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【会計基礎講座Q&A】〇〇という会計手法を勉強しようと思っています。

このコーナーでは、セミナー等々で受けた質問に対して回答しています。
今回は、実務に使える個別の会計手法について勉強しようと思っているが、どうか?という質問ですね。

なお、あまり傾聴的観点は盛り込まず、素朴に実利的観点で回答していきます。

質問

「物流の業務に携わっています。そこでスループット会計というものを勉強しようと思っています。ボトルネックを見つけるためにも、必要だと考えているからです。どう思いますか?」

ふむふむ。

何か業務上の課題感があって、その課題感に対応するための何かしらの手法を勉強したい、ということですね。

回答

まず入り口から申し上げると、私自身がスループット会計、というもの自体を良く知りませんでした。

そこから入って、ではそこまで重要な事なのか否かという直感的感覚で言うと、多分、そこまで重要なものでは無いのだろう、というのが一つの答えになります。

それでは身も蓋も無いですし、根拠性も低いので、もう少し考えてみます。


さて、改めて私もスループット会計というものを調べてみました。

スループット会計は、キャッシュ・フローに着目して、各業務プロセスのボトルネック(制約)を洗い出して、スループット、つまりは「販売によって生み出すキャッシュ」を最大化しよう、という考えの、管理会計の考え方です。

どうやら「ザ・ゴール」系の考え方のようですね。

大きく次の3つの指標があるようです。

  1. スループット:売上 - 直接材料費
  2. インベントリー:在庫における直接材料費部分(労務費や製造間接費は含まない)
  3. オペレーティング・エクスペンス:在庫(直接材料費)関連以外の全ての事業コスト

その上で、上述したキャッシュ・フロー確保を目的に、ボトルネックを解消していこう、という事のようです。

これを見て、私が思った事は、別にスループット会計である必然性が無いな、という感想です。
別に、従来型の製造業管理会計で問題があるとは思えない、十分に適用できると思うのです。

KPIとして、上記を指標として設定し、管理して行こう、という事は全く問題無いのですが、会計学習の入り口として、スループット会計から入るのは、そもそもスループット会計を理解できるのか否かも怪しくなってしまうので、推奨はできないかな、と考えます。

あくまでも会計学習をしたい、という前提に立つと、なのですが。
まずは、古典的・伝統的な管理会計について学習する所からはじめてみてはいかがでしょうか?
そちらの方が、入門書含めて多くの書籍がありますし、知識を習得している方も多く相談相手に困ることが少ないはずです。

(なお、物流上のボトルネックを解決したい、というのであれば、ロジスティックスの専門書に当たる方が早いとは思います。こちらも古典的でかつ有用な書物が多数ありますね。)


ビジネスの世界ですと、常に新しい動きがあり、また書店でも「新手法」「新潮流」的な風潮で様々なビジネス手法の解説本が並んでいます。

新しい物を否定しようという考えは一切ありませんが、古典には古典の良さがあります。
取っつきにくい等々の感覚を持ってしまうかもしれませんが、古典を抑える、という事は学習の入り口として、検討して見る事を癖としてみて下さい。

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【会計基礎講座Q&A】どうやったら会計を覚えれますか?

このコーナーでは、セミナー等々で受けた質問に対して回答しています。
今回は、会計学習に対しての相談です。

なお、あまり傾聴的観点は盛り込まず、素朴に実利的観点で回答していきます。

質問

「会計を勉強しよう、と思っていて、色々と努力をしているのですが、用語やその意味を中々覚えられず、覚えても忘れてしまいます。どうやったら会計の知識を覚えられるでしょうか?」

なるほど。

確かに、勉強、というのは中々厄介なものですね。

勉強をしよう、する、とう意思や姿勢はある中で、とは言え中々覚えられないと。

それでは回答をしていきます。

回答

今回は2つの観点で回答しようと思います。

紙とペンを用意し、手を使って反復学習をしよう

こちらの記事にも書いてあるのですが、基本的には「反復学習」をしてください、という話になります。
数をこなすのが一番だからです。

で、会計の学習ですから、簿記とかの勉強をしてみるのが一つ、良いかと思いますが。
本を読むのも良いですが、問題(演習)をガリガリ解くのをおススメします。
本を読んだだけの知識を、実務で活用しよう、というのは中々辛いものがあります。

別に「日商簿記」的に、仕訳から入らなくても良いですが、会計学習用の演習本は世の中、多数存在します。
そういった問題(演習)を沢山解けば、自然と数字を読み解き活用していく力は身につきます。

その際なのですが、Excelを活用して効率的に勉強したい、と考える方も多いのですが、ここで一番重要なのが「紙とペン」を使う、という点です。

私の周囲にいる会計プロフェッショナルに聞いても、会計学習上、一番効率の良い方法は「紙とペンを用意し手を動かす」と一様に共通の見解が出てきます。

論理的でない、と思うかもしれませんが、この方法は多くの会計プロフェッショナルがおススメする方法ですので、急がば回れ、という精神でトライしてみてください。

覚えざるを得ない状況に身を置こう

もう一つは、「覚えざるを得ない状況に身を置こう」という考え方です。

姿勢と意思はあっても、中々継続ができないのが人間です。
人間の意志力には限界があります。
気合と根性でどうこうなるものではありません(と考えた方が、結局、効率が良いです)。

それではどうすれば?なのですが、仕組みや環境を整備して、それをやらざるを得ない状況を用意しよう、と言う回答になります。

勉強に集中したいのであれば、机と椅子を用意し、その周辺にはゲーム機やマンガなどの気が散るものは近くに置かないようにしましょう。
ソファがあれば、怠ける環境が用意されている状況ですので、捨てるなり、別の部屋に置くなりしましょう。
布団は毎朝、必ず畳みましょう。

そのような身の回りの環境を整える、というのも良いですが、何気に一番、人が行動を変えやすいファクターがお金です。

その意味で私がおススメするのが「株を買う」事です。

株を買ってしまって、会計学習・金融学習をして、実際に企業の決算資料や証券会社ポータルサイトの各種金融指標を読解できるようにならなければ、損をする状況を作るのです。
(他にも、簿記等の高い講座に申し込みをし、受験にもしてしまう、というのも一つの方法としてアリです。)
(ついでに言うと、大金を失いそうな状況になると、人間の必死さが劇的にあがるので、すぐに身に付きますよ。)


どちらもシビアな発想かもしれませんが、①つべこべ言わずに量をこなす、②追い込まれた状況を作る、この方法は、身体と脳みそに新しい事を刻み付ける、最も効率の良い方法ですので、是非、実践してみてください。

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サブスクリプションの管理会計各論~インサイドセールスとは?~

これまでTHE MODELにおける4つの役割として、インサイドセールスという言葉を使ってきました。
今回は、外勤型のフィールドセールスに対して、内勤型営業と理解されがちな、このインサイドセールスという役割について概説します。

インサイドセールスとは?

一般的に営業というと、どのような仕事の仕方をイメージするでしょうか?

おそらく大多数の方は、外回り、見込顧客や取引先の所へいくつもまわって商談を行い、成約を取り付ける。
そのような、いわゆる“外勤型営業”を思い浮かべるのではないかと思います。

この外勤型営業、THE MODELロールにおいてはフィールドセールスと呼ばれる営業形態ですが、良い所も多数ある一方、効率面においては大きな弱点を抱えています。
一人のフィールドセールス担当者が対応できる顧客の数には、当然に制限がある中、仮に見込顧客の発掘からクロージングに至るまでの全ての活動を行う事は、非常に非効率と言えますね。
(この非効率には、情報共有の観点でもそうですし、顧客の購買・意思決定プロセスの長期化・複雑化による、セールス活動そのものの非効率化も指摘できます。)

この非効率を解消したい、というニーズがある中、営業の分業化は進んできたわけですが、近年、インサイドセールスという形で新たな営業の形が誕生しました。
インサイドセールスは、電話をはじめとした、内勤にて対応できるツールを活用して行う営業の形態です。
(ITの発展により膨大な数の見込顧客に容易にアプローチできるようになった事や、企業間の競争が激化すると共に、ありとあらゆる分野で人手不足が発生している事が、この非効率の解消ニーズを高めました。)

近年は、インサイドセールスとフィールドセールスの得意分野の異なる営業形態を組み合わせて営業を行う事が増えてきました。

(参考)インサイドセールスのメリット

・効率的な営業活動を行いたい、というニーズのもとインサイドセールスという役割が誕生した
・面談の時間や移動時間が無い事や、ITの活用により、圧倒的に多い数の顧客にアプローチを行う事ができる
・フィールドセールスの成約率向上(確度の高い見込顧客のパス)が可能となる
・リードのリサイクルをはじめとした、ターゲット顧客の枯渇にも対応できる

インサイドセールスの役割

インサイドセールスの役割は、商談、つまりセールス部門としての役割もあるのですが、一方、マーケティング部門としての性格も帯びています。

リードナーチャリング

まず一つ、インサイドセールスの重要な役割として指摘できるのがリードナーチャリングです。

リードナーチャリングとは、潜在的にはニーズを抱えている見込顧客に対して、各種のマーケティング・セールス手法により、その潜在的ニーズを顕在化させ、購買意欲を高めていくプロセスの事です。
見込顧客の興味関心を育てる、という意味でナーチャリング(育成)という言葉が使われています。
なお、この見込顧客の事を、一般的にはリードと呼びます。

ナーチャリングの手法としては、展示会やメルマガ、セミナー、ホワイトペーパー、フォロー架電など、上述の通り各種のマーケティング・セールス手法が活用されます。

商談につなげられていないリードの掘り起こしや、失注案件・休眠顧客・解約顧客のリサイクルなども、このリードナーチャリングの内数と言えるでしょう。

(参考)ナーチャリングの手法

ナーチャリングの手法には、例えば次のようなものがあります。
マーケティングの手法ともだいぶ被りますね。

・展示会
・オウンドメディア/SNS
・メールマガジン
・ホワイトペーパー
・セミナー/ウェビナー
・フォロー架電

展示会への出展や、オウンドメディア/SNSでの露出により、顧客の自社理解・商品理解を進めつつ、メールマガジンなどで興味・関心を醸成する。
その後、ランディング・ページ経由でホワイトペーパーのDLやセミナー/ウェビナーへ誘導していき、確度の高い顧客に育てていく。
最後に、フォロー架電によりヒアリング等を通じながら、顧客との関係性を構築し商談化、クロージング担当にパスをする。

この流れが、基本的なインサイドセールスのナーチャリングの流れになります。

会社によっては、インサイドセールスが担当するナーチャリングの範囲を、フォロー架電に限定し、そこに特化している、というパターンも良く見かけます。

リードクオリフィケーション

もう一つ重要な役割がリードクオリフィケーションです。

インサイドセールスは、実際にクロージングを行う前の、いわばプレ商談を行う部署です。

つまりリードの興味関心・ナーチャリングの度合いを見極める役割をになっています。
この、ナーチャリングの度合いの見極めがリードクオリフィケーションです。

成約確度が高そうな案件は、すぐにでもクロージング担当に渡す事が求められます。
一方、そもそもとしてナーチャリングができるステータスに来ていないリードは、マーケティング部門に戻す事も同時に求められます。
ようは、優先順位付けです。

このように、マーケティング/セールス活動の分業化によって起きた、役割間をつなぐ仕事もインサイドセールスの役割という事ですね。

(参考)クオリフィケーションの考え方

リードの状態は大きく次の4つの状態にあると整理できます。

1)対象外:自社に対して明らかに興味関心が無い、予算やニーズなどが明らかにマッチしていない
2)潜在層:担当者レベルの情報収集段階、組織としては導入意志が無い
3)準潜在層:何かしらの課題があり情報収集を行っているが、組織課題や最適なソリューションが明確化されていない
4)顕在層:明確な意思に基づいてアクションを行っており、商品選定を進めている

この内、1)対象外の顧客に関しては、ナーチャリングの活動を行っても意味がありません。
リード未満であると判断して、マーケティング担当に戻すのが適切です。
逆に4)顕在層の場合は、即座にクロージング担当に引き渡すのが良いでしょう。
すぐにでも商品を導入したい、と考えている顧客かもしれません。

さて、この大枠の整理指針で考えるのも良いですが、担当者による属人化が進むというデメリットもあります。
このデメリットの解消法として、スコアリングを導入する方法もあります。

スコアリングは、例えば、メルマガを開封したら10点、リンクを踏んで資料DLしたら30点、問い合わせフォームで「説明希望」としたら50点、というような形で、リードの状態を定量化する、という方法です。

このスコアリングが適切か否かは組織によるのですが、膨大な数のリードが存在する場合は、機械的に対処する事も検討した方が良いでしょう。

インサイドセールスの2つのタイプ

なお、インサイドセールスの役割は、その切り口によってはSDRとBDRという2つのタイプで捉える事もできます。

SDR
(Sales Development Representative)
BDR
(Business Development Representative)
反響型新規開拓型
インバウンドアウトバウンド
SMB向けエンタープライズ向け
インサイドセールスの2つのタイプ

SDR(Sales Development Representative)

SDRは、一般的には「反響型営業」と訳されるインサイドセールスのタイプで、顧客側から商品/サービスを提供している企業に対して接触してきた案件に対して営業を行う形態です。
問い合わせフォームへの問い合わせ、ホワイトペーパーのダウンロード等が代表的な接点です。

基本的にはSMB(スモールビジネス:中小企業)向けです。

BDR(Business Development Representative)

BDRは、「新規開拓型営業」と訳されるもので、SDRとは逆に、企業側から顧客に対してアプローチし、案件化(商談化)に繋げていく営業の形態です。
新規架電、(物理的な)手紙の送付、(デジタルな)ダイレクト・メールの送信、等が代表的なアプローチ手法です。

基本的にはエンタープライズ(中・大企業)向けです。

会社によって、SDRとBDRを分けたり、一つのチームで実施したり、片方(主にSDR)しか実施しなかったりと、その方針はまちまちです。

インサイドセールスのKPI

インサイドセールスのKPI

サブスクリプション/SaaSのKPIの回でも説明したのですが、インサイドセールスの基本的KPIは有効商談化率です。

有効商談化率 = (案件化数)商談化数 ÷ リード数(見込顧客数)

後は、この有効商談化率を高めるためのナーチャリング手法やクオリフィケーションの考え方に基づいて、細かいKPIを会社毎に設計していく形になります。

オウンドメディア/SNSであれば、流入数やそこからのコンバージョン・レート
メルマガであれば、開封率クリック率
ホワイトペーパーDLであれば、DL率(コンバージョン・レート)。
セミナー/ウェビナーであれば、フォロー架電の継続率

こういったものです。

とは言え、一つ、確実に設定できる共通的なKPIがあります。

それは、行動量です。

インサイドセールスの役割は、大量のリードに対して、ナーチャリングなりクオリフィケーションなりで、マーケティングに戻したり、クロージング担当にパスしたりする事です。
このプロセスに必要な重要な事は、圧倒的な行動量です。
この行動量を施策毎に最大化・最適化していく事は、どのような形でインサイドセールス体制を構築しようが、避けてはいけない目標となります。

マーケティングとクロージング担当をつなぐ、という事への意識

さて、KPIを考える上で、もう一つ絶対に避けなければいけない事があります。

その絶対に避けなければいけない事は、部分最適化です。

非常にあるある話なのですが。
商談(や成約)というKPIを最大化したがために、「燃えた」案件をクロージング担当や、その先、カスタマーサクセスのプロセスに渡すという事が、サブスクリプション/SaaSビジネスでは良く見かける光景です。
はっきりと言って、これでは意味がありません。

これはインサイドセールスに限らず、の話なのですが、相互に連携し、情報交換を行い、会社全体としてのKPIの最適化を行う事が重要です。

THE MODELロールでのマーケティング/セールス体制を構築する際には、この点を従業員全員に認識いただく事は必須です。
特に、インサイドセールスに関しては、マーケティングとクロージング担当をつなぐポジションにいる、という事から、ある意味において最もこの役割を求められると言えるかもしれません。

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サブスクリプション/SaaSビジネス管理会計まとめ

こちらはサブスクリプション/SaaSビジネスの管理会計の記事まとめ集となります。

サブスクリプションの管理会計

こちらは概論となります。

サブスクリプションの管理会計各論

こちらは個別テーマごとに取り上げた各論になります。

演習問題

会計基礎講座

会計基礎講座のまとめ集はこちらです。

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サブスクリプションの管理会計⑤~KPIの開示例~

ここではサブスクリプション系の上場会社の開示資料を参照しながら、KPIの具体例を見ていきます。
サブスクリプション/SaaS系ビジネスのKPIは、だいぶ一般的になってきたのか、開示資料内においても掲載される例が増えていきました。

本稿では、これまでの説明を踏まえて、具体の開示例を見ながらKPIに対するイメージを掴んでいただければと考えています。

前回はこちら↓

収益性:ARR,ARPA

マネーフォワードは、次の通り年次単位でのARRを開示しています。

成長率も併せて示しており、伸び具合が明確にわかります。

株式会社マネーフォワード 2019年11月期通期決算説明会資料より

freeeはIPO時の成長可能性資料の中で、CAGRを示し、中長期での成長について説明しています。

freee㈱成長可能性に関する説明資料

チャットワークは、無料プランの数も多い事から、ID数について重要視して開示しています。

具体的にはDAU(※)と課金ID数の数字と併せて、登録ID数全体を示しています。
DAUと課金ID数の伸びは、確かに単独だと鈍い要素があるので、登録ID数と併せて示す事により、アップセル余地が大きい事を説明しています。

Chartwork㈱成長可能性に関する説明資料

※ DAU(Daily Active User)は1日に1度以上「Chatwork」を利用したユーザーID数のことであり、対象期間内での最大値

マネーフォワードはARPAの開示も行っています。

クロスセル/アップセルでの増加と、新規プランのリリースによるARPA拡大を示し、ARR(MRR)への貢献を説明しています。

株式会社マネーフォワード 2019年11月期通期決算説明会資料より

一方、freeeはARPAではなく、ARPUでの開示を行っています。

freee㈱成長可能性に関する説明資料

生産性:セールス効率

生産性指標について開示している所は少なく、カオナビがコンバージョン・レートとリード数推移について開示していました。

これは成長の源泉でもあるので、明確に示せるのであれば、直近短期での成長見通しがわかりやすくなります。

㈱カオナビ 2020年3月期決算説明資料より

その他、セールス効率を示しているのがfreeeです。

推移と、明示はしていないものの他社比較の中で、自社のセールス効率が向上している事と他社と比較し優位性が一定あることを説明しています。

freee㈱成長可能性に関する説明資料

継続性:Churn Rate,プロダクト・エンゲージメント

解約率ですが、スマレジがMRRベースの Gross Churn Rate を開示しています。

開示例で多いのはGrossですね(数字が良く見えるので)。

㈱スマレジ 第15期決算説明資料FY2020 より

一方、Sansanは、同じMRRベースの解約率でも Net Churn Rate を開示しています。

Netで1%を大きく切る解約率ですので、驚異的な数字です。
確かに自信をもって開示したくなります。

Sansan㈱成長可能性に関する説明資料より

Negative Churn についての開示は、指標としての説明より成長可能性に関する説明資料の中で、自社の成長度合いをコホート推移で示している例が一般的です。

こちらはチャットワークの Negative Churn の説明例です。

Chartwork㈱成長可能性に関する説明資料

プロダクト・エンゲージメントについては、開示例がほとんどありませんでしたが、freeeが独自の指標を開示しています。

具体的には、手作業工数について「マジ価値KPI」と称し、カスタマーサクセスの成功度合に関して説明しています。

freee㈱成長可能性に関する説明資料

事業性:ユニットエコノミクス

ユニットエコノミクスも開示例が少ない指標です。

カオナビがマーケティング関連費用の推移と併せて、ユニットエコノミクスの開示を行っています。

㈱カオナビ 2020年3月期決算説明資料より

「サブスクリプションの管理会計」の本編については、これで以上とし、次回からは各論・補足という形でサブスクリプション/SaaS系ビジネスに関連する話に触れていきます。

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サブスクリプションの管理会計④~KPIの重要性~

今回はサブスクリプション/SaaS系ビジネスにおけるKPIの重要性について解説していきます。
前回のサブスクリプションの管理会計③~KPIの解説~とセットで見て下さい。

前回は↓

KGI、KPI、KAIについて

KPI(Key Performance Indicator:重要業績指標)とは、ビジネスを行う上でのキーとなる、重要な経営指標のことです。
経営の現場では、目標(KGI:Key Goal Indicator)を達成するための、その進捗、達成度合いを測る指標となります。

適切なKPIが設定させる事により、成長や改善のための企画や施策が練られ、そしてそこから具体的な活動を導き出す事につながり得ます。
この具体的な活動をKAI(Key Action Indicator)と呼びます。

構造としては次のようなイメージですね。

プレジャーサポート㈱「明確な指標をつくり、成果をあげるKIマネジメント。」より

サブスクリプション/SaaS系ビジネスでなぜKPIが重要か?

これまで見てきた通り、サブスクリプション/SaaS系ビジネスは、事業モデル的に従来のBS・PL・CFといった財務諸表だけでは業績を見通すのがやり辛く、一方、KPIにより将来の収益シミュレーションを立てやすい、という性質があります。
また、成長のためのプロセスがマーケティング→インサイドセールス→フィールドセールス→カスタマーサクセスと、明確なフローになっておりKPI管理をしやすい点も指摘できます。

ようは、サブスクリプション/SaaS系ビジネスとKPIの親和性が極めて高いのです。

自分たちなりのKPIを設定する事が重要

さて、前回でも示した通り、サブスクリプション/SaaS系ビジネスにおけるKPIはある程度、ノウハウが蓄積されており、一般化されています。

しかし、一口に同じサブスクリプション系だと言っても、会社ごとに取り組んでいる事業もターゲットとしている顧客も異なります。

BtoBなのかBtoCなのか。
デジタルベースで完結する物なのか、それとも実物の商品や人を介在するサービスがあるのか。

ようは、自分たちなりのKPIを設定し、模索し続ける事が重要です。

ここで「続ける」と表現したのは、会社の成長フェーズによっても変わるからです。

例えば、CACという指標は、一般的に会社の成長フェーズがあがればあがるほど、悪化していくのが一般的です。
とすると、ブランディングにかけていた経費に関してはCACの算出前提から取り除き、マーケティング経費とは別管理する(別のKPIを設定する)という判断もありうるでしょうし、CACの目安(目標とする予算)自体を調整し、追いかける数字を変える、という判断も考えられます。

KPIの設定を誤ったり、見直しを怠ったりすると、事業の成長にマイナスの影響が起きる可能性が高いです。

  1. 事業内容とKPIの整合性・親和性
  2. 自分達の成長フェーズ

この2点に関しては、十分に認識の上、KPIを考えていく事が肝要です。

(参考)

ベンチャー企業が良く使う指標として、TAM/SAM/SOMという物があります。
これについては、次の記事を参考にしてください。

KPIに関連して「OKR」という物も良く使われます。

これに関しては次の記事も参考にしてください。


今回は、前回のサブスクリプションの管理会計③~KPIの解説~が、気持ち長めだったので、一旦これで切ります。

次回は、サブスクリプション/SaaS系の上場企業の開示資料を参照しながら、KPIの具体例を眺めていきます。

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サブスクリプションの管理会計③~KPIの解説~

サブスクリプションとは?THE MODELとは?の2つの前提を踏まえ、今回はサブスクリプション/SaaS系ビジネスのKPIについて解説します。
用語の話に限定し、そもそものKPI云々については、別の場所で触れます。

前回は↓

ここではKPIを5つに区分して話をします。

サブスクリプション/SaaS系のKPI区分については、明確に分けられているものではなく、分類する人によって変わるのですが、私は便宜的に「収益性」「生産性」「継続性」「事業性」「安全性」の5つで考えています。

前回の「THE MODEL」の所でも書いたのですが、「自分たちなりのTHE MODELを構築するのが良い」という通り、分類についても自社に適した形で自分たちなりに考えるのが良いと思います。

収益性(全社)

MRR(Monthly Recurring Revenue:月次収益,月間定額収益)

月ごとの売上高(収益)です。

MRRの成長率はサブスクリプション/SaaS系ビジネスにおける最重要指標となります。
また、この金額が事業計画における大前提となるため、正確な把握を行ったうえで、売上の計画、投資(費用)の計画を組んでいく必要があります。

なお、複数月に渡る契約の場合、その契約期間で割った金額をMRRとして換算します。
(年額の場合、年額金額を12で割る。)

MRR = 全顧客(全ID)のサブスクリプション月間売上高
= 平均単価(ARPA) × ID総数

※ IDとは顧客の数、もしくは契約単位の数の事です。

ARR(Annual Recurring Revenue:年次収益,年間定額収益)

1年間に入ってくる売上高,収益です。

MRRを12倍(12か月分)し算出します。

ARR = MRR × 12

スポット(単発)の売上高に関しては、ARRには含めません。
(同様に、MRRにも単発売上は含めない。)

急成長中のサブスクリプション/SaaS系ビジネスでは、年単位ではなく、月単位でMRRが激変していきます。
そのため「今この瞬間の事業の規模はどうなのか?」という意味で、ARRも企業価値を考える上で重要な指標となります。

ARPA(Average Revenue Per Account:顧客ごとの平均収益)

1IDあたりの平均収益(月間平均単価)です。

ARPA = MRR ÷ 全ID数

契約プランが1種類しか無いのであれば、基本的にARPAは同じ数字が横ばいになります。

一般的なサブスクリプション/SaaS系ビジネスでは契約プランが複数あるのが通常で、この場合ARPAをあげていく(より上位のプランを顧客に利用してもらう)事が重要な活動となります。

なお、ARPU(Average Revenue per User)という類似の指標も存在します。
ARPUはユーザーあたり、ですのでID数の考え方、単位の持ち方次第ではARPUが重要となる場合もあります(1つのユーザーが複数アカウントを持つ、というような利用形態が想定される場合)。

Quick ratio(MRR成長率)

ある一定期間内におけるMRR成長率の事を指します。

後述するのですが、新規契約があればMRRが増え、解約があればMRRが減少します。
また、複数プランにより上位プランへの以降(アップセル)やオプション等の追加(クロスセル)によりMRRは増加し、同様に下位プランへの以降(ダウンセル)やオプションの解約(ダウン・クロスセル)によりMRRは減少します。

これらを全て考慮したMRRの成長率です。

Quick ratio = (新規MRR + 増加MRR) ÷ (解約MRR + 減少MRR)

サブスクリプション/SaaS系ビジネスは、新規契約を獲得するだけではダメで、解約も抑制しなければいけません。
その意味で、Quick ratioはビジネスが健全に、迅速に成長をしているか否かを判断する指標となります。

明確な目安というものが存在するわけでは無いですが、投資家の経験則的に年間でのQuick ratioは4以上が望ましいとされています。

生産性(マーケティング/セールス)

CPL(Cost Per Lead:リード獲得単価)

1件あたりのリードを獲得するために要した費用単価です。

売上を実際に生む顧客(ID)の獲得だけでなく、見込顧客、つまりリードの獲得のためにもコストをかけなければいけません。
いわゆるマーケティング活動ですね。

CPL = リード獲得のために必要となった全てのコスト ÷ リード獲得数

基本的にはCPLの抑制が重要となるのですが、お金をかけなければ良いか?というと必ずしもそうではありません。

全体平均としてのCPLを認識しつつ、マーケティング・チャネル別(プロセス別)にCPLを個別に認識し、どのマーケティング手法が効率的なのかを探る活動が必要です。

加えて、単純にリードを次工程に渡すのがマーケティングの役割というわけでもありません。

有効商談化率、成約率、ARPA、継続率(から来るLTV)。

これらが高い、良質なリードを生むためのマーケティング手法は何か?を探るのがマーケティング部門における重要な活動となります。

有効商談化率

セールス部門(インサイドセールス、SDR)は、マーケティング部門から渡されたリードに対してナーチャリング活動を行い、実際の案件化(商談化)を図ります。

この際のリードに対する商談化の割合が有効商談化率です。

有効商談化率 = (案件化数)商談化数 ÷ リード数(見込顧客数)

ここにおいて重要な観点が2つあります。

1つが、ナーチャリング担当者の育成観点。

2つが、商談化につながりやすい良質なリードについてです。

ナーチャリング手法は(リード獲得にも使える)メルマガやホワイトペーパーのような手法もありますが、ヒアリングのような人対人のコミュニケーションでも行います。
ようは、ナーチャリング担当者の力量差が出てくるわけです。

優秀なナーチャリング担当者の方法論は、他の担当者とも共有し、チーム全体として有効商談化率を高めていく事が重要です。

また、全体として商談化しやすい属性のリード、しにくい属性のリードがあるはずです。
この種の情報をマーケティング部門にフィードバックすることが重要です。
商談につながらない質の悪いリードに対して、いくら頑張ってナーチャリングを行っても、無駄な労力がかかるだけです。

成約率

基本的な考え方は有効商談化率と同じです。

インサイドセールスやSDRから渡された商談に対して、実際に成約(契約)につなげるクロージング活動を行う際の、成約率です。

成約率 = 成約数 ÷ 商談数

これも有効商談化率と同じで、セールス担当者毎の差とチーム内でのノウハウ共有。
そして、インサイドセールス/SDR、マーケティング部門へのフィードバックが重要となります。

サブスクリプション/SaaS系ビジネスにおけるTHE MODELは縦割り組織ではあるのですが、お互いに情報を交換し合う、フィードバックが重要な活動となります。

CAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得単価)

CPLと基本的な考え方は同じですが、こちらはリードではなく、顧客(ID)を獲得するに要する費用の単価になります。

CAC = 1顧客(1ID)を獲得するためにかかった営業及びマーケティングの全費用 ÷ 成約数

マーケティング部門とセールス部門は一体となって、このCACを可能な限り抑制するための活動が必要となります。

なお、成長に伴い、CACは悪化し続けるのが一般的です(急成長は続かず、広告宣伝費投下額は増大していく、組織も拡大し固定費が増大する)。
つまり、いたずらに低減しようとする事には本質的な意味は無く、適切なCACのラインを成長ステージに併せて探る事が肝要です。

CAC Payback Periods(投資回収期間)

CACを回収できるまでに必要な期間です。

当たり前ですが、コストをかければかけるほど顧客を獲得するのが容易となり、またかけたコスト(投資)の回収は困難になります。

CAC Payback Period = CAC ÷ (ARPA × 利益率)

CAC Payback Periodが短ければ短いほど、投資回収は容易である事、逆に長ければ長いほど困難になります。
この数値が顧客の継続期間より長い場合は、ビジネスそもそもを見直す必要が出てきます。

なお、この利益率はビジネスにより設定するものが大きく変わります。
何か具体の商材(実物の商材)があるのであれば売上総利益が該当するでしょうし、SaaS系ですと事業に直接関わる必須の人件費や各種サーバー費用、ソフトウェア償却額等を差し引いた事業利益率を設定する形になります。

会社毎に設定する利益率をよく吟味する必要があります。

継続性(カスタマーサクセス)

解約率(Churn Rate)

解約(Churn)は、文字通り解約の事です。

どんなに優れたサービスであっても、解約をゼロにすることは不可能です。
しかし、Churn Rateを低減する事は可能です。

Churn Rateには、IDベースなのか、MRRベースなのか、異なった切り口があります。
その他のChurn Rate関連指標と併せて解説します。

Customer Churn Rate(カスタマーチャーンレート:IDベースのチャーンレート)

IDベースのChurn Rate、顧客レベルでの解約率の事です。

Customer Churn Rate = ある月の解約ID数 ÷ 月初ID数

Revenue Churn Rate(レベニューチャーンレート)

MRRベースのChurn Rate、MRRの損失割合の事です。

なお、この場合のChurnには、ダウンセルなどによるMRR損失も含む場合が一般的です。

IDベースで見るか、MRRベースで見るか、それは会社により異なります。

上位プランを契約していただいている顧客のChurn Rateが低く、下位プランでChurnが多いならば、IDベースChurn Rateの方が高く出るはずで、この場合はIDベースを重視してカスタマーサクセス活動を行う必要があるでしょう。

逆にMRRベースのChurn Rateが高いならば、重要顧客への重点的ケアが必要なはずです。

さて、Revenue Churn RateにはGross ChurnとNet Churnがあります。

Gross Churn

ある月の解約やダウンセル等によって発生した、MRR損失の比率です。

Revenue Churn Rate = ある月の解約によるMRR損失 ÷ 月初MRR

Net Churn

上記のGross部分(ある月の解約やダウンセル等によって発生したMRR損失)に、アップセルやクロスセルによって増加したMRRを加味したChurn Rateの比率です。

Net Churn = (ある月の解約によるMRR損失 - ある月のアップセルやクロスセルによる増加MRR) ÷ 月初MRR

なお、Net ChurnがマイナスになることをNegative Churn(ネガティブ・チャーン)と言います。
これはアップセルやクロスセルによって増加したMRRが、解約によって失ったMRRよりも大きい場合に発生します。
通常、中々発生しない事象で、起きている場合には、サービスの値上げ等が行われている事が多いです。

Gross Churnはあまり使われず、Net ChurnをMRRベースのChurn Rateとして採用するのが一般的です。
(ただし、数字を良く見せられる、という観点でGrossの方が開示例は多いです。)

アップセル

顧客の単価を向上させる事、またその手法の事です。

サブスクリプション・モデルのビジネスですと、プランが複数あり、またプラン毎に価格が異なるのが一般的です。

そのため、サブスクリプション/SaaS系ビジネスの場合、アップセルは、高いプランへのアップグレードにより顧客単価があがる事をさします。

逆に、下位のプランへのダウングレード(顧客単価の減少)に対しては、ダウンセル、と表現します。

クロスセル

顧客に別の商品を購入してもらい、トータルとして顧客あたりの単価を向上させる事、またその手法の事です。

サブスクリプション・モデルのビジネスですと、「オプション」による追加課金や、同じサービス提供会社による別サービスの提供などが該当します。

カスタマーサクセスにおいては、アップセルと併せて、このクロスセルを取るための活動が重要で、マーケティングやセールス部門と連携していく形になります。

NRR(Net Retention Rate:売上継続率)

参考程度に触れておきます。

あるタイミングで獲得した契約のMRRが、その翌年にどの程度増減するのかを示す指標です。

NRR = 1年前に獲得した顧客グループのMRR ÷ 同じ顧客グループのMRR

この数字により、あるタイミングで獲得したMRRが、その1年後にどれくらい増減をしたのか、大まかに判断する事ができます。

なお、Quick ratioやChurn Rateでも、ある意味において、同じ内容の事を把握する事ができるので、重要な指標ではあるのですが、別にこの指標をマストで見なければいけないか?というと微妙です。
また、計算方法も、解約分の反映をどこまでやるのか、顧客グループの起点を今に持つのか、過去に持つのか、で変わってきて、目安的な所も取りづらいです。
さらに、一般的に、計算が煩雑であり、他のKPIに比べて容易に算出できない点も指摘できます。
そのため、参考程度、としています。

プロダクト・エンゲージメント

ある意味において、最も本質的に重要な指標です。

カスタマーサクセス活動においては、如何にChurn Rateを下げるか?という目線で活動を行うのですが、ではそのChurn Rateはどのような性質をもつ指標なのかと言うと、結局の所、後追い指標であるにすぎません。

そのため、今、顧客が自社のサービスに対して、どのように感じているのか?という目線でヘルススコア(満足度)やNPS(Net Promoter Score:推奨度)という指標が重要になってきます。

このプロダクト・エンゲージメントは、それだけで本が1冊書ける位のテーマになってしまうので、ここではNPSについて簡単に説明します。
プロダクト・エンゲージメントについては、別の機会で触れようと思います。

NPSは、顧客満足度とロイヤリティを数値に表した指標の事です。
実際に顧客の声を聞いて、取得したデータを数値化することが必要となってきます。

よくあるNPSの数値化方法として、顧客に「このサービスを知り合いにすすめたいと思うか?」という質問をし、それに対して0から10のレンジで点数付けをしてもらう方法です。

NPS = プロモーター比率(高い点数をつけた人の数 ÷ 全回答者数) - 非プロモーター比率(低い点数をつけた人の数 ÷ 全回答者数)

この「高い点数」は9や10など、「低い点数」は6以下などをいれるのが一般的ですが、基本的には会社毎・商品毎に顧客の受け取り方も違いますので参考程度です。

他にも、プロダクト・エンゲージメントを測る方法はあり、自社にとって最適な手法を探る事が重要です。

事業性(全社)

LTV(Life Time Value:顧客生涯収益,顧客生涯価値)

一顧客が、取引期間を通じて企業にもたらす利益の総額です。

高い単価で、長きにわたりサービスを利用してくれる顧客ほど、LTVが高いという事になります。

LTVはサブスクリプション/SaaS系ビジネスにおいて、長期的な利益を見ていくうえで重要な指標となります。

LTV = (ARPA × 利益率) ÷ Churn Rate

また、見方を変えれば、新規顧客の獲得やChurn Rate低減のために、どれだけのコストをかけて良いのか?を測る目安ともなります。

LTV/CAC(ユニットエコノミクス)

ユニットエコノミクスは事業の経済性(収益性)をユニット単位で測定する考え方の元、編み出された計算です。

これは、従来型のPLやCFでは、サブスクリプション/SaaS系ビジネスの経済性を理解するのが困難である事、またサブスクリプション・モデルの活況により、投資判断や経営判断を行う上でのわかりやすい指標として開発されました。

ユニットエコノミクス = LTV ÷ CAC

ID数は順調に増加しているが、中々利益につながらない、というような場合に、ユニットエコノミクスを見て経営判断を行う事ができます。
いつまで、そしてどれだけ赤字を許容していくのか、を判断できるのです。
過去の投資判断の成否を測る事も可能です。

数値の目安としては、経験則でしか無いのですが、ユニットエコノミクス > 3」が望ましいとされています。

安全性(全社)

Burn Rate(資本燃焼率)

1ヶ月で溶かすお金の額です。

明確な計算式は無く、事業計画を元に算出をします(Cashが尽きるまでの平均Cash流出額)。

サブスクリプション/SaaS系ビジネスに限らず、スタートアップやベンチャーは、多額の投資により、お金をどんどん使っていくものです。

そのため会社を経営していくために1ヶ月でいくらの資金が必要になるのか?を正確に把握しておく事が重要になります。
それにより、今ある資金とBurn Rateから算出した、「後、何か月、会社を経営していく事ができるのか?」というスケジュール感を元に資金調達活動(銀行からの借入や、投資家からの出資)の計画を立てていく形となります。

なお、従来より、投資家から受けた出資については、ガンガン投下して(燃やして)、ガンガン成長させていく、という姿勢が望ましいとされてきました。
つまりBurn Rateを高く設定し、そして成長した分、企業価値をあげて次の調達につなげていくのがベンチャーの成長の王道でした。

直近は新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、IT系やヘルスケア系を除き、この投資熱も抑制されています。


次回は、サブスクリプション/SaaS系ビジネスにおけるKPIの重要性について解説し、続いてここで示したKPIについて、具体の開示例を見て行きます。

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サブスクリプションの管理会計②~THE MODEL~

さて、今回は、前回の「サブスクリプションとは?」に続いて「THE MODEL」についての解説です。
「THE MODEL」はサブスクリプションの管理会計を理解する上での基本的な考え方となります。

前回はこちら↓

参考書籍はこちら↓

THE MODELとは

近年、THE MODELという言葉を、サブスクリプション/SaaS界隈でよく聞くようになりました。

このTHE MODELは、営業プロセスモデルの一つで、日本の㈱セールスフォース・ドットコムが取り入れて、業績を拡大させた際の成長モデルの事をさしています。

(海外でTHE MODELの話をしても通じない。)

この成長モデル、特にSMB(スモールビジネス)向けのマーケティングからセールス、そしてカスタマーサクセスまでの一連の流れにおける、分業及び協業について、ビジネス成長の再現性を高めていこうというレベニューモデルが「THE MODEL」になります。
ようは、中小企業向けにインバウンドで効率的にビジネスを成長させていくのに適した成長モデルです。

インバウンドとは、顧客自らが商品を売る企業側に接触すること。お問い合わせフォームから問い合わせた、ホワイトペーパーをダウンロードした、展示会で名刺交換した。そういった顧客からのアクションを元にセールスを進めていく事を言う。アウトバウンドは、超絶簡単に言うと、企業側から顧客に働きかける従来型の営業スタイルの事。

THE MODEL、THE MODELと言われるのですが、万能な手法ではありません。
大企業向け(エンタープライズ向け)セールスや、toC向けのビジネスの場合、そのまま適用できません。
会社毎に行っているビジネス、取り扱っている商品、対象としている顧客が異なるので当然です。

ここで先にTHE MODELにおける重要な点を1つ述べると、自分たちなりの(自社独自の)THE MODELを構築する必要がある、という点です。

取り巻く環境の変化

それでは、じゃあなんでTHE MODELなのか?THE MODELは何故、うまく機能しているでしょうか?

その理由は、ビジネスと顧客を取り巻く環境の変化にあります。

  • 顧客の購買検討プロセスの変化
  • ビジネスの成長がもたらす変化
  • 分業による副作用の変化

説明するまでも無いですが、今現代はインターネット社会であり、欲しい情報は大体、検索すれば出てきます。
つまり、顧客は、企業側が顧客と接点を持つ前に、一定、購買の意思決定を行っているのです。
ようは「既に勝負はついてしまっている。」という事ですね。

勝負がつく前に顧客に対して何かしらのアクションを取りたいのであれば、オフライン(商談の履歴等)の情報では不足があり、オンライン(WEB,メール,モバイル)から顧客の情報を取得し、顧客の理解を行う必要があります。

これが、顧客の購買検討プロセスの変化です。

マーケティング・オートメーション(MA)という言葉が誕生して久しいですが、セールス効率はITの発展と共に著しく上昇しています。
そしてセールス効率を高め続けていけば、いずれは成長が頭打ちになります。
この成長の頭打ちを突破するには、「顧客のリサイクル」が必要となります。

これが、ビジネスの成長がもたらす変化です。

そして、MAの誕生を契機に、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス(外勤営業)の各プロセスが分業をするようになってきました。
分業、縦割りで組織を分けることにより、共通の目標が追いにくくなります。
セールス効率を高めたが故に、分断が発生しやすい状況になり、これを打破する必要性が出てきました。

これが、分業による副作用の変化です。

このような、ビジネスと顧客を取り巻く環境の変化が起きているが故に、マーケティングからセールス、そしてカスタマーサクセスに至るまでの全てのプロセスについて、接続し、一気通貫させるレベニューモデルが機能する土壌が育まれることとなりました。

そして、このレベニューモデルが「THE MODEL」なわけです。

4つのプロセス

THE MODELでは、セールスのプロセスを、4つに分けて考えます。

  • マーケティング
  • インサイドセールス
  • フィールドセールス
  • カスタマーサクセス

そして、この4つのプロセスそれぞれに管理すべきKPIが存在します。

マーケティング

マーケティングは、文字通りマーケティング施策の企画・実行、そして顧客情報(見込顧客)などの収集を行います。

WEB・SNS広告、ホワイトペーパー、展示会などの実施が該当する活動です。

マーケティングの重要な役割は見込顧客(リード)の獲得であり、このリードをインサイドセールスに引き渡します。

マーケ施策(ターゲット母数) × 見込顧客得率 = 見込顧客数

インサイドセールス

インサイドセールスは、マーケティングが獲得した見込顧客に対して、様々な手段による案件化を行います。

メルマガによる情報提供、ヒアリングによる課題抽出とコミュニケーション、具体のソリューションの提案が該当する活動です。
(これらを、ナーチャリング、と呼びます。)

インサイドセールスの重要な役割は案件化、つまり商談数の獲得であり、この商談をフィールドセールスに引き渡します。

見込顧客数 × 有効商談化率 = 商談数

フィールドセールス

フィールドセールス(外勤営業)は、インサイドセールスが案件化した商談に対して、実際に成約につなげる活動を行います。
クロージングのための営業活動ですね。

フィールドセールスの重要な役割は成約、つまり契約の獲得です。

商談数 × 成約率 = 契約数

カスタマーサクセス

そして最後、カスタマーサクセスは、フィールドセールスが獲得した契約に対して、更新率をあげる(もしくは解約率を下げる)活動を行います。

オンボーディング(ようは初期サポート)、コンサルティング、カスタマーサポートなどの活動が該当します。

カスタマーサクセスの重要な役割は、文字通りカスタマーサクセス、顧客の“成功”にあります。
顧客が自社のサービスを利用する事により、抱えていた課題を解決していく。
それにより更新率が上がり、継続して自社サービスを利用してくれるようになります。

契約数 × 更新率(※) = 継続契約数
(※ 解約率:チャーンレートから計算する事も)


これら4つのプロセスを分業により、効率を最大化させていくという考えがTHE MODELの基本的なポイントとなります。

他にも管理会計以外の要素、分業・縦割りにより発生する分断をどうするのか、や各プロセス個別の深掘りについては別の機会に触れようと思います。

THE MODELのKPI

上記4つのプロセスで見た通り、THE MODELでは基本となるKPIが決まっています。
管理会計のやり方がある程度決まっているんですね。

サブスクリプションとは?に続き、今回でTHE MODELについて、基本的な所を抑える事ができました。
これでKPI、管理会計の話に移れます。

次回は、ここで登場したKPIに加えて、サブスクリプション/SaaS系のKPIについて、解説をしていきます。

なお、あらかじめ釘を刺しておくのですが、THE MODELの概念で重要な事は、KPIの達成やセールスの効率化にはありません。
本質的には「カスタマーサクセス(顧客の成功)」にある、という点は管理会計を行う上でも最重要の思想となりますので、この点は重々ご承知おきください。

次回はこちら↓

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サブスクリプションの管理会計①~サブスクリプションとは?~

前回は、㈱オリエンタルランドを例に、財務3表から管理会計上の接続について簡単に見てみました。
今回から個別のテーマに入っていきます。
最初は、ここ近年で話題にあがっているサブスクリプション・モデルの管理会計について考えていきます。

サブスクリプション・モデルの管理会計については、大枠として下記の構成で予定しています。

  1. サブスクリプションとは?
  2. 「ザ・モデル」について
  3. サブスクリプションの管理会計指標解説
  4. 具体例
  5. 他各論

なお、本稿自体は話をわかりやすくするため、主に「toC」をベースに話をしますが、「ザ・モデル」について、以降は「toB」をベースに話をします。
「toB」ベースの話で、管理会計のベーシックな部分は「toC」もカバーできるからです。

前回以前の会計基礎講座については、下記にまとめています。

サブスクリプション・モデルとは

サブスクリプションとは、本来は雑誌や新聞などを予約購読、つまり定期購読するという意味の言葉です。
それが転じて、サービスの利用に当たって毎月一定額を払えば、支払プランの範囲内で使い放題となるサービスのことをサブスクリプション・モデルと呼ぶようになりました。

ここで重要なのが、従来のビジネスにおいては、価値提供の軸が提供する商品やサービスそのものに焦点があてられていましたが(所有)、商品やサービスの量や期間、もっというと”利用”に焦点があてられている、という点です。

所有と利用の違い、そしてレンタルとサブスクリプションの違い

月額料金制度や定額利用サービス、と解説をされたりしますが、サブスクリプションはもっと奥の深い概念で、製品中心から顧客中心へと考え方が変わったビジネス・モデルと言えます。

以下、サブスクリプション・モデルのことを「サブスク」と略します。

なぜ、サブスクが近年話題となっているのか?

サブスクは、継続的に価値を提供し、収益化するビジネス・モデルです。

上述の通り、製品中心から顧客中心へと考え方が変わった、とある通り、重要な事は顧客を正しく理解して、固定的なサービスではなく、価値を継続的に提供し続ける事にあります。
ようは「長期的リレーションシップ」を構築する事が重要と言えます。
(繰り返しますが、サブスクリプションは課金形態の変更、ではなくて、新しいビジネス・モデルです。)
それでは、なぜ、サブスクが近年話題となり、急速に拡大しているのでしょうか?

顧客ニーズの変化

その大きな理由としては、顧客のニーズの変化にあります。

戦前から続いてきたプロタクト販売モデルは限界を迎えている、と言われて久しい通り、現代は「物が売れない時代」です。
必要な物は身の回りにあふれており、「モノ消費ではなく、コト消費」とも言われて久しいです。

つまり、顧客のニーズは、所有から利用へと変化しているのです。

このような背景があり、製品中心から顧客中心へと考え方を変えたサブスクが顧客のニーズとマッチし、近年台頭する形となりました。

企業のメリット

これは、顧客のメリットだけでなく、企業にとってもメリットがあります。

まず、顧客との関係性です。

サブスクは「売ってお終い」というビジネス・モデルでは無いため、顧客とダイレクトにつながり、また「長期的リレーションシップ」の構築を図る事が可能です。

次に、収益性の問題です。
「長期的リレーションシップ」を構築するが故に、長きにわたって収益・売上が約束された状態でビジネスを進められる事ができます。

このメリットを端的に表現すると本節冒頭の「サブスクは、継続的に価値を提供し、収益化するビジネス・モデル」となります。

サブスクの事例と考え方

さて、サブスクですが、ありとあらゆる領域で登場するようになってきました。

BtoCもそうですし、

BtoBもです。

BOXIL社資料より

いくつか具体の事例と共に、サブスクの考え方を深めてみます。

車の例から見る顧客ニーズの変化

従来ですと、車を運転する、という行為を考えた時に「買う」か「借りる(レンタル)」の2つの方法しか存在しませんでした。

サブスクのモデルでは、契約の期間中、契約プランの範囲内で様々な車種に自由に乗り換える事が可能です。
保険の手続もメンテナンスも不要で、利用者は面倒な雑事を気にする必要はありません。

㈱KDDI総合研究所作成資料より

さて、今までのプロダクト中心の時代では、ただ、より良い製品を効率的に生産すれば良く、顧客の事を深く知る必要はありませんでした。
しかし、これからの顧客の時代では、顧客は必要な時に、必要な情報やサービスを、状況に応じて適した形で提供されることを期待しています。

今の若い消費者世代は、「車への消費」に関して、あくまでも乗りたいのであって(移動手段や、場合によっては様々な車に乗ってみたいという体験)、所有をしたい(車の所有がステータス)、とは考えていないのです。

これから技術が更に発展し、自動運転の時代も到来するでしょう。

顧客のニーズは、まだ変化していく事が予想され、その時の勝者は変化し続ける顧客のニーズを捉えた企業になると考えられます。

Amazonの例から見る顧客との関係性、マーケティングの考え方の変化

Amazonは、顧客との継続的な関係性を構築した物販の会社としては代表的と言えるでしょう。

従前のECは、物を販売して終わり、でしたがAmazonは違います。
高度なロジックにより、顧客毎に異なるトップ画面が自動的に構成されます。

Amazonは顧客を、例えば30代独身女性というようなメッシュ感の荒い集団で傾向を分析するのではなく、一人一人、唯一の顧客としてリレーションを構築しようとしています。

例えばAmazonプライムは、単純に便利だから伸びている、という側面も前提としてありますが、それだけではありません。

顧客一人一人のことを詳しく知っている事によって、利用者に対して継続的な価値を提供でき、そしてそれがサブスクの収益の元となっているのです。

adobeから見る管理指標の変化

illustratorやPhotoshopで有名なadobeは、これまでパッケージ販売を行っていたデザイナー向けソフトについて、定額課金方式(サブスク)に移行しました。
2011年のことです。

数十万円をする高額商品を、定額課金方式に切り替える、という事は大きな挑戦です。

切替時の投資や、採算性があうまでの顧客数(ID数)。
初期には莫大な赤字を出します(必要な投資が大きい一方、収益が悪化する状態が続くため「フィッシュ」と呼ばれる成長曲線を描く事になる)。

ビジネスを成功させるには、顧客のニーズを捉えるだけでなく、投資家の理解も必要です。

adobeは年間経常収益(ARR:Annual Recurring Revenue)という考え方を取り入れ、投資家を説得しました。

結果、adobeの挑戦は成功し、株価はサブスク切り替え前の7倍になり、低迷していた売上の伸びも再度の成長曲線を描けるようになりました。

adobeの成功は、ソフトウェア業界における象徴的成功事例となり、近年はソフトウェア業界全体で一気にサブスクリプション化が進んでいます。
また、顧客も、クラウド、サブスクリプションじゃないと選ばない、という位の状況になっています。

サブスクは更に拡大していく

過去にも電車の定期券や新聞・雑誌、賃貸住宅など、サブスクのビジネス自体は存在していました。
ようは、インフラやライフラインの領域です。

しかし、近年はITの発展を背景に、様々な領域でサブスクが拡大しています。
ITは、IoTやAIなどの領域はまだまだ未成熟であり、更なる技術革新が期待されています。

そのため、ありとあらゆるビジネスは、サブスク化が行える、とされています。
中長期的に安定した売上を得られるサブスクに何とか移行し、顧客の支持を得ようと、各社が必死に競争を繰り広げています。
今後も、サブスクは更に拡大していく事でしょう。

(参考書籍)

次はこちら↓

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オンキョーは復活するか?

オーディオ機器の大手、オンキョー㈱が苦境に陥っています。
2020年3月期決算においては98億円の最終赤字を出し、債務超過に転落。
2021年3月期第1四半期(6月末)もコロナ影響もあり赤字の状態です。
組織再編も行われていますが、果たしてオンキョーは復活するのでしょうか?

オンキョー㈱の業績

まずは業績ですね。

直近業績概要

こちらは2021年3月期第1四半期の業績です。

オンキョー㈱四半期報告書より

売上高は昨対比▲73%の激減、赤字幅は一定の構造改革が行われているのか昨年水準の13億円の赤字となっています。

2020年3月期の段階で98億円の最終赤字と、35億円の債務超過、自己資本比率▲35%という状況でしたが、この第1四半期で増資が行われており、自己資本は一定の回復が行われています。

同四半期報告書より

なお、オンキョー㈱の株価は下記の通り推移しており、増強できている資本も全体感からすると微々たるものです。

更なる資本状況が必須と言えるでしょう。

Google オンキョー㈱株価推移

業績推移

業績推移ですが、下記の通り7期連続の経常損失となっていました。

オンキョー㈱有価証券報告書より
オンキョー㈱有価証券報告書より

このような状況ですので、オンキョー㈱は2015年3月期より後、19回もの増資を行っています(新株予約権は除いてで19回です)。

株主もパイオニア㈱の3.95%を筆頭に、後は薄い持株数となっており、特定の大株主がいない状況です。

こういう状況ですので、借入金をはじめ、各種債務に担保がついている状態です。
(財務制限条項は外れている様子です。)

同有価証券報告書より

当然ですが、ゴーイングコンサーン(継続企業の前提)がついています。

(継続企業の前提に関する事項)
当社グループは、2013年度より経常損失が継続しており、当連結会計年度においても5,668百万円の経常損失を計上しております。また、取引先に対する営業債務の支払遅延が当連結会計年度末現在で6,468百万円(前連結会計年度末3,874百万円)存在していることに加え、当連結会計年度に親会社株主に帰属する当期純損失を9,880百万円計上した結果、当連結会計年度末現在において3,355百万円の債務超過となっていることから、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在しております。

ようは、どこかの会社に買われるか、倒産をしたとしてもおかしくない、非常に厳しい状況だ、という事です。

果たして復活できるのか?

それでは、オンキョーは果たして復活ができるのでしょうか?

事業セグメント別の業績

こちらはセグメント利益2期分です。
上述の業績推移で見てわかる通り、売上高が年々減少していっている中で、直近の新型コロナウイルス感染拡大影響による業績ダメージが来ている、結果として全ての事業セグメントにおいて赤字が発生した、という着地になっています。

同有価証券報告書より

資料提示は省略しますが、デジタルライフ事業およびOEM事業は、過去からいままで数字がふるわず、赤字か、黒字が出たとしても微々たる数字で推移していました。
AV事業で何とか数字を作っていた状況だったようです。

なお、売却報道のあったAV事業ですが、諸々条件がすり合わなかったようで、方針転換がおこなれた模様です。
この点、オンキョーは「大幅に固定費の削減が実現したことにより」としています。

(参考)セグメントの説明

AV事業:オーディオ・ビジュアル関連製品

デジタルライフ事業:電話機、ヘッドホン関連製品、音楽配信等のコンテンツ、食事トレーニングアプリ

OEM事業:車載用スピーカー、家電用スピーカー、スピーカー部品、アンプ等オーディオ製品、オーディオ・パソコン製品等のカスタマーサポート及び修理

他社(ケンウッド)の業績は?

オーディオ系メーカーですと、ケンウッドがあげられるので、こちらの業績も見てみましょう。

㈱JVCケンウッド有価証券報告書より

ケンウッドも新型コロナウイルス感染拡大の影響をうけて業績が悪化しているのですが、それでも利益は出ています。

(参考)セグメントの説明

オートモーティブ分野:カーAVシステム、カーナビゲーションシステム、ドライブレコーダー、車載用デバイス

パブリックサービス分野:業務用無線機器、業務用映像監視機器、業務用オーディオ機器、医用画像表示モニター

メディアサービス分野:業務用ビデオカメラ、プロジェクター、ヘッドホン、民生用ビデオカメラ、ホームオーディオ、オーディオ・ビデオソフト等のコンテンツ、CD/DVD(パッケージソフト)等の受託ビジネス

ケンウッドの特徴ですが、オンキョーが事実上オーディオ一本で経営を行っているのに対し、ケンウッドは他分野にも手を出している点にあります。

堅く利益を出せる業務用機器等もそうなのですが、特にカー領域に主力事業を振った点が指摘できます。
(ケンウッドがカー領域に進出をしたのは1980年。2000年代初頭の経営危機を乗り越えて、本業転換に成功している。)

個人用のAV機器は、スマートフォンの普及等を背景に、世界的に消費が減少、ないしは伸びが停滞しています。
この点はオンキョーも言及しており「全世界的なホームオーディオ市場の縮小や、主力事業のAVレシーバーの全世界的な低迷に加え」と業績について解説しています。

AV機器は、安くてもセットで10万円前後するものが珍しくなく、高いものだと数十万円、数百万円するものもあります。
若い方達が買うわけ無いですよね。
更に、世界的に晩婚化や、都市部での集合住宅での生活が主流となり、音を出すという事自体が憚られる生活環境、居住環境になっている事も指摘できます。

ようは、ケンウッドを見てわかるように、オーディオ一本だと、もう厳しいよね、という事です。

オーディオ産業におけるオンキョーの存在感って薄いよね

AV事業はまだまだニーズがあるもののこれからジリ貧、カー領域はケンウッドが強い、OEM事業は利益が弱い、と非常に厳しい状況です。

それではAV事業(個人向けのデジタルライフ事業含め)はどうなのか?という所ですが。
そもそもAV事業は、競合他社も非常に強いです。
もっと言うと、オンキョーの存在感って非常に薄いという印象を持っています。

こちらは価格ドットコムで検索したスピーカーのメーカー一覧(の一部)です。

これだけのメーカーがあって、他社は数十のスピーカーを出しているのに対してONKYOは14本だけです。

スピーカーだけではありません。
アンプも、ヘッドホンも、イヤホンも、似たような状況です。

肝心要のはずのAV事業ですが、製品力が他社に劣っているのです。

復活に必要なこと

オンキョー自体がこれからやろうとしている事は、リンク先資料「グループ再編 短期・中期・長期の視点で復活を」に記載があります。

これ自体はもう、頑張ってください、としか言いようが無いのですが、一つ気になる記事を見つけました。

日本勢は「測定結果にこだわる」とか「重ければいい音」だというオカルトな迷信に束縛されているという面があります。測定結果というのは、スピーカーから出た音をわざわざ再びマイクで拾って、その「周波数特性」をグラフにしたものです。
(中略)
全体的にまっすぐに満遍なく再生できるのが「特上」だとされます。これが日本式の信仰です。
実は、この発想法は全く無意味なのです。
(中略)
日本のオーディオ産業は、基本サラリーマン集団であって、クラフトマンシップの集団ではありませんから、「検査結果が良ければ高級」というオカルト信仰でやってきたのです。ですが、それは世界に通用しないので、日本のオーディオマニアが高齢化すると、もう市場は消滅ということになりました。
(中略)
厳しい要求を満たすように製品のクオリティを正しい方向に向けていれば、こんなことにはならなかったと思います。
(中略)
そのためには、数千ドルから数万ドルは投じてもいいというお客もまだまだ沢山存在しています。こうした市場を、結局のところ日本勢は抑えることができませんでした。

MAG2News「ついにオンキヨーも身売り。なぜ日本のオーディオ産業は傾いたか」より

これは外部記事の、とある記者の見解になるのですが、なるほど、とうなづける部分があります。

当該記事の記者は、「世界の若者のニーズをつかめないということがあります。若い人が入ってこない、海外駐在しても現地のディープな若者カルチャーにリーチできないなどの要因が重なっていると思います。」とも言っています。

本当に一例なのですが、最近のオーディオのトレンドとしてBluetoothイヤホンがあげられます。

世界の完全ワイヤレス・ヒアラブルの販売数量(単位:百万台):「完全ワイヤレス・ヒアラブル販売数量、2020年に世界で1.29億台に」より

Bluetoothイヤホンは、2018年は4千6百万台の販売台数でしたが、これが2020年には1億2千9百万台に販売数量が伸びるとの事。

世界のシェアの1%でも取れば、売上高が倍近くになる物量です(2020年3月期ベース:1台20,000円のハイレンジ想定)。

しかし、世間からのオンキョー製品の評価としては、評価対象にかすりもしない状況です。

同上

私は結論として、オンキョーの復活に必要な事に、シンプルに「世の中のトレンドは何か?」「お客様が何を求めているのか?」の追求があると考えています。

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