カテゴリー
ビジネスと心理学

人間の脳はネガティブな情報に反応しやすいバイアスが存在しているという話

人間の脳はネガティブな情報に反応しやすい構造になっています。
つまりは「ネガティブ・バイアス」が存在しているのです。
この理由は生物の歴史が関わっており、生存のための能力が背景にあります。
ネガティブな情報に強く反応することにより、危険から回避するよう、遺伝子に刻まれているのです。

人間の脳はネガティブな情報に反応しやすい

なぜ人間の脳はネガティブな情報に反応しやすいのか?

この問いに対して次の記事が解説をしています。

https://www.psychologytoday.com/intl/articles/200306/our-brains-negative-bias

人々は例えば政治的なキャンペーンにおいて、肯定的なものより、否定的なものに反応しがちです。

ネガティブな情報に反応しやすい理由は、この構造と同じだ、としています。

人には「ネガティブ・バイアス」が存在しており、脳は不快な情報に敏感に反応するよう、できているとのことです。

この点については多くの研究がされており、記事では、被験者に感情に影響を与える写真を見せて、その後の脳の電気的活動の動きを観察する、という実験が紹介されていました。

米オハイオ州立大学で行われた実験ではポジティブな感情を与える写真、ネガティブな感情を与える写真、ニュートラルな感情を与える写真を被験者に見せて、その後の脳の電気的活動が記録されました。

ポジティブな感情を与える写真とは、フェラーリやピザの写真。
ネガティブな感情を与える写真とは、切り刻まれた人の顔や死んだ動物の写真。
ニュートラルな感情を与える写真とは、皿やドライヤーの写真、等です。

その結果、脳はネガティブな刺激に対して強く反応していることが示されました。

つまり、良いニュースより、悪いニュースに人の脳は反応しやすいのです。

ネガティブな情報に反応しやすい理由は生存のため

では、なぜ、そのような反応が起きるのでしょうか?

理由は、生物の歴史が背景にあります。

人類は生存のために危険から身を守らなければなりません。
そしてそのためには危険から回避するのが一番効率的です。

人の脳がネガティブな情報に反応しやすいのは、この点が関係しています。
ネガティブな情報に反応しやすいように進化した方が、危険を回避し、生存する確率が高まっていくのです。

つまり、ネガティブな情報に反応しやすい、というのは人にとって必要なことだったのです。

良好な人間関係のためにはポジティブな情報が必要

人類の生存のためにネガティブな情報に反応しやすいことが必要だった、のはそうだとして、現代社会においては弊害があります。

目に見えてクリティカルな危険は昔に比べてはるかに減っていることは説明は不要でしょう。

さらに、ネガティブな刺激が多いと、メンタルに悪影響が出ることも容易に想像がつくはずです。

しかし、人の脳はネガティブな情報に反応しやすいように出来ています。

多くの研究が、良好な人間関係のためにはポジティブな刺激が必要である、としています。

そして、そのための比率は5:1(ポジティブ:ネガティブ)とのことです。

例えば、良好な結婚生活を送っている夫婦のポジティブ:ネガティブ比率は概ね5:1でバランスが取れている、とされています。

人には「ネガティブ・バイアス」がセットされている、ということを自覚し、意図的にポジティブな刺激を相互に与えられるように努めると、周囲の人たちと良好な人間関係を維持できるでしょう。

カテゴリー
マーケティング

【マーケティング考】ワインの価格は高いほど味が良く感じるという研究

ワインの価格が実際の価格よりも4倍高いと、そのワインを美味しいと感じるようになるそうです。
約140人を対象とした、ワインの価格のラベルを変えてのテイスティング実験により、安いワインは高い値段がつくと美味しく感じられること、高いワインについては影響がないこと、「味の強さ」についても価格は影響しないことが示されました。

ワイン会社は、このことをよく知っているようで、ワイン市場で儲けるために、この心理的傾向を利用しているそうです。

価格を操作してのテイスティング実験

スイスのバーゼル大学の研究チームは次のような調査を行いました。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0950329321000501

140人のボランティアを対象に、少数グループでのテイスティング実験が実施されました。

使用されたワインは次の3つです。

  • 廉価版のワインA(モンテプルチャーノ・ダブルッツォ):小売価格は1本10スイスフラン(約8ポンド)
  • ワインB(2013 Tenuta Argentiera Villa Donoratico Bolgheri):中程度の品質で、小売価格は32スイスフラン(約25ポンド)
  • ワインC(トスカーナIGT、2013年、Saffredi、Fattoria Le Pupille):傑出していると評価されており、1本65スイスフラン(約50ポンド)

実験では10mlのワインが入った6つのグラスが用意されました。

3つのグラスにはワインA,B,Cが価格のラベルがない状態で入っており、残りの3つのグラスにはワインA,B,Cが本来の価格か、もしくは異なる価格のラベル(価格が操作されたラベル)が貼られていました。

参加者はほぼ均等に条件を変えたグループに振り分けられ、値札と味の評価(「心地よさ」と「味の強さ)を6段階で評価)を行ってもらいました。

参加者はいずれもワインの専門家ではない一般の人です。

ワインの価格は高いほど味が良く感じる

調査の結果、いくつかの興味深い事実が得られました。

まず、「心地よさ」ですが、価格のラベルが貼られていない場合、心地よさの評価に差が出ませんでした。
価格を知らない状態でワインを飲むと心地よさの違いは感じられない、つまり価格が品質の認識に影響を与えることが示唆されました。

そして、安いワイン(ワインA)については、実際の価格よりも4倍の価格のラベルが貼ってあったとき、心地よさが20%も向上しました。

一方、高額なワイン(ワインC)の価格を下げても心地よさには変化がありませんでした。
優れたワインの味を価格により悪くすることはできない、という示唆です。

「味の強さ」については、実際の価格と一致しており、異なる価格のラベルが貼ってあったとしても影響を受けませんでした。
ワインの濃さを価格でごまかすことはできない、という示唆です。

なお、「味の強さ」と感じる美味しさ(心地よさ)は必ずしも一致せず、濃厚が故に好まれない場合もあります。

感じ方は文脈に左右される

この調査は、期待が現実に合うように事実が曲げられる、ということを示しています。

実際、この種の話は各所で聞かれており、例えばマクドナルドのコーヒーと、スターバックスのコーヒー、どちらが美味しいと感じるか?や、ゴディバのチョコレートと森永製菓のチョコレート、どちらが美味しいと感じるか?、ストラディバリウスと練習用の安いヴァイオリン、どちらの方が音が良いか?、性別をブラインドした時の技能テスト付き採用試験での結果は変わるか?というような調査が行われています。

ブラインドテストを行うと、マクドナルドのコーヒーや森永製菓のチョコレートの方が美味しいと感じる人が多いようですし、名器と言われるヴァイオリンよりも練習用の安いヴァイオリンの方が音が良いと感じる人が多いようですし、性別をブラインドすると女性の採用比率が向上するようです。

これは良い悪いの話ではなく、人の感じ方というものは文脈に左右されてしまう、という事実を示しています。

日常生活で困ることはあまりないでしょうが、ビジネスでの意思決定が求められる場面においては、客観的に判断できるよう情報を整える必要があるでしょう。

ビジネスに役立つ「バイアス」については、こちらも参照ください。

カテゴリー
ビジネスと心理学

ビジネスに役立つ「バイアス」まとめ

ビジネスに役立つ「バイアス」に関する記事のまとめになります。

人間関係のバイアス

マネジメントのバイアス

勉強とか諸々のバイアス

情報収集時のバイアス

カテゴリー
ビジネスと心理学

怒りっぽい人は過去の失敗から学ばない可能性がある

世の中には怒りっぽい人が、それなりの割合で存在します。
そして、怒りっぽい人は過去の失敗から学ばず、次につなげられない可能性があります。
他人を変えるのは難しいですが、自分を変えるのであれば自己努力で可能です。
自覚がある人に向けて改善のためのヒントを提示します。

怒りっぽい人は自分で思っているよりもIQが低いかもしれない

ポーランドのワルシャワ大学で、怒りっぽいこととIQ(認知能力)の関連性について研究が行われました。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0160289618300102

実験では合計528人を対象に、アンケート調査が行われた後、IQテストが実施されました。
アンケートの内容は、短期であるかどうか、どれくらい怒るのかといった性向(性格)を調べるものです。
加えて、自分自身の知能についても自己評価する内容が含まれていました。

その結果、怒りっぽい人は、自分自身が実際よりも賢いと認識している傾向があることが示されました。

また、このIQの過大な自己認識はナルシシズムが関連していることも示されました。

つまり、怒りっぽい人は、自己愛傾向があるが故に、自分自身の能力を過大評価している傾向がある、ということです。

(なお、ナルシシズムと言っても、尊大気質と神経症気質のものがあり、尊大気質の場合に上述傾向が見られる一方、神経症気質の場合、逆に過小評価する傾向があることも示されています。)

ナルシストと後知恵バイアスの話

怒りっぽいこと自体が決して望ましいことではないのは確かであり、改善が望まれます。

加えて上述の、自己評価が過大になる、という点も見過ごせません。

こちらの記事で記述したのですが、「自己愛性向が強い、つまりナルシストは自分の予測の精度が悪かったとしても、異なる選択をすべきだったと認める傾向が弱い」ことが示されています。
また、「上手く行った場合に“勝者の気分”になる傾向が強い」ことも示されました。

つまりは、「ナルシストの傾向がある人は、上手く行ったら自分の手柄であり、上手く行かなかったら自分のミスではない、という反応を示す傾向が強い」ということであり、「研究者はナルシストは失敗を反省し、学ぶ能力が低下している」としています。

これは非常によろしくないことです。

言いたいこと~自覚ができるなら改善ができる~

ここで言いたいのは、怒りっぽい他人がどうのこうの、という話ではなく、もし仮に自分自身が怒りっぽい人間であるならば(自覚が少しでもあるならば)、自己改善に取り組みませんか?という点です。

他人を変えるのは難しいですが、自分を変えるのであれば自己努力で可能です。
(他人のことは、「あぁ、この人は自尊心が高いだけの〇〇なんだな。」と思っておけばよろしい。)

必要なことは、改めて明確に自覚・意識をすることと、正確に知識を得ることです。

上述の記事では「後知恵バイアスというものの存在を知識としてしっかりインストールしましょう」と提案しています。
知っていれば、「あ、まずい。」と気が付く確率が高まるからです。

ここでの自覚・意識は「自分が怒りっぽい人間だ。」にあり、また知識は「怒りっぽい人間は自分を過大評価する傾向がある(その可能性がある)。」「ナルシストは反省し、学ぶ能力が低下している。」にあります。

字面だけ見るとかなりダサいので、明確に自覚・意識ができたのであれば、改善は近いのではないでしょうか。

カテゴリー
ビジネスと心理学

医療関連のニュースや記事を読むときに注意しておきたいバイアス各種

医療関連のニュースや記事が、時代情勢も反映して、様々な物が飛び交っています。
その質やスタンス、情報の粒度もバラバラです。
ここでは、医療関連のニュースや記事を読むときに注意しておきたいバイアス各種について紹介をします。

ウェーバー効果

新しい事象については、報告がシンプルに増えるよね、というものが「ウェーバー効果」です。

アメリカの医学雑誌(JAMA200;292:1702-1710)にも記載されていますが、ある予防接種を開始した時、始めに副反応の報告数が増え,接種を継続してもその後は報告数は減少していくという現象の説明に用いられています。その理解は、新しい薬剤に対して、人は(中略)熱狂的に副反応を見つけようという姿勢が無意識に出てしまうため、副反応の報告が増えるが、その後は落ち着いてくるというものです。
(以下略)

医療法人 七美会「予防接種の副反応について」より

ハンリー氏は、母国スコットランドでも子宮頸がんワクチンの副反応がたくさん報告されているが「政府は全然気にしていません」と語り、どんなワクチンでも導入直後の数年は副反応報告が増え、その後、減っていくという「ウェーバー効果」について触れた。

WEDGE Infinity「子宮頸がんワクチン論争」より

https://wedge.ismedia.jp/articles/-/6807?page=2

統計に関わるバイアス

母集団が適切でないと、データの読み取り判断も適切に行えないよね、というものが「選択バイアス」です。
これは次のまぎれ込み現象にも関係します。

選択バイアス:このように、実際に知りたい集団(今回だと赤ちゃんの子持ち世代)とサンプル(標本)の選択のされ方が異なる場合、選択バイアスになります。

まぎれ込み現象

何か他の要因がまぎれ込むと真の要因がわからなくなるよね、というものが「まぎれ込み現象」です。
何かしら新しいイベントがあったとして、そのイベントで先に出会った母集団は何であろうか?についても留意すると良いでしょう(選択バイアス)。

子どもにとって重要なワクチンは生後2か月から1歳にかけて行われます。(中略)複数回接種する必要があるものもあります。一方、日本の乳児死亡率(出生1000人の中で1歳になるまでの死亡数)は2012年で2人です。(中略)つまり一歳台にこれだけワクチンの回数が多いと、ワクチンの接種時期と種々の原因で不幸にも亡くなられる症例がどうしても重なってしまうパターンが出てきます。現行のワクチン制度の副作用報告はワクチン接種と近接する事象は「因果関係は否定できない」と判定されます。このような現象を「まぎれこみ」と言います。接種回数が多くなればなるほどそのリスクは上がります。(以下略)

医療法人 七美会「予防接種の副反応について」より

フレーミング効果

「コップの水は、半分しかない」「コップの水は、まだ半分もある」。
同じことを言っているのに、言い方により印象が異なる、というものが「フレーミング効果」です。
「〇〇を5g配合」と表現する場合と「〇〇を5000mg配合」と表現する場合も同様です。
情報の印象を大きく左右します。

被験者の医師を2つのグループにわけ、各グループに手術に関する下記の異なる表現の情報を提示して、ガンの治療を行う際に、手術と放射線治療のどちらを選択するかを実験した。

 A) 術後1か月の生存率は90%である。
 B) 術後1か月の死亡率は10%である。

この質問は意味的には同じであるが、手術を選択した人は生存率にもとづいて情報を与えられた被験者(84%が選択)のほうが、死亡率にもとづいて情報を与えられた被験者(50%が選択)よりも多いことがわかっている。

McNeil, B. J., Pauker, S. G., Sox Jr, H. C., & Tversky, A. (1982). 23On the Elicitation of Preferences for Alternative Therapies. Preference, Belief, and Similarity, 583.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7070445/

自分にはやらない治療

あるアクションのネガティブな側面を見過ぎてしまうと、かえって正常な判断ができなくなり、非合理的な決断を下してしまう可能性がある、というものです。
次の記事で解説しています。

推論に関わるバイアス

入り口で情報に対するスタンスを決めてしまうと、得る情報も偏るし、得た情報に対する判断も偏る、というものです。
完全ニュートラルは人間なので不可能ですが、意識はしたいです。

  1. Anchoring Bias
    最初に考えた診断に固執して考えを改めない。これはありがちなバイアスですね。
  2. Confirmation Bias
    自分の仮説に適合したデータは受け入れるけれど、不適合なデータを無視してしまうというバイアスです。

    研修病院ナビ「臨床推論で注意すべき6つのバイアス」より
https://career.m3.com/kenshunavi/know-how/event/clinical-reasoning001-002

カテゴリー
ビジネスと心理学

人は難しい問題に直面すると無意識に簡単な問題に置き換え答えを間違える

難しい問題に直面した時、人の思考回路はどのようになるでしょうか?
人は、このような時、無意識に簡単な問題に置き換えて考える傾向があります。
また、その結果として答えを誤ることもしばしばあります。

置換バイアスという機能

表題の通り、人は難しい問題に直面すると無意識に簡単な問題に置き換え、そして答えを間違える傾向があります。
ある心理学の研究チームは次のような実験を行いました。

https://link.springer.com/article/10.3758/s13423-013-0384-5

次のような問題を被験者に解かせ、その自信度を回答してもらう、というものです。

(実験課題)「バットとボール、あわせて1.10ドルの値段です。バットの値段はボールよりも1ドル高い時、ボールの値段はいくらでしょうか?」

この問題はバット=ボール問題と言い、心理学の世界では古典的な問いかけのようです。

一般的な人はこの問題を与えられたとき、正答率は20%程で、解答として10セントと答える傾向があるとのこと。
(正解は5セントです。x + (x + 1) = 1.10 なのだから、x = 0.05となるのは明確であり、少し考えればわかることのはずです。)

人間には置換バイアスというものがあり、難しい問題が目の前にある時、無意識に単純化する思考回路を働かせます。

この古典的な問いかけにより、(難しいとは言っても少し考えればわかる簡単な問題でも)容易に置換バイアスが働くことがわかります。

実験では、248名の学生を対象にし、対照となる課題も与えられました。

(対照課題)「雑誌とバナナ、あわせて2.90ドルの値段です。雑誌の値段は2ドルです。バナナの値段はいくらでしょうか?」

対照となる課題では、「〇〇の値段は■■よりも△ドル高い」という条件がない、より単純な課題となっています。

さらに実験では、グループ別に実験課題と対照課題を入れ替えたり(雑誌とバナナの方に△ドル高い、という条件を入れる)、問題の順番を入れ替えたり(実験が先か、対照が先か)して、設問の影響を排除するよう、設計が行われました。

そして、被験者は解答後に、自分自身の解答に対する自信度を0%(全く確信がない)から100%(完全に自信がある)の間で数字で答えました。

その結果、これまでの研究が示した通り、実験課題に対する正答率は20%程と、置換バイアスが働いていることがわかりました。

自信満々ではない模様

この結果は、これまでの多くの研究が示したものの確認ではあるのですが、興味深いのが自信度についてです。

実験では、実験課題において誤解答を行ったグループの自信度は、実験課題における正解のグループ、対照課題における誤解答・正解両グループより、低いものだったのです。

つまり、複雑な問題において置換バイアスが働いた場合、その誤った解答に対して自信満々ではなく、不安や疑念を抱いている、ということです。
(自分の解答が疑わしい、ということをある程度認識している「幸せな愚か者」ではない、ということ。)

現実における知見の活用

それでは、この知見を現実世界において活用するには、どのように考えれば良いでしょう?

まず、人は物事を単純化して考える傾向がある、という点の認識です。

このこと自体は決して悪いことではありません。
脳のリソースを有効活用し、素早い意思決定を行うにあたって、自分自身が理解しやすいように物事を解釈する機能は重要なものです。
ポイントは、この機能(置換バイアス)が悪さをする可能性がある、という点を知っているか否かです。

知っていれば、「あ、今自分は過度に問題を単純化したぞ。」ということに気が付ける可能性が増します。

次のポイントは、「疑わしいと感じている」点にあります。
つまり、何かしら出した解答に対して、何とも表現しがたい疑念を抱いているのであれば、その疑念は正しい可能性がある、ということです。

この点についても、人にはこのような性質がある、ということを知っていれば、その疑念をキャッチし、思考を正す可能性が増すはずです。

いずれにせよ、「知る」ということが、このような知見を現実において活用するためのポイントと言えるでしょう。

カテゴリー
ビジネスと心理学

衆愚の罠をさけ集合知の力を活用するためには?

たくさんの人の意見や知識を集めて分析すると、そこからより高度な知性を見出すことができるのが集合知の力です。
しかし、集合知は衆愚(烏合の衆と化した大衆による無定見な状態)に陥るリスクも存在します。
衆愚の罠をさけ集合知の力を活用するためにはどうすれば良いのでしょうか?

集合知は互いに影響しあう状況で衆愚に陥りやすい

集合知は、個々人が相互に影響しあう状況では、何かのバイアスがかかり、集合浅慮に陥りやすい、つまりはフェイク/デマを信じやすい状況に陥りやすくなります。

さらに恐ろしいことに、人々は自分が信じたい内容のフェイク/デマを信じるだけでなく、そこから「偽の記憶」までを作り出してしまう点も指摘できます。

一方で認知機能(IQの水準)が高いと、このような影響を受けにくいこともわかっています。
(他にも高齢者である程、衆愚に陥りやすいこと、若くてもITリテラシーが低い場合には同様であることがわかっています。)

つまり、集団の中に、衆愚に陥りやすい人と、陥りにくい人が混在している、ということです。

「集合知」は正しくは「自分に自信がある人の知」

それでは、どのようにすれば集合知の力を活用できるのでしょうか?

スペインのカハール研究所の研究チームは、集合知に含まれるバイアス、つまりは衆愚を除去し、集合知を活用するための研究を行いました。

https://arxiv.org/abs/1406.7578

研究チームは被験者に「スイスとイタリアの国境の長さを推定して下さい。」という課題を与えました。

そして、この課題に取り組んだ被験者には、他の被験者の回答が提示され、再度課題に取り組みます。

ここで、他の被験者の影響を受けにくい人と受けやすい人にわかれます。

この影響を受けにくい人達(独立した考えを持つ人達:言い換えると自分に自信がある人達)の意見を集約すれば適切な集合知になる、と研究者たちは言及しています。

「私たちの結果は、グループの平均値、中央値、幾何平均値のような単純な演算では、グループが良い推定値を出すことはできないかもしれませんが、社会力学における個性を考慮したより複雑な演算を行うことで、より良い集団的知性が得られることを示しています。」

現実に適用するには?

これらの知見を現実の世界で適用・活用するにはどうすれば良いでしょうか?

まず、何かしら人に意見を求める時に、情報を与え過ぎない、という点があげられるかと考えられます。
というのも、相手が他人の意見に影響を受けやすい人なのか、受けにくい人なのか、簡単に判別できるとは限らないからです。

グループディスカッション等を行う際にも、この点は十分な配慮が必要でしょう。
一部の声が大きい人の意見に他の人が左右されていてはグループディスカッションの意味がありません。
ディスカッションを少人数にグループ分けをする、1対1のヒアリングを行う等の工夫が必要です。

また、上述の実験を再現すれば、どの人が人の意見に左右されやすい人なのか、そうでない人なのかの識別が可能です。
これは仮想的にも可能で、グループディスカッションの経過をつぶさに観察していれば、途中で容易に意見を変える人が誰なのかがわかってきます。
(調和のために意見を変えたかのように振舞う人もいるので、その点は留意が必要でしょう。)

上記2つのような手続きを踏めば、他人の意見に影響を受けやすい人、受けにくい人のいずれの影響も回避して、集合知の力を活用できるようになるでしょう。
(書いていて、相当な配慮や観察力が必要であり、困難なことなのだ、ということもわかりました。その意味で冒頭に提示した記事も参考になるでしょう。)

カテゴリー
マネジメント・リーダーシップ

「たまたま」により起きる弊害~人事評価を如何に考えるか?~

運も実力の内、という言葉があるにはありますが、世の中において成功するか否かの要素に「運」のウェイトが大きいと、一部で言われています。
この点に関しては、一定の研究もされており、「運」もしくは「たまたま」により起きる弊害が指摘されています。

評価にバイアスがかかりパフォーマンスの認識が誤った例

UTSビジネススクールの研究チームは、サッカーにおけるパフォーマンスと評価について調査を行いました。

https://direct.mit.edu/rest/article/101/4/658/58562/Fooled-by-Performance-Randomness-Overrewarding

ヨーロッパのサッカーリーグの試合における1万本以上のゴールポストに当たった、シュートを含むデータの分析が行われました。

分析の結果、ポストに当たった後、得点をした選手、しなかった選手のその後のパフォーマンスを調査した所、選手のパフォーマンスには大きな違いが無かったことが示されました。

しかし、偶然にゴールを決めた選手は、運悪くゴールを決められなかった選手に比較して、その後の試合で活躍をする機会が増えていることも示されました。
また、偶然のゴールであったとしても、試合の結果を左右するものである場合や、新進気鋭の選手である場合に、より高く評価されることがわかりました(評価はジャーナリストやファンからの評価も含みます)。

つまり、「たまたま」成果を出せば、パフォーマンスは同じであっても、高く評価され、また成果を出す機会が与えられる、ということです。

研究チームは、統計的に判断できるスポーツの領域でも、このような評価バイアスが起きているのだから、客観的な評価が難しいビジネスの領域でも評価バイアスが起きているであろう、と指摘しています。

現実における人事評価にて留意すべき点

上述の通り、「たまたま」成果を出して評価されるとなれば、組織における歪みが生じる恐れがあります。

もちろん結果/成果は重要なものですが、評価に偏りがあると、報酬や昇進の機会に非効率性や不公平性が生じ得ます。
それは組織にとって、潜在的なコストとなっていくでしょう。

スキルが無くても、たまたま周囲のサポートが手厚かったり、本当に運が良かっただけの人物が昇進し、スキルも才能もある人物が認められない、というような事態も起き得ます。

組織やマネージャーは、人のパフォーマンスを評価する際に、結果/成果のみならず、プロセスや努力についても考慮する必要があるでしょう。


嘘か誠かは不明ですが。

野村證券が「入社後に成長するのは、どういう人材か」を知るため、「支店長に就任した人の共通点」について、数億円の費用をかけてコンサルタント会社に調査を依頼したそうです。
その結果、入社後に伸びる人に共通しているのは、卒業した大学の偏差値や、両親の学歴・職種、家庭の裕福さとは関係なく、『入社して最初に出会った先輩や上司が優秀だったこと』と分かったとのこと。
つまり、企業としては、応募者の中から優秀な人材を選び出すためにお金をかけるより、受け入れる側の教育のほうが重要という示唆が得られます。
(一部のTwitterの投稿より。)

「運」「たまたま」で判断が歪み、組織に悪影響を残さないようにしたいものです(言うは易しですが)。

カテゴリー
フェルミ推定・ロジカルシンキング

ナルシストと後知恵バイアス~反省し学ぶために~

物事が起きたあとでそれが上手く行った時に「そうだと思っていた。」という発言。
もしくは、失敗した時に「こんなことになるとは誰も予想できなかった。」という発言。
聞いたことはないでしょうか?
後知恵バイアスというもので、ナルシストが陥りやすいバイアスの一つです。
そして、この後知恵バイアスに囚われると、反省し学ぶ能力が低下します。

ナルシストは自分のミスから学ばない

複数大学の研究チームは次のような実験を行いました。

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0149206320929421
  • 学生、一般の労働者、管理職に対して自己愛の度合いを測るアンケートを実施した(例:「自分は特別な人間だと思う。」という言葉に共感するかどうか、を尋ねた。)
  • 研究者は参加者に対して全く別の実験だ、と説明し、関連する対面調査を実施した(アンケート調査が後の調査に影響しないように注意を払った。)
  • 対面調査では、架空の採用場面を設定し、採用与件(必要資格)を確認した上で、誰を採用するかを参加者が選択した
  • 続いて、その後の採用した人材のパフォーマンス評価を行い、採用判断が正しかったか否かをヒアリングした

この実験の結果、自己愛性向が強い、つまりナルシストは自分の予測の精度が悪かったとしても、異なる選択をすべきだったと認める傾向が弱いことが示されました。
また、上手く行った場合に“勝者の気分”になる傾向が強いことも示されました。
(上述の後知恵バイアスに囚われている態度を示した。)

ようは、ナルシストの傾向がある人は、上手く行ったら自分の手柄であり、上手く行かなかったら自分のミスではない、という反応を示す傾向が強いということです。

研究者は、この結果をもって、ナルシストは失敗を反省し、学ぶ能力が低下している、としています。

どう対処すれば良い?

頭の良い人たちならば、自覚して、適切な反省、適切なPDCAを回すだろう、そう感じたりしませんか?

実はそうとも限らず、ウォールストリートの金融の専門家達における金融危機への態度などを例に、一般的に頭が良い、優秀だとされる人たちでも、見られる傾向だとしています。

それではどう対処すれば良いのでしょうか?

まずは自覚をすることでしょう。

  • 自分は特別な人間だと思う
  • 自分は他の人よりも優秀である
  • 「やっぱりな」「だから言ったのに」と思うことが多い

このような設問に共感するのであれば、ナルシストの傾向が強い、ということです。

ナルシストは後知恵バイアスに囚われる傾向があるので、まずは自分がナルシストの傾向があるのかどうなのか、を適切に自覚することが最初の一歩でしょう。

そして、後知恵バイアスというものの存在を知識としてしっかりインストールしましょう。
(自分がナルシストの傾向が強いことと併せて)知っていれば、「あ、まずい。」と気が付ける確率が高まります。

そして、意図してセルフ・デビルズアドボケイトを実施すると良いでしょう。
(例:もし、自分が間違っていると仮定したら、何を変えなければいけない?)

このように対処すれば、反省し学ぶことが適切にできるようになるはずです。

ナルシストも決して悪いものではありません。
研究では、一般的な人よりも精神的に健康であり、幸福度が高いことが知られています(上手く行ったら自分の手柄で、上手く行かなかったら自分のミスではない、と考えるので当然ですね)。

ようは、自分の性格や思考の癖との付き合い方の問題ですので、適切に御していきましょう。

カテゴリー
フェルミ推定・ロジカルシンキング

「終わり良ければ総て良し」というバイアス~何故、ワクチンを忌避する人が出るのか?~

新型コロナウイルス感染症の対策の一つであるワクチンが普及しはじめましたが、このワクチンに対して忌避の反応を示す方は一定数存在します。
何故、このような反応になるのでしょうか?
ここには一つのバイアスが潜んでいると考えられます。
そして、このバイアスは日常全般、仕事にも影響を与えている可能性があります。

とある研究の存在

非常に興味深い研究があります。

https://www.jneurosci.org/content/40/46/8938

研究の概要は次のようなものです。

  • 28名の健康な男性(21歳~36歳)が参加
  • 参加者には固定の報酬に加え、タスクパフォーマンスに応じた変動報酬が与えられる
  • 参加者は壺に大きさ(価値)が異なるコインが連続して入っていく画像を見て、その壺の価値(コインの総額)を評価する試験を行った
  • 参加者は、壺の総額が同じであっても、最後に大きなコインが入った壺の方を高い価値があると評価する傾向が強かった。

この記事にとって必要となる情報をピックして箇条書きにしましたが、実験ではMRIスキャナーを用いて、脳のどの部位が活性化しているのか?反応のメカニズムは何なのか?という点についても研究・考察がされています。

上述の通り、参加者は、壺に大きさが異なるコインが1枚ずつ連続して入っていく画像を見て、その壺の価値を評価したのですが、最後に大きなコインが入った壺を高い価値があると評価しました。
壺の価値が同じであってもです。

ようは、ここには「終わり良ければ総て良し」というバイアスが存在するのです。

論文では「ハッピーエンドを不当に好む傾向」がある、と指摘しています。

「終わり良ければ総て良し」というバイアス

この「終わり良ければ総て良し」というバイアスは、日常生活の多くの場面に存在します。

例えば、何かしら外食をして、途中で出た料理があまり美味しく無かったとしても、最後に食べた料理やデザートが美味しければ、そのお店を「美味しいお店だ」と高く評価するでしょう。
同様に、楽しいお出かけだったとしても、帰りに雨に降られれば「酷い日だった」と感じるのでは無いでしょうか。

ビジネスでも同様です。

何かしらの投資アクションにおいて、トータルとして利益が出たかどうかが大事ですが、仮に投資リターンが同じであっても、尻すぼみな投資パフォーマンスであるよりも、右肩上がりのパフォーマンスの方が、高く評価される光景は珍しく無いでしょう。

望むと望まざるとに関わらず、意識するしないに関わらず、このバイアスは身近に存在し、私たちの思考に影響を与えているのです。

何故、ワクチンを忌避する人が出るのか?

何故、ワクチンを忌避する人が出るのか?という事に対しても、この研究から一定の示唆が得られます。

これまで長く自粛を続け我慢してきた中、そうは言っても真に安全なのかどうなのかがわからないワクチンを打つという行為は「終わりが良くない」行為と言えるでしょう。
上述のバイアスに囚われているならば、是非にも忌避したい行為となってもおかしくありません。
(もしくは、万が一強い副反応が出たら、それこそ「終わりが良くない」と思うでしょう。
自分だけはワクチンを打たずに、まわりがワクチンを接種して、安全を享受するフリーライダーになりたい、つまり、自分だけ「終わり良い」状態になりたい、という思考も考えられます。)

論理的に考えれば、安全性が非常に高いワクチンであることは、もう億単位で接種が済み数字としてわかっている話なので、忌避する理由はありません。
しかし、mRNAワクチンという新しいタイプのワクチンに対する「何となく」の恐怖感が、思考にエラーを与えている可能性は十分に考えられます。

なお、冒頭で紹介した研究では、壺の価値をニュートラルに評価した参加者もいました。
そのような参加者は、脳の活性化部位から、上述のバイアスに囚われず、合理的に思考を行った参加者であることが考察されています。


論文では、フェイクニュースや様々な広告等による印象操作についても、このようなバイアスが思考にエラーを与えていることを私的しています。

私たちは合理的思考能力を手に入れる必要があり、これらの知見はそのために非常に役立つはずです。
あくまでも慎重な思考のプロセスを辿り、物事のメリット・デメリットを整理し、より賢明な判断を下すことが重要でしょう。

モバイルバージョンを終了