上司に対して「何故、自分たちの気持ちをわかってくれないのだろう?」と思うことがあるかもしれません。
逆に、部下に対して「何を考えているのかわからない。」と思う上司もいることでしょう。
何故、上司という生き物は部下の心がわからなくなりがちなのでしょうか?
こちらの記事では、高い地位につくと「注意の焦点化」という現象が起き、本来正しく認識し判断するための情報をインプットできなくなる状況について解説しました。
(注意の焦点化とは、ある目標に意識がフォーカスされるあまり、他の情報に意識がいかなくなってしまう現象のこと。)
加えて、権力を持つことが支配感を抱かせてしまい、認知が歪んでしまうことについても併せて解説しました。
ここでは、権力を持つことが共感性にどのような影響を与えるかについて見ていきます。
権力を持つと共感性が低下する
こちらの心理学の論文では、権力を持つと共感性が低下する、ということが示されています。
部下の数や権力の強さについてパラメータを設定し実験を行った所、部下の数が多ければ多いほど、道徳観が低下することが示されました。
また、保持する権力が強ければ強いほど、利己的行動に出やすくなることも示されました。
つまり、権力が人の認知を歪ませ、心と行動に影響を与える、ということです。
また、こちらの論文では、脳生理学的に共感性の低下が起きていることを示しています。
人の脳は、他人が何かしらの行動を行っているのを見ている時、自分自身がその行動を取っているのと同じ部位が活性化する現象が起きます。
これは、共感性と関連する脳作用とされています。
この現象を利用して、権力の有無と上述の“脳の鏡”との関係を調べた所、権力が強ければ強いほど、脳が活性化しない、つまり共感性が低下しているのではないか、ということが示されました。
つまり、強い権力を持つと共感性が低下し、それにより道徳観の低下も引き起こし、利己的行動に出やすくなる可能性がある、ということです。
これらの現象が「上司は部下の心がわからない」という状況を引き起こしている一因ではないか?と推測されます。
上司の基本的な道徳観にもよる
どのような上司だと部下の従業員満足度があがるのか?という点について解説した記事では、「部下の仕事もできる上司」が良い、としました。
この理由は、部下の仕事がわかるということは、部下の話を上司が理解できるが故に、部下にしてみれば「この上司は話がわかる」「自分のことを理解してくれる」と感じることが要因としてあります。
つまり、共感性がポイントということです。
この点を踏まえると、上述の権力により引き起こされる共感性の低下は問題です。
それでは、どのように対処すれば良いのでしょうか?
こちらの論文では、基本的な道徳観が左右する、ということが示されています。
どのような内容か?というと、弱いモラル・アイデンティティを持っている人が権力を握ると、利己的行動が大きくなる一方、強いモラル・アイデンティティを持っている人が権力を握った場合には逆に、自己利益行動の低下が起きる、というものです。
つまり、繰り返しになりますが、権力が及ぼす心理的影響は、本人の基本的な道徳観による、ということです。
この知見を踏まえると、「権力を持つと共感性の低下、道徳観の低下、利己的行動の増幅という心理的影響が起きる」という基本的なことを認識した上で、自分自身を強く律しようという意識を持つことが重要と考えられます。
権力に溺れず良き上司であろうとするならば、それは強いモラル・アイデンティティとなり、権力が与える心理的影響から脱することができるはずです。
改めて自分の心と向き合うことに取り組んでみるのは良いかもしれません。
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