1Q赤字報道のラオックスを例に財務資料の見方を解説

経営企画

今回は、ラオックスの決算資料の解説です。
ラオックスは2020年1月~3月の第1Q決算において19億円の最終赤字との報道が出ていました。
決算資料の類は、数を見れば見るほど、読む力がつくので、色んな業界業種の資料を見てみると良いでしょう。

案外、就職活動をしている、非財務系の方たちにも有用かもしれません。

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報道内容

まず、報道の内容を見てみましょう。

免税店大手のラオックスが12日発表した2020年1~3月期の連結決算は、最終損益が19億円の赤字(前年同期は14億円の赤字)だった。同期間として5期連続の最終赤字となった。
(略)
3月末時点の現預金は125億円と、月商の6.9倍。自己資本比率は58.4%と1年前から6ポイント改善し、足元の資金繰りに問題はないとしている。

日本経済新聞 2020年6月12日 ラオックス、最終赤字19億円 1~3月、訪日客減響く

さすが日経新聞と言うべきか、前年以上の赤字が出ていること、1Q期間の赤字が5期連続で慢性的になっていること、少なくとも現金残高はあって足元は問題ないこと、がコンパクトにわかります。

ふーん、で終わらせても良いのですが、解説ということなので深堀りして見ていきます。

Googleで「ラオックス IR」と検索をすれば、IRページに飛ぶことができます。

目につくのは、第1四半期の四半期報告書ですね。

第1四半期は、文字通り、期の一番最初の決算期です。
ここから見ても良いのですが、もう少し全体像を把握した方が良いと思うので、前年度末の有価証券報告書から見ていきます。

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有価証券報告書を見る

主要な経営指標等の推移を見る

まず業績概観です。

2015年12月期は結構な利益が出ていますが、それ以外は赤字(か赤字スレスレ)という状況です。

この状況を見ると、ちょっと大丈夫かな?と気になってしまいます。
先を読み進める前に、もっと昔の業績も確認してみた方が良いでしょう。

2014年12月期の有価証券報告書と、IRページ上、一番古い2010年12月期の有価証券報告書で概観を見てみます。

これらを見ると、2013年12月期まで、ずっと継続して慢性的に赤字が出ている、ということがわかります。
しかも、すごい金額です。

2014年12月期は、インバウンド(観光客)消費もあり、ようやく黒字化、続く2015年12月期も黒字が続いていることがわかります。
しかし、一番上の業績推移の通り、2016年12月期から再び厳しい状況に戻ってしまっています。

2016年12月期以降は、いわゆる‟爆買い関税”がかかり、業績が転落してしまった形です。

ここまでで既に、結構あかん会社だということがわかります。

資本はどこ?

さて、上記、主要な経営指標等の推移で見ると、赤字が続いているにも関わらず、自己資本比率が激増しているタイミングがいくつかあります。
どこかが増資していることがわかるのですが、どこなのでしょうか?

これは大株主の状況、というページでわかります。
PDF上を遷移する際は、「Ctrl + F」で検索ウィンドウを呼び出して、「大株主の状況」で検索すると、目的の所に飛びやすくなります。

有価証券報告書はページ量も多いので、中の情報を見ていく際は、検索ウィンドウから飛んでいくか、目次から飛ぶのが効率的です。
(どちらが良いかは、好み次第です。)

さて、大株主の状況です。

こちらにある通り、「GRANDA」社2社が(違う法人)合計64.9%を保有しています。

ここはGoogle検索すればわかるのですが、中国系の会社のようで、ラオックス㈱は中国資本の会社だ、ということがわかります。

中国資本だから中国からのインバウンド消費で稼ぐ形でビジネススキームを構築していたのだろう、という推測が立ちます。
ただ、当の本国中国より‟爆買い関税”をかけられてしまった形ですので、色々と残念な感じです。

新型コロナウイルスの影響もあり、どこまで回復するか不透明ですので、もしかしたら資本を引き揚げる可能性もあり得ます。
この場合、別の支援が無いと経営が立ち行かなくなるリスクが高まります。

さて、この流れで読み進めるならば、次は役員の状況を見てみましょうか。
中国資本だとして、経営陣はどういう状況なのかを確認するわけです。

役員の状況を見る

(役員の状況を一部のみ抜粋)

見てみると、中国に関りの深い方々が取締役の多くを占めていることがわかります。
Googleで調べるに、「GRANDA」社関係の方も複数名入っているようです。

これは、ニュートラルな話としては、仮に大株主の変更(資本の引き揚げ)があった場合に、経営陣も総入れ替わりする可能性はあるね、ということを想定できる情報となります。
うがった見方としては、ガバナンスが全く効いていなさそうだね、ということが言えます。

とりあえず、ここまでで、大枠としてラオックス社がどういう数字を辿ってきたのか、その数字をどういう方々が作ってきたのか(資本と経営者)が頭に入りました。
この前提をもって、財務指標を見ていきます。

貸借対照表を見る

貸借対照表は、有価証券報告書から最新の四半期報告書(2020年3月31日時点)を見てみましょう。

全体的にシンプルなBSです。

現預金約125億円があり、確かに足元は問題無さそう、ということはわかります。

ただ、負債側を見ると借入金合計が約99億円あり、手元資金のほとんどが借入金によって賄われていることもわかります。

本当に、ラオックス社の足元は問題ないのでしょうか?
これは短期借入金の所についている「※2」を見ると、解像度があがります。

※2の参照先は【注記事項】の「当座借越契約及びコミットメントライン契約」です。

こちらにある通り、ラオックス社は約104億円のコミットメントライン契約を銀行と締結しており、そこから約70億円を調達している、ということがわかります。
また、当座借越の枠残高も約34億円、残っています。

これらを見る限りは、大丈夫、と言いたいのですが、コベナンツ(財務制限条項)がついています。

既にコベナンツの条項に抵触しているので、今後どうなるかが完全に不透明です。
足元は問題ない、という言葉を額面通り受け入れることは、到底できません。
(2020年3月31日時点の純資産額が42,204百万円になっている。一応、年度末時点で抵触していなければ問題ない契約であろうから、2020年12月期中に追加の増資なりなんなりをすると思われます。)

中国資本側のモチベーションが無くなった瞬間に、色々と状況が動く、ということが想定されます。

損益計算書とセグメント情報を見る

次にPLです。
とりあえず、業績指標サマリーで十数年単位で業績全体像を見たので、直近第1四半期のPLだけ眺めて、PL全体構造を把握するだけに留めます。

BSと同じく、非常にシンプルなPLです。

営業外収益や費用には特段、大きな要素は含まれておらず、特別項目も同様です。
利益が出ていない会社ですので、法人税等もほとんど全体インパクトはありません。

つまり、事業本体を何とかして、業績を立て直す必要がある、ということです。

そこで次はセグメント情報に移ります。

まず、セグメントの中身を確認します。
セグメントの説明は有価証券報告書の方に記載があります(四半期報告書は簡略化されているので、記載が省略されています)。

この通り4つのセグメントが存在することがわかります。

次に数字です。
直近最新の四半期とその前年同期、直近通期とその前年を眺めます。

直近インバウンド事業は赤字、これは新型コロナウイルスの影響がどこまで継続するかにもよりますが、観光客減が続くなら、厳しい状況が続くでしょう。

グローバル事業は赤字かほとんど利益がでていない状況。

生活ファッション事業は、結構な金額の赤字。

エンターテインメント事業も、直近1Qこそ黒字化しているものの、前年と前々年通期は赤字です。

正直、希望が持てる要素があまりありません。

生活ファッション事業やエンターテインメント事業のような、どこまで本体免税店やEC事業とシナジーがあるのか、よくわからない事業もあります。
利益も出ていないですし、経営リソースも分散されるから、売却した方が良いのではないでしょうか?

また、観光客減が続くのであれば、屋台骨であるインバウンド事業の優位性も崩れます。
この場合、資本の入れ替え、経営陣の入れ替えも行った方が良いでしょう。

数字を見ている限り、経営構造を根本ベースから大改革しないと、どうにもならないように思えます。

各種報道にもある通り、国内の総合免税店に関しては不採算店のクローズを行い、経営資源を利益が出ているお店に集中させた方が良いでしょう。
(全体の3割を報道する計画でいるようです。併せて、希望退職も募ったようですね。)
ECも独自性の欠片もない楽天市場店では、流石にいけないです。
独自ECを展開し、より消費者にとってわかりやすいバーチャル・ショッピングができるインターフェースを提供できるようにした方が良いでしょう。

今のビジネス構造は、感染症や国家間不安に弱いですし、サービスの提供水準がどうにもアンダーなように感じます。

キャッシュ・フロー計算書を見ていませんが、ここまで見ればもう、何となく想像はできます。
とりあえず全体像を眺めてみていただければと思います。

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その他気になること

決算短信の表紙、この部分を見てみて下さい。

ラオックス社は決算説明会を開催していません。
通常は、中間と期末で決算説明会を開催するものなのですが、実施していないようです。

併せて、決算説明資料も公開されていません。
株主総会資料も、招集通知が公開されているのみで、株主総会説明資料は公開されていません。

申し訳程度に「株主通信」が公開されていますが、非常に文字文字していて、何を伝えたいのかがパッと見わかりません。

上場会社の情報開示という観点で考えるに、非常に株主を軽視していることが伺えます。

筆頭株主が60%超を保有しており、経営陣も筆頭株主から送られている状況です。
ガバナンスが効いている状況ではなく、今後を不安視してしまいます。

従業員にとっても、当の資本家たちにとっても、一度、経営構造全体をリセットした方が良いように思えます。

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