現代人にとって、睡眠不足は質の悪い友達のようなものです。
睡眠不足が認知機能の低下や、健康状態の悪化など、様々な悪影響を及ぼす、ということがわかっていたとしても、良質な睡眠を純分にとることは贅沢な世の中です。
そのような中、適度な運動が睡眠不足による悪影響を相殺する可能性が示されました。
運動と睡眠による健康への影響を調べた長期研究
シドニー大学の研究チームは、次のような調査を行いました。
- 380,055人の中年成人を対象に分析を行った
- 調査では身体活動のレベルと睡眠の状況について調査された
- 身体活動レベルは世界保健機関(WHO)のガイドライン(※)に基づき、高、中、低、中度から重度の運動無しに分類
- 睡眠は、総合的な睡眠スコアを用いて、健康、中間、不良に分類
- これらに基づいて、12種類のパターン別に11年後の疾病状況等について追跡調査を行った
※ WHOのガイドライン
ガイドラインの上限は、週に300分の中強度の運動、または150分の激しい運動、またはその両方。
ガイドラインの下限は、週に150分の中強度の運動、または75分の激しい運動、またはその両方。
中強度の運動とは、通常、数分間継続すればわずかに息が切れる程度のもので、早歩きやゆったりとしたペースでのサイクリングなど。
激しい運動とは、通常、息が切れるほどで、ランニング、水泳、テニス、ネットボール、サッカー、フットサルなどのスポーツのこと。
適度な運動は睡眠不足による悪影響を相殺する可能性がある
11年後の長期追跡調査の結果、非常に興味深いことが判明しました。
(追跡調査の段階では、15,503人の参加者が亡くなり、そのうち4,095人が心臓病で、9,064人ががんで亡くなりました。)
結果、健康的な睡眠をとっている人に比べて、睡眠不足の人は、早死にするリスクが23%、心臓病で亡くなるリスクが39%、がんで亡くなるリスクが13%高くなることが示されました。
また、運動量との比較では、心臓病やがんで死亡するリスクが高かったのは、睡眠状況が不良で、WHOの身体活動レベルのガイドラインを満たしていない人たちでした。
一方、睡眠不足であったとしても、ガイドラインを満たす身体活動を行っている人は、睡眠不足でガイドラインを満たしていない人に比べて、心臓病やがんで死亡するリスクはそれほど高くはない、という結果が示されました。
つまり、WHOガイドラインの下限値を満たす身体活動レベルであれば、睡眠不足による健康被害の悪影響を、一定程度軽減、または解消できることがわかったのです。
WHOガイドラインの下限値を満たす身体活動レベル:週に150分の中強度の運動、または75分の激しい運動、またはその両方
注意点、もしくは懸念
この研究の問題は、観察研究であるが故に、あくまでも相関性が示されただけ、という点にあります。
メカニズムもわかっていませんし、因果関係も示されています。
つまり、運動できるだけの、そもそもの気力、体力、健康がある人が運動をしているだけで、実は関係が無い、という可能性がゼロではないのです。
とは言え、各種の研究により、運動が健康にプラスの影響を与えることは一定わかっている話ですので、上述の話には、高い水準で信ぴょう性があると考えられます。
運動がメンタルに対してもプラスの影響を与えることも、同様の観察研究で示されているので、心身ともに健康的な生活を送りたいのであれば、適度な運動は必須と言って良いでしょう。
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