくと便利でしょう。
実際、ほとんどの会社が1つは持っているはずです。

また、速達印もあると便利です。
速達を出したい場合、赤いマーカーとかで線を引いて速達と書けば、速達で出せるのですが、手間です。
1つ速達印を用意しておけば、手間を減らせます。

他にもシャチハタをはじめ、ハンコ類はオーダーができるので、事務上よく使う定型的なものはオーダーを考えるとよいでしょう。

(おまけ)印鑑の素材は何を選べば良い?

素材の良さだけを見た場合のベストは象牙です。
象牙は、経年劣化や気温・湿度による変性も少なく、柔軟性も高いので落下させてしまった時の欠けのリスクも少ないです。
ただし、非常に高額になってしまいます。

無難に、一番安い柘(つげ)で十分でしょう。
柘は繊維の密度が高く、硬さと柔軟性のバランスがよく、加えて非常に安いので、木素材の中でも印鑑に向いています。

(おまけ)印鑑の歴史

印鑑の歴史は非常に古く、古代メソポタミアや古代エジプトといった時代にさかのぼります。
身分や権利などに関して示す実用的な側面のみならず、宗教的な意味合いや、芸術的観点など、文明の発祥と共に世界各地で様々な形で生まれ、発展してきました。

原始的には紀元前7,000年頃の遺跡から発掘されているとされていますが、明確に使用の形跡が見られるのが紀元前5,000年頃の古代メソポタミア文明の時代でした。
粘土板に押すタイプの現代の印鑑に近い形のものから、所有主体や権力を示すものとしてはじまり、紀元前3,600年頃からは「円筒印章」と言われる、粘土板の上で転がして印を刻むタイプのものが使われるようになりました。

粘土板を使用する上において利便性の高い楔形文字と共にこの円筒印章は使用され、アナトリア半島に一大帝国を築いたヒッタイトや、古代オリエントのエラムにおいても使用されていました。
なお、同時期の古代エジプトでは、ヒエログラフという、宗教性をもった絵のような文字が刻印された印章が使用されていました。エジプトの遺跡に刻まれている文字、として頭に浮かぶあれです。
その後、羊皮紙やパピルスの普及と共に、紀元前1,000年頃から円筒印章は姿を消していきました。

別の地域、古代インダスにおいて、は古代エジプト同様、象形文字が使用されていて、この象形文字が刻印された印鑑が広く普及しました。
文字の類型や、粘土での使用を前提としたものなど、ルーツは古代メソポタミアからのものと、推測されます。
これが、いわゆるシルクロードを通して中国に伝わりました。
紀元前500年頃です。

なお、ヨーロッパ地域においては、古代ギリシャや古代ローマの時代を経て所有権の主張や、手紙などの発行主体を示すものとして使用され続けてきました。
赤色の蝋に火を灯して手紙に垂らし、金属の印でシーリング(封印)する様子などを、絵や映画などで見たことがあるかと思いますが、あれです。
識字率の低さを背景に、紋様で権利を示すものとしては都合がよいものでした。
つまり、識字率の向上と共に姿を消し、欧米においてはサイン(署名)文化が普及しました。
今では、趣味の世界でのシーリングと、かなりパブリック性の高い用途以外において、印鑑が使われることはありません。

さて、中国を経由して日本に伝わったのは西暦の時代に入ってからです。
(中国での印鑑の歴史はごちゃごちゃで、正直よくわからないです。中国の王朝の歴史は変化が激しく、文化の連続性もつなげるのが難しく、時代時代や地域において、使用のされかたが異なるのです。)
いわゆる「漢倭奴国王」と刻印された「金印」が日本最古のものとして有名ですが、実際に文化的に使用されている形跡が残っているのは西暦700年頃からです。
遣唐使が始まった奈良時代の話ですね。
この頃は政府によって使用が認可された「官印」のみが使われていましたが、その後、平安時代に入り、一部貴族のみに「私印」が許されるようになりました。
その後、鎌倉時代に入ってからは落款印、筆者印などが流行し、新しい文化を築くようになり始めます。
そして、室町時代、戦国時代と、微妙に形式や用途、流行が変わりながらも、現代の署名に近い形式で使用されていくようになりました。

現代の印鑑登録制度の起源となるのが江戸時代で、「実印」を登録する「印鑑帳」が作成されるようになりました。
この「実印」は所有権に関して強く保証するものとなっており、現代社会における「実印」と非常に似た性格を持つようになりました。
日本の近代法では明治6年(1873年)に実印が制度化されました。
この印鑑制度は、日本の中で独自に文化として染みわたり、現在まで続きます。

現代においては、電子印がITの発展と共に普及しはじめており、特にブロックチェーン技術は印鑑を不要にする社会を実現するのでは、と言われています。
この印鑑不要論と電子契約の話は、別のところで触れたいと思います。

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登記に関する基礎知識~雑学込み~

多くの方にとって、「登記」は馴染みのない手続きです。
今回は、この「登記」について、基礎的な部分を解説します。
ちょっとマニアックな雑学が入っているのは、そちらの方が楽しいからです。

豊臣秀吉が日本の登記の起源、って聞くと、びっくりするはずです。

登記とは

登記とは、重要な権利や義務について、法的に社会に示すと共に保護するための手続きです。
「法務局」という役所にて行う、ようは事務手続きを行います。
多くの人にとっては、ほとんど関わりのない手続きではあるのですが、例えば家を買ったときや、親族の不動産を相続したときに行わなければいけない役所での手続き、と書けばぼやっとはイメージできるでしょう。
なお、これを「不動産登記」といい、他には会社を設立した時などに発生する「商業登記」、「法人登記」「動産譲渡登記」「債権譲渡登記」「成年後見登記」「船舶登記」「工場財団登記」などがあります。

日本での登記で一番多いのが土地や建物の物理的な状態と、権利義務関係について行われる「不動産登記」です。
不動産登記は関連する手続きや確認をしっかり行わないと、大きなトラブルに巻き込まれる可能性のあるものです。
ここら辺とか、詳しいので読んでみては(「不動産登記 トラブル」で検索しても、たくさんでてくる)。

雑学ですが、立木(りゅうぼく)登記というものもあり、土地の上に生えている木の所有権に関して登記を行うこともあります。
これは土地収用の問題などにおいて、反対派が抵抗するための手法として行う場合があり、これを「立木トラスト」といいます。
有名なところとしては、安保闘争時代に発生した「下筌(しもうけ)ダム」の案件があります。
現在でも、ダムの建設反対運動などに、実際に行われていたりします。

登記に関するTips

会社の場合、役員の改選任や定款の変更、増資、ストック・オプションの交付などがあった場合、登記手続きを行わねばならず、これを怠った場合、「過料(かりょう)」という罰金が発生する場合があります。
しかも、この「過料」の通知は代表取締役個人宛に裁判所から届くため、法的な手続きを軽視していたり、知識が乏しかったりすると、ある日突然、ぞわっとする想いを経験することになります。
こういうのです。
「過料」は、何年間も手続きを放置していた、などの悪質性が高い場合に課せられるので、登記の期限である2週間を過ぎたからといって、過度に心配する必要はありません。
よくあるパターンは、役員の改選人や、役員の住所変更(引っ越し)を何年も放置していた、というケースです。

登記手続きを行ったあとに取得できる書類を「登記事項証明書(とうきじこうしょうめいしょ)」と呼びます。
一般的には「登記簿謄本(とうきぼとうほん)」や単純に「謄本(とうほん)」と呼びます。
こういうのです。
この謄本は、法務局で発行手続きを行うのが一般的で、そのため、役所に赴かないと取得できないと勘違いしている方も多いです。
実際は、オンラインで郵送手続きを行えますし、こういうサービスを使うと簡単に取り寄せや逆にお取引先様へお届けすることができたりします。
なお、会社の謄本は、赤の他人でも取得できるため、与信や反社の確認などに活用されます。

昔は紙で記録されており、そのため「登記簿謄本」と呼んでいましたが(謄本は文書という意味)、現在はデジタルでの記録のため、「登記事項証明書」と呼び方が変わりました。
ついでに書くと、お取引先様などから「謄本の原本をちょうだい」と依頼をうけることがあるかと思いますが、謄本の原本は法務局にデジタルデータとして記録保管されているもので、法務局から発行される紙の謄本はあくまでも「写し」です。
逆に「謄本の写しをちょうだい」と依頼をうける場合もあります。
ですので、依頼されているものが「発行された紙の写しの原本」のことなのか、「コピー」や「PDFデータ」でよいのか、をきちんと確認をしないと、手間が増える場合があります。

なお、不動産登記は、「不動産登記法」という「民法」が、「商業登記」は「商業登記法」という「商法」がカバーしており、登記と一言でいっても、法律の種類が異なります。
登記は「司法書士」と呼ばれる方々が代行できます。
自分自身で登記手続きを行うのは、決して簡単では無いですし、煩雑ですので、通常は司法書士に依頼して対応してもらいます。

登記の歴史

日本での登記の歴史は意外に古く、あの豊臣秀吉がおこなった「太閤検地(たいこうけんち)」にさかのぼります。
懐かしい単語がでてきましたね。
太閤検地を簡単に説明すると、太閤である豊臣秀吉が命令して行わせた全国規模の土地調査のことです。
教科書的な書かれ方としては太閤検地は兵農分離や刀狩りとセットで語られ、イメージが悪いですが、権利関係や税制の整理や、単位の統一、法制度、経済などの基礎となるもので、国の発展という観点において、非常に意義のある取り組みでした。

その後は、明治初期に、土地の所有権を示した「地券」が東京府下の土地所有者に発行され、地価を基準に課す不動産税の基礎となり、そしてようやく登記が法律として施行されたのは、明治20年(1887年)になってからです。
フランスの登記制度をベースに制定され、土地や建物に関して、所有権取得などを登記しました。
民法の施行が明治31年(1898年)なので、なにげに登記に関する法律の方が歴史が古いです。
当時のイメージは、このあたりを見ると、掴めるでしょう。

世界では、英国系の登記制度(イギリス、ニュージーランド、オーストラリア)と、大陸系の登記制度(ドイツ、フランス)がありますが、そもそもとして登記制度がない国が多いです。
英国系の登記制度、「トーレンスシステム」は1858年にさかのぼりますが、これのもっと起源としては、「コモン・ロー」と呼ばれる中世イングランドから続く、独自の慣行や正義に関して示した概念にたどり着きます。
大陸系の登記制度としては、ドイツやイタリアで発祥した「公証制度」があげられ、その更に起源は中世の神聖ローマ帝国のローマ法にたどりつきます。
なお、司法書士という職業は日本にしかなく、海外では弁護士や、公証人が代行して行います。

海外での登記

海外の登記の歴史が話題に出たので、最後に海外で起業する場合の話を簡単に触れます。

海外で会社を起こす場合、登記手続きや、それに該当する役所での手続きが必要になります。
ただでさえ決して簡単ではない登記手続きを現地の法律と言語で行うわけですので、非常に難易度が高くなります。
そのため、海外での登記手続きを代行する業者が多数存在します。
海外進出時の手続きに関しては、きちんと調査して、適切な業者を探しましょう。

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